自重しないスキル取得
バグチートとチートスキルが噛み合うとヤバいという話です。
さて、スキルの取得である。
以前にスキルを取って遊んだのはもう大分前になるから詳しく覚えていないんだよな。
確か体系別に区分けしてあったと思うんだが、記憶は曖昧だった。
「ここで私の出番ね!」
リリィが自信満々に割り込んできた。まあ、自分ではどうしようもない問題だから、彼女の力を借りておこう。
ステータスが書かれた半透明の板を開いた彼女は手馴れた手つきで『取得可能スキル欄』と書かれた場所を探し当て、俺に見せてきた。しかしいつ見てもこの理屈はわからんな、魔法とも違うようだし一体どうなっているんだか。
「基本的にスキルは戦闘系、補助系と生産系で分けられるわ。もっと細分化すると職業ごとに細かくなっていくの。職業ってのはステータスの上のほうにあったやつね。今は”村人”、初期スキルってやつ。なんにでも転職できるけど何にも大成できない職ね。レベルが上がって転職できるようになったらみんなさっさと基本職に転職してるの。その上に上級職、最終職とあるんだけど……最初から殆どのスキルが選べるね………やっぱバグってるわ」
「それはいまさらだろ。さて、何を取っていったもんかね」
転職についてはある程度知っている。教会の専売特許で、彼らだけが行えるとされている。転職するには神殿に赴き、さらには多くの金貨が必要だということも。しばらくは縁のなさそうな話である。
スキルは正直全部取ってもいいのだが、ゴチャゴチャしてはそれはそれで面倒だ。自称スキル博士のリリィ先生に聞いてみよう。凄い語りたそうにしていることだし。
「まずは、基本スキルから網羅すべきね。戦士系は必須、盗賊のスキルもダンジョンアタックにはかかせないから取らないといけないよ」
言われたとおりにスキルを見てみる。樹枝状に職業から取れるスキルが一覧化されていて、とても見やすかった。職業スキルをあげると新たに取得できるその職業専用スキルが現れるんだそうだ。それを手に入れるのにさらにスキルポイントが必要になるのか……必要ポイントが多すぎる気がする。
スキルが才能の発露と呼ばれる理由なのかもしれない。たとえレベルがあってもそのクラスレベルに応じたスキルが手に入らないことも結構あるそうだ。――俺は関係ないけれど。
そもそも誰もがこうやってスキルを得られるとはとても思えない。俺は相棒の不思議な力でやれているが、普通の連中はどうやっているんだろう。いつか誰かに訊ねる機会があればいいのだが。
戦士系のスキルは剣術と槍術、それに盾系のスキルだ。補助効果としてHPとSTRの上昇スキルがある。リリィに教えてもらったとおりに半透明の板(リリィはウィンドウといってたが、これ窓じゃないだろう)を軽く押す。まずは剣術スキルだ。レベル1の取得に必要な消費ポイントは5か。ポイントはあるし一気に取れるだけとっておくか。消費が5ずつ上がっていって、合計75ポイントで剣術レベル5にしてみよう。
何も変化がなかった。数値が減ってれば解りそうなもんだが、こういうときは不便だな。
仕方なくリリィにステータス画面を見せてもらうと、しっかりとスキル欄に剣術レベル5の表記があった。良かった、成功だ。一応生身で試すのは初めてだから少しだけ不安があった。
リリィは俺のステータスを覗き込んで何故か難しい顔をしている。
「確か昔いた伝説の勇者の剣術レベルが7だったのよね……一瞬でもうレベル5になってるとは。バグ放置とかマジ怖いわ~」
一気にレベル6まで取得するには105ポイント必要で、最大値が99のままでは取得は出来なかった。
より正確にはリリィが止めたのだ。彼女曰く、バグを最大限有効活用するために不用意な行動は慎むべきだと。もしかしたらこの不具合が正常な状態に戻ってしまい、初期値の3ポイントに戻ってしまう恐れがあるといわれては従うほかない。
