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世界最強になった俺、史上最強の敵(借金)に戦いを挑む!~ジャブジャブ稼いで借金返済!~  作者: リキッド


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王都にて それぞれの事情 1

お待たせしております……


今回は3人称で話が進みます。それぞれの視点の話です。


おかしい、後日談は後一話だけのはずじゃないか。


何故終らないんだ(汗)



「馬と馬車、〆て金貨15枚ってとこだな」


「その額で手を打とう。金はそこに置いておいてくれ」


 王都で根城にしている宿に戻ったザックスたち”ヴァレンシュタイン”のメンバーは今回の依頼で得た戦利品を換金した。手にした馬車郡は積みすぎた荷を分散させるために非常に役立ったが、それが終わってしまえば冒険者である彼らには持て余すしかないからだ。


「いやあ、今回はとんでもない仕事だったな」


「ああ、収入だけで数年分の金額だ。それにな」


 金庫番も兼ねるジキルが自分の矢筒を叩いた。この中には各種の魔法の矢が入っている。暗殺者集団から奪った物なので麻痺や毒、睡眠などの各種状態異常をもたらす物が多いが、狩人である彼にはむしろありがたい効果が多い。俗に言う攻撃属性では獲物の状態を悪くさせてしまうものが多かった。それに、この矢一本でも大銀貨一枚はするだろう。それが彼の矢筒とマジックバッグの中にも数百本収納されているのだ。

 このような金銭以外の収入は今回手にした金貨のはるか上をいく。一台だけ残した自分達で使う馬車は車軸に魔法金属がこれでもかと使われ、高い耐久性と振動がほぼ感じられなくなるほど快適だし、椅子には贅沢にも綿が詰められ馬車の中で快眠できるほどだ。それに6人全員が各種状態異常を防ぐアクセサリーを手に入れている。そしてジキルとナダルは魔法の武具まで手に入ったため、セドリックからせしめた収入をパーティ共用資金へ回すことを提案するほどだった。


「ああ、俺が貰ったナイフだけでも金貨いくらするか想像もできない」


 わずかに魔力を通すと透明化するナイフは、ナダルが密かに憧れていた逸品で、まさか自分が手にすることになるとは夢にも思わなかった。そもそも魔法の武具は金を積めば買える物ではなく、この一振りだけでも今回の報酬に十分すぎるほどだ。


「ザックスには悪いことをした」


 彼らのリーダーは敵の特性上、めぼしい収穫がなかった。他の皆は魔法効果のある外套やケープなどポンチョなど素晴らしい装備品があったが、革鎧と長剣と主体とする彼には適した装備がなかったのだ。


「気にする奴じゃないさ」


「ああ、気にしちゃいないよ。みんなの武具が強くなれば俺たちの安全も高まるしな」


「おう、ザックス!もどったか。首尾はどうだ?」


「めぼしい物はみんな買えたわ。買いすぎても心配ないっていうのは有り難いわね」


「食事を作りすぎても入れられるのも大きいわね。食事の度に一々火を熾さなくてもいいんだし」


「やはり貰いすぎな気もします」


 物資を買出しに行っていたザックスたちがもどった後は、冒険者たちとの宴会とは別にメンバーで祝勝会を開いた。彼らはギルドでBランク冒険者としての修了書を得ており、その宴を身内で開いていたのだ。



「始まったばかりの時はこりゃ失敗かなと思ったが、こうも上手く行くとはね」


 宿の主人も彼らが昇格したことを耳にして特別豪勢な料理で祝ってくれる中、酒杯を手にしたザックスが誰に言うともなくつぶやいた。


「ほぼ彼のおかげだけどね。今回一番得したのは間違いなく私たちね」


 カレンはそういいながら新たに手に入れた腕輪を撫でた。内側に埋め込まれた宝玉が発動体の役割をしており、杖の代わりになる腕輪だった。さらに3個までの魔法を宝玉に留めておけるという機能まで持っている。


