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世界最強になった俺、史上最強の敵(借金)に戦いを挑む!~ジャブジャブ稼いで借金返済!~  作者: リキッド


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獣神の宮 13

お待たせしております。




 ”獣神の宮”という正式名称が定められたこのダンジョンの攻略は順調に進んでいる。11層からは階段が2つあり、それぞれ難度が分かれていた。俺達は全員一致で高難度の階層を選択したのだが、それでも1日で1層は踏破しているので単純に見れはまずまずの進捗と言えるだろう。

 もちろんただ階段を下りるだけを目的としていれば更に攻略を早める事は可能だが、今回の目的は探索であるので、各層の詳細な地図や各種情報を手に入れつつ先を進んでいる。

 それぞれのパーティーに分かれて分担作業を行っているが、ほぼ全員がダンジョン未経験の素人である事を考えれば早すぎるくらいだ。


 このダンジョンの特徴は現れるモンスターが全て獣系で統一され、更に見上げるほど巨大である事だったのだが、それは低難度を選択した時のみだった。

 高難度はまさにその言葉の通り、全体的に難しくなっていたが……現状はなんとも物足りないものだった。


 当然ながら、油断すると牙を剥く危険な罠などには気を抜くことはない。

 たが、それを差し引いても攻略は順調になっていた。なんというか、なんの変哲もない至って普通のダンジョンになってしまったからだ。道幅が広く巨大な魔物が闊歩するダンジョンのはずが、今は通常の大きさの魔物が出現した。

 これまでより圧倒的に強力な魔物であり、遭遇する頻度も桁違いに増えたがこちらの戦力はそれをさらに圧倒している。

 苦戦らしい苦戦をすることもなくサクサクと敵を塵に還して先へ進む俺達だった。

 

 恐らくこのダンジョンの本筋は低難度なのだろう。敵の数も多くて5体程度だし、中ボスも最後のボスも単体だった。古くから巫女の修業場として使われてきたようだし、試練と称して腕試しにでも使われていたのではないか、と言うのが俺達の見解だった。

 既にそちらは俺が攻略を完了しており、ボス討伐報酬やらなんやらも得ているがそれを御披露目するのは全てが終わってからにしようと決めている。この進捗からすればあと7日もあればダンジョン踏破も可能なのではないかと見ている。


 何故ならば、今俺達は15階層を進んでいるからだ。


「師匠、師匠! 私、日本へ行ったら行きたい所がいっぱいあるんです!」


 前方を歩くライカが振り向きながら俺に元気な声で言ってきた。今日は彼女達と共に探索している。昨日は”緋色の風”の皆と、その前は姉弟子達と、毎日同行するパーティーを変えている。如月は今は姉弟子達と共に進んでいる。向こうも順調だと先ほど<念話>が入った。


「そうか。聞けばそっちには色々伝承が残ってるらしいしな」


「はい、私達の帝都もキョウトという日本の特別な都市を見本に造られたって聞いてます」


「姉さん……」


「あ、でも玲二と雪音に案内してもらう約束してないや。如月さんなら聞いてくれるかしら?」


「頼むなら如月にしとくんだな。あの二人はこっちに来られて清々してるみたいで、日本の事を殆ど口にしない。お前も無理に頼み込まない方がいいぞ」


 一昨日の<ワームホール>の検証の際もあの双子はまったくこちらに興味を示さなかったくらいだ。普段なら俺が何かしてると<念話>で尋ねてくるくらいはするのに一切不干渉だった。

 日本になんか誰が帰るものかという強い意思を感じた。俺も少し聞いただけだがかなり辛い境遇だったみたいだし、俺自身もどうせろくでもない過去がありそうな日本に戻る気など更々ない。


 ないのだが……残念ながら俺の行動を決めるのは俺自身ではない。最高意思決定者である相棒や妹達が行く気満々なのだ。特に二人の妹はとある夢の国とやらに非常に強い興味を抱いており、既に玲二につれてってと約束を交わしているほどだ。玲二も妹達のお願いには宗旨替えせざるを得ず、困ったなと零していたのを覚えている。


 本心から日本になど行きたくはないのだが、きっと俺も二人が心配でついて行ってしまう未来しか見えない。避けられない将来の光景に今から溜息が出そうだ。しかし妹たちが行くのなら虫除けと番犬が要るだろうから仕方ない。

