表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界最強になった俺、史上最強の敵(借金)に戦いを挑む!~ジャブジャブ稼いで借金返済!~  作者: リキッド


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/418

王都にて 3

お待たせしております。

 

 リットナー伯爵家は<マップ>によると北地区の北端にあるようだ。俺はウィスカの街でもやったように民家の屋根を飛び跳ねて高速で移動する。屋根づたいに飛ぶのは修行をしてたとき以来だが、夜風に当たって実に爽快だった。南から北にただ移動するだけでは時間を食ってしまうから飛び跳ねてみたのだが正解だったな。速度の面は勿論のこと、北地区に入る際に巡回の兵隊の姿が見えたのだ。さすがに夜中に貴族街を歩いていたら呼び止められるだろうが、空中を跳ねていれば見つかる恐れはない。ほどなく目当ての屋敷が見えてきた。

 

 さすがに富裕層が集まる地区だけあって人通りは皆無だった。門番がいる可能性も考えたが、夜間当直はいても門の前に人はいないようで安心する。

 今の俺は不審者そのものだから、誰何をかけられたらひとたまりもないからな。


 <マップ>で確認する限りでは、件のリットナー伯爵の屋敷は上級貴族だけあって相当な規模のようだ。周囲にも貴族の屋敷はあるものの、倍近い広さを待っている。大きな屋敷に広い庭、少し奥には離れもあるようだ。周囲には高い塀をめぐらせて、中の様子は窺い知る事はできない。


 だが俺には塀の高さは関係ない。今まで移動してきた方法でひょいと塀を飛び越え、芝生に着地する。敷地内は月明かりさえ届かない暗闇なので<暗視>スキルを使って、屋敷に近づいていく。

 改めて内部を確認すると、この屋敷は3階建ての地下1階構造、そして離れが一棟存在するようだ。それと中にいる人数が非常に多いことも特徴だな、<マップ>では30人以上は確実に中にいる。大量の物資を運び入れるだけに何かがあるのは間違いないようだ。


 この世界では高級品の硝子窓の鍵を<鍵開け>で外し、俺は屋敷に潜入する。内部から異様な気配が漂い、俺はあわてて<隠密>と<消音>を使用した。咄嗟の判断だが、屋敷の何処からも俺の侵入に気付いた素振りはなくて胸を撫で下ろした。

 一体ここは何が起きてるんだ? まるで異界に紛れ込んだかのような不気味さだ。屋敷に入る前は不穏な気配など全く感じなかったので、この屋敷自体に<結界>でも張ってあるのかもしれない。これは何が起こってもおかしくないな、俺は未踏破層の迷宮内を歩いているつもりで進んでゆく。



 俺はまず地下から攻めることにした。理由はこの異様な気配がどうも地下から感じられるのと、何かを隠すなら基本は地下だろうという単純な思い込みだ。構造自体は既に<マップ>で把握している。一本道をしばらく進むと広大な空間が広がっているが、位置から逆算するとこの地下空間の上に庭が来るようだ。ダンジョンみたいに魔力で走査できれば何があるのかも手に取るように解るのだが、流石に人の屋敷で行うわけには行かない。少なくとも魔力を持つ貴族なら何かをしたと気づかれるので、足で探すことになる。


 地下は相当に古い時代に造られたのだろう、石造りだがあちこち風化して滑らかになっている。屋敷は結構新しい感じを受けるだけに差が激しいな。おそらく地下を隠すためにその上に屋敷を立てたのかもしれない。

 地下は舞踏会でもできそうなほど広い空間だったがまるで教会でみるような長椅子が均等に並べられている。その奥に多くの人間の反応を見た俺は扉で閉ざされた小部屋に入る。



 そこで見た光景は、俺の正気を疑う光景だった。多くの人間が仰向けに倒れているのだが、その位置は等間隔に並べられているからおそらく人の手で行われたのだろう。

 数は2列で5人ずつで計10人、全て男だ。まるで死体が並べられているようだが、全て生きていることは<マップ>が教えていた。死体は物扱いなので反応しないからだ。

 眼前の異常な光景に俺も思わず掠れた声を出した。


「なんだ……これは?」


 発見されることを覚悟の上で<光源>を使い小部屋の中を照らし出す。10人の男たちは<マップ>では灰色の扱い、つまり中立となっているがとても生きているとは思えない。顔色はまさしく死体のように土気色で呼吸さえしていないように見える。だが<マップ>の表記は生命体として扱っている。今まで<マップ>が俺を欺いた事はないが、未知の状態異常かと思って<キュア>を一人の男にかけてみたとき、それは起こった。


