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世界最強になった俺、史上最強の敵(借金)に戦いを挑む!~ジャブジャブ稼いで借金返済!~  作者: リキッド


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本当の戦い 6

お待たせしております。



「そういえば聞きたかったんですけど、なんで拳銃って決めてたんです? どうせ創るんならアサルトライフルとかの方が強そうだし良くないですか?」

   

「ライフルも初めは候補にしていたよ。でも……ちょうどいい、実際に撃って確かめてみようか」


 俺が32層への挑戦を行うかどうか悩んでいた時、背後の如月と玲二は別の話題で話し合っていた。何をする気だと振り向くと、如月と玲二の手には大きなライフル銃が握られていた。特徴といえば湾曲した弾倉くらいなものか?


「あ、AKじゃないですか、出来てたんですね!」


「うん、こういうときに限って必要ないものばかり先に揃っちゃうんだよね」


「ああ、あるあるですよね。じゃあちょっと……ユウキにバーニィ、退がってくれ」


 先ほどの銃撃は大層音を立てたので、すぐに新手はやって来た。俺が始末するつもりだったが、玲二が新たな銃の実験台にするそうだ。多少ぎこちなく突撃銃を構えた彼が迫り来るオーガに向けて銃撃を開始する。


「ああ、くそっ。AKで頭を狙うのは無理だわ。反動は上がったステータスで対応できるけど、どうしてもブレるな」


「頭以外だと復活するしね。それだったら二度手間だし、結果として一匹にかける時間が増えて他の敵に距離を詰められる。パーティー組むならともかくソロで挑むユウキにはあまり意味ない武器だよ。それに片手で扱う銃じゃないしね。まあ、それを言ったら大型拳銃も片手で撃つものではないけど、次々にターゲットを変えるなら拳銃の方が早いよ。そして……」


 玲二の隣に立っていた如月は彼と同じ武器を構えるとすぐ近くにまで来ていたオーガの額に高速ライフル弾を叩き込んだ。先ほどの拳銃とは距離も違うので一発でオーガの頭を貫通したようだが、それにも構わずこちらに向かってきたので、俺が魔法でトドメを差した。

 かなりの至近距離まで迫られたが、スキル封印攻撃はしてこなかった。これがこの攻撃のいまいちよく解らない所だ。<鑑定>を見る限りではオーガの特殊能力ではなさそうなんだが、一体何者がこれを仕掛けてくるのかまだ判明していない。といってもまだ2日目だ。これから攻略していけば自然と情報は積みあがってゆくだろう。そのためにもちょっと無理してでも32層に<ダメだからね!>……相棒の厳しい御達しだ。



「見たかい? 額に直撃でも頭部全体を破壊できないと”食いしばり”が起きるんだ。これはユウキがオーガの頭を両断した時もそうだったから予想は出来ていたよ。貫通力の高いライフル弾じゃ効果が出ないんじゃないかな? 7.62でこれだから、5.56じゃ下手したら弾かれるかも。三点バーストなら多分破壊できるかもしれないけど、中距離じゃ集弾率が悪くて弾が頭に集まらないよ」


「そして全弾頭に着弾するような近距離だとそもそも銃である必要がなくなってくるって話か。ホローポイントなら何とかって感じですかね」


「まだHP弾は創れていないからそこはなんとも。それに今はユウキが始末してくれたから良かったけど、このダンジョンじゃ数で押して来るからね、アサルトライフルで標的を次々と狙うのは難しいし、だったら二丁拳銃の方がまだマシかなと思ったのさ」