 ちなみに娘であるシャオは除外だ。あの子はそもそも今の状況を良く理解していない。一昨日情報を聞きつけたオウカ帝国皇帝の彩華と凛華がやってきてその話をしたのだが、日本を食べ物か何かだと思っていた。それっておいしいの? と聞いていたから、もう少し大きくなれば状況を飲み込めるだろう。


 当然ながら彩香と凛華も日本に熱烈に行きたがっている。何かあったらどうするつもりだと聞いたら、あのちびっこはお前がいるから何も心配はあるまいと豪語されておられた。あの暴君の中では既に俺がついてゆく事が決定しているようだし、凛華まで深く頷いていた。おい、摂政宮。今のは君が止める場面だぞ、何故共に行く気満々なんだ。ライカやカオルも冒頭の台詞から同行が確定している。厄介な事に二人とも護衛枠ではなく満喫する側なので俺の身代わりにはなりそうもない。



 他にも公爵家令嬢のシルヴィアお嬢様も絶対行きますと連絡が来たし、二日に一度は屋敷に顔を出しているリノアまで乗り気だった。二人とも既に長い付き合いなので日本語を使いこなしているから、言葉解らんから無理だろとも言えなかった。

 どんどん外堀が埋められてゆくのを感じつつ、皆が実に楽しげな笑顔なので、もう仕方ないかと思い始めた今日この頃だ。




「姉さん! 遊んでないでちゃんとやってよ、ここはダンジョンの中なんだよ!」


「なによ、うるさいわね。あんたの叫び声の方がよほど敵を呼びそうだけど?」


 しきりに俺に話しかけてくるライカだが、その声はカオルの怒声によって中断した。


「ユウキさんも姉さんに何か言ってください。少しは真面目にやらないと大怪我するって」


「まあそうだな、カオルの言うとおりだ」


 カオルは苦虫を噛み潰したような顔で俺に言い募るが、こっちの返答は軽いものだった。それに満足できなかった彼女(どう見ても彼女としか表現できない)は憮然とした顔をした。


 まあカオルの気持ちも解る。ダンジョンで誰も到達した事のない階層に足を踏み入れているのだ。もう少し緊張感を持って取り組んでほしいというカオルの意見は尤もだ。俺だってライカに喋ってないで少しは集中しろと言いたいくらいである。


 だが……出来てんだよなぁ、こいつ。


 俺に幾度も話しかけてきていたが、それでも先頭を行くスカウトのシズカとロキの分身体への意識は残しているし、背後への警戒や思いもかけない事故への警戒を怠っていないのは視線の動かし方でわかる。

 雑談を交わしつつ、周囲の状況変化を感じ取り、異変があれば即座に動けるよう準備しているのもわずかに前のめりな重心の位置で読み取れた。


 つまり、色々と問題はあるものの、ライカはれっきとしたSランク冒険者だということだ。これまで大陸の盟主であるオウカ帝国の貴族であることや、かの地のギルマスの”引き”で政治的な思惑でSランク冒険者になったのだと口さがないものから言われてきたライカだが、その地力は極めて高いものであるという事を改めて認識することになった。

 俺といる時はどうして()()なんだよ、と言いたくなるくらいだらけているが、この姿を見ればユニークスキルを持っているからただの小娘がお飾りでSランクに選ばれたのではないと分かる。

 

 冒険者として類い稀な実力を持ち、その上強力無比なユニークスキルまで所有しているから冒険者の頂点であるSランクに推されたのだ。もちろん調子に乗るから口にはしないが。

 

「大丈夫よ、シズカの索敵は間違いないし、私だってちゃんと警戒してるわ。師匠が何も仰らないのがその証拠じゃないの」


「だからってダンジョンで長々とお喋りする必要はないじゃないか。真剣にやってよ。僕だけ真面目にやってるのが馬鹿みたいじゃない」


 ぷんすか怒っているカオルを見たライカは仕方ないわね、と言わんばかりに肩をすくめた。その仕草にカオルが更に苛ついたようだが、この二人はこれがじゃれあいみたいなものだ。

