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新たなる世界 4

お待たせしております。



 俺が情報と資金提供者の皆さんから()()()()()()を頂戴した結果、かなりのことがわかってきた。


 この辺りはセキトと呼ばれている地域のようだ。都市国家だか州だか知らんが、そういう小規模な勢力が乱立しており、決まった国がこの地を支配していると言う感じではないみたいだ。


 ”みたいだ”、というのはその情報源がひたすらに怪しい盗賊団の首領のおっさんだからだ。


 頭らしくある程度の知識は持っているようだが、それが正しいのかは判断がつかない。だが例え間違った情報でもないよりはマシだ。出会う人物がこのおっさんだけであるはずがないし、おいおい答え合わせしていけばいいだろう。


 この”こひょーだん”とかいう盗賊団の皆さんは実にいい奴等だった。始めのうちは慣れない言葉を使う俺を嘲笑っていたものの、そいつらの頭蓋を漏れなく叩き割っていたらみんな反応が変わってきた。


 俺も情報が欲しいので次第に頭ではなく腕や足を手にした棍で砕いていった。この棍はウィスカの28層の豪華な大宝箱から出た魔法の武器である。魔力の親和性以外に際立った特徴があるわけでもないが、アダマンタイト製で性能はただひたすらに頑丈、その単純さが気に入っている。


 玲二達は珍しい能力を有難がる傾向にあるが、俺は真逆だ。武器に求めるものは自分の思ったとおりの動きができて、手の延長になり、そして壊れなければそれに勝るものはない。


 ああ、もちろん愛剣は別である。アイスブランドはその美しさに惚れ込んでいるし、腰に佩くだけでも楽しいのだが、こんな臭いおっさん達に振るうのは憚られたのだ。

 愛剣を振るうにはもっと相応しい相手でなければならない。その思いが逆に愛剣の出番を奪っている自覚はあるが、この程度の雑魚は棍で充分である。棍は一応非殺傷武器だから急所や頭以外を狙えば殺しにくいしな。



 盗賊団を全員潰すのに5寸(分)もかからなかった。そこらにいた女を人質にしようと企んだ輩もいたが、俺が放った石礫がそいつの頭を吹き飛ばしたら誰も同じ手を使おうとしなかった。そのころには生け捕りにすべく両手足を念入りに砕いていたから盗賊たちも無駄死にをする気はなかったようだ。

 それがマシな選択であったかは俺の知ったことではない。


 全てが終った後で気付いたのだが、こいつら全員人間ではないようだ。俺も獣人(ライカン)やら魔族を見ているのでこの世界の二足歩行生物が全て人間ではないとは思っている。

 こいつらも自らを竜人とか言ってたし、人間を見下しているような言動だったのでもしやとは思ったが、全員肌は浅黒いし戦いの最中はまるで金属を殴っているかのような固い感触だった。


 もっとも、金属だろうがなんだろうが打ち砕く力を持っている俺の前では別に問題はなかった。むしろ力加減の必要がなくてやりやすかった。

 こいつらが頑丈なだけ、気兼ねなく好きに叩き伏せられるというのは中々よい経験だった。


 あっちじゃ俺の力が強すぎてどうしても手加減にばかり気を遣うからな。



 そしてこいつらが自称した竜人とはこの地における支配階級の名称らしい。この地では竜人という支配階級と自由民、そして奴婢という下層階級で成立しており、人間は奴婢の中の一種族という扱いのようだ。



 これらの話を俺は盗賊団から手に入れた。具体的には自信満々に出てきた首領を再起不能なまでに潰したのだが、一応性根は据わっていたのか、中々素直に情報を吐いてはくれなかった。<洗脳>を使っても良かったのだが、かつて違法奴隷たちを救出した際に手に入れていた未使用の隷属の首輪が残っていたのでそれを使って従順にさせた。

 俺の目論見どおり魔力の少ないこの世界では隷属の首輪も一刻(時間)ほどで効果が切れてただの首輪に戻った。俺も情報を手に入れつつ、何処にも出せない危険な魔導具の処分が出来て一石二鳥だった。



