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偉大で悠久なる優性種ども 1

お待たせしております。



「ニンゲン。我が国への入国料は棒金15本だ」


「ふさけるな!! さっきの連中は銀貨だったじゃねぇか!」


「優性種たる我等エルフと下賎な貴様等ニンゲンが同じ扱いな筈がなかろう。やれやれ、ニンゲンは何処まで愚かなのか。繁殖することしか能のない劣等種族が」


 俺は今、西の国、レン国の者達が耳長族と称する国に入国をしようと試みていた。

 耳長と聞いて想像したとおり、この国(この兵士は自国をエルフェリウムと称していた)はエルフが支配する地域だったが、聞いていた以上にエルフ至上主義が蔓延っているようだ。


 エルフの特徴と言えば白い肌に長い耳だ。はるか昔には枝のように細い体をしていたそうだが、今では他の種族に対抗する為か、俺の目の前にいる若い兵士もこちらと遜色ない体格をしている。気味が悪いほど整った顔をしているが、俺を露骨に見下す、いや人間を家畜以下と断じる顔は醜悪以外の何者でもない。

 西のエルフどもが人間を、あるいはレン国で言えば支配階級の竜人以外は徹底的に差別しているという話は聞いていたが、想像以上に差別が激しい。この国境の検問所の兵士の顔には、なぜ人間などと言葉を交わさなければいけないのかと書いてあるからだ。

 先ほど通ったエルフの集団は数枚の銀貨のようなものを渡してすぐに通されたというのに、俺は棒金15本だと言う。



「随分と偉そうに口上を垂れるじゃねぇか。それがあんたらお偉いエルフ様の考えってことだな」


 俺は今国境にある関所で入国に関する様々な検査を受けている。他の連中はさっさと関所を通り抜けたのに対し、俺は関所の小部屋につれて行かれて尋問を受けていた。

 私物の全ては<アイテムボックス>の中だが旅人が手荷物無しでは逆に怪しまれるのでそれらしいズダ袋を預けたのだが、中身を全部ひっくり返された。

 その時点で俺は既にキレていたが、怒りを爆発させるべき時は今ではないと腹の中で押さえ込んだ。その後も入国者全員の義務と言って奇妙な指輪をつけさせられたり、この国に何の用かなど、一介の旅人にどうしてそこまで執拗に聞いて回るのか不思議だったが、長々と拘束された後で最初の一言である。


 そして次の一言でこの兵士の魂胆が見えた。


「小賢しいニンゲンに答える舌は持たんな。棒金20本、今すぐ払え! でなければさっさと消えろ、目障りだ」


 5本値上げしてきた。恐らく次に口を開くときはもっと吊り上っている。

 こいつは俺をこの国に入れる気がないのだ。もし俺が棒金20本をここで出したとしても更に難癖をつけてくるに違いない。ここまで長引かせたのは単純に嫌がらせだろう。


「わかったわかった。諦めるとしよう、だが俺の荷物をぶちまけたのは手前らだ。お前が全部拾って入れ直せ。それくらい優秀なエルフサマなら当然だよなぁ?」


 俺が床に散らばった俺の私物(といっても袋の中に入っていたのはここまで来るのに途中の村々で調達した果実や小物など、大した物はない)を指差すが、エルフの兵士が返したのは冷笑だった。


「ああ、それはすまなかったな。ゴミだと思って気にもしなかった。ニンゲンはゴミを後生大事に扱うのだな、いや、ゴミこそお前たちに相応しいか」


 そう言ってその兵士は足元の転がる果実を踏み潰した。


「おや、失礼。ニンゲンのエサなど潰れても構わな……おごっ!」


 兵士は最後まで言葉を続ける事ができなかった。俺の手が奴の顔を掴んだからである。


「随分と調子に乗りやがったな。他人の物を壊してはいけないと優秀なエルフ様は親に教わらなかったのか? ええ?」


 ゆっくりと手に力を入れてジワジワと頭蓋を軋ませると、頭が割れる恐怖に俺を引き剥がそうとしていた兵士だが、強化された俺の手は外せない。そのまま俺がいた小部屋の扉に力任せに叩き付けた。

 

