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見捨てられた場所 21

お待たせしております。




 くそ、なんてこった。前兆を掴めば対処は容易いと思っていたのに。秘密を守るための<結界>が外部の情報も遮断してしまうとは。

 完全に俺の失態だった。



「ユウキ様!」


 己の失策を呪う俺にユウナの声が現実に引き戻した。後悔は後でも出来る、今は行動する時間だ。


「君は高司祭たちを安全に教会に送り届けろ。俺は現場に向かう!」


「これは、火事か!? この規模は……」


 彼女の返事を聞くことなく俺は闇夜を疾走し始めた。ドラセナードさんの焦る声を背にしつつ、現場である南地区に急ぐ。


<ユウナ、ギルドに冒険者を雇う依頼を出しておけ、人手が必要になるはずだ>


 もう日付の変わる時刻だが、何かが起これば冒険者たちは情報を得るためにギルドにやってくる。頭数は揃うだろう。


<承知いたしました。この者たちを教会に送り届けた後に合流いたします〉


<いや、君はそこで情報を収集してくれ。この件、そう単純じゃない。何かあるぞ>


 俺は火事場に向かいながらも周囲の違和感を感じ取っていた。南の空が赤く染まるくらいの大火事の割に、騒ぎがそれほどでもないのだ。貴族街は石造りの建物ばかりだが庶民が暮らす南地区は木造家屋も多い。それゆえ火事もかなり多く、それなりに場数を踏んでいると聞く。

 ならばもっと大騒ぎになっているはず。<マップ>を見ても火事を認識して動いているものは確認できるが、本当ならもっと大勢の人間が慌ただしく動き回っていてくては不自然だ。


<わかりました。私は冒険者ギルドにて控えております、そちらには先輩が向かわれるようです>


「我が君、問題発生のようだな」


「ユウ、また何かやったでしょ! もう目を離すとすぐこれなんだから」


 ユウナの<念話>のすぐ後には相棒が転移を、レイアが空を舞って俺の傍に着地した。


「おいおい、この火事は俺と無関係だぞ。レイアも別に来なくてもよかったんだがな」


 失礼なことをのたまう相棒は定位置である俺の懐に潜り込んだ。普段なら夢の中のリリィだが、俺を心配してきてくれたのは解っている。そして夜道を走りながら傍を駆けるレイアにそう告げるが、彼女からは苦笑が返ってきた。


「どこの世界に主人を働かせて自分は寝む従者がいるのだ。我が君が動かれるとあらば、その傍に侍るのが当然というもの。しかし、確かに静かだ。まるで火事を認識していないかのようだ」


「確かにそーだね。空が赤くなるほどの大火事なんだから気付いてもよさそうなのに。<マップ>はこういうとき役立たないよねー。状況は全然掴めないし」


 相棒の言う通り、<マップ>は異常なほど便利な機能だがさすがに万能ではない。火元が何処かなどは判明しないからこうして実際に向かう必要はある。”クロガネ”が建設していた学校が燃えていると判断できたのはこんな時刻に人が集まって動き回っていることから推理した結果だ。


