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世界最強になった俺、史上最強の敵(借金)に戦いを挑む!~ジャブジャブ稼いで借金返済!~  作者: リキッド


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老侠 3

お待たせしております。



 俺が冒険者ギルドに詰めていた時期の話だ。


 資料を読んだりポーション作りなどを一通りこなしてしまうと、馬鹿正直にギルドで待機する意味がなくなった。


 居るだけなら分身体を置いておけばよい話なのだ。

 俺はこっそりとギルドから脱出すると王都に遊びに出掛けた。これまでもそうやって王都の外で皆で野良モンスターを退治したりして遊んでいたりしていたのだ。ウィスカのダンジョンに比べれば雀の涙のような金だが、仲間と協力してモンスターを倒すのは中々出来ない経験なのでこれはこれで楽しい。



 その日は特に用事があったわけでもないが、俺は最近新たに借りた部屋から転移環でウイスカに向かうべく、下町を歩いていた。

 これまでもちょくちょく帰ってハンク爺さんやハンナ婆さんの顔は見ていたのだが、そろそろウイスカの冒険者ギルドにも一度顔を見せておくべきだと思ったのだ。ユウナからも近いうちに顔を見せないと不満が爆発しそう(多分差し入れが欲しいのだろう)という話だった。既に30日以上行っていないから、前に渡した物も消費しつくされているだろう。



 俺は仲間以外は知らない秘密の隠し部屋として用意した王都の外れにある下町の小さな集合住宅に向かう。色々な人に都合のよい場所を聞いてはいたが、結局はそれらの情報を参考に自分で探して選んだ。

 他人の紹介で選ぶとその人は知っているからな。そうなれば秘密の場所の意味がない。


 周りの皆はアパルトメントだとかなんとか言っているこの建物を選んだ最大の理由は立地だ。周囲に同じような建物が密集していて隠れるのに都合が良い。それに値段も日が当たらないせいか格安だし住人も余所余所しくてこちらの詮索をしてこない。

