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カザン獣王国 2

お待たせしております。




「エレーナから話は聞きました。当家をお助けいただいたようで、家長に代わりお礼申し上げます」


 屋敷に案内された俺はその玄関でアードラーさんの家内であるセレナさんと対面していた。見た感じは気品のある清楚な白い狼獣人といった出で立ちだが、その言葉は芯の強さを感じさせる。

 それに物静かな印象だが、あのアードラーさんも完全に尻に敷かれているらしい。確かに怒ると怖そうだ。勝手に姉であるラナを探しに出たラコンとキャロが彼女の怒りに触れるのを恐れているのがよく解る。


「いえ、私もこのお屋敷に用があって参上した次第ですから、あの光景を見れば割って入るのは当然です。おかまいなく」


「いえ、恩人を何もせず返したとあらば、私が夫より叱りを受けます」



「セレナさん、丁度いい人手が見つかったわよ」


 ”紅眼”のエレーナはふらりと現れた俺を格好のカモと思っているようで、初対面の人間に行う提案とは思えない事を言い出した。


「聞けばこいつ今暇してるそうだから、ここに出入りさせてもいいかしら? 私たちに肩入れするって事は事情は知らないでしょうし、人手はいくらでも欲しいからさ」


「その方をこちらの事情に巻き込むわけにはいかないでしょう?」


 セレナさんは当然ながら俺を警戒している。この挨拶が屋敷に上げず玄関で行っている事が良い例だ。俺もこの広大な屋敷を一人で守っている状況で易々と家に上げる真似をされるほうが怖いのでこの対応も当然と思っている。


「本人が手を貸すって言ってるんだから大丈夫でしょ。何より選り好みできる状況じゃなくなってきてるしさ」


 エレーナの声には隠し切れない焦りが見て取れた。先ほども触れたがこの屋敷は見事な大邸宅である。ラコンやキャロがランヌ王国でも指折りの豪奢な公爵邸を見て一切物怖じして居なかった。そして生活していたラナもそこまで萎縮していた様子はなかったし、アードラーさんが代々獣王国の武門の長のような立場の大貴族だとは聞いていたから彼等の屋敷も見事なものなのだろうとは予想していた。


 先ほど一瞥しただけだが、この屋敷には人気が全くない。これほどの大邸宅を維持するためには相応の人手が必要であり、それを怠ると屋敷は簡単に荒れだすものだ。ランヌの王都にも没落傾向にある貴族の屋敷はかなりみすぼらしい有様だが、ここもこのままだと同じ道を辿る可能性が高かった。


「俺はユウキという者です。良ければ見知りおきを。もしそちらが許してくれるなら庭師の真似事でもしましょうか? 素人に毛の生えた程度だが、居ないよりはマシな程度には働きますよ。数日ですが時間はあるので掃除や買い物でも何でもやりますし」


 玲二達の乗る船がこのラーテルに到着するのは後3日後の予定だと聞いている。救国の英雄を送り届けているので船に乗っているのは彼等だけでなく、ランヌ王国の使節や何やらもおり、その前に先触れを出してこちらにも準備してもらう予定と聞いているからさらにもう少し時間はかかるだろう。


 だが先ほどのバザールで感じた限りではなかなか前途多難そうだ。

 俺達が誰にも手出しできないランヌ王国で十分な立場を確保してきたように、ラコンの敵も当然だがこの邪魔する者が居ないこの国で相当に迎え撃つ準備を整えてきたようである。


 俺に何が出来る事があるとも思えないが、あいつらのためにも手くらいは貸してやるつもりである。とりあえずは苦境の淵にある彼等の母を手助けしようと思う。娘が誘拐され、それを追った夫が奴隷落ちしたという噂が駆け巡り、更には義理の息子と娘が出奔したのである。既に無事が冒険者ギルドを通じて伝えられているとはいえ彼女の心労はいかほどのものだろうか。


 ラナやラコンが感動の再会をしたくともセレナさんが憔悴しきっていては何の意味もない。色々と情報も得たいし、それでいて彼女を手助けできるとあれば一石二鳥である。



「そちらのご都合がよろしいときだけで構いません。今は何もお返しできませんが、主人が戻ればこのお礼は必ずや」


「お気になさらず。私もこの家のご当主とは縁があります。戻られるまでお力になれるのであれば光栄ですよ」


 俺の言葉に深く頭を下げるセレナさんに俺は手で答えた。全ての事情を明らかにしても意味不明だろうから何も言えないのが心苦しいが、貴方の主人と家族は後数日で戻りますのでどうか辛抱して下さいといっても何故それを知るのかと問われたら終わりだ。

