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世界最強になった俺、史上最強の敵(借金)に戦いを挑む!~ジャブジャブ稼いで借金返済!~  作者: リキッド


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獣神の宮 1

お待たせしております。




「やっと来た! 待ちくたびれたんだけど!」


 俺がいつものようにウィスカの冒険者ギルドの裏口から中に入ると、待ち構えていた受付嬢のキャシーさんに捕まった。隣にはシリルさんとヘレナさんもいる。ということは窓口がアンジーさんだけになるが、ちらりと視線を向けたが……ウィスカのギルドはいつもの如く閑散としていた。


 いつもはユウナと共に顔を出すのだが、彼女は少し遅れるらしい。すぐに追いつくと連絡があり、俺が先行した形である。



「ここに顔を出すのがずいぶんと遅かったんじゃないですか? 帰還報告はユウナさんから4日も前に受けていたんですけど!」


「こっちも色々やる事があったんでね。()()に不足はなかったでしょう?」


 シリルさんが口を尖らせるが彼女達の望みである甘味はユウナに欠かさず届けさせている。文句を言われる筋合いはないと思うが、彼女達の機嫌が好転する事はなかった。


「そういう問題じゃないのよ。支部ギルドの専属冒険者が一月(90日)近くも顔を出さない方が異常なんだけど」


「そのくせ各地で大暴れするから動向だけはしっかりと伝わってくるし。新大陸からライカールまで、よくこんなに騒ぎを起こせたものですね」


 アンジーさんが呆れた声を出すが、それには俺も言い分がある。


「休暇のつもりだったので、色々遊んだのは確かですがね。騒ぎというか、勝手に周囲が盛り上がってただけでは?」


「貴方が中心にいるだけで話は嫌でも世界規模になってますよ? 総本部から何度もこちらに問い合わせが来るんです。貴方がいるのは此処ではなくライカールだって返しても何度も何度も!」


 疲れた顔をする彼女に俺は手に持っていたマジックバックを渡した。中には彼等への賄賂が入っている。


「はは、そいつはご迷惑をおかけしたようですね。買取をお願いします」


 俺は全く悪びれずに笑顔で返した。こちらが特に何をした訳でもないから、へりくだる必要性も感じない。本当に周囲が勝手に騒いでいただけだ。俺に何をしろと言うのか。


 俺に何を言っても意味がないと悟ったアンジーさんは、諦め顔で解りましたと告げて渡したバッグを手近な机の上に置くと即座に職員達がバッグに群がった。


「鑑定額は金貨5000枚になればこっちは文句はないが、最近露骨過ぎるぞ。少しは遠慮しろ」


 前回はこれなら金貨7000枚は固いだろと思って渡したら実際は6000枚にも満たなかった。いくら俺が賄賂として鑑定額を敢えて低く見積もらせてその差額を懐に入れさせているとしてもやりすぎだ。特に俺はダンジョンのドロップアイテムを卸しているから基本的に新品なので、品の状態が悪いなどの理由で査定額を低くするにも限度がある。魔石なんて等級で買い取り額は一定なんだからどれだけ自分達の懐に入れやがったんだ?


「わーかってるって。ちゃんと帳尻合わせるから心配すんなって」「そうそう、これが露見したら俺達も破滅だからよ」


 当然のことながら俺には何一つ累は及ばない。全て織り込み済みとはいえ一応はこっちが被害者になるからだ。


「ったく。あんまりやりすぎるとこっちも色々と考えるからな」


 既にこっちを一瞥もせず渡したマジックバッグに殺到している職員達に言い放つが、聞いているかも怪しい。処置なしと諦めた俺は彼等から視線を外した。


「じゃあ俺はギルマスに会ってくる。呼び出したんだから、ここに居るよな?」


「ええ、マスターも首を長くしてユウキさんの帰還を待っていたわ」


 キャシーさんの返事を聞いてじゃあ行くかと2階にあるギルマスの部屋に向かうのだが……当然のように受付嬢の4人もついてきた。既に慣れたことなので今更口出ししない。今の受付は職員がやってくれているらしい。客もいないし別に構わないのだそうだ。