 隣三軒両隣を地でゆくこの辺りの下町の住民には珍しいことで、きっと脛に傷もつ輩が住んでいるんだろうと噂しあっている。


 俺には最高に都合がよい物件だった。


 俺が買った部屋は二階の角部屋だ。ボロすぎて歩く度に危険な音をたてる廊下を静かに歩いていると、不意に途中の部屋の扉が開いた。


「今日こそお仕事見つかると良いね、お姉ちゃん」


「そうね、何時までもシュウカの親分さんのお世話になるわけにもいかないものね」


「ご飯をお腹一杯食べれるお仕事がいいなぁ。あっ!」


 秘密の隠し場所で人と会うという失態を犯した俺はいっそ引き返すかと迷っている内に、向こうが俺に気づかれた。

 <マップ>も<気配察知>も使わずにいて死ぬほど油断していた俺は気恥ずかしさから軽く会釈でもして通りすぎようとしたが、向こうから声をかけてこられてしまった。


「あ、あの、あのときは本当に有難うございました。お陰様で妹と二人、何とかやっていけています」


「やっぱりあのときのお兄ちゃんだ! ねえねえ、この近くに住んでるの?」


「あ、いや、そういうわけでもない。ここには用があるだけだが、君達どこかで……って、ああ思い出した、あの時の姉妹か。息災で何よりだ、それじゃな」


 秘密の部屋で顔見知りに会うなど言語道断だが、これくらいならまだ大丈夫だろう。早く彼女たちと別れたかったが、そうもいかなかった。


「じゃあ、お兄ちゃんがお頭さんなの?? みんなが噂してるよ、お頭さんのお陰で全部いい方向に変わったって」


「俺が何かした訳じゃないさ。皆が自分の力で良くしていっただけの話だよ」


「ニノ、お引き留めしては駄目よ。すみません、この子ったら」


「そう言うけどさぁ、お頭さんの方がお姉ちゃんより絶対顔広いよ? お仕事紹介してもらえるかもしれないし」



「ニノ! 恩ある方にそのようなご迷惑な事を!」


「そういうことばかり気にしているから、なかなかお仕事決まらないんじゃないの?」


 はっきりと物を言う妹にたじたじの姉、その組み合わせに俺はおかしみを覚えた。

 やもすれば不快さを感じるほどの物言いの妹だが、俺個人の感覚でははっきりと言う方が好ましい。


 丁度求人には心当たりがいくつかあるし、こんな場所で出会うなんて、これも何かの縁だろう。


「仕事を探しているのか?」


「なにかご存知なんですか? 私は出来ればお腹一杯食べられるところが良いです!」


「ニノ!」


 悲鳴にも似た声で妹を叱る姉だが、俺に否はない。


「君達がよければ、当てはある。試しに行ってみるかい?」


 一も二もなく頷く二人。今日のウイスカ行きは後回しにするとして、俺は二人を連れてアパートを後にした。




「ここって最近人気のお店ですよね!? うわ、凄い行列!」


「静かに。こっちだ、こっち。そうそうあまり騒ぐなよ、注目されると面倒だからな」


 俺はリノアの家がやっている店のひとつに足を運ぶと、行列から逃れるように裏口へと回った。裏口には外からは見えない身内用の席が設けられていて、俺達はそこに座った。


「凄い、こんな場所があったんですね! もしかしてここで働けるんですか?」


「ここは縁故のみでしか人は採らないと聞いたことがあるんですが」


 話の途中で妹の方の腹の虫がなった。俺は苦笑を堪えつつ尋ねた。


「ま、話はおいおいな。なにか食べるだろ? ここは身内用の席だから給仕がいないんだ。勝手に取ってくるがなにか食べたいものがあるか?」


「肉! お肉が良いです!」


「ニノ! 失礼ですよ!」


「肉だな、よしわかった」


 笑いながら厨房に向かうと、そこはまさに戦場と呼ぶに相応しい様相だった。

 最近は忙しすぎて、山程作られた数種類の同額の料理を客がどれか選ぶ方式で営業しているらしい。これまではちゃんと注文をとって美味い料理を提供する形式で長いことやっていたが、あまりにも行列が途切れずに次々と客がやってくるので色々と変更したようだ。

 リノアがいうには今度料金高めに設定したリストランテなる形態で店を開くようで、初めてバーニィやクロイス卿と飯を食ったような店はあちらで展開し、低価格で大量の客を捌くのはこちらでやっていくのだという。


 適当に挨拶して勝手に料理をもらってゆく。肉はあまり用意されてないが、肉野菜炒めがあったのでそれでいいか。代わりの魔物肉は置いたし、戦場で働き続ける店員は俺に何か言うのも面倒らしく、目礼だけして手は高速で動いている。

 忙しそうな彼女達を見るとなんだか羽を伸ばしている俺が悪い気がしたので、仕事終わりにでも皆でどうぞと甘くて評判のよい桃を人数分置いて席に戻った。


 その他にも茶やらなんやらを用意して卓の上に並べると妹の方が歓声を上げた。


「凄い凄い、こんなに沢山、いいんですか?」


「もちろん、好きなだけ食ってくれていい。ただその代わり聞きたいことがあるんだ。さっきとある人物に世話になっていたと話していたな?」


「シロマサの親分さんの事ですか? それなら私より妹の方が詳しいかと」


「うん、リーナちゃんと友達だから、あそこのお家の事ならよく知ってるよ」


 俺はこの姉妹の口を滑らせるため、甘いお菓子を卓の上に並べる戦術を用いる事に決めた。




 ちなみに、この姉妹は亡き両親が無理をして勉学を収めさせたようで、当初この店で働き口をと思っていた俺はセリカに連絡を取った。二人の両親はエドガーさんとも交友があった商人だったようで、彼の娘であるジャンヌとは友人だった。

