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世界最強になった俺、史上最強の敵(借金)に戦いを挑む!~ジャブジャブ稼いで借金返済!~  作者: リキッド


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閑話 シュウカ一家

お待たせしております。本当に。



 その夜、王都の下町にあるシュウカの家屋にはこの組織の主だった者が集められていた。


 その数は十数人足らず。往時には配下5千人を数えたといわれた巨大組織の末路としてはあまりに無残ではあるが、友好組織や独立して行った男たちも決して不仲で喧嘩別れしたわけではない。ここの主が一声かければすぐに千人は集まるだろうとここの男たちは強がっている。



「それで、親父。この話はどうなさるんで?」


 病床のシロマサを中心に車座で座る男たちの一人が声を上げた。その男自身は今この本邸に戻ったばかりだが、既に概要は聞いている。彼等の頭にあるのは不安と喜びがない交ぜになったなんとも形容しがたい感情だ。


「まあ待てよ。親父の気持ちの前にこの話が本当なのかも怪しいぜ。自分で作った物をほいほい放り投げるような真似を普通するか? そいつの目的が読めねえ」


 その言葉に応える様に場の主が口を開いた。


「ああ、俺の肚は決まっちゃいるが、まずお前らの気持ちが知りてぇな。この件、どう思った?」


「へい、俺の聞いた話じゃ例の小僧は確かに王都の奴じゃねえようです。あの余所者どもを潰した後も忽然と姿を消しているし、戻ってきたのも数週間前だ。今じゃ総勢300になろうかっていう大組織の頂点にもさらさら興味もねえみてぇだし、親父に後を任せたいという話もまんざら嘘じゃねえように感じますぜ」


「だがよ、これまで何度そうやって親父の名前を借りに来た奴が来たと思ってんだ。両手の数じゃ利かねえんだぞ。どいつもこいつも親父の威光だけを欲しがる奴らばかりだったじゃねえか。簡単に頷いたら俺らの親父が安く見られちまう」


 ここにいるのはシュウカの中堅幹部と呼ぶべき男たちだ。総勢50人あまりの手勢にまで衰えた彼等にとってそれぞれ数人程度の配下しかいないが、それでもかつては知らぬものが居ないほどの名声を誇ったシュウカの一員としての誇りは高かった。


「俺は認めねえぞ。あのガキは親父の前でベイツの兄貴をにこき下ろしやがったんだ。俺らがどれほど苦労してこの街を守ってきたかも知らずによ」


ベイツはシロマサのすぐ隣に座っているこの組織の若頭、ナンバー2だ。50がらみのガタイの大きい男で、この王都の5傑のひとりに数えられる豪傑であるが、普段は覇気に溢れた男である彼の顔は冴えない。


「なんだと!? 聞いてねえぞそんな話! 若頭が舐められたとあっちゃあ黙っておけねえぜ。あのガキ、どんな口上垂れやがったんだ?」


 場が怒りの炎に飲まれる中、ベイツとともにユウキを迎えた若い衆が怒りを堪えて搾り出すように言った。


「あの野郎、こともあろうに俺達が衰退した理由をベイツの兄貴のせいにしやがった。既に引退していた親父はともかく、若頭が手をこまねいていたから組織がここまで落ちぶれたってな!」


「ふざけやがって!」「俺達がどんな思いで耐えてきたか知りもしねぇで……!」


「おい、俺達がギンの大将の遺言を守ってここまで来たって事をその馬鹿野郎に教えてやったんだろうな!!」


 先代のギンジが今際の際に言い残した言葉は彼等全員の胸に刻まれている。


 ”争うな、守りぬけ”


 その言葉をなんとしても貫き、彼等は一丸となって随分と小さくなった縄張りを守ってきたのだ。


「もちろん言ったさ! そしたらあの野郎、事もあろうにこう言いやがった。”じゃああんたらはあの世に行った時にその大将にこう言うんだな。俺達は言いつけどおり自分達の守れる物を守りました。ここ以外は余所者が大きな顔して弱い奴を食い物にしてますけど、それはしょうがないですよね?”ってよ。俺は、俺はよう……」


「そして俺は、その言葉に何も言い返せなかったぜ」


 若頭のベイツは力なく言葉を口にした。周りの男たちもそれには肩を落とさざるを得ない。


「か、頭。そいつは違いますよ……」


「どう違うってんだよ。言葉は嬉しいがよ、現実見ろや」


 誰もが身に染みて理解している事だからだ。かつては王都の裏側の全てを掌握していた自分達の組織が、今では落ちぶれて余所者が大きな顔をした挙句、どこからか持ち込まれた怪しげな薬物を撒き散らしているのだ。


