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彼女の道 17 領都シンタオ 9

お待たせしております。



<こちらでも確認いたしました。確かに魔力を補充すると魔石になります。ユウキ様が持つに相応しい品と思われます>


<補充方法にコツはいるようだが、我が君から教えられた<魔力操作>があれば難なく行えそうだ>


<セラ先生はなんと仰っていた?>


<我が君の危惧したとおりだ。表に出回ってはならぬまさに神器であると仰せだったよ。確かに同感だ、送られてきた最大級の大きさの物は、驚く事に2等級の魔石に相当するのだから。我が君が大量に持ち帰った連結式魔石も同等ではあるが、こちらは<鑑定>通りであれば何度でも繰り返し使える。悪い意味で世界が危機に陥るだろうさ>


<2等級かよ……さっき数えたら大体同じ大きさの石が145個あったんだぞ……>


 俺はそれぞれで仕事中だった仲間をその都合を無視して連絡した。こちらでは魔力の回復が遅いので、あちら側で検証をしてもらったのだ。その結果がこの通りである。実にぶっ壊れた性能だ。


 世界が危険になると言うのも決してただの比喩表現ではない。2等級といえば古代魔導具の起動が行える等級であり、俺がキリングドールのドロップアイテムで連結式の魔石という同じ効果を出すものがあった。

 競売で非常に高値がついたのだが、それは各国が保有する古代魔導具がほぼ死蔵状態であっても使えない、あるいは勿体無くてとても使えない貴重な魔石だからだ。

 なにしろ成竜のような天災級の魔物(竜は独自の魔法を使いこなすなど俺達より知性があると言われており、魔物とはとても言えないが)を打倒して手に入る代物であり、国が滅亡に瀕するとかそういう状況でないと使おうという発想さえまず起きないからだ。


 余談ではあるが、1等級の魔石は概念上でだけ存在している。というのも世界を守護するといわれる8体の”古代王竜”や”世界を食らう蛇”、”世界を背負う鯨”など、神話だか実在するんだか解らん竜以上のトンデモ存在はもっと凄い魔石を持っているはずだから、それが1等級ね、という話である。現実的には2等級で打ち止めだ。その話をしたセラ先生は薄く笑っていたので事実はどうだか解らんが。



 そんな中俺が出した連結式魔石は、各国でもまだ現実的な価格で手に入り、いざという時の予備として有難がられたという。

 だが、この神白石は違う。魔力を籠めれば何度でも使えるのだ。魔力の薄いこっちでは回復の遅い俺の魔力だといつまでかかるか解らないのでレイアとユウナに協力してもらったが、俺と<共有>で同等の魔力を持つ二人で約四半刻(15分)程度で2等級の魔石が完全充填される。セラ先生曰く、大国が魔法使いをかき集めれば半月(45日)もあれば充填できるという。

 少なすぎて幻どころか存在さえ嘘と思われている2等級の魔石が45日で作れるとあらば、国という権力機構は絶対に手をつける。


 というのも古代魔導具というものは、癒しの力や王都を丸ごと包むような結界を作るものが広く知られているが、もちろんそれだけではない。むしろ聞こえの良いそれらを前面に押し出して、裏では国ひとつを灰燼に帰すような超強力な破壊兵器のほうが多いそうだ。そりゃそんなもんがあるから結界を作る魔導具なんてもんが存在するはずで、俺もそれに特に驚きはない。

 だが、ここでいくらでも使える2等級魔石が状況を変えてしまう。数が揃ってきたら防御から攻撃に思考が切り替わるのが人間というものだ。相手が持っているのは確実、それをこちらは防御できる。じゃあ反撃しても良いよな、半月あればまだ使えるだろうし、とほぼ戦争状態にあるオウカ帝国とグラ王国あたりの主戦派は言い出す。絶対に言い出す。その結果は世界を滅ぼせるような兵器を持って睨みあう空しい緊張状態が続く。どうも大昔に似たような事をやらかした形跡が大陸の北ではあるらしい。

 そして当該国以外で代理戦争が広がってゆくだろうと如月が突き放すような口調で俺の考えを補足してくれた。まるで見てきたかのように言うので、そういう異世界ではそのような歴史でもあったのだろうか。



