30層の真なる主 4
お待たせしております。
「とまあ、そんなことがあったわけさ」
俺は今日の勤めを果たす為、獣王国のアードラーさんの屋敷に赴いていた。そこで俺の話を聞いていたのは二人の人物だ。それぞれ別の反応を示している。
「凄いなぁ、ダンジョンって何でもありなんですね」
「ラコン、感化されちゃダメよ。そんなこと普通の人間に出来るはずないじゃない。私だってこの目で見なきゃあの猫がダンジョンボスモンスターだなんで信じられないもの」
ラコンとエレーナの視線の先にはシャオとキャロがエノコログサという草木を使ってでぶ猫と遊んでいた。猫の習性なのか、ブラシのように長い穂が目の前で振られると飽きもせず何度も手を出して幼子たちを楽しませている。
「にゃ、なんニャこれは! 何故か手を出さずにはいられないニャ!」
「なんか普通に喋ってるし。あんな姿なのにやっぱりモンスターなのね。あの子に懐いているようだけど、本当に危険はないの?」
「そこのところは調教師に詳しくないんでなんとも言えないが。そっちに知り合いとかいないか?」
俺は膝の上で眠る妹を起こさないように注意しながら話を続けた。夢の中のイリシャ曰く今日は朝の仕事が終わったら暇らしいので俺にべったりだった。こっちも本当は31層に下りてみたくなったのだが、この30層のボスとの遭遇により予定は大幅に変更を余儀なくされた。まあ、こういう日もあるさ。
「普通一線級で活躍するテイマーっていえば小動物を使って補助をさせるのが最適なのよ。ソロで活動するならともかく、パーティを組むとなると使役する獣次第で戦い方も変わってくるし。私の知るテイマーは主に小鳥で広範囲の索敵を得意としていたわ。というかそもそもダンジョンモンスターってテイムできるの? 聞いたことないんだけど」
「出来たんだから仕方ないだろ? そういうものだと納得してくれ。あと一応秘密な」
俺の突き放したような態度に一瞬眉を寄せたエレーナだが、聡い彼女はそれだけで大まかな想像を働かせてくれた。随分と察しがいいなと後に聞いてみたら、俺が何故血の繋っているようには見えないシャオを娘として育てている理由を考えてみたそうだ。
はっきりと口にはしないが、俺の娘がユニークスキルもちである事も推察できたらしい。
俺は彼女に広い世界を見せてやりたいと思ったのは確かだが、ユニークスキル保持者を独占したいわけではない。あの村で出会った時もまさかこんな関係になるとは思っていなかった。
村が焼かれて行き場を失い、そしてまたメイファと共に帝族として生活させるのも本当に彼女のためになるのかと疑問に思ったのもあるし、その頃にはシャオと離れがたく感じていたのもある。
だがそれは姉であるメイファと引き裂いてしまったことを意味する。
あの土砂で埋まった隧道を開通させないとなとその都度思うのだが、あそこまでたどり着くのに一苦労だし、シャオも何時になったらメイファと会えるのかと俺に問いかけてこないのだ。
結構寂しがりなはずの我が娘がメイファのことを口に出さない事に違和感を感じつつも、現状はそれに甘えてしまっている。だが、あれは個人で行う工事じゃないよな、国家が責任を持ってやるべき事業だと思う。そもそもあそこの土地がどこの国家に所属しているのかさえ解ってはいないのだが。
「みなさん、こちらでしたのね」
「あ、ママ!」
俺の背後からセレナさんが声をかけてきた。その後ろにはラコンのメイドであるコーネリアが控えており、彼女は給仕カートを引いている。どうやらお茶の準備をして下さっていたようだ。
「あ、お気遣いいただいてすみません」
「何を申されます。我が家の大恩人であるユウキ様に最上のおもてなしをするのは当然の事です」
「いえ、この度もご迷惑をお掛けして、大変申し訳なく思っています」
「そのことも元をただせば我が子のために行っていただいた事。感謝こそすれ何を迷惑に思うことがございましょうか。さあ、皆さんも一息入れて下さいな」
