世界を分かつ壁
お待たせしております。
俺は仲間と共にこの人工的な山の頂上にある不思議な建造物を調べていた。
もちろんここは高度1万メトルを越す超高度だから、周囲に<結界>や風魔法で温度や気圧も弄って仲間を呼んでいる。少なくとも立っているこの地点は魔力が豊富にあり、魔法の連続行使も問題ない。
それに先ほど確認したが、魔力切れで機能停止状態だった魔約定も復活して今日の分の利子が加算されていた。
この魔約定の再始動は、意外にも長かったこの休暇の終わりを象徴する出来事と言えた。
「見た目だけだと何の変哲もないただの門だな」
<鑑定>でもそれらしい記述はなく、門が珍しい金属で出来ていると言う描写しかなかった。
「表面はかなり劣化しているな。恐らくこの遮るもののない場所で容赦なく風雨に曝されたからだと思うが、そう思うと頑丈な門でもある。空気抵抗は凄まじいだろうからな」
類い稀な実力を持つ戦士でありながら学者肌のレイアが俺と共にこの不思議な門を調べつつ所見を述べた。他の皆はこの筆舌に尽くしがたい絶景に言葉を失って見入っている。
「裏側は……うっ、我が君、もしやこの門」
「ああ、まるでこいつが魔力を分かっているようじゃないか。無関係とは思えないな」
レイアに釣られて俺も門の裏に向かった瞬間、いきなり周囲の魔力が消えたのだ。そして戻るとまた復活する。この門を境に魔力の有無があるとしか思えない。
先ほど俺が突然魔力の復活を感じたのは、この門の境界を知らぬうちに通り過ぎたからのようだ。
「そうなるとこの門が魔力を制御している、そういうわけなのか? このいかにも不自然な山といい、色々想像してしまうな」
登っていてつくづく思ったのが、この明らかに人の手の入った山の奇妙さだった。周囲と明らかに異質な違和感ばかりの岩山は表面は脆いものの、その奥は俺の力でもピッケルが刺さらないほど固い岩盤で出来ていたりするのだ。
そして山頂に辿り着いてみたら、まるで山と言うより縦に異常に細長い台形のような形をしているときた。俺達が今いるのはその台形で言う上底の部分だが、その場所にこれみよがしな怪しげな門が立っており、それを境界とするように魔力が隔絶されている。
これでなにもないと思うほうがどうかしている。
「とりあえず何があるか解らんから皆を帰還させた後、この門を開けてみるか?」
「そうだな。姫たちなど、我が君と<共有>していない者は不測の事態に対応が不安だ、そのほうがよいだろう」
そのとき、転移環に新たな反応があった。見れば新大陸に向かう船の中にいるはずの玲二が現れたのだが、その両腕には色々なものが抱えられていた。
「うおおっ!! す、凄ぇぇっ!! やっぱ生で見ると迫力が違うわ! ようユウキ、とうとうやったな!」
「ああ、なんとかな。しかし、玲二は来ないと思ってたぜ」
「俺もそのつもりだったんだけどな。俺がうっかりユウキが山を登りきったと喋ったら二人にせがまれちゃってさぁ」
「凄いすごーい! お兄ちゃん、見て見て! お日さまきれい!!」
「キャロ。走ると危ないって! うわぁ、これがボクたちのいる世界なの……」
玲二と船旅をしているキャロとラコンが周囲の絶景に大興奮している。ずっと変化のない船旅は子供には退屈らしく、よく転移環で王都に戻っていたと聞いているが……まあ、王都からアルザスの屋敷へ、そして屋敷からこの頂上へ転移すれば来れる理屈なので驚く話ではない。
ちなみにキャロは手を繋いでいたラコンを振りほどいてご来光に歓声を上げて走り出したが、<結界>は強度を上げて物質化しており、透明な板で内部をすっぽり覆っている形状にして空気や何やらを送っているのでキャロがこの頂上から転がり落ちる心配はない。
二人のモコモコの毛皮の上にしっかりと防寒具を着込んでいるので、余計にきぐるみ感が増しており、雪音が二人をカメラで追っているのが見えた。
そして玲二が連れて来たのはラコンたちだけではない。
「あ、兄ちゃん」
「あれ? とーちゃん……?」
寝惚け眼の妹と娘が防寒具をしっかりと着させられた姿でこちらへ歩いてきた。
「ああ、二人も連れてきてくれたのか。寝てると聞いたから起こしちゃ悪いと思ってたが」
「でもよ、二人が起きた後にこれを知ったら絶対拗ねるぞ、賭けてもいいね。そう考えると起こしてでも連れてきたほうが後々いいだろ?」
「確かにそうですね。私の考えが至りませんでした」
やってきたユウナが玲二の言葉に頷いている。ふたりはまだ半分夢の中にいるようで、ここかどこかもよく解っていない感じだ。二人とも俺の腕の中にすっぽりと入り込むとまた微睡んでしまった。俺の事も夢の中の出来事とと思われている節があるな。
