老侠 4
お待たせしております。
誠に誠にすみません。前話を間違えてアップしました。言い訳は後書きにあります。
祭壇の上に安置された多くの棺桶の前で手を合わせるシロマサの親分を眺めながら、俺はその後姿を観察していた。
渡した3種の薬はきちんと効果を発揮したようだ。初めは病を患っていると聞いていたので上級ライフポーションでも渡して元気になってもらえればと思っていたが、少しばかり違和感を感じて<鑑定>してみると彼は呪いの影響下にあった。
これでは病が治ってもいつ呪いに殺されるかわかったもんじゃない。それらを治さない内に話を先に進めるわけにもいかない。
手持ちのなかに呪いの解呪薬はあったが、いきなり現れた得体の知れない奴が”これどうぞ”と渡されても信じられるはずもない。
手筈を整える必要があった。
一番良いのは俺以外の鑑定持ちに証明してもらうことだ。幸い心当たりがあったのでセリカを通じて鑑定をお願いすることにした。
セリカと出会った時に身につけていた爆発する首飾りの件で、彼女の近くに鑑定持ちがいることはわかっていた。出来るだけ急いでくれと頼んだのだが、まさか当日中に結果が出るとは思わなかった。
だが、その対価は高くついた。相場の鑑定料を支払えばよいと思っていたが、流石に博識の鑑定士なだけあって対価に上級ライフポーションを要求されたのだ。
手持ちの上級ライフポーションは残り2つだ。最初にレイアが作成してくれたものもあるが、作成する技量はあっても材料がないのでそれ以降は届いていない。上級ともなると素材も貴重で簡単には手に入らない。相手も<鑑定>により真贋が解ったからこそ本物があるなら寄越せと言ってきたのだろう。痛い出費だが、これで得られる物を考えれば安いものだ。
だがその甲斐あって、見事”大侠客”シロマサは復活を遂げた。ただ歩いているだけでも人々の視線を吸い付けてしまうその貫禄はさすがの一言につきる。
「今回は世話ぁかけたな。この人々も俺達の不甲斐なさが招いた被害者だ。俺達がしっかりとこの街を護っていりゃあ、不届きな輩が暗躍することもなかっただろうによ。俺達は彼等にただ詫びることしかできねぇ」
「その分盛大に送り出してやります。俺達にはそれくらいしかできませんから」
祭壇を離れた辺りで俺は本題に斬り込んだ。
「見た限りでは、回復されたようですね。私が用意した薬を服用したと言うことは、お願いを聞き届けて頂けたと思って宜しいですかね?」
「ああ、これもある意味倅の不始末だからな。親が倅のケツを拭くのは当然さ。ガタのきたおいぼれがでしゃばってもどうかと思ったが、おめえさんのくれた薬で嫌になるほど絶好調よ。ここまでされて尻込みしたんじゃ男が廃るってもんだ。だが、本当に俺に預けちまって良いんだな?」
「ええ、お願いします。あなたで無理なら他の誰でも不可能です」
俺は紛れもない本心で口にしたが、彼は追従と受け取ったようだ。
「そうかぁ? 見た感じなかなか活きの良い若ぇのを揃えてるじゃねえか。あいつらに経験を積ませたらひとかどの男になりそうだぜ」
「俺もそう言ったのですがね、本人たちは器じゃねえと引き受けないんですよ。本来渡す予定だった奴は尻込みする始末ですし」
「リノアの嬢ちゃんにゃあちと荷が重すぎらぁ。あの子のこたぁよちよち歩きの頃から知ってるが、あの婆ぁの血を継いでる事が嘘みてぇな素直な嬢ちゃんだからよ」
そういえば薬の受け取りにミリアさんが名乗り出た事といい、やはりあの一家とは古い知り合いで間違いないようだ。
「ええ、早まりました。あいつの家業を商売替えする好機だと思ったんですが、相談なしで押し付けるもんじゃなかったです。ですが、親分さんが引き受けてくださって安心しました。これで憂いなく王都を離れられます」
「おいおい、今の王都の状況を知らんわけではないだろう? 今ここを離れるのはあまりに危険だぜ?」