 連中が言うにはこの周囲の森は誰も近寄らない死の森と呼ばれている大樹海だそうだ。俺が見た限りでは確かに実りも生き物の数も少なかったから、そう呼ばれることに納得は出来る。

 何故そんな場所にこいつらは根城を構えていたのかと尋ねれば、誰も近寄らないからだそうだ。もともとはここにあった集落を乗っ取って拠点としたらしい。


 そしてここで囚われていた奴婢(もう奴隷で良いか、わかりやすいし)たちだが、あれは駄目だ。奴隷根性と言うか、指示待ちというか、自分が助かった事さえよく理解していなかった。自由を得た事がなく、生まれた時から支配される事が当たり前だったのか、この状況に戸惑ってさえいた。


 俺がここに乗り込んだのは奴隷を助けたかったわけでもなく、ただ情報が欲しかったからだ。むしろ盗賊に襲われている集落だと思ったので恩を着せてなにか情報を、と言う魂胆もあったが、まさか盗賊の根城だったとはな。まあ欲しい物が手に入ったから良しとするか。もしここが村だったとしても、こんな僻地じゃ盗賊の親玉と持っている情報は大差ないだろう。


 そして盗賊団の根城のお楽しみであるお宝だが……何から何までごっそり頂く事にした。どうせ両手足を砕かれた盗賊達に明日などないし、この奴隷たちもこれから自立して生きていく、と言うような様子ではない。それにこの盗賊団を退治したからといってここが平和になるわけでもなく、まず間違いなく新たなならず者が自分の縄張りとするだけだろう。奴隷たちのためにある程度の食い物は置いていってやってもいいか、金目の物は全て頂いていこう。


<これが異世界お約束の盗賊団退治か。ユウキには縁がないなぁと思っていたけど、まさかこっちでやるとはね>


 <共有>で一部始終を見ていたらしい玲二がそんな<念話>を飛ばしてきたのはそんな時だった。


<ランヌ王国は普通に治安いいからな。俺というかライルが住んでいた田舎になると追い剥ぎなんかは出たらしいけど、都市部に近くなると騎士団が出張ってそういうはの潰すからな。盗賊団なんかのさばらせるのは領主の失態だし>


 玲二が俺と視覚や聴覚を<共有>しているならちょうど良い。彼にも言葉を覚えてもらおう。


<どうせ見てるなら玲二も連中の言葉を解読してくれ。<異世界言語理解>を使うと言語の習得はほぼ無理だからさ>


<確かにそうだな。さっきユウキが降伏勧告した時なんて爆笑してやがったしな。そのすぐ後でぶちのめされてスカッとしたけど>


 きっと俺の言葉は”あなた様たちの命が大事であるならば降伏してくれでござる”みたいな適当な言葉に変換されて伝わったのだろう。とにもかくにも言葉を覚えないと意思疎通は身振り手振りになってしまう。最悪それでもいいけれど、あっち以上に命の価値が低そうだし、会話が出来るに越した事はない。


<今の所、”助けて”と”命”と”金”くらいしか単語が解らないし、そっちも気をつけて見ててくれよ>


<そりゃああれだけ連呼すれば覚えるわな。ユキは見ないだろうから、如月さんとレイアさんに話しておくよ。そうそう、それより連中の通貨を詳しく見せてくれよ。さっきちらっと見えたけど、こっちとは全く違うよな?>


 そう言われて懐から失敬した硬貨を取り出して見せた。こちらの貨幣も金銀銅を用いているのは間違いない。量からして価値の順番も同じだろう。一番数の多かった銅貨が金貨に勝る価値とはならないと思う。

 だが俺の知る通貨との一番の違いはその形にある。ここでの通貨は、小さく細長い長方形だった。


<あ、やっぱり見間違いじゃなかったか。麻雀の点棒見たいだなと思ったけど。それよりもう少し太いか>


 得た情報では銀棒一本でここらの食事処で一食食べられるような価値らしい。この田舎基準なのでもっと人の居る場所ではまた違うんだろうが、それもまた他の情報を得てからだな。


