偉大で悠久なる優性種ども 2
お待たせしております。
<なあ、ユウキ。気付いているよな?>
<ああ、もちろん。だがとりあえずここの情報が手に入るまで様子を見るさ>
その後の事は後で考えればいい、とこれまでの光景を<共有>で見ていた玲二が<念話>で話しかけてきた。
あれから俺達はカインと名乗った顎傷のハーフエルフの先導のもと、北に向かって数刻ほど歩いている。関所を離れたらすぐそばは鬱蒼とした森であり、既に日も暮れていて視界は悪いがカインの足取りに迷いはなかった。
「ここから少し迂回するぞ。ついてきてくれ」
「真っ直ぐ行けば集落じゃないか。たいした隠蔽でもないんだから、余計な気を回す必要はないぞ」
なにやら結界らしき物があるのが解ったが、俺の<マップ>の前では全てが無意味だ。何せこの先に百人前後の集団がいるのは解っている。カインも色々気を回したんだろうが、既に日も暮れているし余計な時間をかけたくなかった。
「まいったな。只モンじゃないと解ってたが、全部お見通しかよ。解った、こっちもそのほうが都合が良いっちゃ良いんだ、このまま突っ切るとしようか」
先ほど救出したハーフエルフの女性を背負ったまま闇夜の森を足取りを乱す事のなく進むカインの身体能力は高い。こんな奴等でさえ正統なエルフどもからは同族扱いどころか路傍の石程度の認識なのだから、連中の差別意識も相当なものだ。
<俺も皆から話に聞いちゃいたけど、ホントにえげつない差別すんのな。人間が虫扱いってのはレン国の一緒だったけど、ハーフでも同じとは思わなかったぜ。いや、お約束ではあるんだろうけどさ>
<なんだ? 結構あることなのか?>
俺の何気ない問いに玲二は慌てて言葉を濁した。俺も迫害ならろくでもないものを山ほど見たな。道を毎日の買い物に出ていた普通のオバちゃんが何の根拠もないただの思い込みで”とある集団”に平然と侮蔑の言葉を吐くのは驚きを通り越して恐怖を覚えたほどだが……何の記憶だこれ?
<あ、いや、そうじゃないって。俺が今まで読んできた漫画やアニメじゃそうなってたって話だよ。エルフなんて日本にゃいないっての。もちろん獣人もな。未だにアードラーのおっさんやラコン達を見ると着ぐるみなんじゃないかって思うぐらいだぜ>
元日本人らしいとはいえ記憶が一切ない俺に玲二達の常識を慮る余地はない。そのとき、仕事上がりらしい如月も会話に入ってきた。会話に参加しては居ないものの、視界を<共有>しているのは他にレイアとユウナ、それに雪音も見ているので、仲間が全員参加しているようだ。雪音が視界を<共有>するのはかなり珍しいが、エルフの国に訪問と言う事でみんな気になっていたらしい。ちなみに雪音の膝にはシャオとイリシャが膝枕で寝ているそうだし、セリカとソフィアたちは玲二から俺の今の状況を報告しているとか。相棒はなんだか良く解らんが、ナガハマ三部作というのをずっと見ているらしい。ダルタ何とかをその中に入れるべきかどうかを俺に聞いて来るので答えに難儀したが、まあ楽しくやれているのは確かなようだ。
「ここが俺達の隠れ里だ」
カインに案内されたのは、巨木がまるで塀のように立ち並ぶ一角で、そこに十数軒の粗末な建物が密集していた。まさに隠れ里と呼ぶに相応しいひっそりとした場所で、関所から数刻の位置という目と鼻の先にあるにもかかわらず、その存在を守り通せていることからもそれが伺えた。
その隠れ里の粗末な掘っ立て小屋の中でも、一等マシに思える小屋に俺は通された。
「ひとまずセレンを家族の元に返してくるから少し待っていてくれ」
小屋の中の物はなんでも使っていいと言って去ったが、特に気になるものといえば……明らかに魔導具と思われる物体が無造作に置かれている位か。レン国では符術が魔導具に相当し、俺らの知る技術とかけなれた存在に驚かされた。領都でも本物の符を十数枚手に入れてセラ先生や魔法学院のセシリア講師に渡して研究してもらっているが、そういえばあれから進展は聞いてないな。
<昨日お話を伺ったあたりでは、文字の描き方でどのような発動をするのか決まっているのではないかと講師は仰っていましたね。毎日講義を放り出して研究三昧なので顔色はひどいものでしたが、凄く満足気でした>
雪音がセシリア講師の近況を教えてくれたが、根っからの研究者なんだろう。虚ろな表情ながら、目だけが爛々と光っている彼女を脳裏で想像すると、玲二が今日の講師はそんな感じだったと笑いながら言っていた。
さて、この魔導具らしきものはどうなっているのか、軽く<鑑定>してみたら加熱の魔導具と出た。光ではなく加熱というのが面白いな。何でこんな能力なんだろうか、着火でいいんじゃないか?