 リリィの言葉に賛同の頷きを返したとき、甲高い鐘の音が連続して鳴り始めた。時刻を告げる教会のそれとは違い、緊急時に鳴らされる半鐘だ。


「今になってかよ。遅すぎだろ、どうなってんだ?」


「半鐘が後回しにされるとは考えにくい。そうなると、まさか気付いたのが今なのか?」


「もしそうならこの静かさも納得できるが、現地で確認するとし……なにしてんだ、あれ?」


 レイアの呟きは納得できるものだが、間もなく火元に到着する俺達の視界の端に路地裏に走り込む一人の男の姿が見えた。

 火を消すにせよ、火事から逃げるにせよ通りから外れる理由はないだろう。虫の知らせが働いた俺は足を止め、先ほどの男が入り込んだ路地裏に進んでみると――



「おいお前、何してやがる!!」


 屈み込んだ男が端に集めてあったゴミ山に火をつけている最中だった。


「ちぃッ、見られたからにはしょうがねえ。坊主、運が悪かったな!」


 薄汚い恰好をした大柄な中年男が手に刃物を手にこちらに走ってくる。


「愚かな。我が君に刃を向けるとは万死に値する」


 馬鹿な中年男は俺に向かってきた瞬間にはレイアに打ち倒されていた。ちゃんと手加減もしてくれており、意識はないが死んではいないようだ。


「生け捕りにしたか。よくやってくれた」


 魔族のレイアからすると人間が脆弱すぎて殺さないようにするほうが難しいはずである。


「この者の口から真実を吐いてもらう必要があるからな。我が君の意思を汲めぬようでは従者失格だ」


「ユウ! 火が! 火が凄いことになってる!」


 俺が先に男の手足を拘束していると、俺の懐から顔を出していた相棒が焦った声を出した。


「おい、嘘だろ!?」


 先ほど火が付けられたばかりだったというのに、一瞬で積み上げられたゴミ全てに回っていたのだ。いくらなんでも早すぎる。まるで油でも事前に撒いてあったのかと疑いたくなるほどの速度だが、すぐ駆け込んだのでそんな暇はなかったはずだ。


「我が君、これは一体!?」


「何だこの速さは? まるで炎が生きているかのようだぞ」


 レイアの驚きの声に俺もろくな返事を返すことができない。炎は一瞬で路地裏全体に燃え広がったのだ。慌てて水魔法で消化を始めたものの、ここでも俺の予想を覆す現象が起きた。


「今度は消えないだぁ? 火だよなこれ!」


 大量の水の塊を上から落としたのに、火の勢いが一向に収まらないのだ。燃え始めたばかりならすぐに消火できるはずなのに、火勢が一向に衰える事がない。


「面妖な……普通の火ではないのか?」


 レイアの困惑した声を耳にした懐の相棒が、はっとした声を上げた。


「ユウ、これ呪炎だよ! 簡単には消えない呪術の炎! でもなんでこんなおっさんが使えるの?」


「高位の呪術師のみが使えるという対象を呪い殺すための炎か! ということは、この男は呪術師なのか?」


 呪炎? なんだそれと言葉を発する前にレイアが説明をしてくれたが、この汚いおっさんが高位呪術師には見えないが……何か怪しげなもんを持ってやがるな。


 諦めることなく放水を続けながら男を観察すると、よくよく見れば男の指には似つかわしくない黒い指輪があった。力ずくで抜き取ってみると、精緻な文様を施されており、とてもこんな場末の小汚い中年男の所持品とは思えない。


「レイア」


 俺よりよほど出来の良い頭を持つ彼女に指輪を渡し、しばらく水をぶっかけ続けるとようやく消化が完了した。放置したのは数微(秒)足らずだったのに、隣の民家の壁は黒く焼け焦げている。この程度の小火を消すのに異常なほどの水を消費した。普通の消火活動じゃ絶対に消せないと思われる。

 この民家にも住民が寝ているはずだが、ようやく半鐘で目が覚めたらしい。騒ぐ声が聞こえてきた。

 

「これで謎は解けたな。妙に静かだと思ったが火の回りが早すぎて火事に気付いたばっかりだったわけだ。それにしても呪炎を生み出す魔導具だと? いったいどうなって……くそ、そういうことか! 連中め、さては繋がってやがったな!」


「我が君? どうしたのだ?」


 突然悪罵を始めた俺にレイアが戸惑っているが、それどころではない。


「レイア、今からバーニィの屋敷に行ってその指輪を確認してもらってくれ。寝てても叩き起こして構わない。あいつのことだから非常事態を察して起きてるだろうが」


「承知した」


 俺の従者は余計な問答を挟まない。顔に疑問を残しながらも俺の命令に即座に従った。赤く染まる闇夜を飛翔する彼女の背中越しに新たな炎が各所で巻き起こる光景を目にすることになる。


 やはり放火犯はこいつだけじゃなかったか。こいつら、例の残党じゃねえな。さては裏切り者か? あの夜に教団ごと潰されたと聞いたが、追い詰められた生き残りが無茶しやがったか。



<如月は起きてるか?>


<ああ、さっきレイアさんが急いで向かったからね。イリシャとシャオ以外は皆起きだしてきたよ。ユウキ、今の話から察するに?>


 俺が<念話>で仲間たちに問いかけると年少以外はみな起きだしてしまったらしい。悪いことをしたと思うが、今は非常事態だ。


〈ああ、セリカに今すぐ国王と連絡を取るように言ってくれ。”クロガネ”の裏切り者が暴発して王都中に火をつけて回っているってな。それにこいつら暗黒教団の魔道具を使ってる。貧民窟の教団連中と手を組んでいやがった!〉