 この盗賊団はなかなか稼いでいたようで、金棒が100本ほど、銀棒が200本、銅棒が500本ほど溜め込んであった。もうすぐこの世と別れを告げる連中が持っていても仕方ないだろうから、有難くいただくことにした。俺が持っている金貨で買い物もできるだろうが、金に価値はあれどこの辺りで使われていない通貨など足元を見られるに決まっている。現地通貨はあると助かるな。

 あっちの世界と同じ程度の価値があるのかはわからんが、とりあえず金が手元にあるというのは安心感がある。


 それと、金で思い出したのだが、やはりこの大地では魔約定の効果が働かなかった。正確には何か一つ魔約定に吸わせて魔導具としての効果を発揮すると、その時点で魔力切れになる。今朝確かめた限りでは利子分の増額はされていなかった。

 これで借金の事を気にすることなくこの世界を楽しめるというわけだ。



 首領への尋問の中で周囲の地理も多少情報を得た。大雑把に言うと、俺が突然転移させられた場所から見て東側にあの大山脈が存在し、俺は反対側である西側のこの集落を目指して移動してきた。

 そしてこの死の森と呼ばれる大樹海はまだまだ続くものの、集落としてはここが最果てであり、ここから西に行くといくつかの村、そして町が存在するらしい。


 とりあえずもう森は充分なのでそろそろまともな会話が望める奴に会いたい。幸いにもこの集落から次の村(村といってよい規模らしい)までは獣道ではあるが道が繋がっているそうだ。


 このように情報を仕入れると<マップ>が更新されてより詳しいものになる。それまでは地形くらいしか判明しないので、こういった地道な作業は大事である。



 さてさて、次に向かうのはその村である。ここには数十人の手足を砕かれた盗賊と奴隷たちがいるが、まあ食い物は置いておいたし、放っておいていいだろう。後始末は彼等に任せるとしようか。


 周囲には血の匂いでもかぎつけたのか、狼達が集まっていた。奴隷たちは最悪建物の中にでも逃げ込めばいい。だが行動不能の盗賊たちは大変なことになるだろうが、お偉い竜人サマたちなのできっとなんとかするだろう。

 俺がここに来たのは奴隷を助け出すためではなく、ただの情報収集だ。彼等の面倒を見る義理もないし、むしろ異邦人の俺が助けを求めたいくらいである。自分の事は自分で何とかして欲しいものだ。



 しばらく歩くと背後から野太い男の声で絶叫が聞こえた気がするが、まあ気のせいだろう。




「しっかし、治安悪いな。国が荒れてる証拠だ」


 俺はそう一人ごちた。あれから一刻(時間)ほどかけて移動し、次の村に向かっていたのだが、野盗に出会うこと出会うこと。この短時間で3組の追い剥ぎに遭遇していた。

 最初の二組はどう見ても野盗にしか見えない凶悪な風貌だったので蹴散らしたが、最後に出会った3人組に至っては食い詰めた村人が仕方なく通りかかった旅人を襲ったようにしか見えなかった。彼等は粗末な服に武器は農作業の用のクワや鋤だった。


 しかも初犯なのか連携も全く取れていないし、一人は逃げ腰だわでこちらも始末する気が失せてしまうほどだった。適当に威嚇するとそれだけで尻尾を巻いて逃げ出してしまったしな。



 おそらく飯を食えていないのだろう。そいつらはかなり痩せていたし、年長らしき男の目にはこのままの垂れ死ぬのならいっそのこと他人から奪っても生き延びてやるという意思を感じた。


 これが常習犯なら始末する事に遠慮はないが、こうまで腰の引けた盗賊がいるはずもない。未遂なら目こぼしくらいはしてやる慈悲は俺にもある。



 そんなことがありながらも森を見飽きていた俺は高速で移動し、日暮れ前にはその村が見える位置まで来ていた。これ以上森にいるとセラ先生から薬草の追加を要求されそうだったのだ。

