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魔法の園 16

お待たせしております。



 冒険者クランとは、冒険者たちによる互助組織のことだ。


 冒険者ギルドは主にクエストの受注業務、冒険者のランク付け管理、モンスターの素材やダンジョンドロップアイテムなどの買い取りを行っている。

 端的に言えばギルドは冒険者という体制(システム)を担当しているのに対して、クランは冒険者そのものを助けるために存在している。


 クランに加入する利益は大きい。だから俺の知り合いの冒険者達は大抵何処かのクランに加入している。

 ”緋色の風”は女性のみで構成されているという7大クランの1つ"戦乙女騎士団(ヴァルキュリア)"に所属しているし、クロイス卿は現役引退を表明した今もエレーナと共に"白き鷲獅子(ホワイトグリフォン)"の大幹部だ。クランとは簡単に離れられるものではないし、むしろ引退後の方が活躍する場は増える。領地持ち貴族となった今は更にクラン内での序列は上がっているだろう。


 

 クランではギルドでは受けられないような様々な特典がある。大きなクランになると大抵の都市にはクランハウスが存在し、下位ランクの冒険者は宿泊することも、食事の大幅な割引を受けることが出来る。

 その他にも面倒見の良いクランではパーティーの斡旋、技術指導などもやっているところもあるとか。


 まさにクラン(一門)と呼ぶべき存在だが、利点ばかりではない。不利な面もある。


 まずは一度加入したら自らの意思での脱退や他のクランへの加入は認められていない。クラン(氏族)とは血の繋がりのない家族のようなもの、家族を捨てることは許されないという理屈だ。

 それにギルドとの関係も微妙になる。クランが大きくなる程に様々な物に手を出してゆき、結果としてギルドの領分まで足を突っ込む事になるのだ。

 だがギルドとしても表立ってクラン加入者を冷遇などしないが、内心商売敵と思っているそうだ。


 そして相応の貢献が求められる。具体的には冒険者ランクに応じて会費が取られる。クロイス卿は年間金貨10枚取られたとか言っていた。それ以外の者も等しく何かを提供し、クランを形作ってゆく。


 クロイス卿は負担額に不満がありそうだったが大金を払う彼らの存在があるからこそ、駆出し冒険者が様々な恩恵を受けられる面もある。正に互助組織といった所だ。



 俺が彼等と縁遠かったのは、基本的にクランはダンジョンがある街にクランハウスを置くことがないのと、俺が早々にギルド専属冒険者になったからだ。


 ウィスカでダンジョン攻略をしている最上位冒険者達もその殆どが何処かのクランに所属、というかそのクランの花形、看板冒険者達だ。どれだけ有力な冒険者を揃えるかがクラン間の競争みたいになっている面もあって、俺も最初の頃はかなり勧誘を受けたが、ギルド専属になっていると聞くと潮が引くように去っていった。

 あの時はギルドとクランの間の溝の深さを感じたものだ。その他にも色々と根の深い問題がギルドとは存在したりする。



 無数にあるクランの中でも規模が大きく、有名なのが7大クランだ。

クランの上位7つというわけではなく”7大クランとそれ以外”と区別されるほど他とは隔絶した勢力を誇っている。

 何しろ既存のクランを吸収して拡大を続けたおかげで、どのクランも構成員が数万を超える本当に世界規模の大組織なのだ。新大陸の獣王国の王都ラーテルにも各クランの支部を遠目に見た事があるし、その様は実に活況だった。



 その7大クランの一つ、所属人数が6万人を越すマギサ魔導結社。その名が示す通り、魔法職が多数を占める魔法特化クランだ。

 その本拠地は魔法王国ライカールにあるのは知っていたし、きっと王都にあるのだろうと思ってはいた。


 しかし、俺はその規模を完全に見誤っていた。


 今俺が足を踏み入れた大きな館は、この王都に6つあるクランハウスの一つに過ぎないという。その他にも駆け出しクランメンバーが宿代わりにする宿舎なんかも別にあるとか。こりゃギルドが警戒するわけだわ。ここまでデカいと疑似ギルドになってしまう。


