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世界最強になった俺、史上最強の敵(借金)に戦いを挑む!~ジャブジャブ稼いで借金返済!~  作者: リキッド


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偉大で悠久なる優性種ども 5

お待たせしております。




 俺はまだあると思っていた時間的な余裕は吹き飛んだ。今から急いでもラコンたちの新大陸到着に間に合うかどうか微妙な所だが、現地での助力を約束していた手前、間に合いませんでしたは格好がつかないのであらゆる予定を前倒しにして急ぐほかない。

 向こうもかなりの強行軍になるそうだが、俺ほどではないだろう。しかし正直この休暇を少しばかり長く楽しみすぎた感はあるので急ぐ事に異論はない。


 俺は次なる目的地へ向かい、走る速度を緩めることなく<念話>でレイアに尋ねた。


<リーナは大丈夫そうか?>


<ああ、今はアリアとセラ師と歓談している最中だ。リーナは遠く離れた地で同族と遭遇するとは思っていなかったようで大層驚いていたし、アリアの方も歓迎する空気だ。そこだけが心配だったが、上手くいって良かった>


<有無を言わせず送ったからどうなるかと思ったが、何とかなったようで安心したぜ>


<リーナのあの様子では早晩命を絶っていただろう事は間違いないと私も思う。私も我が君の判断を支持するよ>


<ねえねえ、エルフのくっころポンコツ女騎士手に入れたって本当!? いまどこにいるの!?>


 今まで寝ていたらしい相棒が俺たちの会話に割り込んできた。いや、手に入れたって物じゃないんだから……


<エルフといっても肌は褐色だけどな。前に話に出たダークなんちゃらではないようだぜ>

 

<いやいや、肌が黒ければダークエルフじゃん! 属性てんこ盛りじゃん! なんて恐ろしい子……って、いまはどこに居るのってば!?>


 黒じゃないって、そこは大事だぞとなぜか必要に駆られてそう強く思ったが、興奮したリリィに何を言っても無駄なのはわかっている。


<姉弟子のとこに居る。いきなり送ったからまだ混乱してるかもしれん。少し落ち着いてから……て無理か

>


 俺は感覚でなんとなく解るのだが、相棒はすぐにセラ先生の店に転移したようだ。あの転移がこちらでも使えれば相棒も俺と同行できるのだが、魔力のほぼないこの世界ではただ存在するだけで苦痛らしいからな。  

 もし居てくれれば地理の把握にも役立ったと思うが、相棒に無理をさせてまで欲しい情報ではないので我慢する。


<あ、そうそう、そういえばもう聞いた? 獣人の一家は今日にも出発するんだって。なんでも予定がめちゃめちゃ早まったらしいよ。出発までに戻るのは無理だったね>


<ああ、さっきユウナから聞いた。アードラーさんの活躍を知った敵が先手を打ったようでな。多分ラコンが二度と政治的に復活できないような何かをするんだろうさ。新大陸へ10日で到着する無茶な行程を組んだらしいぞ>


 新大陸から旧(?)大陸へは偏西風の影響で相当早く到着するというが、旧大陸から新大陸へは逆風になるので半月(45日)弱の日時が必要になるという。それを無理矢理10日で走破する為に王国が相当に骨を折ったとユウナから追加の情報が来た。

 なんでも帆に風を送るだけの魔法使いを大量に冒険者ギルドで募集をかけたそうだ。マナポーションや触媒は全部依頼者もちかつ片道だけで報酬は金貨15枚という破格の大盤振る舞いだ。王家からも宮廷魔法使いが参加するというし、腕に自信のある魔法使いはこぞって応募するだろう。


