本当の戦い 3
お待たせしております。
「ではまずこれを見てほしい。これがユウキが撮影してきてくれたダンジョン31層の様子だね」
壁に映し出された31層の映像を示しながら如月が言葉を発した。この部屋は異世界の光源を用いているので魔導具の灯りよりも圧倒的な明るさを誇るが、映像を鮮明に見せる為に壁の周囲だけは暗がりとなっている。
どうやら彼がこの場の進行を買って出てくれたようだ。俺が説明をしても良かったが、客観的な視点でものを見るには第三者のほうがいいか。どうせこの後当事者である俺の解説も入るだろうし。
この応接間は大人数でのもてなしも想定していたのか、この屋敷でも大広間、食堂に次ぐ大きな造りになっている。十人は優に座れるゆったりした大きな長椅子が数脚、中央の円卓を囲むように配置されており、そして座ると沈み込むような柔らかい安楽椅子が数台隙間を埋めるように置かれている立派なものだ。全て雪音のスキルで創造した異世界産の高級品らしく、王女であるソフィアも絶賛する品質であるが、造りだした本人としては気品が足りないと納得はいっていないらしい。
そしてこの場には俺の仲間や身内が勢ぞろいしていた。俺が呼んだ訳ではないのだが、仲間達が色々用意しているうちに何かあると思ったらしい。バーニィやリノアも席について壁に映し出された映像に視線を釘付けにしている。ちなみにバーニィは玲二が、リノアはソフィアが連れて来た。ソフィアとリノアは立場こそ天と地ほど違うが、だからこそ気が合うらしく仲良く談笑している姿をよく見ていた。
その他には仕事を終えたセリカや護衛のアインとアイスもこの場にいるのはなかなか珍しい。セリカはともかくアインとアイスには助言を求めたい事もあったので都合が良かった。
アードラーさんとラコンもここにいるがキャロは既に夢の世界に旅立っている。ラコンはダンジョンの興味深々で目を輝かせている。
それにここにいる多くの者が戦いに身を置いた経験を持つものばかりだ。有意義な意見が聞けるだろう。
不参加といえばライカくらいだが、今日もあの小さな可愛らしい暴君が暴虐の限りを尽くしていたので彼女を連れて戻っていった。キャロが早めに撃沈したのは彩華と遊んでいたからでもある。
そろそろライカの精神状態も配慮してやらないといけないかもな。今日の顔色はなかなか悪かった。
俺はまだだが既に夕食も終えた時刻であるものの、この場には軽食が用意されている。主に菓子が多いようで女性陣が多く手を伸ばしている。俺の腕の中のシャオは夕食の後でこれなので食べ過ぎて少々苦しそうだ。やめときゃいいのにと口にするとシャオの知らない所で甘いお菓子はずるいと何故か俺が怒られた。
ソフィアのメイドであるアンナが差し出してくれた飲み物を礼を言って受け取りながら如月の話を聞く。
「31層の外観はこれまでと多少違っているね。これまでは灰色の石畳が主だったけど、ここからは白っぽくなっている。これから映像に出るけど、隠された罠の発見には少し役立ちそうだね。もっともこのダンジョンの性格からしてそれだけとは思えない」
「ええっと、早速話の腰を折って悪いんだけど……ナニコレ?」
始まったばかりでまず状況の説明をしている如月にリノアが待ったをかけた。ああ、そういえば彼女はこいつの存在をまだ知らなかったかもしれない。
「ん? ああ、カメラの事か。確かにこの存在を知らないと状況が掴めないね。すまない、説明を省いていたよ。この映像はユウキがこの集まりのために31層を撮影してもらっていたんだ。僕たちだけなら必要ないんだけど、ここの特性がそれを許さないから」
肝心のカメラの説明をしていない如月だったので俺が現物をリノアに渡してやった。
この品は少し前に登山をした際、仲間に乞われて景色を撮影する為に頭に取り付けた小型のものだ。あれ以降、結構な頻度で日の目を見ているが、こんな使い方をするのは想定外だ。