今から通常の新人冒険者をやっていては借金が膨れ上がるだけである。
その後はリリィと相談しながら手当たり次第にスキルを取得した。いまさらながらにスキルの膨大さに驚かされる。料理のスキルや、裁縫のスキルまであった。才能や能力をスキルで表しているから、冒険者だけでなく市井の人々にとって重宝するスキルも多かった。当然二つとも手に入れた。料理と繕い物は大事だからな。
何の役にと思われるかもしれないが、料理はいつかするであろう夜営などで役立つだろうし、大怪我を負った時に傷口を縫合する時に絶対に必要だ。こういうのはへたくそが行うと傷が悪化するからな……何故記憶がない俺がこんな事を考えているのか不思議だ。
そのとき、リリィの視線がある一点にとまった。心なしか目が光った気がする……。
「この<目利き>のスキル。取っておこうよ!」
「いいけど。俺は商人を目指しているわけじゃないぜ」
リリィの意図が分からない俺だが、彼女には何らかの確信があるようだった。言われるままに商人系の<目利き>のスキルを取ってみる。ステータスのスキル欄にまた新たな一文が加わると同時に、商人スキル欄に新たなスキルが増えていた。
リリィはひどく興奮している。ステータスを見ろと急かす。どうやらスキルを取得すると派生的に追加されるスキルがあるらしく、非常に重要かつ貴重なんだそうだ。追加されたものは<鑑定>というスキルらしい。
「<鑑定>キターーーー!!!」
リリィさん落ち着いてくれ!性格が変わっているぞ。
「<鑑定>よ<鑑定>! このスキルは取得した者が世界を支配するといわれているくらいの超重要スキルなのよ。なにはなくとも鑑定よ鑑定! いますぐ取って! いや取りなさい、これ命令だから!!!」
「わ、分かったよ……<鑑定>は60ポイントか、結構使うな。あ、またなんか増えた」
<鑑定>スキルのさらに派生系が現れた。しかもひとつではなかった。<精密鑑定(金額)><精密鑑定(詳細説明)><鑑定眼(全て)>の三つが新たに現れていた。消費ポイントは最初の二つが35ポイントで最後が50ポイントだった。
説明を求めようと上を見ると、当の彼女は握りこぶしで『勝ったわ……』と悪い顔で微笑んでいた。
俺の知っているリリィはどこかへ行ってしまったようだ。
「ふふふ……三大チートスキルのひとつである<鑑定>……しかも派生込みで完全鑑定。さらに鑑定眼って多分アイテムだけじゃなく全部を鑑定できるやつだわ……よおっし、希望が見えてきたぁ!!
ってユウ! 何してるの! 早く取るの! 全部!! これで借金を返済できる確率が10%くらいになったわよ!」
言われたとおりに3つとも取得する。しかし、あれだけ大喜びしても借金返済の目処は一割くらいなのか……相棒も意外と冷静だな。
しかし物の価値が分かるだけなんて……大事だとは思うが、そんなに騒ぐほどのものかね。
俺の表情で言いたいことが解ったのか、リリィはものを知らぬ幼児に教え諭すような口調になった。
「鑑定の価値を知らないのも無理はないわ。私もいままでは武器や魔法が強さの証だと思っていたもの。でもね私は学んだのよ。ラノベやネット小説でね!! <鑑定>はその汎用性と有効性で最強の一角を占めるスーパースキルよ!!!」
「すまない。君が何を言っているのかさっぱり分からないんだが……」
「くっ。日本人でありながらラノベやネットも知らないなんて……恥を知るべきよ! ユウが日本人と知ってどれだけ喜び、そして落胆したか! ユウには解らないでしょうね……」