 それらを使い倒して昼夜問わずに全速力で飛ばせば10日、より正確には獣王国での行事に何とか間に合うという。


<むしろ問題はいきなり離れることになったシルヴィアお嬢様の方なんだけどな。一緒に新大陸まで行くって駄々をこねてる真っ最中だ>


 会話に参加した玲二は今、公爵邸に居るらしく実況中継してくれたが、頑として聞かないお嬢様に頭を抱える公爵とクロイス卿の顔が目に浮かぶようだ。


<そりゃ大変だ。だがいきなりお別れになっちゃシルヴィアがそう言うのも解らんでもない>


 シルヴィアと獣人一家は非常に良好な関係を築いていたからな。突然今日帰りますとなれば我儘の一つでもいいたくなるだろう。そしてシルヴィアの我儘は公爵家では神の一言に等しい。


<なんかさっきからクロイスのおっちゃんが俺をガン見してくるんだけど……確かに今学院も年末で休暇中だし、暇っちゃ暇だけどさ>


<まあ、公爵家の頼みはなるべく聞いておいたほうがいいんじゃないか? 玲二なら転移環の設置もできるから危険を感じたらお嬢様だけでもそっちにすぐ戻せるし>


 風のように走り続けながら<念話>で仲間達との会話を続けていた俺だったが、今の玲二の言葉にふと引っかかるものがあった。


<ん? 年末? 今って年の瀬だっけ?>


<あ、さては日付の感覚曖昧だろ? 今は冬の57日で、後3日で新年だぞ>


<本当かよ! ……なんだかあっと言う間だな。よし、新年はそっち側で過ごせるようにする。後三日であの山脈の抜け道を探し出してやる>


 俺がこの体を得たのが春の終わりごろだから、もう半年が経ったのか。あれ、あっという間というか、結構濃密な時間だったような気も。いろいろあったからなぁ、果てにはこんな見知らぬ場所で帰り道を探している始末だし。


<こりゃまた大きく出たな。でもまだ殆ど何もわかってないんだろ? 間に合うのかよ>


 俺の目標に怪訝な声を出す玲二だが、解ってないな。問題は出来るかではない、やるのだ。


<それを間に合わせる為に急いでいるのさ。とりあえずこの腐れた国とは今日でオサラバだ。もっとグチャグチャに引っ掻き回して糞エルフどもに吠え面かかせてやりたかったが、時間がないから許してやる>


 内心憤懣やるかたないが、こちらの事情もあるから仕方ない。運のいい耳長どもである。


<うわあ。ユウキに喧嘩売るとか死にたいとしか思えねぇ>


<ふむ。だが我が君の先ほどの鉱山襲撃は致命的な一手のようだぞ。今リーナから聞き出したところでは、あの魔晶石とやらはエルフがほぼ独占的に使用し多種族に流す量もかなり制限されていたようだ。そうやってエルフ達の権力基盤を固めていたのだな。だが我が君によって新たな魔晶石が流れなくなると……>


<なるほど、いずれはエルフの強力な支配にヒビが入るか。魔晶石がなければ満足に魔法が使えないのは他のエルフでも同じようだったしな>


 そうなるとエルフの権力の低下と共にこれまで虐げてきた多種族の力が相対的に増す事になるだろう。そうなればエルフの天下も終わりが見えてくるな。


 そういや毒矢を受けて倒れたリーナを連れて脱出する際に、他のエルフどもをなぎ倒したが、彼女ほど優れた使い手はいなかった。何やら騎士の中でも階級の高い方だったと言うし、その実力は折り紙つきだろう。

 はて、だがそんな彼女も自殺を考えるほど迫害を受けていたという。激しく差別されても高位の騎士で居られたってことは……もしかしてリーナは良いとこのお嬢さんか? 元々いい生まれじゃなきゃ偏見を受けながらあの腕だけで高位の位には就けないだろう。


<なるほど、一理ある。後で聞き出しておくとしよう>


 レイアにはリーナにエルフの国の事情を聞きだしておくように頼んである。その中で幾つか優先順位も付けさせてもらった。


<待て待て、後回しでいい。今はさっき言ったとおり、これから向かう街のどこにお偉いさんがいるかだけ今は聞いてくれればいい。あいつもまだ色々心の整理がついてないだろうから、無理はさせるな>