「そうね。その分危険もあったはずなんだけど、アレはほとんど作業みたいなものだし」


「隠れて魔法撃ってるだけですもの。私も触媒を使って<鼓舞>を使っているだけでしたし。その触媒も魔力は半分以上残ってますから」


 マリーとメルヴィの姉妹も口々に賞賛するが、その表情は冴えない。それは彼らが先ほど決めた取り決めにあった。


「まだ納得してないのか? 皆で決めたことだろう」


「それは解ってますが……」


「パーティ名まで変える必要はあるのでしょうか?」


 彼らは明日にでも王都を立ち、この国を離れることにした。理由はもちろんこの件のほとぼりを冷ますためである。ユウから一応追っ手はいないと話を聞いていたが、同時に遠まわしな警告を受けている。


「相当早い期間でのランクアップに今回の報酬、特に金は衆人環視の中での受け渡しだったからな、いらん嫉妬を買いかねない。宴会で金を撒いて少しは紛れたかもしれないが、しばらく他の国でも行った方が安全だ。目的であるBランクにも上がったことだ、たまには祖国に帰るのもアリじゃないか?」


「それはそうですけど。”ヴァレンシュタイン”の名前はザックスが」


「いや、みんなの安全が第一だ。もし本国から敵の生き残りがやってきたら対応できるのはナダルだけだ。もう一度数で押されたら今度は負けるぞ、あいつがいないんだから」


 ザックスの言葉にカレンが苦笑する。メルヴィはザックスの言葉を全肯定する節があり、パーティ名も彼がつけたものだから拘っているのだが、名付けた本人はかっこいい名前程度にしか思っていない。

 幼馴染であるマリーは名前の由来が西の大陸の御伽話にある成り上がりの傭兵隊長の名前であることを知っているから尚更だった。

 もしあのロッソ一味の生き残りが自分達を探すとしたら、商隊護衛の依頼にいずれ辿り着く。そして隊を二分して先行したことも調べればわかるはずだ。そのパーティ名を探索されるだろう、そこで名前を変えれば辿るのは難しくなると考えたのだ。完全に痕跡を消すのは無理だろうが、ランク自体は個人に与えられるものでパーティーに付与されるものではない。だから名前を変えても問題はないが、やはりせっかく広めた勇名を変える事を躊躇するパーティーは多い。


 彼らとてユウには勧められなければその気はなかった。しかし、この先の安全を鑑みて、ザックスがリーダーとして判断したのだ。



「それにしても、てっきり彼を誘うと思ったのだけど。私としても彼がいてくれれば随分と助かるわ」


「確かに、今までに出会った『出来る奴』には声かけてたじゃないか。今回はなんでしないんだ?」


「私は反対です! あの人の能力と人格には文句ないですが、我が勇者の試練になりません」


「メル、声が大きい」


 ザックスは東方にあるケルビネン王国の騎士の従者の息子に生まれた平民だった。仕えるべき主家に生まれたのはカレンのみだったのでその家は養子を迎えたが、カレンに類まれな魔術の素養が見られたため王都の学院で学ぶことになり、付き人としてつけられたのが幼馴染のザックスだった。彼は漠然と冒険者になって世界を回りたいと思い、自らを鍛えてはいたが、身分を越えて大事な友人であるカレンが王都にいくというので付いて行った。

 男である彼に身の回りの世話などできないが、元々そのために連れてきた訳ではない。カレンは魔術師として勉学に勤め、ザックスは念願の冒険者としてそれぞれ活動を始めた。


 そして人生が変わる瞬間が訪れる。


 神殿の神官見習いとして働いていたメルヴィが神からの神託を受けたのだ。王都に勇者が現れた。守り育てて備えよという内容だが、彼女は当初全く信じなかった。見習い神官は激務であり、わずかな睡眠時間で働き続ける修行の一環だった。男爵家の次女として生まれた彼女は想像以上の過酷さに、そのときも意識が朦朧としており幻聴と思い睡眠を優先した。