 思い返してみれば、俺が貧民窟に潜む教団の存在を知ったのは”ウロボロス”と”ウカノカ”の残党どもを潰しに行った時だった。奴等の拠点に教団の象徴をあしらった指輪を見つけたことが発端なら、その時点で繋がりがあると思うべきだった。全く別の組織とはいえ、共に目的が王都内に侵入することなら競合せず協力し合う可能性はあった。

 あまりにも頭のおかしい連中だから協調性なんぞ皆無だと勝手に思い込んでいたが、思えば教団は一時グレンデルの下で纏まっていた。必要ならば手を組む頭も持ち合わせていたか。



「あーあ。これまた盛大に燃えてやがるな」


 木造の学校は完全に炎上していた。手が付けられないほどに豪炎を巻き上げ、遠く離れた冒者ギルドからでも解るほどの巨大な松明として王都を照らし出していた。



「急げ! 水だ。水持ってこい!」「人手が足りねえぞ! もっと連れてこい、何としてでも火を消すんだ!」「お前ら。解ってんのか! ここは学校だ、俺たちの学校なんだぞ!」



「ユウ、どうするの?」


 相棒が必死になって消火に当たっている男達を見ている。無人の学校を必死になって消そうとしているのだ。顔なんか見なくても声だけでゼギアスの配下の連中だと知れた。


「放っておくさ。相棒だって解ってるだろ?」


 彼女は俺の考えなどお見通しだ。あいつらには悪いがあそこまで燃え広がってしまうと、学校そのものを押し潰すような水量でぶちまけないと消化は不可能だろう。


 俺が言っても彼らが聞く耳を持つはずがないし、俺は先を急がなくてはならない。本当は無人だし周囲に建物がなく延焼の恐れもない学校なんざ放置していいのだが、彼らは好きにやらせておくしかない。


「ゼギアス……あの馬鹿、火傷で死んじまうぞ」


 真っ先に駆け付けるであろう本人が見当たらないと思って<マップ>で探すとあの馬鹿野郎は燃え盛る学校内部で火を消していた。あいつ自身も魔法の心得があり水魔法を使っているがあれでは焼け石に水にもならない。


 俺にできることは守護魔法で陰ながらあいつを守ってやることだけだ。


「急ぐぞ、本当に時間がない」


「そうだね、みんなばらばらに動いてる。人手があるのに全然活かせていない感じするね」


 緊急事態を知らせる半鐘が鳴り響き、修羅場の様相を呈し始めているが現場は混乱の極致にあった。本来であれば指示1つで機敏に走り出す”クロガネ”の男達が完全に烏合の衆と化している。

 男どもは争うように意味もなく走り回り、女たちは肩を寄せて震え、突然の半鐘で叩き起こされた子供たちは不安で泣いていた。



 混乱の原因は解りきっている。この場を指揮する者が不在なのだ。本来であればシロマサの親分さんが陣頭指揮に当たられているが、数日前に義理事で東の迷宮都市アディンに向かっている。それもお供としてベイツとボストンを、常に本部に詰めているだろう幹部二人を連れて離れているのだ。

 なんとも間の悪い、いやこの隙を狙ったに違いない。だから俺も警戒をしていたのだが、<結界>で自分から目と耳を塞いで体たらく……いやあの呪炎だとどうあれ間に合わなかったか?


 火の手がここだけなら俺も学校の消火に当たっても良かったが上空のレイアの報告からだとすでに4か所から火が出ている。


 早急に全体の指揮をするものが必要だ。俺がここで一人頑張るより数千人の野郎どもを効率よく動かした方がこの騒動は早く収集が付けられる。

 1人でも多くの王都の民を救うため、とにかく今は最優先で”クロガネ”本部に向かう必要があった。




「何なんだあの炎は? 全然消えねえぞ! どうなってやがる」「火元は何処だ!? 情報は上がってきているのか?」「例の学校が燃えているのは確かだが、他にも燃えている場所があるらしい!」「場所は? 確認取ってくれ!」「序列上位の幹部の所在は掴めたか? 連絡は?」「混乱して誰一人として摑めてねぇ! 集合はかかっているはずだがその確認もできねえ。くそ! なんだって御大がいらっしゃらねえこんな時に!」