<承知した。何かあればまた連絡しよう>


<こっちもそうする。多分一緒に船旅する予定になりそうだけどな>


 レイアと玲二との<念話>を切った俺は走る速度を加速した。実は一度リーナが私物がまだあの建物に残したままだと喚いていたのでテルミ鉱山に戻っているのだ。鉱山は俺が始末したエルフの亡骸が数体あるだけで、他の兵士や奴隷たちも逃げ去って人っ子一人いなかった。なので宿舎の部屋の荷物を片っ端から<アイテムボックス>に突っ込んでまた戻ると言う手間を掛けていた。


 時間がないのに面倒な事だが、リーナは俺が無理矢理向こうに送り込んだから私物を取りに行くくらいの融通は利かせてやった。本人は魔力が豊富で肌の色で差別がない(皆無ではないが、このクソ国家のように虫以下の扱いをされないという意味)あちら側を夢のようだと喜んでいるそうだ。

 あの卓越した魔法の腕があれば冒険者でも宮廷魔法使いでも何でもこなせるだろうし、自分で自分の生き方を選べるはずだ。

 こっち側には親類や何やらが居るかもしれないが、まだ若くて可愛い娘っ子が己の人生を悲観して泣きながら死にたいと思うよりよほどマシなはずである。



 そうして全力で走り続けること一刻(一時間)ほどすると、視界に外壁に囲まれた大きな街が入ってきた。名前はなんだったか……<マップ>見れば書いてあるんだろうが、面倒臭い。一の街でいいや。


 街の大きさは大したことはない、というか比較対象のレン国が巨大国家過ぎてどれも小さく見える。東の領都だってランヌ王国の王都よりも大きかったし、天都に至っては外郭部だけで一国が丸々入るような巨大さだった。一見する限りウィスカの街と大差ないくらいの大きさだろう。


 そして特徴というか、街の周囲に多くの難民らしき者達が簡素な家を作っていた。王都にも同じようなスラム街があったが、この程度の小さな街にもあるとは思わなかったな。だが、その民を見て納得した。目に付くのは人間や他種族ばかりで、僅かにいるエルフはたぶんハーフエルフだろう。

 

 恐らく街には入れるのは純粋なエルフとか決まっているのではないだろうか。

 連中の選民思想は別にどうだっていいが、これはなかなか利用できそうな状況である。


 街に入って異常に長生きしていると言うエンシェントと呼ばれるエルフから情報を引き出すのが目的だが、普通に考えて簡単に中には入れないだろう。コソコソ隠れて外壁を越える手もあるが、既にこんな国がどうなろうが俺の知ったことではない。怒りに任せて虐殺をするほど堕ちてはいないが、兵士相手に派手に暴れるくらいはするつもりだ。


「止まれ! 貴様、何者だ!?」


 街の門に無遠慮に近づく俺をエルフの衛兵が誰何の声をかけるが無視して歩を進める。そのうちに衛兵達は手にした槍を俺に向けてきた。


「愚鈍なニンゲンめ、痛い目を見ないと理解できないか、この低脳が!」


 手にした槍で俺を突こうとしている兵士の眼は嗜虐の喜びに濁っていた。良かった、気兼ねなく潰せる屑だった。


「これから痛い目を見るのはお前たちだがな」


 直後、俺が放った火魔法が門に炸裂し、爆音と共に閉じられた門が空高く吹き飛んだ。


「な、何が!! ぐはぁっ!」


 呆気にとられる衛兵に一撃を食らわせ昏倒させると、俺は一瞬だけ背後のスラム街を見やり、そのまま街の内部へ駆け出した。


「と、扉が開いたぞ! 今のうちだぁっ!」


 背後から多くの足音が続いてくるのがわかった。これで暫く周囲は混乱に陥るだろう。俺の目的も少しは達成しやすくなるに違いない。



 さて、リーナから聞き出した所では、エンシェントエルフは優雅に暮らしているらしい。それはこの街の町長なんぞよりもはるかに金の掛かった生活をしているというから、おのずと住んでいる場所も解ってくる。この町で一番金の掛かった屋敷を探せばいいのだが、それはすぐ見つかった。宮殿のように立派で豪華な建物が一つだけあったのだ。