「なるほど。やっぱり如月さんは色々考えてるなぁ、俺も見習わないと」


「今の僕に出来る事はこれくらいしかないからね。それはそうと、こんなものもあるよ」


 俺達は何が出てくるのかと興味深げに見守る中、彼が取り出したのは細長い筒だった。それを見た玲二が興奮したように叫んだ。


「RPGじゃないですか! 何でこれが”銃”から創れるんです!?」


「よく解らない理屈だよね。そこがユニークスキルらしいというか。ちなみにこれはスティンガー。RPGはこっちだね」


 如月が今度は先端が菱形になった筒を取り出した。玲二はもはや呆れ顔だ。


「最早なんでもアリだな。そうなると他にも何かありそうですね」


「ショットガンやグレネードランチャーは出たね。使う機会があるとは思えないけど。後で試し撃ちくらいはしてみるかい?」


 玲二は一も二もなく頷いた。まあ、31層でやらなくてもいいわな。



 さて、俺の方はどうしようか。今日は元々他の予定があるので日課を済ませて終わらせるつもりだった。なので本当は相棒は連れてくる必要が無かったのだが、俺の内心を読み取ったリリィはちょっとそこまで、と危ないことをしないように今朝は絶対に連れて行くようにと聞かなかった。

 確かに相棒は先見の明がある。実際、今日は異常なほどに階段が近い。これなら少し無理をしてでも先に進みたいという欲求は抑えきれない。


「さ、帰るよ。準備が整ってない状況で危険は冒さない。当然でしょ」


「いや、でもさ。こんなに階段が近いことってそうないぜ? この先の情報を得られるまたとない機会だ。行ってすぐ戻るくらいなら……」


「ユウさぁ。自分で無理だってわかってるのに私に言わないでよ」


 うっ、これだから繋がっている相棒に隠し事は出来ないんだ。俺も無理と思いつつ相棒に我儘を言っているようなもんだと自分で自覚していた。仕方ない、ここは朝飯食いに戻るとするか。


「ユウキ、さっきから悩んでどうしたんだい?」


 俺の隣で不思議そうな顔をしているバーニィが声をかけてきた。


 そうだ、こいつがいるじゃないか! もともとスキルが封印されるってどういう状況を知りたいとついてきたようなもんだし、バーニィがいれば俺も背後の不安なく前方だけに気をつけていればいい。


「いやな、下に降りる階段が意外と近くにあるんだよ。お前がいればこの上なく安心なんだが、一緒に降りてみないか?」


「えっ。それはいいけど、まだ例の状況も試してないしね。でもユウキはいいのかい? 他の皆はダンジョンに付き合わせていないみたいだし」


「仲間をこんな頭のおかしいダンジョンに連れてこれるかよ。だがお前の腕は信頼してるからな。それでどうする、行ってくれるか?」


 バーニィの返答は言葉ではなく、態度で示した。彼は剣帯を締め直すと愛剣を煌めかせ、その刃を一閃する。くそっ、怖いほど絵になりやがる。こいつほど剣の神に愛された奴はいないだろうな。


「ちょっと! 私を無視して話を進めない! まだ銃も出来上がってないのに危ないことしないの!」


 ブツブツ文句を言っているリリィに俺は帰還石を放り投げた。慌てて体全体で受け止めた彼女だが、その顔は諦めが見えている。これまでは成功率は五分五分だったが、バーニィが来てくれれば千人力だ。



「リリィがもうダメだと思ったら君の判断で俺達を帰還させてくれ。それでいいだろ?」


 最後の決定権が自分に預けられたことを理解した相棒は渋々だが俺の懐に入る。消極的賛成というところか。


 俺は銃の事で話し合っている如月と玲二の方を見た。


「どうやら32層がすぐ近くにあるみたいなんで、そこだけ覗いて来る。二人は戻っていてくれ」


 玲二はこれから学院があるし、如月はとりあえず寝るべきだろう。そう告げると二人は頷いた。


「とりあえずロキの分身体はこのままにしておくよ。折角の帰還石を無駄に使うことはないだろうし」


「俺達は30層で他の銃を試してみるとするさ。昨日手に入れた魔法のハンマーもあそこなら迷惑かからないだろうし」


 ダンジョンの床は大穴をあけても1寸(分)で塞がってしまう。どんな破壊も直ってしまうので遊ぶには適しているといえるだろう。


「ユウキには必要のない言葉だろうけど、気をつけて」


 如月が俺を案ずる一言を告げて30層への階段を上がっていった。ロキの分身体は我関せずとばかりに大口を開けて欠伸していた。



「じゃあ、行こうか」


 バーニィの口調は既に平時のものではない。頭が戦闘時に切り替わったかのように落ち着いた、冷たささえ感じられるものになっている。これだからこいつは信頼できるのだ、この様子をアンジェラ嬢に見せれば彼女だってこいつを見直すに違いないのだが、彼女の前ではいつだって頼りなさげな少年に戻ってしまう。

