表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

294/418

魔法の園 17

お待たせしております。



「君の持つグリモワールを譲れといっている。あの至宝は我らが有効に活用すべき品だ」


「さあ、どうしようかな。むしろなぜ初対面の俺が持っていると確信しているんだ? その理由を明かすのが先だな」


 俺はクランハウスの玄関から場所を移動し、とある部屋に案内されていた。

 この部屋をどう評するかは人による。彼らは応接室と呼び、俺は尋問部屋だと思う。粗末な卓と椅子以外なにもない殺風景な部屋だ。

 連中からしたら俺を盛大にもてなしてくれるという意味で応接室なのかもしれないが。



 俺はこの部屋に入るとき、手荷物を預かられている。武器を奪ったつもりなんだろうが、こうなる事を見越して適当に小物を放り込んである、もし奪われても困らない荷物だ。

 むしろ手ぶらだと暗器を恐れて色々探られる恐れもあるが、敢えて手荷物を持ちそれを奪われる事で余計な追求を逃れる手管だ。



「むろん、無料でとは言わんよ」


 俺の問いに答えずにギースは後ろに控えていた二人の男に目配せすると、そいつが卓の上に革袋を置いた。大きさから見て、金貨10枚程度だろう。


「君には夢のような金額だろう。遠慮せずに受け取りたまえ」


「おいおい、せめて中身は白金貨にしてくれよな。ギース君といったな? 後学の為に見せてやる。金で相手を殴るってのは、こうやるんだぜ?」


 俺は懐から見せ金の白金貨の束を無造作に積み上げた。子爵程の人物でも狼狽えた白金貨の暴力的な存在感はただでさえ寒い部屋の空気を更に冷やした。


「に、偽物だ、こんな額、あり得るものか!」


「白金貨だけは偽物が造れないのは有名な話だと思うが、いくら7大クランの幹部様でも知らないことはあるんだな。ああ、だからグリモワールの価値を()()()理解出来ていないのか」


 言外にお前にゃ不似合いな品だよ、となんのことだかさっぱり解ってないのを隠しつつ、上から目線で嗤ってやると、面白いくらい顔色を変えた。

 この兄ちゃん、交渉向いてないな。


「こちらが下手に出ていれば! ならばグリモワールの場所をその身体に聞くほかないようだな!」


「あんたら、そのナリで荒事得意なつもりなのか? 止めとけよ、無駄に痛い思いをすることはないだろ?」


 俺の挑発に簡単に乗った一人が俺に拳を振り下ろすが、直前に俺の手が男の腕を掴み、そのまま握り砕いた。

 顔を顰めたくなるような嫌な音が部屋に響き、野太い絶叫を上げる男。だが俺は砕いた腕を離さず、痙攣している指を1本ずつあさっての方向に折り始めた。


「1本、2本、3本……」


「貴様あっ!」


 もう一人の男が激高して俺に掴みかかろうとするが、これも予期していたので、冷静に躱してそのまま男の髪を掴んで床に叩きつけた。


「ごひゅっ」


 そのまま幾度となく叩きつけると悲鳴さえ漏らさずただ体を痙攣させるだけだ。



「おっ、顔面陥没してるじゃないか。このまま変形手術をしてやろうか? これからの人生は異形の魔物として生きていくといいぞ」


「や、止めてくれ……お、弟を勘弁してやってくれ……」


 なんだ、兄弟かよ。よく見れば似ていた気がする。

 腕と指を砕かれてすっかり大人しくなった男が泣きを入れてきたので、終わりにしてやろう。


 俺は2本のハイポーションを取り出すと、2人にそれぞれ掛けてやる。31層からの外れ宝箱から一度に10本はハイポーションが出るので、今じゃ気軽に使い捨てだ。顔の傷はこっそり回復魔法を使ったけど。あのまま治すと本当に異形の怪物になってしまう。


「お、俺の手が……」「顔の傷が……」


 呆けた顔で治った傷を見ている二人に俺はことさら明るい声で肩を叩いた。


「なんだよ、解るだろ? 洒落だよ洒落! 本気になるなって、こんなの遊びじゃねえか」


 そうだろ? 2人の顔を覗き込んで凄んでやると、腕に自信があったであろう兄弟は揃って俯いた。顔を見れば解るが、この二人は既に無害だ。



「さて、血の匂いのする部屋に連れ込んで、金を積み、そして脅しときた。次の手札は何だ?」


 俺は嗤いながらギースの方を見ると、奴は顔を真っ青にしていた。


 この僅かな時間で行われた暴力の行使に頭が追いついていないようだ。

 これだけでギースが荒事慣れしてないのは分かった。逆に腹の据わったシロマサの親分さんならこれを見ても平然と茶でも啜っていらっしゃるだろう。


「おのれっ、平民如きがっ!」


「打つ手無し、か? 普通ならここで俺の身内やダチに手を回すのが常套手段だが、何の準備もないままじゃこんなもんか。おい、俺への要件は終わりだな? 帰らせてもらうぞ」