「おう、ようやく顔を出しやがったか。随分と遅かったな」


 部屋に入った俺をそう言って迎えたウィスカ支部のギルドマスター、ジェイクは書類から顔を上げて俺を歓迎した。ユウナの兄でもある彼から何度も出頭しろと催促を受けていたのだ。

 俺は急ぐ理由もないので後回しにしていたのだが、暇を見つけてやってきたというわけだ。


「皆にも言われたが、雑事が溜まってたんでね。ユウナからは相談事があると聞いてるが?」


 ジェイクに勧められて俺は近くの椅子に座った。余計な面倒事は御免だぞ、と視線で訴えるが聞き入れそうな空気ではない。さらに俺の両隣を許可も得ず堂々とヘレナさんとキャシーさんが占拠した。人の隣に座るなら一言なんか言えよと思うが、これも既に慣れた光景だ。

 俺が無言で袋から白いホールケーキを取り出すとそれぞれが皿と茶の準備を始めた。その流れるような迅速な動きには呆れを通り越して呆然とするばかりだ。

 俺に断りもなく既に切り分け始めている彼女達の事は視界から切り離した。あちらも甘味を堪能し尽くすまでは俺達のことなど見向きもしないだろう。

 

「ああ、その通りだ。お前がこっちに顔を出さなかった間、ウィスカも色々あったのさ。その事についても話したいが、あのマギサ魔導結社では随分と派手にやらかしたようだな?」


「あのクランには結構世話になったよ。なんやかんやと楽しませてもらったのは確かだが、特にこれと言って俺が何かしたというわけでは」


 リエッタ師の病とエリクシール関係は隠せなかったのでかなりの騒ぎになったと思うが、俺が大々的に動いたことは知られていない。幹部のルーシアとラルフが矢面に立っていたし、ポルカの存在は隠していたから、あいつと行動を共にしていた俺も同じくらい目立ってはいない。あの乱闘騒ぎもその他大勢の一人として捕まったし、ギルド側にその事実が伝わったかどうかも怪しい。

 エリクシール作成も詳細を話せばポルカの事を話す必要があるからクランも詳細は明かしていない。精々が凄腕の薬師がいるとしていた程度だ。


「そんなわけがあるか。どうせお前の事だ、騒動の中心にいて決定的な役割を果たしたんだろ?」


 ジェイクはそう決めつけたように言ったが、あながち間違いでもないから否定する言葉は出なかった。

 言葉に詰まる俺を見た彼はまるで思い出したように尋ねた。


「そういえば、エリクシールは本物だったのか?」


「作り出した薬の名前がエリクシールだったことは確かだ。死人さえ生き返るという噂は大袈裟だったけどな」


「ほ、本当にエリクシールを作ったのか! 伝説の霊薬だぞ!? 実在したのか……だがリエッタ師の危篤は事実だと言うし、それを治すにそれくらいは必要か。よくぞあんなものを作れたな」


「作ったのはクランの薬師だが、材料を幾つか提供したのは確かだ。銀竜の爪は以前手に入れてたし」


 俺の言葉にギルマスは得心したように頷いた。とあることに思い当たったのだろう。


「成程、ランカの時の一件か。銀竜の爪は万病に効くと伝説にあるからな。何が幸いするか世の中わからんな。あの娘は元気にしているか?」


 それは俺よりも幼馴染みのキャシーさんに聞くべきな気もするが、答えられないわけでもない。


「ええ、一昨日会ってきた。忙しそうにしてたから軽く挨拶しただけだが」



 そう告げて俺はヘレナさんを見る。彼女はケーキのクリームを頬につけたまま頷いた。

 おかしい、彼女は本当にこの地方の領主の娘なんだろうか? 他の皆と争うようにケーキを貪る(これ以外の表現のしようがない)様に品格など欠片も見当たらない。


「もちろん元気よ! ”美の館”ウィスカ支店の店長なんだから。あそこなら面倒な男も寄ってこないから天職だっていつも言ってるわ」


 ランカさんとはかつてこのギルドに在席していた受付嬢の一人だ。今はセリカの店の支店を任されていて、受付嬢たちとは疎遠どころか数日おきに顔を合わせている。もちろんその理由は客として赴くからである。当然のように受付嬢は様々な特典を与えられている。