「いつもならまだ寝ている早朝だしな。こうなるのもおかしくないか」
「いえ、普段なら既に起きている時間ですが、昨夜は年越しまで二人とも起きていましたから」
そういえば時差も二刻(時間)ほどあったな。今が朝の6時くらいだから、それから考えればもう起きている時間か。
「あれがさっきから話題の不思議な門か。確かに滅茶苦茶怪しいな」
二人して俺の腕の中でうにゅうにゅ言っている可愛い二人を抱きながら、玲二の質問に答える。
「さっき簡単に調べたんだが、門の向こう側は魔力が皆無だ。どうもあれを境にしているようでな」
「おっ、マジだ。一体どうなってんだよ、まるで門が向こう側の魔力を吸い尽くしているかのようじゃないか」
玲二がとりあえず言ってみたというような感じの言葉に、俺達は思わず顔を見合わせた。
「今の言葉、なかなかイイ線いっているかもな」
「であるな。その可能性は高いかもしれぬ」
「そうなると、あの門は甚大な魔力を秘めていることになります。一体誰が何の目的であそこに設置されたのか、謎は深まります」
俺達はそう頷いたのだが、そのせいで玲二の行動の把握に一瞬遅れてしまった。
「お、開いた。デカい分、重いけど鍵とかはかかってないのか」
「れ、玲二ぃ!! だ、大丈夫か!? 何か異常はないか? お前、不用意すぎるぞ、何があるか解らないんだからさ」
大慌てで玲二に近づいた俺だが、当の本人は何を言っているのかといわんばかりの顔をしている。
「大丈夫だって、ステも各種スキルもあるんだからさ。ユウキは心配性すぎるんだよ」
俺は黙ってソフィアやラコンたちのいる方角を指差す。その意味を察した玲二は自分の痛恨の失敗を悟ったようだった。
「あっ、悪い。自分が大丈夫ならいいかと思っちまった。姫さんやあいつらのこと考えてなかったわ。次からもっと周囲を見回す事にする」
「何事もなくてよかったぜ。で、扉はただ空いただけか?」
俺達は半開きになった門を見つめるが、門の向こう側は当然だが何も変わらないの景色が見えるだけである。念のため反対側である魔力が薄い方にも回ってみてみたが、こちらも何も変わっていないようだ。
「何だよ、これだけ怪しげな空気出しといて何もなしかよ。とんだ肩透かしじゃんか」
俺も輝く光に飲み込まれて別世界に、なんて事を期待したわけではない。何しろ最近似たような事を食らって見知らぬ土地に飛ばされたばかりだからな。ようやく帰還の目処が立ったと言うのにまた変な出来事に巻き込まれてはたまらない。
それにここには戦う力を持たない仲間も大勢いるのだ。不測の事態が起きるにしても十分な実力者が周囲にいる状況でなくては気が休まらない。
「やれやれ、新年早々ハズレ引いた感じだなぁ」
「玲二、ちょっと待て」
空いた門を無造作に潜ろうとした玲二を押し留め、気になっていた事を試してみるか迷う。だがここにはまだ皆がいる。何があるか解らないし、皆を戻してから俺だけでやればいいかと思っていたとき、不意に強い風が吹いた。
「あ」
後でセラ先生にこの不思議な門の話をするべく、周囲の光景を描写しようとしていたレイアの手から紙が一枚ひらりと舞った。
そして風に乗った紙は思いがけない距離を飛び、開け放たれた門を通過して……
忽然と消えた。
「はぁ? 皆見たか? 何だ今のは!」
白い紙が風に乗って舞うのを皆が見ていたはずで、俺の言葉にこの場の全員が頷いた。
「確かに紙は門の向こうに行かず、そのまま消えたように見えました」
ユウナの言葉に誰もが頷いた。回りこんで門の向こう側に行ってみたが、先ほどの紙はやはりどこにもなかった。
「ああだこうだ言うよりもう一度やってみるのが一番手っ取り早いだろう」
俺が足元にある拳大の石を門の向こう側に向けて放り投げると、その石は放物線を描きながら門を通りすぎることなく消えてしまう。それからみんなが同じ事を試してみたが、結果は同じだった。
「まさか、転移門だとでもいうのか?」
レイアの驚きに満ちた声が俺達の内心を代弁していた。ダンジョンで俺達がよく使う転移門は地面に円状の紋章が光と共に浮かび上がるもので、この目の前の門とは明らかに形状が違うが……結果が同じなら転移門と呼んでいいだろう。
ダンジョンの転移門はダンジョンそのものが魔力の結晶体なので、そこから力を借りて転移していると学者が学説を唱えている。それを引き合いに出すと、この転移門は向こう側の魔力を吸い取ってその動力源としているのか? そう考えると魔力が薄い事に説明がつくが……そもそもなんでこんな超極地にあるんだ?