 実は向こうの大陸と連絡を取り合っていて、俺自身はあの大山脈を越えて新大陸に先に辿りついていましたなんて言えるはずもない。



「よし、話は纏まったわね。良かったわ、この屋敷の使用人には全員一時的に暇を出しているから手が回らなかったのよ。でもそれも後数日の辛抱だから、あんたもそれまで頑張って」


 俺の背中を遠慮なく叩くエレーナの手は華奢な癖に力強い。クロイス卿からは完全な魔法職だと酒の席で聞いていたが、前衛だってこなせそうである。


「まあよろしく頼む。さしあたって何をしてくればいい? 流石に屋敷の中の仕事は遠慮しとくが」


「素性の知れないあんたを中に上げるわけにはいかないでしょ。そうだ、とりあえず買い物行って来てくれない? 最近あいつら私の不在を狙ってくるようになってさ」


 アードラーさんが向こうで有名になったのを知った敵が遠慮無しに手を出してくるようになったらしく、エレーナもなかなかここを離れられなくなったようだ。


「わかった。これでも買い物は得意なんだ。値切りをさせりゃ天下一なんだぜ」


 資金に余裕のある最近は殆どやっていないが<交渉>スキル全開で話しかければ3,4割引くらいは当たり前にやってくれる。最初期はそれで大いに節約していた……それでも3週間くらいだった気もするが。


「へえ、それじゃ期待しようかしら。バザールの位置は解るわね?」


「ああ、さっき色々見回ってきた」


 買い物リストと金貨一枚を受け取った俺は早速屋敷から出た。エレーナに気をつけるようにと声をかけようか迷ったが、彼女は二つ名もちの超一流の冒険者だ。クロイス卿たちと何度も死線を潜っているというし、俺からの言葉は余計なお世話だろう。


 俺が去った後で二人がこんな会話をしていたとしても、俺の知る由もない。



「エレーナ、あの少年は信用できるのですか? 貴女が一目見て連れてくるなんて珍しい事もあったものだけど」


「多分大丈夫。こればっかりは勘なんだけれど」


「信じましょう。あの人もあなたの冒険者としての勘は侮れないと言っていましたし」


「そうしてくれると嬉しいわ。敵は最近なりふり構わなくなってきているから、使える奴は一人でも多い方がいいし」


「彼を巻き込んでしまうのは避けたいのだけれど……」


「揉め事だと知って首を突っ込んできたのだし、その覚悟はあるでしょう。それにあまり心配しなくてもいいと思うわ。だってあいつ、私が見たとき猛鼠族のスカウトを簡単に叩き潰していたし」


「まあ、彼等を! 連携を用いれば全種族の中でも5指に入る達人揃いと聞くけれど」


「だからそこは期待してるわ。今はとにかく時間を稼ぐこと。アードラーさんたちが戻りさえすればこっちにも活路は開けるわ。()()()が色々手を回してくれたようだし」


「ラナが拐かされた先が彼の国だなんて……世の中分からないものね」


「アイツが子爵になって領地まで貰ったなんて与太話まで聞こえてくる始末よ、あのヘタレが領主なんて領民に同情するわ」


「ふふふ。もう、そんな事を言って。いくら愛しているからって、ここにいない人をそのように言うものではないわ」


「だ、誰がアイツのことなんか! あっ、いまセレナさん笑いましたよ! それです、笑顔! こんな時だからこそ笑顔を忘れちゃいけません。アイツもヘタレの癖にたまには役に立つ事もあるわね」




「えーとなになに? 野菜と肉と穀物か……あの二人ちゃんと食えてんのか?」


 生活雑貨を頼まれても困るが、こうまで食料ばっかりだと不安に思う。見た感じ困窮しているようには見えなかったので失念していたが、あの大きな屋敷をたった二人で維持しているのだ、色々苦労があったことだろう。


 それにしても屋敷には奥方一人しかいないってのに性懲りもなく手を出してくる連中がいるとはな。アードラーさんやその仲間達を見ていると獣人は誇り高い生き物だと思っていたが、まああれが全てではないよな。さっきの鼠もなかなかいい動きしてたが、それは相手の不意や隙をつくものだった。あいつも後手に暗器を隠し持っていたし、正々堂々とは言いがたい戦い方を得意としているに違いない。


