表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界最強になった俺、史上最強の敵(借金)に戦いを挑む!~ジャブジャブ稼いで借金返済!~  作者: リキッド


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

278/418

魔法の園 1

お待たせしております。



 商都ラインハンザを領都にもつペンドライト子爵家の屋敷はこの大都市を見渡せる小高い丘の上にあった。


 ライカール北部で最大級の都市であるだけに、人口30万を数えるこのラインハンザは非常に栄えている。爵位こそ下級貴族の子爵であるのに国王に側妃を送り込めるほどの力を備えている、といえば聞こえは良いが、実際はソフィアの母を見初めた前国王の鶴の一声で輿入れが決まったと当のソフィア()が話していた。


 その屋敷に向けて俺を乗せた馬車は進んでいるのだが、ここまで来るのにもいろいろあった。


 なにしろ貧民街にある場末の安宿にこの都市の領主の家紋を堂々と掲げた馬車が止まっているのだ。あまりにも不釣合いな光景に周囲の連中が訝しげに遠巻きに見ており、俺が意識を覚醒した際に妙に人気を感じたのはそれである。


 それに俺も寝起きで頭がよく回っていなかった。執事を名乗るルイスから子爵家の晩餐への招待を受けたわけだが、今の俺の格好はどう贔屓目に見ても晩餐にふさわしい格好ではない。この貧民街の宿に泊まっても違和感ないだけに、貴族様のお屋敷に即座に同行する、というわけにもいかない。

 しかしこの執事、中々に話が通じない。俺を今すぐ馬車へと俺を連れ込もうとするのだ。だがこちとらこんな格好の上、昨夜からずっと甲板に居たので夜通し海水を浴びてきた身なのだ。

 すでに俺の鼻は馬鹿になっているが相当に潮臭いはずで、身支度の一つも整える時間が欲しかった。


 だがあちらとしてもすでに夜も更け、晩餐に適した時間である。これ以上は遅れたくないと言うが、そもそも俺が部屋を出なかったらどうするつもりだったのか。

 そして晩餐に誘うにしても自分の主人にまず話をつけるべきじゃないないのか、など様々な疑問が頭をよぎるが、少なくとも俺を担いだり騙そうとしていない事は解っていた。


 何せこのルイスの身元を保証する奴がアルザスの屋敷に沢山居るからである。


<ジュリアさんの話では真面目な執事の方だそうですが融通か利かないのが玉に瑕との評価です>


<ああ、悪い、情報は俺達からソフィア姫経由で向こうに行ったと思う。少なくとも昨日の夜には目的地が変わる事は話してあったし>


 雪音と玲二がそれぞれ情報をくれたので、何故ここに彼が迎えを出せたのかも理解した。俺の現在地も仲間が教えたかららしい。そういえば大分前に連絡用の通話石をいくつか強請られてソフィアに渡していた。後ろ盾の家と緊急時に連絡を取る為に渡していても不思議はないが、通話石は古代の遺物でどれほど貴重か解っているのだろうか……結構気前よく皆に渡した俺が言えた台詞ではないか。


 結局ごく短時間の水浴びだけ済ませ、着替えは馬車の中ですることになった。非常に面倒だが、状況から察するにきっと子爵家の面々は俺を待っていてくれているのだろう、主のため1微(秒)も無駄にしたくないと思うルイスの言い分も解る。俺が時間も悪いのでいずれまたの機会に、と断れば彼としても一番楽な展開だったのであろう。


 奇異の視線も感じるが、それ以上に厄介事に関わりたくないという空気を放つ貧民街を馬車は出発し、この都市の大通りを抜けてゆく。既に日は落ちてかなりの時が経っているが、魔灯に照らされたラインハンザの目抜き通りは人々の活気で溢れている。


「流石はライカールの北部最大の都市と呼ばれるだけの事はありますね。見事に栄えている」


「これもすべてご領主様の手腕によるものです」


 古臭い外套を<アイテムボックス>に仕舞い込み、俺は衣服を脱ぐと貴族の前に出ても恥ずかしくない格好へと着替え始めた。ルイスに見られているが、減るもんじゃないし気にもならない。