「大丈夫ですよ。王都の異変なんざこの件に比べれば大したもんじゃありません。この程度の揉め事、とっとと片付けますから親分さんはあいつらの手綱を握ってて頂ければ」
「へっ、言うねえ。そんじゃあお手並み拝見といこうか。だがよ、俺に任せるつもりなら、全部俺のやり方でやらせてもらうぜ?」
「はい、全てお任せします。文句垂れる奴は俺が何とかしますんで、親分さんは心置きなくやってください。そうそう、心置きなくと言えばお孫さんに向けられていた呪いは完全に始末してありますのでご安心を」
「……参ったねこりゃ。全部お見通しかよ。そうさ、不埒もんに呪いを掛けられたのは孫のリーナさ。別に俺自身がどうなろうが構いやしないが、孫までそれに巻き込むわけにはいかねえからな。知り合いの呪術師に何度解呪してもらってもまた呪いが来やがる。キリがねえから俺を身代わりにしてもらったのよ」
「そこは自分の考えが足りませんでした。これまでに伺った親分の性格なら病程度で尻込むお人じゃなかったはずです。この前は無礼な事を口にしました」
俺は彼を怒らせて本音を引き出すために色々と辛辣な事を言った。半分は演技だか、もう半分は本音だった。
彼さえ居れば”ウロボロス”も”ウカノカ”も手出し出来ないはずだと思い、実際に顔を会わせればその思いは確信に変わったからだ。
場の勢いに任せて何故あなたほどの男がこの状況を座しているのか、というようなことを言ってしまったのだ。
その後に<鑑定>して、彼の身を蝕む呪いが元は孫のリーナに向けられていると分かり、自分の失言を大いに恥じ入ったものだ。
「いや、おめえさんの言う通りよ。俺は孫を理由にイモ引いたのさ。倅を失ってからというもの、体の中に空いたおっきな穴がどうにも塞がらなくてな。孫を守ると言い訳して自分を騙してたんだと今なら良く解るのさ」
「いえ、俺も仲間や妹を狙われたら何時までも強気ではいられません。お気持ち御察しします」
「おめえさんならそもそもそんなヘマしねぇだろうがな。だがよ、倅が護ったこの街をちったぁマトモに戻してあの世に行かねえとあの馬鹿に顔向け出来ねえからよ、この話有り難く受けさせて貰うぜ」
シロマサの親分の言葉に俺は頭を下げる事しかできない。
俺が内心で最後の手段として孫のリーナを使って”じいちゃんの格好いい所がみたいな”作戦を考えていたなんて知られたら幻滅されてしまう。
「頭!」「シロマサの御大!」「ご隠居!!」
俺達が宴会場に戻ると、固唾を飲んで見守っていたらしい多くの男たちが一斉に駆け寄ってきた。
「おう、皆の衆、久方振りだな。この度こちらの若ぇ奴の力添えで病魔を退治してな、完全復活と相成った次第だぜ。随分と耄碌しちまったが、これからまたよろしく頼まぁ」
俺達を取り囲む輪の中から一人の男が飛び出してきた。あれは、バイコーンのボストン……のはずだ。俺の記憶では地味で冴えない男なのだが、ボロ泣きして顔が崩れまくってる。
「お、オヤジさん。良かった、本当によかった、そうなるとシュウカの復活も?」
「おいボストン、顔拭けよ。汚ねえ面してるぞ、お前。これからの事は皆と話し合いてぇ。折角このユウキが綺麗に体裁を整えてくれてんだ。俺が乱入して乱しちゃ意味がねえからよ」
周囲の男たちから爆発のような大歓声が上がった。十重二十重と連なる人の輪を抜け出して玲二やイリシャの元に戻ろうとすると、3つの人影が俺の前に現れた。
「頭、こいつは一体どういうことなんですか? 俺達は頭以外の人の下につく気は……」
「そうですぜ、確かにシロマサのご隠居にはギンジさんともども世話にはなりやしたが、それとこれとは別の話ですぜ」
予想通りザインとジークそしてゼギアスの姿があった。その奥には瑞宝も見える。やはり簡単にはい解りました、とは行かないようだ。
「とりあえずシロマサの親分さんと話してみろ。あちらもお前達の事を大層気にしていた。何度も言っていた事だが、俺には俺の事情があってお前達の頭になる事は出来ない。だが、俺以上の人材を用意したんだ、文句を言われる筋はないぜ」