 それにラコンの敵もそのやり口を見ると相当陰険な奴のようだ。なにしろ俺達がランヌ王国で相当派手に武勲を立てて冒険者ギルドや吟遊詩人を使って噂をばら撒いたにもかかわらず、この地の民にあまり浸透しているように見えない。つまりそれは情報を統制できるような力を持つ奴がラコンの敵ということだ。

 向こうがランヌ王国での出来事に手出しできないように、旧大陸にいる俺達がこの地で何か直接的な手が取れるわけでもない。

 敵もなかなかどうして強力なようだ。これから行われるであろう王宮内の政治的暗闘なんかアードラーさんなんかは全く苦手としていそうだし、やはりここは俺がこの件の全体像をある程度把握しておいた方がいいだろう。

 だが、その前に一応確認しておく事がある。



<玲二、今までの事を見てたか?>


 俺は<念話>でラコンたちと行動を共にしている玲二と連絡を取った。真っ直ぐな性格の玲二は隣にいる仲間としては得難い美徳だが、顔に出やすいという側面もある。セレナさんの苦境を知った彼がラコンたちにどう接するのか確認を取っておいたのだ。


<へ? 悪い見てなかった。今風が凪いでてさ、魔法職総出で風をマストに送ってるんだ。なかなか見応えがあってそっちに気を取られてた。何かあったのか?>


<いや、見てないならそれでいい。ラコンたちのお袋さんに会ったんだが、ちょいと面倒そうな状況でな>


 俺はかなりぼかしたのだが、玲二には察する事ができたようだ。彼も深刻な声で返してきた。


<解るぜ。そういう連中って本人より周りに迷惑が行くように動くからさ。俺達も住んでたマンションを追い出されるときにはあの手の連中がことさら喧伝しやがってよ……>


 玲二が自分の地雷を語りだそうとしたので慌てて話を遮った。何故にお前の重い話を聞かなきゃならんのだ。こいつは本当に不意にぶっこんで来るから油断できない。


<とにかくお前が見てないならあいつらに知られる事はないから安心した。こちらは俺が何とかするから気にしなくていいぞ。自信がないなら転移環で戻っちまえ>


<俺、そこまで顔に出やすいか? 自覚ないんだけどな>


<そこがお前のいいところでもあるんだが、今の状況がラコンにでも知られたら責任感の強いあいつは自殺しかねんからな。気を遣ってやってくれ。色々面倒を押し付けて悪いな。助かってるよ>


<いいってことよ。仲間だろ? それに俺はユウキにこれまでしてもらってばかりだったからな。少しは返していかないとさ>


 それこそ仲間は貸し借りの関係じゃないと思うが、それを口にするほど野暮ではない。

 俺は頼まれた買い物を終わらせるべく、バザールに向かって歩き始めたのだった。



「お姉さん。その肉はいくらになる? 定石3個分欲しいんだが……」


「あら、兄さん。見かけない顔だねぇ、ここいらは始めてかい?」


 俺は精肉店で最後の買い物を行っている最中だ。定石というのはここの単位のひとつで、計り売りの商品を買うときの基準だ。定石一つで大体1キロルくらいだろうか。

 随分前にお姉さんの時期を終えた店主だが、俺のお世辞に”お姉さん”は愛想よく答えた。<交渉>スキル恐るべし。


「ああ、使いを頼まれてね。肉を買うならここが一番だって皆言うからやってきた」


「嬉しい事言ってくれるじゃないか。ここは奮発しないとね」


 俺の提示した予算では買えない高品質の鶏肉を多く買い込んだ俺は機嫌よくバザールを歩いていたのだが、その前に立ち塞がる獣人たちが現れた。総じてガラの悪い間違っても堅気には見えない連中だった。



 そしてこういう連中の目的なんて知れている。


「よう若い兄ちゃん。見たぜぇ、お前さんあの臆病者の屋敷から出てきただろ? あいつらに雇われたのかい? それは止めといた方がいい。要らん面倒に巻き込まれるぜ」


「面倒ってのはあんたらに絡まれるようなことか?」


「それだけじゃない。これまでも何人か兄ちゃんのような何も解ってない奴が雇われてるが、皆数日の内に不幸に遭って止めちまった。兄ちゃんも不幸になるのは嫌だろう? 悪い事は言わねぇ、あの屋敷に関わらないほうがいい」