「それでもやはりこの国の王都と距離があると色々問題があるようですね?」


「王都至上主義がいささか我が国は強すぎるようでして、それゆえに大事なものを見逃している事も多いのです。なんとも勿体無いことです」


 俺のかなり踏み込んだ発言にルイスは顔色を僅かに変えたが、執事という分を弁えた回答を返した。


 俺の住むランヌ王国では大陸中央に近い北部こそ至上と考える者が多く、それが北部貴族との軋轢を生んでいるが、このライカールでは南部に位置する王都が最も価値があると見ているそうだ。その考えがライカール王宮でのソフィアの扱いに顕著に出ていたと聞いている。それも含めての()()をするつもりでこの国に足を踏み入れた。


 余所者の俺がそのどちらが優れているかを語る気はないが、少なくともこのラインハンザは北部という地理を生かして大陸中央との交易、そして他国、新大陸との海上交易で巨万の富を生み出しているのは紛れもない事実である。


「しかし、私の提案を受けていただいて安堵しております。主からは決してあなたの眠りを妨げるなと念を押されておりまして、主命が果たせないかと危惧しておりました」


 だからあんな場所で待っていたのか。あの安宿の店主なんて今にも死にそうな顔をしていたぞ。


「もし次があれば叩き起こして頂いて結構です。あの時は断るのも失礼かと思いお受けしたが、今となっては貴家にご迷惑をおかけしている気がします」


 アルザスの屋敷でも仲間たちは既に食事中だ。今日も遊びまわったシャオが昼寝を忘れてしまい、舟を漕ぎながらなんとか食事を続けているという微笑ましい報告があったし、きっと俺のせいで子爵家の皆様をお待たせしている。


「何を申されますか。貴方様が当家にしてくださった全ては言葉では言い表せないほどです。我が主もこの大恩は必ず返さねばと常々申しておりました。その機会がようやく訪れたのですから、迷惑など滅相もないことです」


 これ以上は我が主からお話があるでしょうとルイスは口を閉じた。執事が主の前に必要以上に内容を話すべきではないと思っているらしい。ジュリアの評価通りの真面目さに俺は口元を歪めた。

 俺がソフィア達にやったこと……彼女の命を狙う暗殺者共を残らず始末し、安心して過ごせる場所を与えて魔力の特訓をしてランヌ王国での公爵家の後ろ盾を確実なものとした。そんでアルザスでは急遽訪れた他国の王族達に決して見劣りしない屋敷を借り上げたくらいか。

 ソフィアは俺の妹なので金銭的な問題は兄貴が払って当然だが、こうして見ると結構手を回したな。ジュリアの実家が感謝の念を抱いても不思議はない気はする。



 そして馬車は丘を登り、子爵家の屋敷にたどり着いたのだが、そこでなんと俺は子爵家の皆様から出迎えの歓迎を受けた。


「おお、ようこそお出で下さった! 私が当家の主であるアシュレイだ。ユウキ殿だな、娘から聞いていた通りの方のようだ」


 平民を出迎える貴族というかなり有り得ない行為をしたこの40くらいの中背の恰幅の良い男がソフィアの叔父にしてジュリアの実父であるアシュレイ・ペンドライト子爵だ。見た目は人の良い中年に見えるが、この商都を彼の代で一段と発展させた立役者だと聞くから侮る事は出来ない。

 何しろこうして出迎えた上に、俺を軽く抱いて見せたのだ。同じ貴族ならともかく、ただの平民(農民やってる没落貴族など平民と同じだ)にする行為ではない。貴族として彼自身の見識さえ問われかねない暴挙だが、それを理解して行っているのだろう。大した胆力である。


 続いて紹介されたのは彼の家族、奥方にしてジュリアの母親のシェリーさん、そして今現在屋敷にいる子女ティナとセルマの幼い姉妹だ。シェリーさんは大層目を引く美人だが、ジュリアよりのレナの方が似ているな。レナはソフィアの影として普段はメイドこそしているが、実際は子爵家の係累だから似ていても当然だ。そして幼い姉妹はジュリアの面影があった。