 事実として先行するシズカはこちらを振り向こうともせず前方を警戒して先に進んでいる。心配していないのだろう。


「お。そこの右端、罠だぞ。気をつけて歩けよ」


 俺は何の変哲もない床を指差した。突然の言葉に身を震わせた二人は俺の指し示す先を見て慌てて飛びのいた。


「うわっ、気付かなかった。確かによく見れば石畳がそこだけ変な形ですね」


「でも言われないと気付けないわよ、こんなの」


「あちゃあ、また見逃してしまいましたわ」


 二人が作動前の罠を見て驚きの声を上げているが、そこへ先頭を行くシズカが合流してきた。


「ほんま堪忍やわ、スカウトとして恥ずかしい限りです」


「別にいいわよ。もとより今回の目的の一つはシズカの経験を積む事なんだから」


「そうだよ、シズカには僕たちが安全に進む為にも色々勉強してもらわないとね」


 二人して罠を見逃したシズカを慰めているが、彼女の顔は晴れない。


「これくらい見抜けるようにならんと二人のスカウト失格やわぁ。なんて不様を……」


「いや、この罠かなり見つけにくいけどな」


 石畳の割れ目に巧妙に隠されていたし、何より彼女は都市型のスカウトだ。ダンジョンの罠などを専門とするスカウトとは人種が違う。ダンジョン探索も今回が初めてだと聞くし、責める気はない。正直、このまま進んでも罠を踏む可能性は低かったしな。指摘したのは皆にこんな罠もあると教えるためだった。


「これはなんの罠ですかね?」


「起動させてみるわ、みんな離れて。ほら、シズカも」


「ううっ、了解です」


 俺は喋る荷物の扱いなので、パーティーではライカが指示を出す。普段は俺にべったりな印象ばかり残る彼女だが、元は多くの難関クエストを解決してきた精鋭なのだ。その指示に淀みはない。


 罠の一番簡単な解除法は離れた安全な場所から起動させてみることである。こいつを実行するには優秀な遠距離攻撃を持っている必要があるが、今回は逆に近接担当が一人しかいないくらい豊富だからなんの不便もない。


 ライカが放った光の矢が床の石畳を直撃すると、この場所を中心に通路の半分以上が崩壊した。この落とし穴は更に地下へ突然落とす類の罠だな。


「ここには落とし穴の罠、と。ユウキさん、ちょっと思ったんですが、これってある意味近道になるんですか?」


 それぞれのパーティーがこのダンジョンの地図を作っているので罠の位置と詳細を書き込んでいたカオルが俺に顔を向けてきた。

 彼の問いは落とし穴を落ちれば攻略が早まるのでは?ということだが……難しい問いである。


「有効とは一概に言えないんだよ。俺もウィスカで似たことを考えて実行したが、散々な目に遭った。落とし穴といっても今みたいに下の階層に落ちる時もあれば毒の刃が無数に突き立った床に真っ逆さまってこともあるしな。利用することもできるが罠は基本避けたほうがいい。危険の割に効果があまり期待できないからな」


 これはウィスカの経験だが、落とし穴に敢えて落ちない限りほとんどの場合態勢を崩しているから、落下すると大怪我を負う。頭から落ちれば即死だってありえるし、戦闘不能になってもおかしくない。更に大きな物音を立てるから近くの魔物がうようよ寄ってくる有様だ。

 準備する間もなく敵のど真ん中に落ちるようなものなので非常に危険なのだ。

 俺は敢えて落ちてみた側だが、効率の良い時間短縮とは思えなかった。普通に走った時と大して時間は変わらなかったし、安全第一でやっているのに自分から危険を招き寄せているだけだと感じたので一度試した後はそれきりとなっている。


「なるほど。勉強になります」


 そんなことを掻い摘んで話すと二人は感心したように頷いていた。


「そんな罠にウチはお二人を巻き込んでしもたんですね……」


「いくらスカウトといっても貴女は都市特化型だろう? ダンジョンが初めてなんだからそりゃしかたないさ」


 先程も触れたが、大まかにスカウトはニ種類に分類される。ダンジョン型と都市型だ。都市型は主に都市のスカウトギルドに所属し活動している連中は情報集取や尾行、尋問の手管などを得意としている。ライカの実家で密偵の元締めをしていた家系に生まれたシズカは生粋の都市型だ。

 それに対してダンジョン型だが……今のような罠の探知と解除、宝箱の鍵を開けたり広範囲の索敵を得意としていて、都市型とは本当に人種が異なる。こちらは主な活動は当然ながら冒険者ギルドだ。