「すまん、待たせたな。酒肴の準備に手間取った」
俺が魔導具を手にしてああでもないと頭を捻っていると、カインとその仲間らしき2人の男女がやってきた。そろいも揃って美男美女だが、どこか作り物めいた現実感のなさがあった。女に騒がれる事など生涯縁のない俺の顔の造形を僻んでいる訳ではない……と思う。
「いや、別に構わない。先に名乗っておくか、俺はユウキだ。異邦人の旅人だ。帰り道を探している最中の旅で、この国にはレン国よりも長い歴史があると聞いて情報を得るべくやって来た」
「なるほど。これ以上ない説明をありがとう。お前さんの髪の色は人間では初めて見たからな、お仲間かと思っていたが、異邦人なら理解できる。じゃあこっちも改めて名乗ろうか。俺はカイン、このハーフエルフ達が身を潜めて暮らす隠れ里でリーダーをやっている。この2人はセシルとゾーア、お前が助けてくれたセレンの両親だ」
2人は娘を助けてくれたことに対する礼を言いに来たようだが、まあ、なんというか、半分しかエルフの血が入っていなくても気位が高いのは確からしい。娘の命の恩人の俺に対して礼の言葉は尽くしたものの、決して頭を下げはしなかった。
この地に住むエルフという人種の性格が良く解る1コマであった。別に礼を期待してここにきたわけではないから気分を害しはしなかったし、少なくとも言葉で感謝を述べたのは事実なので、細かい事はさておいた。
2人は礼を言うとさっさと立ち去った。思うところはないので俺は当初の目的であるカインからの情報収集を始める事にした。
「まあひとまずやってくれ。セレンの奴はのろくさした奴でな、隠れ身の結界の範囲を超えて採取に出ちまったのさ。そしてハイエルフどもに見つかって連行されたんだが……正直生還は諦めてたんだが、怪我一つなく親元に返せて助かったぜ。仲間の命の件、俺からも感謝する」
差し出された酒を呑まないのも非礼に当たるから、ここが安全ではないと理解しつつ口に運んだ。かなり強い甘みと共にいくつかのスパイスの香りが広がる。
「これは蜂蜜酒か……」
口にあわないと言うわけではないが、そもそも甘味が苦手は俺には辛い飲み物だった。
「苦手だったか? 悪いがここで酒はそれしかないんだ。関所の連中は葡萄酒を飲んでるんだろうが、あんたが関所をバラバラにしちまったから、葡萄酒を探して持ってくるわけにも行かないぜ」
森の中では蜂蜜くらいしか酒の原料はないんだとカインは言うが、アプルや何かはあると思うけれど、敢えて口にはしない。歓待と言う意味の酒に口はつけたので義理は果たしたはずだ。
「まあいいさ。それよりこの地の情報をくれ。大まかな地理とこの国の王都や情報が詰まっていそうな町の情報もな」
「なんだよ、せっかちな奴だな。こっちは久々に外からの客人に会ったんだ。外界の情報も教えて欲しいのによ」
「そっちが話せばこっちも話すさ。とりあえずこの周辺の情報からくれ」
カインが語るところによると、この国の名はエルフィリウム(衛兵から聞いた通りで、意味もそのままエルフの国)で、王都はイグドラというらしい。世界樹なるこの世界の原初の巨木を祀り、その周辺に街を作っているらしい。世界樹とは随分大きく出たが、関所に入る前にそれらしい巨木が遠い視界に入っていたので、恐らくあそこだろう。本当ならその大きさに恐れを抱くべき所なのだろうが、俺の最大の難関であるあの大山脈に比べれば天辺が見える分可愛いものだ。ただのデカい樹でしかない。
そして俺の想像通り、ハイエルフの女王が治める王都イグドラの他には3つの都市があり、王都を守るかのように周囲にミーミル、ウルズ、フヴェルゲイルという大きな街があるそうだ。
そして予想できた事だが、この国は少数のハイエルフが他の種族を支配している。いや、支配と言うより虐げていると言う言葉が正解か。先ほどの俺への態度や、セレンという少女への暴虐を見るに、人間やハーフエルフなどはどれだけ始末しようが勝手にまた増えている虫程度の認識だろう。
「そうした状況を不満に思った俺達ハーフエルフはだな……」
「ああ、そういう面倒臭そうな話は余所者の俺にしても仕方ないだろ? 古い情報を得るには何処が適している? 古文書がありそうな場所や、生き字引みたいなエルフがいる場所に心当たりはあるか?」