 俺は完全に初めて都会に出てきた田舎者みたいな反応を示し、マールは自分のクランを大いに自慢した。


「どう、凄いでしょウチのクランは。魔法を志す者なら誰だってこのマギサ魔導結社の扉を叩くんだから」


「ああ、確かに凄いな。世界を股にかける大クランの本拠地なだけはある」


「そうでしょ、そうでしょ!」


 まるで自分の事を褒められたようにフードの下で喜びを顕にするマールだった。歴史の長いクランになると、クランハウスで産まれた子供もいるというし、そういう子はクランが実家になるので特に愛着が強いと聞く。この子もその手合いかもしれないな。


「そんな大クランがなんで拉致みたいな真似をすんだよ? 評判下げるぞ?」


「わ、わかんないわよ! 私だってアイツに命令されただけだし! だいたい新参のくせに偉そうなのよアイツ。お母様達が戻ってくればあんなヤツに顎で使われることもないのに……」


 なんだか色々こちらも事情がありそうだが、まず俺は自分の事が第一だ。これほどの組織が何故こんなことをするのか、疑念と興味は尽きない。


 マールと共に大きなクランハウス内に入った俺だが、入ってすぐの玄関広間に人(だか)りが出来ていた。もちろん俺達を待っていた訳ではない。


 どうやら集団が一人に対してなんかやっているらしい、それを周囲の奴らが足を止めて見ているのだ。


「何やってんだあれ?」


「あれは、そんな!」


 俺は隣りにいるマールに問い掛けたが、彼女の顔はフード越しでも強張っているのが解った。




「ポルカ。君を我がクランから追放する! 今すぐ荷物をまとめて出て行きたまえ!」



<追放キターーー!!>


<リリィうるさい。耳元で叫ぶなよ>


 これまで黙って事の推移を見守ってきた相棒が突然大声を出した。<念話>も音量の強弱があって大声はとても煩い。


<だってしょうがないじゃん! リアル追放シーンが見られるなんて激レアすぎるし! やっぱりユウはトラブルに愛されてるよ、ホント退屈しないね!>


<褒められている気が一切しないな>


<褒めてる褒めてる! あ、それとあの追放されそうな子、唾つけといてね。絶対有能だから、これは世界の真理で決まってることだから間違いないし>


<あん? 何の話だよ>


<だから、日本人にユニークスキル、追放された奴が実は使えるスキル持ちってのは確実なの! どうせ追放されちゃうならこっちで貰っちゃえばいいと思うけど……さっきの女の子の知り合いみたいだね>


 先ほどまで俺の隣にいたマールがあの騒ぎの中心に向かい、追放がどうのと言い出した若い男に食って掛かっている。


「ちょっとギース! 何でポルカが追放なのよ! この子はちゃんと義務を果たしているじゃない!」


「”第8席”を付けたまえ、マール。クラン幹部たるこの私がポルカを構成員不適格と見做して追放するのだ。クランは己を互いに高めあう場所だ。成長する気のない無能に居場所はない」


「マールお姉ちゃん、いいんだよ、ギース第8席の仰る事はもっともだし……」


「ポルカ! 駄目よそんなこと。お母様が戻られればこんな事決して許さないんだから!」


 マールが庇っているのは同い年くらいの少年のようだ。若さってのは可能性の塊だってのに見切るのが随分と早いな。あちらさんの方針に口を出す気はないが……俺の件はどうなってんだよ。


「ふん、第2席がおられない今、この総本部を統括するのはこの私、第8席のギースだ。それよりマール、貴様に命令した仕事はどうした? 貴様も不適格者の烙印を押されたいのか?」


 ギースとか言う男に指摘されてマールは慌てて俺のほうを見た。さては今思い出したな? 俺を見て明らかにホッとしているし。


<だね。あれは完全に忘れていた顔だよ>



「あ、あんたに言われた仕事程度は簡単に終わらせてきたわ。あの男を連れてくればいいんでしょ?」


「ほう、お前しか手の空いている者はいなかったから仕方なく命じたが……確かに本物のようだ。混ざり者でも仕事は出来るようだな」


 この男、今どうやって真贋を判断したんだ? こっちの名も姿形も知らない段階で俺を特定し、連れてくるように命じられた理由はなんだ? あの反応からして人違いと言う様子ではないようだが、俺が何者であるかも知らないようだ。