「ウ……ゴアオ……オオ…オ」


 いきなり掠れた声を上げたその男が苦しみ出したかと思うと、その体が急激に膨張し始める。まるで物語に出てくる月夜に変身する狼男のようだったが、人狼とは大きく異なっている点がある。彼らは頭に大きな角を二本も生えないし、体色が黒く変貌しない。共通点は手の爪が凶悪に伸びるくらいだろうか。変身が終わった頃には紫色の肌を持つ筋骨隆々の化物がそこにいた。


「……!!」

 

 無意識の内に<鑑定>を行っていた俺はその結果に息を飲んだ。咄嗟に<結界>を使い、この小部屋内の出来事が外に漏れないようにする。先ほどの声が掠れていたのは不幸中の幸いだった。大声を出されていたら屋敷の人間に発覚していただろう。



 レッサーデーモン  悪魔種


 魔族が使役する悪魔種の最下等種。生み出され方は多種多様で魔界にあるという魔力腫から生まれる者や悪魔同士の交配、果てには暗黒教団の信者が逆洗礼(アンチ・パプテスマ)の後、強大な魔力を得て受肉する方法もある。

 生まれ方は変わっても一度受肉してしまえばその強さは凶悪の一言で、一匹に対しAランク冒険者が集団で挑まねば勝ち目はない。

 悪魔族の特徴はその魔法防御の高さにある。存在そのものが魔力の塊である悪魔は生半可な魔法は無効化する。

 その攻略には僧侶の神聖魔法が不可欠になる。最下等のレッサーデーモンでもあらゆる魔法を減衰させてしまう。

 HP 540/540 MP12/12  経験値 950

 スキル <魔法無効化 低 ><硬化lv2>





 悪魔……ってあの「天使と悪魔」の悪魔か!? 唐突すぎて全く現実感がないんだが。教会の聖典で出てくるような異形の悪魔が俺の目の前にいる。変身したばかりでまだ体が追いついていないのか、しきりに体を動かして俺を見るどころではないようだが。いや、だが……なんでいきなり?

 俺もあまりの事に混乱していた。この国の上級貴族である伯爵家の地下に悪魔がいる。しかもつい先程までは人間の姿をしていたのだ。これは何を意味するのか? 反逆や王位簒奪、いやもしかして公爵も絡んでいるのか。ユウナから聞いた闇オークションは……。

 全ての点がひとつの線に繋がったかのような閃きが俺の脳裏によぎる。


 いや待て、早合点はよくない。そもそも今日王都に来たばかりの田舎者が首を突っ込む話じゃない。それにあくまでも俺が持っている断片的な情報から判断しただけで、この情報自体も正しいと決まったわけではない。第一俺に何ができるというのだ、俺は借金持ちの冒険者であって謎を暴く探偵じゃない。


 それになにより、俺はまず目の前の化け物を何とかしなければならない。

 あまりのことに現実逃避した頭を悪魔の咆哮が呼び戻す。<結界>を張っておいて正解だったな。ここならどれだけ騒がれても外には漏れない。

 それに<鑑定>からは気になる単語が多かった。魔族やら暗黒教団とか逆・洗礼とか、一体何のことを指しているのやら解らんが、少なくとも目の前の奴は敵だ。それだけははっきりしている。

 さっきまで中立だった表示がはっきりと敵対になっているし、俺を倒すべき相手と認識したようだ。好き好んで殺しをするのは趣味じゃない、話が通じる相手なら交渉もするが……理性のカケラもなさそうなご様子ですな。

 

 どうも元々人間やめて悪魔に成り下がった連中のようだし、一切の遠慮は要らんな。

 伝説の悪魔とやらの力を見せてもらおうじゃないか。


 相手は俺を視認すると子供の胴回りはあるその太い腕を力任せに振り回してくる。腕が<結界>に当たり、弾き返されるが一切お構い無しだ。うん、知能は低いな、ある意味生まれたてだし。

