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世界最強になった俺、史上最強の敵(借金)に戦いを挑む!~ジャブジャブ稼いで借金返済!~  作者: リキッド


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老侠 2

お待たせしております。



 日時は三日後夕暮れの7の鐘が鳴る刻限、場所はジラードの支配下にある港の第二埠頭。


 雌雄を決する戦いではない。武器の持ち込み、急所への攻撃、罠の類いは厳禁で、男らしく素手のみで戦う。戦闘不能者の追撃はご法度。


 この一回で互いの腹に抱えたものを全部吐き出して後に残さないことを彼らは約束したようだ。


 集団の頭同士が決めた約束事を末端が破ることは有り得ない。

 実際は無くはないのだろうが、それは頭の統制が効いていない証明に他ならず、ただの恥をさらすだけの結果になる。

 彼等の世界ではもっとも恥ずべき事だ。そういう美風が彼等にはあるが、だからこそ美意識の欠片もない余所者の組織にいいようにされていたわけでもあるが。

 


 そんなことを話し合う彼等を遠目に見やりながら、俺はこの件に関わらないぞと固く心に誓う。


 大の大人が子供の喧嘩みたいな真似を大真面目に話し合っているのだ。

 本来止めにはいるはずの警邏隊も一緒になって相談している有様だ。彼らもどうせ警備で駆り出されるから、話し合いに顔を出すことは分からんでもないが、そもそも止めろよ。


 なにしろ全員がこれぞ名案だと信じきっていて、喧嘩祭り(ザイン命名)の開催は決定事項だ。

 皆が頭どうかしているんだなと思って、俺は無関係を貫き、今は自分で用意した飯を食べながら大量の料理を作り終えてやってきた玲二やリノアたちも交えてくっちゃべっている。


「ああ、こいつの詳しい作り方? フライドポテトは普通に芋を油で揚げただけだよ。シンプルだけど美味く揚げるには温度が肝なんだけどな」


「しっかし、改めて思うと油で揚げるなんて、とんでもない贅沢よね」


「なに言ってんだ、知ってるぜ? 店の最近の売り上げ一位がそのフライドポテトなんだろう?」


 エールと一緒に頼むと割り引きになるようで、毎日頼む客が大勢いるほど人気だとバーニィから聞いている。今では開店直後に行かないとすぐに売り切れてしまうとかなんとか。


「それは、色々提供してもらっているしね。でも普通あんなに油を使って料理するなんて有り得ないわよ」

 

 油が高級品なのは言うまでもない。大量に作って大量に売れば経費は回収可能かもしれないが、そもそも油を大量に使用して揚げ物を作ろうというあまり発想がないようだ。精々が具材に浸すほど油を引いて焼く程度で、油の海に投入して揚げるようなものはないみたいだな。探したことないけど、アブラナやオリーブとか無いのかな?


 これは高級品も安物もいっしょくたになんでも創造できる雪音のユニークスキル様々という感じだな。



「それにしても、本当にそっちは凄い世界ね! いったいどれだけの食材があるのかしら。技術も進んでそうだし、今のウチみたいに待たされた客が怒り出すなんて事もないんでしょうね」


「それはシステム、仕組みの問題じゃないのか? 注文を受けてすぐ出せるようなもの、サラダや枝豆を勧めてみればいい。そういや枝豆ってここにあったっけ?」


「ああ、環境層にあったぞ。というか、てんぷらに入ってるじゃないか」


 俺が箸でつまんだかき揚げの中には緑の粒、枝豆が見えた。茹でたこいつに塩を振って冷えたエールとの組み合わせは最強だ。

 特に風呂上がりにはなんかには死ぬ、美味すぎて死んでしまう。試したクロイス卿と公爵も同じことを言っていたから間違いない。


「そうだっけ。創ったもんだと思って忘れてたぜ、まぁそんな感じであらかじめ作り置きできるような、すぐに出せる奴で場を保たせてもらうのさ。待ってる方もなんかつまむのがあれば少しは待ってくれるだろ。いっそのこと並んでいる内に注文とっておくのもいいんじゃね?」