「がぁっ! き、貴様ぁ! 選ばれたエルフである私に対してその増長、許さぬぞっ!」


 扉が壊れる破壊音が響き渡るが、兵士自体に怪我は殆どないようだ。素の状態でもレン国の支配階級である竜人と同程度の身体能力が有ると見て良いだろう。


「御託は聞き飽きたぜ。さっさとお仲間呼んでこい、全員まとめて捻り潰してやる」


 俺の堪忍袋の尾はとうの昔にぶち切れている。こいつは先ほど踏んだ石榴に似た果実はここに来るまでの村で足を悪くした老婆を軽く助けた礼として受け取ったものだ。

 天都から西への旅はなかなか楽しいものであった。リシュウ老師からは沼地が多いと聞いていたが、それはこのエルフどもとの国境沿いに限った話で、それまでは草原や荒野、砂漠に様々な地層が重なって出来た赤い岩山など、見物に適した物が多かった。東が最大領土とはいえ半分以上があの魔の森である事を考えると、西部は観光に適した者が多かった。レン国がかなり寛大な占領政策を採ったようで、これまでの歴史の中で版図に納めてきた様々な国の文化や風俗をそのまま残している所が多く、異教徒の巨大で色彩豊かな霊廟などは非常に見所があり、急ぐ旅であった事が本当に悔やまれるほどだ。

 一昨日などは珍しく宿泊した安宿で、俺と同じような旅人と酒盛りと情報交換をしたりして、七色に景色を変える湖や峡谷に挟まれているが故に希少な植物が多い原生林など、是非とも足を伸ばしてみたい場所を多く聞き取ったし、俺が西へ急ぐ旅をしていると聞くとお前はまだ西部の景勝地を何も見ていないと長い滞在を勧められて楽しかった。

 高速移動なので眺めが良い場所もすぐに通り抜けてしまう所が多く、もう一度この国を訪れたいと強く思った。

 

 

 この兵士の行動はそんな良い思い出を根こそぎ踏み潰したのだ。人間を塵芥としか見ていないような言動といい、俺を不快にさせるに十分すぎてこいつらに遠慮をする気は皆無である。

 これまでなんどもユウナとレイアが頼むからそちらに行かせて俺の敵を殺させろと涙ながらに頼んでくるほどだが、これは俺の獲物だ。一匹たりとも誰にも渡す気などない。



「なんだ、どうした!?」「ニンゲンだと!? この劣等種が、身の程を教えてくれるわ」「ちゃんと指輪を渡してあるんだろうな」「ハインツ、貴様、何だそのザマは! このエルフの面汚しが!」


 おうおう出てきた出てきた。<マップ>で数えたらこの関所には30人ほどの生命体がおり、そのうちの殆どが異変に気付いて俺のいる小部屋に向かってきている。


「待て! この下等生物は私の得物だ。選ばれた優勢種であるこの私に逆らった罪を体に教え込んでやらねば気が済まぬ!」


 ハインツと呼ばれたその兵士はそう言って意識を集中すると懐から何かを取り出し、周囲の魔力を集め始めた。

 へえ、こっち側の皆無に等しい魔力で魔法を使うってか。そういえばメイファに魔法を使う連中はいると聞いていたな。なるほど、エルフがそうなのか。


「風の刃よ、我が敵を切り裂け! シルフィア・エッジ!」


 こちらの魔法体系がどうなっているかは知らないが、俺の見た感じ風属性の下級魔法が俺の元に届く前に<重魔法障壁>が、いやこれは<敵魔法吸収>が発動したか。既に完全回復状態なので魔力に変化はないが、障壁は魔法を弾くが吸収は文字通り障壁から吸収するので見た目でわかる。


「なっ!? 馬鹿な! 魔法が通用しないだと!?」


 そもそも室内で魔法を使うなと言いたくなるが、頭に血が上ったか、その程度も理解していない低能だということだ。まず間違いなく後者だろうが。


「おいおい、何だこのそよ風は? もう冬なんだ、扇いでもらう必要はないが……折角風をもらった事だし、こっちもお返しするか。魔法の得意なエルフ君たちに教えてやろう。()()()、風魔法だ」


 俺が生み出した十数本の風の刃が、関所建物をバラバラに切り刻んでゆく。一呼吸つく頃には俺の前方に建物があった事は基礎部分が教えるのみとなっている。もちろん背後に壁はあるのでかなり奇妙な絵図となっている。


「そんな馬鹿な……ニンゲンごときが魔法を、それもこの威力、まさか皇帝級魔法を使用するだと。ありえん、ありえてたまるか!」


 ハインツ君は現実を認めたくないのか、眼は血走り、亡者のような足取りでこちらに向かってくる。まったく、そっちは殺す気で放った魔法なのにこちらが建物だけ壊してなぜ自分達が無傷なのか解っていないようだ。魔法技術の隔絶した実力差を教えてやるつもりが、その程度も理解出来ていないとは……頭が悪くて困ってしまうな。