 俺が礼節を伴った返礼を返す間、向こうさんの家族の態度の豹変が面白かった。


 母親のシェリーさんは俺に対して深い感謝の念を抱いているようだが、幼い姉妹は、何で平民に両親はこんな態度を取っているんだと不満顔である。

 事情が事情だけに何も聞かされていないのだろう事は容易に想像がつく。


 ペンドライト家にはここにいない子供達が3人おり、跡継ぎであるジュリアの弟である長男は魔法学院の寮に、他に姉が二人居るが、どちらも嫁いでいる。



 そうして俺はペンドライト家の晩餐に招待されたのだが、これは随分と私的なもののようだ。考えてみれば突然俺が訪問する事になったから客人を迎える準備などできていなくて当然だ。

 出されたものはけして贅を凝らしたものではなく、この家族が普段口にしているものであろう事は間違いないが、逆にそれが彼等への親近感を深める結果となった。豪勢な食い物はここ最近の特等室で食い飽きていた感があるのでむしろ新鮮さと、この子爵家の飾らない気さくさを感じさせ、好意的に映った。


 子爵は豊富な話題を提供してホストとして申し分なかったし、朗らかな奥方は結構気難しいといわれる俺の態度を見事に解してくれた。ジュリアとソフィアを見ていれば、この家がどれだけ彼女達の朗らかな性格形成に寄与したかよく解るというものだ。


 和やかに時は流れたが、晩餐も佳境に入り俺は一つ気になることがあった。これを指摘しなくても問題はないのだろうが、幼い姉妹はとても不満を募らせている顔だ。俺に気を使ってこの家族にしこりを生むのは本意ではない。いくらか逡巡したが、口にすることにした。


「子爵閣下、このような場を開いていただき大変恐縮ですが、一言だけよろしいでしょうか?」


 これまで笑顔で対応してきた俺が難しい顔をしたので子爵も顔色を変えた。


「何か不手際があったかな? それならば謝罪するが……」


「不手際などとんでもない! ただ一つ思ったのです、皆さんもっと遠慮せずに召し上がってよろしいのでは? 今日は私のほうが邪魔者ですから、気兼ねする必要はありませんよ」


 俺の言葉に姉妹の顔がぱっと輝くのが見えたが、母親の視線を受けて顔を俯かせてしまう。この場の趣旨を考えれば解らんでもないが、俺は既に聞き及んでいるのだ。


 この一家は誰もがジュリアとレナに引けを取らない健啖家であると。


 毎食、常人の三倍は食べるジュリアとレナだが、二人はそのことを特におかしいとは認識していなかった。何故ならともに暮らしていた家族が皆同じくらい食べるからだった。そして事あるごとにこの程度実家の者なら当たり前のように食べます、と宣言するし、事実としてジュリアはこれまでにも創造品や環境層で取れた日持ちのする食材をマジックバッグに入れて実家に送っていた。

 彼女は実家の家族に、と告げていたのだが、俺としては一族郎党ひっくるめて送っているのではないかと思われる量だった。


「お父様、お客様もこう仰っている事ですし!」


「そうですそうです!」


「ティナ! セルマ! お客人がいらしていると言うのになんですかその行いは! 淑女としての資格が足りません」


 恐らくは7,8歳程度と思われる姉妹はやはり物足りなかったようで、俺の言葉に飛びついたが、母親のシェリーさんに叱られて小さくなっている。二人の事はソフィアやジュリアから聞いている。俺にとってのイリシャと同じで猫可愛がりしているらしいが、そうなってもおかしくないくらいの可憐なお嬢様たちだ。数年後に社交界に出るようになれば周囲が放っておかなくなるだろうが、今は色気より食い気らしい。


「し、失礼いたしました」


「とんでもありません。それよりこれなど如何ですか? これは殿下や姉君などにも評判のよいもので」


 可愛らしい謝罪をする二人を見てすっかり和んでしまった俺は、既に晩餐の食事が終わっていることを確認してマジックバッグから様々な果物を取り出すのだった。


「あっ、それはジュリア御姉さまのお土産にあった果物!」


「さくらんぼですね! いただきます!」


 我先にと果物を奪い合うのは()人だ。いつの間にかご両親まで混ざっている。やはり俺の知るジュリアの家族だなと納得した瞬間だった。



 晩餐は終わり、俺達は応接間へと移動した。すぐに酒肴が用意されたが、一番の変化は姉妹二人が部屋に戻った事だ。

 それによりようやく込み入った話ができるようになった。


「それでは、改めまして、この度は言葉に言い表せないほどの大恩を受けました。殿下の叔父、そして娘達の命の恩人であるユウキ殿に篤く御礼申し上げます」


 夫妻と俺のみがいる部屋の中で、子爵と夫人は深々と頭を下げた。


「殿下はもちろん、我が娘、そしてあの双子達の事も本当に感謝しています。そしてなにより……」


 夫人は俺の手を取ると感極まったように目に涙を浮かべた。


「我が家の家族であるレナを今際の淵から救っていただいた事、本当に本当に感謝しています。あの子を見捨てる判断をした私達に何か言えるはずもありませんが、ありがとうございます、ありがとうございます!」


