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偉大で悠久なる優性種ども 6

お待たせしております。



 走り続ける俺の視界にそろそろ王都が見えてきた。


 だが、王城の姿が見えてこない。普通王都と言ったらその中心に王城がそびえたっているのが普通だろう。王権の象徴だし、何より一番目立つ建物として意識して作られているはずだからだ。


 その代わり中央に見上げるような超巨大な樹木が一本、堂々と生えているのが特徴といえば特徴だ。その大樹を中心として都市が出来上がっているのが王都だと聞いている。ご大層に”始祖の世界樹”とか名付けて彼等の信仰の中心らしいが、まさか王家と名乗っておきながら本拠地に城のひとつもこさえていないのかと不思議に思っていたら、王都に近づくにつれその全容が明らかになってきた。


「あれは……樹の中に建物が同居してるのか?」


 俺は知らぬうちに独り言をもらしていたが、世界樹の根元あたりにまさに城と呼ぶに相応しい建造物が建っていた。長い年月をげて絡みついたかのような枝と城は見た感じ一体化しているように見える。


 意外とあの大樹の中をくりぬいて生活空間があるのかもしれない。エルフが樹と森を大事にしているような印象を受けたが、あの扱いはどうなのだろう。

 ……まあ、エルフどもがどう扱っていようが俺の知ったことではないか。既に盛大にやらかしているし。


 俺の背後、というか先ほどまでいた街がある方角からは、大量の黒煙が上がっていた。俺は前に一度振り返ってからはもう意識の外に追いやっているが、あの街の連中が火消しを失敗したらしい。今日は強い風が吹いていたわけでも空気が乾燥していたわけでもないのでせいぜいあの爺の屋敷を焼失するくらいだと踏んでいたのだが、どういうわけか派手に燃えているみたいだ。俺が火付けをしたわけではないので罪悪感などまったく抱かないが。

 そもそもエルフは水魔法だって簡単に使いこなすから消火なんぞお手のもののはずなのに、何をやっているのだか。



 王都は先程ほどの街よりも数倍大きく、そして堅固な壁に四方を守られた城郭都市であった。高速で走ってくる俺を見咎める者もいたが、それ以上に背後の火事を気にしている兵士が多くて俺に構っている暇などないようである。


 それにこいつらの反応を見ていると炎に驚き恐れるばかりで、消火をしなくてはと考える者がほとんどいないようだ。誰もが破壊の炎が、と呟いて放心状態だ。リーナがエルフは炎を忌避していると話していたが、これは度が過ぎやしないか? どれだけ日常生活て避けようが火なんて森に落雷でもあれば嫌でも火が出るだろうに。まるで初めて炎を見た野生の獣のように驚き、恐れるばかりじゃないか。


 こんなザマでよくもまあ”エルフは偉大な優性種”などとほざけたものである。



 王都に入場するときはよくある光景だが、ここも多分に漏れず待機待ちの列が出来ていた。だがその列に並んでいる者もそれを検める兵士も揃って背後の火災の黒煙を不安げに見つめるばかりだった。


「おい貴様! 列に並ばんか! 横入りは厳禁であるぞ!」


 そんな中でも職務に熱心な兵士の一人が門に突進する俺を見つけて槍を手に声を張り上げるが、そんな事は関係ない。俺は走る速度を緩めぬまま大声で叫んだ。


「押し通る! 死にたくなければ下がってろ!」


 同時に門に向けて火魔法を放ち、極太の炎の槍が鋼鉄製の大門に炸裂した。


 耳をつんざく轟音と共に吹き飛ぶ正門。誰もがその衝撃に立ちすくむ中、俺はその隙を突いて王都内へ

進入した。目指すは王城の古文書処だ。不幸中の幸いであのクソ爺から記憶を奪っており、王城の何処にその古文書処があるのか解っているので後は突き進むだけでいいのは楽だ。


「し、侵入者だぁ!」「正面正門を破壊して進入しやがったぞ!」「決して逃すなっ! 我等の誇りにかけて捕らえて八つ裂きにしてくれるわ!」「あの野郎、こんな堂々と! 舐めやがって」