 <鑑定>では魔法が効かないとあるので、ここは素手ゴロと洒落こむか。ダンジョンモンスターは敵の数が多くて出番がなかった拳だが、正直いって魔法より自信あるくらいだ。

 悪魔はその太い腕を持て余しているようだ。元々大して広くない小部屋の上、<結界>のおかげで満足に腕も振れていない。俺は隙だらけの腕の動きをかいくぐり、相手の頭を狙って拳を叩きつける。


「ウウウォォォォッ!!」


 怒号とも悲鳴ともつかない声を上げて吹っ飛ぶレッサーデーモン。こちらは拳の当たり所が悪くて相手の頬を狙ったつもりが額から生えている二本の角の片方をへし折っていた。おかげで拳が痛い、回復魔法で痛みを除去する。

 悪魔になって耐久力も上がっているのか、吹っ飛ばされたもののすぐに起き上がってこちらに突進してくるものの、またも知性の欠片もない腕を振り回すだけの攻撃だった。

 

 相手が集団ならばそれだけでも脅威なんだろうが、俺にはただの隙でしかない、いくらでも料理できる。一本だけ残っていた角を魔力を帯びた手刀で攻撃すると、あれほど硬かった角があっさりと斬り飛ばされた。始めからこうすればよかったのか、失敗したな。

 だが、魔法が効かないとなっていたが、魔力はちゃんと通るようだな。拳でへし折った一本目と違い、二本目は切り口も鋭利でスッパリ切れている。やり方は簡単だ、魔法を使うときは己のあるいは触媒の魔力を変換してそれぞれの魔法にするのだが、その変換をする前の収束した状態で手に宿らせるのだ。<魔力操作>を使っているわけではない、おそらく誰にでも出来る技術だ。おそらく一流冒険者といわれる連中の話に出てくる生身ではありえない活躍はこれを利用していると思われる。俺がこの屋敷に来るまでに民家の屋根を跳んできた方法もその一環だ、アレは訓練の意味合いが強いけど。実際、あの修行は微細な魔力調整を必要とするのだ。屋根に飛び上がる程度の魔力、筋肉を傷めない程度の着地、そしてまた跳躍と己の肉体なら脳がその調節を行うが、魔力は自分で必要量を判断し様々に切り替えねばならず実に良い修行になる。魔力を体内で循環させる事はいつでも、それこそ寝ている最中でもやっているが、体の一部を覆って強化する訓練をする機会はあまりないからだ。こればかりは自分の意思でやろうと思わねば身につかない。



 さて、悪魔の角は根元からへし折れたが、魔法は通じないのではなかったか。それとも上級魔法しか通らないという意味なのだろうか、俺は既に脅威となり得ないことが判明した悪魔を前に、逆に探究心が芽生えてしまいこいつの魔法防御力がどの程度なのか調べてみたくなった。


 まずごく僅かな量の魔力をつかって水魔法を撃ってみる。形状も特に拘らず水をぶっ掛けるような奴でぶつけてみた。当然、相手には何の損害もないが俺が知りたかったことは解った。


 水をぶっかけたのにデーモンは全く濡れていなかったのである。確かに水を被った事は確認しているので、連中の体表に魔力を通さない膜か何かを周囲にめぐらせているに違いない。これで普段は魔法を防いでいるのだろう。しかし、魔力で実体化した水すら通さないとはかなりの魔法防御力なのは間違いない。

 形状が分かった所で次は強度を試すことにしよう。いつもの魔法の矢を一本作り出し、敵の腹めがけて放つとまともに食らったデーモンはそのまま吹っ飛んでいって動かなくなった。


「あれ? これで終わったのか? 随分とあっけないな……」


 起き上がってこないことを不審に思って<鑑定>してみると、確かに敵のHPがゼロになっていた。角を折った二発でかなりダメージを与えていたのかもしれないが、まさか一発で倒してしまうとは思わず拍子抜けだ。

 人間が悪魔化したわけだから、死んだら人間に戻るのかと思いきや、悪魔の死体のままだった。

 さすがに人間に戻れば何か思うところもあったかもしれないが、そのままだったので俺にとっては魔物を討伐したのと変わらず、特に感慨もない。第一、いきなり悪魔に変身するようなやつが善良な一般国民なはずもない、ロクな奴じゃないに決まっている。