 例の弱いポーションは成功したらしく、ウィスカにもあった(その存在を初めて知った)各神殿に奉納したらえらく喜ばれたらしい。今の所ここでしか採取できない薬草なので出来るだけ多く欲しいと言われたのだが、あれだけ取ったのにまだ足りないらしい。

 どうも先生は俺の<アイテムボックス>がいくらでも入る事を知っているようで、せっかく入るんだからケチケチするなと言っている様だ。

 言わんとする事は解るのだが、森にいつまでも居ると延々と薬草回収をさせられそうなのでさっさと森を離れたいのが本音だった。



 その村はその規模に似つかわしくないほどしっかりとした村だった。周囲には空堀が掘られ、木製ではあるが村の周囲を壁が覆っている。<マップ>で見ると人口は100人もいないような小さな村だが、その警戒ぶりはまるで戦でも間近に迫っているかようだった。

 頑丈そうなつくりの木製の門の前には障害物が置かれており、もし騎兵の突撃があっても容易には突破できないような作りになっているし、その門の上には見張りまで置いている。


 こんな僻地にはあり得ないような厳重さだが、これがこっちの普通なのかもしれない。俺は臆することなく堂々と村めがけて足を進めた。


『止まれ! 何者だ! この村に何の用だ!』


 俺を見つけた門の上の見張りが誰何の声を出すが、こういった事に慣れていないのか、その声は若干上ずっていた。


『旅人。宿、望む』


 こっちの言葉に全く自信がない俺はカタコトの単語で訪問の目的を告げた。こうすれば<異世界言語理解>も変な仕事はせず、伝えたい事だけを発してくれると拷も……いや、先ほどの話し合いで解ったのだ。


 さて、この村は余所者を歓迎するか迫害するかは五分五分だ。どっちに転んでもさほど困りはしない。この村の更に向こう(それでも)数十キロルは先だが)には他の村があるのは解っている。急げは日が落ちるくらいには間に合うだろう。


『こんな田舎に旅人だと!? そんなこと、信じられ……少し待て』


 見張りの背後から声がしたと思ったら、目の前の門が開き始めた。先ほどの反応から見るに、どうやら中で何らかの話し合いがあったようだ。


 そして僅かに開いた門から、俺と同じくらいの年若い少女が現れた。こんな田舎にと言ったら失礼だが、驚くほどの綺麗な少女であったが一番驚いたのはその外見のごく一部だった。

 その少女の側頭部から小さな角が生えていたのだ。細長い枝のような物が3本、耳の後ろに向かって伸びている。そこさえなければ人間と見まごうばかりの姿だが、その少女を取り巻く連中は彼女に従っているように見える。

 この村で指導的位置にあるのかもしれない。俺と同じくらいの見かけなのに大したものだ。


『貴殿、旅人だと申したな。であるならば旅に必要な物資を余分に持ち合わせているはずだ。それを融通してくれるなら、一夜の宿を提供しよう』


 少女の声は鈴が鳴るように綺麗であったが、それ以上に威厳を伴ったものだった。紅い髪と同色の瞳がこちらを威嚇するように強い光を帯びている。身につけているのは粗末なものだが、もし彼女を磨いて出すところに出せば大変な注目を集めるだろう。


 彼女の容姿に関する話はさておいて、俺のほうも物資を提供するのに否やはない。先ほどの盗賊の根城で色々頂戴したが、金銭で物は買えても、それを売る者が居なくては話にならない。金貨で腹は膨れないからな。


 昨日からの移動でこの地の恵みが少ない事を見て取った俺は食い物が交渉材料となると見越して大きなズタ袋を背負っていた。実際は何も入っていないが、見るものが見れば行商人にも見えただろう。