「私はマールよ、その名で呼ばないで」


「事実を口にして何が悪いのだ。だが、今はそれどころではない。マールに免じてポルカは明日一日の猶予をやろう。身の振り方を考えておくのだな」


「ギース! クランメンバーはそう簡単に斬り捨てられるものじゃないでしょう!」


「それは確かだ。規則に転属も脱退も認められないとは書いてある」


「だったら!」


「それと同時に幹部権限による追放は認められている。なによりポルカ自身が納得しているではないか。さあ、これ以上の問答は無用だ」



 視界の端でマールがまだ何か喚いているが、ギースとかいう20代後半の長髪の優男がこちらに向けて歩いてくる。これまでの話でどういう男なのかは掴めていたが、その傲慢さを隠そうともしない目を見て性格はより深く理解した。どうあってもこの男とは仲良くできそうになかった。


 だが、この男の次の言葉で俺の警戒は最大級に高まった。


「君が、ライル・ガドウィンだな?」


<ユウナ! レイア!>


<承知した。すぐに動く!><転移環の使用許可を頂けますでしょうか? ネリネ達を即座に拠点に送り、そちらに合流します>


 俺は従者二人に行動を命じた。このギースは俺の本名を知っていた。


 どうやってそれを知った!? 俺が本名を口にしたのは冒険者ギルドの登録時のみだし、その後の情報の取り扱いはユウナが万全を期してくれている。それに俺はギルド専属で外部に一切情報は出ないし、そもそもライルと名乗ったのは登録初日だけで後はずっとユウキで通してきた。登録用の情報も既にユウナが処理済だし、何処からその名前を知ったと言うのだろうか。

 それにいきなり縁もゆかりもない隣国のクラン幹部から口にされるのは予想外すぎた。それも家名まで把握されていると言うのはどういうことだ? 貴族の証明たる紋章さえとうの昔に手放した貧乏貴族にとって家名は最後の名誉というより恥に近い。ライルの父母も兄達も名前で呼んでいるし、外で家名を口走るとライルは怒られていたほどだ。


「違うと言ったら?」


 俺は疑問で溢れかえる内心を欠片も見せる事無くとぼけてみせた。しかしこの反応はギースには予想の範囲だったようだ。


「いや、君は間違いなくライル・ガドウィンだ。私にはそれを確かめる術があるのだよ」


「なるほどね。魔力で人物を判断しているのか」


 今微かにこの男から魔力を感じた。感覚で解るが<鑑定>ではなかったが、それに近い何かで俺の体の持ち主がライル・ガドウィンである事を確認したようだ。

 くそっ。この件、後始末まできっちりやらないとライルの故郷の家族に累が及びかねない。俺はライルの家族に負い目がある。ライル本人がとっくに死んでいてその体を幽霊が使っている事実は故郷の家族が見れば一発で解るだろう。それくらいにライルと俺の性格は真逆なのだ。もし故郷にライルに似た背格好の冒険者の話が流れる事はあってもそれがライル本人とは思われていないに違いない。

 何としてもこの状況を維持しないといけない。

 

「ふん、一目で見抜いたか。資格保持者として力量は備えているようだな? だが、それは本来我々こそが持つべき品なのだ」


「何のことだ?」


「とぼける必要はない。我等が求める物はただ一つだ」


「だから何の話をしているんだ? あんたは俺と会話をする気があるのか?」


 俺は相手の出方を見るとか、そういう演技無しに本当に意味が解らなかった。だが相手は俺がとぼけていると思っているみたいだ。


「なら単刀直入に問おう」


 そしてギースは意味不明な言葉を口にした。


最秘奥魔導書(グリモワール)はどこにある?」


 なに言ってんだこいつ?



楽しんで頂ければ幸いです。


この通り、ライカール編はクラン編でもあります。これから暫くはクランの話が続きます。


ではまた明日お会いしたいと思います。


 もしこの拙作が読者様の興味を引いて頂けましたら評価、ブックマークなど入れていただくとこれに勝る喜びはございません。何よりも作者のモチベーションが超絶鰻登りになります。更新の無限のエネルギーの元になりますので、何卒よろしくお願いします!

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