話の流れて自分達の事を話そうとしたカインを遮り、俺は望みの情報を引き出す。俺がお前たちの境遇を哀れんでも政治活動をしてやれるわけでもない。むしろこいつらの優れた身体能力ならこんな国さっさと捨てて東のレン国に行ったほうがよほどマシな生活が出来るだろう。
「あ、いやそうだな。やはり王都の文書処だろう。俺は話しか聞いた事がないが、この国の歴史が全て詰まっていると言う話だ。それに各都市にはエンシェントと呼ばれるとんでもない長寿のエルフがいるらしいぜ。そいつ等なら何か知っているかもしれないな」
「ほうほう、噂に聞く千年生きるエルフって奴だな。これはいい事聞いた。王都に各都市か」
カインに大まかな地理を教えてもらう。<マップ>と差は殆どないので、彼がでまかせを口にしている危険はなさそうだ。
「だが、大都市や王都の警備は尋常じゃないぞ。ニンゲンが一人で入り込むのは無茶を通り越してただの自殺だ。あ、いや現状じゃ殺されることはないか」
カインの思わせぶりな口調に、関所で兵士達が俺に取った露骨な態度の理由も教えてくれると言ってた事を思い出した。
「さっきの話と関係があるのか?」
「ああ、ようやく俺達の事情に興味を示してくれたな? 聞きたいか?」
「いや、別に。前も言ったろ、急ぐ旅なんだ。余計な事に首を突っ込む暇はないんだって。気になるが、今聞き出さなきゃいけないことでもない。どうせ先に進めばこの国の兵士と会うんだ。そいつから情報を抜けばいい」
「おいおい、軍の兵士は全てハイエルフだ。連中はそうやってこの国を掌握してるんだが、連中に尋問は効かんぜ? 鍛え方が違うからな」
言外に俺から聞いたほうが良いといってくるが、俺の各種尋問スキルはどんな間者も四半刻と持たずに情報を吐き出すのだ。<洗脳>を使えばそれ以前の問題だし、困ることがあるとは思えない。
「へえ、そいつは楽しみだ。試してみるとしよう」
俺は意識的に楽しげな笑みを浮かべたが、それを見たカインは青い顔をしている。
「わかったわかった。ったく、交渉にならねぇな。70年生きてる俺が、こんな若造に会話の主導権一つ取れないとは、落ちぶれたもんだ」
実際はお前と同年代の爺さんなんだぜと混ぜっ返しても混乱させるだけなので黙っておく。
するとカインは先ほどまで俺が手にしていた加熱の魔導具を手に取り、手馴れた手つきで中を開けて見せた。
「ここに嵌めこまれている石なんだが、こいつはさっきあんたが関所で兵士達から回収していた物と同じモンだ。俺達は魔昌石と呼んでる、こいつはこの地に住む者にとってなくてはならないものなんだ。魔導具の動力にも使えるし、兵士達の魔法の魔力源にもなる優れものの鉱石なんだ」
へえ、やはり魔石のようなものであっているのかと納得しかけた俺だが、最後の一言は聞き流せない衝撃の情報だった。
「なんだって!? 鉱石!? こんなとんでもない物がここじゃ鉱山から取れるってのか!?」
「あ、ああ。そうだぜ、石が鉱山以外から何処で取れるってんだよ」
魔物の存在がいないこの世界では当然の理屈らしく、俺の反応にカインは訝しんでいるが、結局はそのまま話し続けた。
昔は国内にも鉱山は数箇所あったらしいが、ほぼ採掘しつくされて、今じゃここから北のテルミ鉱山だけで取れるのみとなっちまったんだが、そこで最近大問題が起きたのさ」
俺が続きを促すと、カインは魔導具の中の魔晶石を取り出して見せた。
「少し前の話なんだが、そのテルミ鉱山で大規模な事故が起きたらしい。鉱石を掘り出す人足が大勢死んじまうほどの大事故だそうだ。詳細な情報は解ってないんだが、相当やべぇ状態なのは間違いないらしい。何しろこの魔晶石はなんにでも使えるもんだから、国中のエルフが毎日大量に使い捨てている。今まではテルミ鉱山がそれを何とか保たせていたが、これからはどうなるか解らないときた」
「……まさか、連中のあの態度はそういうことなのか?」
ふと脳裏によぎったある考えだが、状況を鑑みるとその可能性が高まってきた。
「もう一つ補足しておこう。最近になって関所には高い壁が聳えていた。ここから先はエルフの領土だ、余所者は誰一人としていれないとばかりに頑丈で高い壁がな。今じゃそれが外されてその気になれば中に入り込み放題だ」
