奈落の底から 11
お待たせしております。
「もう最悪だ。どうしてこうなっちまうんだよ、これだから女は嫌なんだ」
玲二が机の上に頭を突っ伏して盛大に愚痴を垂れている。俺の反対側に座った如月と俺が呼んだバーニィがそんな玲二を慰めていた。
キルディスでの一仕事を終えた俺とユウナはアルザスの屋敷に戻ると、ほぼ同時に日本から帰還した皆と再会した。妹達や娘は興奮冷めやらぬといった満面の笑顔だが、ただ一人玲二だけが戻ってこない。日本で別行動だったせいでレイアや如月も玲二の行動を詳しく知っている訳ではなかったので俺が彼を迎えに行き、かなり切羽詰っていた彼等を捕まえて帰還した。
そして人心地ついた玲二がこうやって机に体を投げ出して現状に対する文句を言い始めたのだ。
「ちくしょう、何で俺ばっかりこんな目に遭うんだ。日本に戻って6時間も経たずに女絡みのトラブルが向こうからやってくるんだぞ。俺にどうしろってんだよ」
「それはまた……凄いね。どうしたらそんな事になるんだよ」
玲二とは気安い友人であるバーニィが水を向けたが、詳細は話したくないのか彼は言葉を濁した。
「玲二はこの世界に呼ばれるまである面倒事に関わっていたんだが、それが追いかけてきたんだよ。いや、現在進行形だったと言うべきだな」
「現在進行形? 玲二と出会ってからそろそろ半年近くなるけど」
「俺も向こうに行って驚いたぜ。まさか召喚された瞬間から時間が1秒も経過していなかったなんて想像もしてなかった。でもよく考えてみればヒントはあったな。こっちじゃ冬なのにユウキが気温が高いって言ってたし、rainの既読はついてもそれ以降のチャットが来なかったしよ」
あいつ絡みのトラブルなんてすっかり忘れてたってのに、戻って早々に巻き込まれちまったとぼやく玲二だが、こいつも反省すべき点はある。こっちでユニークスキルや魔法を覚えた事で大抵の問題を力で解決できると踏んだ玲二は巻き込まれた先で大立ち回りをやらかしたらしい。因みに俺はそれを怒る立場にはない。何故なら玲二の側には相棒がいて彼を大いに煽ったという頭が痛くなる現実があるのだ。
「いや、異世界帰りが日本で無双するのは太古の昔から定められた大正義だから。これは自然の摂理、私は何一つ間違ってないし。あ、これおいし~」
相棒が酢豚に入っている甘い果実だけをひたすら狙って食べ続けていた。
俺とユウナは夕食がまだだったので玲二が日本でこさえてくれた中華料理を<アイテムボックス>から出して頬張っている最中だ。玲二自身が得意料理というだけあってその味は絶品だし、<料理>スキルも手伝ってか箸が止まらん。最近は娘や妹に強請られて料理する機会が増えたが、やはり玲二には到底敵う気がしない。
「れーちゃん、くたくた? シャオはとーちゃんやユキちゃんにぎゅーしてもらうとげんきでるよ」
風呂上りでほかほかのシャオが力なく倒れ伏している玲二に駆け寄るとその体を抱きついた。
「ああ、マジで癒される。いっそロリコンになっちまえば女共は俺の周囲から消え去らないかな」
何かとち狂ったことを言いだす玲二は本格的に参っているらしい。
「お前の女難は筋金入りだから無理だろ。学院の方だってお前が休んでて女性徒に騒がれているとエリザから聞いてるからな」
「そうだよ、学院休んでる場合じゃないんだった。闘技大会の実行委員だって放り出しちまってる。ああくそ、本当になんでこんなことになっちまったんだ」
「ごめんなさい、わたしが行きたいっていったから……」
俺の言葉に玲二は顔を上げたが、それを聞いた隣に座っているイリシャが責任を感じたのか謝っている。
「いや、イリシャのせいじゃない。全部あいつが悪いんだ。何もかもあの疫病神が悪い、思えばあいつと出会ってからずっとこんな感じだったんだ。俺の仕事がバレたのもあいつがバイトさせろと脅迫してきたからだし、マジで全部あいつのせいだわ。イリシャは何一つ悪くないからな」
「聞いた限りだとレイが状況を更に悪化させたみたいだけど」
会話に参加したのはシャオを風呂に入れてくれた雪音だった。彼女は一度も日本へ戻ることなく俺がキルディスに送り込む大量の物資の手配をセリカとエドガーさんと共に手伝ってくれていた。