 俺の背後から正気に返った兵士達の焦った声が届くが、その声は既に掻き消えるほど小さい。俺は疾風のような速度で大通りを疾走しているからだ。国の正門をぶち抜いたおかげで目指す王城は真っ直ぐ進むだけでいい。

 真正面から王都全てに喧嘩を売った形ではあるが、俺としては是非とも超強いエルフ様たちに盛大に御買い上げいただきたい。この国に来てからというもの、俺の煮えくり返った(ハラワタ)を少しでも皆さんにおすそ分けしたいのだ。


 王城から伸びる一番広くそして目立つ目抜き通りを走っているので、多くのエルフが俺を姿を見て驚愕しているようだが、驚くばかりで何か対応を取る奴は居なかった。先ほどの正門爆破はデカい音を立てたので皆が気付いただろうが、それと俺を結びつけてはいないのだろう。それにここにいるエルフは皆魔法の心得があるとはいえ、戦いを生業とする兵士ではない一般市民だ。俺を実力行使でどうにかしてやろうとは考えない立場の連中なのかもな。

 それにここからでも火災、いや大火災の黒煙は見えるはずだ。火事と爆破の二重の衝撃で少しばかり放心状態に陥ったやつも多いようだ。俺にとっては都合がいいので、気にすることなく大樹の下にある王城に向けて疾走する。



「止まれ!! 恐れ多くも王城至近でこのような狼藉、万死に値する! この痴れ者め!」


 城の目の前近くまで来るとさすがに衛兵達もちゃんとしていた。凄まじい速度で疾走する俺に向かって幾条もの風の刃が飛来する。もちろん<敵魔法吸収>で俺の魔力の糧になった。神気の長時間使用で魔力の自治ら側での微々たる自然回復量より使用量が上回っていたから、地味に魔力補給は有難い。とはいってもまた9割近い魔力はあるので、枯渇の心配はまったくない。

 それとこのエルフたちが風魔法ばかり使うのも彼等の特性というか、風属性がエルフと種族的に相性がいいそうだ。そして見かけどおりドワーフ(俺はまだ会った事がないけど)は土魔法が最高に相性がいいという。


「こいつはお返しだ! 遠慮せず取っておけ!」


 王城にも王都の正門より豪華な大門が供えてあったが、ご期待に応えて先程よりさらに巨大な炎の槍を投擲する。俺が火魔法ばかり用いるのはもちろん連中への嫌がらせである。


 炎の槍というより丸太のような一撃を受けた大門は一瞬で蒸発した。籠めた魔力が強すぎたようで、門を蒸発させただけでは飽き足らず、まったく威力を減衰させないまま奥に突き進もうとした為、途中で魔法を解除した。エルフの王城なので魔法防御などの細工があるかと思って強力なやつを叩き込んだのだが、なんか保護膜らしい微妙なやつをあっさりと貫通して扉を蒸発させてしまった。

 いや、失敗失敗。これまで魔法といえばダンジョン内でモンスターにしか使ってこなかったから、対人での手加減の経験が少ないんだ、悪く思うなよ。


 悪夢を見たような顔をして居る兵士達の足元に着弾と同時に炸裂する火魔法を叩き込み、哀れな雑魚兵士達は吹き飛んでゆく。目の前の障害が消えたのを確認して王城の内部へ突入する。

 


 <マップ>で内部構造を把握したのだが、やはりこの王城は大樹の内部を切り開いて空間を確保しているようだ。見た目的には世界樹の外周に建物を覆うように追加したように見えるので、エルフどもが生活するにはそうするしかないよなとは思っていた。

 さて、俺の目的はここの奥にある古文書処である。俺の周囲は当然ながら大混乱の極みであるが、特に<擬態>なんぞをしなくとも俺がこの破壊の首謀者だとは思われていないようだ。状況を知らせる大声や城の奥から兵士や王城に詰めている騎士の増援を請う声が絶え間なく叫ばれているが、俺に注意を払うやつは居ないみたいだ。