 同じ職種でありながらここまで仕事が違うのは珍しいが、どちらも絶対に欠かすことのできない人材だ。強いて言えば都市型はお(いえ)の仕事となっている事が多いな。


「このダンジョンはあくまで気分を味わうためのものだぞ。本業には関係ないんだから空気を楽しむくらいにしておけよ。全てはあの駄犬が悪い。解っていたのに何も言わず通り過ぎたからな」


 肩を落とすシズカに気にするなと伝え、罠の危険度が低いから吠えずに通り過ぎていた駄犬に仕置きをしながら進む。


「みんな、あの駄犬を信用しすぎるなよ? 索敵以外は適当に済ましやがった。あの野郎、今日の夕飯は干し肉決定だ」


「わふっ! わふわふ、わふふん!!」


 それだけは許してくださいと全身で表現する駄犬だが、俺はこいつに甘くない。身内はこいつのあざとさにやられてしまう者が多くてつい甘い判定をくだすことがあるが、俺は別だ。


「言われたことだけやってりゃいいと思いやがって。一度身の程を教え込んだほうがこいつのためだ」


「し、師匠、そんな、かわいそうですよ」


 足元に纏わりつかれてすっかり絆されているライカがなにか言っているが無視だ。駄犬め、誰に媚びれば上手くいくか冷静に見極めてやがる。


「そうですよ、ユウキさん。僕達も見落としてましたし、ここは穏便に……」


「カオル、よく思い出せ。俺はこの駄犬を働かせるのに毎日俺がどれだけ骨を折っていると思ってる。あれだけの報酬を出してるんだ、言われたことをこなすのは当然として、それ以上の仕事をやってのけるくらいして当たり前だ」


 俺の熱弁にカオルも思案顔になるが、この駄犬に毎日肉を3桁以上も焼いてやってるのだ。それだけの手間と時間をかけている事を思い出させると、カオルも深く頷いた。


「たしかにそうかもしれませんね」


「わふっ!? くーんくーん」


 世界の全てに裏切られたような顔をした駄犬が床に突っぷした。耳もぺたりと垂れているが、不意にその耳が立ち上がった。


「ロキ、仕事だ」


 俺が一切の甘えを許さない声で告げるとロキは風のようにこの場から消え去った。前方から警戒を促す吠え声が聞こえてくる。


「敵だわ。カオル、”一式”」


「わかってるよ」


 二人にとって戦いの合図はそれで十分だ。即座にカオルが自らの固有スキルである<重結界>を展開し、ライカが透明な魔法の矢を作り出す。当然ながら透明な矢は視認できないので前方の空間に存在する魔力で俺が勝手に想像したものだ。だがライカの魔力は散々見てきたため、大きく外れてはいないはずだ。


 準備を整え終えた二人の視界に入ったのは大柄な(サイ)だった。異様に発達した一本の角がもたらす破壊力は重装備の大盾使いさえ一撃で戦闘不能に追い込んでしまうほどだという。


 <鑑定>によると名称はギガントシロサイ。数は2体だ。そしてその背後から犬系のモンスターが追随している。名前はアイアンコヨーテだったかな。サイもそうだが、あの犬もアイアンと言われるだけあり硬質化した皮膚は生半可な攻撃は通さない強靭なものだ。合計で10体の集団が俺達の行く手を塞いだ。。


「師匠、やっていいですか?」


「だから俺に聞くな。何度も言ってるが、俺は勝手についてきてるだけだ、全ての判断はお前が行え」


 昨日は”緋色の風”の皆についていったのだが、そこでも弟子のキキョウが一々俺に何故か許可を求めてきたのだ。ライカも同じだったので一々こっちに振るなと強めの言葉を投げないと従わないのだ。

 二人して何故俺の許しを得たがるのか不思議で仕方ない。


 だが何故かライカは攻撃を行わず、突撃してくるシロサイに向けて手を翳したままだ。いつ攻撃するんだろうと訝しげに見ているが、ライカが動く気配はまるでない。


 当然ではあるが、そうこうしている内に敵のシロサイとコヨーテはこちらへ勢いのついた渾身の攻撃を放とうとするが……全てカオルの<重結界>に阻まれて、俺達に怪我はもちろん衝突の衝撃さえ届かなかった。