「そんな! 俺達が頭と仰ぐのはあんただけだ。いくら”大侠客”シロマサの名前を出されても無条件に俺らがあの人の下に付くってのは納得が行きませんや」
彼等の言い分も分からなくはないが……俺にできる譲歩はここまでだ。俺には俺のやるべきことがあり、それを犠牲にしてまでこいつらの頭になる義理はない。個人としては楽しい奴等だし、俺も嫌いではないが彼等も言ったとおり、それとこれとは話が違う問題だ。
「気に入らないなら抜ければいい話だ。お前らならそれぞれが独立しても十分にやっていける器量だろ。まあとにかく親分さんと話してみろって。悪いようにはしないはずだからよ」
まだ納得していなそうな4人だが、俺への言葉は続かなかった。多くの男たちに囲まれていたはずの当の親分本人が現れて彼等を連れて行ったからだ。
あいつらも親分の器量に惚れこむがいいさ。
「なんかあそこだけ講談モノの世界になってないか? おかしいな、俺はヨーロッパ風の異世界に召喚されたと思ってたんだが」
「あの人の家に神棚があったくらいだからな。どうやら前に来た日本人が伝えたらしいぜ」
俺が席に戻ると睡魔に負けたイリシャが玲二の肩にもたれて寝ていた。起こさないように声を顰めた玲二の言葉に俺は先客の稀人の存在を伝えた。
「ああ、そういえばそんなことも言ってたな。しっかしあの爺さん、たった一人で場の空気を一変させちまったな」
「ああ、生きる伝説と呼ばれるだけのことはあるな。醸しだす空気がもの凄えや。俺なんざ逆立ちしても敵わないな」
イリシャも眠っちまった事だし、そろそろここも移動するかな。同席している各神殿の偉いさんに挨拶して最後にリノアにも、と思ったら彼女の横に新しい女の子が座っていた。
といっても知らぬ顔ではない。シロマサ親分の孫であるリーナだ。その横には母親代わりだというジーニの姉御の姿もある。
リノアと仲良くしている所を見ても初対面ではなさそうだ。やはり家族ぐるみの付き合いなんだろう。
「やあ、こんにちは。来ていたんだな。楽しんでくれているかい」
「あ! あの時のお兄さん! じゃあ、この人がリノアお姉ちゃんの!?」
「ちょっとリーナ! 何を言い出すのよ! 関係ないんだから!」
何か慌てているリノアの姿を見てジーニの姉御が笑っている。
「へえ、あのリノアにもそんな時期が来たかい! こりゃいいねぇ、自分より強い奴じゃないと嫌だって言ってたあんたがねえ」
「ジーニさんも変な事言わないでよ! 私とこいつとはなんともないんだから!」
「この子の母親代わりだとは聞いてましたが、リノアとも関係が深そうですね」
「ええ、そうね。私も両親が早くに死んでから身内は婆ちゃんだけだったし、あの人は甘えるって感じじゃないから。必然的にジーニさんの所によく行ってたわ。だからこうやってリーナとも仲いいのよ」
「私にはいっぱいおねえちゃんいるんです」
自分の膝の上にリーナを載せて可愛がっているリノアの様子を見れば嘘ではないのがわかる。
「俺達は催事を見回ろうと思っているが、貴方達も如何です? 私としては親分が協力を約してくれたので、この件はシュウカの皆さんにお願いしたいと思っていますが……」
「そういう事なら旦那に話してくださいな。アンタ、出番だよ!」
ジーニの姉御が声をかけた先にはエドガーさんと話しこむシュウカの若頭、ベイツの姿があった。元々親分のお供としてやってきていたのは見ていたが、既にエドガーさんが話を始めていたらしい。流石の手際である。
「ユウキさん! 一体どのような魔法で御大をあんな元気にしたんです!? 私が挨拶に伺った時はまだ病床にあったというのに!」
「俺のお願いを聞いてくれたら寿命を10年延ばす薬を上げますよと持ちかけたんです。それがうまく行ったようですね」
「10年寿命を延ばすアイテムといえば伝説のローヤル……」
絶句しかけた彼の言葉を俺は遮った。