だがこれまでは俺が見ていた光景を<共有>していたが、これもスキル封印で使用不可にされた為、仲間とも情報共有するために出番となった。
そのため仲間以外にも見せる事が出来るのは思わぬ収穫だったが。
「これで目の前の光景を切り取って保存しておけるんだ。そしていつでも好きなときに見る事ができるってとんでもない代物さ。もちろん見るにはいろんな道具が必要になるけどな」
「リノアに解りやすくいえば料理の調理風景なんかも保存しておけるぜ。名人の技術や動きなんかはとても参考になる」
「異世界って本当にとんでもない世界ね。こんなアーティファクトみたいな品を当たり前みたいに使うなんて。あ、あと玲二の言ったものは後で見せて」
如月に話を続けて下さいと告げてリノアは引っ込んだ。
「じゃあ、基本的な情報から続けるよ。面積としては1層から約30倍ほど広くなっているね。これはユウナさんが書き起こしてくれた経路図から見ても明らかだ。これが1層、こっちが31層」
如月の手にはユウナとレイアの手によるウィスカのダンジョンの詳細な地図がある。本来ギルドが大枚はたいても欲しがる品ではあるが、階段の位置が毎日変わるここだとそこまで価値はないように思える。だが、ここで稼ごうとする冒険者達にとっては、挟撃を受けない場所など安全な狩場を確保する為に必要な情報だ。事実、俺がここに来るまではギルドも6層以降の詳細な地図は持っていなかった、というか冒険者側が秘匿して提出していなかった。ここに挑むやつ等はどいつもこいつも超一流なのでそれなりに態度が大きく、ギルドとしても強く出れなかったそうだ。
そもそも全て暗闇が支配する6層から10層の詳細な地図など<魔力操作>で細部まで把握する俺でなければ作成できなかったと思うが。
冒険者側が他に出し抜かれるのを嫌がって知り得た情報の秘匿に走り、その結果として全体の攻略が停滞してしまった面もあるだろう。16層のあの抜け道を探す共同作戦も俺に後塵を拝して焦った連中がようやく手を組んだから行えたようなものらしいし。
「ユウキが言うには罠の数も倍増しているそうだ。その分、宝箱の総数も増えているから収穫は増えるけど、移動距離が増すだけ攻略難度は上がっていると考えるべきだと思う」
このダンジョンは階段と宝箱、そして罠の位置も毎日変動するから地図に記載する意味がない。31層のは罠の総数は今日は122個だった。まだ初日なので情報の蓄積は行えていないが、明日もこれくらいはあると見ている。
「そして特筆すべき情報としては、階段を下りてすぐの場所に帰還石がこれ見よがしに置いてあったということだね。これが偶然なのか、敢えて置かれているのかは明日もう一度行って確認する必要があるね」
「アレを考えると多分敢えて置かれているんじゃないかなぁ。今思うと、いかにも危ないと思ったらこれで帰還しなよ、といわんばかりの配置だよあれ」
俺の肩に乗った相棒がそう意見を出したが、実に同感だ。あの層の悪辣さと時折用意されるお助けアイテムを考えると創造者の意思であるように感じる。だがこれもまだ予想だ。明日行けば解る話である。
「そんなことがあったのか。その時間は丁度実技の時間でアホ共を泣かすのに忙しくて見れてなかった」
「玲二さんは程々になさった方がいいですよ。あれでは不必要な諍いを生んでしまいます」
「あっちが喧嘩を売ってくるのが悪いんですよ。それに半分じゃれあいみたいなもんですって。じゃないと一月(90日)以上も向こうもやりはしませんよ」
男の喧嘩と女のそれは性質が違うからな。俺も玲二の喧嘩相手を見た事があるが、あれは互いを高め合う類いの喧嘩だから放置している。男の喧嘩は陰湿でなければ綺麗にカタがつくもんだ。