 席を立った俺を見たギースは素早く部屋から出ると、状況を遠巻きにうかがっていたクランメンバー達に向かって叫んだ。


「幹部たる”第8席”として皆に命じる。決してこいつをここから出すな! 何をしても構わん、何としてもこの館に監禁しろ、本部統括者命令だ!!」


「……そう命令した本人がさっさと逃げなければもう少しサマになったんだがな」


 誰がお前らの都合で動いてやるか。少なくともギースとの僅かな会話で俺の知りたい事の輪郭は掴めた。

 グリモワールとかいう魔導書を奴は必要としていて、その為にマールを使って俺をこの館に導いたあの素人臭い尾行は本職じゃない魔法クランメンバーの仕業だった。

 俺の質問に答えなかったことからしてグリモワールと俺を結びつける手段はかなりの秘儀のようだ。周りの連中にそれを明かしていなかったことからもそれは解る。


 俺がこの件で何より心配していたのはライルの情報が際限なく拡散する事だ。ランヌ王国の寒村で育った農民を大クランの幹部が何故知っていたのかは気になるが、ライルの実家は家名であるガドウィンを名乗れない(確か家名も売り払ったはず。多分何処かの誰かが名乗っているだろう)から本名で探しても絶対に見つかる事はないと確信出来る。

 最後の手段としてギースの暗殺も視野に入れているが……俺が王都を出てしまえばこの捜索手段も効果を失うようだ。俺がこの王都の来ていることが僥倖だったとか言っていたしな。


 ユウナも既に動いてくれているし、彼女に任せて俺は帰るとしようかと歩き出した俺を先ほどの兄弟が立ち塞がった。


「……おい、なんだそれは」


 兄弟は俺に深く頭を下げていた。


「俺達にはこうすることしか出来ん。あんたには絶対に勝てんと理解した。だが、幹部の命令は絶対だ。どうかこの屋敷に逗留してくれまいか?」


 この通りだ、と更に深く頭を下げる二人に俺は舌打ちした。野郎から拝み倒されるくらいで翻意などはしないが、ギースの野郎が扉を開け放ったままだったのでこのクランの多くの者の注目を集めていた。


 そしてこの兄弟はクランでも慕われていたようだ。そんな、兄ちゃんが……と呟く小さな子供達の姿まで見える。


 男の、兄貴としての面子か……仕方ない。俺も兄貴だからな、妹や弟たちの前で頭を下げる意味を汲んでやってもいい。



 それにこういった厄介事を最近ユウナに任せすぎていた自覚もある。彼女が嫌がらないので俺も気軽に仕事を振っているが、これ以上負担をかけるのもアレだな。たまには俺も自分で動くか。


 そう考えればギースがこの館から出すなと言う命令も色々と俺に利点があるな。どうせこのクラン内に気になっているグリモワールと俺を繋いでいる何かがあるはずだ。きっと魔法的な何かだと思うが、それを調査してみるか。それに相棒が言っていた追放された少年に何か秘密があるならそれを探るのも良いな。


 そう思い直すと、おあつらえ向きにマールとポルカと言う先ほどの二人と目が合った。ちょうどいい。



「いいだろう。お前らの顔を立ててやる。ただし、一番上等な部屋を用意しろよ、それと世話役も寄越せ」


 俺が指であの二人がいいと指し示すと驚いていたが、察しの良い兄弟は俺の意図をすぐに理解した。


「マール、ポルカ。二人は部屋の用意を。引いてはギース様の出した追放命令も一時中断になる。統括者命令は全てに優先するからな」


 表情が輝いた二人は早速駆け出していった。


「「は、はい! わかりました!!」」



 こうして俺のお気楽監禁生活が始まるのだった。




楽しんで頂ければ幸いです。


主人公にとって監禁は最も縁遠い言葉ですのでお気楽監禁生活なのです。


また明日お会いしたく思います。



もしこの拙作が読者様の興味を引いて頂けましたら評価、ブックマークなど入れていただくとこれに勝る喜びはございません。何よりも作者のモチベーションが超絶鰻登りになります。更新の無限のエネルギーの元になりますので、何卒よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