 俺からの連絡を受けた駆けつけた二人との涙の再会の後、二人は彼の店で働く事になったようだ。

 後に知ることになるが、姉のマリア、妹のニノともに数字に天性の才能を持ち、エドガーさんの商会を支える重要人物になるのだった。





 その翌日、ニノから様々な情報を仕入れた俺は準備を万端に整えると、とある家に訪問すべく歩いている。


「なあ、ユウ。僕が一緒でいいのかい? 屋敷にいても疲れる勉強ばっかりだから外に出るのはいいんだけど、用事があるんだろ?」


 俺の隣にはバーニィがいる。彼を誘う意味もちゃんとあるのだが、彼は腹芸が出来ないので事情は後で説明する事になるだろう。裏表の無い性格は友人としては得難いものだが、これから高位貴族になろうとするバーニィには弱点にもなる。ここらで一丁、悪い世界という奴も見物させておきたい所である。


「人生経験って奴だ。面白いもの見せてやるから黙ってついて来いって。最後には何で自分がここにいるかわかるようになるからさ」


「なんだよ、今教えてくれたっていいだろ」


「それを教えていざという時に顔に出さない自信があるならいいぞ。お前戦闘の時と平時の時とで差がありすぎるからなぁ」


 戦いの際に背中を任せるという点では全幅の信頼を置けるが、今のこいつはどこにでもいる頼りなさげな兄ちゃんに過ぎない。公爵家のメイドで彼の幼馴染であるアンジェラが時たま見せる、こいつって皆がいうほど強いのかしら? という顔を否定できないほどのんびりしている奴なのだ。


「そ、そんなことないって。今だってちゃんとやれるさ」


 戦闘時の彼は言葉ではなく態度でそれを証明するから逆に今は信用できない。

 俺が見るに彼は多分二重人格のように思考回路が完全に切り替わるのだろう。戦いに身を置いている時の彼は逡巡や迷いを一切見せない冷静さ、敢えて言えば冷酷さが一番の武器だと俺は見ているが、今の彼はそこらの粋がっている馬鹿に喧嘩を売られそうなほど気弱げに見える。


「とにかく黙ってついて来な。呼んだ理由は後で分かるさ」


 渋るバーニィを説き伏せて彼の武器を<アイテムボックス>にしまった俺は、とある平屋の前で立ち止まる。


「御免ください」


「? どこの言葉だい?」


 俺の言葉にバーニィが首を捻る。そりゃそうだ、ここの言葉ではない。スキルがどうのこうのという話ではなく、人様の家に訪問する際にはすみませんやらこんにちわで意味は通る。

 俺の言葉に庭で遊んでいた少女が反応した。10歳くらいの可愛らしい少女に見えるが、彼女が例のリーナ嬢かな?


「はーい。どなたですか?」


「やはり通じるのか……お嬢さん、こちらはシロマサの親分さんのお宅で合っているかな? 私はユウキという者だが、親分さんにお目通り願いたいのだが」


「あ、えっと。ごめんなさい。おじいちゃんは今からだの調子が悪くて誰とも会えないと思います」

 

 断りの返事が少女の口から返ってくるが、それは予想の範囲内だった。だからこそ手は打ってある。

 そのとき、奥から聞きなれた女の声がした。


「リーナ、大丈夫よ。お通しして、父さんはお会いになるそうです」


「ええっ! いいの!? ホントなのアイスお姉ちゃん!」


 セリカの護衛であるアイスが滅多に見せない普段着を着てシロマサの家から姿を見せたことに背後のバーニィが驚いているが、俺は計画通りに事が運んでいる事に内心安堵しつつも敷居に足を踏み入れることになった。




 王都に住む大人なら誰もが一度は名を耳にしたことがある男、シロマサ。


 ”大侠客”と呼ばれるその男の武勇伝は事欠かない。元は王都の博徒の一人であったとされているが、身よりも無く定かではない。

 

 性格は偏屈だが曲がった事が大嫌いの一本気、口よりも先に手が出る男で情に厚く涙もろいものの、若い頃は手のつけられない暴れん坊だったらしい。

 当時を知る年寄りにでも酒を奢れば逸話が出るわ出るわ。酒場でその話を始めたら他の年寄りも寄って来て違う別の話を始める始末だ。



 下街の一介の無頼漢に過ぎない彼が一躍有名になったのがとある貴族との諍いだった。なんでも巷で評判の美人を軽い気持ちで拐かそうとした貴族を街の男が撃退した事があったという。