 そう言って黒い犬の獣人が俺の肩に腕を回してくる。そいつからは暴力の残滓が残っており、こういった荒事に慣れている雰囲気があった。

 ムカつく話だが、こいつらは俺よりも身長が高い。俺の頭がこいつらの胸辺りにある。こいつらからすれば扱いやすいと思われているのだろう。

 そのまま俺は人気のない場所にまで誘導されたが、正直俺としても都合がいい。バザールで大立ち回りなどしたら人目を引いてしょうがないからな。


「あんたらは仕事でやってんのか? あんな屋敷の連中なんざ、そっちは何も関係ないだろう? 変な噂を鵜呑みにして真面目に怒ってるって訳じゃなさそうだしよ」


「それには答えられねぇな。こっちも暇じゃねぇんだ、手を引くか痛い目を見るか、選ばせてやるって言ってんだよ!」


 そう言って俺の肩に回した腕の力を強める。今の一言でこいつらが上の連中の走狗であることがわかった様なもんだ。できればもう少し情報を引き出したかったが、こいつの息が臭いので我慢する気が失せた。

 尋問ならこいつらが()()になってからすればいいんだし。



「選択肢はもう一つあるぜ。あんたが半殺しにされて俺に泣いて許しを請う、だ。女二人しか居ねぇ屋敷に追い込みかけるなんざ男のやる事じゃねえぞ、恥知らずが。獣人ってのはもう少しマシな生き物だと思ってたが、カスはどこにでもいるもんだな」


「な、なんだと、テメェ! 調子に……」


 その獣人は最後まで喋る事はできなかった。俺の手がその太い首を掴んで持ち上げていたからだ。俺の手で気道を潰されている獣人は僅かに暴れるもののすぐに大人しくなった。


「ジャック! こ、このガキが!」


 周囲の男たちの殺気が膨れ上がるが、俺の怒りはこんなもんじゃない。それに丁度いい、”掃除”は俺が言い出した仕事だからな。屋敷を周りをうろつくゴミを掃除するのも俺の役目だ。


「オスの風上にも置けねぇ屑どもが! その性根を叩き直してやるから有難く思え!」


「人間が獣人に喧嘩で勝てると思ってやがるのか! 身の程を知りやがれ!」


 俺に襲い掛かってきた獣人は合わせて5人だが、1人1微(秒)で終わるので、戦いにもならない。獣人と真面目に戦うのはこれが初めてではないが、アードラーさんや彼の配下と比べると象と蟻以上の力の差があった。

 とはいえ、生粋の戦士階級である彼等と街のサンピンを同列に語っては彼等に失礼か。

 

 神気など使う必要もない雑魚だったので、普通に一撃で連中の骨を砕いて終了である。

 地面には激痛に意識を刈り取られて痙攣する奴等とただ一人腹を押さえて呻いている奴が一人。ちなみに俺に声を掛けてきたやつである。


 もちろん慈悲をかけたわけではなく、色々情報を吐いてもらう為である。こいつの口を滑らかにするためには骨の数本がこの後で必要になるのだが、その後はこちらが聞いていないことまで素直に喋ってくれた。


 その結果、なかなか難儀な状況が見えてくるのだった。



「あ、戻ったわね……結構時間がかかったじゃない」


「悪いね。途中で道に迷ったようで大回りしてくる羽目になったんだ。これが品物とつり銭な」


 俺が渡した金額を見たエレーナは驚いたように品物を見た。俺の言葉が正しかった事を理解したのだろう。


「大したものね、これほどの品を買って銀貨8枚も残すなんて。あんたが仲間だったら随分と支出が減ったでしょうに。もう少し早く出会いたかったわね」


 最初に出会った頃のクロイス卿と同じ事を言うとは、やはりこの二人似たもの同士なんだろうな。


「お褒めに頂き光栄だね。そっちはなにかあったか? 小うるさい連中が来るなら追っ払うくらいはしてやるぞ」


「それが今日はまだ来てないのよね……普段ならとっくに現れて嫌がらせをしてゆくのだけど」


 そりゃ実動員全員が全身複雑骨折で全治半年だからな。来たくともこれないんだからしょうがない。

 俺は殺人鬼ではないのでむやみやたらと殺しはしない。相手が既に殺人を犯しているなら因果応報だが、こいつ等は根性を叩き直す程度に留めてやった。


 それが奴らにとって幸せかどうかは連中にしか解らないが。



「もし急ぎの仕事がないなら、ちょっとやりたい事ができたんで自由行動を許して欲しいんだが」


 何しろあのような連中は他に2集団もあるという。今日の内に全部叩き潰しておかないと時間を置いたらこの事が伝わって逃がしてしまいかねない。


「別に構わないけど……私もついていくわよ」


「ええ? 必要ないって、俺だけ十分だ。この屋敷の警備はどうするんだよ」


「必要なら冒険者ギルドに護衛を頼むから。これでも私Aランクだから無理は効くのよ」


 とんでもない事言い出したエレーナを説得するが、頑として聞き入れる気配はない。終いにはあんたの後を尾行してでもついてゆくと言い張るのでここは俺が折れるしかなかった。