セレナさんは背後のコーネリアに頷くと、彼女は茶の準備を始めた。そうすると食べ物の気配を感じた妹がむくりと起きだした。さっきまで人様の家で失礼だぞと揺すっても声をかけても起きなかったのにこれである。我が妹もいい感じになってきた今日この頃である。
「おいしいにおい……」
「はい、今日はチーズケーキを焼いてみました。といいましても材料はお客人からのご提供なのですが」
「ですので本当にお気になさらず召し上がって下さいな。本来この事もお礼申し上げなくてはなりませんもの。こんな品質の高いバターとチーズを見たのは初めてです」
そういえばバターやチーズを如月が昨日渡していたな。この大陸産の品を使って最高級の加工品を作ると言うのが最近の彼の趣味だ。創造するのもいいが、やはり作り出した物は品質が一定となっており、新鮮な驚きが足りないという求道者みたいな事を言っていた。
おかげで時間の進行の早いマジックバックは完全に如月の私物のようになっているが、彼が一番使いこなしているので何も問題はない。それにその猛威を知ったエドガーさんが伝手を使って不用品に近い扱いを受けているというそのマジックバックを回収していると聞くから、彼の野望は留まる所を知らない。
その最高の品がエドガーさんの店で大量の金貨に化けて彼も笑顔になるという好循環になっている。
「仲間に凝り性がおりまして。いくらでも都合つけますので、何でも仰って下さい」
「じゃあ、あまいソースかけてほしいの! あの青い果実のやつがいい!」
「キャロ。頂き物なんだから、少しは遠慮しなよ」
おやつの気配を野性の感で感じ取ったキャロがこちらに駆け込んできた。そのすぐ後にはシャオとでぶ猫の姿もある。そういや何時までもでぶ猫ってのも変だな。名前をつけてやらんといかんか。
ちなみに青い果実とはブルーベリーソースの事だ。玲二がバザールでいいものを手に入れたのでジャムと一緒に山ほど作って<アイテムボックス>に瓶詰めになっている。
「気にするな。キャロくらいの子はお腹いっぱい食べて寝るのが仕事さ。お前も遠慮するなよ、俺達の仲じゃないか」
「あ、ありがとうございます。じゃあ、僕も……」
実に4桁近くある青い果実を使ったソースの瓶詰めを渡してあげると、今度は隣の美女が声を上げた。
「私は紅茶に蜂蜜を入れたいわね。噂に聞いたんだけど、いろんな種類の蜂蜜があるそうね。ギルドの受付嬢が話していたわ」
持ってるんでしょ? と言わんばかりの態度で接してくるエレーナに俺は無言で蜂蜜の詰め合わせをだしてやる。これはどこだったかな、ああ10何層かで会う蜂の親玉が落とすやつだっけか? しばらく行っていないから忘れつつあるな。こういうときに助言をくれる相棒は今ソフィア達と彼女のお相手中である
「また当然のように出すし。へえ、本当に色が違うのね」
「ああ、詳しい仲間に聞いたら、蜂がどこから蜜を集めてくるかで変わってくるらしいな。花とか樹液とか終いにゃハーブでさえ取れるらしい。パンにつけて食べると色々風味が違って面白いぞ」
貧乏舌の俺も仲間のおかげで色々な実体験をこなしてそれっぽい事を言える様になってきた。だが本質は変わっていないな。俺は基本食えりゃなんでもいい人種である。これらの作物も戦利品として手に入れているだけで金を出して買おうとは思わない。
唯一つの例外は俺の目の前の光景だけだ。
「シャオはここにすわる。お姉ちゃんといっしょ」「うん。えへへ」
妹と娘が仲むつまじく過ごしているだけで、俺は何でもしてやろうという気になる。そのためならどれほど金貨を積もうが構いはしない。
「本当に二人は仲がいいのね。出会って一月(3ヶ月)足らずなんてとても思えないわ」
エレーナが優しい視線で俺の家族を見ている。
「時間より密度だと思ってるさ。実際、俺がイリシャを出会ってからまだ半年も経ってないしな」
「偶然出会ったその子が世界で唯一の覚醒した時の巫女なんて、本当に巡り会わせってあるものね」
今微妙に聞き捨てならない台詞を口にした彼女に聞いておく事にした。
「その世界で唯一ってのはどこ情報だ? 巫女関連は詳しくないが、俺の妹に面倒事は勘弁だぞ」
俺が険しい顔をしているのを見たエレーナは逆に驚いているようだ。