 奇声を上げて突っ込んでくるハインツの顔面を陥没させて撃沈すると、呆然としていたほかのエルフ兵士達も正気に返ったようだ。次々に魔法の詠唱を始めている。

 こんな魔力のない世界で魔法を使えるのは自分達だけだと思っていたんだろうが、そもそもこんな近距離で魔法詠唱をするほうがどうかしている。普通に殴りかかるか剣を抜いた方が絶対に早いはずだが、矜持だけ高くてオツムが弱いなら仕方ないか。


 次々と<敵魔法吸収>で敵の魔法攻撃を防ぎながら、俺は兵士一人一人の顔面を打ち砕く作業に入るのだった。



「おい、ニンゲン! これを見ろ!!」


 聞かないとわかっているのに魔法に固執する馬鹿なエルフどもの綺麗な顔を吹っ飛ばしていると、背後から逼迫した声がかけられた。実は既に何度か叫ばれていたのだが、エルフどもの顔を陥没させるのが楽しくて無視していたのだ。そもそも存在は<マップ>で把握していたし、()()()を考えても兵士を残らずぶちのめした方が都合が良かった。


「おう、待たせたな。で、そりゃ一体何の真似だよ?」


「くそ、こ、これが見えねぇのか! お前が一歩でも動けばこの小娘の命はないぞ!」


 美形揃いのエルフらしくない小太りの兵士がナイフをエルフの少女の首筋に突きつけていた。お決まりの人質作戦なんだろうが……色々と突っ込みたい事がある。


「俺は正義の味方じゃなねぇから人質は特に気にならないが……なんでこのエルフの娘はボロボロにされてるんだ? お仲間じゃねぇのか?」


 人質にされた少女エルフは手酷く痛めつけられていた。俺のような人間なら胸糞悪いが理解は出来るが、同族をこんな風にするのには疑問が残った。


「ああ!? この()()()()が仲間だと!? 冗談も休み休み言え! 高貴なわれらがこんな……ああ、余所者の人間だったか。丁度いい、教えてやろう。こいつは穢れた別種族から生まれたハーフエルフ、純然たる高貴な我等ハイエルフなど同列に語られるのは不愉快の極みだ」


 ああ、差別は何処に行ってもあるんだなあ。こればかりは自分で見聞を広めて”人間人それぞれ”と理解しない限り絶対に治らない人類の宿痾だから、他人の言葉でどうにかなるもんじゃないか。


「ふーん。で、俺の何の関係もないそのエルフがどうなるって?」


 意識がないのかぐったりしたハーフエルフの少女を指差すと、小太りの兵士は露骨に慌て始めた。こうなる事を予想して俺は他の兵士を先に始末していた。女の命が惜しければ抵抗するなと言われてもこいつ以外の兵士が全滅していれば何の意味もないし、また同様に少女を兵士が傷つける意味もあまりない。

 そもそもその人質の価値が皆無なんだが、もし少女を殺しでもしたら自分に確実な死が訪れるだけである。まだ一縷の望みを賭けて人質作戦をしたほうが生還する可能性はある。


「だ、黙れ! 近寄るとこのガキを殺すぞ! 俺が立ち去るまで一歩も動くなよ! いいな!」


 小太りの兵士は上ずった声を上げてゆっくりと後退した。一人で兵士数十人を始末した俺と正面切って戦う気はないようだが、遠距離攻撃出来る俺に一歩も動くなって……阿呆じゃないのか?


「そりゃ構わんが……もう遅いぞ」


 そう言って俺は上を指差した。


「は? 上だと?」


 釣られて上を見た兵士の眉間に俺の土魔法で作った石の槍が突き刺さった。


「お前ら屑を一人も逃がす訳ないだろが。ゴミはまとめて片付けるのが掃除の鉄則だろうに」


 物言わぬ骸と化した兵士に一瞥もくれることなく、俺は連中にぶちまけられた荷物を拾い上げた。踏み潰された果実は勿体無い事をしたが、あの石榴に似た果実は食べるには遅すぎてちょっと腐りかけてたので多分捨てる事になっただろう。

 俺がぶちキレたのは老婆の真心を足蹴にした行為にだし、もちろん辺境の村であれば腐りかけた品でも貴重な食料であるから老婆もそんな意図はないだろうが、もらった方はちょっと遠慮したくなる品だった。


 その途中でエルフ達が魔法を使う際に懐から取り出していたものを見つけて拾い上げる。なんだこれ、輝きのない魔石とでもいえばいいのだろうか、触媒のように使っていたようだが、触媒は使ったらボロボロになって崩れ落ちるが、この石にそんな気配ない。これもこの国特有の不思議なアイテムなのだろうか?