 リリィがここにいれば何か気の利いたことを言ってくれたかもしれないが、それどころではなくなった。先ほど俺が使った魔法が悪かったのか、この部屋に残っていた人間たちも次々と悪魔化していったのだ。

 ここにいるのは<鑑定>にあった逆・洗礼とやらを受けた連中の集まりだったらしい。いくらなんでも魔法を使っただけで魔力を感じて悪魔になるとか単純すぎだろう。ここの貴族は一体どういう管理をしていたのか。

 最初に悪魔化した奴の近くにいた数人が受肉し、似たような悪魔になる。逆に、遠くにいた奴らはまだ人間のままだった。ある程度の魔力を受けると受肉すると<鑑定>にあったし、後で試してみよう。

 本来ならば数体の悪魔に囲まれて絶体絶命なのかもしれないが、俺はダンジョンでもっと酷い状況にいつも晒されている。この程度、危機とも思わない、むしろ中途半端で終わった実験の続きができるなと思った。

 後9体はいるから、悪魔を色々勉強させてもらおうか。



 俺の悪魔実験は有志の皆さんの協力により様々な事が判明した。まず第一に彼らには急所が存在しないようだ。頭をふっ飛ばしても動きを止めないやつもいるし、心臓の位置を貫いても動く奴もいた。それに大して痛覚も無いようだ。自分の一撃で怪我を負ってもそのまま負傷した腕で攻撃を加えてきた。

 どうも魔力の源となるような部位が存在し、それが尽きるか破壊されない限りはいくらでも動けるようで、途中小手調べのつもりの一撃で相手が絶命した時は罠かと疑ったほどだ。その急所は個体ごとに様々で統一性はないと思われる。無論、弱点がそこというだけで肉体に損害を与えれば普通に機能は低下する。頭を吹っ飛ばした奴は俺を見つけられずウロウロするだけだったし、腹から分かたれた奴はそのままもがくだけの物体になった。

 

 

 こうして俺の周りには10体の悪魔の死骸が転がっている。殲滅に要した時間は半刻もないと思うが死骸をこのままでいいものか悩むな。証拠隠滅したほういい気がしたのでいつものように<アイテムボックス>へ悪魔たちを収納し、後でどこかに捨てておこう。悪魔化した死骸が散らばっているより、寝ていた男たちが消えていたほうがまだマシな気がする。



 しかしこの屋敷は一体何なのか疑問が残る。俺は行方不明の公爵の孫娘の手がかりを探しに来たのであって、悪魔だ魔族だ暗黒教団だとかいわれても正直困る。まるで別の案件に首を突っ込んだみたいになっている。

 



 悪魔どもを始末したあと小部屋を出て<光源>で改めて周囲を窺うと、壁面に絵画が描かれているのがわかった。更には奥には巨大なパイプオルガンが鎮座している。ということはここは地下聖堂か、そういえばここの家は祭祀がどうとか話があったな。だがなんで悪魔がいるんだ? さっぱり理解できない。 

 考えても答えは出ないので探索を再開する。地下を出て今度は2階、3階を探ってゆく。一階は人が全くいなかったので除外した。2階は多くの客でも泊まっているのか、部屋の一つ一つに反応があった。地下での出来事は<消音>が上手く働いていたようで、誰にも気付かれてはいないようだ。誰も彼も寝静まっているようで、この階は特筆すべきことは何もなかった。




 続いて3階に上ると、明かりの漏れている部屋を見つけ、中から言い争うような声が聞こえてきた。神様だって眠りこけるようなこの深夜にである。これは何かあると思い<盗み聞き>スキルを発動させ、近づいてゆく。



「兄さん! 本気で儀式を行うつもりなのですか!」


「落ち着け、バーニィ。大きな声を出すな。奴らが休眠に入ったとはいえ油断は出来ん。お前の言いたいことも重々承知している。だがこの儀式は既に最高司祭様もお耳に入れている話だそうだ。我等の都合だけで取り止める事は出来なくなった。下手を打つとこの国そのものが破滅に陥る」


