16層への道 2
お待たせしております。
「12層にもなるとそこそこ冒険者の姿も見かけるね。いつも通り隠れて進む?」
「状況次第だな。ここで活動するような奴等だと<隠密>も大して意味ないかもしれない。彼らの仲間の中にはスカウトもいたし、モンスターならともかく冒険者からも隠れ続けるのも飽きてきた。ギルドは抱き込んだから向こうもこちらに話を合わせてくれるだろうし、逃げ隠れするのは終わりにしよう」
「わかった。もうコソコソするのも飽きたしね」
ここにいるだけで十分な実力の証明になるはずだ。ガタガタ言う奴も少ないと信じたい。
12層は敵を調べただけで直ぐに下りた。宝箱もあったのだがここから遠すぎて時間の無駄と判断した。今日は何処まで下りられるかを試す日だからな。時刻は1時20分。まだまだいける。
13層も表面上はこれまでと同じに感じる。ここで探索する冒険者が現在3組いるようだ。<魔力操作>でも解ったし、戦闘音がここまで響いてくるから間違いない。だがここまで大きな音をたてるとさらに敵を引き寄せる結果となると思うが、大丈夫なのだろうか?
ここの敵はスケルトンだった。3種類の敵が出る事も同じだが、強いて特徴を挙げるならば豪華な敵だった。
オールド・ガーダー・スケルトンにスナイプ・スケルトン。魔法職はウィザード・スケルトンだ。骨の魔法使いという無茶な存在に違和感を覚えるが、伝説にあるリッチーも骨の体に豪奢な衣を纏っていると聞くからこれもそういった類なのかもしれない。
しかしなんと言ってもオールドガーダーだ。金色の鎧を身に纏い、銀に精緻な装飾が施された槍を揃えて一斉に前進する様は俺のぼんやりとした記憶から戦列歩兵と言う言葉を思い出させた。装備だけではなく、骨だけとはいえ動きそのものも高度な訓練を受けた兵士のそれであって、油断は命取りになりかねないだろう。普通の冒険者であれば、だが。
「結果は変わんないけどね」
敵がどのように強化をされていても、戦術を取って動くのは変わらない。
その戦術が先読みされていたら、そんな敵も只の的になる。前衛が防御し、後衛が遠距離攻撃というのは多数対多数なら非常に有効な戦術だと思うが、俺にはまったく意味がないな。
いつも通りに魔法で吹き飛ばして先を進む。当然12層より強さは上がっているが、もし敵の体力が50から70に上がっていようが攻撃の威力が1000なら誤差の範囲でしかない。
不必要に敵を呼ばないように水系や風系の魔法で攻撃しているが、骨の敵には風の中級魔法である<サイクロン>と相性が良い。範囲内の敵を文字通り竜巻で包み込んでその中を風の刃が切り刻む魔法だ。風魔法の攻撃は基本風の刃しかないので、中級上級も範囲の拡大でしかない。上級の<テンペスト>に至っては街一つを簡単に包み込む大きさらしいのだが、流石に使った事がないのでわからない。
俺の知る限り、魔法の上級は範囲拡大だけのようだ。普段使いしている炎の矢や槍も基本は<ファイアボール>の変形にすぎない。丸い球を状況に応じて形状を変えているだけだ。勿論、着弾時に炸裂したり、貫通力を高めて直線状の敵をそのまま貫けるように改良もしているが、魔法の種類としては初級<ファイアボール>の変形型だ。火魔法の中級である<フレアランス>は炎の槍を打ち出し、着弾時に炸裂させるものだが、正直な話<ファイアボール>でも同じことができる。しかも威力が強いがほぼ固定の<フレアランス>より様々な調整ができる<ファイアボール>の方が消費の面でも使い勝手は良いので俺にはほぼ死にスキルとなっている。
セラ先生曰く、魔法使いの研鑽とはいかに『既存の魔法を様々な用途で使いこなすか』であるそうだから、俺の使い方は間違っていないはずだ。
だが、魔法学院で正式な学問をならった連中は納得できないようだ。
「君の魔法は邪道だ! そんな使い方で魔法使いを名乗る事など許されない!!」
<ユウ、いきなりめんどくさい奴に絡まれたよ。やっぱり冒険者は回避していった方がよかったかなあ>
<最初はしょうがないさ、始めに一発キメておけばその内に周知されるだろ。こういうのは通過儀礼だと思っておいたほうがいい>
俺は目の前で興奮するまだ若い男に視線を向けた。魔術師然としたローブを纏う普段は理知的な男なのだが、いまは熱くなっている。頬のこけた痩せた体の男だが、幾つもの迷宮を踏破するほどの体力は持っているはずだ。
何故俺がここまで知っているかというと、目の前の男が有名人だからだ。