 その時はありえない幻聴だと無視をしたが、周囲の神官たちにも同じ神託が降りるようになっていた。さらには神託の巫女はメルヴィであると直々に指名を受けてしまい、彼女は新人ながら見習いから司祭にまで急遽位が上げられ、建国以来の勇者誕生に国の上層部は沸きかえり、メルヴィは姿も知らぬ勇者を探す羽目になる。


 ザックスとはカレンが宮廷魔術師クラスの実力者になりうると解り、同年代で既に若手一番と呼ばれていたマリーに師事すべく会いに行った時に丁度、姉と共にいたメルヴィと出会うことになる。

 しかし、その後が大変だった。出会った貴族令嬢に勇者様といきなりいわれ困るザックスと事態が飲み込めないカレン、妹の問題が解決したと喜び勇んで上司である宮廷魔術師長に報告を上げたマリーにより事態は一層加速し深刻なものになった。

 当のザックスはまだEランクに上がったばかりの新人でカレンも優秀とはいえ学生に過ぎない。だが、王宮では既に彼をめぐって政争が始まり、それが加熱すればザックスの身にも危険が及ぶのは明らかだった。それを憂慮した国王とその側近が優秀な護衛をつけて勇者を武者修行の旅に出すことにしたのだった。


 ジキルは第一騎士団からの出向だし、ナダルは国お抱えの密偵だった。二人も彼が勇者などとは信じていなかったが、与えられた任務を遂行すべく彼を助けた。

 事実、ザックスは剣は得意だが、いかにも勇者であるというような突出した物を持っていない普通の青年だった。勇者といわれても何かの間違いだと本人も思っているが、出会う神殿関係者が皆、自分が勇者だと口をそろえているので閉口しているほどだ。


 だが、ザックスは現実主義者にて機会主義者でもあった。どうやら望んでいた冒険者として生きることが出来そうで、更に仲間は望んでも得られないような優秀なメンバーばかりだ。更にカレンも付いて来てくれる事になり、彼としては文句はなかった。いつか勇者だのなんだのは間違いだとわかるだろうが、それまでに自分も一端の実力をつければいいと楽観している。


 とりあえず一流の証とされるBランク冒険者を目指そうということで祖国を出発したのは6年前になる。おそらくジキルやナダルは既にB、もしくはAランクに匹敵する技量の持ち主である。彼らに指導を受けながら成長を続けた。この強運とどんな苦境もなんとかなるさ、と楽観できる根性は既に勇者といえる片鱗を見せていた。


 最初はメルヴィを除いて誰もザックスが勇者などと信じてはいなかったが、今では本人を除いて皆が勇者であることを疑っていない。成長したザックスは平均的なCランクであり、ギルドの考課表も優秀だが特に特記なしと書かれる程度に過ぎない。

 

だが、彼は間違いなく人々が求める「勇者」であった。助けを求める人々に突然出くわし、苦戦しながらも仲間となんとか解決してしまう。彼は関わった人々を驚かせたり慌てさせたりしてきたが、悲しませたものは誰一人としていなかった。

 そして、彼は人の輪を作る勇者だった。出会った多くの人々と交友を深め、助けたり助けられたりしてきた。今まで友誼を結んだ冒険者はAランクが数十人にも上り、Sランクも一人いる。国の上層部にもそれは及び、結果としてケルビネン王国に多くの利益をもたらしていた。

 今回は特にそれが際立っている。得られた報酬は莫大で、ライカールの王女と好意的な関係を持ち、さらに規格外の力を持つ謎の少年と友誼を結んだ。少なくとも次に会うときが敵同士でも問答無用で襲い掛かってくることはないと思える程度には。

 本人の意思はともかく結果だけを見ればザックスは皆が求める勇者としての行動をしっかりと果たしているのだ。


「その通りさ。側にいてくれれば助かるだろうけど、甘えそうだし。それにあいつも俺達と同じ訳アリっぽいから」


「確かに、あいつがいたら全部任せちまったほうが早そうだな」


「違いない。ザックスの成長には繋がらないな」


 二人はかなり速いペースで杯を進めている。手に入れたアクセサリーの効果で酩酊状態がすぐに解けるものがあるので遠慮なく飲んでいるのだろう。何しろこれまでになく懐は暖かいのだ、今までだと躊躇うような額の酒にも果敢に挑めるのは良いことだった。