だがソフィアには少々刺激が強すぎたようで不安に思ったらしい。俺がソフィアに頷いてやるとそれで彼女も安心したようだ。
「まあ、概要としてはこんな所かな。一番大事な話が残っているけど、そこは当事者であるユウキに話して貰ったほうがいいと思うし」
映像を交えて31層の話をしてくれていた如月がこちらに話を振ってくる。え、俺この映像の使い方知らないんだけど。
<そこはこっちで上手くやるよ。あの二つの大問題はユウキが話したほうがいいよ>
<まあ、そうか。ありがとう、代わるよ>
<念話>で礼を言った俺は如月が椅子に座るのと入れ替わりに立ち上がった。
「如月があらましは話してくれたので、俺が本題に入ろう。皆も何が起きたかは大体聞いていると思うが、この31層の最大の特徴は自分の持つスキルが何もかも封じられる事だ。回避方法は今のところ不明で、俺としてはスキルを全て封印された状況で探索を行う他ないと考えている。意見をくれる際はその前提で話して欲しい」
「スキルが封印って一体どういうことなの?」「それってどこまで弱体化されるんだい?」「前提を遮ってなんですが、その攻撃は本当に防げないのですか?」「聞いた話だとスキル封印”攻撃”だということだが、ダンジョンの罠ではなく攻撃と判断した根拠を聞きたい」「もし攻撃なら回避や防御も可能じゃないの? 結論を急がずにまずそこから考えてみない?」
俺が周囲を見回して意見を募ると、多くの者が声を上げた。<並列思考>で聞き取る事は出来たが、次からは挙手してもらおう。まずはリノアの質問から答えるか。
補足だが順番はリノア、バーニィ、ジュリア、アインとセリカだ。皆、俺の私事なのに議論に参加してくれて実にありがたい。
「スキルが封印ってのはそのままの意味だよ。例えばリノアが持っている……料理スキルも全部没収される。ダンジョンから出れば解除されるが、それまでは永続的に効果が発揮されるみたいだ」
「弱体化なんだが、これもより具体的な検証が必要だけど、スキルを持っていない一般人並みの動きになっちまう。いきなり体が重くされて満足に動けなくなる」
「今の所回避方法は見つけていない。俺があらゆる毒や状態異常が効かないのは皆知っているだろ? それでも食らったし、そもそもどんな方法でスキルが封印されたのかも今は判明していないんだ。いずれそれも解明したいが、まずはその封印状態でも可能な攻略方法を見つけ出してそれを確立させることを優先したい」
「俺が攻撃だと断定した理由だが、これは映像に残っているかな? ああ、ここだ。この赤くてデカいオーガと戦っている最中に封印を食らったんだ。探索の間ではなく敵と戦っている途中で食らうって事はこの瞬間を狙い済ました攻撃だと判断した。実際近接戦闘中に不意に体の動きを止められると洒落にならないのはお前も解るだろ?」
「俺も29層みたいにダンジョンの罠の一種とも最初は考えたんだが、これを食らう時期が全部戦闘中か、戦闘開始する瞬間でな。何者かの意思を感じずにはいられない。この封印が魔法の一種であればそれを防ぐ魔導具もつけてみたんだが、何の意味もなかった。そして一度これを食らった後もユウナやレイアを連れて検証したんだが、どうにも攻撃範囲がはっきりしないんだ。レイアが封印攻撃を受けた時、俺はかなり離れた場所にいたんだが、それでも俺ごと封印された。だからもういっそ全てスキル封印されたものとして行動するほうが早そうだと思ってな」
俺は一つ一つの質問に答えると皆は黙ってしまった。<共有>で繋がっている仲間は既にこの辺りの話をしているので、今のはそれ以外の皆への状況説明に近い。
「しかし映像で見るとデカいしおっかない敵だな。こいつ31層にいるし、結構強いんだっけ?」