それに誰がこんな場所の転移門を利用するってんだ? この山が明らかな人工物であることや、ほかのなにもかもが点として浮かび上がってくるが、それを線として繋ぎ合わせる事は出来なかった。
今の俺が持つ情報はあまりにも限られている。
「ユウキ……もしかして、もしかしてさ。この向こうが日本に繋がっているなんてことも……」
「なくはないだろう……玲二は帰りたいか?」
首に紐を付けられて異世界に転移させられた俺の仲間たち。こちらに来てしばらく経ったので郷愁の念を覚えてもおかしくない。皆が望むなら、ここでお別れでも……俺は……
「いや全然。まったくこれっぽっちも思わない」
「思わないんかい!」
ちょっと別れを覚悟してしまった俺の気持ちをどうしてくれんだ!
「前に言わなかったか? 俺達日本に戻っても完全に詰んでるんだよ。俺は学生の身で借金持ちだし、ちょっとやらかして学校も退学寸前でしかも寮生活だったから退学になればそこも追い出されるだろうし」
詳しく聞けない空気だったから聞いてないが、玲二もなかなか危機的状況だったようだな。
「それに比べりゃこっちは最高だぜ? ユウキはいるし、ユキとのユニークスキルで欲しいものは大抵手に入る。それに剣と魔法の世界なんて向こうじゃ絶対味わえない。戻る理由がないっての。そこはユキも同意見だろうさ」
「そ、そうか。お前がそう思ってくれるなら、俺は何も言う事はないが」
「なにより日本に戻りたきゃ如月さんのユニーク育てりゃいいだけじゃんか。あっちは間違いなく日本に繋がってるの確定なんだし。それに、皆その日を今か今かと待ち望んでるぞ」
そうだった。目の前にそれっぽい門があるからつい連想してしまったが、如月のユニークスキルは日本と繋がっているんだっけ。それにウチの女性陣は日本というか、例の夢の国に行ける日を指折り数えて待っているのだ。なにしろ屋敷の一角にはあの国を紹介した案内書の山が細かく付箋つきで積まれているのだ。もう最初にどこに乗るのかまで決めているらしい。
その意味では俺のこの休暇は夢の国に遠のくという意味で女性陣には不満だったかもしれない。
「借金の利子も復活した事だし、帰ったらダンジョン攻略してレベルあげもしなきゃなだな」
「よし、じゃあそういう訳でこの転移門は放っとく事にする!」
俺の宣言は皆に届いたのか、全員がこちらに集まってきた。レイアとユウナがこの門の詳細を説明しているのが聞こえた。
「ええ? 折角見つけたお宝じゃないか。ほっといていいのかい?」
如月の疑問はもっともだが、俺にも言い分はある。
「気にならないといえばそりゃ嘘になるが、俺は関わっている暇なんてないんだって。今は時間制限付きの移動中なんだからさ」
俺はそう答えながらラコンの方を向いて尋ねた。
「たしか航海は順調なんだって?」
「ええ、皆さんが手を尽くしてくださっていますので、信じられない速度で船は進んでいます。大時化にでも遭わない限りあと6日ほどで辿り着くのではないかと船長もいってました」
「でもたいくつなの! なにもないんだもん!」
兄の腕の中でぴょんぴょん跳ねるキャロを見ると行きの航路のラコンの苦労が偲ばれる。
「とりあえず、ここから獣王国がどれほど離れているかわからん現状じゃゆっくり調べる気は湧かないな。それに今は風も収まっているが、ほんの数刻(時間)前までどうなってたかは皆も知るところだ」
今だって<結界>を張って色々やっているから皆が普通に息をしているが、これがなければここは立っていることだっておぼつかない場所なのだ。
なにしろ雲だって眼下にある高度1万メトル越えの死の世界なのだ。日が昇っているのになかなか空が明るくならないなと思っていたら、どうやらあれは宇宙らしい。そりゃ暗いわけだ。