 下町の庶民とともに生きてきたシュウカの男たちがその事実に気付かないはずがなかった。


 そしてそれを、自分達では抑える力がないからと諦めて放置してしまっていた。

 

 自分達の周りを守るので精一杯だった。人手も金も時間も足りなかった。敵は貴族と手を組まれて手も足も出なかった。警邏が見て見ぬふりをする強大な相手だった。シロマサの御大が大病で動けなかったから自分達も動くわけにはいかなかった。

 自分を弁護する言葉は溢れるほどすぐに出てきた。そして全てが言い訳に過ぎない事を理解していた。


 その結果、余所者の組織が伸張するのを黙って見ていた。多くの民が食い物にされているのを下を向いて見逃していた。自分達の縄張りだけはなんとか守ってきたが、その他は好き勝手に蚕食された。自分達が命より大事にしていた”シュウカ”の看板に泥を塗られたのだ。


 彼等を一層頑なにしていたのは、その屈辱をふらりと現れたまだ少年といってよい男が一晩で全てをひっくり返したからだ。

 誰もがその存在を疎みながらも諦めて従っていた二大組織、”ウロボロス”と”ウカノカ”を一夜にして叩き潰したのだ。しかもいつの間にか手筈を整えたのか、敵の中でも見込みのある奴らとその一党を引き抜き手下として共に襲撃に参加させている。さらにその日は全ての幹部が集う幹部会という絶好の機会だった。



 その鮮やかな手並みに長年苦しめられてきた王都の民は狂喜した。こんなに派手に動いたら警邏や抱きこんでいる貴族が黙っているはずもないが、そんな動きは欠片もなかった。

 つまりすべて手を回しているということだ。とばっちりを恐れていた周辺の住民も全ての後始末を終える頃には彼等をこの王都の救世主のように扱っていた。


 それはかつて自分達の立ち位置のはずだった。弱きを助け、強きを挫く。”大侠客”シロマサが始め、”若大将”ギンジが広めた”任侠道”そのものの行動を彼等は行っていたからだ。


 それにひきかえ自分達は何をしている。都合の良い理由を並べて命を惜しんだだけではないのか。

 そんな後悔が若頭ベイツとその仲間達に去来していた。



「なんだいなんだい、男が大勢でシケた顔して。だらしないったらありゃしない! ほら、アンタも! 今は懺悔の時間じゃないだろ? これからを話し合うための機会じゃないのかい?」


 うなだれていた男たちに活を入れたのは、皿を手にした一人の女だった。ベイツの妻であるジーニだった。浅黒い肌を持つ面倒見の良い女傑で、周囲からは頼もしさと尊敬を込めて姉御と呼ばれている。


「そうだな。親父の返事は決まっているだろうが、まずは俺達の意見を纏めておきたい。今この裏社会は一つに纏まる流れだ。それを作ったのは間違いなくあのユウキという男だ。ボストンやイーガルが頭を下げて頼み込んだ話は事実のようだし、まず間違いなく纏まるだろう。そうなればそのほかの様々な小さな組織も追随するだろう。つまり、かつて親父が作り上げたような大組織が生まれることになる。だが、今日の話であの男からそんな話は出なかった。あくまで親父に組織を継いで欲しいという要請だけだ」


「あの野郎、そもそも親父の容態知ってやがんのか? 親父が元気ならそもそもギンの大将の事件の時に引退なんざ……」


「よせ!」


 出席者の一人が呟いた言葉に強い口調で静止が入る。止めた男の視線はとある一点に向けられており、周囲の男たちが残された一人娘、リーナの事を案じたのであろう事は誰もが分かっている。

 母親を早くになくしていたリーナにとって、更に父親をも失った事は大変な衝撃を与え、一時は食事も口に出来ないほど憔悴していた。今ではジーニが母親代わりで懐いてはいるが、その当時を知るものにとってギンジの事は相当に際どい話題なのだった。


「安心しな、あの子はさっき眠ったよ。ほらほら、話がずれてる」


「ああ、そうだな。話を戻すが、俺らは纏まる大組織に呼ばれていないということだ。となるとこちらから頭を下げて頼む必要がある……」


 ゲイルの言葉に場は沸騰した。先程までの鬱憤が爆発したような騒ぎになった。


「冗談じゃねえ! 歴史と伝統のあるこのシュウカがポッと出の奴等の下につくのか!?」


「そうだそうだ、親父だけ必要で俺達は必要ねえってか! 上等じゃねえか」


「若頭に上等切るような奴が作った組織、頼まれたって入ってやるかよ!」


 威勢の良い意見が続くが、ベイツは深刻な表情を変えなかった。


「皆の意見は分かった。そして追加の情報がある。あの男はひとりの友人を伴ってきた。最初は名前の紹介を受けただけだが、後に改めて紹介を受けたら度肝を抜かれたぞ。なんと次期リットナー伯爵だそうだ」