「レッドオーガ・ウォーロードは新大陸の奥地に生息するようですが、討伐されたという記録は残っていません。それでも古い情報を探ると200年ほど前に一体を相手にAランク冒険者が2パーティで挑んで敗北したようです」
玲二の言葉にユウナが答えてくれた。先程触れたが、帰還石で逃げ帰った後にユウナを連れて検証する為に数回31層に出向いている。いくつかの状況を試して検証は行ったが、何らかの魔力の痕跡も感じないまま俺だけではなくユウナも一方的にスキルが封印された。
その後、レイアも追加で参加して数回検証したのだが、今日一番のお手柄はレイアだった。
鍛え上げたスキルを封じられると一般人並みの力にされてしまうといったが、実際は上がったステータスはそのまま使えるので肉弾戦は技量の問題を除けば行えるのだ。それでも馬鹿力を持った一般人なのでそこまで強力ではないと考えてはいるが。
そして強靭な肉体を持つ魔族のレイアは俺やユウナよりも容易くオーガを屠れたので、ロキの分身体を階段に置く事で何度も30層の転移門を用いて行き来が可能となり、数多くの検証を行う事ができたのだ。
その検証と日課の獣王国に顔を出していたので冒険者ギルドに向かったのが遅くなったのである。
しかし本当に29層に比べると初日で検証を重ねられたのは大きい。あっちはまず辿りつくまでに時間を要して、全貌を暴きだすまで30日近い日数を必要としたからな。稼ぐ日と検証する日を分けたのでその分時間がかかったのもあるけど。
「でもさ、スキル封印は酷い問題……ユウキなら何とかなると思うんだけど」
バーニィが遠慮がちに口を開いた。周囲の皆がいやいやありえないだろという顔をするが、実は彼の言葉に頷ける部分はある。
「まあな。実際、一つ一つの戦闘に区切れば対応は出来るんだ。検証を行った時も毎回封印食らったが、その時は剣を持ってたから切り伏せるだけでいいし。それになによりスキルって意外と代用品が魔導具に結構あるしな」
魔法を封じられても宝珠や使い捨てだがスクロールで魔法攻撃はできる。<アイテムボックス>の代わりはマジックバックでなんとかなる。そもそも29層の攻略は自分で魔法を封じる指輪を嵌めていたのである意味魔法を封印されていたようなものだ。
「ちょっと。じゃあなんてこんな仰々しい集まりにしてるのよ。なんとかなるならそれでいいじゃない」
リノアが呆れたように不満を口にするが、さっきから卓の上の菓子を食べつくす勢いで腹に収めているお前はこの件がなくても遊びに来ていただろうが。俺が来て欲しいと思ったのはバーニィだけで後は何かやるの? とばかりに集まってきた連中だろうに。
これは元々仲間内で済ませる話だった。スキルが封印されてダンジョンの中では<共有>を用いた情報交換が出来ないから映像を録画して皆が見れるようにしただけで、実際に29層の攻略時には仲間だけで話し合っている。
まあ、話を聞いてくれるだけ悪い気はしないけど。
だが、この件の問題はまだいくつもあるのだ。
「宝珠もスクロールも一回だけの消耗品なんだよ。宝珠は再度魔法を籠められるが、魔法を封じられたら一度外に出る必要があるから、継戦能力は皆無だ。それに俺の性格は知ってるだろ、いくら自信があっても毎回近接戦闘なんて絶対に御免だ」
ただでさえ各種スキルを封じられて素人のような動きしか出来ないのだ。いくら愛剣が俺の魔力を吸って最高の切れ味をしていても、綱渡りのような肉弾戦を続けたらいつかしくじる日が来る。
それが明日でない保証などない。
俺の戦闘は極限まで危険な要素を削ぎ落とした”作業”であるべきだ。相棒はいるが、一人でこんな頭のおかしいダンジョンに挑む以上、不必要な危険を冒すべきではない。
この地での自分の取るべき戦法は唯一つ。常に遠距離から攻撃で一方的に数で攻めるのみだ。ただでさえ敵が数の暴力で押すダンジョンなのだから、こちらから距離を詰めるのはあの増援地獄である21層だけで十分だ。あそこは自分から攻めた方が結果的に危険は少ないという異常な階層なのだ。