「そうか。それは何よりだ、なにか困ったことがあれば相談に乗ると伝えておいてくれ」


「了解でっす。でもギルマスに話が行く前にユウキさんが解決してそうですけどね」


 キャシーさんがまた無茶を言ってくる。セリカといい、俺に問題を投げれば何とかなると思っている奴が多すぎる。


「俺だって無理なものは無理だぞ。ランカさんの件もまだ解決していない有様だからな」


 彼女自身の問題は一先ず解決したのだが、それに付随して明らかになった大問題は始末に時間を要するのだ。


「そういえば、薬師ギルドの件はそろそろか? ダブルポーションを早いとこお披露目したいんだがな」


「悪いがそれは夏以降に延期だ。ランカさんにもその件で謝ってきたんだ」


「また延期? 前もそんなことを言ってたじゃない。何時になったらランちゃんの復讐ができるのよ!」

 

 ランカさんの事情を知るキャシーさんが不満の声を上げるが、事は慎重を期したほうがいい。やるとなったら一撃で全てカタをつけるくらいの覚悟がいるからな。


「延期するだけの価値あることがあったんだよ。そっちも聞いてるんじゃないか?」


 試すような視線を向けると、シリルさんが何かを思い出したかのように呟いた。


「それはライカールで信じられない量の上質なポーションが生み出されたことと無関係ではないのですね」


「ああ、その話ね。マギサ魔導結社が総力を上げて薬草を集めてたって聞いたわ。それもとんでもない高レートでポーションと薬草を交換したって! 多分その薬師がエリクシールを作ったって評判ね」


 つまり、そういうことなのね? と視線で問い掛ける皆に俺は頷いた。


「手を貸してくれるらしくてな。向こうの準備待ちってわけだ」


 納得顔の受付嬢の皆だが、アンジーさんが俺に聞いてくる。


「そういえば、その大量にあるっていうポーションはお持ちではないんですか? ポーションはどこも余裕が欲しいですから、買い取りしますよ」


「大樽で持ってるから、買い取りに出すにはポーション瓶を用意してくれないと話にならんが、それでもいいか?」


 ポーション類は空気に触れると徐々に効果が薄れてゆく。厳密には違うが、熱湯のようなものと考えてくれていい。だからきちんと密閉できる容器、つまり硝子瓶が大事なのだ。キラービーを倒して蜂蜜瓶を集めてはいるが、この瓶は小さいので数が全く足りていないのが現状だった。

 ポーションもギルドにとっては稼げる品なので欲しいみたいだ。ということで見上げるような巨大な樽を置いてみた。

 二階の床が嫌な悲鳴を上げるのを見て、やっぱいいですと皆は口を揃えた。


「どの道ダンジョン産以外のポーションを出すと薬師ギルドが煩いはずだ。止めておいた方がいいんじゃないか?」


「それはそうですけど、慢性的にポーションは不足するので確保したいのです。ウィスカで使わなくとも他では入り用ですから。今では冒険者の数はめっきり減りましたが、各種触媒と魔石の”生産地”としてこのギルドは地位を確立しつつありますので」


 真面目な顔で変な事を言いだしたアンジーさんの顔を見たが……逆に皆して俺のほうを見る。ああ、そうですか、ダンジョンから”収穫”するのは主に俺一人なんだがな。


「もう、そんな顔しないの。貴方のお陰で売り上げ、貢献度共に近隣諸国じゃトップなんだから。このまま行けば総売り上げでも世界一が見えてくるの。ユウキさんには期待しているんだからね!」


 ため息をついた俺にキャシーさんが謎の応援をしてきた。他の支部でもウィスカが台風の目になっていると聞いてたが、世界一にまでなれそうだとは驚くばかりだ。


「じゃあもっと白金貨の備蓄を増やしてくれ。これでも遠慮して納品しているんだ。そっちが望むならもっと出してもこっちは全然構わないぞ」


「ま、まだあるって言うの!? この30日で既に金貨7万枚以上の品を換金しているのに……」


 唖然として口を押さえるシリルさんには悪いが、<アイテムボックス>の中には魔約定に突っ込んでいないドロップアイテムや魔石に魔法の武具、更には銀塊金塊がごまんとある。表沙汰に出来ない訳あり品を含めればもう自分でもどれだけあるのか把握できていないほどだ。