「ですが、このままでは何も知らないシルヴィアお嬢様が……くそ、奴め! 大人しく本部で引き篭もっていればいいものを我が家の儀式になんだって押しかけてきたんだ!」


「私の司教への昇進を阻もうとしているのだろう。でなければ教団本部から動くはずもない奴が最側近を大勢引き連れて我が国まで訪れるはずもない。それしか考えられんよ、しかしよりにもよって大召喚の儀式に乗り込んでくるとはな。当の二人はどのような様子だ」


「まあ、落ち着いているよ。シルヴィア様は公爵閣下の目の届かない場所でちょっとした冒険だと思われておいでのようだ。日中は僕が張り付いているからあれ以降連中の接触はないけど」


「そうか、あの娘は聡明だ、おそらくシルヴィア様に伝わらぬよう上手く誤魔化せているようだな」


「とにかく、閣下に連絡を入れなければ。奴の側近どもの活動限界か来るまで3日、こちらは全く身動きが取れなかったから、さすがに心配されているはずだよ。上手く代わり、代わりを手配……できれば……」


「厳しいな。あのシルヴィア様と高司祭は既に面通しを終わらせている。今更他の娘に代えたらどうなるか……それに、もし変更が認められても罪無き子女の命が失われることに変わりはない」



 重い空気を出している中の話から察するに、公爵の孫娘はここの連中に捕らわれていて儀式の生贄にされちまうのか。この家の連中は本当ならやりたくないけど何か事情があって自分たちの一存では決められない感じか。

 勝手な想像だがこれで合っている気がする、つまりここで大正解だったってことか。

 意外だが、まず公爵の孫を探すとしよう。地下は違ったから、いかにも怪しいのはあの離れだな。どう考えても異常なはずの悪魔どものことは一旦置いておこう、この件に関わっていればいずれ説明を聞くこともあるだろうし、既にあの異様な気配はない。この屋敷内の悪魔は掃討したと考えていいだろう。


 

 一々降りるのが面倒なので窓を開け放って3階から一気に離れに向かって飛んだ、というか落ちた。風魔法で体重を消しているので、滑空するように離れに辿り着く。夜空の下、緩やかに飛ぶのは中々楽しい。明日にもソフィア達に教えてあげようか。待機待ちの彼女たちの無聊の慰めになるかもしれない。

 離れは実に立派な建物で、壮麗さは屋敷を上回るかもしれない。中に反応が二つあるから孫娘ともしかしたら一緒にいなくなったというメイドなのかもな。


「失礼しまーす」


 この離れはやはり貴人用の離れのようで、酷い扱いは受けていないようで安心する。声をかけて<鍵開け>で中に入ると誰かが動く気配がした。しかし最近はスカウトの真似事ばかりしているな。


「誰ですか!?」


 声からするとまだ少女だな、孫娘はまだ6歳とか言っていたからこっちはお付きのメイドだろうか。


「怪しい者じゃないっていってもこんな時間に現れては説得力はないか。一応公爵からの依頼を受けた者とだけ言っておくよ」


 <暗視>をやめて<光源>で小さな明かりを生み出して、俺と若い少女の顔が見えるようにするとメイド姿の少女は俺に驚いたようだ。確かに俺の体は若いしな、実力不足に見えるのは仕方ない部分もあるがショックだ。


「貴方が旦那様が雇われた方なのですか?」


「昨日いきなり雇われた冒険者なんで、正式かどうかは怪しいが。とりあえず君たちは無事なんだな」


 アンジェラと名乗ったメイドの少女は疲労の濃い顔に安堵を滲ませた。その顔立ちはメイドには似つかわしくない貴族の子女でも通るほど気品がある美貌だった。これは周囲の男は放っておかないだろう。


「とりあえずは、ですが。リットナー家は私たちを丁重に扱ってくれていますので」


「それは良かった。じゃあ、ここから出ようか。今なら誰にも見つからずに帰れるぞ」


 メイドの表情が曇っている気がするが、何か不都合があるのだろうか? 先ほどの男たちの会話が脳裏をよぎるが、そもそも彼女たちは誘拐されているはずなんだよな。


「大変申し訳ないのですが、旦那様にグレンデル高司祭が伯爵家に滞在しているとお伝え願えますか?」


 今私たちがここを動くことは誰にとっても得にならないと言われては、こちらも頷く他ない。ここにはいつでも来られるし、彼女たちの扱いは良いようだから助けに来るのはもう少し後でも大丈夫なのかも。