そしてこの31層にはもう一つの大問題、ここは俺が近接戦闘を絶対に行いたくない理由がある。
これに気付いた時にはこのダンジョンの製作者を尊敬したくなった。その根性の極悪さに。
「で、ここからは極秘情報で、皆も黙っておいてくれ。このレッドオーガなんだが……倒しても生き返るんだ」
「「「はぁ?」」」
皆の声が揃う。気持ちは俺も解るぞ、あれを実際に確認した瞬間は驚きを通り越して呆れたほどだ。
この事実を知っているのは仲間だけだ。といってもその瞬間はスキル封印されていたので知識として理解しているだけで実際に見てはいない。もちろんそれを納めた映像もあるので如月がその場面を映し出してくれるのだが、その寸前で彼に待ったをかけた。
「ああそうだ。ソフィアにレナ、雪音と多分リノアも目を瞑っておいたほうがいいぞ。あまり女性には見せたくないものが出るからな」
なにしろレッドオーガの脳天唐竹割りや胴体を両断する光景が流されるはずだ。こういったものを見慣れていない人には刺激的だろう。俺も信じない人のために見せるが、他人に積極的に見せたいとは思わない。
既にシャオは雪音の腕の中で夢の世界だし、イリシャは先程映像のレッドオーガを見て怖くなったらしく、先程まで俺が座っていた椅子に頭を突っ込んでいる。
確かにあのオーガはなかなか迫力がある面構えだ。胆力のない奴なら驚いて腰を抜かしても不思議はない。
「これは……面倒だね。塵に帰る途中のモンスターがそのまま動き出してる」
映像ではレイアの貫手で腹を貫かれたオーガが、塵に帰りつつもレイアの腕を取ろうとして、俺の魔法で頭を吹き飛ばされた。
また新たな映像だと俺の剣で頭を両断されたはずなのに、それに構わず腕を振り回すオーガの姿があった。
俺の頭の上に居座った相棒が映像を指差しながら続けた。
「ここで一瞬硬直するからそこで判定入っているんだと思う。ってかさ、食いしばりは神スキルだってのには同意だけどさぁ、全部のオーガが標準装備してなくてもいいと思うよね。しかも普通の食いしばりじゃないし」
改めて<鑑定>してみたら、奴には所持スキルが二つもあった。一つは煩いのでこの映像は音声を切っているがひたすら叫んでた”戦の咆哮”で、自分の攻撃力上昇と相手への行動阻害能力を持つ。
実際耳にすると煩いわ近距離で耳にすると体が痺れたようになるわで近寄りたい相手ではない。
そして大問題なのが次の”意地の食いしばり”だ。こいつが本当に厄介なのだ。
「こいつのスキルだが、確定で一度は必ず発動するし、最悪な事にその後も確率で何度でも発生するんだ。今日の検証でも同一個体で最大4回発生した。つまり徹底的に死ににくいときた。こっちはスキル封印で思いっきり弱体化してるのにな」
俺の心からの溜息に応接間の皆から同意の吐息が漏れた。だがこの話には続きがある。
「だがこいつのスキルを発動させない条件も見つけた。一撃で頭部を破壊すれば復活しないらしい。だが剣で両断だと復活するからもっと破壊力のある一撃で頭部全体を砕く必要があるみたいだけどな」
俺が魔法で片付けている間は食いしばりが発動しなかったのは図らずも弱点を効果的に突いていたからのようだ。それが発覚するのがスキル封印されて弱体化した後と言うのがなんともついていない話だ。
俺が無様に逃げ帰るきっかけとなった最初に封印攻撃を食らった時も俺はオーガの心臓を貫いたはずなのに普通に復活してきた。そして面倒な事に、こいつらの習性で周囲に仲間が存在すると敵を倒すために自分を捨て石にすることに躊躇いがない。本能に忠実なダンジョンモンスターらしいというべきか、生存本能が皆無なおかげで己ごと敵を殺せとばかりにしがみ付こうとして来るのだ。