 俺の手を拝むように両手で捧げ持った夫人は既に泣いていた。船で海路を使ってランヌ王国にたどり着いたソフィア達だが、敵の目を欺くために敢えて囮となったレナは俺が見つけたときは腹部に重傷を負っており、瀕死の状態だった。

 ソフィアを安全に逃がす為とはいえ、レナを命の危機に晒した事は二人の癒えぬ深い傷になっているようだ。


「もう終わった話です。それに貴方に出来る事は殆どなかったはずです。脱出行はこの都市ではなく、王都で行われたのですから」


「しかし、あの子はその後も健気にも私達に心配をかけまいと元気であると手紙を送ってきました。命に関わる傷を負って恐ろしくないはずなどないのに……レナの命をお助けくださったこと、当家は決して忘れません」


 それから何度もソフィア達の事で礼を言われたので、流石に辟易してきた俺は強引に話題を変ええることにした。


「ソフィア殿下といえば、懸案だった魔力の問題も解決し、今では学院に通う各国の王子王女様達に比肩する実力をお持ちです。これも殿下の類い稀な資質と言えましょう」


「おお、話は聞いてる。しかし一つ耳を疑う話も聞き及んでいている。なにしろエスパニアのルシアーナ王女とまで深い交友関係を築いているという。それは誠なのだろうか、あの方のこれまでの言動を思えばとても信じられないのだ」


「ああ、その件ですか。確かに最初の頃は酷いものでした。殿下も事ある毎に張り合うものだから、一層険悪になったものですが例の一件で随分と改善し、今では喫茶を共にするほどですよ」


 俺の言葉に夫妻は目を見開いて驚いている。俺から見たルシアーナ姫はソフィアが気になっているのに素直になれないお子様というものだったから、見ていて微笑ましいものだったが、手紙や手の者からの報告など伝聞でしか聞いた事のない夫妻にはなんとも険悪に感じられる関係に映るようだ。

 ソフィアもかつては言われっぱなしで俯いていただけだったらしいが、今では平然と言い返すようになったしな。


「その例の件とは何があったのです? 殿下も娘も詳しい事は何も伝えてこなくて、私たちは不思議に思うばかりで……」


 興味深々で告げてくる奥方だが……そうか、ソフィアめ、実家の皆さんに知られるのを恐れて肝心な事は何も手紙に書かなかったな? 

 いや、書けないか。そりゃそうだ、何しろエスパニア国のとある事情に自分から首を突っ込んで、ルシアーナと共に()()()()()なんて自分から手紙に書けるはずがない。


 きっとジュリアやメイド達にも頼み込んで実家には話が伝わらないように手を回したに違いない。この夫妻の様子から見て、ソフィアは仕えるべき主君であると同時に可愛い姪、愛する家族と認識しているのは間違いない。あんなことをしたと知られれば絶対にこっぴどく怒られるだろうからな。


 だが俺はソフィアを叱る人を増やしたいのであの事件の顛末をもっと広めたいのだ。というか身内の二人が知らないのは拙いだろう。


「どうやら殿下はお二人には知られたくない御様子ですが、私としては事情を聞いておいて欲しいと思います。少々長い話になりますが、構いませんか?」


 夫妻は深く頷き、空になっていた俺の酒杯に新たな酒を注いだ。


 それでは語るとしようか。俺がいまだ許しを与えていないソフィアの大冒険を。



楽しんで頂ければ幸いです。


この章は断章にあたるような気がします。前に少し触れたようにこれまで語れなかったことを紐解いていければなと思います。



もしこの拙作が読者様の興味を引いて頂けましたら評価、ブックマークなど入れていただくとこれに勝る喜びはございません。何よりも作者のモチベーションが鰻登りになります。更新の無限のエネルギーの元になります。何卒よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