30層の真なる主 2
お待たせしております。
「きゃーーっっ!!! むりムリ無理むり! もうダメだ! これ以上は無理だぞ!」
「まだまだ。ほれ、追加が来たぞ、ゴブリン21体」
「ひゃあ! 手一杯だって言ってるだろ! 手伝ってくれって!」
「はっはっは。この程度ならまだ大丈夫だ、自分を信じろ」
「お、お前、あとでおぼえてろー! うわ、気持ち悪いのがまた来たぁ! ひぇっ、こ、こっち来るなぁ!」
わーきゃー言いながら一層のゴブリン達をなんとか撃退しているリーナを俺達は笑顔で眺めている。いや、笑っているのは俺だけか。だが、リーナの反応が一々面白くてつい頬が緩んでしまうのだ。
「ね、ねぇ、何でリーナを助けないのよ! あの子一杯一杯じゃない!」
俺は愉快な気分でリーナを眺めているのだが、隣にいる姉弟子は気が気ではないようだ。確かに言葉だけを聞いていると切羽詰っているように聞こえるが、実際のあいつはまだ余裕がある。だがそれを理解するにはアリア姉弟子は戦いの経験が乏しい。
「アリア、心配は無用だ。良く見てみといい。リーナは口ではああ言っているが、迫り来るゴブリン全てに魔法をきちんと命中させているだろう? まだまだ余裕があるのだ。それに我が君がリーナを危機に陥らせるはずがあろうか」
「前にも言ったけど、あいつ始めて会った時は俺相手にまがりなりにも魔法の撃ち合いをした女だぞ。しかも最初は俺の魔法を打ち落としたんだ。リーナの実力はこんなもんじゃないさ。それにギャーギャー言える間は余裕がある方さ。これが無言になるとそろそろ止めようとは思うが」
レイアの指摘どおり、リーナの魔法の才は飛び抜けている。俺も訓練を経て他人に見劣りしない技量を身につけた自信はあるが、所詮はポイントで手にしたスキルの恩恵だ。しかし彼女は生まれ持った才能だけでこれを成し遂げているので、俺としては彼女のほうが凄いように感じる。
「しかし本当に大したもんだな。放つ魔法も段々洗練されてきた。見てみろ姉弟子、最初の内はただ普通の魔法を使うだけだったのに、今じゃダンジョンの特性に合わせて使う属性や形状を誰に教わらなくとも自分で工夫している。ほら、狭いここじゃ爆風や炎で視界が悪くなると相手との距離感が掴み難いとわかると風や氷の魔法で対応している。初見でよくここまで対応するもんだ。豪語するだけの事はある」
もうダメだ! 私が悪かったです! 助けてくださいと喚いている彼女を無視して俺はリーナを褒め称える。かつては種族的に火魔法に拒否感を覚えていた彼女だが、こちら側で数人のエルフと交流する事により火魔法に嫌悪感を感じる事はなくなっているみたいだ。
今回の事の発端は、リーナがこの世界でどのように生きようかと思案している事に起因する。
俺が散々に暴れたエルフ国の騎士というかむしろ姫だったというのに、生まれ持った褐色の肌と銀の髪の色のせいで姫の身でありながらひどい迫害を受けてきた。魔法の技量の高さが生きる支えだった彼女は生きづらいあの国で何とか貢献をしようともがいてきたが、味方から猛毒の矢を放たれてすっかり生きる気力を失ってしまった。
そこで俺がほぼ騙すような形で転移環で捨て鉢になっていたリーナをこちら側に放り込んだのだが、全く違う世界、様々な種族が共生するこちらなら自分も後ろ指さされる事なく生きて行けると解り、元気を取り戻したのだった。
そしてなによりもこちら側は魔力の豊富な世界である。触媒代わりに使える魔晶石で何とか魔法を行使していた魔力の薄いあちら側とは全く違う人生が歩めるのだ。生まれて始めてリーナは人生を楽しむ事を考え始めた。
セラ先生の店で様々な魔導具に目を輝かせ、各種のポーションの驚異的な効能に驚き、異郷の地で出会った同族の姉弟子と出会ってこれからの生き方を模索している。
マジックアイテムの店を手伝うのも製薬も興味深かったが、彼女を一番驚かせたのは自らの魔法がこちらでは容易く、そして信じられないほど強力になっている事だった。