こちとら妹と娘以外に抱きつかれて喜ぶ趣味はない。それが筋肉の塊のオーガなら尚更だ。
俺がこのままでも何とか対応できるにもかかわらず遠距離攻撃以外したくない最大の理由はそれである。
「という感じの31層なわけだ。そこで対策が必要なんだが……」
俺の言葉にこれまで黙っていたレイアが口を開く。
「とりあえず我が君の方針として遠距離攻撃で対応したいと言うのは理解できる。だが、その方法は非常に厳しいと言えるな。宝珠や使い捨てのスクロールを用いてもあのレッドオーガを一撃で仕留められるかは疑問だ。よほど上手く頭部に命中させねば結局また復活を許すことになり結局は二度手間だ」
彼女の言葉に頷いた俺は一人の女騎士に視線を向けた。
「ジュリア、君の意見を聞きたい。宝珠で離れた敵の頭部を狙う事は可能か?」
ジュリアはリルカのダンジョン攻略以来、宝珠での攻撃に磨きをかけている。幾つもの宝珠を平行励起させて特大威力の攻撃を放ったりと凄腕を超えて誰も届かない境地に足を踏み入れている。
もちろん俺もそんな真似はできない。彼女だけの極めて特殊な才能だが、そのおかげでジュリアは魔法の修行を一切行わなくなってしまうという弊害が起きてしまった。確かにあれだけ宝珠を扱えればこれを極めてみせると思うのも無理はないが、彼女は魔法王国ライカールの子爵令嬢なんだよな。魔法が使えないとマズいと思うが……話がそれたな。
「不可能だと思う。ユウキ様が籠めて下さった特別な魔法なら直線上に進むのであるいは可能ではないかと思うが、それ以外の魔法は広く放射状に魔法は発動しますので」
俺の雷魔法なら強い指向性を持つのでもしかしたらという話だが、可能性は低いだろう。そもそも魔法はある一点を狙う精密射撃には向いていない。俺はスキルを用いて魔法を凝縮させ、回転を与えて超高速で撃ち出す事で狙いをつけているが、スキル無しではとてもできる気がしない。
他の方法を考えた方がいい。
それからは皆を交えて色々な意見が出た。
やはり遠距離攻撃手段としては弓が最右翼だが、威力が絶望的に足りない。鏃の部分を特別製にする事で着弾と共に魔法効果を生み出す魔導具じみたものもあるというが取り寄せるのに時間がかかる。
威力の出る複合弓、長弓もあるがこれもオーガの頭部に刺さる事は出来ても食いしばりを起こさないよう吹き飛ばす事は不可能だろう。
さらには弩を用いる事も案として出た。弓矢とは桁違いの威力を出すことが出来るが、それでもまだ威力が足りない事、そして連射が効かない事が問題視された。これまでの階層と違い、敵の数はそれほどでもないが、再出現の速さはこれまでと変わらない。マジックバックに大量に装填済みの弩を用意しておくにしても前後から15体近い敵に殺到されるとすぐにジリ貧になるだろう。
本採用には程遠い結果である。
宝珠を用いた方法が一番無難である事は解っているが、これでは結局一度きりの方法で相手の復活を許してしまう。これでは正直あまり意味がない。二回攻撃すれば確実に倒せる保証がない現状では、食いしばりそのものを起こさない方法こそ求められている。
悩んでいてもいい案は浮かばないので、先に仲間のスキル問題を解決しておく事にした。
仲間たちが持つスキルはユニークを除いてすべてが俺が取得したものを<共有>されているが、スキル封印によって彼らはユニークスキル以外何もスキルをもっていない状況に戻されてしまった。
今回だけならまだしもしばらくこの状況が続くとなると、彼等自身に望むスキルを取得させた方がいいと判断した。特に玲二と雪音は魔法学院の学生である。これまでは俺の各種スキルで魔法の行使をしていたが、これからはそれが不可能になる。
最悪の場合、俺の探索時間を皆が寝静まった深夜に行う事で彼等への影響を最小限に抑える事も考えたが、これは仲間たちの強硬な反対を受け頓挫した。