「あいつはウィスカに戻るってたし、このまま会う事ないかも知れんぞ」


「どうかな、俺はまた会う気がするよ。それにあの実力だぞ、嫌でも名が売れていくだろう」


「そりゃそうだ。ギルドの目もそこまで節穴じゃないだろう」


「そのときまでに、あの少年に負けないくらいの成長を遂げていないと笑われてしまうな」


「やれやれ、こりゃ本格的にAランクを目指す必要があるかな」


 ザックスはいつか訪れるだろう再会を待ち望みながら新たに運ばれてくる料理に手を伸ばした。





 ――王都リーヴ、ウォーレン公爵邸――



 公爵とクロイスが揃って頭を下げる中、50代の男が部屋に入ってくる。華美ではない服装だが、恐ろしく手の掛かるキット生地をふんだんに用いたもので、その上着だけで王都に豪邸が建つほどの価値を持つ。その服を普段着にするそこ男こそ、この国の国王たるアディソン3世だった。

 外見こそ鳶色の髪と青い目をした中肉中背のどこにでもいる男だが、その瞳にある力だけですべての評価を覆せるほどの貫禄を持っている。その細面には王太子だった若き頃に戦場で負った頬傷が残っているはずだが、今はそれを覆い隠すほどの髭により窺い知る事は出来ない。

 この中では唯一その戦場で王と共に生還した公爵だけが知っていた。その傷を与えた相手が今や親衛隊の筆頭隊士であることも。


「楽にせよ、というかここは叔父御の家だろうに。余人はおらぬのだ、普通でよいぞ」


「は、有り難く。この度も孫の調子が戻ればこちらから伺いましたものを」


「普通でよいというに。あれか? クロイスの前だから余計な気を遣っているのか?」


「陛下におかれましては、ご機嫌麗しく恐悦……」


「やめろやめろ、ここは謁見の間ではない。全く、我が庭園を一刻で穴だらけにした小僧はどこに行ってしまったのだ? ここにいるのは小さくまとまったただの貴族ではないか」


「勘弁してくださいよ、若気の至りですって」


 クロイスが顔を上げるとそこに悪戯が成功した顔をしたアディソン王がいた。彼が知る王の顔からは大分老けたが、その知性の光はむしろ深まったように思える。


「勝手に座るぞ、だからお前らも座れ。あと、クロイス! アドバルドが嘆いていたぞ、手紙一通寄越したきりで後は寄り付きもしないとな。あれだけ利用した相手に不義理ではないか」


 アドバルド王子は王の三男で現在は王国第二騎士団の副団長を務めている34歳になる精悍な男だ。性格は豪放磊落で部下の面倒見も良く、王家の一員とは思えないほど気さくな男で高い人気を誇っている。

 クロイスとは歳が近く幼少から”学友”(後の重臣になるように側につけられる)としてフェンデルと共に友人関係だったが、若い頃はどちらかと言えば悪友、手に負えない放蕩息子として王都一のろくでなしの座を争っていた間柄だ。

 彼が冒険者になった後にも色々と協力()()()()、かれのAランクの業績の半分は自分の手柄だと周囲に豪語するほどだ。


「私が今殿下に不用意に接近すればリチャード王太子殿下にいらぬご迷惑がかかります。引いてはアドバルド殿下にも累が及びかねませんので」


 この国の世継ぎはリチャード第一王子に決まっており、すでに立太子の儀も済ませている。

 第一王子は音楽や絵画をこよなく愛し、文化の守護者を自称するなど芸術に造詣が深いが、軍事にはトンと興味がない。

 第一騎士団に籍は置いているが訓練にも顔を出さないほどだ。それゆえ騎士団にはアドバルド王子を時期国王にと推す声が止まず、二人は微妙な関係になっている。そこで公爵家の息子であるクロイスがアドバルド王子に近づけば勘ぐる人間も現れるだろう。