 一度本気で<アイテムボックス>の整理をしたほうがいいかも知れない。


 それに買い取りではなくジェイクの前で出すべき品もあるしな。


「そうだった。ギルドからの要望だった”癒しの指輪”を渡していなかった。とりあえず今出せるのがここにある15個だ。受領を頼む」


 小洒落た飾り箱に入れた指輪をギルドマスターの前に並べた俺だが、全員が固まっているのを見て首を傾げた。


「おーい、確認してくれって。そっちがなんとしても数を集めろって言ってきた品だろうが」


「あ、ああ。すまん、あまりの事に気が動転しちまったぜ。お前を疑うわけじゃないが、その、本物なんだろうな? ああ、悪い悪い。お前がつまらん嘘を言う人間じゃないのは解ってる。だがな、一日二回もも<ハイヒール>を使える神の力を持つ指輪がこんな数揃ってるんだぞ、俺の気分も察してくれ」


「じゃあどうすりゃ良いってんだ。別に俺はギルドに出さなくても良いんだぞ。これでも専属としての責務を果たそうとこっちを優先してやったってのに、そんな反応されるとは思わなかったぜ。じゃあこれは懇意にしてる神殿にでも……」


「はいはい、ユウキさんちょっと待って。ギルドマスター、ここには丁度良い怪我人がいるじゃないですか。効果を確かめるならその方が……」


 指輪の入った箱を回収しようとした俺の腕を疾風のように隣に出現したヘレナさんが自分の腕に抱え込む。嫁入り前の貴族令嬢がする行為ではないが、柔らかい感触に俺の動きも固まってしまうのは確かだ。そしてこの女はそれを織り込み済みでこういう事をする。自分の魅力と武器を弁えている実に強かな女である。


「ああ。そうだった。ブライトの奴を呼んできてくれ」


 ブライトはかつて元スカウトだった買い取り担当の男である。その目利きはギルドでも3本の指に入るとか酒の席では言っていた。そんなやつがこの場に呼ばれた理由は、奴の右腕にあった。


「ギルマス、一体何の用なんだ? こちとらユウキの持ち込んだブツの査定に忙しいんだがよ」


「どうせ折れた片腕じゃ手際も落ちるだろうが。ちょっとこっち来い、悪いようにはしない」


 ブライトは腕を白布で吊っていた。どうやら怪我をしたらしい。俺は無言で奴に近づくと腕に指輪を近づけて契約の言葉を告げると癒しの指輪は力を発揮した。


「おいユウキ、そりゃ一体なん……あん? 怪我の痛みが消えたぞ! どうなってんだよこりゃあ!」


 治癒した腕を振り回してはしゃいでいるブライトを見ていた俺以外の全員は目を見開いている。この指輪の力はかつて皆に見せたことがあるが、改めて再現された超常の力に驚いているのだろう。


「間違いなく本物かよ! それが15個もありやがる! おい、次回のギルドオークションにはまだ間に合うな?」


「締め切りにはまだ日があったはずです。至急確認します!」


 アンジーさんが部屋を駆け出して行くが、出したいものはこれだけじゃないんだが。


「他にも31層以降で結構面白い魔導具が色々出たから、競売に出せば盛り上がるんじゃないか」


 魔法の絨毯はあれからもう3枚出てきたし、レン国で見つけたような文字通りのアイテムボックスもみつかった。マジックバッグは気軽に持ち運びできるのが利点だが、こちらは大きすぎて不可能だ。しかしその分要領は数十倍以上大きいという特徴を持っている。その他にも色々と興味深い品があるのだが、全部出すとギルドの資金が尽きてしまいそうだ。


「これでも増額申請はしていたんだがな。まさか予算が一月(90日)白金貨1500枚でも足りないとは思わなかった。つくづく想像を超えてくる奴だ、お前は」


 ギルマスは呆れているが、俺に言わせると現状では稼ごうと思えば一日で金貨一万枚、白金貨で言えば100枚はいけるので、15日もあれば到達してしまう額に過ぎない。俺からダンジョンドロップ品を買いたければもっと予算を増やすしかない。