 もちろんこれは2から4等級までの話であり、市井に多く出回っている5等級ぐらいになると非常に便利な充填式魔石になる。セラ先生は早速俺が献上するものだと思って幾つか寄越せといってきたが、これはまだ俺のではない。どうせこの世界では満足に使えないのだし、俺が有効活用してやろうじゃないか。価値も金貨400枚という信じられないほど高額だし、さっき<アイテムボックス>に全部突っ込んで数えたら712個あったのでちょっとは換金しても良いだろう。思わぬ借金返済の足しになりそうだ。

 いつごろこちらに戻られますか、と定例の挨拶のようになってきた従者二人の言葉に曖昧に返して俺はメイファのところに向かった。俺としてはシアンたちがメイファの太守即位式を計画しているので、そこで一区切りということにしたい。帰り道もまだ見つけてないしな。



「メイファは居るか!」


「ん、おおユウキ、息を切らせてどうしたのだ? 君にしては珍しいな」


 リュウコウの訪問を受けていた執務中のメイファが俺を見て顔を上げた。今は俺の前なので、誰もが視線を奪われるような美貌をふりまいているが、先ほどまで深刻な問題を抱えていたのか厳しい顔をしていたのが見えた。


「俺のほうは急ぎじゃないから、間が悪いなら出直すが……」


「君の話はいつだって最優先だ、当然だろう」


 何を言うのかというような顔をするメイファだが、隣のリュウコウも不満はなさそうだ。ってことはそっちは簡単に片付く話じゃないってことか。


「構いませんよ。ユウキさんが来ると殿下の機嫌がよろしくなるのでこちらとしても有難いですし」


 つまりさっきまでは不機嫌であらせられたということですな。やれやれだ。


「まあいいや。こっちの話はすぐ終わる。向こうの庭にあったこの石をくれ。沢山あったが全部もらうぞ」


 俺は手にしていた神白石を机の上に転がした。軽い音を立てて転がる石はとてもこれが何度でも使える動力源になるとは思えない。さっき魔導具に嵌めて動作確認しなければ俺も信用はしなかったかもしれない。


「なっ! それはいかん。君にはその功績に相応しい褒賞を以って報いると決めているのだからな。そうか、誰かから聞いたのだな。だが、何も心配することはない。私の名と誇りにかけて必ず用意する。忘れているようだが、君は私の命の恩人であり、進むべき道を指し示してくれた人なのだ。その恩に対してこのような石で報いたとあれば、私が天下の笑いものになる。そうだろう、リュウコウ?」


「そのお言葉、まさに仰るとおりであります。わたしも彼には弟妹や妻子が大変世話になっておりますので、賛成ではあります。特に妻は殿下のお側に付けて頂き、本人も大変光栄だと喜んでおります」


「奥方は実に代えがたい存在だ。シュンメイやカリファ、セキランも彼女から学ぶものが多いと聞いている。願うことならこのままずっと居てほしいほどだ。もちろんリュウコウの弟妹や子供は宮殿に住む事を許可するぞ。知ってのとおり、掃除が一苦労なほど無駄に部屋が多いからな」


「それは……是非前向きに考えさせていただきますが、それとこれとは話が別でございます」


「むう。しかしだな、功に報いぬと言うのは……ユウキの恩恵を受けておらぬ兵などおらぬ。それは誰もが知る所だ」


「ですが、無い袖は振れませぬ」


 えーと、もしかして俺が報酬を遠慮してそこらに石で良いと言い出したと思ったのか? そもそも好き好んでメイファについてきただけなのでそんなもん要らないし、こっちのほうがよほど価値がある。俺も去る前にこの神白石を魔力を充填してシュンメイたち侍女用に魔導コンロ(着火はおろか火加減まで調節できる優れもの)や水と湯の選択が出来る改良型魔法の水瓶をおいてゆくつもりだった。何しろもう毎回火打石や焚き付けを用意しなくて良いと涙ながらに喜ばれており、シュンメイからは毎日”まだ居てくれますよね”と言われる始末だからだ。


 

 だが話から察するに……こりゃ相当持ってかれたのか?