「そこまでにしておいてください。それ以上は誰が聞いているかわかったもんじゃないので」
「そういう問題ではないでしょう! かつてオークションで金貨一万五千枚の値がついた秘宝中の秘宝ですよ! よくぞそんな物を!!」
そんなに高値がついたのか! 確かに効果を考えればいくらでも金を出す奴はいそうだな。
「金はなんとかできる額ですが、親分ほどのお人は金じゃ買えませんからね。使われるべき人に使ってもらってよかったですよ」
俺の顔を見て本心であることが伝わったのだろう。最近見なかった信じられないものを見る目でこちらを見ていたが、最後には深く頭を下げてきた。
「貴方には幾つもの大恩がありますが、さらにシロマサの子としての親の窮地を救っていただいた恩ができましたな。これをどのようにお返しすればいいのか、見当もつきませんが」
「この件は自分のほうが親分さんに感謝していますから。誰も解ってはくれないのですが、皆の件を引き受けてくださって言葉にできないほど助かっていますし」
「ザインやゼギアスは複雑でしょうな。貴方以外に従う気はないとはっきり明言しておりましたから」
エドガーさんの言葉にシロマサの親分の居る方向を見れば、もうあいつらとの話し合いは終わったようだ。その首尾はあいつらの顔を見れば解るというものだ。
「ザインたちの顔見てくださいよ、あいつらも親分のお人柄に触れて納得顔です。あの人に任せれば何の心配も要りませんよ。それよりもベイツさんと話されていたという事は?」
「ええ、ベイツの兄弟に色々と説明をしておりました。ユウキさんのお考えどおりに進めばシュウカの皆にこの仕事を振った方が事は上手く進むと思います。彼等には経験と技術がありますから誰よりも手際よく仕切れるはずです」
その段階になって初めて俺はベイツに視線を向けた。
俺の彼への評価は低い。いや、最低に近いかもしれない。言葉はきついが彼がちゃんとしていればシュウカという組織がここまで落ちる事はなかったと考えているからだ。
彼等にも言い分はあるだろう。あの時も俺は好き勝手言ったし、向こうも若い奴が反論してきた。
だが結果として余所者の跳梁を許し、組織の凋落を招いたのは紛れもない事実だ。どんな世界も頑張りが認められるのは子供だけで、大人は結果でしか評価されない。それは彼もわかっているはずだ。
「今回はエドガーさんのランデック商会の仕切りで行いましたが、次からはあなた方にお願いしようと思っています。やり方はお任せしますから、各神殿に賑わいと活気を取り戻してください。初期費用はこっちが持ちますが、いずれはあなた方の収入源となってシュウカという組織が大きくなってもらわないと俺達も困ります。お解りですね?」
「ああ。痛いほど理解している。俺達にとって最後の機会だと言うことはな」
彼の顔を見ればこれ以上言葉を重ねる必要はないだろう。それにシュウカの凋落はエドガーさんが罠に嵌って姿を消したことも一因だ。金庫番も兼ねていた彼を失った組織は一気に瓦解したというからな。逆に言えばエドガーさんさえ居れば組織は安泰という事でもある。
それは今も収まりきらないほどの大量の客で溢れている彼の商会を見れば一目瞭然だ。
「言葉で語るよりも実際に見て回った方が早いでしょう。ああ、そこにいい案内役も居るな。おいコニー、手が空いているならちょいと付き合ってくれ」
「あ、ユウキじゃなかった、お頭さん! 今行きます!」
他の巫女見習いたちと談笑していたコニーを見つけたのでこちらに案内を頼んだ。彼女は催事の設営に関与したと聞いたことがあったので、俺達より詳しいはずだ。
「え! 出店の案内ですか? いいですよ、何しろ私が一番詳しいですからね。お頭さんのお願いならなんだって聞いちゃいますよ」
「俺はもうお頭じゃない、ただのユウキだ。そしておまえは万物の神殿の巫女見習いのコニー、それ以上でもそれ以外でもない、いいな?」