「それで、俺に相談事があると聞いてたが?」

 

 諸々の雑事を終わらせた俺は本題に入る事にした。俺は席を立ってジェイクと向き合ったが、受付嬢の皆は空気を読んでこの場から退出する……なんてことはなかった。普通に俺達の話に興味津々である。

 どうせギルド関係で彼女達に隠し事なんで不可能だから今更気にもしないが。


「ああ、いくつか話したい事がある。だが、まず何よりもこれだ。先ほどクランに言及したのもそれが理由だ。これはどういうことなんだ? 」


 ジェイクが突き出してきた紙を見た俺は思わず絶句した。


 その中にはとんでもない事が書かれていたからだ。


「なんの冗談だ? これは」


 紙は未だに高級品だ。エドガーさん率いるランデック商会が創造品を大量に売り捌いているとはいえ、その品も超高級品だから冗談でやるようなことではない。

 そのはずなのだが……


「よく見ろ、あのリエッタ・バルデラ大賢者がわざわざ署名入りで宣言してる。これは疑いようのない事実だ」


 紙には連絡事項が書かれていた。大分簡素化されていて、文章も外部向けのようには見えない。多分世界中のクラン支部に向けて発された内容だと思われる。


 その中身は……俺がクランの幹部になるそうだ。それもあのギースの後釜として。だが、その後の文言はいまいち要領を得ないな。俺が専属冒険者だから幹部になるのは取りやめると書いてある。


「ユウナ、俺はこれをどう見るべきだ?」


 俺の背後に音もなく現れた従者に問いかける。用事が終わって先ほどこの部屋に現れたのだ。


「基本的には文言の通りかと」


「それだと意味不明だぞ。なぜこんな宣言をする? 永久欠番とはどういうことだ?」


 正直な話、リエッタ師の思惑が読みきれない。かなりおっとりした印象を受ける人だが、マギサ魔導結社の創始者の一人にして7大クランと呼ばれるまで成長させた功労者だ。政治もお手の物のはず。何しろ文字通り年季が違うのだ。


 俺はユウナに聞いたのだが、ジェイクから返事は返ってきた。


「要はお前を囲いたいって話さ。あれだけの力を見せれば誰だってそう思うだろう」


「違います。人を遣ってルーシアに確認を取りましたが、リエッタ師は本心からユウキ様への感謝の気持ちで幹部入りを宣言したそうです。事実として第八席の永久欠番にしたということは総本部が持つ幹部の椅子を一つ永遠に手放した訳ですから、彼等としてもそれなりの重みを以って決断したと聞いております」