「ええっ! リットナー伯爵って言やあ、親父とも交友があったこの国の祭祀長じゃないですか! 若いと聞いてましたが確か40近かったはず。まだ代替わりには早いのでは?」


「親父と関係があったのは2代前の伯爵だがな。そして、あの男は各神殿の再興を伯爵の名前で約束し、伯爵も追認した。これは、神殿の復興をあの男主導で行う事を意味しているし、皆も神殿に信じられん額の大口の寄付があった事は聞いているな」


 ”シュウカ”のかつての資金源は神殿関係の催事だ。6つの神殿が行う祭祀に合わせて各種の催しを開き、それを目当てに大勢の庶民が足を運ぶ。そうして商人が商売し大きな利益を上げていた時期がある。


「ちょっと待ってくださいよ! 神殿は俺らの縄張り(シマ)じゃないですか!」


「ロクに支援も行えず、神殿を困窮させていた俺らに何が言える。まともに管理出来ていないが、俺らのシマに手を出すなとでも」


「そ、そりゃそうですが……それを失っちまったら俺らの存在意義に関わりますぜ?」


 配下の男の意見に、ベイツは力なく笑った。


「むしろ神殿側が感謝してあちらに接近しているという話だ。何しろ初回に金貨100枚近く投げ渡したって聞いてるからな」


「金貨100枚!! そんな馬鹿な!」


「受け取ったのがゾンダだからな。そして奴が話を持ち込んだのは皆も知ってるだろうが万物の神殿のマドックだ。あの二人が嘘をつくとは思えん」


 ゾンダはこの元はシュウカで名を上げた男でこの場に居る男たちも周知の人物だ。嘘や隠し事の下手な男だから逆に信憑性があった。

 商会を営むエドガーと共に彼等にとっては兄弟の間柄でもある。それは独立した今でも変わることはない。シロマサが独り立ちを奨励したこともあるが、抱えている手下達を喰わせるには他に道はなかった背景もある。


「奴が言うにはリットナー伯の後ろ楯で神殿に賑わいを取り戻す考えらしい。エドガーの商会も一枚噛んでいるからしくじりはしないだろう。奴の口ぶりじゃあ、こっちにそれを任せたいような節もあったが」


「一体何者なんです、そいつは? 俺らが調べた所で何も出てきやしない。まるで雲を掴んでいるみたいな気分ですぜ」


 出席者の言葉にジーニがため息をついた。


「そんなもんあたし達がああだこうだ悩んだってしょうがないだろ? 何で丁度ここにいるのに詳しい奴に聞かないんだい? アイス! ちょっと来ておくれよ!」


 よく通る大声を出したジーニだが、返事の代わりにアイスが姿を見せた。


「姉さん、声が大きいです。リーナが起きてしまいますよ」


「大丈夫さね、あの子は寝入ったらすぐには起きないよ」


 アイスの出現に先程集合した男たちは騒ぎ出した。大きく出世した彼女は彼等にとっても自慢なのだ。

 

「おお、アイスじゃねえか! こんな時間まで居るのは珍しいな」


「ええ、今日は人待ちなんです、その人が来たら戻るつもりですが、姉さん一体何の御用ですか?」


「なぁに、今話題のあんたがよく知る男の話をして欲しいのさ。同じ屋根の下に住んでるんだろう?」


 際どい表現に周囲の男たちの視線が険しいものになる。この場に居る男たちはシロマサを頂点にした家族だ。最近はとある事情により立場が逆転しつつあるもののアイスは可愛い妹分であり、聞き捨てならない言葉を看過できはしない。


「姉さん、同じ宿に泊まっているだけなのに、そんな誤解を招くような事を言わないでください」


「ははは、でも浅い関係じゃないのは確かだろう? 今日の訪問もあんたが都合をつけたんだし」


「それはそうですね。彼の事はここにいる皆さんよりかは詳しいのは確かです」


「決まりだ。ここに座って皆の疑問に答えてやっとくれ。要はあれさ、皆そいつの得体が知れなくて不安なのさ」


 そういう訳で、アイスが知りえたユウキという風変わりな男を説明する事になった。




「早速で悪いが、あの男を含めた連中の金回りのよさはどういうことなんだ? ゾンダの兄貴も異様に羽振りが良いしよ、この前なんて手下含めて酒を奢ってもらったぜ」


「それは多分、彼が上納金を取ってないからだと思いますよ。ウロボロスやウカノカが溜め込んでいた資産を丸ごと奪い取ったのも見ましたが、それは別にとってあるみたいですし。でもあの人自身がお金に無頓着なんですよ。金貨を平然とばら撒きますし、稼ぎすぎて金銭感覚が狂ってますね」