「わかったよ、全くなんで俺の用事に興味なんてあるんだか」


「私も良く解らないんだけど。勘があんたに着いて行った方がいいって感じるのよね」


 熟練冒険者の勘は侮れない。勘とは言っても実際のところは数多く経験した様々な事象の中から必要な情報を瞬時に選び出して反応しているのだ。理屈を越えた超能力のようなもんだから、優秀な奴ほど自分の直感を信じているし、エレーナもその例だろう。


「勘かよ……それならしょうがないか」


 そうしてエレーナを加えた俺達はとある一軒の店を目指して歩き出す。



「ここか」


「冗談でしょ!? ここがどこだか知ってて言ってるの? ”白狼”の溜まり場よ! 二人で乗り込んだらいくら私でも抵抗しきれない! って、待ちなさいって!」


 後ろで悲鳴を上げているエレーナに構わず、大きな扉を上げて中の酒場に入る。店内は意外なほど広く、そこには50人近くの獣人がたむろしていた。

 そのウチの一人が俺に気付いて高圧的な声で脅してきた。


「何だ坊主、ここはお前のようなガキが来る所じゃねべぎっ!」


 無言でその獣人を殴りつけるとそいつはそのまま崩れ落ちた。それまで酒場を支配していたざわめきが一瞬にして静まり返り、静寂の中で殺気だけが充満し始めた。


「ゴミ掃除が俺の役目なんだ。黙って潰されとけ」


 俺は意識を失った獣人を掴みあげると、そのまま力任せに俺を睨みつけていた男たちに向かって投げつける。直線の軌道を描いてすっ飛んだ男は仲間数人を巻き添えにぶっ飛ばされ、阿鼻叫喚の地獄絵図が広がった。


「金を貰って弱い立場の奴を虐める屑どもが! 生まれてきた事を後悔させてやる! 地獄の方がまだマシだと生涯嘆き続けさせてやるぞ!」


 俺はいきなりの出来事に硬直している連中の顔に容赦なく拳を叩き込みながら、この王都での”地均し”に精を出すのだった。




「皆急いで! 一刻の猶予もないから一気に突入するわよ!」


 全ての始末を終えて店の外に出た俺が見たものは、数人の冒険者らしき男達を従えたエレーナの姿だった。


「あれ? どうしたんだ? そんなに大勢で血相変えて」


「あ、あんた! ”白狼”の連中は? もしかして見逃してもらえたの?」


「いやべつに。普通に(拳で)話し合いして(全員ぶっ倒して)円満に解決したんだが」


 俺の事実をぼかした言葉をエレーナは信じようとしなかった。確かに国の偉いさんが後ろ盾になっている無頼の私兵集団がお行儀よく納得するとは思えないから理解できなくてもしょうがないか。


「うそ! そんな簡単な連中じゃないわ! それは長いこと揉めていた私たちが一番良く知っているから」


「そう言われても終わったもんは終わったし。俺は後一つ行かなければいけないところがあるんだ。話はそれが終わってからでいいだろ」


 頑なに信じようとしないエレーナと唖然としている後ろの冒険者達を尻目に俺はこの街に巣食う最後の1集団に地獄を見せるべく歩き出した。


 背後からその冒険者達の驚く声が聞こえてきたが、俺の意識は既にこれから潰す連中の拠点に移っていたので、後ろのエレーナが残した呟きに気を留める事はなかった。



「まるで嵐のようじゃない……嵐? まさかね……」



楽しんで頂ければ幸いです。


獣人の美醜は人間には解らない基準ですが、この話の登場人物は皆美形で通っています。


ちょい短くてすいません。

次は水曜予定でかんばります。


 もしこの拙作が皆様の興味を引いて頂けましたら評価、ブックマークなど入れていただくとこれに勝る喜びはございません。何よりも作者のモチベーションが爆上げします。更新の無限のエネルギーの元になりますので頑張ってまいります。

 

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