「へっ? 何を言っているのよ。能力が覚醒した巫女なんてどんな時代も世界に5人といないわよ。今わかっているだけで新大陸に一人、旧大陸に二人よ。そしてその子が本当に覚醒した巫女として認められる公会議が来月に行われるじゃない」
何故兄のあんたが知らないのよ、といわんばかりの顔をするエレーナだが、こっちの驚きはそれ所じゃない。
完全に初耳である。
隣でケーキを頬張る妹の顔を見れば、露骨に視線をそらした。
これは敢えて俺に話していない感じだな。
「イリシャ。後で話をしようか」
「ん、とくにもんだいはないから大丈夫」
「そういう話じゃない。まったく、コニーやアイラさんまで抱きこんだだろう」
後でお説教だなこれは。何かまずい事を言ったかしらと不安な様子のエレーナに俺は感謝を述べる。兄貴が妹の一大事に何も知らないなどあっていいはずがない。
「ニャ? そうニャ。人間は定期的に食物をとる必要があるんだったニャ」
俺がいる卓に皆が集まっているのでそれを不思議そうに見ていたでぶ猫が言葉を発した。本当に今更だが、こいつもロキもどうやって発音しているのだろう。喉の機構が違うと発音そのものが違うはずだが、気にしてはいけない問題だろうか。
まあそんなことより先に聞いておくことがあるな。
「そういえばお前は何を食うんだ? 猫が食べちゃダメなものは止めといたほうがいいよな」
俺は全く詳しくないが動物好きな雪音がロキのときに色々確認していたのを思い出す。だが猫からの返事はあっけないものだった。
「我は階層主として創造主より生み出された存在ニャ。栄養と摂取する必要などないニャ」
まあ、それはその通りか。こいつの口振りでは数千年近くずっとあの30層に存在していたようだし、その間に食べ物をとっていたとは思えない不思議生命体だしな。だが俺達は食べてこいつだけ食わないってのはな、と思っていると飼い主として飼い猫を世話しなくてはいけないと思ったらしい娘が立ち上がると自分の皿に残っていたケーキをかなり逡巡しながら差し出した。
おお、偉いぞシャオ。よく我慢した、褒美に俺の分のケーキを贈ろう。
「はい、ねこさんの分」
「あ、主しゃま。我は別に……いえ、いただきますニャ」
俺の娘が自分が食べたいのを我慢して差し出したケーキが食えないとでも言うつもりかと殺気を放つと猫は素直に口に入れ、そのまま固まった。
「お、おい、まさか食べたらダメな奴だったか?」
回復魔法ってこいつにも効くのだろうかと自問していると、不意にでぶ猫が顔を上げた。
「く、口の中に幸せが大暴れだニャ! こ、こんニャおいしいものがこの世界にあったニャんて!」
どうやら感激したらしい。驚かせやがって。興奮してにゃーにゃー鳴いている猫をシャオがわっしゃわっしゃと撫で回している。俺はコーネリアに視線を向けると、全て心得た彼女は猫用のケーキを切り分けてくれた。
「こんなダンジョンモンスターがいるのね。世界は本当に広いわ」
感心というより呆れているような声を出すエレーナに俺は同意した。
「あそこだけが特別な感じはするがね。俺もボスの間に行ったら驚いたよ。中央でこいつが爆睡してるんだぜ? ダンジョンじゃ命取りとはいえあの時だけは一瞬気を抜いちまった」
「そりゃあねえ。しかし噂に聞くウィスカか。相当にとんでもない場所なのは間違いないようね」
「興味があるなら一度行ってみるか? クロイス卿も連れていった事があるから不公平と言われたくないしな」
「何ですって!?」
俺はあくまで話題のひとつとして話を振ったのだが、彼女の反応は劇的だった。
「あいつ冒険者を引退したって話じゃないの? 何で私があれだけ誘ってもダンジョンに見向きもしなくなったのになんであんたと行ってるのよ!」
あかん。余計な地雷を踏んだようだ。クロイス卿、本当に自分の女の始末はそっちでつけてくれ。何故俺があんたに惚れている女を宥める義理があるんだ。
「俺が彼とダンジョンに行ったのは金策に駆られてさ。前に言っただろ? 彼は身ひとつで敵だらけの領地に向かうんだ。絶対に信用できる部下として高級奴隷を欲しがったんだよ。その資金集めに協力しただけで、回数だって僅かだ」