我ながらよくここまで登ったものである。そしてこんな場所にあんな門を建てる意味が本当によく解らんな。
解き明かしたい気もするが、それはまたの機会にしよう。この場所は<マップ>に既に登録されているし、こちら側は魔力が豊富だからもし次来る機会があるとすれば魔法をガンガン使って簡単に来れるはずである。
「兄様、さきほどからこの山脈の先を双眼鏡で眺めていましたが、どうやらこの山を越えると砂漠が広がっているようです」
「はい。僕たちは死の砂漠と呼んでいる大砂漠らしいです。クロイスさんが調べてくれました」
ソフィアの言葉にラコンが補足してくれた。新大陸を活動拠点としていたクロイス卿はあっちの方に顔が利く。既に綬爵して子爵として活動を開始している彼は忙しくて大っぴらにラコンを支援することが出来なくなったが、このように細かい援護射撃をしてくれていた。
「それでも新大陸の端の端と言われてましたけど、本当に世界は広いなぁ」
俺が登ってきたレン国がある方向を眺めていたラコンは感心するような声を上げた。果てと思われた先に更に大きな世界が広がっているのだ。俺もこの大きさを思えば自分の小ささを思い知るに十分な出来事だった。
「風が出てきたな。どうやら幸運は使い切ったようだ」
もともと天候がよい時間の方が少ないこの山は、一度荒れだすと数刻、下手をすれば一日中吹雪が収まらない事もあるとあの村にいたときにメイファから聞いたことがある。
深夜から風が止んだのはごくまれな幸運を掴んだと考えるべきだし、仲間を呼んで初日の出まで見れたのだ。これ以上は高望みと言うものだろう。
「ここから何日かかるか解らないが、俺は獣王国を目指す。ラコンたちが住む王都は海に面しているんだっけ? とりあえずそこを目標にするさ」
「はい、南部にある唯一の港なので見間違う事はないと思います。ボクたちもそこへ向かっていると聞いています」
「じゃあ、向こうで会おう。玲二、悪いがよろしく頼む」
頷いた玲二にイリシャたちも頼むと、仲間たちは次々と転移環で戻ってゆく。
最後まで残ったのは従者二人だ。レイアが俺に向けて口を開いた。
「しかし何度見ても見事な眺めだな。私だけこのようなよい目を見てはアリアやセラ大導師に怒られてしまうな」
レイアはそういうが、元々夜型のあそこの連中はこの時間に起きているとはとても思えない。もし誘っても起き上がれるか疑問が残る。
「そういえばリーナはどうしてる? 少しは落ち着いたか? あいつのお袋さんに約束した手前、出来る事はしてやりたくなった」
「リーナがエルフの王女とはまだ因果な事だが、本人はいたって元気だ。なんでも言葉を覚えたら冒険者になりたいそうだ。あいつの腕を持ってすれば位階はすぐに上がるだろう」
「あの若さであの技量はまさに天賦の才です。望めばSランクさえ見えてくるでしょう。ただ本人はユウキ様に直接礼を言いたいとしきりに申しておりますので、ご帰還なされたらお時間をいただければと思います」
礼はいらないが、あいつがどんな道を見つけるのかは興味がある。エルフは例外なく長寿だと言うし、あの岩石でふさがれた土砂が片付けばいつか里帰りだって不可能ではない。あの閉塞したエルフの国とは違い、ここではリーナの未来は大きく開かれている。彼女が望めは何にだってなれるのだ。
「じゃあそろそろ行くぞ。二人も帰還しろ、獣王国についたらまた連絡する」
「我が君にはそろそろ十分な睡眠をとってほしいと従者としては思うのだが、それは言っても詮無き事か」
「ですかそろそろ4日もお休みになっておられません。睡眠不足は判断力の低下をもたらしますので、ユウキ様のパフォーマンスにも影響します。早急にお寝みいただくべきなのは間違いありません」