 実際の二人は毎日共に食事を取る間柄で、仲は良好なのだが宮廷に必ずいる口さがない者たちには格好の話題なのだった。



「ならば場所を工夫すればよかろう。友誼とは人に見せるためのものではあるまい」


「は、仰せのままに」


「うむ。明日にでも王宮に顔を出せ。食事の度にあ奴の辛気臭い面を拝むのは今日で終わりにしたいのでな。しかし、なんにせよシルヴィが無事で何よりであった。あの子の事は我が娘たちも心配しておったからな」


 それぞれが椅子に座り、堅苦しい空気は消えた。国王と臣下ではなく、血の繋がった身内として話を再開する。


「王家の皆にも心配をかけた。今度ばかりは孫を失うか、教団本部に国の祭祀を乗っ取られるかの二択だった」


「サインツの時とは事情が違いすぎるぞ。いくら教団本部がのさばろうとも我が国には一切手を出させぬと何度も言っておるのに叔父御も頑固だな。シルヴィが瀕死にされたと聞いたときはこちらも肝を冷やしたが、上手く処理できたようでなによりだ」


 国王は他人事のように話しているが、彼自身も関係者を方々に放って情報を集めさせていた。それにより、今回の件で注目すべき男の名前も挙がってきている。


「既にご存知だとは思いますが、今回の一件で大いに協力してくれた男がいます。我等としても……」


「知っておる。リットナー伯爵家には周囲の体面も見ていずれ褒美を取らせるつもりだ。本人はそれ所ではないだろうが、弟のほうも何かで報いてはやるつもりだ。何しろ最年少で暗黒騎士の称号だ。諸侯会議でも話題に上がったほどだぞ」


「……彼らも喜ぶでしょう。伝えておきます」


 クロイスはあえて王がユウの名前を出さなかったことに気付いてその思惑を推し量り、渋い顔をした。彼としては王国が彼を上手く囲い込むことで国外に流出することを防いで欲しかった。

 彼はユウを友人と思っているが、それ以前にランヌ王国の貴族だった。あの少年の姿をとった()()が、もし祖国に弓を引く事態にでもなったらどれほどの被害が出るか想像もできない。

 彼の性格からは考えにくいとは思うが世の中に絶対はないし、あの種の男は己の法を第一に重んじるタイプで、必要なら誰にでも平然と牙を剥く。実際、今回だって義にもとるという理由で何の関係もないシルヴィアの為に命を張ってくれたのだ。ソフィア王女の事も当然考えていただろうが、それでもここまで貢献してくれた一番の理由は仁義のため、幼いシルヴィアの命の危機を見過ごせなかった為だろう。

 

 だが、問題は国王が既にユウの存在を認識して、敢えて隠している可能性が高いことだ。でなければ第一の功でリットナー兄弟は出てこない。もちろん、超常の力を持つものが表舞台に出るのを嫌うことはよくあることでもあり、その辺りを心得たクロイスたちも細心の配慮をしていたつもりだ。

 しかし、さすがに国王の目は誤魔化せなかったようだ。だが、一番の問題はあの少年が既に何らかの陰謀に巻き込まれていたとして、それによる「王国側の」被害がどれ程の物になるか危惧したのだった。

 下手をするとランヌ王国の存亡の危機になりかねない。


「クロイスよ、お前の危惧している未来は来ないから心配するな」


「親父、それは一体どういう……」


「お前は城の図書室を覗いた事があったか? いや、ないか、昔のお前は剣を握ってばかりだったからな。もちろんお前の懸念は理解しているが、あとはこちらの問題だ。ここは我等に任せるがいい」


(王城の図書館になにかあるってのか? くそ、ガキの頃もっと勉強しとくべきだったか)