「相変わらずカオルの<結界>は見事なもんだな。大した強度だ」


「あ、ありがとうございます。ユウキさんからの助言を元に、色々工夫しました!」


 総勢10体の敵がこちらの<結界>を突破しようと悪戦苦闘しているが、展開するカオルは涼しい顔だ。そして<結界>で足止めされている敵は、ライカの攻撃によって全員が一撃で始末されて塵に還った。


 あ、もしかしてライカは俺にカオルの<結界>を見て欲しかったのかもしれない。此処までは敵が現れたらすぐに倒してしまっていたのでカオルの出番はなかったのだ。

 姉の心遣いというやつなのだろう。事実として俺に褒められたカオルはとても嬉しそうな顔をしている。色々と口喧嘩が耐えない姉弟だが、共に苦難を乗り越えて此処まで来ている。なんだかんだ言って仲は良いのだ。


「お見事どす。お嬢の腕はますます冴え渡っとりますわぁ」


 2本の矢で10体もの敵を屠った技量にシズカが感じ入ったように褒め称えているが、その言葉はまったく同感だ。正直俺がもう教える事は何もないんだよな。攻撃の軌道を曲げる事で一本で多数の敵を倒しているのだ。

 今のような縦横無尽の攻撃をライカは最大で4本の矢で行う事ができる。これは彼女の天賦の才と評すべきもので、キキョウはまだ二本を操る事が精一杯だ。

 ただキキョウの才能は魔法の高速起動とその精密さ、それに静寂性だ。彼女は恐るべき速さで誰にも気づかれる事なく魔法を紡ぎあげる。敵と相対し相手が呪文を唱え始めた時には既に消し炭にしていることだろう。優れている方向性が異なっているので互いに劣等感を抱くとかそんな深刻な事にはなっていない。

 ライカとキキョウでは魔法を使用する環境も異なる。攻撃役として全てを殲滅することが求められるライカとパーティーの魔法職として攻撃だけでなく牽制、補助さえこなすキキョウでは立ち位置も違う。そもそもあちらには生粋の攻撃担当であるモミジが、遠距離攻撃は弓使いのカエデもいるから、彼女が行うべきは状況によって様々に変化する。パーティー内の魔法職と言うのは攻撃魔法だけを使っていればいいというものではない。必要に応じて臨機応変に立ち回る器用さが一番必要なのだ。

 そこの所は結構細かく言っておいた。規格外な妹弟子を持ったキキョウは色々と思い悩んでいたからだ。



 この2種類のモンスターがこの15層で出現するのだが、その頻度はかなり高い。俺のドロップ率が上がるスキルの恩恵もあり、相当数のアイテムが落ちている。アイアンコヨーテは鉄の革という鉄なのか革なのかよくわからん甲皮を落とし、サイはあの雄々しい角を落とす。鉄の革は銀貨8枚と微妙な価値だが、初級冒険者にとっては値段のわりに防御力が高いので非常に助かる防具らしく、Aランク冒険者としてギルドへの貢献が求められる”緋色の風”の皆はこれ幸いと喜んでいた。

 確かにあの革で防具を作れば頑丈だろう。金の無い駆け出しは武器には気を遣うが防具は後回しにする傾向がある。それが原因で未来の有望株を多く失ってきたギルドとしては願ったり適ったりの防具になると思う。この層での出現比率はコヨーテが全体の八割を占めるのであまり儲からないが、皆がこぞってコヨーテを乱獲している。

 余談ではあるが、サイの角は金貨3枚の価値がある。これを削って短剣を作ると強いらしい。



 皆と共にダンジョンを攻略するのは俺にとっても随分と楽しいものだった。前回のリルカのダンジョンはどちらかと言うと接待、玲二とジュリアたちのお守りの感覚が強く、気楽に観戦とは行かなかったが今回は違う。ダンジョンにこそ慣れてはいないが、実力者揃いなので戦闘は安心して見ていられる。時たま俺が戦いを代わる事もあり、雑談をしながら悠々とダンジョンを巡っている。

 これぞまさに俺の望んだ気分転換だ。毎朝行っているウィスカの回収作業で詳しく確認してないお宝がついに4桁後半に突入した事は、考えないようにしよう。

 どうせ望みの宝珠は入ってないんだろうし、とりあえず回収だけしておくかと貧乏性が発動したおかげで溜まりまくってしまった。ユウナやレイアが暇を見てせっせと中身を確認してくれてはいるが、彼女達もなすべき仕事があり本当は忙しいのだ。確認する数より毎朝追加されるお宝の方が圧倒的に多いのは仕方のないことだと思う。