そしてセラ先生の店にはその魔法の腕を用いて大活躍する冒険者たちが通っており、リーナも冒険者になる事を頭に思い描き始めた。それを周囲に相談すると、レイアは己の人生を楽しめと好意的に受け止めたが、結構過保護な姉弟子はリーナが危険な職に就くことを不安視した。
だがリーナもエルフの国では聖殿騎士という荒事もこなす実働部隊の上位勢だった。危険など慣れていると言う彼女だが、モンスターが存在しないあちら側の危険とこちらの危険はいささか認識が異なる。
姉弟子から相談を受けた俺がリーナと話をすると、皆は心配性だなと笑い、私の力を証明すればいいのだろうということになった。
場所がダンジョンになったのは、引きこもりの性質がある姉弟子が転移環で簡単に来れるからというのと、心配性な彼女の意向で敢えて難易度の高い場所に連れて行くためである。そのために一層の転移門の側に転移環を置いてきたのだ。
「モンスターこわい……なんであんな気持ち悪い姿をしてるんだ……あんなのが沢山いるなんてどうなっているんだこっち側は……」
あれから四半刻(15分)ほど悲鳴を上げ続けながら、何とかモンスターを撃退したリーナは息も絶え絶えとなっていた。ちなみに今は変化の魔法を自分にかけているので、初めて出会った時のように白い肌と金髪で姉弟子とお揃いである。散々迫害されてきたのでいくらこちらで偏見がないとは言え自分の本当の姿を衆目に曝す勇気はまだないらしい。
地面にへたり込みそうになっていたので、彼女を腕を引いて立ち上がらせる。
「う。な、なんだ?」
「気を抜くな。ほら、もう新手が来たぞ」
俺の視線の先には新たなゴブリンの一団が奇怪な叫び声を上げながらこちらへ殺到してくるのが見えた。
「ひっ」
だが気を抜いていたリーナはその醜悪な姿を持つゴブリンに一瞬呑まれてしまう。俺達にとっては慣れた相手だが、初見のリーナには精神衛生上容易い相手ではない。だがここはまあいいだろう、彼女も俺みたいに一人で冒険をするわけでもないだろうし。
「レイア」
「承知した、我が君よ」
俺の側に控えていたレイアが疾風のように飛び出すと、次の瞬間には全てのゴブリンが塵へと帰っていった。俺との<共有>や神気を会得した今の彼女は最初にこのダンジョンで苦戦した頃とは最早別人である。本人が戦闘よりも生産職に興味を見出しているのでこのように戦いに出る機会は減ったが、その力は俺の配下で随一なのは間違いない。
「凄い、動きが全く見えなかった。レイア殿はこの世界の誰よりも強いのでは?」
「はは、リーナは面白い事を言う。我が君に比べれば私など赤子の手を捻るようなものだ。君も一度手合わせしたのだろう? いい勝負をしたと聞いているが、勝てる気はしたか?」
「まさか! 最初から最後まで私は遊ばれていた。それどころか不意をうたれた私の介抱までしてくれた。挑むという言葉さえおこがましいな」
「二人とも、ここで長話をするな。次が来る前に引っ込むぞ。ほら、姉弟子もこっちだ」
脱力して呆けているリーナを引っ張って転移門のあるダンジョンの端っこに向かう。ここなら安全地帯なので一息入れるには最適だ。
「だけどダンジョン入口でこんなに長居したら他の冒険者とかち合うんじゃないかと思ったけど、誰も来なかったわね」
「今じゃ新規はひどく限られているからな。それを見越して選んださ。こんな事をしているとバレたら怒られそうだしな」
リーナにマナポーションを飲ませて回復させながら姉弟子がふとそんなことを言った。ダンジョンでこんな変な事をするのは俺くらいなものだが、昨今の事情は少々複雑だ。
街中にあるダンジョンというのはギルドが番兵を常に立てているのが通例だが、これまでこのウィスカには日中しかいなかった。無茶苦茶な難易度が広く知られている上に挑む冒険者が非常に限られているから、そしてギルドが余計な経費をかけたくなかったからだが、俺が攻略を進めていることが広く知られてくると、俺が出来るなら自分だってと考えた普通な連中が挑んでしまい、帰らぬ者が結構いたという。