「でもそれだと手違いが起きそうなのよね。外で椅子とテーブル出して席数増やすことも考えたけど、食い逃げされる未来しかないしね」


「それこそ先払いにするしかないな。食券、いや色のついた木の札でも用意して、それぞれの料理に対応させるんだよ。先に注文わかってれば早めの対応出来るし」


「それ良いかも! 人気が高い品から早速試してみるわ。見本を出してどの色がどの料理になるのか解れば問題も少なそうだし」


 客商売の玄人二人が盛り上がるなか、普段ならちんぷんかんぷんなので話には加わらない俺だが、そうしないとあの頭の悪い話題に加えられそうなのでこっちに逃げてきている。


「しかし、一気に王都一の人気店だな。更に店舗拡大する気なんだろ?」


「ええ、今は全部で6店舗だけど、一気に倍増させるわ。これで王都全域にウチの一家の手が伸びることになるの。そうすればよりあんた達の力にもなれるってものよ。なにしろ食材費が殆ど浮いてるんだもの、利益が凄いのよ。少しはそっちにも還元しないとね」


 今は緊急事態なので王都全てに環境層のアイテムを提供しているが、野菜が安価とはいえ料理となるとリノアの店が一番安いのは変わりがない。

 他の店はこんな安価じゃ絶対やっていけないと高みの見物を決め込んでいたが、 いつまでたっても限界が来ないので慌てて価格を追随し始めた。

 だが、俺がタダで渡しているリノアの店と市場から買っている他店では勝負になるはずもない。売り上げも手に入る利益も桁が違うはずだ。同業他社はただ離されていくことしか出来ないだろう。


 そういうわけで今日のこの催しにもリノアの一家の助力は大きい。食材はともかく、料理人の手配なんかは全てあちら持ちでやってくれた。リノアは大した額じゃないと笑っていたが、人脈のない俺では不可能なことだ。



「それにしてもオーク肉も結構いけるな。魔物だからと敬遠してたけど、硬い分噛み応えがあるし、悪くないぜ」


 玲二が皿に盛られたオークの肉を噛み千切りながら驚いている。魔物の異変の影響で王都周辺には様々なモンスターが現れるようになり、副産物として多くの魔物肉が卸されるようになっている。

 図体が大きいモンスターはそれ相応に食べられる部位も大きく、最近多く見かけるようになったオークなどは大型を綺麗に倒せれば一度に数百キロ近い肉が得る事も可能だ。他にも名前そのままのビッグバードや、オックス系(牛)の最下位モンスターであるレッドカウ等、普段では市場に流れにくい肉がそこそこあり、王都の民の食卓に並んでいる。


 そのような経緯で手に入った肉を俺も口にした。


「確かに……いつものあれと比べれば硬いが、逆にこっちの方が食べてる感じはするな。特にへんな癖もないし」


「だよな。これでトンカツ作ったら美味そうだ。後で分けて貰えないかな」


「それならギルドで聞いてみるさ。そこそこオークが討伐されてるのは知ってるんだ。肉の在庫がすべてはけたとは思えないしな」


 オークにも色々種類があって上位種になれば相当美味いらしいが流石に俺が持っているタイラントオックスほどではない。だが、この肉は逆にステーキ以外には美味すぎて他の料理には使いづらい弊害があるので、玲二としてはもっと気楽に使える肉も欲しいようだ。

 俺も彼の言うハンバーグは食べてみたい。唐揚げや煮込み料理なんかも話を聞いてるだけで美味そうである。


「話は変わるけど、その異変はどうなってるのよ。城からのお触れは大したこと言ってこないし、ウチで入る情報も似たり寄ったりなのよ。あんたはどれほど掴んでるの?」


 事が事だけに大きな声では言えないからリノアが声を潜めて聞いてくる。


「現状では大した話はないな。怪しい場所を見つけたから今朝調査隊を出した。うまくすれば今夜か明日にも連絡が入ると思うが、原因が解ってから対策するからこの異変の終息にはまだしばらくかかりそうだぞ」


