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彼女の道 13 領都シンタオ 5

お待たせしております。


「お。あれは……」


 開け放たれた領都の門までの道を歩いている最中、へたり込んでいた兵隊たちの中で俺は気になるものを見つけた。


「ユウキはん、どないしたん? ってあれは鉄砲やんか!」


 遺棄されたと思しき鉄砲が転がっていたのだ。どう考えても投棄など許されない重要兵器の筈だが、先ほどの”星堕とし”は軍規などどうでも良くなるほどの衝撃を兵士達に与えたようだ。

 確かに目の前で巨大隕石が落ちてきて、大地を大きく抉ったら……俺も逃げるな。


「持ち主もいないようだし、ちょっと拝借……って引き金がないじゃねぇか」


 堕ちていた鉄砲を拾い上げたのだが、一見するとただの棒にしか見えない。あるはずの引き金はおろか銃把までないんだが……これでどうやって撃つ気なんだと思ったら、棒の途中に小さな穴が開いている。


「まさかの指し火式かよ! ああ、でも銃の黎明期ならそんなもんか」


<これまた古い銃だね。火縄かと思ったらその前か。これは火薬が生み出されてまだそんなに時間が経っていないのかもしれないね>


 俺が何かやらかしたと玲二が触れ回ったおかげで今では仲間全員が俺と視界を<共有>しているので、如月が俺の手にある指し火式銃を見て歓声を上げた。これは骨董品として価値がありそうだな。戦利品として戴いていくか。


「あ……」


 その時、へたり込んできた一人の兵隊と目があった。まだ若い彼は無手であり、武器らしき武器など持っていない。そして俺の持つ銃に視線が向けられている。ああ、これは彼が与えられていた銃か。


「ああ、あんたのを奪うつもりは無かった。返すよ」


「い、い、いえいえ、どうぞお持ちください。げ、原隊には無くしたといいますし、天の御遣い様にお使いいただけるならこの上ない名誉でございます」


 目が合った兵士は俺に平伏してそう言いやがった。誰だよ天の使いって、と聞き返す前に周囲にいたほかの兵士達も俺を見て一斉に平伏する。メイファに頭を下げる連中は嫌というほど見てきたが、俺個人にそこまでされる必要はないと思うんだが。


「へ? ああ、やはり知らんのやね。巷じゃ殿下は天に遣わされた御使いによって世直しの道を歩んだってもっぱらの評判やで。そして殿下の側には世にも珍しい金色の髪を持った少年が殿下を手助けしとる。殿下自身もその評判を上手く使っとるし、敵にもそれが伝わったんやろ。まあその風評を都合よく使うように進言したのはアタシやけどね。そしてさっきの神の一撃や。もうこりゃ誰もがユウキはんを神の御使いと思うやろ」


 人を珍獣のように扱いやがって、と咎める視線を寄越すが、軍師など面の皮が厚くないとやってられない商売だ。シアンは何処吹く風で続けた。


「殿下はもちろん良い顔をせんかったよ。ユウキはんに迷惑が及ばないように細心の注意をはらっとった。それはこれまであんさんに伝わらなかったことでも明らかやろ? 殿下を怒らんといてや」


 悪いのは進言して積極的に触れ回られたアタシやし、とシアンはメイファを擁護した。人を勝手に使ったことに思うところはあるが、それが悪評に繋がらないなら勝つための手段を選ばないのが正しい軍師というものだ。シアンは何も間違ってはいない。


「まあいいさ。だが次からは何かあるなら言ってくれよ。知らんところで話が進められても困るんでな」


「おおきに。お許しが出たんで殿下もこれで気が休まるやろ。実はそうとう気になさっとったんや。そんな器の小さい男やないって何度も言ったんやけどね。それより……」


 シアンのその先の言葉は言われなくてもわかる。彼女の視線はこの遺物のような銃に釘付けだ。

 物は試しだ。丁度炸薬を持っているはずの彼も居るし、一発撃ってみるか。


「なあ君、装具を持っていないか? むろんタダとは言わない」


 棒金をチラつかせる前に若い兵士は懐の装具一式を渡してきた。別に取って食いはしないのだが、化け物に出会ったかのような脅え方である。こんなので傷つくほど俺は繊細に出来てはいないがないけどちょっと引くな。


「どうやるん?」


「手順は簡単だ、というか、この銃そのものがかなり単純な構造だからな。爆発するこの黒い粉を棒に詰めてその上にこの丸い弾をって、鉛じゃなくて鉄なのかこれ」


 てっきり鉛だと思って手に取ったが、意外な軽さに驚くと鉄の円弾だった。


「鉄じゃあかんの?」


「いや、悪くはないが、当たった時の威力は鉛のほうが高い。それでも神気持ちには何の影響もない気がするし、こいつじゃ命中率も期待できないが……まあ撃ってみようぜ」


 ただの長い棒なので構えるというか、手に持つ部位さえ定かではない。兵士に聞いても普通に前方に構えるとしか教えてくれなかった。秘密兵器だからかろくに調練もされていなかったらしい。これでどうやって戦うつもりだったのだろうか。でかい音を立てて脅かせれば十分だったのかもしれない。