「なるほど、法外な入国料をふっかけて、敢えて密入国させるのか。そうやって釣られた馬鹿な奴等をエルフどもは捕獲して鉱山奴隷として送り込むつもりなのか」
エルフどもの高い身体能力ならば、森の中に入りこんだ連中を捕獲する事は容易い。他国から人間やエルフ以外の種族を拉致するのは面倒だが、向こうから来てくれる連中を捕まえれば楽でいいと。
そして採掘なんてあのお偉いエルフ様が自分達でやるはずもない。外から奴隷を捕まえてきて掘らせればいいと安易に考えるだろう。
「その通り。そういうわけで最近は東から来た連中は殆ど密入国で捕まって鉱山送りになってるって訳なのさ。壁まで取っ払ってニンゲンを呼びこんでるほどだから、相当奴隷が死んだんだろう」
今そのテルミ鉱山とやらが追加されたので<マップ>で確認してみるとここからそう遠くない距離にある。国境で捕まえて鉱山送りにするには都合のいい場所って事か。
そうか……もし何らかの事故が更に起きて、魔晶石の生産が止まってしまったら、きっとこの国大変なことになるだろうな。
いやぁ本当にそうなったら、大変だ。きっとエルフどものあの高慢な面が苦渋に歪む事になるだろう。
こりゃ是非とも行くしかないじゃないか。そこで不幸な事故が起きたとしたら、それはとても残念な事だと思う。もし、もしも何らかの事件が起きて二度と採掘が出来なくなってしまったら、エルフ達の使う魔法は一体どうなってしまうのか?
実に楽しい事になりそうだ。
「ありがとう。実に有意義な情報だった」
俺はすぐにでもテルミ鉱山に殴り込みを駆けるべく立ち上がった。既に日も暮れて長いが、<暗視>もあるし暗闇は俺の行動を阻害しない。時間も惜しい事だし、思い立ったらすぐ行動に移す事にした。
「おいおい、もう夜だぜ? 動き出すのは明日になってからでも良いじゃないか。俺も外の話を色々聞きたいんだぜ?」
カインは立ち去ろうとする俺を何とか留まらせようとする。幾度か拒絶の言葉を使ったが、一向に諦める素振りがないので、俺はとどめの一言を放つ事にした。
「悪いが俺には薬の類いは効かないから、酒に混ぜた毒はいつまで経っても回らないぜ? 外の仲間にも伝えてやれよ、何時までも待たされちゃ可哀想だ」
俺の言葉に周囲の空気が一気に冷え切った。表情を失うカインと、外から数人のハーフエルフ(正直俺には通常のエルフと見分けがつかない。当事者だと一発でわかるらしいが)がこちらに駆け込んできた。
「カイン! 何をやっているんだ! ニンゲン如き、さっさと片付けてしまえばいいものを!」
「待てお前ら! こいつをただの人間と思っていると……」
カインは仲間を止めようとしているようだが、そのうちの一人が俺に掴みかかってきた。
「ニンゲンなど我等に使役されているのが似合いの劣等民族だ。大人しく飼われていればよ……ごげッ」
最後まで言わせずに男の顔面を砕いた。連中にしてみれば人間に反抗されるなど想像の埒外だったようで、俺の行動に完全に固まっている。
なんというか、行動が一々素人臭い。余計な御託を吐かずにさっさと行動に移ればいいものを、無駄に力をひけらかそうとして隙を自分で作っている。俺に言わせれば馬鹿の極みだが、それ以前に突っ込みたい事が一つ。
「なにお前ら? 自分達はハイエルフ様には敵わないけど人間よりは遥かに優れた種族だとでも言いたいのか? 他人を下に見れば自分の無様な境遇が慰めになるのか? 死ぬほど惨めな自己満足だな」
思いついた事を正直に口にして煽ってやると、やはり正しかったのかもう一人の男が奇声を上げて突っ込んできたが、こちらの俺の力の前では塵芥に等しい。無事、顔面を陥没してあの世へ旅立った。
「おかしいなあ、ハーフエルフも人間よりは優れた種族なんだろ? 何でこんなに弱いんだ? ああ、もしかしてあれか? お前らがこの集落でひときわ弱いんだよな? そうじゃなきゃハーフエルフ様全体がみみっちい雑魚種族ってことになるもんな?」
「ぐッ、お、おのれ、ニンゲン風情が知ったような口を!」
「ほら、エルフ様のダイスキな魔法はどうした? こんな魔力の薄い場所でもせっせと使うくらいダイスキなんだろ? ほら、この石があれば使い放題なんだろう? 使えよ、エルフの誇りである魔法をよ」