初めて会ったころを思い出す。彼女は好きらしいアニメーション(凸凹新画帳をとても進化させたものらしい。講談ものをあわせたようなものみたいだ)やネット小説(同人誌のようなものらしい。リリィは薄い本じゃない!と否定していたが…)の話題を振ってきたが自分にはさっぱりだった。
どこか遠くを見ているリリィ横目に俺はボヤいた。
「記憶がないんだから仕方ないだろう」
そこまで言うならその<鑑定>とやらを使ってみようじゃないか。
不意に自分の視界に小さなウィンドウ(半透明板と言ったら流石に直された。”窓”こそないだろうと思うのだが)が現れているのに気付いた。さっきまで無かったんだが、スキルの取得で現れたらしい。触れてみると不思議とこのスキルの扱い方が解ってきた。
この機能、ひどく便利だ。教本要らずじゃないか。視界に入れて鑑定と念じるだけで発動するらしい。試しに腰に挿しているナイフを鑑定してみる。
普通のナイフ 価値 銀貨3枚
何の変哲もないただの鉄のナイフ。鋳造品。使い込まれており、刃はだいぶ磨り減っているが使用に問題はない。モンスターの解体に最適。特殊効果、追加効果などはなし。
おお。売値まで出ている。確かに便利だ。他にも何か出来ないものかと探していると、不意に強烈な眩暈が襲って来て俺は寝台に倒れこんでしまった。
慌てて飛んできたリリィが俺のステータスを見て原因に気づいたようだ。
「あ。MPが減ってる。状態異常に眩暈もついてる。これはMPの枯渇が原因ね」
喋るのも億劫だったが、この先もあるかもしれないので状況を把握しておくべきだろう。
「いくつになってるんだ?」
「3から2に減ってるよ。鑑定で魔力を使ったみたいだね」
魔力の三割を使用した計算か。倒れこむほどではないはずだが、まあ元が少ないからかもな。
こりゃあ魔法使いのスキルを先にとったほうがよさそうだ。たしか魔力とMPの最大値があがると聞いている。戦士系がHPと力だから逆もありだと思う。
ふらつく頭を支えながら魔法職を探してゆく。あった。基本職は魔法使い、僧侶、精霊使い、呪術使いの4つのようだ。職業の意味はなんとなく解る。少し大きめの村に行けばこの4人が大抵いるものだからだ。魔法使いは生活の魔法を主に、僧侶は癒しと祭事の進行を担当し、精霊使いは豊穣への祈りと天候を占い、呪術は病魔を払う仕事や怪しい薬を調合したりしていた。
とりあえず魔法使いのスキルをレベル5まで一気に取る。消費ポイントは戦士と同じ75だった。すると先ほどまで続いていた眩暈が一瞬にて消えていた。やはりMPが上がれば眩暈は解消するようだ。
ステータスを確認するとMGIが30以上、MPは80もあがっていた。戦士のときも実はHPが50ほど上がっていたのだが、実感がするようなものじゃないからな。
調子に乗って基本4種とよばれた僧侶、精霊使い、呪術使いも一気にレベル5まで上げてゆく。
リリィから聞いたがレベル2で一般的な魔法使い、レベル3で導師級、人に教えられる力量で、レベル4で宮廷に上がれるほどの実力になるらしい。今のレベル5はこの大陸を代表する力を持っているらしいが、実感など湧くはずもない。
職業スキルレベルが上がっても肝心の本人のレベルが1だしなぁ。まあ、これからに期待だ。
MPの上昇効果は魔法使いが一番のようだ。他の職業も上がるには上がるが、それほどのものではなかったが、それでも合計MPは250を超えていた。
これで鑑定が存分に使えるというものだが、なぜかリリィはまた遠い目をしている。
「私のスキルレベルを一瞬で超えられちゃったわ………」
そういえば彼女は精霊使いでもあったな。申し訳ない気分になるが、こればかりは仕方ない。
それよりも気になることがある。どうやらリリィにも鑑定が使えるようなのだ。感覚的にわかるので、言葉で説明するのは難しいのだが。
「リリィにも鑑定が使えるみたいなんだが」
「あ、やっぱりそうなんだ。多分<鑑定眼>のスキルの効果だね。試してみよっか?」