 逆に言えば、この冷めた様子は彼女の前では決して見せたくない姿なのかもしれない。



 俺は頷いて先頭を走り出した。既に31層の地図は昨日の内に出来上がっているので、今日の階段の位置を書き込み、どの経路で走るのかを告げてあるので余計な言葉は不要だった。


 ここから階段までの位置は何事もなければ歩いて3刻(時間)、バーニィでもついてこられる速度で走って半刻(30分)くらいだ。かなり離れていると思われるかもしれないが、地図に表すと目と鼻の先の位置だ。つまりこの層がどれほど広いのかという話である。

 正直な話、まともに攻略したらこの層は一日じゃとても終わらないぞ。階段を目指して移動しているうちに日付が代わり、階段が移動するなんて事が普通にありそうだ。

 だが、ここのダンジョンに挑むような力量を持っている奴等は、今更その程度の事でダンジョンに文句はつけないか。それに受付嬢から伝え聞いた話では、彼らはいかなる手段を用いてか、その日の階段の位置を予想する術があるようなのだ。そうでなくては帰還石を俺がギルドに持ち込む前に、彼らはどうやって日々位置の変わる上り階段を上って帰還できるというのか。下手をすれば階段を見つけるまえに水や食料の問題で力尽きることだって有り得るのだ。


 それを聞く前から、その日の階段の位置を<メモ>に残して記録をつけているが、未だに法則性などは見つけ出せていない。それ以前に<魔力操作>で階段を探していた俺にとって、スキル封印されたらそれさえ不可能になる。銃の創造と同じくらいこの件も深刻な問題だった。

 だからこそ出来ることなら早いうちに32層へたどり着き、これから先がどうなっているのかを知っておきたいと思っていた。いや、知ったからといって対策があるのかという根本的な問題はあるのだが。



「グルァァァァァアアァァーー!!」


 と、叫んでいるはずのオーガの5体の頭を吹き飛ばす。本来ならこちらへの行動阻害と自分への攻撃力増加機能があるようだが<消音>で消しているのでこちらにもたらす効果はない。ドロップアイテムと魔石、そして大量の塵をスキルでまとめて回収する。


「地味にこういった作業もこれからは全て足を止めて行わなくてはならないのが面倒だな」


「これまでどれだけスキル頼みであったかの証明みたいな話だね。でも手間と時間をスキルで圧縮するのが目的だったから仕方ないよ」


「個人攻略での弊害をスキルで解決してきたツケが回ってきたか?」


「それはどうかな。どんな冒険者も自分のスキルを強みにしているんだ。それを軒並み封じられたら誰だってそうなると思うけどね」


 俺と相棒の会話にバーニィが参加してきた。かなりの速度で走っているが、彼の呼吸に乱れはない。こいつは基礎体力と剣技、そして見切りの上手さが達人を越えて異常者の域なので俺も心配はしていない。


「昨日の話にあったけど、スキル封印はまだしてこないんだね」


「今のところは遠距離で始末してるからね。これが背後からの挟撃とか怒涛の波状攻撃とかになると一番嫌なタイミングで仕掛けてくるよ」


「そうなるまえに挟撃時には足を止めるからな。走っている最中に体が重くなるなんて悪夢だろ?