雪音に最も懐いている娘は抱きつく相手を玲二から彼女に変えている。彼女は突撃してきた娘を慣れた手つきで抱き上げると空いている俺の隣の席に腰を下ろした。
「俺のは正当防衛だ。問答無用で襲い掛かってきたのは相手側だっての」
「魔法を使って10人以上を一瞬で叩きのめしたのでしょう? それで更に厄介な相手を呼び込んだのだから、自業自得でしょうに」
「俺だってあんな連中が本当に実在するなんて想像してなかったぜ。あんなんマンガや小説の世界だけだとばかり思ってたよ」
「その最たるものに私達は今いると思うのだけど」
「くそ、異世界召喚を目の当たりにするとなんでもアリだと思えちまう。それもこれも原因を作ったのは全部あいつじゃねえか」
ひとしきり俺が先ほど保護してきた玲二の連れを罵って溜飲が下がったのか、彼も自分で作った料理を食べ始めた。
「俺達だけ食うのも悪いし、如月にバーニィも腹に入るなら食えよ。イリシャは……無理そうだな」
「うん、さっき食べてきてもうおなかいっぱい」
日本で最後の食事という事で思い残す事の無いよう詰め込んできたらしく、手をつけたのはバーニィだけだった。
「へえ、これが玲二がよく言っていたチュウカ料理か。独特の味だけど、美味しいね」
「こっちじゃ食材と調味料が手に入らないからな。だけど向こうで材料を山ほど買い込んできたから、こっちでも中華を広めてやるぜ。まずは師匠に御裾分けだけどな」
「そういや玲二お前、ハンク爺さんとハンナ婆さんに何も言ってないだろ。今朝会ったとき玲二の姿が見えないと言われたぞ」
俺の常宿は変わらず”双翼の絆”亭である。ここ数日は北にいるのでその事を伝えているのだが、その際に玲二が顔を見せないと心配されたのだ。
「あ、忘れてた。俺もこんなことになると思ってなかったから、毎日戻るつもりでいたんだよ。寝る前に土産持って顔出してくる。だけどユウキも甘いよな、あんな奴に情を掛けてやる必要なんてないだろうに」
いきなり話題を変えた玲二に何を言いだしたかと思えば、彼の連れに宿を用意してやった事を指しているらしい。俺としては彼を連れて帰る際、少女一人放り出すわけにも行かなかったから世話を焼くのも当然ではあったのだが。
「どうせ俺がしなければ玲二がやってただろ? 早いか遅いかの違いにすぎない」
「俺が? そんなのするわけないだろ」
そうはき捨てた玲二だが、最後の最後でこいつは他人を見捨てられない男なのは解っている。そういう甘さともいえる点を俺は好んでいる。
「まあ、そういうことにしといてやるよ。それより、明日の朝には戻るんだろ? 学院のほうは俺が対処しておいてやる」
日本のことより学院の方がよほど気にかかる案件なのか、玲二は俺の言葉にことさら安堵した顔をしている。
「いいのかよ? 俺は凄ぇ助かるけど、どう考えてもそっちの方が大事だろ? バーニィをこの場に呼んだのはその関係なんじゃないのか?」
「僕もさっき呼ばれたばかりだけど、ユウナさんから大体の事情は聞いてるよ。奈落の蓋が開いたなんてユウキから聞かされなきゃ性質の悪い冗談としか思えないけどね。僕で力になれるのかな?」
「最近はずっと伯爵としての政務ばかりで体動かしてないんだろ。お前好みの戦場があるんだ、見渡す限り敵が蠢いているから、切り放題、暴れ放題だぞ。その顔見れば解るぞ、色々溜まってるな?」
俺の提案にバーニィの顔が喜色に染まった。元々剣に生きる決意を固めていたら当主の兄が栄転で暗黒教団の本部に行ってしまい伯爵の椅子が転がってきたのだ。俺なら逃げ出している所を彼は四苦八苦しながらも何とか続けている。目的意識がはっきりしているからやる気に翳りはないが、どこかで生き抜きさせてやらんとその内倒れかねない感じだったのだ。
ちなみに目的意識とはかれがぞっこんのアンジェラ嬢を奥さんに迎え入れる事だ。国王との約束で名誉回復は為されたので後はバーニィが勇気をだすだけだったりする。
そこへ降ってわいたこの騒動だ。場所はランヌ王国の存在さえ知らない遠く離れた国だ。つまりどれだけ暴れても本国に迷惑がかかる事はないと聞いて彼は乗り気だったし、俺も強力な戦力が増えた事を単純に喜んだ。
キルディスに戦士たちは続々と集まっているが、俺の信頼できる助っ人は何人いても良い。彼の他にも声を掛けるつもりの人物が数人いる。