 辿りついた親分さんのお屋敷もまた混沌の極致にあった。男どもが大勢集まってはいたが、逆に混乱を加速させている有様だ。本部に詰めている幹部が不在だから、誰もろくに指示を出せていない。



「お前らぁ! 狼狽えるんじゃねえ!!」


 俺の<威圧>交じりの大喝は喧騒渦巻く本部を一瞬にして静寂に変えた。息苦しいまでの緊張感が支配する中、俺は敢えて奥に向けてゆっくりと歩いた。急かす内心を押しとどめ、周囲の視線を一身に集めつつ最奥の椅子に腰かけた。


「状況は?」


 近くにいたベイツの手下であるモーリスに問いかけると、彼は弾かれたように答えた。


「はい、頭。今より半刻(30分)ほど前に火の手が上がりました。現在判明しているのは例の学校と、他に未確認ですが数か所から火の手があがっています」


「俺以外の幹部は?」


「皆様まだこちらに到着されていません。頭が真っ先にお出でになりました。恐らくはそれぞれが動かれているかと」


 俺はモーリスの言葉に頷いた。あいつらの事だ、必ず己の為すべきことを為している。そう確信させるだけの力量と実績を伴っている。


 俺は一つ深呼吸すると周囲を見回した。本部に集うすべての人員が俺を言葉を待っている。



「動くぞ。”クロガネ”総員に動員かけろ、これは放火だ。現在の火元は学校以外に4か所だが、火を付けて回っている屑共がいる。必ず狩り出せ。連中の勝手を許すな。それと王都に散っている幹部連中にここに集合するように指令出せ。俺が全体指揮を執る! 急げ、時間は俺たちの敵だ」


「応ッ!!」「動け動け! 頭のご命令だ、全て最優先だぞ!」「俺たちのシマで放火なんざ許しておけるか! 一人残らずとっ捕まえてやらぁ!」



 俺の命令を受けた男たちは今までの右往左往は何だったのかと思うくらいの迅速さで動き始めた。ったく、やりゃあできるんだから俺が居なくても指示出せよ。


「モーリスとあと数人は残れ、連絡役がいる」


「はい。頭。助かりました、俺達だけじゃあ混乱するばかりで」


「他に幹部が……誰もいなかったのか。そういう時は頭の切れる奴を責任者にしろ、あれじゃ何も動けないだろ」


「はい、すみません」


 モーリスはベイツが将来に期待している若手であり、留守を任されているほどなんだが、まだ若いからな。こいつが指示を出し始めても貫目が足りず周囲は納得しないか。仕方ない。


 顔を伏せるモーリスに気にするなと答え、俺は机の上に広げられた簡略化された王都の地図を覗き込んだが、なんだか見にくいなこれ。それに机の上じゃいろいろ分かりにくいか。近くにいい場所があるし、移動しよう。


「おい、隣の大会堂に指揮本部を置くぞ。ここじゃすぐに手狭になる」


 今も男たちがひっきりなしに出入りしているがこれからもっと多くなるはずだ。今のうちに広い場所に移動すべきだろう。これから集まってくる幹部たちも隣に煌々と明かりが灯っていればこちらにいると気付くだろう。


 男たちが準備に走り出すと、ほとんどの人員が出払ってしまい残るは俺と相棒以外は数人となった。その時を見計らったかのように奥の部屋から一人の女性が姿を見せた。彼女は一人の少女を支えるように伴っている。


「頭、肝心な時にお役に立てず済まないねぇ」


「いえ、姉御はリーナちゃんの傍に居てあげてほしい。こっちは俺がやるから心配しなくでくれ」


 ジーニの姉御があの場にいてくれればそこまで混乱はしなかったと思うが、彼女はもっと大事な役目がある。親分さんとベイツが不在の今、心細いであろうリーナ嬢を傍で支えてあげられるのはこの人だけだ。


「お頭さん、学校が燃えてるって本当?」


 眠っている間に騒動を聞いて飛び起きたのだろう、不安でたまらない顔のリーナ嬢が俺に問いかけてきた。


「大丈夫だ。君は何も心配しなくていい」


「でも、学校が燃えちゃったら……」


 この子は本当に学校に行くのを楽しみにしていた。これまで”ウロボロス”の屑共が幅を利かせていたせいで、満足に外も出歩けなかったらしいから友達と一緒に学校行くのを楽しみにしていると何度も聞いていた。