ギルド側としては実力不足の半端者が馬鹿をやっただけと切って捨てられれば良かったのだが、身の程を知らなかった馬鹿が他の町で少々名の知れたCランクだったのでその町のギルドと多少揉めたようだ。
その頃には俺が色々と金を回していたのでギルドにも余裕があり、交代制で一日中番兵がつくようになった事はかつて触れた事があったと思う。
彼等の仕事はただ一つ。実力不足と思われる奴等に警告を与え、名前を控えてギルドに提出する事なのだが、それによって誰もが気軽に(ここでそんなことをすれば狂人扱いだが)ダンジョンへ向かう事が難しくなった。
それでもちょくちょく血気盛んで無謀な若い奴が挑んで帰らぬ人となっているが……こればかりは仕方のないことだ。自分の命を掛け金に、危険と大金を天秤にかけるのが冒険者というものだ。
だから一層から新たに下りてくる奴は最近だとほとんどいない事は知っていたし、逆に今も攻略中の実力者達もここに来る事はない。
何故なら彼らはギルドから俺が卸した帰還石を使って帰っているからだ。一つ金貨100枚という足元をみた大金で売りつけているが、ここを攻略しているような連中なら払えない額ではない。むしろ帰還するまでの水や食料を考えなくていいし、その分の時間も稼いで行けばいいと思っているようで値切りもせずに買ってゆくらしく、ギルドとしても実に美味しい商品である。俺は最初の頃は金貨20枚で買い取りに出していたのだが、販売額を知って50枚まで値上げ交渉した。それでも金貨50枚の儲けなのだから彼等としては笑いが止まらないだろう。
「だが、リーナもやるもんだな。初めてのモンスター戦であれだけできれば大丈夫だろう。姉弟子も一安心か?」
「何を言っている? こんなはずじゃなかった。もっと颯爽にモンスターを退治するつもりだったのに……こんなザマだ」
魔力を回復して落ち着いたリーナだが、一息ついて先程の自分の醜態を思い出してへこんでいる。
「いやいや、たいしたもんだろ。試験だから敢えて難しくしたが、ギャーギャー騒ぎながらも十分捌けていたぞ」
「そんな……あれで良かったのか? ユウキが言うと信用してしまうぞ?」
「ああ、これだけできれば冒険者としてどこでもやっていけるさ」
どこか嬉しそうな顔をして俺に尋ねるリーナだが、これは本心だ。
前にライカをここで訓練させた時、この1層の難易度は中級に設定した。敵の強さは最下級だが、醜悪なゴブリンが敵意を剥き出しにして大量に襲い掛かってくる光景は、心理的な圧迫が非常に大きい。一瞬でもうろたえてしまえば敵は迫ってくるし、一つの失策が次の失敗を生み、と慣れた冒険者でも結構簡単に崩れてしまう。
これに比べれば個体としての強さは11層の敵のほうが圧倒的に強いが、あれは隊列を組んで徐々に前進するので精神的に余裕を持って準備を整えられる。だからその意味で初級なのだった。
それにリーナはモンスターとの戦い自体が初めてだったから萎縮しても無理はないと思っていたが、こいつは悲鳴を上げながらも何とか対応してみせた。俺は最悪頭を抱えて震えてしまうのではとも考えていたから、形はどうあれ戦い抜いたリーナの評価は非常に高い。
緑色の肌をした気持ち悪いゴブリンが奇声を発して大量に襲ってくるのだから、その事情を知らずにいきなり挑めば俺だって呑まれてしまうかもしれない……いやゴブリン程度なら大丈夫か。
「そうね、私だったら怖くて一歩も動けなくなるわ。確かにリーナは戦いに身を置く覚悟をしている人なのね」
「そうだぞ。私はかつて聖殿騎士の位にあったのだからな。うう、あまり良い思い出がないけど……」
姉弟子の言葉に胸を張ったリーナだが、本当に嫌な思い出ばかりなのだろう。すぐに肩を落としてしまった。俺と出会った鉱山の任務も高位の騎士がやる仕事ではないように思える。多分、誰もが嫌がる仕事をやらされていたに違いない。
「まあ、こっちに来たからには楽しい事を考えろよ。で、これがさっきの戦いで得たアイテムな」