「獣王国についたらいくらでも寝れるんだ。そこまでは我慢するさ、だが二人が気遣ってくれた事は感謝する」
俺の深い礼をして二人の従者は転移環で消えた。そのころには既に風が吹雪に変わり始めており、ひと時の静寂は終わりを告げようとしている。
「行くか」
俺は魔力溢れるこの世界で十分な力を練り上げると、吹き荒れる風を背に受けつつ更なる東に向けて跳んだ。
「やっぱり魔力が潤沢だと楽でいいな」
これまでは神気で身体能力を大きく底上げして走るのが一番速かったが、ここでは魔力に任せて吹き飛ぶ方法が最速だ。ラコンやクロイス卿から獣王国やその周辺国家の地形は聞いて大まかに把握しているので、そこを目指してかっ飛んで行く。
もともと登りと下りじゃ後者の方が圧倒的に早いのは当然の話で、半日近くかけた周辺の山脈越えにかけた時間は半刻(30分)程度だった。行きは徒歩だったので魔力に任せて吹き飛んでいる今と比べる方が間違っているかもしれんが、とにかくこちらの方が早い。
山脈が終わるあたりで一度減速して背後を振り返る。もしあの崩落した随道が何事もなく真っ直ぐ進んでいればこの辺りだなと見当をつけて探すと、それらしい場所を見つけた。今から降りて探す気はないが、<マップ>に登録しておけば場所の把握は出来る。
今のままではシャオに姉に会うには山を越える必要があると伝えなくてはならないので、簡単ではないだろうがいつか随道の方も開通させたいものである。
そして山脈を越えると荒涼たる砂漠が延々と広がっている。レン国からエルフ国に向かう最中も似たような砂漠を越えたが、こちらの方が圧倒的に大きく、そして寂しかった。
先ほどラコンが死の砂漠と形容したが、確かに空しさを感じさせるほどただ砂の海が広がる大地だった。
この砂漠がいつできたのか想像もつかないが、この延々と続く死の砂漠を越えてまで山の向こう側と交易をしたのはたいしたものだ。交易相手の既に滅んだ猛き黄金の国とかいったが、その国はこの砂漠の先にあると言う話だから、もし城跡か都市の遺跡でもあれば地理の把握が出来るのだが。
砂漠は本当に広く、この速度で飛んでも通過するのに半日を必要とした。砂漠が終わると無骨な岩山ばかりの地形が続き、そこで日が暮れた。全てを無視して突き進む俺は幾度か意識を失ったが、それでも魔法は問題なく使えていたようで墜落して怪我を負う事はなかった。
そして二日目の昼くらいになるとこれまた世界を隔てるような巨大な渓谷が見えてきた。これは前に話に聞いた大陸深部の特徴の一つだ。ようやくここまで来たかと感慨深い思いで進み、俺は速度を上げる。
そしてその夕刻に、とうとう獣王国に辿り着く。既に凶悪な睡魔に襲われていた俺はクロイス卿から聞いていたお勧めの宿の最上階に部屋を取ると、その部屋に転移環を置いてアルザスの屋敷にようやく帰りつくのだった。
「お帰りなさいませ。長らくこの時をお待ち申し上げておりました」
「ああ、ただいま。ようやく戻って来れた。やはり新大陸は広かったな」
他にも色々話したい事があるであろうユウナを手で押さえ、俺はとりあえず風呂に入って旅の疲れを落とした後、ようやく寝台に体を投げ出すのだった。
楽しんで頂ければ幸いです。
お読みいただけたとおり、関わっている暇がないのでスルーしました。
後半になると色々描写が適当になるのは主人公が睡魔に襲われて眠いからです。自分も睡魔とたかっているときはそんな感じになります。
さて次から獣王国をやりつつ、ダンジョン攻略を再開する運びになります。
もしこの拙作が皆様の興味を引いて頂けましたら評価、ブックマークなど入れていただくとこれに勝る喜びはございません。何よりも作者のモチベーションが鰻登りになります。更新の無限のエネルギーの元になります。