 ユウナの言葉は意外なほどの熱を持っており、普段の彼女からは見違えるほどだった。

 だからこそ真相がなんとなく解ってしまったが。


「そうか? 俺はリエッタ師が即決で決めて周囲が止めるのも聞かず強行したって聞いたが? あの人は時たまそういうことをするって有名らしいな」


 俺の脳裏に必死で止めようとするラルフとルーシアを尻目に満面の笑顔で大発表しまーす! とのたまうリエッタ師の姿が浮かんだ。

 非常に有り得そうだ。というか、多分これだろ。


「ユウキ様、兄の言葉は物事の一面しか捉えていません」


 どこか必死なユウナの声を聞きながら、そう言えばユウナはルーシアと仲が良かったなと思い返した。


「大丈夫だ、ユウナ。誤解しちゃいないよ」


 恐らくはどちらも正しいのだろう。リエッタ師が礼として幹部の椅子を用意してくれたことと、俺をマギサ魔導結社に直接的に結びつけようとしたことも事実に違いない。

 あの人の立場なら一つの行動で複数の意味を持たせても何らおかしくない。


 ただ俺にとって幹部の地位は特に何も益をもたらさないが……俺をクラン(家族)に加えてくれたと考えればそりゃ嬉しいねとこっちから礼を言わなくてはならなない。


 元よりどこかクランに属するなら迷うことなく彼等を選ぶ程気に入っている奴等だ。向こうも親愛を示してくれたと考えるようにしよう。

 即座に幹部から下ろしたということは余計な面倒には関わらせないという表明と見ることもできるしな。


 むしろそのためだけに20席しかない幹部の椅子を一つ永遠に減らした事の方が大事な気がする。


 俺がそのように考えていることを知ったユウナが胸を撫で下ろすのが見えた。確かに見知らぬ連中が俺を利用するためにこんなことをしたら地獄を見せてやる所だ。不安に思っていたのかもしれないが、総本部の奴等とは同じ釜の飯を食って酒を飲み、苦難に共に立ち向かった間柄だ。リエッタ師の”子供達”の人となりはよく知っているつもりだから、悪意があってやった事ではないと理解してやれる。


「もう少し喜んだらどうだ? あの7大クランのひとつ、マギサ魔導結社の20席しかない幹部の椅子にお前が座るんだぞ。ギルドの専属冒険者が7大クランの幹部になるなんざ、ギルドの歴史でも最初で最後だろうな」


「そうやって素直に喜んで良いのならあんたは俺を呼び出す理由がない。相談があるんだったな?」


 諦観を抱きつつギルドマスターに視線を向けると、本人も渋い顔をした。ようやく本題に入れそうだ。


「お前のクラン幹部の就任を総本部で問題視する声が上がっている」


「まあそりゃあギルドとクランは対立する関係だしな。だから幹部は形だけにしたんだろうに」


 確かに文句をつける事はできるだろうが、リエッタ師もそれは踏まえて手を打っている。形式上では問題はないはずだ。

 俺は先を促したがジェイクの顔は曇るばかりだ。そっちが呼び出したくせに黙るなよ。


「その、アレだ。お前の事を何も知らない糞馬鹿野郎が、専属冒険者としての資質に問題があると言いだしたらしい。ユウナ、俺に殺気を向けるな」


「何処の誰がそのような妄言を……ギルドマスター、その者の名を。地獄で後悔させます」


 本当は俺が怒るべきなのだろうが、背後のユウナが遠慮なく殺気を撒き散らしているのでこっちが冷静になってしまった。しかし、専属冒険者の資質とは笑わせやがる。


「いつから冒険者はそんなご立派な職業になったんだ? まるで崇高な仕事にでもなったみたいじゃないか」


 そう嘲った俺を見たギルドマスターも鼻で笑った。同じ意見らしい。


「お綺麗な言葉を吐いちゃいるが、連中はお前に嫉妬しているのさ。一年足らずで二つ名を得て、総会でグラン・マスターから直々に名前を出して紹介されたお前をな」


「知るかよそんな事。小さい連中だな、そんな事でしか己の誇りを繕えないのかよ」


 その言葉を聞いて俺は関わるのをやめた。目の前にでも現れない限り、そんな連中に自分の時間を使うのは無駄だ。どうせ他人の悪口を安全な場所から吐いているだけの屑だ。関わったら同じ土俵に落ちることになる。


「まあそう言ってやるな。これはグラン・マスターから内々に来た話でもあるんだが、どうだ? 此処はひとつ誰もが黙り込むような偉業を打ち立ててみるってのは。お前の実力を嫌でも理解すればそんな雑音は消え去るぞ」


 なにもかもあのドーソン翁の計画な気がして来たが、実は俺には全てをひっくり返せる最強手があるのだ。


「もう一つ解決策があるな。俺が専属冒険者を辞めればいい。そうすれば相手は言いがかりをつける前提を失う。これが一番……」


「駄目ね」「論外です」「あり得ません」「絶っ対、ダメ!!」


 俺達の話を聞いていたらしい受付嬢の皆さんが即座に駄目出しをしてきた。

 俺としては専属冒険者である旨味は消えつつある。借金関係は裏の裏まで明るみに出たから後は返済してゆくだけだし、ギルド側が欲しがる触媒などの納品も専属であることとは無関係だ。

 最初の頃はその地位が俺に必要だったが、今となっては形骸化している。助けられた事は確かなので無理に抜けようとは思わないが、こうやって人を責める理由になるなら拘る必要はない。