「まだ調査段階なの? モタモタしてるわね! 王都から食材が消えたら暴動が起きかねないじゃない……って多分あんたが流してるのよね、市場で見た野菜がウチのと遜色なかったし」


 俺も周囲を窺いながら話を合わせる。大神官たちは彼等同士て話に花を咲かせているし、イリシャは既に夢の中だ。


「ギルドと話はついてるが、一応秘密にしといてくれ。あちらも建前があるからな」


「アディンのダンジョンの品を運ぶなんて話もあるけど、どれだけ急いでも今はまだアイテム集めている最中でしょうしね。あんたからしか供給先はないわね、いつの間にか王都の救世主じゃない」


「阿呆くさ。俺がいなくても何とかする手段はあるさ。一番簡単な方法を俺が提供しただけだよ、それにこの勢いで減っていくとあと30日も保たないしな」


「じゃあそれまでに解決すればいい話ね。良かった、あんたが王都に居ればもう解決したも同然じゃない。婆ちゃんにもこれで良い報告ができるわ。そういえばなんか最近婆ちゃんが機嫌いいんだけどなんか知らない?」


「ミリアさんが?心当たりはあるにはあるが……その話は後でにしてくれ。野暮用だ」


 背後にはユウナの元で教育中のハクが気配を消して佇んでいた。

 昨日に比べて既に格段に技量が上がっているが、隣に居るリノアはそれを遥かに上回る腕の持ち主だ。ハクの存在にもとっくに気付いている。


「あら、また新しい女が増えてるじゃない。手が早すぎない? 昨日はSランクがやって来るしさぁ」


「そういう関係じゃないから気にならんな。それより報告があるんだろう? 何人だ?」


「不埒者は三人捕らえてあります。始末はこちらでつけようかと思っていましたが、ご報告したほうが良いと判断しましたので参上した次第です」


「解った、行こうか」



 俺は気づかれずに席を立ったが、リノアも気になるようで後についてきた。ハクは一瞬だけリノアに視線を寄越したが、俺が何も言わないのですぐに案内を開始した。



「最近そっち関係物騒じゃない? ちゃんと手を打ってる?」


「ああ、もう()()()()だ。本家本元のお前たちを動かせないから、他の雑魚を煽っているみたいだな」


「一匹狼は動きが掴めないのよね。そういう場合は組織で動いてくれた方が対処の面では楽だわ」


 俺がハクに案内されたのは神殿の掃除にでも使われていそうな小さな納屋だった。中に入ると、そこにはハクの言葉通り三人の男がいたが、問題はそのうちの二人だ。


「やれやれ、まだ子供じゃないか」


 暗殺者が子供であることに不思議はない。対象に一番油断を誘える相手だし、物事を深く考えないから仕事に疑問を挟まない優秀な駒たりえる。

 ただ俺の機嫌が猛烈に悪くなるだけだ。


 目隠しを取れと命じると、少年と形容するのも憚れるような年頃の子供だった。

 しかもこいつは……連中、つくづく死にたいようだな。



「お前は!! 父ちゃんの仇!」


「へえ、俺が仇か。俺が誰を殺したと?」


「ふざけるな。お前は僕の父ちゃんを! 今日の朝仕事に出ていった父ちゃんが、一昨日死体になってたんだぞ! みんなお前の仕業だって! 腕の立つ職人だった父ちゃんが、港の仕事から帰ってこないのはお前が殺したせいだろう!!」