シロマサの親分の登場により、名実ともに彼等の頭である事を降りた俺はコニーに強く言い含めた。
「わ、わかりました。あと私の所属は万物じゃないです、時の神殿です」
「え、そうなのか? その割にいつもこの神殿に居た気がするが」
俺の指摘にコニーはため息をついて答えた。
「人手不足って話は前にしましたよね。そのせいで見習いを各神殿に一定期間研修という名目で移動させるんです。お陰で他の神殿の子達とも知り合いになれるので悪いことばかりじゃないですけど」
その顔にはどこも足りない下働きを融通しあっているだけだと暗に告げていた。
「そりゃ大変だな、だがこの考えが上手くいけば新たな巫女見習いもたくさん入ってくるはずさ」
「ええ、私もそう聞いたんで気合を入れました。いつまでも一番下っ端なんて嫌ですから、それじゃご案内しますね」
コニーの先導で人込みで溢れる庭というか宴会場を抜けると、そこには更に混沌とした修羅場が見えた。なにやら噂が噂を呼んで更に人が集まっている気がするが……これ大丈夫なんだろうか。
「問題はありません。あと数刻は料理が届き続ける手筈になっていますし、最後の方は持ち帰っても大丈夫なように冷たいものを多く準備させています。今回は我々の復活を象徴するイベントでもありますから特別派手に行う必要があると判断して追加しています」
俺の不安を感じ取ったのか、エドガーさんが言葉を発した。この勢いで料理が数刻も届くだって? そんな材料を用意した覚えはないんだが……。もしかしてエドガーさんの持ち出しになってないか?
「ご心配なく。玲二殿と雪音殿のお力を借りて数日前から準備しておりましたので。それにわが商会の利益はほぼ全て貴方のお力あってこそのもの。これでも一日の儲けの一割も出しておりませんよ」
「ユウキってマジで自分の事は無頓着だな? ボックスの中見てみ? ここ数日料理作ってはしまいこんでいたんだぜ?」
玲二に言われて<アイテムボックス>を探してみると確かに数十種類の料理がそれぞれ三桁は残っている。いつの間に……。
「ボックスは共有だから他人が出し入れしても気付けないのかもしれないが、まさか本当に今の今まで知らないとは思わなかったぜ」
「そういうわけでご安心ください。ユウキさんの主催で僅かなしくじりも許されませんから、万事整え終えています」
自信満々のエドガーさんにそう言い切られてはこちらはぐうの音も出ない。
この万物の神殿の正門前は大きな広場になっている。そこに各種の机を持ち込んで臨時の宴会場と化しているが、その広場の外周を取り巻くように大小の出店が列を成していた。
「本来は格安で食べ物の出店の出展も計画されてましたが、振る舞い品があるので今回は取りやめています。今出している店は全部で30店ほどですが、次回からは60店以上の出店が期待できます」
「60もの店が。流石は兄弟の仕切りだな。往時だってこれほどの数はなかった」
ベイツの呟きにエドガーさんが反応した。
「昔と比べると王都の人口も増大しているからな。大手の商人よりも個人経営の小さな者達に声をかけている。ここにおられる玲二殿の意見も参考にして様々な店の出展を依頼した。特にあちらは玲二殿の意見を採用した区画だ。あそこだけ子供が多いだろう」
「俺達の知る縁日を意識して店を開いてもらいました。子供がたくさん来るように仕向ければそれに釣られて大人もやってきます。コツは神殿が常に賑わいのあるイベントをいつも企画していると王都の人々に思われることです。そうすればこちらが知らせなくても人々が勝手に集まるようになります。神殿の人たちはそういう人たちをしっかり捕まえていれば、かつての賑わいも取り戻せると思います」
「親父が健在だった頃は神殿が人々の共同体の中心だった。各神殿それぞれに強固な共同体が出来上がっていて、どんな情報も簡単に集まったり、余所者の情報もすぐに上がってきた。失ってから気付いたが神殿に人が集まることがなくなってから、人の繋がりも断たれたように思う。気軽に相談できる場所がなくなると人はどうしても余所余所しくなるな」