 街の衆は痛快な事件に沸き立ったのも束の間、これから起こるであろう激しい報復に怯えていた。


 どんなに下衆であれ、貴族は貴族である。人の上に立つ存在が軽んじられれば貴族という存在自体が軽視される。当事者の男はおろか、親族友人皆殺しになってもおかしくないほどの大罪である。


 そして報復の時はやってきた。その貴族は侯爵家の係累であり数百の私兵を従えて自分に恥をかかせた男を嬲り殺しにせんと現れたのだ。



 誰もが報復はその男だけでは終わらないと確信した。その私兵たちが男の次は略奪者となって自分達に襲い掛かるであろう未来がはっきりと見えたからだ。


 そのとき、一人の男が立ち上がった。下町ではそこそこの数の集団を率いる長ではあったものの、まだ眉を顰められる事の方が多い存在だったシロマサだ。


 彼は多勢で一人を追い詰める手口を罵り、文句なら俺が聞いてやらぁと啖呵を切って貴族の私兵の中に突入して行った。


 普通ならそこで殺されて終わる話だが、彼はなんと話を纏めてきたのだ。


 貴族に手を出した男は金貨10枚の罰金を支払い、貴族としてあるまじき行動を取った男の方は貴族籍を抹消する。


 平民が貴族に何でも従って当たり前の世界でこれほどの譲歩を、いや貴族籍の抹消は貴族としての死を意味するから実質的は勝利といってよい。平民が貴族と相対して勝利を得る事は空前絶後である。

 有り得ないほどの戦果に根性の悪い奴は貴族と寝たのではないかと噂するものもいたが、戻った彼を見れば誰もが息を飲み、その姿に涙した。


 シロマサは瀕死の重傷を負っていた。


 恐らく取引のために手酷い拷問を受けたのだろう。三日三晩生死の境を彷徨った彼は、死の淵から生還すると王都の歴史に残る英雄になった。


 だが、彼の伝説はここから始まる。


 一躍王都中に名を売った彼の元には多くの者が集ったが、彼はその全てを追い返したのだ。曰く半端者は要らない、本物の男だけを手下にすると宣言した。


 彼自身稀人が持ち込んだといわれる”任侠道”を生き方としているため、弱きを助け強きを挫くその姿勢に心酔した男たちが彼に続々と忠誠を誓っていった。

 

 一年の後には王都の裏側全てを仕切る大親分と呼ばれる存在になっていたが、生活は決して派手ではなく、むしろ質素を旨としていたため周囲の人望は高まるばかりであった。

 仁と義を以って事を成す彼を人は”大侠客”と呼び、その名声は他国にさえ轟くほどになった。


 彼が率いた”シュウカ”はその縄張りを主に神殿関係の祭事としており、その全てを取り仕切っていた。

 各神殿が執り行う祭祀の際に人が集まる催し物を計画したり、そこで商売を行う商人の取り纏め役として全ての利益が行き渡るように見事に調整を行っていた。

 その頃の彼はその人望を背景にした調停者としての役割を主にしており、彼自身は表から第一線から引いていた。


 彼の跡を継ぐ二代目が彼をも凌ぐ輝きを放っていたからである。


 シロマサが一子、ギンジは親譲りの気風の良さと親以上の器の大きさで、果てはこの国の全ての裏組織を束ねる存在になるのではないかと噂されるほどの傑物だった。

 ザイン、ジーク、ゼギアスなどは彼の薫陶を直接受けた世代だし、ジラントのイーガルに至っては元はギンジの側近の一人だった。


 よく人に会い、人を助け、人を導いた彼の生涯は酔っ払いの喧嘩の仲裁の最中に刺されて終わるというあまりにもあっけないものだった。


 その死に様に王都の民は嘆き悲しんだが、その父親は倅らしいや、と笑って収めたという話が残っている。まだ幼い娘が残されたと言うのに人の心が無いのか、と心無いものは憤ったというが、彼の心情はその後の姿が物語っていた。