 言っている事が滅茶苦茶だが、本人は気付いていない。そういう魔法だからな。


「<解呪(ディスペル)>」


「何とか言え、この人殺し! 僕の父ちゃんを……あれ? 父ちゃんとはさっき別れたばかりなのに。あれおかしいな?」


「やれやれ、下種な手を使いやがる」


 典型的な洗脳魔法だ。簡単な命令を意識に刷り込む事で自分の行動がさも当然だと思い込むようになる。


 暗殺者が使う手口の一つだ。俺は情報としてソフィアを狙った暗殺集団の頭領から情報を抜くときに耳にしていた。


 スキルとは違い、低級で簡単な魔法なんで仕込みも少なくすむが、こうして問い掛けてやると簡単に解ける程度の魔法にすぎない。正直洗脳魔法というより認識阻害の魔法というべきショボい効果だ。スキルの<洗脳>のえげつなさに比べれば可愛いものだ。

 仕掛けた相手もこれで上手くいったら儲けもの、嫌がらせ程度の認識だろう。


 子供を使う手口が死ぬほど嫌いな俺でなければ大して気にしなかったかもしれない。


 もう一人の子供に至っては、母親が迷子のその息子を探している有り様だったが、その手には不釣り合いな毒の塗られたナイフがある。

 同じく洗脳魔法にかかっていたので解呪して開放した。



 本人も自分が何をしたかよくわかっていない程度だ。子供の方は未遂だし、罰を与えるほどではない。

 もちろん大人は別だ。というか、こいつは許さん。


「ガキを操って自分は高みの見物か? いいご身分だな」


「な、何を言っているんだ。俺はいきなりここに連れ込まれたんだぞ! 証拠でもあるのか?」


 ハクが言うにはあの子供達が最後に接触した人物だということで拘束したようだ。確かに証拠と言えるものはないが、俺には物証など必要ない。今から本人に聞けばいいだけだからな。


「時間の無駄だ。洗いざらい話せ」


 <洗脳>を使って自分が命じられた仕事を俺に包み隠さず話すことがこいつの任務だと思わせることにすれば、後は勝手に喋りだす。

 最初の事は危険なスキルだと思って使用を控えていたが、生きるに値しないゴミ共をさっさと処理するには最適なスキルだ。

 特に非道な事をしているつもりもない。本当に無実であれば知らない事を喋りようがないからだ。<鑑定>も併用して身元を洗っているので、もし特殊なスキル持ちで<洗脳>に抵抗できるならそれも分かるから、間違う事はありえない。


 男は無表情のまま、自分がスカウトギルドの者である事とギルドマスターからの命を受けて犯行に及んだ事を淡々と喋る。隣にいたリノアの顔が本気だ。スカウトギルドがこのようにはっきりを自分達の領域(暗殺稼業)に踏み込んでいる事実を語っているのだ。彼女にとっても見過ごせる話ではない。


「これは……ちょっと大事になるわね。でもスカウトギルドがあんたを敵に回すなんて。連中に何かしたの?」


「話すと長くなるんだが、簡単に言うと全ての元凶がグラ王国でそこからスカウトギルドに指示が出てたんだ。後は分かるな?」


 ぶっちゃけるとウロボロスもウカノカもばら撒かれた薬の出所も全てあの国の仕業だ。国家としての侵略の一環なんだろうが、こっちにとってはろくでもない話だ。隠していたわけではないので当然組織を潰した俺の事も知られていて、俺に対して敵対行動を取ったというわけだ。

 

 スカウトギルドはグラ王国からの依頼で動いている。既に依頼は反故にされているが、ライカを操って俺にぶつけたのも彼等の策の一つだった。ライカと敵対していたグラ王国のスカウトギルドがこれ幸いと彼女を操って俺を始末するようにこの国のギルドに依頼したのだ。


 何故ここまで詳細に知っているのかは説明する必要はないだろう。昨日の内に王都のスカウトギルドのマスターと()便()()話し合い(洗脳)して必要な情報を抜いてあるからだ。

 今のギルマスは俺に忠実な人形だ。いずれ滅ぼす相手だが、今は精々同士討ちで力を削ぎあってもらう。

 というわけで全ての処理は昨日の内に終わっていたが、指示の徹底がされていなかったか、任務撤回が伝えきれていなかったようだ。既に頭は処罰済みなので、これは後始末というべきだろうな。