『構わない。こちら物資。そちら宿』


『交渉成立だな。しかし、変な喋り方をするな。いや、訳ありを詮索する気はない。この地に訪れるものはみなそのようなものだ。皆聞け! 旅人に一夜の宿を提供する! 対価は食料! 異論はないな?』


 こうして俺はこっち側で初めてまともな村人に接触する事に成功した。




 あれはいつだったか……ああ、玲二達を助け出した日か。俺は暗黒教団の地下拠点から二人を盗み出したあと、近くの村に宿を求めたのだが、その時泊まったのが村長の家だった。

 宿がない村では村長宅がその役目を果たすのが通例で、村長は旅人をもてなすし、旅人もその礼代わりに外の情報を話したり村では貴重な外貨獲得の手段であったりする。


 その理屈はここでも同じだった。宿は旅人が存在するから需要があるのであって、僻地に来る物好き相手に宿は開かない。余所者の相手は自然、村長の仕事となる。


 そして先ほど俺の相手をした少女は、村長の娘だったようだ。俺は彼女に連れられて村の中を歩き、周囲を観察しながらこの村の人間達の不躾な視線をたっぶりを味わった。


 視線そのものは別に気にしない。ライルの故郷でもそうだが、寂れた寒村では他所から人がやってくるなどという珍事は代わり映えのない毎日の中で非常に刺激的な出来事だ。

 特に行商人がやってきた時などはそれにあわせて祭りが行われるほどだったのだが……ここでの視線は不審に満ちたものだった。厳重な村の防備と何か関係があるのかもしれない。



 俺は粗末な家の中では比較的マシな村長宅に連れてこられた。俺は先ほどの少女に案内されたのだが、俺の後ろには剣呑な空気を隠さない村人達がゾロゾロと連れ立っている。さて、何が起こるかな? 楽しみになってきた。


 村長の家はそれなりに大きいものの、部屋は3つほどであまり裕福そうには見えなかった。それはこの村全体にも言える事であるが。その癖に厳重な防備を強いているのは気にかかるな。この村では貴重であろう男手を使って見張りを立てていたくらいなのだ。



『旅の者よ、私がこの村の長であるロジンだ。お前を案内したのが娘であるメイファだ』


 俺は家の上座に座る村長に相対すると、背筋を伸ばして相手の目を見て返答する。初っ端が一番大事なのは何処も同じだ。


『名はユウキ。流れ者』


 俺の物言いに眉を顰めたが、隣のメイファとやらが父に耳打ちするとその場は収まった。


『一夜の宿の条件にこちらは食料を希望した。そちらはどれほど出せるのだ?』


『そちら次第。余裕はあまりない』


 もちろん嘘である。王都住民を30日近く喰わせたあのころ以上の備蓄がたんまりとあるが、別に彼等をここで救ってやる意味もないからだ。ここで腹一杯になっても五日後にはまた飢餓に苦しむのは変わらないし、無料でくれてやるほど人も良くない。

 それに周囲の剣呑な空気を考えると黙って従うのはつまらない。


『この奴婢野郎! テメエは黙って食い物差し出せばいいんだよ! がぁっ!!』


 俺の背後に居た体格の良い男が後ろから殴りつけようとしたのだろう。当然すべて把握していた俺はその拳を捉えて力で抑え込んだ。その男はたまらず膝をつくが、骨は砕かずに解放してやる。


『躾が悪い。二度はない』


 ごく軽く<威圧>をこめて視線を送ると、村長は俺から視線を逸らした。勝った、どうでもいいように思えるが、こういった些細な勝負が後の関係を形作るのだ。


『村の者が失礼した。今は特殊な状況で、皆気が立っているのだ。そこを理解して欲しい。それで、そちらは何を提供できるのだ?』


 村長のロジンが俺に呑まれてしまったので娘のメイファが代わりに発言した。だが俺が何を提供するかの前に、こいつらが普段何を食っているのか解らない。それを見せてくれと伝えると、メイファは控えていた村の者に視線を送ると、彼等の常食している食べ物を持ってきたのだが……。