「準備ができたら連絡するよ。ああ、それと僕と同じくらい鬱憤を溜め込んでいる人がいるんだけど、誘ってもいいかな?」
「クロイス卿か? 領地を数日不在にしても良いなら構わないが……あとそれと、エレーナと鉢合わせしても俺に文句を付けるなよと先に言っておいてくれ。俺は他にも声をかけるつもりなんでな」
「彼は先週店に飲みに来たよ。彼も慣れない領主業でストレス溜めてそうな顔をしていたから、出来れば誘ってあげて欲しいね」
如月がその時を思い出して苦笑していた。随分と酒量が増えたらしいが、果たしてその理由は領主としての疲労なのか、あるいはエレーナの件に関してのことなのかは本人しか解らない事だ。
「敵がたとえ百万匹いたとしてもユウキがいれば一人で片付きそうなものだけどね」
「そりゃ無理だ。今回俺は裏方に徹するしかないんだよ。最初の内は現地の連中を矢面に立たせるつもりで俺は楽しようと思ってたが、実情を見たら手を抜くどころじゃなくなっててな」
王子と王女に食料を乞われて渡した時に判明したのだが、騎士団に後方支援担当を担う人材が居なかった。実際は担当者が居るには居るのだが、王都で別れたきり合流が果たせていなかった。届いていない物資の件も含めて敵の仕業と見て間違いないだろう。
それからは中々に大変だった。俺が物資を積み上げてもどう処理すべきか指示する人間がいないのだ。戦士団は小さな所帯の集合体なので全体を指揮できる人材がおらず(むしろ自分達の分だけ多くせしめるような真似をする)戦士団同士で小競り合いまで起こす始末だった。
王子は陣頭に立って事態を収拾しようとしたが、彼も経験不足の面があった。そもそも騎士団を率いている騎士団長がこの場にいないのだ。王子は団長不在とあって臨時で指揮を取っているが、本来彼は騎士団を動かす立場であって指揮する側の人間ではない。
よくよく考えてみれば王子が騎士団を直卒しているのもかなりおかしい。本当なら皇太子である彼を補佐する経験豊富な将軍やらが全ての指揮権を握っていて、王子はその決断を了承するだけと言うのが正しい形だ。皇太子には軍事的勝利という箔を付ける必要があるだけで、実際に指揮する必要などない。
むしろ手違いでもあって皇太子の経歴に傷でもついたら最悪だし、その場合は王子よりも部下達の方が悲惨な目に遭う。たとえ瑕疵がなくても出世から遠のく事は間違いないだろう。
王子の周辺に若い騎士ばかりなのを不安に思ってそこの所をぼかして訊ねたら、案の定騎士団長である将軍は不在にしているらしい。こればかりは王子が危急の件で騎士団を動かしたので将軍を責めることはできない。
そして当然のように将軍には敵の手が回っており、将軍がこちらに合流を果たすのは不可能だ。運よく王都を脱出できてもその頃にはキルディスの町は周辺を魔物が覆いつくしているだろう。
結局俺が一々指示を出して場を収めるしかなかった。能力的に仕切れそうな奴はいたが、戦士団と騎士団両方へ問題なく指示が出せる責任者と言う意味では俺以外に適任がいなかった。
なので俺の代わりに前線で暴れてくれる助っ人を用意しようと考えたのだ。
「そういえば我が国のSランク冒険者も出ると聞いているよ。冒険者ギルド保有の飛竜で送るらしいね」
「へえ、やはり動かしたか。ライカが動けないって聞いてたから、アリシアしか候補が居なかったんだろうが」
正直言ってこの事態にアリシア・レンフェールドがどれだけ役立つかは微妙だ。その力は単体攻撃力では他の追随を許さないらしいが、今回は数の暴力だからな。最終盤になれば話は別だが、それまでは遠距離専門のライカの方がよほど役に立つはずだ。
「なあユウキ、俺もそっちを手伝った方が良くないか? どう考えても日本のトラブルよりそっちの方がヤバそうだぞ。時間があったから”視”てたけどあんな頑丈な城壁を3重にしてまで備える必要があるんだろ?」
玲二の言葉には日本での厄介事から逃げたい考えが透けて見えた。俺は解っていたので彼の提案を断った。
「大変なのは確かだが、助っ人は呼ぶしお前はお前の面倒を片付けてこい。むしろ俺はお前の案件を手伝った方がいいと思ってるくらいだ。魔物の方は勝利条件が時間切れまで耐えるってことで確定してるから、最悪キルディスに関しては守りを固めれば護りきれるとは思ってる。城壁を3重にしたのにも訳があってな、最初の門は絶対に破られるから、第2門で守らないといけないんだ。3門目は最終防衛線だから抜かれるわけにはいかないしよ」