「だがスキルポイントはユニークに振りたいんだよな。こいつを最大にまで上げてから他のスキルを取得したかったんだよ」
「そうは言っても各種魔法スキルは取っておけって。授業中にいきなり魔法が使えなくなったらどうするつもりだよ。俺みたいに一気に全部とれって訳じゃないんだ。各レベルを多少上げておけば基本ごまかせるだろ」
習得に必要なスキルポイントも思わぬ事実判明して解決された。
なんと今日だけで各自のレベルが200近く上昇していたのだ。どうやらレッドオーガは非常に大きな経験値を持っていた事になる。それに彼等のレベルが4桁になると何故かこれまでより簡単にレベルが上がるようになっている。
今日のレッドオーガの打倒数を考えても一匹につき1レベル上がっていると見ていいだろう。
これにより仲間たちは一旦ユニークスキルのレベル上げを中断して生活に必要なスキルを取得するのだった。
「しかし、どうすっかね。このままじゃろくな対策が見つからないぜ」
時間も遅くなったので皆には一旦解散してもらった後、仲間たちだけで会話をしている。シャオは既に寝入っており、イリシャは俺の膝の上でまどろんでいる。
「最悪、このまま無理矢理突っ切る他ないかとも覚悟しているが、何とか攻略法を見つけたいな。これが29層ならゴリ押しでも何とかできたが、これからはそうはいかない」
29層も大分苦労させられたが、あのときはここを抜ければ30層、つまり転移門があるはずという予測があり、二度とここを通る必要がないからたとえ幸運に恵まれただけでも突っ切ってしまえば良いという考えがあった。
だがここは31層だ。そしてこれまでの各層の流れを考えると、このスキル封印が下手をすると35層までしばらく続くのではないかという予測が立つのだ。
もしそうならなおの事対策を攻略法を見つけ出した方がいいと思っているが、なかなか上手くいかないものだ。
「なあ、イリシャは何か見えてたりするか?」
「おい玲二……」
「わかってるって、ユウキがイリシャの能力を頼りにするのを嫌がるのは。でもここまで妙案がないとイリシャは何か見えてないかなと気になるじゃんか」
俺は妹の能力目当てでイリシャを家族にした訳ではない。だから余程の事がないと何も心配するなと伝えているし、こちらから尋ねる事もしなかった。
今の玲二の言葉に何も気にするなと伝えようとしたのだが、当の本人が玲二の言葉に反応して顔を上げてしまった。
「ああ、イリシャ。別に気にしなくていいぞ」
「特になにも。普通にバンバン先にすすんでたし……」
それだけ告げて妹は再び俺の膝の上で夢の中に出発した。
「やれやれ。いったい何をどうやってたのやら」
溜息をつきたくなった俺だが、そこではっとした顔をした如月が目に入った。
この顔、さては何か思いついてくれたのか?
ここは俺達とはまるで違う異世界人の発想に期待するほかない。
「今のイリシャが図らずも答えを告げていたよ。遠距離攻撃かつ精密射撃も可能で相手の頭を一撃吹き飛ばす威力の持ち主に、一つだけ心当たりがある」
さすが如月だ。俺の思いつかないことを簡単にやってのける。
こうして俺は仲間の一声で31層の攻略の鍵を手に入れるのだった。
「というかこれしかないと思う。銃を創ろう、それも大口径の大型拳銃を」
楽しんで頂ければ幸いです。
この章は二丁拳銃でバカスカ撃ちまくって敵を蹂躙する階層になりました。超絶リアリスト主人公もロマンの一欠片くらいはあります。
もちろん簡単に創造は出来ません。次回はその話になります。
もしこの拙作が皆様の興味を引いて頂けましたら評価、ブックマークなど入れていただくとこれに勝る喜びはございません。何よりも作者のモチベーションが鰻登りになります。更新の無限のエネルギーの元になります。