 本当に土地が枯れている。やせ細った芋や小さな豆類、そしてこの地では貴重極まりない動物である猪の干し肉があったが、これはかなり古そうだ。


 だが考えてみるとかなり強気の交渉ができそうだ。状況から見て飯はこっち持ちになりそうだし、屋根がある場所で寝るだけという価値しかない。後は精々……。


『芋、20』


『それは、厳しい。もう一声何とかならないか? 君は行商人でもあるのだろう? この村で安全な一夜を得られる利益を考えて欲しい』


『不要。昨夜も夜営。問題ない。芋18』


 余計な交渉は実入りが減るだけだと警告するとその端正な顔に焦りが見え出した。たかだか旅人一人の食料にそこまで必死になるなんて、相当追い詰められているのか?


『くっ。わかった。それでいい』


 メイファは俺の提案を受け入れたが、周囲の村人は納得しなかった。


『メイファ! それは甘すぎるぞ! 村で安全に寝れる事を考えれば芋50でも安いくらいだろうが!』


『この男が何処から来たかわかっているのか。東からだぞ? それはあの死の森を抜けてきたことになる。夜営も事実だろうし、そうなればこの村で対価を払う意味がない。であるならもらえる物があるだけマシだ』


 苦渋を交えて説明するメイファだが、それでも男たちは受け入れようとしなかった。


『こんな奴婢野郎、畳んじまえばいい、俺達自由民が大勢でかかれば……』


『止めろ!!! お前達、その男の実力がわからないのか? 我等では千人でかかっても太刀打ちできぬ、その状態で襲撃を受ければどうなるか!』


 血気盛んな男に視線を向けると目が合った、それだけで相手は萎縮して腰砕けになってしまう。やれやれ、威勢がいいのは最初だけかよ。

 

『かあちゃん、きょうはお腹いっぱいたべられる?』


『静かにしなさい』


 そのとき、村長の家に来ていた親子連れの子供の方が、気落ちした声で呟いた。俺に聞こえるような声音ではなかったが、偶然耳に入ってしまった。


 俺は盛大な溜息をついた。周囲の皆は怪訝な顔をするがこればかりは仕方ない。


 くそっ、ああくそ、だが聞こえちまったものはしょうがない。例えこの場限りの欺瞞であっても子供が腹を空かせるよりかは大分マシか。

 だが対価なしでってのもあれだな。よし、さっきの方向で話を進めるか。


 俺はメイファを指差して話し始めた。


『芋50。メイファ、俺にここの言葉教える』


『なに!? そんなことでいいのか!? 私でよければ全く構わんぞ』


 喜色を浮かべるメイファは先ほどまでとは違った明るい魅力を放った。これまでは厳しい表情をしてばかりだったのでかなり新鮮な印象だった。


『交渉成立。メイファ、言葉教える。それで()()()()()()5()0()()


 そう告げてマジックバックから村長宅を埋め尽くすほどの大量の太い芋があふれ出すと、村人から大歓声が上がった。


 こうして俺はこの小さな寒村にほんの僅かな間だけ身を寄せる事になる。


 そしてこの村を発端として、大きな騒動を巻き起こしていく事になるが、この時の俺にそんな事は知る由もないのだった。





 残りの借金額  金貨 14043487枚






 ユウキ ゲンイチロウ LV2758




 デミ・ヒューマン  男  年齢 75




 職業 <プリンセスナイトLV451>




  HP  705844/705844


  MP  1158577/1158577




  STR 95412


  AGI 92954


  MGI 97410


  DEF 95844


  DEX 91654


  LUK 45891




  STM(隠しパラ)5580




 SKILL POINT  11880/123830  累計敵討伐数 306098



楽しんでいただけたら、幸いです。

 

この章の主人公は実にイケイケです。もうやらかしても故郷の皆に迷惑がかからないとわかっているので好き勝手に生きる選択をしています。



次回更新は日曜日に予定でかんばります。

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