 元々穏便に済ませる気など毛頭ない。もし人違いでもそいつから居場所を聞き出せばいいので、気兼ねなどせず屋敷の扉を蹴破って中に進入する。


 人の気配はあまりなかったが、外見にそぐわぬ金の掛かった装飾が見事な屋敷である。強いて言えばこの街もそうだが石造りの建物ばかりであるのが気になった。エルフが樹を大事にする文化があるとリーナが言っていたので、建材は石材が多いのかもしれない。


 <マップ>で間取りを確認すると、奥のほうに数人居るようだ。そのうちの誰かが目当てのエンシェントエルフであればいいなと思いつつ屋敷内を進む。


「ここは……台所か?」


 そのうちに土間っぽい場所に出たのだが、なんというか台所なのに水瓶や竈がない変わりに台の上に丸く平べったい変な敷物のようなものが置いてある。これはどこかで見たな、そうだ、あのハーフエルフの集落であった魔導具か。

 確か加熱の魔導具だったような気がするが……ああ、火を使わずに加熱の魔導具を使って料理するのか。なるほど、火の代替品を魔導具で補っているのだな。光源の魔導具は俺も結構見かけるが、加熱だけの魔導具は見た事なかっので何をするんだと思ったが、そう使うのか。きっとそのほかにも暖房の魔導具なんかもこちらでは発達しているのかもしれないな。