 俺の言葉にバーニィも深く頷いた。あれは食らったものじゃないと解りづらいが、戦闘どころじゃなくなるのだ。もし体の均衡を崩して転びでもしたらもう最悪だ。

 戦場で転ぶ事は死を意味する。立ち上がるまえに敵兵に蹴られ、踏まれて大怪我をするからだが、これが馬相手にこれをされるともう死ぬ他ない。

 ここの場合はそれが凶暴なオーガに変わるわけだ。スキル封印されてもレベルと上がったステータスはそのままなので同じ末路を辿るつもりはないが、絶対に避けるべき状況なのは間違いない。



 そしてやはり走って移動すると自分から敵にぶつかりに行っているのと同じ状態だ。どれだけ気をつけていても距離を詰められるし、そういうときに限って背後からも敵が現れる。


「敵、背後からも7体きてるよ。これは()()かも」


「了解、バーニィ、背後は任せたぞ」


 封印攻撃に注意しろなどこいつには一々言う必要はない。心配する程度の腕なら初めからここになど連れてこない。


「わかった」


 バーニィは短く返事すると背後の敵へ向かって行くのが気配でわかった。俺はまずは前方の6体を始末すべく魔法を打ち出した。


 今回は封印されなかったようでそのまま全てのオーガの頭を打ち砕くが、安心は出来ない。俺の目には塵に還るオーガの更に後方に新たな敵の姿を捉えていた。まだまだ距離はあるが魔法で始末できるなら、と考えた瞬間、体が重くなった。


 やはりきたか、と思う間もなくオーガの喧しい絶叫が耳障りだ。次から耳栓でもつけてくるか。


 初めて食らった時は混乱したが、何をされたか理解出来ていれば対応は可能だ。既に腰に吊っている愛剣を抜くと、襲い来るオーガどもの首を飛ばす。巨木のように太い首だが、俺の愛剣にかかればバターを切るかのように容易く切断できる。

 食いしばりの対策として頭部を破壊する事が挙げられるが、このように首を飛ばしても同じ効果を発揮する。こうやると簡単と思われるかもしれないが、流れるように次々とオーガの首を飛ばすなどという達人技は体も重く、スキルを封じられた今は無理な芸当だ。

 従って、次々に襲ってくるオーガどもは順に相手をしてやらなければならない。


 不幸中の幸いでこいつ等も巨体が災いして前方から同時にかかってこれるのは二体が限度だ。神気を用いて爆発的に上がった身体能力を使って一匹一匹を始末してゆく。

 やはり落ち着いて戦えばスキルを封じられても倒せない敵ではない。問題は戦闘は行えてもこれによって攻略が著しく遅れることだ。そうなると遠距離で安全に一撃で敵を打倒し、さっさと次の行動へ移れる手段が必須となる。


 我ながら無茶言ってるな。これに応える如月は神なんではないだろうか。



「バーニィはどうなってるかな?」


 相棒の声で背後を振り返ると、既に全ての敵を始末し終えたバーニィがこちらに向かってきていることろだった。


「途中から案の定封印されたが、そっちは大丈夫だったか?」


「結構驚いたよ。本当に体が重くなって技も冴えなくなるね。初めて剣を持った頃を思い出したよ」


 そう言う彼だがドロップアイテムや魔石を手にしたその足取りは全く危なげなく、とても苦戦したようには見えない。むしろ身一つで戦う事を強いられるこの層ではこういうやつの方が輝くのかもな。


「無事で何よりだ。まあ、心配しちゃいなかったが」


 信頼をしていたから共に連れて来たのだが、こいつの次の一言は俺も呆れるものだった。


「うん、この感じ、修業に丁度いいよ。侮れない敵に動かない体、こういう状況が自分を強くさせるよね」


 こいつ……命のかかった状況で修業に最適とか言い出したぞ。やっぱ俺と同類、いやもっと酷いかもしれん。俺に同意を求めるんじゃない。


 俺は修業ならもっと安全な場所か、少なくとも誰かが止めに入れる状況でやるわ。自分の安全策を全て奪われた環境でそこまで思い至るか普通。いや、だからここまでぶっ壊れた強さになるのか。

 一度こいつの修業に付き合ったことがあったが、自分の限界を数段越えた先まで自らを追い込んでいた。俺が慌てて止めに入ったが、当の本人はいつもこんなものだよと軽く流していた。