 往時は人でごった返すほどの彼の家は死んだように静まり返った。一時は来客を全て断り引き篭もってしまう。組織は磐石だったので、後継者の死にそこまでの動揺はなかったが、頭が不在のままでは何ともしがたい。

 誰がその席に座るのかと話題になったが、前任者達の光があまりにも強すぎて誰もが見劣りする始末であり、恐れ多くて誰も立候補できない状況が続いた。

 

 しばらくして、シロマサに不治の病が襲い掛かる。

 彼の影響力、人望を以ってすれば教会や神殿の実力者を招聘して回復魔法をかけてもらうことなど造作もないはずだが、彼はその全てを断って自然のまま朽ちてゆく事を選んだという。

 

 その選択に多くの者は翻意を促したが、彼の固い意思を尊重して多くの民が涙を流した。彼が息子の元へ行きたがっている事を察したからには、何も言うべき言葉がなかった。

 例外は残された家族、血の繋がったただ一人の孫と彼が面倒を見てきた多くの孤児たちである。彼等は親父と呼ぶべきシロマサが生を放棄する防ぐため甲斐甲斐しく世話を続けているという。






 シロマサの邸宅は本当にこれが”大侠客”と呼ばれた男の家なのかと疑問に思うほど質素だった。だが、掃除は行き届いており塵一つ見当たらない見事なものだった。思い出してみるとゴミゴミしている下街の中でもこの周囲は綺麗に掃き清められており、この一家の人間がそれを行っているのであろう事は想像に難くない。

 この時点で俺の中では合格点だ。任侠もんは貧乏人と共に居なけばならない。でないと弱者の立場を忘れてしまうからだ。記憶はないくせにこういうところだけはしっかりと覚えている自分の頭に苦笑を覚える。



「靴を脱ぐのかい? 東方で稀にある流儀だね」


「どちらかというと彼が重視する異世界の流儀だな」


 玲二たちのいる世界? とバーニィが目で聞いて来るので俺は頷いた。それぞれ靴を脱いで揃えると下足番の男が目を見開いた。


「お客人、失礼ですが良くご存知で」


「偉大な先達の家に邪魔するのですから、最低限の礼節は学んできましたよ」


 下足番の仕事の一つに洗足があるが、俺らは毎日風呂に入っている。入浴が一般的じゃないこの世界では靴を脱いで人様の家に上がる際に、汚い足を洗うのは当然のことではあるが俺らは清潔なので丁重に断った。

 それだけで下足番の態度が改まるのが分かる。無知な若造が無理に押しかけてきたわけではないのだと理解してもらえたのだろう。



 板張りの廊下を歩くと、眩暈にも似た感覚が襲ってくる。記憶にないくせに既視感が物凄いのだ。今までも日本語や日本食にそういった感覚を覚えたが、そう考えるとやはりこの平屋は日本家屋と呼ぶべきなのだろう。



「あれは、なんだい? 天井付近にある小さな、なんだろう……祭壇みたいなものは」


<皆助けてくれ。俺の視界から情報を読み取って欲しいんだが、ありゃ何だ? 見覚えがあるんだが言葉が出てこない>


<ん? ああ、あれは神棚だよ。神具もお供えも微妙だけど、こういうのは気持ちの問題だから突っ込むのも野暮ってものだね。それにしてもそこは一体どこなんだい?>


<前に話したヤクザもんの家だよ。本当に稀人の影響が強いみたいだな>


 答えてくれた如月に礼言って<念話>を打ち切った。彼は本当に色々と詳しいので助かっている。玲二と雪音も物を知らないわけではないが、如月は年の功だな。8つくらいしか違わないけど。