自重するようなベイツの言葉にコニーが慰めるように言った。
「見てください。あそこには色々な遊びを銅貨一枚で楽しめる店を作りました。あれなんか輪投げの店なんですけど、あんなに人だかりがありますよ。あちらは簡単な射的ですし、芸人の皆さんも腕を披露されています。その他にも私たちの教えを絵と物語で伝える試みもありますし、一番の目玉は各神殿の歌い手が集って精霊歌を合唱するんです」
「へえ、教会の聖歌隊みたいなものか?」
「歴史はこっちの方が古いですけどね、というよりあちらの方が真似したんです!」
コニーはそう憤慨するが、エドガーさんは全く違う事を思いついていた。
「その聖歌隊と歌の競い合いをするのも良いですな。幸い教会にも伝手はあります。早速当たってみましょう」
「むむ、それはこちらも負けてられませんね。どうせあちらもミサの日以外はろくな活動してないはずですから、きっと乗ってきますよ」
色々と話が膨らんできているな、そうしてこの催しはそれぞれの神殿で持ち回りになる。今回は万物の神殿だが、次は火の神殿らしい。そうして地域の住民に神殿が活気に満ちた存在だと周知するのだ。それが続けばいつかは神殿に足を運ぶことが習慣になって、将来的には神殿で働く人も大勢増えることだろう。
「これを俺達が受け持たせてもらえるんだな。なんとしても軌道に乗せてみせる」
「多分最初の十数回は絶対に大赤字だから気長にな。銭は出すから数字に一喜一憂しないで、長い目で見る事をお勧めするぜ」
今回は俺とエドガーさんの仕込みだし、人は振る舞い品で勝手に寄ってきたからここまで賑わっているだけで、次回からは厳しいだろう。どんな名物催事も最初は地道な努力の積み重ねである。
最後に零細商人たちが集まって開いている蚤の市を冷やかしていると、よく出向く雑貨屋の店主であるランドと目が合った。これには向こうも驚いたようだ、
「なんだ、お前さんも来てたのか。そっちのイリシャちゃん用になにか買って行くかい?」
「いや、今日はそこまで時間が……なかったんだが、こりゃ駄目だな」
イリシャはランドが営む雑貨屋”家鴨亭”が大のお気に入りだ。店としては色々な魔導具が置いてある以外は色んな物がゴチャゴチャしているまさに雑多な店なんだが、どこに琴線か触れたのか知らんがいつまでも飽きずにずっと見物しているのだ。
そして本当にずっとずっと見物しているのだ。前に行った時は昼前に訪れたはずが何とか宥めて店を出る頃には日が暮れていた有様だった。
今も俺の腕の中でウトウトしていたはずなのに店主の声を聞いただけでしゃっきりと覚醒して俺の腕から降りてしまった。
「ああ、こりゃ長いぞ……みんな悪い、俺はここまでだ。大体周ったからもう解っただろ? コニー、助かったよありがとう。礼代わりに良い事を教えてやる。今日の料理は一番最後の最後に凄いのが出るから期待しとけよ」
「ホントですか!? 良い事聞いちゃいました。じゃあ、また今度お待ちしてます!」
俺自身はあまり神殿には用はないんだが、それを言うのもあんまりなので適当に手を振って答えた。
「今日って最後は……ああ、アレか。たしかにここじゃスポンジケーキは見ないもんな」
玲二が一人で頷いているが、最後の品は雪音のスキルで創ったイチゴのショートケーキだ。数は500個とあまりないが出す時間を考えれば皆満腹で呻いているか酔い潰れているかだろう。
「ではユウキさん、私たちは戻ります。これから兄弟達に色々と話があるものですから」
「今日は世話になりました。助力に感謝します」
「なんのなんの。受けた恩に比べれば欠片一つにも及びませんよ」
最後にベイツが俺の前で深く頭を下げた。
「親父の件、このシノギの件、色々と感謝する。この礼は行動で返してみせる」