”白銀の戦鑓”という最上級パーティの魔法使い、リグルという20台後半の男でライカールの魔法学院を主席で卒業した経歴を持つこの大陸でも指折りの魔法使いだ。
チーム名の由来ともなっているリーダー、ゼインが持つ馬上槍は西の国のダンジョンで見つけたマジックアイテムで、非常に軽量かつ槍の部分が恐ろしい切れ味を持つという。それが誇張でないことを先ほど見る事ができた。
ランスをまるで剣の様に扱ってオールド・ガーダー・スケルトンの鎧ごと両断していたのだ。あの鎧は鋼鉄の様な強度を持ちつつも非常に軽量なのだ。それを易々と切り裂くのだからマジックアイテムというものはたいしたものだ。
何故こんな事になっているかというと、正直運が悪かった。階段へ続く道を走っていたのだが、丁度一本道の先に今日は階段があったようで、さらにその先で”白銀の戦槍”が戦闘を行っていた。戦闘をしている事はわかっていたが、堂々と横をすり抜けるわけにもいかず待っていると、音を聞きつけたのか背後からまた敵の一団が迫ってきているのがわかった。
彼らもこのウィスカで最深近くまで潜れる優秀なパーティだ。最後尾にもスカウトと魔法職を置いており、挟撃を受けても対応可能な陣形を取っていた。直ぐにスカウトが敵接近に気付き、そして俺にも気付く事になるが戦闘中ということもあり敵の殲滅を優先する。
俺は俺でこれは敵を引き連れてきた形になったのではないかと不安になった。実際は<隠密>を使って移動していた俺ではなく、彼らが派手に戦闘音を鳴らしているせいなのは間違いないが、疑われても仕方のない状況ではある。
仕方なく背後の敵は俺が引き受けるべく、魔法を使おうと振り向いた所で”白銀の戦鑓”の方でも動きがあったのだが、なんと奴らの魔法使い、リグルは俺を魔法攻撃の範囲内に入れようとしたのだ。
俺ごと攻撃を受けてはかなわないので静止の言葉を叫んだが、魔法の詠唱はそう簡単に破棄できるものではない。細かい言葉を積み木のように一つずつ積み上げていくようなものだから、解除するときもそこそこの時間がかかる。
俺はセラ先生や姉弟子との時間の中でそれを知っていたので、ため息をついて空中にいたリリィを掴んで懐に押し込む事しか出来なかった。
次の瞬間、俺の視界を炎が飲み込んだ。リグルの使った魔法は火魔法の上級である<イフリートウォール>だ。詠唱からその事は解ったしこの男は火魔法を一番得意としていると聞いていた。実際発動までの時間は非常に短く、リグルの非凡な力量はそれだけでも窺い知れる。
勿論俺に被害もない。普段は『殺られる前に殺る』精神で先制攻撃が常なので滅多に使われないが<重魔法障壁>があるし、<敵魔法吸収>もあるのでむしろ有り難くもある。例えその時既に魔力は完全回復状態であったとしても。
<イフリートウオール>は超高熱の分厚い壁を作り出す魔法で、それそのものに攻撃力はない。ただ岩をも溶かす高熱は前進するスケルトンたちをそのまま溶かしてゆくほどだ。
だが、ウィザード・スケルトンがなんらかの防御魔法を唱えたのか、途中の敵はなんとか炎の壁を突破してくる。リグルも足止めのつもりの魔法だったようで、次の魔法を唱えているようだが……これは間に合うか微妙だな。
最後尾にいたスカウトが身の丈以上の盾を持ち、リグルの前に立って彼を下がらせようとしている。
その時、彼の新たな魔法が完成し、数個のファイアボールがスケルトン数匹を塵に返した。だが、それを免れた残りの敵が彼に殺到しようとしている。スカウトはスナイパーの狙撃から身を守るのが精一杯でリグルのフォローに向かえていない。前方の戦いは間もなく終わり、こちらに向かう様子だがまず間に合わないだろう。仕方ない、手を出すか。
「ええっと、<ウインドカッター>」
適当に詠唱したふりをして風の刃を放つ。単純な風魔法は骨系にはあまり効きにくいが、一撃でしとめるにはコツがある。縦一文字に両断すると二度と起き上がってこないのだ。走りながら縦一文字に撃つのはかなり難しいのだが、突っ立っている今なら訳はない。リグルに向かおうとした敵7体を綺麗に両断した後、残りの敵を纏めて殲滅した。その頃には”白銀の戦槍”のメンバーも後方に揃っていたのだが、リグルがあのような事を言い出したのだ。
楽しんで頂ければ幸いです。
予約投稿なのですが、上手くいけてますでしょうか。不安です。
短いですが、毎日更新できるよう頑張ります。