「知りたいなら調べろ、別に隠してはおらぬ。平民でも申請を出せば見れる書物だからな」


 それだけ言うと王は公爵とも歓談に戻ってゆく。クロイスは頭を下げながら自分の知らぬところでこの国に何か既に始まっていることを感じていた。


(あいつが関わってるのは間違いない。ってことは一口噛まないわけには行かないな。しかし、この国に帰ってきて俺の”冒険”は終わったと思ってたが、ここでもデカいのがありそうじゃないか。面白くなってきたな)


「それにしても今回の救出劇の立役者の一人がソフィア姫だとはな! こちらも聞いたときは耳を疑ったわ」


「その場に居た者の話では、彼女の技能で孫は奴に見つからずに難を逃れたようでな。我が家の一番の恩人だ。ライカール王には決して聞かせられぬ話だが」


「あの国はまだまだ皇太后の力が強いからな。()()で実働部隊が消えて今までのようにはいかんだろうがな。内々ではあるがライカールの兄弟からもくれぐれもと話があった。何かあればこちらの面目が潰れていた所だ。結果論だが何もなくて幸いだった」


 この大陸の王者たちはそれぞれを兄弟姉妹と呼び習わす。昔から婚姻を繰り返しているので古い血縁であることも理由だが、歴史と伝統がもたらす力の側面が強い。ちなみに「友」は格下の表現になるので王家同士ではほとんど使われない。無視できない成り上がり者を呼ぶ時に使われる程度だ。


「ソフィア嬢も関係者なのだろう? やはり力がもたらす磁力は誰も彼もを引き付けてゆくな。クロイスも無関係ではないだろう?」


「はい、ですが彼の者にそこまでのものがあるかどうかは……」


「確かに今はまだそのときではないだろう。だが、それは必ずやってくる。だから備えるのだ、そのための力はくれてやる。さっさと親元から離れて一人立ちしろ」


 クロイスは我が耳を疑った。国王は彼を叙爵させるといっているのだ。彼自身はとある事情から爵位はほとんど諦めているし、シルヴィアと家督争いなどしたくないから実家と程々の距離を置くつもりだった。仕事は公爵の名代だけでも山のようにあるし、シルヴィアが一人前になるまではその補佐をしようと思っていた。

 周囲には権威主義者ばかりいる国王にその辺りの機微がわからぬはずもない。

 つまり横紙破りをしてでも為さねばならぬ何かが起こっているのだ。


「よいのか、アディ? たしかに愚息も一端に成長したようだ、こいつの抱える事情から考えるに面倒の方が多いぞ」


「叔父御。最早それどころではなくなるのだ。お前を遊ばせておく余裕がない。お前には早急に力をつけてもらう必要があるのでな。類稀な冒険者としての経験と、公爵家の血の力が遠くない内に必要になるのだ」


 誰にとってとは言わんがと続けた国王の言葉でクロイスの未来はほぼ確定することになる。

 この国の支配者たちを酒を酌み交わしながら、クロイスは急転直下した己の将来を思った。正直今でも爵位には興味ないが、体の奥底では沸々と湧き上がるものを感じていた。

 その滾りはかつて己を国から飛び立たせるほどの熱を持っていたが、多くの出会いと別れの中、己が何者なのかを理解したときに収まりをみせたものだった。


 だが、今また年甲斐もなく燃え滾るものが溢れ出てこようとしている。それを誰がもたらしたのかは言うまでもない。


 今回の主役は自分ではないが、ここで話に乗らないと一生後悔するに決まっていた。

 




 同刻―――公爵邸中庭の一角にて


「本当によかったの? あの人と一緒に行きたかったんでしょ?」


「いや、いいんだ。僕は王都しか知らないし、兄上もこれから忙しくなる。ウィスカに行ってみたかったけど、それは今じゃないだけさ」


 シルヴィアが大事を取って休んでいるので、そのメイドであるアンジェリカも休みを得ていた。本人はシルヴィアが目を覚ますまで側にいるつもりだったのだが、儀式の際にシルヴィアを奪われまいと抵抗した際に致死の一撃を受けている。