「おい、お前。ひとっ走りして状況を報告……何だお前、何もん……」


 前言撤回、適当に誰かを捕まえるつもりだった偉そうなやつに一撃を与え昏倒させると、俺は目的地へと足を進めた。幸いと言うか、城の中は既に大混乱なので、これ以上見咎められることなく俺は古文書処へと辿り着く事ができた。



 その場所は薄暗く、不思議な匂いに満ちた場所だった。後で聞いたら防腐処理の効果のある香をたいているそうだった。

 そして古文書なんとか、といっても要は図書館みたいなものだ。この国のありとあらゆる情報が集められていると言う触れ込みの場所だったが、なんか倉庫みたいな暗い部屋だった。


「あら、ご利用者ですか? 珍しい事もあったものですね」


 扉を閉めて中に入った俺に声を掛けてきたのは少し年上に感じる女エルフだった。その奥には同僚なのか、二人のそこそこ若い男エルフもいた。

 先ほどまでデカい音を散々立てていたのだが、まるで気にした素振りも見せない彼女達を不思議に思ったが、どうやらこの部屋には何らかの防音装置でもあるようだ。大混乱の城内の喧騒がまるで聞こえてこなかった。

 これはちょっと都合がいいな。上手く騙して手玉に取れるかな?


「一つ物を尋ねるが、この部屋の出入り口はここ一つだけかな? 裏口とかあったりするのか?」


 開口一番に変な事を聞いた俺に訝しげな顔をした司書エルフ(今命名した)は、戸惑いながらも答えた。


「ええ、そうですね。出入りはこの扉だけしかできません。資料の保存環境を整える為にも出入りは少ない方がいいので」


 何故そんな事を聞いているのかと言わんばかりの顔をしているが、<マップ>でその事を改めて確認した俺はその扉に<アイテムボックス>から取り出した大量の岩石を積み上げた。この岩はテルミ鉱山産である。採掘の際に出たものだ。


「な、何を!」


 古文書処の大扉が見えなくなるくらいの沢山の障害物を置いた俺は、唖然とする司書エルフたちに冷たい声で宣言した。


「悪いがこの場所は俺がしばらく占拠する。あんたらも早くここから出たいなら俺に協力した方がいいぜ」




 いきなり現れた人間にそう命令されたエルフ達は当然反発した。だがこの部屋は防音のほかに魔法も使えなくなる魔導具があるそうで、エルフ達は得意の魔法を使えず素手で俺に立ち向かう可哀想なことになった。

 その後、現実を思い知らされた男二人は俺に敗北した事実を黙っている事を条件に渋々協力した。俺に話しかけてきた女は聡明だったようで、俺が調べ物が終われば出て行く事と、扉の前に置かれた大量の岩石も俺が片付けられると解ると無駄な抵抗はしなかった。

 俺が障害物を置いたのは邪魔される事なく調べ物をするためである。俺がここに突入したことで城内をくまなく捜索する連中がここを探さないはずがなく、見つかれば調べ物どころではない。ここに俺が居る事が判明するのは時間の問題だが、あの大量の岩石をどかすのには時間がかかるはずだ。その間はじっくりと作業が出来るはずである。


「それで何を調べたいのかしら? 見ての通り、ここにはエルフィリウム全ての歴史が納められているわ」


「大昔にあの大山脈の向こうと交易をしていた記録が見たい。俺が探しているのは、その交易路だ」


 俺の言葉にエルフ司書たちは連れ立って歩き始めた。さすがここを職場にして居るだけあってどこに何の記録があるのか把握していた。

 俺の当初の計画では全ての記録書を<アイテムボックス>に突っ込んで整頓して目録を作り、そこからそれっぽい情報を探すつもりだったので大幅に手間が省けた。司書たちの退路を絶って嫌でも協力的にして良かった。