 最後の手段としてこのダンジョンを共に攻略しているみんなの助けを借りようかと思っている。俺が何をしているかを理解しているから本来すべき面倒な説明も要らないし、欲しいお宝を一人数個あげるから確認作業をして欲しいといえば参加してくれるのではないだろうか。

 宝箱をそんなに取らなきゃいいじゃねえかという声が聞こえてきそうだが、俺は取れるものは根こそぎ頂く主義なのである。


 だが、そんな確認作業をしているおかげで恩恵もあった。今俺の目の前ではその恩恵が発揮されている。


「この鍵は……相当複雑やわ。専門職やないと開錠は不可能なのでは?」


 シズカが通路奥に鎮座する鍵付きの宝箱を調べながら悔しげに呟いた。


 11層の高難度からは宝箱に鍵がついていた。それも開錠に失敗すると爆発して中身ごと吹き飛んでしまうおまけつきだ。もひとつおまけに開けようとしていたスカウトの指も一緒に吹き飛ぶであろう事は間違いない。


 ダンジョン初挑戦であるシズカはもちろん鍵付きの罠も初見だ。真剣な目で見ていたが、彼女は鍵開けスキルを持っていないのでこれを開けるのは難しい。彼女が持っているのは索敵系と隠密系に特化している。完全に都市型のスカウトで、その能力でこれまで何度もライカを魔の手から救ってきた。


 ちなみにユウナは都市型、ダンジョン型両方を軽々とやってのけるが……彼女は特別なのだ。一緒にしてはいけない。今でもなぜあれほどの女が俺の従者なんぞを嬉々としてやっているのか不思議で仕方ない。



「ダンジョンがどうやってこんな精巧な鍵を生み出しているのか、気になるところだな。だが爆発してお宝と貴方の指が吹き飛ぶのを見たくはない。いつも通りこれを使ってくれ」


 そう言って渡したのはウィスカ31層からちょくちょく出るどんな鍵でも開けてしまう”魔法の鍵”だ。何故か相棒と玲二はこの鍵を”最後の鍵”だと言い張っているが、何で最後なんだ? 始まりの鍵とかもあるのだろうか?

 この鍵は鍵穴式であれば本当にどんなものでも開けてしまう。僅かな熱で非常に柔らかくなり、鍵穴の形に変化して硬質化してしまうのだ。使い捨てアイテムではあるが、危なすぎて表に出せない危険な存在でもある。何故ならこれを悪用して商会の大金庫や王家の宝物庫だって開けようと思えば開けられてしまうからだ。

 この鍵は<アイテムボックス>の肥しになる定めは避けられそうにないと思われたのだが、思わぬ所で買い手が現れた。他人の金庫を問答無用で開けても咎められない存在、各国の最高権力者たちである。

 ランヌ王国の国王はもちろん、隣国ライカールやオウカ帝国の摂政宮である凛華も魔法の鍵の存在を知ると高値で買い取りたいと申し出てきた。開かずの金庫でもあるのかと興味本位で聞いてみたら、不正に資産を溜め込んでいる悪徳貴族や教会関係者の所に押しかけて金庫から連中の財産を回収するのだと息巻いていた。証拠は固めたが、金庫を開ける手段がなくて困っていたらしい。不正蓄財の現場を押さえたいのだという。

 そういう使い方もあるのかと、目から鱗が落ちた気分でその時は話を聞いたのだが、本来はこのように宝箱の鍵を開錠する為に使う。


「ほんにこれは便利なアイテムやわぁ。差支えがなければ売って欲しいくらい」


「欲しいなら売ってもいいが、本気でお勧めしないな。何か事件が起きる度にその鍵を持っている事で真っ先に疑われるぞ? 大抵の無茶をそれひとつで押し通せるわけだからな」