 そう思っていたのだが……


「マスター! 解っていますね!?」


「ああ、もちろんだ。俺だってこいつが渡す酒は代えが効かん。専属を辞めて打ち切られたら最悪だからな! ユウキ、この件は心配するな。グラン・マスターには俺から言い含めておく。あの方だって専属を辞めると言い出せば泡を食うだろうからな!」


「ああ、よろしく頼むわ……」


 なんか一気に話が片付いてしまった。これでいいんだろうか。


「ユウキ様、先ほどの話の補足になりますが、問題はギルドだけに及ばなくなる気配です」


 一段落だなと安心していた俺だが、背後のユウナが気になる事を口にした。


「どういうことだ?」


「マギサ魔導結社内でも今回の決定に異論があるようです。新大陸の支部においてリエッタ師の方針に公然と異を唱える者が現れたとの情報が」


 いきなりクランメンバーでもない奴を幹部に据えりゃあ文句も出るわな。だがそれくらいならリエッタ師ならどうとでもなるだろう。あの人の存在だけでライカールの総本部の地位が保たれていたわけだし。


 だがユウナの次の一言で問題はそれだけではない事も明らかになる。


「他の7大クランも今朝の発表を受けてそれぞれ非難声明を出しています。特に魔導結社と犬猿の中である”白き鷲獅子(ホワイト・グリフォン)”がユウキ様の幹部就任を認めないと声明を出しました。他に”赤い牙”や”青い戦旗(ブルー・ヘゲモニー)”がクラン会議の開催を申請しております」


「おっ、当然そっちも揉めだしたか。今回のクラン会議は荒れそうだな。面白ぇ、俺もついて行っていいか?」


 いや、なんで無関係の奴が俺達のことに口出しすんだよ。あとジェイク、他人事だと思いやがって、その楽しそうな顔を引っ込めやがれ。


「ユウキ様ほどの御方を味方にするという事はこれまで均衡を保っていたクランの力関係が激変します。当然ながら魔導結社が全てを差配する未来が訪れるわけですから、他の者達の焦りも理解できなくはありません」


 クラン会議が開催されれば魔導結社に対する同盟締結が行われても不思議ではありませんとか言い出すユウナには呆れを通り越して耳から情報を聞き流していた。


 もうどうにでもなれという感じである。絶対に関わってたまるものか、好き勝手に喧嘩でもしててくれ。



「それで、相談事はこれだけじゃないんだろ? ギルマスからは結構前から顔出せと言われてたし、この報せが出たのは今朝だ。他にも用事があるはずだ」


 既に聞く気もなくなっていたが、此処で無視して再度呼び出しを食らっても馬鹿馬鹿しい。厄介事は一度で始末をつけるべきだろう。


「あ、ああ。そうだった、ウィスカのギルドとして話しておきたい事があるんだった。ユウキはウィスカの現状を理解しているか?」


「現状って言うと……20層台でまた派手に冒険者達が死んだって話か?」


 俺の言葉にジェイクは重々しく頷いた。前に20層ボスのキリング・ドールに挑んで数組が未帰還になったことがあったが、それ以来ボス戦での被害は出ていない。

 何故なら俺が毎日の日課で欠かさず奴を倒しているからであり、他の連中がボスを打倒した訳ではない。これまで奴を撃破したのは俺とSランク冒険者のアリシア・レンフィールドだけである。


 そしてこのウィスカに集う冒険者達は俺が倒したボスの間を越えて、21層へと戦いを挑み……


 また盛大に負けたらしい。攻略そのものは24層とかまで行っているそうなので為す術もなく倒れた訳ではないようだが、それでも帰ってこなかったパーティーが続出しているという。


 

「ああ、今じゃウィスカにいる有名所は5組しかいない。一番の腕利きだった”悠久の風”がボス相手に半壊した段階で既に解りきった未来ではあったがな。その分お前の異常さが際立っているが」


「正直、今となっては20層台は嫌がらせ階層に過ぎない。本当の地獄は30層に入ってからだぞ。色々攻略を助けるアイテムを納品していたはずだが、使わなかったようだな」


「本人達に実力があるだけに、お前の世話にはなりたくなかったんだろうよ。それで死んでりゃ世話ないんだがな。とにかく、今のギルドは相当に空気が悪い。本当なら此処まで冒険者が倒れちゃ経営も傾くのが普通なんだが、ウチにはとんでもない奴が一人いるからな。そいつが稼ぎ出す金で今年の総売り上げ部門で世界一を狙えそうなくらいだ」