「いいのか? こういうのは親しい奴こそ遠慮したいが」
「まあまあ、私の後でユウのも見せてくれればいいから」
そこまで言われてしまえばやってみるほかない。
リリィ・ユグドラシル
年齢 15 称号 世界を見守る者
スキル
<精霊使いLV4><絶対不可侵領域><隠密>
世界樹ユグドラシルから分かたれた意識の一つ。世界を見守る義務を背負い一人世界を彷徨っている。その権能から万物の記録が収められた書庫の閲覧が許された唯一の存在。妖精の姿をとっているがその実は神の拠り代をベースにしているため、その身を傷つけられるものは存在しない。
誰にも悟られずに行動せねばならないため、隠密スキルを持っているが、それ故に寂しがり屋でもある。
暇潰しにアカシックレコードから様々な書物を読み漁っており、博識だが特にサブカルチャーへの造詣が深い。かなり腐っている。だめだ早く何とかしないと……
なにかとんでもない結果が出たんですが……神とか書いてあるんだが、本当かよ。
すぐ隣でスキル覧を眺めてあーでもない、こーでもないとぶつぶつ言ってる姿からはとても想像できないぞ。
最後の辺りも無茶苦茶気になるが、これをそのまま伝えていいものか……
「どうだった?頭脳明晰とか超絶可憐とか私を褒め称える内容ばっかりだったでしょう?」
「そ、それは……秘密だ」
真実を告げる勇気がでなかった。当然リリィは怒ったものの、俺の鑑定結果を代わりに見ることで納得してもらった。
ユウキ ゲンイチロウ
年齢 75 称号 なし
他の世界からやって来た漂流者。正確にはこの世界に飛ばされた時に力の殆どを使い果たした残りカス。 かつての記憶も全て失っており、あとは力を失い、消えるのを待つだけの存在。他者からの干渉など、外的要因により状況は変化する。この世界に縁を持たない代わりにこの世界の何者にも縛られない。
(あっ、これ……言えない奴じゃん………)
自分を<鑑定>できないのでお互いに<鑑定>を見せ合った格好だが、なぜか気まずい空気が流れている。とりあえず空気を変えたほうがよさそうだった。
「まだ先もあることだし、次のスキル行こうぜ」
「そうね、それがいいわ」
示し合わせたようではあるが、まあ次だ次。
しかし、リリィがどうして<鑑定>をここまで推していたのか理解できた。情報を詳しく得られる優位性は骨身に染みて理解している。いや、覚えてはいないのだが……非常に大事なことはわかる。命にかかわるからだ。
MPの不安もないことだし、他のスキルも一杯<鑑定>してみることにした。
他の魔法系のスキルはおおむね魔法使いと同じだった。呪術に<調合>というのもあったが、薬師や錬金術師でも取れるらしい。錬金術………いずれやってみたいが、化学は苦手だったな。
不意に、見慣れないスキルが目に入った。<魔の心得>というスキルらしい。だが、さっきまではなかったはずだ。系統ごとに分かれていたので魔法系はすべてとってはずなのだから間違いない。
「隠しスキルだわ!! それも発現した人が少なすぎて幻といわれた心得系スキル! 取って! 絶対取って!」
おおう、リリィ先生が大興奮だがスキルは逃げない。まずは<鑑定>してみよう。
魔の心得 消費ポイント50
魔法系の才能を一足飛びに得たものだけが手に入れられるスキル。基本4種の魔法系スキルをレベル4まで一気にあげたものだけが取得できる。魔法職の歴史でもこのスキルを得た者はごくわずかで歴史上で100人にも満たない。
効果: 全魔法の効果を50%増加させる。
: MPを自動回復する。最大値に応じて回復する。
すごい効果だったのですぐさま取った。でもこのスキルって普通取れないよな、いきなりレベル4まで上がることって俺がやった以外で出来るのかね?