 後で調べてみるとしようか。



「さて、ここまでは予想通りといえば予想通りだが、アレはどうすっかね」


 荷物をまとめて肩にかけた俺は未だ意識が戻らず倒れている少女の扱いに困った。レン国を移動中に西の耳長どもの悪評は散々耳にしており、交渉が決裂する可能性も高いと思っていた。

 こいつらはとにかく気位が高い。レン国でも認めているのは一握りしかいない竜人だけであり、その他はまともに会話をする気がない。だが、その戦闘能力の高さからレン国の侵攻を幾度も退けてきた歴史を持つ。確かに兵士一人一人が魔法を使え、更に全員が弓の名手であるとくれば、この足場の悪い湿地帯ではエルフの敵はいないだろう。例外は神気使いだが、アレは数が圧倒的に少ない上、西の国境に配備されるより禁軍に召し上げられる方が多いし、そっちの方が大出世なので本人の為でもある。

 俺達が東部で少数で八面六臂の活躍が出来たのは兵の半数以上が神気使いであったことと、東部の敵神気使いを俺が真っ先に始末してしまったからでもある。

 幸いと言うかエルフに領土的野心はないので攻め込まれる事は無いのだが、西部天軍が幾度か攻勢を企んでも容易く撃退できる戦力を保持しているという。


 そんなエルフの国に無理してでも向かう必要はないと皆は口を揃えたが、エルフ国は俺の目的の達成に一番可能性のある国なのだ。

 エルフが長寿であるのは有名な話だ。セラ先生の言葉では長生き連中になると千年以上生きているエルフもいるそうだ。その国の歴史は当然レン国より長く、であるならばあの大山脈の向こう側の情報を持っているかもしれない。東部では商都も領都も書庫を漁ったが、それらしい記述はなかった。しかしレン国以上に古い歴史を持つエルフの国になら手掛かりがあるかもしれない。

 具体的にはあの大山脈の向こう側に通じる抜け道や抜け穴の情報がないか調べたいのだ。

 かつては向こう側と交易をしていた記録があったので、何らかの手段があるはずなのだ。交易品を担いで山登りする馬鹿がいるとは思えないからな。


 前評判から見ても上手く行く保証はあまりないが、とりあえず相手の出方を見るかと関所に行ってみたらこの有様である。

 俺の気が短い点もあるかもしれないが、あちらが完全に交渉をする気がなかった。聞きしに勝る差別っぷりである。人間を国に入れてなるものかという強い意思というより、別の思惑さえ感じたほどだ。

 それはまた後で()()()()()として、今はこのハーフエルフの少女の面倒を見るとしようか。


「酷ぇな。女にする事じゃねぇぞ」


 少女は数箇所を骨折しており、酷く発熱していた。吐血した後まであるから内蔵に損傷の可能性もあるし、全身に痣があって手酷い暴行を受けたことがわかる。

 先ほどの兵士の言葉を考えると、同胞としての扱いどころか家畜以下の扱われ方だ。明らかに死んでもかまわないと思って暴虐を与えている。

 とりあえず放って置くと本当に死にかねない怪我なので、ポーションを使って怪我を癒すことにした。回復魔法のほうが確実だし、魔力消費も大したことはないのだが、迎えがきている状態でこちらの手の内を必要以上に明かしたくはなかった。



 少女の怪我が完治するまでにはポーション数本が必要だった。最近はメイファの置き土産に多少置いてきたものの、この地でしか取れない希少な弱い薬草と通常ポーションを交換していたので数自体は減っていない。効果の弱い薬草一束と通常ポーション1つというとんでもない交換比率(俺の認識だと普通の薬草10束とクズポーション一瓶が適当だろうか)だが、乳幼児や老人にも内服薬として効く弱いポーションは本当に幅広い需要がある。あっちじゃどんなに頑張っても手に入らない品物だから仕方ない。普通のポーションを希釈しただけでは同じ効果を発揮しないと言うしな。