「そりゃ大変だな。で、俺にそれが何の関係が?」


 俺はいたって無関心だ。ダンジョンで失敗して命を失ったなんて何処にでもありすぎる話だ。俺だってひとつ間違えればその末路を辿るだろう。そうならないために遠距離攻撃で安全第一でダンジョンに挑んでいるのだ。

 それに俺と懇意にしている黒い門(ブラック・ゲート)は生き残った優秀な5組の一つに入っている。だから何も気に止む必要はない。


「これは忠告だ。生き残った奴等、特にアリシアの兄貴のフランツが最近危険でな。強引な手段で仲間を集めている。奴の最近の狙いはお前を仲間に加える事らしいぞ。当の本人がさっぱり顔を出さんから声を掛けることさえ出来ていないがな」


 フランツ・レンフィールドか。確かそこそこ優秀な魔法職だったような。ライルの記憶にはそうあったが、実際はどうなのだろうか。


<ユウキ様とは一度お会いになっています。アリシア嬢がライカ嬢に会いに”美の館”に現れた時です>


<ああ、思い出した。不景気な面をした男だったな。まあどうでも良いが>


 奴は記憶に残すべき男ではない。今思い出したが、またすぐ忘れるだろう。それに俺はこんなどうでもいい些事に関わっている暇はない。

 もっと面白い事を始めるつもりなのだ。


「お前の立ち振る舞いを見れば杞憂だと思うが、気をつけておいてくれ。下手をすればSランク冒険者と事を構える事になりかねんからな」


()()()はこっちだって願い下げだ。だが話は解った、関わらないようにするさ。雑魚に興味はないんでね」


 俺の返答を聞いたジェイクはにやりと口の端を歪めた。


「頼むぜ。お前があいつらを皆殺しにするのは勘弁して欲しいからな」


 関わらないって言ってるだろうが。しかも俺が殲滅する前提で話をするなよ。


「こっちも予定があるんだ。連中のことなんざ知った事じゃない。話がそれで全部なら俺はもう引き揚げるぜ? これから人と会うんでね」


 本当は職員達と飯でも食うかと思ったが、ギルドの空気はそれを許さないほど悪化しているという。相応の土産を渡した俺は引き止められることなくギルドを離れた。

 ちなみに今日の納品額は5008枚だった。結局1000枚以上職員の懐に入った計算になる。そろそろ専属をどうするか、本気で考えた方が良いかもしれないな。




 屋敷に戻った俺は<マップ>に多くの反応があるのに気付いた。


「もう皆揃っているのか。速いな、予定では夕方に集合だったはずだが」


「待ちきれないのでしょう。早い人は私がギルドに出向く時にはもう姿を見せていました」


「エレーナ以外、本格的な攻略は初めてだって言ってたからな、気合入るのも解るけどな」


 屋敷内を進む俺達の先の扉が開き、エルフのリーナが顔を見せた。彼女も楽しげであり、これからの冒険に胸を高鳴らせているのがみてわかる。部屋の奥からはアリア姉弟子の姿も見える。


「あっ! ユウキ、帰ってきたな! 皆待ちわびているぞ、速く作戦会議を始めよう! 腕が鳴るな、実に楽しみだ」


「お、おい、押すなって」


「皆でダンジョン攻略、やってみたかったんだよなぁ……」


 無邪気なほどに笑顔を振りまくリーナに背を押された俺は皆が待つ広間に足を向ける。

 


 こうして獣神殿の秘蹟の奥にあるダンジョン、通称”獣神の宮”の攻略が始まるのだ。



楽しんで頂ければ幸いです。


また一週間かかってしまった。一丁前に不調気味です。

この章は中編でダンジョン探索をしてゆきます。


もしこの拙作が読者様の興味を引いて頂けましたら評価、ブックマークなど入れていただくとこれに勝る喜びはございません。何よりも作者のモチベーションが超絶鰻登りになります。更新の無限のエネルギーの元になりますので、何卒よろしくお願いします! 

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