俺は皮袋に入ったドロップアイテム類を彼女に手渡した。一層のゴブリンのアイテムはゴブリンソードのみであり、価値は銀貨2枚と格安だ。これが2層ならコボルトの触媒なので魔法職のリーナには少しはマシだが剣を貰ってもしょうがないので、金額分の金貨を手渡した。
先程の戦いは彼女もパーティー内にしておいたので俺のスキルの恩恵があり、アイテム数も多かったのでご褒美含めて切りのよい数字で金貨2枚になった。
「へ? ああ、そうか。ダンジョンでは敵を倒して金を稼げるのだったな。話に聞いてはいたが不思議なものだなぁ」
玲二達異世界人もこのダンジョンには不思議がるだろうと思ったのだが、何故か彼らは当然のように受け入れていたのでリーナのこの反応は新鮮である。
「魔力が溢れる世界ってのは不思議なのさ。さて、これからどうする? まだ冒険者登録してないんだろ? ユウナに案内させてもいいし、もう少しモンスターと戦って慣れたいってんならレイアがいるから付き合ってもらえ。姉弟子も少しくらい遊んでいくか?」
ダンジョンを冒険者の護衛を雇って危険を楽しむ娯楽が王都にはあったが、<結界>を使えるレイアが側にいればこんなの的当て以外の何者でもない。まさに遊びだろう。
「そうね、私もリーナほどじゃないけど、あんたに教わって少しは自信がついたし、レイアがいてくれるならやってみようかしら。でも、あんたはどこへ行くつもりなのよ」
言外に側にいてくれと言われているが、俺はこれから30層へ向かうつもりなのだ。俺の従者は優秀だから間違いなど起きるはずもないので、俺は自分の仕事をすることにした。
<相棒、リーナの用事は終わったぞ。こっちも始めようか>
「おっけー、約一月(90日)ぶりの30層だね、前の事もあるし、気をつけていこっか」
今まで熟睡していたリリィが転移して来たので、彼女を連れて俺は転移門に足を踏み入れた。
久方振りに訪れた30層はこれまでと変らぬ姿を見せていた。
「相変わらずボスフロアの扉は開いていると……やっぱり30層にボスはいないのかなぁ。そんな話聞いたことないのに」
俺の方にいるリリィがそうぼやいているが、何度見てもボスの扉は開いたまま、つまりボスが撃破されたのと同じ状況だ。ここの造りからしてここがボスの間である事は間違いないはずだが、いないものは仕方ない。この先の階段の途中で不意に大陸を越えて超長距離を転移させられたことといい、不可解な謎は多いが今日はそれを紐解きに来たのだ。
「とりあえず階段を下りてみよっか。今回はちゃんと魔法を遮断する指輪をつけてね! 前回みたいにまた転移を……ひゃっ!」
<何かいる!! リリィ、声を潜めろ>
俺がほんの僅かに感じる違和感に気づいた。それを把握すると同時に、俺より先行して階段に向かっていた相棒を掴んで懐に放り込んだ。警戒心は最高級に高まっている。
何故ならその違和感の源は扉の空いたボスの間から感じられるからだ。
ダンジョンで<マップ>は効果がない。誰がどこにいるのかを把握するには肉眼で確認するか、<魔力操作>で相手を捕捉する方法もあるにはある。だが魔力で確認するとほぼ確実に相手にも気付かれるので先制という大きな武器を自分から捨てる事になる。
相棒を懐に隠した俺は気配や足音を殺しながら、開け放たれた扉に身を寄せてその先をそっと窺った。
「なんだ? あれは……」
<……!!>
リリィは絶句していて俺の問いかけに答えるものはいなかったが……本当になんなんだあれは?
いや、現象自体は理解できるし、言葉にも出来る。だがその理由がさっぱり理解できない。
なんなんだあれは、という言葉が一番しっくり来るのだ。
あれは、そう、あれだ。的確に表すなら一言で済む。
でぶ猫が爆睡している。
俺の視界の先には見事に鼻提灯を膨らませたそいつが、すぴょぴょぴょと寝息を立てて仰向けに寝ている。後ろ足で喉をバリバリと掻いている様はまさに猫といった感じだが、そもそも何でここで寝ているんだ? ここは30層のボスの間だぞ? 一体この黒毛のでぶ猫はどこから入ってきたんだ?