「ニンゲンが何故そんな情報を欲しがる」


「それが帰り道なんだよ。っても信じられないだろうが」


 男エルフのひとりが誰ともなくつぶやいた言葉を拾って言い返した。そんな馬鹿なといいかけたエルフだが、この辺では全く見ない俺の金髪を見てもしやと思ったらしい。


「まさか。確かにその髪は珍しいが、じゃあいったいどうやってこっちに」


 その言葉に答える義務はないが、興が乗った。


「いきなり飛ばされて気付いたらあの山脈の麓に居たんだ。そこから西へ西へと流れてこここまで来る途中、大昔に山向こうと交易をしてたって情報を得てな。どうも俺の故郷はその交易相手の近くらしい」


「あの神の山脈の麓だと? ではあの竜人たちの国を越えてきたのか」


 こちらでもあの大山脈は敬意を籠めて神の山脈と呼ぶらしい。ここまで来ても冬の澄んだ空気の朝とかだと普通に山々が見えるからな、その気持ちは理解できる。


「あの国にはろくに情報がなくてな。そんな訳で歴史の長いこの国まで足を伸ばしたってわけだ」



「ここの書架に当時の資料が残されているわ。私たちに出来るのはここまでね」


 俺が男エルフと話していると、先導する女司書エルフが指差した。この世界では珍しい事に、紙の本だった。俺が手当たり次第に本を引っこ抜こうとすると、制止の声がかかった。


「素手では触らないで欲しいわね。失われると二度と戻る事のない貴重な文献なんだけど」


「それは一理あるな。わかった、そうしよう」


 俺は素直に従い、<アイテムボックス>から黒革の手袋をはめて持てるだけの本を取った。


「床に広げるのもまずいか。しょうがないな」


 俺はまたも<アイテムボックス>から大きな机と数脚の椅子を取り出すと、机の上に本を置いた。


「なっ! い、今何処からその机と椅子を取り出した?」


「秘密の方法だ。言っても理解できないと思うぜ」


 <アイテムボックス>の説明をする気もない俺はさっさと文献を読み始めたのだが……ああ、そういえばあの司書は”私たちに出来るのはここまで”と言ったな。その理由がわかった。


「解読法が遺失した古代エリク文字を読めるのならば好きなだけ読むと良い」


 何故か勝ち誇った顔の男エルフが偉そうな顔をしているが……俺を罠に嵌めたつもりなんだろうか。


 こちとら<異世界言語理解>があるので普通に読めるんだが。まあ言わぬが華か。このスキルは見知らぬ文字を勝手に自分に理解できる文字として解読するので日常会話の習得手段としては大きな欠陥があるが、情報を仕入れるだけなら全く問題がない。


 この書物は既に交易が行われていない600年程の昔の記述ばかりだった。<速読>であっと言う間に読み終えると、取り出した手帳にこの本の要約を書きとめてゆく。


 本の数が5冊を越える頃に、驚いたような声が後ろからかかった。


「ま、まさか、お前、古代文字が読めるのか?」


「読んでいる、というわけではないが、書いてある内容は理解してる。例えばこの本はここより更に西のフェルガナという都市との交易について書いてあるな。異教徒との戦争が近くて近々交易も中止するらしいってさ。これが、800年前か」


 俺が何気なく本の記述を口に出すと、三人の目の色が変わった。凄い勢いで各地に散ると、それぞれが古い文献を手に集まってきた。


「今のお前の言葉が正しいとすると、フェルガナの滅亡が今から700年以上前という仮説に信憑性が出てきたな」

「ええ、忽然と姿を消した幻の大都市は、戦争によって滅んだと見ていい。異教徒となるとあの当時勢力を拡大していたファラム教でしょうね、それしかない。でも、彼等の拡大はこの当時はそこまで進んでなかったはず」

「姉御、ここの走り書きを見てください。ファラム教の第三代シークの弟が分派して南下しています。それが勢力を拡大していたら、時期的に符号しています。兄の聖騎兵も丸ごと譲り受けて教化するための分派ですから、フェルガナを滅亡させうる戦力は十分かと」


 