 通されたのは日当たりの良い居間だった。そこには数人の男が正座(やはり伝わっていた)で控えており、中央には布団の上で座椅子でもたれた格好の老人がそこにはいた。


 これが、”大侠客”と呼ばれた男か。大したもんだ。


 色黒の肌を持つ白髪を短くした瘦身の老人だが、その目だけで全ての弱々しい印象を覆すほどの力を持っていた。着流しを身に纏っているだけの姿なのだが、佇まい一つとっても実に堂に入っていてそれだけで凄みを感じるほどだ。


 板張りの床の上に座布団が置かれているが、まずはその横に正座して挨拶をする。俺の行動を真似るように伝えているバーニィは胡坐をかいたようだ。


「お初にお目にかかります。私は冒険者を生業としているユウキと申す者です。こちらは私の友人であるバーナードです。この度は親分さんにお願いの儀があって参上した次第です。まずはこちらをお納めください」


 持参した手土産を近くにいた正座する男に差し出した。手土産は生酒が二本だ。元々好みの酒を聞いていたのもあるが、如月にこれだという物を選別してもらった。

 

「こいつはご丁寧に。しかも良く調べてもらったようで、この衰えた体に唯一の栄養を送ることができる酒を選んでくだすったようだ」


「親分さんにお目通りするのですからなままかな物では勤まりません。気張らせてもらいました」


 ここでようやく、お座りくださいとの言葉が出た。これにより俺は座布団に座る資格を得た事になる。


「それでこの老いぼれにお話があるとの話だが、まずその前にこちらからもいくつか礼を述べねばならんねぇ。特に娘と息子に関する事は何をおいても礼を言わせてくれや」


 シロマサの親分は自身の隣にいるアイスを見て言葉を紡いだ。


 アインとアイスは孤児である事は間違いない。だが、二人はシロマサに拾われ養育を受けたのだった。

 そのこと自体はかなり前から聞いていた。というのもアインに酒を飲ませると決まって養父であるシロマサの自慢話を始めるからだった。

 そして二人は騎士となったときにシロマサから勘当された。それまで父と慕っていた男から受けた仕打ちに一時は戸惑ったが、すぐにそれが自分の悪名が二人の栄達に差し障る事を恐れたための措置だとわかった。


 アインはそれを受けて騎士団内部でがむしゃらに出世する事を望み、アイスは何度追い返されても父の世話のする事を希望し、非番の日には勝手に世話をしにやってくるのだった。


 そして念願叶って二人は家名を賜るという騎士としてこれ以上ない名誉を受けた。今となっては二人を孤児として嘲る者は居ない。それはすなわち家名を与えた王家に唾するものと同義だからだ。


 今や彼等の立場は一代限りとはいえ王城に登れば男爵相当の扱いを受けているから、孤児上がりとしては考えられないほどの出世である。


「二人のことでしたらお気になされる事ではありません。二人は相応の努力が実っただけであり、そもそも仲間ですから助け合うのは当然です」


「そう言ってくれると親としては感謝するしかねぇ。この二人は頑固な所があるからよ、偉いさんばかりの騎士団でうまくやっていけるか心配だったんだが、お前さんほどの男がそばに居てくれりゃあ安心ってもんさ。さて、今じゃこの街で知らねぇ奴はモグリだと評判のお前さんがこの過去の置物にどんな話があるってんだい?」


 さて、ここからが本題だ。俺は息を整えて腹に力を入れると、頼み事を口にした。


「私はこの王都の生ける伝説、”大侠客”シロマサの大親分に今ある組織を引き継いで、もう一度返り咲いて欲しいと考えています」



楽しんで頂ければ幸いです。


ここの話だけなぜか実録24時系のにおいがしますが、数百年前に来た稀人がガチの明治時代の博徒だったという設定です。なのでいやに時代がかっています。


本来もうちょっと話を続けたいのですが、場面がよいのでここで切ります。


次は木曜の朝までには必ずお届けできるように頑張ります。



恒例の謝辞になります。


いつも読んでくださっている皆様に深い感謝を捧げます。

ブックマーク、感想、評価全て有難く拝見しております。本当に有難うございます。

皆さんの反応が私のケツをビシバシ叩くのでこれからもよろしくお願いします。

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