「羨ましい話だなおい。それに会費(上納金)を取ってないだと? じゃあどうやって組織を賄う気なんだ?」


 呆れる男に対して、アイスは事も無げに告げた。


「自分で稼げ、だそうですよ。稼げない奴に男を張る資格はないとはっきり言っていましたし。幹部の皆さんは大変そうでしたけど、どなたも稼業を持ってますからなんとかするでしょう」


 つまり幹部が組織を支える資金を出すということだ。上に行けば行くほど果たすべき義務が増えることになる。しかも額で序列は変わらないらしい。持ってる者が出して当然という考えで、それによる力の差が起きる事を許さないようだ。

 質問した男は顔を引きつらせながらも納得した。自分にも経験があるが、下っ端は組織に納める金に困っているのが普通だ。それがなくなれば大分楽になるはずだ。


「そもそもどういう奴なんだ? 流れる噂が荒唐無稽すぎてよく分からん。大金持ちだの借金持ちだの、色んな伝手があるだの、貴族を顎で呼びつけるだの様々だ。確実に言えるのは死ぬほど強いって事くらいしかねぇな」


「今の言葉にある内容は全て真実です。何故か知られてないんですが、彼もリルカのダンジョンの踏破者、というか彼がボスを倒してくれました。私達も戦いましたけど、最後の敵は彼がいなければ全滅していたでしょう」


 アイスの言葉にその場の男たちは仰け反って驚いていた。ユウキがアインを背負って脱出した時には既にアイスたちが先行してダンジョンクリアを報告していたため、ユウキが踏破者の一人だという事は意外なほど知られていなかった。

 本人が大して気にも止めていなかったので追加の報告もしていなかったという理由もある。


「ぜ、全部なのかよ……だが確かにそれくらいの規格外じゃないとこんな芸当できねぇわな」


「お前が知る奴の性格は? 組し易い相手ならいいんだが」


「行動からみて絶対に善人ではありませんが、質の悪い悪党というほどでもないですね。女子供には甘いと言っていいほど優しいですが、彼の姿で甘く見た相手をほぼ必ず痛い目に合わせていますから、都合の良い期待はしない方が良いかと思いますよ?」


「まあ、そりゃそうだな」


「それに、今兄さん達が食べている料理も元は全てあの人のお裾分けですから。頂き物を食べつつ文句を言うのはどうかと思います」


「なんだって! じゃあ、最近あんたが色々持ってきてくれてる最高に美味しい食べ物は、全部?」


「ええ、姉さんが大好きな白い蒲萄も彼のお土産です。私や兄がどうやって王都で手に入りっこない食材をあれほどたくさん融通できるっていうんです?」


 天を仰いだジーニはにわかに立ち上がると、男たちを指差した。


「ああ、なんてこったい! いいかいあんたたち! ここで下手打ってあの坊やとの関係が悪くなったら承知しないよ! アイス、特にリーナが初めて美味しくてお代わりした苺は何としても確保しといておくれよ」


「そんなケチな人じゃないですって。知ってるでしょう? ただの護衛にすぎない私たちのホテル代までまとめて払ってくれてるんですよ?」


「ああ、いいねえ。サウザンプトンの最上階にずっと泊まってるんだろう。あやかりたいねえ、今度呼んでおくれよ」


「おいおい、話が逸れてるぞ。とにかくだ、俺達としてはこの流れに乗るべきだと思ってる。ゾンダとエドガーにはそれとなく話を持ち掛けちゃいるし、ボストンとイーガルも合流には賛成してくれている。だからよ、後はおめえらの気持ちが知りてぇ。この話がどうなるにせよ、こんな小さな所帯で意見の違いを腹に抱えたままなんざ、笑い話にしかならねえからよ」


 そう言って周囲を見渡すが、男達はどう言葉を発したものか悩んでいるようだ。ベイツはこれまでああしろこうしろと命令はしてきたが、下の意見を聞くようなことは無かったからだ。

 今回はそれほど珍しい事態なのだった。

 そして一人の若者が口を開いた。年の割りに目端の効く、ベイツが将来に期待している一人だ。

 