 指し火式はその名のとおり、空いている穴に火元を突っ込んで爆発させて弾を射出するものだ。

 射撃というより実験のような感じだが、穴に火を入れると爆音と共に弾が発射された。


「おお! これが鉄砲! 話に聞いてたけど、凄い音やな!」


 シアンは驚いているが、俺は不満顔だ。


「真っ直ぐ飛ばないのは諦めてるから仕方ないとはいえ、思った以上に飛距離も出ないな。30メトルさえ飛んでないんじゃないか? 火薬量はこれであってるんだよな?」


「は、はい! 教えられた分量をお渡ししました」


 教えられたというか、一発分と決められた火薬の包みをそのまま入れたので、俺も適量かどうかは専門家じゃないしよく解らん。


<火薬の量はともかく、燃焼が足りてない感じかな? カリウムの質が悪いのかも? 配合を失敗している可能性もあるけど>


 如月の言葉を受けてもう一発試そうかと思ったら、なんと次で打ち止めらしい。幾らなんでも少なすぎだろう。2発撃ったらお終いなんてなんて、何を考えているのか。

 いや、そうでもないのか。こいつを打つ距離なんてせいぜい数十メトルだ。次弾を装填する最中に敵に寄せられているだろうからこの次は白兵戦になる。その時は鉄砲なんて置いて槍を手にするはずだ。そう考えれば少なくても良いのか。この性能じゃせいぜいが威嚇用でしか使えないだろうし。


「この黒い粉がとても貴重らしく、我等も訓練で数回しか撃ったことがありませんので……」


 火薬の製造法は当然秘匿されているようだ。硝石鉱山でもないかぎり例のアレで自家製になるんだろうが、訓練さえまともに行えないんじゃどうしようもないな。


 まあ、遺物のような銃を撃てて楽しかったという事にしておくか。彼に返そうとしたのだが、頑として受け取れないと言い張るので欲しそうにしていたシアンにくれてやった。俺はこんな骨董品より魔法のほうが使えるしな。


「ユウキ! 今撃ってたのが火縄銃か?」


 その時馬に乗った玲二がこちらへやって来た。周囲には偵察に出ていた遊牧民達も一緒だが、到着するや否や俺に平伏するので辟易する。強く言い含めて何とかその態度をやめてもらった。


「ちなみに俺にもこれをやってくるからな。なんでも神の眷属だからってさ。間違っちゃいないんだろうけど」


 おお、と周囲の遊牧民が玲二の一言に感嘆するが、余計な事を言わんでよろしい。異世界転移者とはいえ、神の意思というか、邪な意思を持つ奴から首に縄を引っ掛けて連れてこられて神もクソもない気もするけれど。


「いや、一応それっぽい奴と話してこっち来てるからな。如月さんもそう言ってたし」


 あ、そうなのか? いやいや、それはどうでもいいって。周囲の皆の危険な視線を何とかしたいんだって。一々拝まれちゃ何もできんしな。


「それより、それがこの世界の銃なのか? んん? ……なんか違わない?」


 玲二の想像する銃とは形状が全く違うので違和感を覚えても仕方ないが、俺の知る銃もこの形から先人達の努力と試行錯誤で幾度もの変遷を経て進化してゆくものだ。俺達がここで手を入れてどうにもなるものでもない。


「相当初期型だからな。今のこれは派手な花火みたいなもんだからな。」


「なんかイメージしてたのと違うんだが」


「今の形はただの棒だからな。そりゃ玲二が想像してたのとは違うだろうさ」


 もう少しこの銃の原型と遊んでいても良かったが、どうやら領都の方で何かが起きたようだ。<マップ>を見るに、メイファ達がある一点から全く動いていない。


 俺が何かすることがあるとは思えないが、加勢に動いたようが良さそうである。



 領都は商都には規模で劣るものの、俺達が長く滞在したフギンの都とほぼ同じくらいの大きさだ。

 しかし、ここは東部の政治を司る行政都市なので、それなりの要塞機能も保持している。それを証明するように太守がいるはずの宮殿には水堀が掘られており、宮殿正面にかかる橋が唯一の出入り口となっている。


 その正面の出入り口でメイファたちは足止めを食っているようだ。

 だが宮殿の扉がいかに頑丈でも神気使いたちの敵ではないはずだ。そんなことで突入出来ないなんて事はないだろう。


 そして俺達が宮殿に近づいた時、ラカンの悲痛な叫びがこちらまで響いてきたのだ。


「叔父御、一体貴方になにがあったというのだ! 何故我等が刃を交えねばならぬ! 理由を教えてくれ!」


「ラカン、最早何も言うな。全てはこの矛にて決着をつけるのみ」


 ええ? 何があったんだ? あの白髪で武装した体格の良い爺さん、ラカンの叔父ってことは、例のシキョウ元大将軍か?


 何で二人が戦っているんだ? 位置から見るにシキョウという爺さんがこちらに立ちふさがっているように見えるんだが。


 俺の困惑を他所に、戦いの最終局面は知らぬうちに加速していっているようである。





楽しんで頂ければ幸いです。


一時間くらい過ぎたのは許して……

先細パソコンから嫌な音がしたのでかなり不安な感じです。

最悪はスマホから投稿になるんでしょうが、文章の形態が変わる可能性があります。


しかしこの年末にパソコンがご臨終は洒落にならないです。どうしよう……


とにかく今日もう一話あげる予定で頑張ります。

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