「よろしく願います。神殿と裏街が手を握り合えれば余所者が簡単に根城を作ることもないでしょうからね」
去ってゆくベイツを見やった俺は布の上に並べられた様々なガタクタ(にしか見えん)を興味深々で一つ一つ手に取っている妹を見てため息をついた。
「玲二、他行っていいぞ、イリシャは見ておくから。知ってるだろうが、これはしばらく動かん」
色々諦めた俺はランドさんの隣に座って妹といっしょに彼の並べる品物の<鑑定>をして時間を潰すことにした。
「じゃあ、ユキの方へ行ってる。そろそろ本格的に勉強始めないと学院で置いていかれそうだし」
「別に事前の勉強なんて必要ないだろ。知りたい事は<念話>で聞けばいいんだ。お前は楽しい学院生活を送れば良いんだよ。そんで理解した魔法という概念を俺に教えてくればいいのさ」
そうもいかないって、と言い残して彼も足早に去っていった。その後ろにはいつの間にかロキの分身体がくっついている。あいつもちゃんと仕事はしているんだな、感心感心。
「ハクもユウナが戻るまで好きに楽しんで来いよ。後一刻もしないうちに例の精霊歌の合唱が始まるらしいぞ」
俺の背後で影のように従っていたハクにもそう指示を出す。こいつも中々頑固でちゃんと言葉で指示しないといつまでも俺の背後に居ようとするのだ。初めて会ったときの反抗的態度はどこへ行ったのか不思議なほどだ。もしやユウナに何かされていないだろうなと不安になる。
「はい、お気遣い有難うございます。ですが私はここで待機しております」
「そうか。好きにすると良い。なあイリシャ、飽きないか?」
「飽きない、たのしい」
そうか、それならいいや。俺は店主のランドの横で妹が満足するまで寝転び、青空を満喫することにした。
最後が少々アレだったが、今日は俺の中で一番の問題だった組織の後釜問題が解決して上機嫌だった。
俺が神殿を離れる時もまだまだ盛り上がっていて、俺がゾンダに後を頼んで引き上げたときも酒盛りは盛況だった。あいつらいつまで飲むんだろう。
その場はゾンダが、”頭が大いに楽しめと仰せだ”と締めてくれたので何とか離れることができた。
その時はザインたちとも笑顔で別れたのでしこりは残っていないと信じたい。
そういうわけで俺はこの上なく上機嫌でホテルに戻ったのだが、そこで俺を待ち受けていたのは土下座するSランク冒険者だった。
「師匠! 私を弟子にしてください!!」
あれ、どうしてこうなった?
残りの借金額 金貨 14763615枚
ユウキ ゲンイチロウ LV1278
デミ・ヒューマン 男 年齢 75
職業 <村人LV1415>
HP 113571/113571
MP 184710/184710
STR 16451
AGI 16245
MGI 17151
DEF 16705
DEX 16495
LUK 9341
STM(隠しパラ)4295
SKILL POINT 5095/5920 累計敵討伐数 132511
楽しんで頂ければ幸いです。
前の話(前話ではありません)から半日しか経っていないので話の最後に持ってくるステータスは全く変わっておりません。要らないかと思うのですが、一応の区切りなのでご容赦ください。
長々と書いてますが、そろそろ王都の異変に切り込むべきではないかと自分でも思います。ですがこのSランク冒険者が自分が先だと要求するので先にこっちを書かねばなりません。
話の展開が遅いのが数ある欠点の一つですね。劇中でまだ100日ちょいしか経ってないという笑える現実を何とかしたい今日この頃です。
次は絶対に日曜中にアップします。皆との約束です。コロナは関係ない職種なので普通に仕事です。
追記
申し訳ありません。二時間ほど前に上げた物は前話の後書きに書いた難航しまくって放棄した話でした。途中まで書いたもののなんかしっくりこなくて閑話として新しく出したのですが、題名を同じにしていたため信じられないミスを犯しました。
本当はこっちです。謹んでお詫びいたします。