「俺は……合流には賛成です。ここは俺達の街なのに、余所者がデカい顔をして闊歩するなんざ、二度と認めちゃなんねぇです」


「いや待てよ。そもそも俺らが合流できる前提で話をしているが、向こうが断る可能性はないのか? 今日の訪問も親父への要請であって俺らは関係ない話じゃないのか? いくら周りが俺らを推してくれていてもあの男が駄目出しすれば夢物語で終っちまうぜ」


「そこは考えてある。元々組織の拡大にあの男は一切関知してないようでな。今はあの5人、いやエドガーも含めた6人で話し合っているらしい。よく方向性で揉めねぇなと思うが、そこはやはりあの男の影響力だろうよ。それにボストンやイーガルたちが組んで何かデカい事を考えているようだ。それに乱入しちまえばいい。あいつらだって俺らと同じ不安を抱えている。内々で話は通しているし上手く行くはずだ」


「確かに。合わされば図体はあの二つの組織の方が大きい。吸収される方は抵抗あるはずだ。横殴りすりゃあ俺らの存在感もあるでしょう。顔見知りも多いし、そこまで悲惨な扱いにはならんはずです」


 ベイツが周囲を見回すと、納得できなさそうな顔はあるものの、特に反対意見として出すほどではないようだ。もともとこのシュウカこそが王都を代表する組織だと言う自負を持つ者は多いが、今じゃ過去の栄光に縋る傍流の一組織に過ぎない。そのことは周囲の視線を嫌でも受けるこの場の誰もが身に染みてわかっていた。


「よし、俺らの意思は決まったな。親父、俺らは1つに纏まる方向で動こうかと思います」


「そうか、今の組を纏めてんのはおめぇさんだ。おいぼれが口を出す気はねぇ、好きにしろや」


 シロマサの言葉に男達は頭を下げた。その言葉の通り亡き息子に跡目を譲って以降、彼は一切の口出しをしなかった。

 その後、嘗ては王都の全てに及んだと言われるその影響力は今では見る影もなくなった。


 得体の知れない余所者共が群れ集まり、自分の元から独立した男達が汚い手で吸収されていっても、特別な動きは見せなかった。

 シロマサの復帰を願う声は絶えないものの、本人の状況を知るこの一家の男たちはおいそれとそれを口に出せず、縄張りを奪われてゆくだけの日々を過ごす羽目になった。

 


「有難ぇ誘いだと分かっちゃいるが俺は断るつもりだ。あの若いのは、俺みてぇな爺ぃにも丁寧な挨拶をしてくれたが、皆知っての通り体が言うことを聞かねえんだ。こんな(ナリ)じゃ不様を晒すだけよ」


「親父……」


 男たちは唇を噛んだ。この流れなら自分達の慕った男がもう一花咲かせてくれるかもと淡い期待を抱いていたからだった。


 そのとき、聞きなれぬ老婆の声が皆の耳に届いた。


「やれやれ、こんな事になってるんじゃないかと思ったよ。ったく、この死に損ない、何十年経っても変わらず頑固だねぇ」


 そこには一人の老婆が忽然と現れていた。


 腕に覚えのある男たちは揃って総毛立った。自分達が気配一つ感じられず背後に立たれたのだ。この老婆がその気ならまだ瞬き一つする間に自分達は皆殺しになっているだろうという確信があった。


「うるせぇぞ、くそ婆ぁ。何の用でぇ」


 二人の間ににわかに湧き上がる殺気に周囲の男たちが慄く。意を決した男の一人が立ち上がった。


「相すみません。親父のお知り合いでございやすか? 只今取り込んでおりまして……」


「控えねぇか馬鹿野郎! この方が()()ミリアさんだ」


 ベイツの言葉に声をかけた男が震え上がった。羅刹のミリアと言えばかつて大陸中を震え上がらせた女暗殺者の名前だ。目の前の老婆がその伝説の暗殺者と同一人物とはとても思えないが、あのシロマサと対等に話せているだけで説得力は十二分にあった。また百の異名を持つと言われるほど偽名を用いて正体を隠し続けている暗殺者が顔を出している一番の理由は、シロマサの古い馴染みであるからだった。