 ユウが万が一の備えとして蘇生魔法を準備していたおかげで最悪の事態は避けられた。バーニィも蘇生魔法という奇跡中の奇跡、それも「生きている人間にあらかじめ蘇生魔法を使用し、その魔法効果が現れている最中に死ぬ事によって蘇生する」という荒業を現場で目撃する事によって、何が起こったのかを理解していたから、アンジェラの側を離れたくはなかった。

 

 バーニィの手によって無事連れ帰られたアンジェラを見た公爵は、その血染めのメイド服から何があったかを理解した。その忠誠を高く評価したし、彼女の事情を知る多くの者に向けてアンジェラの献身を讃え、”特別な地位”を保証した。

バーニィの手持ちのポーションや、医師の診察を経て完治を認められたアンジェラは、早速仕事に戻ろうとした所、公爵直々にゆっくり休むように命じられてしまった。


 そこで何故かここにいるバーニィを捕まえて話しているわけだった。



「本心を隠すために他に理由を求めるのは止めた方がいいわね。あんたのためにならないわよ」


「そんなことは、ない、ないよ」


 その表情は王国史上最年少で暗黒騎士になった少年とは思えないほど気弱げだった。アンジェリカの知る騎士選抜試験は有史以来もっとも過酷な試験として知られ、何人もの名を馳せた騎士が挑んで失敗している。初回はどのようなものかを掴み、その後数回かけて合格を得るのが通例だった試験を初めて一発合格で通ったと聞いたときは、我が耳を疑ったものだ。

 むしろあのバーニィが選抜試験を受けると聞いた段階で、今回は泣いて帰ってくると踏んでいた彼女は驚きを隠せなかった。人づてに試験の成績が良すぎて落とすに落とせなかったと知った時は別人と間違えているのではないかと今でも思っている。


 彼女の知るバーナード・サンド・リットナーは頑固な一面はあるものの、基本自分の後ろをついてくる大人しい少年だった。それから彼女の人生に激変が起こり、公爵閣下のご温情で幼い兄弟を養いつつシルヴィアの御付メイドとしての仕事を得ることも出来た。

 公爵家のご令嬢の側付きメイドはそれなり以上の家格が求められる。いかに優秀とはいえ”堕ちた”平民に、まして売国奴の娘に与えられる職ではない。公爵が彼女の父、クレッグ伯爵の無実を信じている証拠であり、彼女と幼い兄弟を公爵家が護ると内外に宣言した形である。


 身包み剥がされて捨てられるか奴隷落ちが順当だった未来を変えてくれた公爵に、アンジェリカは深く感謝し、命を懸けてその孫娘を守り育てる覚悟だった。しかし世間はやはり売国奴には厳しく、彼女に声をかけるものはいなかった。ただ一人を除いて。


 ただ一人離れようとしない変人が何を思い立ったか暗黒騎士の称号を目指して試験を受けるという。始めは自分を笑わせる冗談かと思ったが、目を見ればいたって真剣だった。彼はしばらく会えなくなると告げに来たようで、あとの事は最近公爵家に帰還したクロイス閣下にお願いしてあると告げると旅立っていった。


 いつもならばアンジェリカに万事確認を取るような少年が、自分に了解を取らずに旅立ったことに驚きはしたが、日々の仕事の忙しさと再会したクロイスが彼のことを解ったような顔をするのが何故か気に入らなくてすぐに忘れてしまった。

 それにバーニィの性格なら数日と待たずに帰ってくるだろうと皆が思っていた。


 しかし彼は帰ってこなかった。3ヶ月間の試験期間をすべて主席を勝ち取り、初回突破かつ史上最年少という大記録付きで帰還したのだった。誰もが驚きを隠せない中で、真っ先にアンジェリカの前に現れたバーニィは照れたような顔で土産を渡しに来たのだった。その顔は古傷こそあるが、いつもの見慣れた幼馴染の気弱げなものだった。