「歴史に名を残す大天才とかは初めからレベル5相当までスキルを持っているときもあるらしいわ。多分そういう人材だけが持ってるスキルなんでしょ」
なるほど、そういうこともあるのか。とにかく使えるスキル、しかも威力の底上げは単純に有難い。
その後すぐに新たなスキルも登場する。派生スキルだ。
魔の心得→魔導のしもべ→魔導王→魔を司るもの、というように一気に取得した。ひとつずつ取る形だったので問題なく最大までいけた。
これであらゆる魔法の威力がなんと約4倍になったようだ。さらにMP自動回復機能までついてきた。
さすがに隠しスキルというべきか。先ほどから頻繁に<鑑定>を使用しているせいで、MPの残りが怪しくなってきたところだった。最大値に拠るらしいから丁度いいから確認してみる。
商人の中にあったレベル3スキル<時計>を使ってみた。
これ、リリィは何も言わなかったけど とんでもないスキルだと思う。 時計なんてこの世界で貴族の屋敷の日時計ぐらいしか見たことないし、時間の正確さがわかるというのはとても凄いことなんだが。レベル3で取得できるということは、大商家あたりはみんな持ってるのか。
商人は情報も大事な武器だから吹聴しないのかも。
起動してみると 様々な機能が付いていた。その中には時間を測定するものもあり、これは渡りに船と使ってみる。1寸(分)でMPが8ほど回復した。これがあるとないのでは大きく違うから非常においしいな。
それまで黙っていたリリィが思案顔でつぶやいた。
「魔法系で隠しスキルがあるということは、戦士系でもあってもいいはずだよね?」
理屈ではその通りだ。探してみよう。
先ほどまでは戦士、商人、盗賊しか取っていなかったので解らなかったが、最後の1つである狩人スキルを一気にレベル5まで取得すると、やはり出現した。”同時に取得”という一文が気になってはいたが、まだ大丈夫だったようだ。<戦いの心得>というスキルが出た。
もちろん入手する。 内容は魔法系の正反対の能力で武器や素手の威力が上がるものだった。同じように HPの回復もあるようだ。
戦いの心得→武道の極み→常在戦場→武を司るもの。
こちらも一気に最大まで上げた。同じように威力が4倍、HPが1寸(分)に20回復した。こうしてみるとスキルはポイントの許す限り、一気に上げた方が恩恵は大きそうだ。
自重するつもりは一切なかったから遠慮なしにガンガンあげていく。
増えに増えたスキル欄は雑然としており、分かりづらくなってきた。何とかならないかと思っていたら勝手に整理が行われている。
一体何が起きたのかそれらしいものを探してみると呪術で取った<調合> がここで発動していたようだ。てっきり薬草などの調合をするものだけだ思っていたが、スキルの調合も行われているとは思わなかった。思わぬ副産物を得て見やすくなったところでさらに取得を続ける。
補助系スキルに入った。 戦闘には関係ないが、細々とした生活に必要なスキルや地味に使えるスキルが多い。ここでリリィが注目したのは増加系のスキルだった。俺は当然、彼女の言うままに従う。
<経験値取得アップ>なるスキルが存在した。今スキルポイントを使用してレベルを上げているのは”職業のスキル”レベルで、本人のレベルを上げるためには様々な経験値を積んでいく必要があるらしい。経験値を得る手段は色々あるが、一番効率が良いのは敵の打倒である。(モンスターだけではなく人間を倒しても得られるみたいだ。気絶でいいのか殺す必要があるのかは今は解らない)
だが、敵ごとに得られる経験値は決まっており、その量を増やすことができるスキルがこれらしい。
リリィ先生は満面の笑みと共に、取れといっている。 無論、取れるだけ取った。レベル6まで上昇し、獲得量は16倍になった。
そのすぐ近くに<ゴールド取得アップ>も存在した。 しかしこれが難題で<鑑定>を行ってもよく意味が分からなかったのだ。鑑定によればモンスターがゴールド(金か?)を落とすらしいのだが、野生のモンスターはゴールドなど持ってはいないし、剥ぎ取れるのは素材のはずである。