 皆俺がおかしいというが、バーニィの方がもっとおかしい人間であると誰も気付いていないのだ。


「怪我がないならいいや。階段はすぐ先だ、急ぐとしよう」


「その前に、はいこれ」


 魔石15個とオーガの心臓(ハート)2個を差し出されたのでマジックバックにしまっておく。これはダンジョンに出た後で彼に換金するつもりだ。

 そうだった。俺もドロップアイテムを拾うか。スキルが使えないのは面倒だが、魔石もドロップアイテムも大きいので塵にまみれて見つからないという事はないのが救いだ。

 収穫は魔石が27個、心臓4個、レアはなしだ。オーガ13体でスキルの恩恵なしならこんなもんだろう。


 それからも何度か挟撃を受けたが、やはり危険なのは封印攻撃を受けた直後だ。あの接敵した瞬間を狙いすましたようにぶつけてくるので、敵の行動だと思っているのだが、それらしい奴に一度も会わないんだよな。


「バーニィはオーガの他に何か怪しい敵を見たか?」


「今のところは。でも、後で確認したい点があるんだ。帰ったら映像を見てみたい」


 彼には気になる事があるようだ。俺達は撮影用のカメラを頭につけているので後で確認できるから、後で皆と見てみるか。今は32層へ向けてひた走るのみだ。


「うわっ、あぶねっ」


 その時、俺の目の前の床が突如として崩れ落ち、虚を突かれた俺は慌てて幅跳びのように落とし穴を飛び越えた。後に続くバーニィも同じように飛び越えるが……罠だと? 一体どうなっているんだ。


「あれ? 罠はユウキが真っ先に潰しているんじゃなかったっけ?」


「そのはずだ。事実これまで走ってきた箇所に罠はなかっただろ」


 俺は階層を攻略するまえに階段と宝箱の位置を探しつつ、途中の罠をすべて解除、いや起動させて無力化させている。そうでなければ危なくてダンジョンで走り回ったりなど出来ない。


 そしてこれまでに罠はなかった。安全に進めた事がそのなによりの証拠だ。これはいったい……。

 俺が考えに耽っていると、懐から相棒が悲鳴のような声を上げた。


「ええっ、嘘でしょ!? 1日じゃなくて時間経過で罠が復活するって面倒くさすぎるじゃん! しかも今のユウは<魔力操作>で罠の発見と解除が出来ないんだよ!?」


 あ、やっぱり復活してるのか? うわ、本当に厄介な層だなここ。更に問題追加じゃないか。


「でも、今丁度復活したと仮定すると、時間経過の傾向も解るね。ここに下りたのが確か6の刻丁度じゃなかったっけ?」


 バーニィがうな垂れる俺達に光明を差してくれた。確かに今復活したのなら、どれくらいの時間でそうなるのかの目安ができる。そう悪い事ばかりじゃないな。

 そして彼の言った時刻も事実だ。玲二が目覚まし代わりに<時計>を使っており、いつもの起床時刻で音を鳴らすように仕掛けていたのだ。それを聞いた俺達は30層での試射を終わらせて31層に下りてきたからだ。

 今の時刻は7時03分。そう考えると、一刻で階層中の罠が復活するということか? これも後でもう一度検証だな。


「いやいや! ユウったら、前向きに考えても無理だよ! 一刻で階段に辿り付けなきゃ罠が復活するんだよ!? そんでその時は絶対能力は封印されてるし、この層の広さからして一刻で辿り付ける場所に階段がある事は滅多にないでしょ。そうしたらスキルもないのに罠解除するの?」


「いっそのこと罠を起動させない方法もありじゃないかな? 使っちゃうから復活するならそのままにしておく手もあるんじゃない? ユウキなら避けてゆくこともできるだろうし」


 バーニィの提案に俺達は力なく首を振った。このダンジョンをスキルを使って攻略し始めた頃、罠の解除が面倒に思ってそのまま進んだ事があったのだ。俺自身は罠を避ける事はできるのだが、罠にモンスターも探索者も関係ない。そしてここで圧倒的に数が多いのはもちろんモンスターである。

 つまり何が起こるかというと、モンスターが罠を作動させるのである。これが俺の関係のない場所で起きて勝手に自滅するならいいが、高確率で俺に関係する場所でモンスターが罠を作動させやがるのだ。


 その結果として生まれるのが大混乱である。追い込まれた挙句、起死回生の策としてこちらから混乱を起こすならともかく、何が起こるか解らないダンジョンで敵が勝手に起こした混乱に巻き込まれるのはたまったもんじゃない。