 そんな事を思いつつ奥にいる人物に向かって進んでいくと、先のほうから女の声が聞こえてきた。



「お、お戯れはおやめください。わたしはそんなつもりで……」


「何を言うか。日も高いうちからそのような格好をしおって、私を誘惑したのだろう? この色魔め」


「何を言われます! この服は大旦那様からのご命令ではないですか。誰が好き好んでこのような」


「だが、私の命に背けばお前はこの屋敷に居られなくなる。そうすれば病気の母親の薬も手に入らなくなるであろうな」


「そ、それは……」


「ならばお前がすべき事は解っているだろう? ほら、私に何か言う事があるのではないかね?」



「昼間から盛って元気なこったな。これが千年生きた爺とは思えん精力だ」


「な、何者だ!? 何処から私の屋敷に入り込んだ! 衛兵は何をしておる!」


 嫌がる娘を手篭めにしていようとしたエルフの背後から声をかけると、俺にまったく気付いていなかったらしい好色そうな爺の顔が現れた。

 こいつがエンシェントエルフか? ただの色ボケした爺にしか見えないが。

 俺が露骨に落胆した顔を見せると、それだけで簡単に憤怒の表情を見せた。

 見下している相手から逆に侮辱されると簡単に激怒するのはどの世界も同じだな。


「あんたが千年生きてるっていうエルフであってるのか? 千年生きてこのザマかよ、また随分と無駄に長生きしたな」


「虫の分際でよう吠えたものだ。八つ裂きにしても飽き足らぬわ! 衛兵! 衛兵は何処だ! この痴れ者を切り捨てい!」


 さっき<マップ>で見て解ったが、ここに詰めていた衛兵達は門で起きた騒ぎの確認のために出払ってしまっている。戻るのはかなり後になるだろう。

 何度呼びかけても現れない衛兵に業を煮やしたのか、爺は俺に目を向けた。共に居た娘は既に逃げ去っている。


「で、俺の話を聞けよ爺。あんたは無駄に長生きして、色んな事を知っていると聞いた。その中にあの東の大山脈の向こう側について知っている事はあるか?」


 俺の問いに一瞬だけ爺は表情を変えたが、すぐにまた不遜な顔に戻った。つまり、何らかの情報を握っている可能性が高い。よし、ではまずこの爺から情報を抜き出すとしよう。


「虫風情が我等ハイエルフに一端の口を聞きおる。下賎なニンゲンが私に物を聞くなど数千年早いわ! ゴミはここで朽ちて死ぬが良い」


 その言葉と共に不可視の風の刃が俺に向かって飛んできた。なかなかの威力の一発だったし、無詠唱とまではいかずとも、かなり詠唱が省略された発動の早い魔法だった。エルフが優れた種族だと自負するだけの力は持っているというわけか。


 とはいえ俺の<敵魔法吸収>であっさり風の刃は消え去った。このスキルは俺に放たれた魔法を全て自分の魔力に吸収してしまうスキルだ。これまで俺に魔法を放つ敵が殆どいなかった、というか撃つ前に倒していたのであまり見ることないスキルだったがここで大活躍している。ちなみに他人がかけた回復魔法も吸収するので傷を癒す際は、自前の魔法で行うことになる。


「な、何をした!? 私の魔法を無力化だと。ニンゲンの分際で!」


「冬だってのにどいつもこいつもそよ風を送ってくれるんだよな。俺を風邪でも引かせたいってのか? あ、もしかして魔法攻撃のつもりだったのか? そんなわけないよな、偉大で優れたエルフ様がこんな弱っちい魔法しか使えないはずないもんな、そうだろう?」


 無駄に誇りだけ一人前の連中はこういった煽りに簡単にひっかかる。この爺も殺気を漲らせながらいくつもの魔法を次々と放ってくるが、全て俺の魔力になるだけだった。


「おいおいどうした? さっきから一人で盛り上がってよ。肩で息をしてるじゃないか、運動不足か? 爺なんだから無理はすんなよ。で、俺の質問に答える気になったのか?」


「おのれェ、何故私の魔法が効かぬのだ! こんな事があってはならぬ。エルフという種の誇りに賭けて人間などというゴミに遅れを取るわけにはぎゃああっ!」


 俺と会話をする気のない爺に現実を解らせる為、俺は同じような小さな風の刃を作ってやつの腕を切り飛ばした。

 まともな怪我もしたことがなかったのか、敵が目の前にいる事も忘れて痛みにのたうちまわっている無様な生き物を見て俺の興も削がれた。時間もあまりないし、遊ぶのは終わりにするか。


「ったく、何が世界を統べる事を宿命付けられた種族だ。話にならねえ雑魚じゃねーか。手を飛ばされた程度でいつまで転げまわってんだ。寝ぼけるのも大概にしとけ」


「ひ、ひぃぃぃっ!」


 たった一撃で戦意を喪失したらしく、這いずって逃げようとした爺の頭を掴むと俺は容赦なく<洗脳>を使った。このスキルはどうやら相手の頭を直接弄るようで匙加減が難しく、やりすぎると簡単に廃人にしてしまう恐ろしいスキルである。

 がしかし、慈悲を抱く気にもなれないカスから情報を絞れるだけ絞るには非常に使えるのは間違いない。


 最初は悲鳴をあげて抵抗していた爺だが、そのうちに体が電流を流されたように痙攣し、最後には白目を剥いて座り込む何でも喋る生きた情報源がそこにあった。


「まったく、手間取らせやがって。始めからこうしときゃ良かったぜ。おい、さっきの質問に答えろ。あの山向こうの事を知っているだけ話せ」


 俺がそう促しても、ああうぁ、と言葉にならない何かを口走ったまま正気に戻らない爺に焦りを覚えた。いかん、壊しすぎたか? これは回復魔法で直るのだろうか? 情報を得る前に壊してしまったら何にもならない。