ダンジョンのモンスターはダンジョンから生みだされるから倒すと塵に還ると聞いている。ドロップアイテムという形で戦利品はあるが。ゴールドなるものは出てこないはずだ。
困った時のリリィ先生だがこのスキルには彼女も困惑顔だ。
「『システム』で確認してみたらこのスキルは誰も取得したことのないスキルらしいんだけど……この世界を作ったとされる神が色々と遺していったギフトのひとつだと思うんだよね。私のカンでは取っておいた方がいいと思う」
”世界の理”に介入するスキルは基本的に貴重だから意味はあるはずだというのかその意見だ。
世界共通の格言である、”経験豊かな下士官の意見に耳を貸さない愚か者はいない”だ。自らを未熟だと思っているのなら尚更だし、リリィを疑って失敗するより、信じて失敗したほうが百万倍マシだ。ポイントの上限までガッツリ手にいれた。
こちらも上限まで取るとレベル6にまで上昇した。計算上では 同じく8倍の効果が出るらしい。
そのとき、リリィがこのスキルを取っておくべきだと言った理由が判明した。
新たな隠しスキルの登場である。二人して顔を見合わせ悪い笑みを浮かべてしまった。
隠しスキルがどういう状況で発生するのか、なんとなくつかめてきたからだ。
隠しスキルの名は<アイテム取得率アップ>だった。素材は野生のモンスターから剥ぎ取るものだとばかり思っていたので意味を知るために鑑定をしてみると、これが隠しスキルとされた意味がわかってきた。
ダンジョンではモンスターがドロップアイテム落とすが確率はかなり低いらしく、それを大幅に上げるスキルだったのだ。ダンジョンに篭もる自分ら向きのスキルだ、喜び勇んで取得する。
このスキルは更に派生し、名称が豪運、激運、最後には<幸運の神ヴィセルの加護>と御大層な名前のスキルに変化した。
「幸運」……自分には一番足りてない数値だな。ステータスで上がらないかな……
どうやらこれでアイテム取得率が75%にまで増加し、最後の加護で良いアイテムがよく出るようになったらしい。よい品質のことを指すのだろうか?
補助系には他にも様々なスキルがあった。その中でリリィがこれは、というのものを教えてくれた。
『収納』というスキルだ。俺の金髪を鷲掴みにして早く早くと急かしてくる。有効なスキルにお約束の高い消費ポイントだったが 、こちらは問題ない。取得し鑑定を行う。
『収納』 消費ポイント 50
異層空間に様々なアイテムを収納可能。収納限界は50KG コマンドから呼び出し、空間をつなげれば収納可能。
これはまた変わったスキルが出てきたな。”命令”から呼び出すとか、空間とか良く意味がわからないが効果は凄そうだ。重い荷物をしまっておけるということなのだろう。
さらにこのスキルは派生持ちで<収納拡大> 、<無限化>、<時間凍結>、<アイテム整理整頓>、<物質解体>の5つのスキルが出てきた。無論ポイントにあかせて全て取得する。すると更に派生が幾つも出てきたのでそれも全部とりきった。すると更にまた派生が……という事が10回以上あったのだが、そこまで行くともう機械的にひたすらポイントをつぎ込む作業と化していた。
その面倒な作業を終えた俺は、実際に道具類をどうやってしまうのかと考えていたら、視界の端に新たなウィンドウが存在しているのが見えた。 名称は<アイテムボックス>とあった。その他にはステータスなども確認できるようだ。
ウィンドウに軽く触れる。すると黒く縁どられた丸い穴が生まれた。始めは片手しか入らないような大きさだったが、これはあんまりなのでもう少し大きなものも入らないかと考えていたら、穴がどんどん大きくなっていった。
まさかと思って試してみたら、自分の望む大きさに変えられるようだ。調子に乗った俺は私物はおろか、この部屋にある一番大きなものである寝台を収納してみた。
流石に持ち上がるか不安だったが、寝台に触れながら収納と念じれば勝手に入ってしまった。
なんなんだこのスキル!! <無限化>とかも取ったはずだから、補給の概念がぶっ壊されたことになるのか?