 三人の目が一斉にこちらを向く。先ほどまでのなげやりな態度は何処へやら、情熱の炎がその目には燃え盛っている。どうやら俺の言葉は彼等の研究者魂に火をつけたらしい。


「敵の親玉はイマームとか書いてあるな。本によると炎の使徒とか自称していたらしいぞ」


「イマーム! 南征帝王じゃない!」「あの当時の炎の使徒っていえば、カシュガルあたりも占有してた一大組織ですよ。こりゃ決まりですって!」「長らく謎だった西部混沌期が一気に明らかになったぞ。こりゃ一大発見だ」


 そうやって三人で大いに騒いでいたが、ふと正気に返って男エルフが俺に視線を向けた。

 なんとも言葉にしづらそうだが、何を言いたいかは顔に書いてある。


「俺の調べ物を手伝ってくれるなら、本を翻訳してやるぞ。上手くいけばそこから失われた文字の解読表も作れるはずだ」


 俺の提案に三人の研究者は即座に頷いた。

 こうして俺は本を翻訳しつつ、俺の求める真実に辿り着く助手を手に入れたのだった。



「情報としてはやはり交易品の記載ばかりだな。当然といえば当然だが」


「だけど、山越えの前にこのリュウセンという街に何回か立ち寄っているようね。心当たりは?」


 俺は懐から自作の地図を取りだすと、リュウセンと書かれた地名を指し示した。場所は山脈のすぐ近くにある街のようだ。


「場所からすると、山越え前の最後の補給拠点と見るべきだな。そう考えるとこの周囲にお前が言うトンネルとやらがあるはずだ」


「そうね。本気であの山を越えるなら当時の商隊にも相応の装備や多くの馬や牛がいるはず。それらの記載がまるでないとなると、山脈を貫いた穴があると言う考えにも説得力が出てくるわ」



 俺達は読み解いた史料からあの大山脈にあるとみている随道の位置を探るべく議論を交わしていた。俺が文献を解読し、そこから得られた情報を精査して三人があれこれと俺の探す随道の位置を予想してくれている。その考えは俺も頷けるものであり、彼等の知性を裏付けている。


「この文献から解る事は、この国も交易路の通過点のひとつに過ぎなかったってことだな。本来はもっと西の国から東のレン国を抜けて山向こうと交易を行っていたってことだ」


 気の遠くなるような超距離を移動していたことに成るのだが、その移動手段は俺の想像も付かない方法を用いていそうである。何せ文献を読み解くとここからあの山脈の麓まで僅か15日ほどで移動しているのだ。文献には馬車を使ったなどという言葉もないので、恐らく高速移動手段があったのだと思われる。

 もしかしたらあの不思議な古代魔導具とかが作られた時代に交易は行われていたのかもしれないな。


 その後、一刻ほどかけてああだこうだと議論を重ねた俺達は、俺がとある記述を見つけたことで終息を見た。


「ここだ。ここに山越えに入る直前に獣に襲われたとある。その前の記載が2日前にリュウセンの街を発ったとあるから、大体このあたりで間違いなさそうだ」


 その地点の近くには渓流が流れていると特徴をしめす場所まで書かれていたので、ひとまず俺が目指す場所は特定できたといって良いだろう。既に俺手製の地図に紅い丸で重点的に探す箇所も示してあるから、あとはこれと<マップ>の整合性を取っていけば目的の随道は見つかるのではないだろうか。

 少なくともここで行うべき事は全て行えたといって良いだろう。



「三人とも助かった。ここまで絞り込めれば後は自分で何とかしてみるさ」


「なに、こちらのほうが収穫は大きい。解読不能を思われていた文字が読めたんだ。お前が書き写してくれたこの文章を元に解析を進めてみるさ」


 文字を教えるといったが、一つ一つ細かなことまで教えている余裕はない。なので、文献の最初の数枚をそのままこちらの言葉で翻訳してやった。後は同じ言葉を組み合わせたりして解読を進めていくという。根気の要る地味な作業だが、研究者というのはそれらが大好きな人種らしいので苦労はないとのことだ。