実際はバーニィと共に憂さ晴らしも含めてかなりの回数を重ねていたりするが、余計な事は言わなくてもいいだろう。
「私も行くわ。今度案内してよ」
「そりゃ構わないが……エレーナの立ち回りだと少し不安が残るな」
言葉を濁した俺の反応にエレーナの誇りは傷ついたようだが、そこは彼女も超一流の現役冒険者だ。彼我の実力差も含めて、安易に反論を口にする事はなかった。
「やはり私では厳しい?」
「というより立ち位置の問題だ。クロイス卿の時は俺の友人と共に行ったし、前衛と後衛で役割が明確だったんで危なげなく対応できたが、お互い後衛だろ。下手すりゃ俺が接待する事になる。こっちは構わないが、それでいいのか?」
「それはちょっと……考えてみるわ」
微妙な空気になりかけたその場を救ってくれたのは転移環で移動してきた如月だった。
「やあ奥様。お邪魔しています」
「如月様、でしたね。早速貴方が作ってくださった品でケーキを焼いてみましたの。どうぞ召し上がって下さいな」
如才なくセレナさんと挨拶した如月は俺の近くの席に座った。玲二と如月がお気に入りなシャオは既に彼の膝の上に移動済みである。
「仕事場は良かったのか?」
普段なら王都の店にいる時間の彼がこの場にいるのは珍しいが、その理由も察している。
「時間があったからちょうど”視て”たんだけど、何かとんでもないことになっているみたいだね」
コーネリアが饗してくれた紅茶を口に運びながら彼の視線はがつがつとケーキを貪るでぶ猫に注がれている。そういえば全く食事を取らないのになんででぶ猫なんだろう。製作者の趣味だろうか?
「あの猫が本当に30層のボスだっていうのかい? 実際に視界を共有して見ていたとはいえ、未だに信じられない気持ちだよ。ダンジョンのボスって言えばもっとこう、ねえ。勇ましいと言うか恐ろしい感じがするものとばかり」
「それが普通なのだけどね。時折こんなかんじの変り種がいるという話は聞いたことがあるわ。それでも言葉を解するのは相当に珍しいと思う」
既に俺の仲間はエレーナとセレナさんに自己紹介を終えているので気安い感じになっている。
「にゃ? 主しゃまのご家族ですかニャ? そうならよろしくお願いするニャ」
如月に気付いた猫がぺこりと頭を下げた。仕草一つとっても猫のそれじゃないが、もう今更か。
「僕は如月晃一。長い付き合いになると思うから、よろしくね」
「きーちゃんはね、とってもやさしくて、とーちゃんよりせがたかいの。だからもちあげてもらうといちばんたかいの」
娘の一言が地味に俺の心に刺さる。成長期はどうなっている、成長期はまだか! 如月ほどとは言わないが、もう少し背が欲しい今日この頃だ。
よしよしとイリシャが俺を慰めてくれる。良い子である。この子が嫁に行くときには、そんじょそこらの男では絶対に許さんからな。
俺の葛藤を横目に如月と猫の間で、とある事件が起きようとしていた。
「そういえば、猫と言えばこれだけど。食べてみるかい?」
彼が笑顔で取り出したのは……何か細い袋に入った、なんだあれ?
俺が訝しげに見ている側で、猫の毛が逆立ったのがわかる。唯事ではないようだが、如月がへんなことをするはずもないし、なんなんだろうあれ。
「ニャ、ニャニャ。この魂が揺さぶられるような高揚感は一体何ニャ? で、でも逆らえないニャ」
ペロペロペロペロペロペロ……
猫が一心不乱に如月の差し出した袋の先をひたすら舐めている。その先から出る何かを飽きもせず舐め続けているようだ。
「きーちゃん、シャオもやる! シャオのねこさんだもん!」
「ほら、ここを持つんだ。徐々に出してあげるといいよ」
わかった、と元気よく返事したシャオに飛びかからんばかりの勢いで猫が向かう。そしてまたもひたすら舐め続けている。
「この世界でもチュ○ルは強いね。こちらの猫もあそこまで食いつくとはね」
如月が取り出した袋を俺達は眺めるが、なんだこれ? 異世界品なのは包装でわかるが、ゼリーより固くないな。液状おやつ?