滅茶苦茶だな。荷物を運ぶ大型馬車とか要らなくなるぞ……。
「ユウ。これはユウのスキルポイントがバグっているから出来るんだからね! 超一流の冒険者だって容量の大きいマジックバッグを持ってる程度だからね」
俺が微妙な表情をしていたからリリィがそう言ってくれたようだ。
事実このアイテムボックスに使用したポイントは派生込みで900を軽く超えており、そう簡単には取得できないはずであったがどうにも釈然としない。
自分でも良く解らないが、あれだけ苦労したのはなんだったのかという謎の気持ちが抑え切れなかったのだ。
失った記憶が関係しているのかもしれないが、気持ちを切り替えよう。今のこの現実には関係ない。
あの不愉快な借金額を考え、これくらいはあって当然と考えるようにした。
更にいくつか有効そうなスキルを取得した後、<武器熟練>というスキルを見つけた。
鑑定の結果、武器の扱いがうまくなるというスキルだった。
その中で気になったのは魔法系の熟練スキルだった。<連続詠唱><多重詠唱><無詠唱><魔力操作>の4スキルはどうみても有効そうだったため、取れる限界であるレベル10まで全て取得しておいた。
他にも<効果範囲拡大>や<消費MP低下>も取っておく。
最後に 生産系のスキルへ入る。<鍛冶>や<錬金術>など様々なスキルがあった中で、気になったものがあった。
他の職業スキルでもみた<調合>や<修理>など重複しているものがあったからだ。試しに取ってみるとその効果も重複していて驚くことになった。<調合>なら、作る速さと品質が上がり、<鍛冶>や<修理>も同じだった。
どうやら先ほど手に入れたスキルの中でも、能力値が上がるものは別で補助系にも存在するようだ。事実<HPアップ>や<MPアップ>、さらには基本職のレベルアップで上がるステータスも重複して存在していた。
迷わず手に入れる。ステータス欄でどういう表示になるのかと思っていたら、<調合>スキルが発揮されたようでスキル名称が(重複)となっていた。
予想外の幸運に驚く中で、リリィだけが冷静だった。どうやら彼女はスキルを探しているようだ。
3大チートスキルのうちの最後の一つらしいのだが、これは人により変わってくるらしい。
リリィが言うには、探していたスキルは本来ならば盗賊系が持っているはずのスキルなのだが、存在せず困っているようだ。
二人でこれはと思えるスキルを探していると<地形把握>というスキルが目に入った。地理の情報の有無は戦略に大きく寄与するから有効だな、と思って取得すると相棒の探し物もどうやらこれだったようだ。
消費ポイントは60ポイント。高いポイントほど優秀なスキルだと考えられる。
さらには派生スキルも現れ、<マッピング>、<気配探知>、<敵味方感知>、<アイテム感知>、<罠感知>ともちろん全て取得した。
名称が<マップ>に変化している。<鑑定>の結果も周辺の地図作成とあり迷宮でも使用できそうだ。 実際に運用しようとしてみたら、ステータスやアイテムボックスのあるウィンドウにマップという項目が増えていた。
軽く振れてみると周囲の地図が自分中心にあらわれた。すぐ近くに味方と思われる青い点、街の外と思われる場所に赤い点が多く見られた。モンスターと思われるから敵の意味だろう。街中には灰色の点で占められていたから多分中立だな。一番近い中立の点はこの宿の中に2つあった。間違いなく宿の主人である老夫婦だ。
さらに先ほどまでいた冒険者ギルドを探してみると、この宿からギルドへの経路が地図上で光って表示されている。これも随分と便利なスキルだ、取っておいて正解だな。
使い方が大体理解できたところで、開けていた跳ね上げ窓からの日光が夕陽に変わっていることに気づいた。
かなりの時間が経過していたようだ。これで主だったスキルは取得したと思う。職業は基本職だけだが、上級は本人レベルが必要だから仕方ない。
だが、神殿でしか行えないという『転職』スキルは手に入ったからレベル次第でいつでも変更可能だった。
今日はこれから人と会う予定がある。手に入ったスキルを早速活用しながら、待ち合わせの場所に出かけることにした。
取得したスキル一覧は後でまとめて載せます。