 終いには慌てて上り階段の位置まで逃げ帰る羽目になったのだ。あれ以来、罠は最初に全部潰している。何よりも自分の安全の為だ。不確定要素は極限にまで減らす主義なのである。


「そ、そんなことが……ユウキも大変だね」


「俺達だけで挑んでるからこその弊害もあるけどな。罠の解除もユウナに任せれば簡単だろうが……スキルが封じられてると無意味なのか?」


 あれ? 難易度最悪を越えて最低じゃないか? 帰還石を下りてすぐの場所においても何の救済措置にも……本当にこれでさっさと帰れって意味な気がしてきた。


 これ以上ダンジョンの中で思い悩んでも仕方ない。そしてこれまで俺が培ってきたこのダンジョンの経験からして、罠は通路に主に存在し時折ある広間にはないこと。その通路も両端を通る限り作動する罠は少ないことを告げ、先に進む事にした。ここまで来たら32層への階段はもうすぐだ。リリィもせめて下りてから帰ろうと俺の判断に賛成してくれた。


 今日の下り階段は地図で言うと右端の最上部にほど近い広間にあった。今俺達はその四隅の広間にいるから、罠の存在を差し引いてもほんの数寸(分)でたどり着くだろう。これまでにかかった時間はほぼ半刻(30分)、皆がそろそろ朝食の準備を終える頃だ。俺もさっさと探索を終わらせて帰るとしよう。


「ねえ、ユウキ。ちょっと見てほしいんだけど。これってさ、どこかで見た気がしないかい?」


「えっ、こいつは……」






「ここが32層か……あそこに宝箱があるんだが」


「これまでの流れなら間違いなく帰還石なんじゃない? このダンジョンでお決まりのパターンは結構外さないからそこは信頼していいかも。油断は禁物だけどね」


 32層に降りた俺達はこれまたロキの分身体を置いてやはりすぐ近くにおいてあった宝箱に近寄った。今の俺はあらゆる技能を持っていないので不用意にあけてもし罠があれば大惨事だ。安全策を取り、マジックバックから長い棒を取り出す。この木製の小さな宝箱の構造は簡単だ。罠が無ければ普通に下から持ち上げるだけでいい。これまでの経験だと、小さな箱は容量も少ないので罠を仕掛ける場所が少ないのか、何もない事が多かった。

 でも一応油断せず慎重に箱を開けると、やはり普通に空いた。このダンジョンの創造主はお約束は守る主義らしい。


 近づいてみると、箱の中には見慣れた帰還石が入っている。今日は普段手に入れる21層を回っていないのでこれで2つ目だ。そしてこれがあるということは……。


「今、オーガの叫び声が聞こえたよ。ここも同じ敵の出る階層と見ていいんじゃない」


 バーニィの声に頷いた。予想通りではあるが、この層もスキルが使えない層が続くようだ。


「何を考えているんだか。ここでも同じ手を使わなくても、ここまで降りてきたら大抵の奴はスキル封印されてるでしょーに」


 俺の懐で相棒が憤慨している。全くその通りだが……だからこそあの装置なのではないか、と思うようになっている。


「じゃあ戻ろうか。バーニィも屋敷で飯食っていけよ。帰るのはそれからでいいだろう?」


「そうだね、家で一人で食べても楽しくないし」


「だったら毎日来ればいいじゃん。今は転移環余ってるんだからさ、初めの時みたいにバーニィのお屋敷に置けばいいじゃん」


 確かにそのとおりだ。王都は例の”美の館”に置かせてもらっているが、最近ではあそこの人目がつくようなってきたから逆に兄のフェンデル元伯爵が居なくなって人が減ったリットナー伯爵邸は穴場かもしれない。