周囲の濃密な殺気が物理的な現象になるのではないかと思わせるほど充満する中、声を上げたのはカインだった。
「待て、待ってくれ。これは何かの間違いだ。俺はあんたの力を知っている。敵対したらどうなるかなんてすぐわかるだろう。これは俺達の本意じゃないんだ、信じてくれ」
そう言って仲間を下がらせて俺との対話を試みるが、始めからカインと信頼関係を築くつもりがなかった俺にとって、彼の言葉は一欠片も心に残らない。
「そうか、じゃああんたが腰の裏に隠してある首輪を自分で嵌めてみろ。そうしたら話を信じてやるさ。ああ、余計な小細工はするなよ、普通に首輪を嵌めろ。それがただの首輪で何もないなら出来るはずだよな?」
「……くそッ、何も通用しねぇか。とんでもない化けモンだな。何時から気付いてた」
カインはこれまでの友好的な気配を消した。すでにその顔は酷薄なものに変わっていたが、間違いなくそっちが本性なのだろう。むしろ俺はそっちの方が好感度が高いほどだ。出会った時から気味が悪いほど友好的という状況は俺のようなひねくれた人種には警戒心しか浮かばない。
「もちろん始めからだ。敵の敵は味方理論を頭から信じるほど馬鹿じゃないし、なによりお前等はこの指輪に関して何も口にしなかった。その時点で信用になど値しない」
俺は人差し指に嵌めてある指輪を見せた。こいつはこの国に入国する際の外国人の義務だと言う話で無理矢理つけさせられたのだが、もちろん魔導具でその効果はそこまで強いものではないが、使用者の心理的抵抗力を落とすものだった。要は相手の命令を聞きやすくさせるものだ。俺には何の効果も発揮しないが。
さっき助け出したセレンにも当初は嵌っていた指輪だが、カインがこの村に運んでいる最中には既に外されていたから、この指輪の効果を知っていたのだろう。それを俺に指摘しなかった時点で、こいつらの目的は理解していた。
それに玲二もこいつらの胡散臭さを嗅ぎ取っていた。玲二の場合は彼の第六感で信用ならない人物を感覚的に嗅ぎ取るというものだが。これも大した能力だと思うが、本人曰くろくでもない連中に囲まれて過ごすと嫌でも身に付くと自嘲的に嗤っていた。
「さて、俺は行くぞ。死にたくないなら追って来るなよ。俺の邪魔をしなければ見逃すが、次に視界に入ったら殺す」
「な、なんだと!?」
既に踵を返した俺に背後から気の抜けたような声が聞こえた。俺を騙し損ねて決死の覚悟を決めていたんだろうが、流石に未遂で始末まではしない。知りたい情報も教えてもらったし、さっきの件で俺に何か不利益があったわけでもないからな。
こんなのは騙す方が一番悪いが、騙される方も悪いのだ。あちらが向かってきたら対処するが、そうでないなら無視に限る。
俺の意識は既に北にある鉱山に向いている。魔昌石は俺でも使える便利な代物だし、エルフどもの分まで根こそぎ頂戴するとしようか。
鉱山に向けて走り出す俺の口の端は昏い喜びで歪にゆがんでいた。
楽しんで頂ければ幸いです。
今回の作中であったことなのですが、ちょいと補足を。
<共有>はあらゆるものを仲間と共有するぶっ壊れスキルですが、もちろん欠点もあります。
本人が特に意識しないで<共有>すると、ノーガードで本当に何もかもが共有されます。
具体的には主人公の考えや、そのとき何を想像したのかも駄々漏れになります。プライバシーというものが皆無になるので、主人公以外は視界なやなんやらを共有しようとは思いません。
逆に言えば二心がない事の証明になるので、仲間としては安心材料になります。こいつが何考えているのか手に取るようにわかるので。
そういう事もあって従者の2人は主人公の考えを呼んで行動の先回りなどをしますし、レン国編では逆にこちらが口出ししすぎると嫌がられるなと考えてなるべく干渉しないように心掛けていたと言う裏設定があります。多分劇中には出ませんのでここで書きました。
エルフ国編はお宝回収編でもありますが、なるはやで終わらせて新大陸帰還編に行きたいものです。
もし皆様の興味を引いて頂けましたら評価、ブックマークなど入れていただくとこれに勝る喜びはございません。何よりも作者のやる気に俄然繋がります。