様々な疑問が一瞬の内に湧きあがり、俺はうかつにも棒立ちになってしまう。そのとき、そのでぶ猫が作り出していた鼻提灯がぱちんと破裂し、そいつは目を覚ました。
「うにゃ? ふニャ~、ねむねむ」
「「あ」」
ごろりと寝返りを打ってまた眠りこけようとしたでぶ猫だが、次の瞬間、俺と目が合った。
「な、な、な、何者ニャ!! ここをどこだと思って……ああ、お前はあの時のニンゲンじゃないかニャ!」
しゅたっとその図体からは想像もできない軽やかな身のこなしで起き上がるとこちらを警戒している。
<喋った! ユウ、猫が喋った! って、考えてみればこんな所にいる奴が普通なはずがないかぁ>
<ロキも普通に喋るしな。だがこいつ最後になんか口走ったぞ>
<念話>で会話をする俺達だが、その視線は毛を逆立てる猫から外す事はない。だがまさか、こいつが30層のボスなのか? ダンジョンで出会う敵に意思疎通できる相手がいるとは思わなかったな。
「俺はユウキ、冒険者だ。お前は何者だ?」
「ニャ。ニンゲンに名乗る名などニャいが、ここまで到達した強者に礼を示すのも王たる者の務めニャ。冥土の土産に教えてやるニャ。我が名は魔王猫! この層の階層主にして30層までの管理を任されたた唯一の存在ニャ。一度世界の果てに飛ばしてやったというのに舞い戻ってくるとは、不思議な事もあったものニャ」
「そうか、お前がここのボスか。そしてお前が俺を転移させた張本人という事か。へえ、随分と世話になったようじゃないか。これは是非ともお返しをしないとな」
実は転移された事自体は今はそこまで怒っていないのだが、何が目的でこんな真似をしたのか、意思疎通が出来るなら訊ねてみたいと思っていたので、獰猛な殺気を撒き散らして威嚇した。
「にゃ、にゃあ。この超越者め。規格外の強さをもっているニャ。だが、我にも誇りがあるニャ、たとえ力及ばすとも与えられた使命を果たすのが使命。我が召喚魔法をとくと見るニャ! 出でよ我が従僕ども、我が敵を滅殺するするニャ」
でぶ猫がひと鳴きすると、周囲の石畳に魔法陣が展開し、そこから青白い巨人が10体現れた。これは最初に30層に辿りついた時に現れた敵だ。つまりこの猫があれらの敵を召喚したようだがこいつはあの時もどこかに隠れていたのだろうか。
まあそれよりも、折角稼げる敵を呼んでくれたんだ、お宝を頂戴するとしよう。
「ぶニャーー!! 我が従僕たちが一瞬で塵になっちゃったニャ! これだから毎日殺戮人形を壊して回る異常者の相手は嫌なんだニャ」
登場した瞬間に胴体に大穴をあけられてさっさと退場したクリスタルゴーレムたちは、ドロップアイテムだけを残して消えていった。誰が異常者だこのでぶ猫め、三味線にしてやろうか?
「ニャッ!? なんだかよくわからニャいけど、何かとても恐ろしいことをされる予感がしたニャ! かくなる上は、最後の手段を取る他ないニャ!」
「へえ、ボスの奥の手があるのか。精々とっておきを見せて俺を楽しませてくれ」
俺は奴の動きをつぶさに観察して、不意打ちによる敵の反撃に備えたが、この猫は俺の想像を超える対応をしてきたのだ。
奴は素早い動きで腹を見せる服従の姿勢をとると、恥も外聞もなく叫んだ。
「降参ニャ! 命ばかりはお助けニャ!」
ええ? お前30層のボスじゃないの? ボスっていったらもっとこうさあ……。
あまりにも潔すぎる命乞いに呆気に取られる俺と相棒なのであった。
楽しんで頂ければ幸いです。
遂に現れた恐るべき(?)ボスの登場です。日課の昼寝中に背後から現れた主人公という強大な相手に立ち向かう魔王猫の明日はどっちだ? いやもう諦めてますが。
この猫のがどうなるのかは次回をお待ちいただければと思います。
ちなみにリーナの現在の目標は恩ある主人公の冒険者仲間になる事です。
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