「私とお嬢様を攫ったのはリットナー家当主の弟バーナード様です。彼は私たちを必ず帰すと約束してくれましたが、それから状況が随分と変わってしまいました。グレンデル高司祭に私たちの顔と素性が知られていると伝えていただければ公爵様には状況を理解していただけると思います」


 それも全て暗黒教団とやらの問題なのかと聞くとメイドは頷いて見せた。色々と根が深そうだが、今の俺にできることは公爵にこの状況を伝えることか。なんか俺が遭遇した悪魔の事とか全く関係ない話になってきてないか? 


「確認させて欲しい。向こうで寝ているのが公爵の孫ってことでいいんだな?」


「はい、シルヴィアお嬢様はあちらでお休みです。外出に制限があり色々不便を強いられてはいますが、待遇は悪くないほうかと」


 あどけない表情で眠っている幼女を見れば確かに日々の生活に苦しめられている様子はない。天蓋つきの寝台を用意しているし、卓の上には様々な退屈を紛らわす道具が置いてある。さすがに公爵家の娘を地下室に閉じ込めたりはできないか。メイドの口振りではそもそもそのような意図で誘拐した訳ではなさそうだ。


「せっかく助けに来て頂いたのにこのようなことになってすみませんが、よろしくお願いします」


 メイドが僅かな時間で書き上げた公爵宛の手紙を受け取る。とりあえず今日明日で何かが変わることはないそうなので、公爵への報告は明日にしよう。彼女たちも暇をしているようだし今度はお土産でも持ってくるようにするか。

 二人にはまた再訪する事を伝え、今日はリットナー伯爵家からお暇することにした。




 同じ北区にあるソフィアたちが泊まっているホテルに戻るころには空が白み始めている。始めは倉庫街を見に行くつもりがとんだ大事になってしまった。

 あまりに色々ありすぎて忘れかけていたが、最初の目的である襲撃者の炙り出しは不発に終わったようだ。周囲の監視者たちはそのまま動いていない。やはり俺達を護るために見張っていると見てよさそうだが、これで安全が確保されたと思うには後一手くらい打つ必要があるな。



 出てきたときと同じ窓から部屋に戻るとジュリアが出迎えてくれた。ジュリアは俺が教えた魔力鍛錬法をずっと行っていたようで、僅かながら魔力が増加していた。数時間で目に見える効果が出るとはやはり才能があるのだろう。何故に騎士を目指しているのか不思議な女だ。

 やはり俺達の警戒し過ぎだったようだなと話し合いながら、障害物を取り除いたり昇降機の魔石を入れ直したりするうちにメイドの三人が起き出してくる。


 もうそんな時間なのか、時刻を確認すると俺もウィスカにいたらダンジョンに突入している時間だった。階下でも従業員が働きだしたような静かな動きが感じられる。もう朝になってしまったが、俺も少し仮眠を取ろうかな。 

 最上階そのものが一つの部屋だけあって小部屋がいくつもあり、俺はベッドしかないおそらく従者用の狭い部屋に潜り込んだ。この圧迫される感じはウィスカの宿、”双翼の絆”亭を思い出して中々に居心地が良い。

 朝食まで数刻は仮眠を取れるだろう。俺はあまりにも様々な事が起きた夜の事を整理しつつ、意識を手放した。

 

 


 残りの借金額  金貨 15000732枚  


 ユウキ ゲンイチロウ  LV115


 デミ・ヒューマン  男  年齢 75


 職業 <村人LV132〉


  HP  1993/1993

  MP  1371/1371


  STR 331

  AGI 307

  MGI 323

  DEF 290

  DEX 256

  LUK 195

  STM(隠しパラ)555


  SKILL POINT  462/475     累計敵討伐数 4339

楽しんでいただけたら幸いです。


ゴチャゴチャしてきましたがちゃんと収束しますので大丈夫です(フラグ)。

次も急ぎます。ストック消化するつもりがなぜかほぼ全面改稿している気が。初稿の段階で後で直すからいいやと突っ走ったせいですかね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