「え、待ってよユウキ。君が作った城壁なんだろう? そんなのどうやったら抜けられるんだい?」
俺の構想に言葉を挟んだのはバーニィだった。玲二と如月も頷いているが、こればかりはどうしようもない。
「魔物だけが敵って訳でもないからな。味方の中に裏切り者が居るのか確定だから、まず間違いなく門は破られる」
同じような質問を受けたのでこの話は王子にもしてある。騎士団の中にもギルベルツの手の者が紛れ込んでいたのだ、戦士団にいないはずがない。王子はそんなことをすれば裏切り者も死ぬ事になると最初は懐疑的だったが、死ぬとわかっていても人を動かす方法は結構ある。
何らかの脅迫を受けていたり、家族を人質に取られていたら死ぬと解っていても行動に移さざるを得ないこともある。そう告げると王子の目は真剣そのものになった。
「それに厄介なのはもう一つあってな。今日気付いたんだが、押し寄せてくる魔物は冬眠中を叩き起こされたらしい。つまりどいつも腹をすかせている」
餌がない冬を乗り切る為に寝て過ごすのだ。冬眠明けは空腹を覚えているだろう。
「それがどうかしたのか? 腹が減って凶暴になるってことか?」
玲二の問いかけに話はまだ終わってないと手で示した。
「それもある。だが問題は異変を乗り越えた後だ。俺達の戦略は持久戦だから城壁の周囲には魔物が大地を埋め尽くしている事になる。異変の最中はこちらに向かって押し寄せているが、それが終った後はどうなる? 支配から解放された飢えた魔物たちは大人しく来た道戻って巣穴に帰ると思うか?」
「……そのキルディスの町の守りが堅いなら食料を求めて移動するだろうね。そうなると周辺の町や村が狙われる可能性が高いね」
バーニィの堅い声に玲二がはっとした顔になる。そして面倒はもう一つあった。
「それにその頃には魔物同士で共食いが起きている可能性が高い。つまり周辺の村や町に襲いかかるのは共食いを経て新たな力を得た強力な魔物ということになる。この話を聞いた王子や戦士団の長たちは顔を青くしていたな」
グラン・マスターが下手をすれば周辺各国が滅ぶと言っていたのはそういうことだ。俺達はキルディスの防衛だけを考えていればいいが、王子を死地に追い込んだと高笑いしている連中は恐ろしい反撃を食らう事になるだろう。
「さらにもう一つ厄介事があってな」
「まだあるのかよ。もう充分ヤバいのは伝わったんだけど……」
辟易した顔をしている玲二に構わず俺は代際の懸念を口にした。
「120年前にも同じ事が起こったが、その時も大地を埋め尽くすほどの大量の魔物は一体どこからやってくるのか? 魔物の繁殖力は獣の比じゃないが、いきなり数百匹生み落とす訳じゃないからな。となれば答えは一つだ」
「そうか、領域の外から異境の魔物がやってくるのか……これはまずいね。確かに対応を間違えれば国が簡単に滅ぶかもしれない。小国家連合ならなおさらだ」
バーニィが滅多に見せない深刻な表情を浮かべる。それを見た玲二が焦りを滲ませた。
「な、なあ、話しに出た領域外ってってあれだよな? 竜の巣とか秘境とか、ヤバ過ぎてこの世界の人類が版図に加えられていないって奴……」
「ああ、お前とバーニィと一緒に出向いた銀竜が住んでた山脈も人類領域外だ。ああいった場所には結界が張られているから自分から踏み込まなきゃ問題はないんだが、今回は向こうからやってくるだろうからな」
「でも、にいちゃんいるし。だいじょうぶ」
この部屋の空気が重くなったが、それを取り払うような妹の声はいつものように簡潔だったが、それ故によく通った。
「ユウキ様がおられるのですから、何も問題はございません。むしろ我が主の偉大さを知らしめる絶好の機会になると思われます」
「うむ、我等従者の腕の見せ所であろう。我が君の勇名をこの天下に轟かせてくれよう」
これまで会話に参加せず控えていたユウナが自信に満ちた言葉を放つとそれに応じるように部屋に入ってきたレイアが後に続いた。
「二人とも、忘れているようだが俺は今回後方支援担当だ。華々しい活躍とは無縁の場所だぞ」