 とりあえずあいつが犯行可能だから犯人だろ、の頭の悪い論理で牢屋にぶち込まれかねない。そしてその程度の悲劇はこの世界ならいくらでも転がっている。

 正直、持っている事で得られる利益と不利益の均衡が釣り合っていないのだ。こんなもの、高い金で買ってくれて、後腐れなく使える王族に売り払ってしまうのが一番だ。


「確かにそれは怖いわぁ、くわばらくわばらや」


 そう呟きつつ宝箱を開けた彼女の手が止まる。さて、何が入っていたかな? 高難度になって中身もだんだんと好い物が入ってきている。期待できそうだ。



「その小刀はシズカが持っていなさいよ。貴方が一番上手く扱えるんだから」


「いえ、カオル坊ちゃんのいざというときの備えにすべきやわ。ウチは今の獲物で満足していますし」


 ライカとシズカが宝箱から出た魔法効果のついた小刀を誰が装備するかで揉めている。確かにカオルの武器は何の変哲もないただの小剣なのでちゃんとした武器があったほうがいいだろうが、彼の立ち位置からしてその武器を使うかは微妙だ。攻撃参加するより守りを固めた方がいいと思う。

 それ以前に俺がもっと性能のいい武器を持っているので、そっちを渡した方が良い気がしていたな。



「二人とも、騒ぐのはその辺にしておけ。15層も最終局面のようだぞ?」


 俺が指差した通路の先には、大きな両扉があった。明らかにボス部屋だが、周囲にあるのは俺達が進んできた道のみである。これまでの中ボスは他のパーティと合流して挑むような流れだったのだが。


 これはもしや、それぞれの道にボス部屋がある感じかな?


 そう思い姉弟子達と進む如月に問いかけてみるとやはり彼等の先にもボス部屋があったらしいし、キキョウに通話石で尋ねると向こうも同様だという。この層は進んだそれぞれの道にボス部屋が存在するそうだ。


「へえ、それは面白い事になっていますね」


「もしかしたら全部のボスを倒さないと先へ進めないとかもありそうだ。今回はまったく心配ないがな」


 何しろここに挑んでいる者達は姉弟子を除いて全員が実力者だ。どんなボスであれ彼女達が遅れを取るとは思えない。



「じゃあ、お待ちかねのボス戦だ。みんな準備はいいな?」


「はい、師匠!」「大丈夫です」「問題あらしませんわ」「わふっ」


 皆の気合の入った声を受け、俺達はボスに挑むのだった。




 結論として15層は3つのボス部屋を全て突破しないとその最奥にある地下への階段がある小部屋の扉が開かない仕様だったのだが、ボス戦自体は……ひどくあっけなく終了した。当たり前だが、この面子が強すぎるのだ。


 俺達が挑んだボスはアイスウルフと呼ばれる狼の集団だった。巧みな連携を取る上に指揮個体は氷属性の魔法まで使うというまともに戦えば苦戦は免れない相手だが、どんな攻撃もカオルの<重結界>を突破する事ができずにライカの攻撃で残らず塵に帰った。


 エレーナの所は大きな虎が襲ってきたそうだが、飛びかかってきた相手にリーナの魔法が後の先を取る形で決まり、こちらも一撃で始末を終えた。本当にボスなのだろうか……いや、二人が強すぎるだけに違いない。


 そしてキキョウ達の遭遇したボスは……何というか変な奴だったという。巨大なでぶ猫が大地に寝そべってお供の狼達に命令を下していたとか。そのでぶ猫は攻撃魔法から補助まで様々な魔法を駆使してくる難敵だったそうだ。確かに一番時間が掛かっていたのは彼女達だったが、戦い自体は楽勝だったみたいだ。


「キキョウ達も片付いたか」


「はい、お待たせしてしまいました。申し訳ありません」


 誰一人として怪我することなくボスを打倒して姿を見せた彼女達を俺は出迎えた。時間が掛かったのは敵が手強かったというより延々と召喚されるお供の狼の始末を後回しにしていたため、片付けるのに手間取ったそうだ。多いときには最大で20匹くらいまで増えた事があったという。

 今回の目的はこのダンジョンの情報収集なので、ボスの情報を引き出す為にすぐ倒さないでいたらどんどん召喚されて面倒な事になったとか。

 結果として50匹以上の狼を始末したようだが、その分のドロップアイテムも得られたので悪くない戦果だったと聞いている。


「あ、ホントに開いた」


 そのとき、俺達の行く手を阻んでいた扉が重い音を立てて開いてゆく。その先には地下への階段がはっきりと見えた。きっと全部のボスを倒せば扉が開くのではないかという俺の推論に疑念を抱いていた姉弟子の声がした。