「アタシゃただの使いさ。ホントなら孫娘に任せようかと思ってたが、たまにはこの老いぼれの顔を見たくなってね」


「お前が使いだぁ? 嘘も大概にしろや、そんなタマかよ」


「事実さね。ほんの僅かだけどこの件に責任も感じないわけでもないからね。夜の散歩に来たってわけさね」


「ふん、まあいいだろ。珍しい客だ、茶の一つも出さずに叩き出す訳にもいくめぇ」


 シロマサの視線の先にはアイスが既に茶と菓子を持って準備を整えていた。


「ミリアさんがいらっしゃるとは思いませんでしたよ。てっきりリノアちゃんが来るとばかり」


 王都におけるもう一人の伝説に向かって平然としているアイスの言葉から、彼女が待ち人だと周囲の男たちは理解し、居住まいを正した。


「おや、この菓子は初めて見るねぇ。玲二の新作かい?」


「いえ、雪音の力です。ヨーカンと言うらしいですが、これが緑の茶に本当に合うんですよ」


 慣れた様子で会話をする二人だが、セリカとリノアが前から友人である上、それ以外の理由でも二人は気安い関係だった。


「へえ、こりゃ面白い味だね。最初は甘い豆に戸惑ったもんだが、上品な甘さって言うのかね、慣れれば癖になるよこれは。まだあるかい?」


 和気藹々と話し出す二人に珍しくシロマサが焦れた。


「おい、この婆ぁ、何しに来やがったんでぇ。アイス、お前は引っ込んでろ。話が進まねぇ」


「駄目だね。この子は一部始終を見届けてもらうために今日はここにいるんだからね。さて、じゃあ人払いしてもらおうか。大事な話になる、後で他の奴に話すのはそっちの勝手だが、今は外しておくれ」


「ベイツ」


 シロマサの言葉にベイツは黙って従った。男たちの顔には不満があるが、それを口にするものはいない。親の言葉は絶対だし、羅刹のミリアの後姿は反論を許さないものだった。



「アタシの用事は簡単さ。これを届けて欲しいとあの若いのから言付けられてる。まったく、こいつの価値を理解していないとしか思えないね」


 そう言ってミリアは懐から3つの小瓶を取り出した。それぞれ薄緑、青、黄色の液体が入っている小さな小瓶だが、シロマサの目にはそれぞれに異質な魔力が籠められているのが分かった。


「なんでぇ、そいつは。見たトコポーションらしいが、このくたびれた体に今更魔法薬を使ったところで……」


「こいつは上級ライフポーションだよ。どんな重病人も一発で治るっていうとんでもないシロモノさ」


「まさか本物だってぇのか!? そんな馬鹿な、いくら金を積んだ所で手に入るようなブツじゃねえだろ」


 驚き呆れるシロマサに、その反応は飽きたといわんばかりの態度でミリアが吐き捨てた。


「あの男、アンタを迎えるための手段を選んでないね。偽物だってアンタがゴネないように王家お抱えの鑑定士の鑑定書を用意していたようだ。こいつの用意に時間がかかってこんな夜になっちまったけどね」


「鑑定者はゲールか。確かにお抱えの筆頭鑑定士だ。サインまであるから本物のようだな。これ一つで王都に豪邸が建つんだが、それを知ってこんな真似してやがんのかね?」


「彼は冒険者ですから、迷宮産なら元手はかかってないと言い張りそうですけど」


 アイスがそう答えるものの、彼女も恐らくユウキは気にもしてないのだろうなと思っていた。この程度の出費でシロマサを買えるなら安いものだと考えるに違いない。


「それにアンタ、呪いを受けてたんだね。道理で病気なんかで引っ込むような奴じゃないと思っちゃいたが、青い奴が解呪薬さね。あと、最後が本命さ。あんたにゃ勿体ないお宝だよ。」


「やれやれ、初対面の奴に見抜かれるたぁな」


 残りの一本、黄色の小瓶の鑑定書を覗きこんだシロマサは驚きに身を震わせた。百戦錬磨の彼がこのような反応を見せるのは珍しいが、それほどのお宝だった。


「このローヤルゼリーとやらが寿命を十年伸ばすだとぉ!? 鑑定にケチつける気はねえが、眉唾物だな」


「嫌ならワタシが貰うだけさね。体が治っても寿命ですぐポックリ逝っちまったら意味ないからね。これで孫の嫁入り姿も見れるじゃないか。ああ、あんたが嫌ならこれはアタシが……」


 ローヤルゼリーに手を伸ばしかけたミリアに先んじてシロマサの硬く節くれ立った手がその3つの小瓶を奪った。


 彼の病は徐々に手足が硬く石のようになるという不治の病、俗に云う石化病だ。神官や治癒師の魔法も彼の病状を僅かに軽減する程度にしかならず、であるならと一切の治療を拒んだ。

 彼の娘達や孫が毎日手足を揉んでくれて何とか進行を抑えようとしてくれているが、既に足は相当進行して自分では立ち上がることも出来なくなっていた。


「良いんだね? それを手にしたってことは、話を受けるということだよ?」


「ああ、このまま病と呪いで朽ちてゆく定めだと受け入れちゃいたが、こうまで都合の良い話を揃えてくれると年甲斐もなく欲が出た。なにしろ孫の晴れ姿が見られそうってんだ、これに乗らなきゃ損ってもんだぜ」