「リュウコウ、今の懐具合は?」


 俺の言葉にリュウコウは吐き捨てるように言った。


「あいつら、やってくれましたよ。ほぼ空です。最悪なことに今月の俸給分さえありません。我等に奪われるのが嫌で隠したのならともかく、完全に使い尽くしたようです」


 それだけはきちんと記録を残していました、とリュウコウは木版を寄越してくる。数字の羅列が並んでいるが、俺はリュウコウじゃないので見ただけでさっと結論を出せない。だが専門家の彼が言うのなら確かなのだろう。何しろ彼はその才だけで大家族を食わせてきたほどなのだ。


「金の当てはあるのだが……軌道に乗せるまで時間がかかるのが問題なのだ」


「そういえば商都でそのような事を仰っておられましたね。よろしければ伺っても? お力になれるやも知れません」


 メイファが俺に視線で許しを求めてくるが、もう君にくれてやった奴だろうに。仕方なく俺が口を開いた。


「東部の端で金鉱を見つけた。ちょっと掘っただけでこんな感じの金鉱石がゴロゴロ出てきた。かなり有望そうだったぞ」


 俺が<アイテムボックス>から鉱石を幾つか取り出すと、リュウコウの顎が落ちた。何故か自慢げなメイファが続ける。


「もちろん見つけたのはユウキだ。彼といると万事こんな感じだぞ。ユウキがいなければ私はフギンの都にさえ辿り着けなかっただろう」


 そもそも最初のメイファの計画だと手近な軍の駐屯地にとりあえず突っ込むという脳筋丸出しな話だったからな。俺がメイファが寝込んでいるうちに金剛兄弟の情報を仕入れてあちらに誘導しなければ幾ら神気使いとはいえ多勢に無勢だったと思う。あの頃のメイファは命を捨てる気満々だったからな仕方ないとも言えるが。


「金脈ですか……確かにこれは凄い! 二年後には財政問題は一挙に解決しているでしょう。しかし問題は今です。私としてはユウキさんが商都で手に入れた金塊をお借りするのが一番問題が少ないとご提案にあがったのですが……」


「あれはユウキが手に入れたものだ。どうして我等の都合で貸してくれなどと言えようか」


「潔癖な奴だなぁ。そこが良いところではあるが、配下をあまり困らせるなって。例の箱をどこに置けば良いんだ? 全部そこにしまってあるからさ、好きに使えって」


「ダメだ! あれもこれもすべてユウキが手に入れたものだろう。手助けしてくれたシアンのご実家に支援額相当を返すのは解るが、我等が受け取るのは道理が立たん!」


 これですよ、とリュウコウが肩を竦めるので、俺は同情の視線を送っておいた。なんというか、簡単な道を選ばないメイファらしい話ではあるが、そう頑なでは部下を困らせるだけだろう。


「こういうときに智慧を出すのが軍師や賢者の仕事だが、あの三人は何か言ってたか?」


 俺の考え程度は誰でも思いつくだろう。東部の運営に首を突っ込む気はなかったので会議には参加してなかったが、シアンやチョウヒ、リシュウ老師辺りが無策とは思えない。


「御三方からは上層部と結託して私腹を肥やした商人や守備隊から毟り取れとの案が出ました。民からの人気も上がるし私も全面的に同意なのですが、法に基づかない行為を殿下がお好みになりませんでした」


「業腹ではあるが、仕方あるまい。法を潜り抜け、私腹を肥やすこと自体は罪に相当しないからな。憎いとはいえ私自らが法を破る真似をすれば我も我もと続くであろう」


 一時的に殿下の人気は上がっても、長い目で見れば禍根を残すのは事実ですとリュウコウが締めた。


 なんというか、良い奴等だ。良い奴過ぎて自分が率先して貧乏くじを引きに行きそうな奴等である。ばかだなぁと心の中で思うが、それを他の奴等が口にしようもんなら絶対に潰す位には好きな連中だ。


 よし、ここは一つ悪巧みをしようじゃないか。ちょうど都合の良い人材も居ることだし。


「ゆ、ユウキ、何を考えている? 待て、待つのだ。せめてシアンと話し合って決めてほしい。君に任せると私の想像の範疇を優に超えるのだ。あの双子湖が良い例ではないか!」


 あれは事故だし。初めてだから調整がうまく行かなかっただけだ。人的被害は出てないから良いじゃないか。むしろ成功だ成功。と俺は自分を騙した。

 野生動物の皆さん? 本当にすまん、成仏してくれ。これから先、動物はなるべく助けるようにするからそれで勘弁してくれ。



「なぁに、人の良いメイファ達につけ込んで安心してる連中に、現実って奴を教えに行くのさ」




楽しんで頂ければ幸いです。


申し訳ない。昨日アップつもりがアップできなかったです。


今日もう一話上げてこの章を終わらせたいですね。明日から仕事始めなもので。



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