「よう、兄さん。凄腕だな、関所の兵士が全滅かよ」


 そのとき、物陰から一人の男が現れた。年の頃は30代前半の、あごの十字傷が特徴的なエルフだった。


「迎えが来たようだな。彼女は返すぞ」


 この男が最初から物陰に潜んでいたのは<マップ>で解っていた。関所を通り過ぎるでもなくずっと潜んでいたので何が目的なのか分からず、警戒しつつ放置していたのだが、この少女を見てようやく理解できた。


「セレンを助けてくれて感謝する。最後のアレはどうかと思うがね」


 セレンという名のハーフエルフの少女を見捨てかけた事を揶揄しているのだろうが、見ず知らずの相手を命懸けで守ってやるつもりはないし、あそこで俺が彼女の命を最優先で動いたら事態はもっと面倒になっていたはずである。


「その場合は彼女はまだ人質のままだっただろうがな」


 彼女に価値を見出されたら絶対に解放されなかっただろう。多分あの兵士が無事に逃げ切れるまで盾にされていたと思う。俺が一切考慮しなかったから、兵士も人質作戦の無意味さを理解したはずだ。

 そしてこの男はこの少女をこうやって助け出す機会を失っていただろう。


「そうだな。終わった事を言っても仕方ない。セレンの件は礼を言う」


「気にするな、行き掛けの駄賃ってやつだ」


 色々と訳アリっぽいが、俺も余り時間はない。メイファのところが楽しすぎて時間を使いすぎた。既にアードラーさんたちの帰国のための出航の日取りが決まったと言うから、余計な事に関わる暇はなかった。


 少女を男に手渡すとそのまま踵を返す。できれば一人くらい生かしてこの国の色んな情報を吐かせたかったが、生憎と全員三途の川を渡っている。

 とりあえずこの国はレン国ほど巨大ではないようで、この関所から近くの町、そしていくつかの大都市が<マップ>上に既に出ている。移動しながら情報を仕入れればいいだろう。


「ちょ、ちょっと待ってくれ! 俺達の話を聞いてくれないか?」


「おたくらの事情はなんとなく解るが、そこまで暇じゃないんだ。他を当たってくれ」


 俺がすげなく断るが、相手の男は諦めずに言葉を続ける。


「だがあんたはここの事情にまったく詳しくないだろう? なんせハーフエルフも知らんくらいだからな。俺達はあんたにとって必要な情報を提供できるはずだ」


 この言葉に俺は足を止めた。正直言って向こうから言い出すのを待っていた所もある。こちらから要求するのとあちらから提案するのでは意味合いが天と地ほど変わってくるからだ。細かい話だが、初対面の関係ではこんな小さなことでも侮れない意味を持ってくる。


「いいだろう。俺の望む情報だけを話してくれると言うなら、あんたの言葉を聞こうじゃないか」


 交渉が成立し、相手の男がホッとした表情を見せた。そこまで緊張する必要があるのだろうか?


「とりあえず俺達の村に来てくれ。関所がこんな有様じゃいつ増援がやってくるか解ったもんじゃないからな。そこでここの連中があんたに無茶苦茶な態度を取った理由も教えてやれるさ」


 へえ、やはりエルフどもの行動はただの差別主義だけではなかったようだ。他に理由があるのなら聞いてみてもいいだろう。


「じゃあ案内するぜ、俺達ハーフエルフの隠れ里へよ」




楽しんで頂ければ幸いです。


この話から新展開です。中篇程度でさっくり終わらせる予定(これまでさっくり終わった試しがないですが)。


西の旅は3日ほどかけて移動してました。西域の話は中央アジア好きな自分としては入れたかったのですが、マジで20話位使いそうなので泣く泣く割愛します。いつか番外編として主人公の野望である大冒険の一つとして入れられたらいいな、と思ってます。


それと、前話ですが、後半部分を結構追加しております。睡魔と格闘しなから書いてましたので必要最低限しか入れられず、話が微妙に飛んでおりました。

読み返してみて、あれ、こんなにスカスカだっけと焦りました。


謹んでお詫びすると共に後半部分ももう一度お読みいただけると幸いです。何であそこにあんな人がいたのかが解ります。


さて、これから主人公が高笑いしながら暴れまわる話が続きます。仲間や柵の多いあちら側ではここまではっちゃけられないので主人公はマジで自重しません。

それでは次回は水曜日にお会いしたく思います。



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