 そのまま躊躇なく三つの小瓶を喉に流し込んだ。周囲が止める間もない早業だった。


「父さん!」


「親父! 何を!!」


 唖然とした彼の子供達は続いて慌てる事になった。シロマサが苦悶の呻きを上げはじめたからだ。


「ぐぅあっ。畜生め、体が燃えるようじゃねえか!」


「この馬鹿、いっぺんに飲む奴があるかい。馬鹿は死ななきゃ治らないねぇ」


 ミリアは呆れるばかりだが、彼の息子達はそれどころではない。


「親父ぃ!」


「ミリアさん! 父さんは大丈夫なんですか!?」


「あいつがそんなヘマをするもんかね。熱がってるのは回復魔法と同じさ、体の各所が再生されて熱を持ってるのさ。解毒作用みたいなもんだろ。本当に昔っからせっかちな野郎だね」


「ほっとけや。だが、感謝するぜミリア。天の神さんも俺の人生にもう一度檜舞台に上がれって言いなさってるようだ」


 ミリアはへの字に固めていた口元を緩めた。シロマサの瞳に、かつてこの王都を牛耳っていた時のような炎が燃え盛っているのが見えたからだ。


 かつて王都を代表する男の筆頭だったシロマサが蘇らんとしていた。



「ふん、次に会うときはお前さんの葬式だと思っていたけど、随分と先になりそうだね」


「おう、お前の葬式に出て泣いてやらぁ。おい、お前ぇら! 近々あいつ等が何か企んでるって話だったな?」


「へ、へい! 直近では明々後日に万物の神殿で例の騒ぎの犠牲者の葬儀を大々的に行うそうです……って親父、その足!?」


 答えたベイツの声が震えていた。彼の眼前ではふらつきながらもシロマサが立ち上がろうとしていたのだ。

 彼の足は病気の進行で石のように硬くなっており、立ち上がることなどできるはずもない事は皆知っていた。その動かせなかった彼の足が衰えながらも床を踏みしめていたのだ。


「よし、ならその三日後までに歩けるようにならねえとな。楽しくなってきやがった」


 話は聞こえなくともシロマサが両の足で立ち上がるという、これ以上ない光景に男たちは沸き立った。


「親父!!」「なんてこった! 親父ぃ!」「治った、親父の病気が治ったぞ!」


「父さん!! 良かった……本当に、良かった」


 嬉しさに泣き崩れる娘の肩に手をやって、シロマサは最近見せなかった野性味のある笑顔を浮かべた。


「アイスよ、お前さん、とんでもねえのと知り合ったな。その縁、大事にしろよ」


「何言ってんだい、あの若いのはウチの孫が婿に取るんだ。あんたのとこにゃやらないよ」


 アイスが言葉を返す前にミリアが口を挟んだ。


「抜かせ。これほどの甲斐性なら女は何人いたって大丈夫だろうが。むしろ女が嫌でも寄ってくらぁ」


 アイスの見る限り、ユウキの性格からして女が寄りつきすぎると逆に自分から離れていく気がすると思っているが敢えて口には出さなかった。ホテルに戻れば自分の主人を含めて相当数の女性がおり、その中に割って入ってゆく勇気は今はまだなかったからだ。




「さて、私の役目は終わったから帰るよ。邪魔したね」


「送ります。そのために残っていたんですし」


「やれやれ、どっちかと言うと、この夜道であんたの心配をしなきゃいけないんだと思うがね。いやでも前と比べると随分と腕を上げたようじゃないか。やっぱり迷宮かい?」


「そんなところです。父さん、ミリアさんを送ったらそのまま戻りますので、また来ますね」


「忙しい身の癖に、こっちの事はほっとけや。ミリアよ、今回は世話になったな、礼を言うぜ」


 帰りかけたアイスとミリアの背にシロマサが声をかけた。それに振り向かずミリアが答えた。


「元々はウチの事情でもあるのさ。あの馬鹿孫が頭の座を素直に継いどきゃ面倒はなかったものを、ゴネにゴネてね。困ったユウキがあんたに話を持ってったのさ。祖母としてほんの少しは責任を感じてね」