 とりあえず回復魔法をと思ったところで。俺の記憶に覚えのない情報が混じっている事にづいた。


 この屋敷の隠し通路や金庫の鍵の位置など、決して俺が知るはずもない事実が後から後から吹き出てきるのだ。

 え、これってまさか……あの爺の記憶を手に入れちまっているのか? うげっ、要らねぇ。他人の記憶なんぞ、それもこんなクソ爺の記憶なんざ普段なら金貰っても御免であるが、今だけは尋問の手間が省けたのでほんの少し感謝してやることにした。


 だが、結局この爺も詳しい事は知らなかった。というより、山向こうとの交易情報を一括管理しているのがこの爺ではなかったのだ。

 とはいえ、あの大山脈の向こう側と交易をしていたのは間違いないという情報を得られたのは事実であり、大きな前進だった。

 それに詳しい詳細は王城イグドラシィルの中の古文書処に行けば間違いなくあるという情報も得られた。そこで全ての交易情報がまとめられているそうだ。

 それにこの爺の記憶では大山脈の北側方面のどこかに隧道が掘られているとの情報も得られた。あの気が遠くなるような大山脈を登って越えているはずがないと信じていたので予想通りではあるが、裏づけが取れて一安心である。

 後は王城で何処にその隧道があるのかを調べるだけとなった。どのみち順番で必ず王城には向かうつもりだったが、ここで確証が得られたのは大きい。



 抜け殻のようになった爺を見下ろして、さっさと王城を向かおうとした俺だが、折角この爺の不快な記憶を得てしまったのだ。戴けるものは戴いていくとするか。


 この爺は見た目どおりの悪辣な野郎で、権力に任せた横暴を繰り返し、かつては地下牢に異種族の娘を捕らえて他のエルフに売り捌いたりと、救いようのない下衆野郎だった。

 さっさと消し去りたい不快な記憶だが、悪党特有の蓄財もまた行っており、その秘密の金庫やその開錠番号なども全部知っている状態だ。いったい<洗脳>スキルがどういう働きをしたのか知らんが、相手の記憶が流れ込んで来るとか迷惑極まりない。

 せめてこの爺が長年溜め込んだお宝を根こそぎ戴くくらいはしてやらんと気が済まない。



 そういう訳で行き先を変更して屋敷奥に進んでゆく。俺と同じく他人を信用しない性格だったようで、奥の部屋には誰も近づけなかったようだが部屋に関する記憶を持つ俺には何の意味もない。書棚を横にどけると大きな金庫らしき物体が現れる。

 これも魔導具の一種で、爺本人の魔力でないと開錠できない仕組みらしいが、非常時の開閉方法も知っていたのでそれを試す。といっても正面扉を下のほうから力で押し上げるとそのまま扉が外れると言う豪快なものだ。

 そんな簡単な方法でいいのかと最初は思ったが、見た目が重厚なためこんな乱暴な方法で開くのだという印象はない。俺も手順を知らなければ思いつかない方法だった。


 中には金塊やら宝石やらが溜め込まれていた。その全てを全部戴いて他の金庫も開けに行く。ここのほかにも隠し金庫が数個あり、きっともう現世に戻れないであろうあの爺の手にあっても仕方ないものだから気兼ねなく貰っていこう。


 隠し金庫を開けている最中、背後に気配があった。振り向くとそこには先ほどあの爺に嫌がらせを受けていたエルフの少女がいた。だがその瞳に俺を蔑む色はない。他の連中とは毛色が違うようだ。