「後で持って帰ってくれ。それともっと気軽に来いよ。見てのとおり、男はお前含めて5人しかいないから貴重なんだ」


「ユウってそういうトコあるよね。男ばっかりだとむさ苦しいっていうくせに、女が集まってると女臭いとか思ってるし」


「こらこらリリィさん。俺はそんなことを思ったことなど……」


 俺は最後まで言葉を続けられなかった。本当に相棒に隠し事は出来ない。


「いや、あれだ。何事も程々が大事だって話だ。学院でもあるんだが、女が5人以上集まって話しているのを見ると近寄りたくないとかな。一人二人なら問題ないんだが」


「解る気はするよ。何か気後れして遠慮しちゃうよね」


 そうなんだよ。さすがバーニィ、解ってくれるか。やっぱり持つべき者は同姓の仲間とダチ公だな。


「ダンジョンで長々と話す内容じゃないと思うんですけどー」


 俺達は相棒のジト目を受けてそそくさと32層から上への階段を上るのだった。




「そしてここへ戻ってきたわけなんだが……」


 ここに来るまで十数体のオーガをバーニィと難なく蹴散らして俺達は先ほどの広間、地図で言えば上の右端に戻ってきていた。


「何でここにあるんだろうね。これまでの流れならありえない場所だよ」


「もしかしたらさっき言ってた創造主の救済措置の一環なのかもな。スキルも封じられ、罠も時間経過で復活するような頭のおかしい階層だ。これくらいはやってもいいと思ったのかもしれんぞ」


 俺と相棒は二人してこの不思議な()を眺めていた。バーニィは自分の口出す範囲を超えていると理解したのか沈黙を守っている。


「ってことはさ、30層のボスの間にあの碑があったのには意味があったってこと? あそこを見て情報を得て”鍵”を用意してから31層へ来ないと大変なことになるよって……」


 秘密を守ろうとしてその部分削り取っちゃったんだが……いや、こういうのは早い者勝ちだろう。先行者が情報の取捨選択をするのは当然の権利だ。ここに関しても俺が来る前まで他のパーティーはギルドにダンジョンの情報を殆ど流していなかった。俺が同じ事をしても責められる義理はない。


「俺達だってあの”鍵”を手に入れたのは偶然だったからなぁ。手に入った当初は何に使うかなんて考えもしなかったし、初めて使った時も無我夢中だったしな」


「ああ、あったねぇ。人を無理矢理<アイテムボックス>に突っ込もうとしてくれた事、忘れてないからね」


 こちらを咎める目で見てくるリリィに俺は降参する他ない。だが、あの時は俺も気が動転していて苦しむ相棒を何とかしようと必死だった。そしてそんな無茶をしたからこそ、”鍵”が反応していると気付く事ができたのだ。


 普段なら<アイテムボックス>に仕舞いっ放しの”鍵”だが、今日はスキル封印される前提で来たので必要と思われる物は全てマジックバッグにしまってあり、問題はない。


 そしてあの時もそうだったが、初めての場所に鍵を差し込む時は、まるでここで使うんだぞと教えてくれるかのように”鍵”が緑色に淡く光るのだ。


 今、この時のように。


”認証完了 管理者権限使用許可”


 これまでボス層を踏破して何度も聞いてきた隠し扉を開く為の無機質な音声が周囲に響き、ダンジョンの壁が切り取られるように消滅した。消滅した扉は俺達が入るとまた復活するので開いたままということにはならない。


 そして俺達の前に既に見慣れた古代の遺物がある。というか、今朝もこれを使って30層に移動してきたし、ダンジョンで稼ぐにはこれを使い倒さないと話にならない。


 しかし……なんてこれがここにあるんだ? ここは31層だ。これまでは5層刻み……いや、15層には無かったが、それでもある程度は間隔をあけて設置されていたのだが。僅か1層下りただけでもうあるとは想像もしていなかった。



「なんでこんな場所に転移門が存在するんだ?」




楽しんで頂ければ幸いです。


すみません。土曜は無理でした。その分いつもより早いから許してくらはい。


相変わらず脱線すると話が進みません。銃ネタはあっさり終わらせるつもりが3千字近くなった時は自分でも呆れました。


この30層からの攻略は非っ常に時間がかかるので、攻略しつつ、主人公は他の事にも首を突っ込んでゆくつもりです。次はそこらへんの話になるかと。


それではまた水曜日にお会いできることを祈っております。



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