「もっと、もっと欲しいニャ。今のをくれたら、我は何でもするニャ」
じたばたともがく猫の様子は尋常ではない。まるでカナンを食いすぎて中毒症状に陥ったみたいになっている。如月が危険なものじゃないと言っているし、試しに中毒も快癒する回復魔法も意味がなかった。つまり、このおやつが美味すぎてこいつが大興奮と言う事だ。
へえ、これは使えそうだな。
「こいつがそんなに欲しいか」
「欲しいニャ!」
「味はなにがいいかい? かつお、ホタテ、サーモン、まぐろ。果ては和牛まであるよ」
俺の言葉を受けて如月が幾つもの種類のチュ○ルを取り出す。凄い種類だなと思ってたらなんと50種を軽く越えるらしい。
「そ、そんニャに!? ああ。理解したニャ。我はこれに出会うために生まれれてきたニャ」
何か陶酔して怪しい悟りを開いた猫だが、俺には俺の目的がある。折角ダンジョンモンスターがシャオに懐いてくれたのだし、こいつの目的にも適うとあれば、働いてもらおうじゃないか。
「今のお前はシャオの飼い猫だ。だが、シャオにもしもの事があればお前もじきに死ぬ。それは解るな?」
「当然だニャ。この命は主しゃまによって繋いでもらっているものニャ。命に代えても主しゃまをお守りする所存ニャ。だ、だからそれを我に……」
最初の頃はまともな台詞を吐いていたくせに最後には禁断症状の患者みたいになっている猫を尻目に俺は契約を持ちかけた。
「今のお前は30層のボスモンスターとしては格段に弱い。だからこそテイムが成功したともいえるが、そんな力でシャオを本当に守れるのか?」
俺の言葉に籠められた気配に猫が怯んだ。俺が問うているのは頑張るとか命に代えてとかそんな生やさしい言葉ではない。覚悟を、たとえ魂魄の一欠片が消え果るその間際までどんな事をしてもシャオを守る気概はあるのか、その決意を求めているのだ。
「侮らないで欲しいニャ。我が命は既に主しゃまのもの。この存在全てを賭けて御身には不埒者を指一本触れさせないニャ。それに我の力は失せども、その権能はまだあるニャ。必要なら今すぐにでも従僕をここに呼び出せるニャ。従僕を使えば敵の排除は適わぬとも主しゃまを安全な場所に移動させる程度は何があってもやり遂げるニャ」
「いいだろう。その覚悟を受け取った。ならばまずこいつを紹介しておく。ロキ、来い」
<お側に参りましたワン>
音もなく転移してきたロキに一同はざわめくが、すでに俺と猫が事を始めた後だ。ロキの出現に口を挟む者はいなかった。
「ニャニャッ! なんて徳の高い神狼ニャ! 存在だけで圧倒されそうになるニャ」
「こいつはロキ。これからはお前の同僚になる。ロキ、お前の望みどおり、シャオの専属はこいつを当てる。お前は引き続き妹とあいつを守れ」
<承知いたしましたワン>
実はかねてからシャオの護衛の問題に頭を悩ませていた。ロキは自分が何とかすると当初は言っていたが、さっきも言ったが、”頑張ったけど無理でした”ではすまない問題だ。
ロキにどんな障害でも必ず3人を守りきれるなと念を押すと、ロキは3人同時に危機に陥ると手が回りきらないかもしれないと正直に明かすのだった。
現状のロキはイリシャとメイファについている。ただの番犬ではなく、二人に襲い繰るあらゆる災厄から守護を任せているのだが、2人なら手が回るが、3人だと確実に守れるかは断言できないと告げてきた。
こちらとしても無理を重ねて本当に必要な瞬間に失敗されては元も子もないので、誇張を交える事無く事実を報告したロキを責める事は無かった。
とりあえずシャオにはロキの分身体を張り付けていた。近いうちに手を打つつもりだったが、最適の存在が向こうから転がり込んできたのだ。
超越的な力を発するロキに圧倒されている猫だったが、話の途中である。
「これから俺の娘をよろしく頼むぞ」
「お任せあれニャ。微力ニャれど、全てを賭けて主しゃまをお守りするニャ」