「あ、あの、さっきは……」


「あんたも大変だったな。怪我はないのか?」


「それは、大丈夫。あのエロ爺、殴ってくる事はなかったから。それ以外は何でもされたけど」


 その硬い声には強い憎悪が感じられた。これならば共犯に抱きこめそうだな。


「ならあんたにもこいつを受け取る権利があるな。どっかから袋でももってこいよ。あんたの取り分もあるぞ」


 あけた隠し金庫の中の金貨を見せると、その女はすぐさま取って返して金貨を袋に詰め始めた。これで立派な共犯である。


「あんた、何者なの? 本当に人間? 古代エルフに魔法で勝つ人間なんて信じられない」


「色々特別なんでな。おい、程々にしておけ。重すぎて持ち歩けずそれで見つかるなんて馬鹿らしいぜ」


 袋に限界まで金貨を詰め込もうとしている女にそう答えた俺は残りの金庫を全部開けて全部のお宝を回収した。女も既に3つの袋に金貨が満載である。爺の記憶ではお袋さんの薬を手配する見返りに彼女を買ったようであるが、もちろん薬の手配などなにひとつして行っていない。やはり生きるに値しない清々しい屑である。


「あんたの求める薬は西の街のレイエンとかいう薬師が持っているそうだ。じゃあ、俺はこれで」


 環境の激変に放心状態になっている女に爺の記憶から情報を得た俺はそう声をかけて立ち上がる。残るは王城だが、ここから既に遠目に見える距離に王都はある。今日中にめぼしい情報は手に入れたいものだ。なにしろあの大山脈を越えた後も、東の果てにあるという獣王国までどれほどの距離があるか解らないのだ。アードラーさんもラナもあの大山脈のことなど聞いたこともないと言っていたから相当離れているのだろう。

 かなり時間がかかると見るべきであり、既に時間的余裕などない。


「待って。あなたはこれからどうするの? エロ爺は屑だけど、この国の3人しかいないエンシェントだった。国はあなたを血眼になって探し出すはず」


「知った事じゃないな。見ての通り俺は異邦人だこの国に来たのも昨日だし、知りたいことが解ればさっさと出て行くだけだ。邪魔をするなら容赦はしないが、手出しをしなければ何もしないな」


 これから警備が厳重であろう王城に行くので何事もないとは思えないが、とりあえずはそう言っておく。すると女は強い口調で言い募った。


「だったらこの国を徹底的に破壊して。一握りの選ばれたエルフだけが一方的に得をする今の体制なんて誰も望んでない。いっそ全部消え去ってしまった方がマシよ」


 そして彼女は証拠隠滅のためにこの屋敷に火を放つという。相当腹に据えかねていたのか、その行動に迷いはないようだ。危ない笑みを浮かべて油壺に燃えさしを放り込む彼女を見て女は怖いと言う格言を再認識した俺である。


「さあ行って。ここには誰もいなかった。全て破壊の炎で灰になってしまえば誰も疑いの目を向けることはないわ。ありがとう、人間のひと。人間にも貴方のような人がいるのね」


「あんたも上手く逃げろよ。じゃあな」


 油に引火した炎が燃え盛る中、俺は王都に向かって移動を開始した。

 

 その後、一瞬だけ背後を振り返ると、エルフ達にとって忌み嫌われた破壊の炎が屋敷全体を包んでいるのが見えた。しかし、まさか本当に火付けをするとはな。あの爺、相当恨まれていたようだ。


 そして冬の乾燥した空気のせいで火の手は急速に広がり、この街の半分以上を焼き尽くしたと言う事実を知ったのは大分後になってからである。



 覚悟を決めた女の恐ろしさを理解した事件であった。

 



楽しんで頂ければ幸いです。


作中に出た日時の件ですが、ここで補足をさせてもらいます。


かつて触れた事もありますが、春が2月から4月、夏が5月から7月、秋が8月から10月、冬が11月から1月までの周期であり、元旦が冬の61日という設定です。


この話で王城まで行くつもりが、長くなってしまったので次回に持越しです。


次回は水曜日にお会いできればと思います。



もし皆様の興味を引いて頂けましたら評価、ブックマークなど入れていただくとこれに勝る喜びはございません。何よりも作者のモチベーションが鰻登りになります。やる気が無限に湧いてきます。

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