「あれは彼が悪いですよ。いきなり”お前に全部任せた、後はよろしく”ですもの。あの場にいましたけど、思わずリノアちゃんに同情しましたよ」


「一家を率いようって言う覚悟が足りないのさ。でも、王都の組織の頭が他の町にいるんじゃ格好がつかないからねぇ、あんたが受けてくれて一安心さ」


「久々にその顔見れて安心したぜ。そのうち茶でも飲もうや」


「ふん、期待しないで待ってるさね」


 家を出た二人は見送りに出た一家の者たちに挨拶をしながら闇夜を歩いた。アイスの手にはダンジョンで手に入れた光の魔導具があり、行く道を照らしていた。


「そういえば、父さんと随分親しいようでしたね」


「あんたが期待するような浮ついた話じゃないよ。出会ったときにはお互い所帯持ちだったしね。でも、お互い名の売れた存在さ、意識はしてた。契機はお互いの息子さ。ギンの字とウチの息子が仲良かったのさ。それで寄り合いなんかで色々話すようになっただけさ」


 大したことのないような口振りに終始するミリアだが、アイスは納得がいっていないようだった。


「ええ? それだけですか? 父さんがあんな態度を取るのは本当に珍しいんですけど」


「うるさいねえ。それよりあそこの馬鹿を何とかしておいで。いくら勘当を解かれていないからってあんな隅で様子を窺っててもしょうがないだろうに」


 ミリアが指差す先にはアイスの双子の兄であるアインが所在なげに立っていた。アインはシロマサから勘当を言い渡されてから立派な騎士になるまでは、と一度も家に寄り付いていない。

 今では兄も自分も家名を許されるほどの騎士になり、これからは家を興そうと考えているくらいだから、十分な出世を果たしたとアイスは思っているがアインはいまだ家に顔を出す踏ん切りがつかないようだ。


 ユウキからシロマサの病が治ると聞いて居ても立ってもいられずセリカから許しをもらって来たのだろうが、途中で迷ってそのままのようだ。いつまで経っても子供のような部分がある兄なのだった。

 アイスが声をかける前に、もっとも相応しい人物が先に気付いてくれた。



「おう、そこの若いの。こんな夜に何をウロウロしてやがる。行くとこねぇならさっさと家に帰ったらどうでぇ」


「お、親父。その足! び、病気は治ったんだな! よ、良かった……」


「へッ、お偉い騎士様がなんて面ぁしてやがる。もっと景気良い顔しろや、なにせこちとら生まれ変わって最高の気分なんでぇ!」


「良かった、親父の元気な顔が見れただけで十分だよ。じゃあ俺はこれで……」


 そう言い残して踵を返そうとするアインの肩に、野太い腕が回された。


「よう、アイン。水臭いぞ、この野郎が。全く顔出さねえでよ、勘当くらい無視しちまえばいいんだよ。アイスなんて翌週には平然とやってきたぜ」


「ベイツの兄貴! いや、でも俺達は二度と敷居を跨ぐなと言われてて」


「なんだぁ? 面倒臭ぇ野郎だな。よし、そこの店で皆連れて一杯やろうぜ、あそこならウチの”敷居”じゃねえからよ。だが、飲み代はお前持ちな? 知ってんだぜ、ダンジョンクリアして大金持ってるってことはよ!」


「おいベイツ、散歩に戻るぞ。俺は足をさっさと戻さにゃならえんだ」


「へい、親父。ですがまずは腹ごしらえと行きませんか? 何せ親父は最近殆ど召し上がっていないはず。何か腹に収めないと力になりませんぜ?」


「ああ、あそこに居るのはアインじゃねえか!?」「本当だ! あの野郎、全く顔出さねえで心配かけやがって!」「兄弟! 大出世したなおい!」


 シロマサの後についてきた手下の男たちがアインを見つけてしまったら後は騒ぎになるだけだった。

 下町の孤児出身で騎士になるだけでもありえないほどなのに、家名を持つ騎士にまで成り上がった二人は彼等にとっても我が事のように嬉しい出来事だったからだ。


「ちぃッ、しょうがねえな。おいお前ら、そこの()鹿()()()連れて店に入るぞ。全く、親の気持ちも理解できねえ馬鹿ばかりで困ったもんだぜ」


「よっし、お前ら、今日はアインの奢りだ。好きなだけ食って飲んでいいぞ!」


「よっしゃあ、頼むぜ兄弟!」「アイン、ダンジョンの話を聞かせてくれよ!」「俺、ひとっ走りして姉御に知らせてくるぜ」「おうそうしろ、アインが帰ってきたこと知らせねえとどやされちまう」


「お、親父、俺は……」


 アインの肩に手を置いたシロマサは彼にだけ聞こえる声で呟いた。


「孝行息子の帰還ってやつだな。嬉しい事が重なるってのはいいもんだ」




楽しんで頂ければ幸いです。


すみません遅れました。難産でした。書いては消し、書いては消しと数回やり直しました。結局閑話として第三者からの視点でお届けです。全ては言い訳ですが。


次は早くします。

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