 これで晴れて16層へ向かう事が出来るのだが、ここで気になる出来事がもう一つ起こっていた。


「なあエレーナ。地下へと扉が開くのと同時にボスの間の扉が閉まるなんて、結構あるのか?」


「いえ、聞いたことないわね。それにボスの間の扉が閉まるなんて、意味する事はひとつしかないわよ」


 他の皆が地下への階段に視線を集める中、俺とエレーナは閉じたボスの間の扉を凝視していた。ボスを打倒してまだ四半刻(15分)と経っていないが、エレーナの言うとおりこの事実が意味する事は一つだけである。

 

 ボスが復活している証である。


 だが差はあれど大抵のボスは再出現にいくらかの時間を必要とする。ウィスカのボスは1日で復活を果たす。これは非常に早い例として知られ、かのダンジョンが世界屈指の難易度である証の1つとなっている。

 エレーナの知る他のダンジョンでも3日や5日、長いところでは20日かかる所もあるが、倒してすぐ復活するなんて聞いたことがないそうだ。


「とりあえず確認してみるか」


「そうね……って、ちょっと! 出口の扉を素手でこじ開ける奴を初めて見たわ。重すぎて人力じゃ開かないはずなのに……まあユウキだし、驚く方が損なのかもね」


「いきなり失礼な奴だな。って、いるな。復活してるぞ」


 僅かに扉を開けて中を覗き込んだ俺は内部に先程まで戦った狼たちが出現しているのを確かめた。ちなみにボスは入り口に体を向けているのでこちらからは背を向けている形なので、ここから魔法を放てばいつでも奇襲可能だったりする。俺もこれを利用して毎朝美味しくボスを倒させてもらっている。


「じゃあ、こっちも?」


 エレーナ達が出てきた扉も俺が開けてみると、聞いた通りのデカい虎が俺達に背を向けて寝そべっていた。3つ目の扉も同様にボスが復活していた。


「もしかして、無限に復活するボスのなのかしら?」


「その答えは倒して確認しようぜ」


 俺の声に皆が頷きを返し、それぞれが今出てきたボスの間へ再度戻ってゆく。



 その結果、分かったことがある。


「なるほどね、3つのボスを倒すと扉が閉まり、再度ボスが復活するという感じだね」


「つまり、この層はボスを狩り放題ってことですよね!?」


 如月が告げたこのボス復活のからくりを聞いたライカが勢い込んで話しかけてきた。

 俺は現在時刻を確認する。午後3時半前か、15層は踏破したし今日の探索はここで切り上げてもいいだろう。


「ボス周回で一稼ぎしたい人はいるか?」


 俺の問いかけに全員漏れなく手を上げた。大して強くないから簡単に倒せる上、ボスドロップまで狙えるのだから、これを逃す手はない。


 こうして俺達は撤収の時間までボスと戯れる時間を過ごすのだった。



 15層から下の階層はすべて同じ形状をしていた。下り階段の前にいくつかボスの間が存在し、それを全て打倒すると道が開けるようになっていたのだ。ダンジョンはこちらを迷わせるような難解な形状をしておらず、ひたすらに己が力を証明せよと言わんばかりに多くの強敵がこちらの行く手を阻んだ。


 まさに試練のダンジョンと形容するに相応しい”戦いの園”だった。


 しかしこちらも只者ではない。彼女たちは襲い来る強靭なモンスターを容易く打ち倒し、余裕さえ覗かせながら先へ進む。

 これぞ私達が待ち望んだダンジョン探索であると言わんばかりに精力的に攻略し、それから6日で最下層と思われる20層に辿り着くのだった。



 そしてこの獣神の宮と呼ばれるダンジョンの最奥で、俺達は最後の試練と相対することになるのだ。




楽しんで頂ければ幸いです。


遅れました。本当に申し訳ない。まさか2週間も投稿できないとは思わなかったです。


次で楽しいダンジョン遊びは終了し、主人公もリフレッシュしたので現実に立ち返る事になります。


もしこの拙作が読者様の興味を引いて頂けましたら評価、ブックマークなど入れていただくとこれに勝る喜びはございません。何よりも作者のモチベーションが超絶鰻登りになります。更新の無限のエネルギーの元になりますので、何卒よろしくお願いします!



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