「じゃあ、世話になったな。俺は行くとするが、その前に皆を後ろ手に縛るぞ」


 片付けを終えた俺は出入り口を指差して三人を拘束すると告げた。すでに扉の向こうには多くの兵士が岩石をどけようと苦労しており、俺がここにいる事は相手も理解しているのだろう。


「いや、そこまでしなくても構わないだろう。俺達に危害は加えなかったと伝えれば……」


「それも面倒だろ。彼女を人質にされて抵抗できなかったとか適当な理由でっちあげろよ。そのほうがお前たちのためだろ」


 俺自身は全く反省するつもりもないが、ここの連中からしてみれば王城で暴れに暴れた不届き物である。矮小な人間を相手にむざむざと敵に囚われていたなど知られたら彼等が色々と厄介事に巻き込まれるだろう。

 俺を適当に悪者にしておけば一番上手く回ると告げれば、不覚をとった彼等にしてみれば一番面倒がないのは事実だった。


「じゃあな。色々助かったぜ」


「お互いにな」


 挨拶を交わした後、彼等を拘束して適当な小部屋に閉じ込めると、そのまま出入り口の扉の岩石を<アイテムボックス>にしまい、外に出た。


 すると当然多くの兵士達の大歓迎を受けた。


「現れたなニンゲンめ! 我等エルフの王城で好き勝手に暴れた事、地獄で後悔するがいい」

「まて、簡単に殺してはならん、自分がどれほどの罪を犯したのか、その身に刻んでやる必要がある」

「脅えろ、竦め! 愚かな人間に相応しい末路を与えてやるぞ!!」


「「「ぐわあああああっっ!!!」」」


 

 そろいも揃って寝言を吐く馬鹿どもの足元に火魔法を炸裂させ、数十人の兵士が一気に吹き飛んだ。

 だがここでいくらでも現れる兵士を相手にしていても埒が開かないのは確かだ。


 なので俺は既に想定してあった王城脱出計画を実行に移す為、城の上層に向かって走り始めた。



 この城は4層からなる大きな建物だ。俺が先ほどまでいた古文書処は第一層になるが、上に上がるにつれ、貴人の生活空間などがあるらしい。

 俺は2層を駆けぬけ、第三層の中を走っていた。周囲に人影はまったくない。兵士達は俺が破壊した正門前に全兵力を集中させていて、上層階には全く注意を払っていなかった。

 それ自体は別に間違っておらず正しい判断だと思うが、それくらいは俺だって見越している。わざわざ敵が待ち構えている場所に突っ込んでやるほど馬鹿ではない。


 第三層は実質的な最終階層であり、その上の第四層は謁見の間やらエルフの女王の生活する区域らしい。そのためがこの層には屋外庭園やら噴水やらがある。というか第四階層に向かう為にはそこを通る必要があるので()()に気付いたのは必然だったのかもしれない。


「ん?」


 俺は不意に不思議な魔力の流れを感じ取って急いでいた足を止めると、その場所に近づいていった。


 そこは庭園の中央にある泉だった。もちろんこんな場所にあるから自然のものではなく人の手が入っている人工的なものであり、取水口から絶えず水が流れ込む空間だった。周囲には薬草畑が広がっていて、ここが王城である事を一瞬忘れそうになるが……俺が気になる事はそこではない。


 俺の視線はあの泉に釘付けになっている。この魔力反応と言い、間違いなくアレなはずなんだが、何でアレがこんな場所にあるんだ?



 俺は池に近づくと手にした容器に池の水を汲んで<鑑定>を行ったのだが、これまた不思議な状況だな。



 何でマナポーションが王宮の泉から湧き出ているんだ?



楽しんで頂ければ幸いです。


すみません夜の内に上げるつもりが日付が変わったら猛烈な睡魔が襲ってきてダウンしました。

自分で何かいているか判断できなかったもので朝になりました。


次回でエルフ国家はお終いの予定で、その後はこの大陸の秘密に迫ります。




もし皆様の興味を引いて頂けましたら評価、ブックマークなど入れていただくとこれに勝る喜びはございません。何よりも作者のモチベーションが鰻登りになります。やる気が無限に湧いてきます。

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