「リーナ、安心していいわ。こいつが何とかするって言ってるんだから、絶対大丈夫よ」


「あ、リノアお姉ちゃん!」


 俺の背後にはいつのまにかリノアが現れて彼女を安心させるように抱きしめていた。


「お前も来たか」


「セリカからあんたがここに居るって聞いたけど、とんでもないことになってるわね。なにあの炎、ちょっと見たけど水かけても全然消えないんだけど」


 リーナに聞こえないように俺だけに届く声音で話しかける彼女にこちらも小声で答えた、


「燃え尽きるまで消えにくい魔法の炎だとさ。()()()の連中の反撃だよ、あいつら教団と手を組んでやがった」


 共に現地に赴いたリノアにはこの説明だけで十分だった。顔色を変えた彼女が尋ねる。


「わたし、何かすることある?」


「これは”クロガネ”の問題だからな、むしろリーナの傍に居てやってくれ。俺はそれが一番助かる」


 頷いてくれた彼女に感謝して俺は火が灯された大会堂へ歩いて行った。




「頭ぁ。遅れましてすみません! 手間取っちまいました」


「遅いぞザイン、お前で最後だ」


 本部に集合するように閃光弾(市内でぶっぱなすのは完全に違法行為だ、あとで警邏と国王に謝罪する予定)を放ってから数寸(分)で王都に居る幹部、ゼギアス以外の序列40位以内全員が即座に集合を果たした。総動員をかけただけあって構成員たちも次々と大会堂に集まっており、その数は<マップ>で既に千人を超えさらに続々と集まっている。例外は今現在も各地で消火に当たっている奴等だけだ。


「時間が惜しい、事実だけを簡潔に話す。現在王都の南地区に同時多発的に放火が行われている。お前らも感じただろうが、これは特殊な魔法の炎で消化に大量の水が必要となる。既に宮廷魔導師たちに救援を要請しているが、おそらく間に合わないと思われる。よって俺たちは延焼の防止、怪我人の救援、被災者の救出、そして放火魔の撃滅を行う。なお、放火魔は魔導具を使用している。火種を持ち歩いてはいないが今の状況で路地裏に忍び込もうとする奴なんざ限られる。怪しい奴は容赦なく狩れ。他に質問は?」


「頭、消火はしなくてよろしいので?」


 幹部の一人が手を上げた。もっともな意見だが、俺は否定した。


「どうあっても水が足りない。消しきれないと解っているなら無駄な努力をする前にその労力を他に向ける。家屋は燃えるに任せるしかない」


 手を上げた幹部も消火作業を行ったのだろう。意見はあっても対案はなさそうで了解したと告げ引き下がった。初期消火に失敗したら周囲の打ち壊して燃え広がるのを防ぐような時代なのでこれはしかたない、俺はもちろんそんな物騒な真似はしないが。


「あの、ゼギアスの兄貴は?」


「放っておけ。今の奴は何言っても止まらん。それこそ時間の無駄だ」


 ここに居る奴等はあいつがどれだけ熱心に学校建設を進めてきたか痛いほど理解している。俺の言葉に反論をする者はいなかった。あいつには悪いが、もうしばらく”攪乱”を頼むとしよう。ゼギアスに怒られるのは全てを企んだ俺の仕事だ。


「他にないようなら行動しろ。お前たち解ってるな? ”クロガネ”の敷地内にある学校を狙われたんだ。ここまで露骨に喧嘩を売られて黙っている訳にはいかねえ。だが黒幕に落とし前をつける前にすることがある。いいか、この火事で一人でも死人を出したら俺たちの負けだと思え! ”クロガネ”の看板に上等切った馬鹿共に俺達が一体誰なのか、その魂に刻み込んでやれ!!」



 俺の檄に対してこの場に居合わせた男たちはそれに倍する気迫で応えた。


 こうして”クロガネ”の長い戦いが幕を開けたのだった。





楽しんでいただければ幸いです。


長くなりそうだったので分割します。

次回は頑張って早くしたいと思います。


今年もよろしくお願いいたします。



もしこの拙作が読者様の興味を引いて頂けましたら評価、ブックマークなど入れていただくとこれに勝る喜びはございません。何よりも作者のモチベーションが超絶鰻登りになります。更新の無限のエネルギーの元になりますので、何卒よろしくお願いします!


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