そして俺は猫が差し出した手を取り、この瞬間にシャオを守る本物の守護者が生まれたのだった。
「ニャ、ニャニャ!? 流れ込んでくるこの桁違いの力は何ニャ? 凄いニャ、凄いニャ!」
「シャオが行った物とは別にお前と俺で契約を行った。お前はその力で俺の娘を何があっても護れ。力を与えて俺の眷属となったからにはもう言葉は意味を成さない。全ては行動と結果で証明してみせろ。うまくやればその褒美としてお前の元にこの菓子が届く事もあるだろうさ」
全ての猫が愛して止まないその液体おやつを俺はシャオに手渡し、猫の顔が輝いた。
そしてこいつが至福の世界に旅立つ前に、俺達はいくつかの約束事を交わした。
猫はシャオを護るのは当然だが、危機に対応はするが、迎撃までは考えなくてよい。対応はこちらでするのでこいつの担当は召喚による足止めを主とする。
魔王猫と言う種族らしいが、俺から力を与えられた事によりこいつは進化した。実力で言えばロキの方が数段上だが、この猫は召喚士の側面が強いので一概にどちらか強いかの判断はしないほうが良い。
強さはもちろん必要だが、一番大事なのは護衛対象を必ず護りきる事だ。敵対者を殲滅しても護るべき相手が殺されていたのでは意味がない。
そしてこの猫は進化した事により様々な変化があった。
まずはその姿を自由に変えられるようになった。でぶ猫の姿もなかなか愛嬌があったが、重すぎてシャオがちゃんと抱き上げれられない事があり、こいつは即座に子猫の姿に変化した。その姿に女性陣が更なる歓声を上げた事は言うまでもないことだ。
そして進化した事により、この猫は更に多くの従僕を呼び出す事が可能になった。これまでは一日に最高で12体だったものが進化により18体にまで最大値が増えたのだ。
そしてその内の15体を毎日30層のボスの間に召喚する事で話がついた。3体はいざというときの緊急用で猫が使えるようにしてもらう。
その対価は一日チュ○ル3本になるが、流石はダンジョン管理を任されているだけあって、この猫の呼び出す2種類のモンスター、クリスタルゴーレムとエルダーリッチにはある特徴があった。
それは一度の戦いで通常ドロップとレアドロップを同時に落とす事が可能なのだ。
エルダーリッチの通常品は古びた錫杖といい、金貨10枚の価値を持つ謎金属で出来た杖である。そしてレアドロップ品は逆聖者の外套と呼ばれる魔法防御の非常に高い琥珀色の防具であり、金貨15枚の価値だ。
そしてクリスタルゴーレムの通常品はクリスタルの結晶で金貨15枚。レアドロップがクリスタルコア、その価値はなんと金貨30枚にもなる。
どちらをどれだけ呼び出すのかも調整できるので、やろうと思えば全部クリスタルゴーレムで占める事も出来る。その場合は45枚が15体で合計675枚が確実に稼げる計算となる。
もちろん俺が訪れるのは30層の転送門からであり、いつもの通り背後から魔法を放つだけで即座に戦闘は終了する。
つまり俺は普段の日課に加えて一寸(分)で毎日確実に675枚の金貨を稼ぐ事ができるようになったのだ。
狭いダンジョンで生きることを強いられていた猫にとっては外の世界で生きる事が可能になり、俺は毎日の稼ぎが非常に大きく向上することになった。
互いに利益のあるよい結果になったと言えるだろう。
楽しんで頂ければ幸いです。
やはり海外で猫用コカインとまで言われるアレは凄かったということで。
いな○食品さんはなんてものを作ってしまったんだ。
一応この場での話がもう一話続きます。次は水曜日にお会いできればいいと思います。
もしこの拙作が皆様の興味を引いて頂けましたら評価、ブックマークなど入れていただくとこれに勝る喜びはございません。何よりも作者のモチベーションが鰻登りになります。更新の無限のエネルギーの元になります。ブックマーク一つで私は有頂天になります!