 バーニィは運がよかった、自分に向いていたと謙遜するが、クロイス閣下が話してくれた所によると朝は夜明け前からひたすら動き、己の体重の半分はあろうかという荷物を背負って延々と走る。豪雨の中、増水した川で遠泳する。誰もが寝静まった深夜にいきなり猛訓練を翌日の夜まで行うなど、正気とは思えない内容が続くという。技術体力より精神力を試す試験が主と聞くが、そのような苦行の試験でバーニィが一番であるなど信じられない。

 

 だが、周囲の評価がそれを真実だと教えてくれた。多くの貴族が彼を激賞するために訪れ、寄親である公爵閣下にも挨拶をしてゆく。その度に彼は挨拶すべき客よりも優先して彼女の前に訪れ、彼女の知る幼馴染の顔を見せたので、混乱する一方だった。


 いつか聞いてみたことがあった。何のために騎士になったのかと。

 彼は答えた。自分を変えたかった、心を強くしたかったけど何にも変わらなかったと。彼は俯いて顔を上げなかった。


 アンジェリカは納得した。バーニィは失敗したのだ、自分の知らない誰かになろうとして出来なかったのだ。私の前からいなくなることはないと安心した。自分の前から居なくなってしまうのではないかと不安だったことに今更気付いた。


 それからは昔通りに接した。つまり、彼を怒り、ばしばしと遠慮なく叩き、引っ張った。バーニィは驚き慌てたが、どこか諦めたように微笑んだ。彼女の知る彼の顔だった。


 二人は安心して安寧に浸ることが出来たのだった。




「あんたねぇ、自分のやりたいことやった方がいいわよ。せっかく私と違って自由があるんだから」


「これがやりたいことさ、本当だってば」


「あのね、私に嘘ついても仕方ないでしょ。今更隠せると思ってんの」


「え、い、いや、隠すなんてことはない、本当だよ」


「まあいいけど。なんにしてもみんな無事でよかったわ。お嬢様が生きておられなかったら私も生きてはられなかったし、貴方の家もどうなっていたか。あの人に感謝ね」


「え、あ、う、うん、そうだね。ユウがいてくれなかったら最後は君達二人を連れて他の国に逃げるしかなかった。実は試験で知り合った他国の貴族に仲介も頼んでいたんだ」


 何かを言いかけては止めていたバーニィはいきなり話題が変わったことに気落ちした。彼は今日一大決心をしていたのだが、その胸中を開陳するタイミングを計っていた。


「そんなことしなくても大丈夫よ。もしそれが成ったとしたらあんたの家は取り潰されてしまうわ。お嬢様はお小さいけれど本当に聡明な方よ、貴族である意味と義務とその勇気をもうお持ちでいらっしゃるわ」


「そう、必要なのは勇気、勇気だ、タイミングなんてのはただのいい訳だ」

 

 6歳のシルヴィア様だってそのときの覚悟をされていたという。それに比べればなんてことはない、バーニィは目を閉じて集中した。息を整え、覚悟も決める。鈴の音のような音も聞こえたが集中が足りてない証拠だ。彼は長年温めていた思いを今日こそ告白するって決めていた。


「ア、アンジェ!! 僕は君が!!!」


 決死の覚悟を決めて目を開いた彼の前に彼女はいなかった。見れば視線の先に駆け出しているアンジェリカの姿が見える。


「ごめーん、今の鈴はお嬢様がお目覚めになった合図なの! 急いで向かわなきゃいけないから話はまた今度ね!」


 がっくりとうなだれたバーニィは膝から崩れ落ちた。やはり暗黒騎士の称号など何の役にも立たなかった、心を鍛えて彼女を護る強い男になるつもりが、この様である。


「ユウの所で鍛え直した方がよかったかな……」


 彼の呟きに答えたものは誰もいなかった。





楽しんでいただければ幸いです。(汗)


何とか今日中に最後の後日談を上げますんで許してください。


暗黒騎士試験はレンジャー訓練みたいなもんです。あれをもっと酷くしたようなものと考えいただければ。選抜というより落とす事に主眼を置いた試験です。

 バーニィがその試験を通ったのは、彼が全くもって異常だからです。主人公がバーニィを滅茶苦茶評価するのは、異常は異常を知るからです。

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