「我が君よ、お言葉を返すようだが現地の者達では異境の敵に太刀打ちできぬ。精々が周辺の魔物を相手にする程度であろうから、早々に門を閉じて守りを固める他なくなる。そうなれば数十万の敵に相対する我が君の勇姿を目に焼き付ける事が出来るというわけだ」
それはすばらしいですね、と従者二人が珍しく意気投合している。
「しっかし、この事件はユウキがいなかったらどうしようもなかったな。食い物用意出来て防壁作れて敵も殲滅できる。あの爺さんがユウキを真っ先に送りこめって指示したのも頷けるわ。マジでなんとかなってるし」
食事を終えてイリシャとシャオを寝かしつけて戻るとバーニィとカードで遊んでいた玲二がしみじみと呟いた。どうやら翌朝まで日本には戻らないつもりらしい。キルディスの件は敵が本格化するまで後数日あるので先に玲二の問題を片付けてやってもいいかもしれない。
「そうだね、ドーソン翁の先見の明が発揮されたと思うよ。どうすればユウキを動かせるのか、見切った上での動きだった。人の上に立つ人物の才能というものを見せてもらったね」
「ただの酒好き爺さんじゃなかったってことか。お、ユウキお帰り。シャオはちゃんと寝た? 今日一日中はしゃぎっぱなしだから途中で電池切れてたんだよ。こりゃ夜は寝ないなと思ってたんだが」
「疲れてたんだろ、爆睡してたぞ。そして疲れてるのはお前も同じだと思うが?」
俺の指摘に玲二は言葉に詰まった。彼も日本で中々に刺激的な生活を送ってきたはずだ。
「まあそうなんだけど。とりあえずこの勝負は勝って終わらせる」
「へえ、大きく出たね、僕は負けるつもりはないけど?」
白熱している勝負の最中に水を差すのもあれなので俺は言葉を続けるのを控えた。するとレイアとユウナがこちらに向かってくる。ユウナから酒の入った酒杯を受け取ると、俺は二人を座らせた。この二人は命じないと俺の前で座ろうとしないのだ。
「して、我が君よ。明日はどうされるおつもりなのだ?」
「玲二の件も気になるが、とりあえずはキルディスの街中に避難所を作ろうと思う。最悪の展開に備える必要があるし、レオンの家族の問題もあるしな」
「街中に避難所ですか? あの町にそのような余裕があったでしょうか。戦士団が泊まる場所さえ用意できないのでユウキ様は外周に余裕を持たせて外壁を作られたはずでは?」
ユウナは常識的な見地から正論を告げてくるが、俺の考えを読み取る事は出来なかったようだ。
「あの町に便利なものが一つだけあるだろ。地下に延々と広大な空間が広がっている実に都合のいい場所が。あそこなら入口は狭いしひとつだけだから防衛という面でも最適だしな」
俺の言葉に合点が言ったらしいレイアが不意に笑い出した。
「はは、ははは。そうか、その手があったか。確かに安全な地下シェルターとしてあそこは申し分ないといえよう。それに我が君は間違いなく世界有数の専門家だ。その事について誰も文句は口にすまい」
豪胆なレイアは笑って受け入れてくれたが、ユウナは唖然としている。常に冷静な彼女にしては珍しい顔だ。
「ユウキ様、流石にそれは……いえ、最良の手段ではあると考えます。ユウキ様以外に実行に移す者は皆無だと思われますが」
「そんなに俺は変な事を言っているか? 使えるものは何でも使おうとしているだけなんだが」
俺が考えたのはレオンの牧場の家畜を動かすなら街中に広い場所が要るなと思っただけなんだが。
「いや、我が君らしいと思う。だが実に素晴らしい。確かにコアが復活するまでの間は魔物が出現しない安全で最良な避難場所になる。だが、よくぞまあそんなことを思いついたものだ。この状況でキルディスのダンジョンを踏破しようなどと言い出すのだから」
楽しんで頂ければ幸いです。
今回は少し本筋から離れて仲間との会話です。
日本編の準備は少しずつ進めていますがまだ先になりそうです。
次回はダンジョン攻略、何故ダンジョンを有していながら寂れた町なのかを紐解いてゆくと思います。
もしこの拙作が読者様の興味を引いて頂けましたら評価、ブックマークなど入れていただくとこれに勝る喜びはございません。何よりも作者のモチベーションが超絶鰻登りになります。更新の無限のエネルギーの元になりますので、何卒よろしくお願いします!