 スカウトギルドに対しては対応が難しい。この国のギルドはユウナが所属しているため、マスターの居所を含め都合よく対処が出来たが、本来は頭を潰せばよいという話ではない。


 ギルドも所詮は敵の手足に過ぎない。替えの利く手足をつぶしても際限の無い恨みを買うだけだ。敵が強大であればあるほど、叩くべき時と場所を選ぶ必要がある。


 だが、その役目は多分俺ではないだろう。元々喧嘩を売られたのはこの国だ。俺がでしゃばっては彼等の面子を傷つける。やらないのなら俺が始末をつけてもいいが、本来なら矢面にはこの国が立つべきだし、クロイス卿と公爵もこの件が明るみになる前にまず間違いなくグラ王国が背後にいるだろうと予想していた。


 国同士の喧嘩は彼等に任せるべきだが、ギルドの落とし前はきっちりつける必要がある。なにしろユウナが冒険者ギルドの件など比較にならないほど激怒している。

 今も彼女が関係者を”掃除”しているため、この場はハクがいるという訳だった。



「うわ。やっぱあんたを敵に回すのだけは止めとくわ。命が幾つあっても足りなさそう」


「賢明だな。長生きできるぞ」


 リノアも最初の出会いは中々独特なものだったが、話の通じる相手だったので互いに益のある関係になっている。だが、常に最良の結果が得られるとは限らない。

 世の中には度し難いほどの馬鹿が大勢いるからな。

 自分がそれに当てはまらないように精々気をつけながら、少なくとも王都に居る間は注意して過ごす必要がある。手は打ったとはいえ、その効果を確信するには些かの時が必要だ。


 


 殺し屋の始末はリノアたちがつけるようなので、現れた彼女の部下にこの場は任せて皆の所に戻る。


「でも、あんたは良くても周りのみんなは大丈夫なの? ターゲットの周囲の人間を狙うのは常套手段よ?」


「手は打ってある。ほら、玲二の隣にロキがいるだろ? あいつが対処する」


 俺の指の先には玲二の足元に丸くなっているロキがいる。先程食事を終えたばかりで至福の表情で眠っている。


「あの子犬が? そんな強そうには見えないけど、普通に考えて何の変哲も無い犬をあんたが飼わないものね」


 実は狼だったり、さらにあれは分身体で対処とは肉の盾になって時間を稼ぐ事だったりするんだが、詳しい事情を話していないリノアにはそれで納得してもらった。彼女の目には玲二もそこそこ出来る腕に見えると思うが、俺と<共有>するスキルによって正攻法での殺害はほぼ不可能だ。俺の仲間は安全と見て良いから、守るべきは玲二の横でぐっすりのイリシャとソフィア、セリカ達に限られる。ロキには命に代えても守れと厳命しているし、いくらでも分身体を作れるのだ。本来の姿で暴れるもよし、対策はいくらでも取れるだろう。




「あ、あれは!!」「何でここにあの人が!」「ありえねえぞ! 退いて何年経ってると……」


 何が起きたのか察した顔の玲二に頷いてまだまだ盛り上がっている宴会のほうを見やると、不意にざわめきが起きる。周囲の人垣から溢れるのは困惑と紛れもない歓喜だった。それが波のように周囲に伝わってゆく。


 何事かと思い、そのざわめきの先に視線をやると不意に人垣が割れた。誰かが退くように指示したわけではなく、その人の雰囲気に押されて体が勝手に動いてしまったのだ。今のは俺の勝手な想像だが、やはり()()()にはそうさせるだけの力がある。


「え? あの人ってまさか……」


 リノアの唖然とした声に反応する前に喧嘩祭りの打ち合わせ中だった男たちが悲鳴のような歓声を上げた。


「大将!? あれはまさかシロマサの大将なのか!!」


「馬鹿野郎! 俺達が見間違えるものかよ、どんだけ目が悪くなってもあの姿だけは忘れられねえ! あれは御大だ!」


「だが待て兄弟! 私が先日ご挨拶に伺った時は立ち上がることも出来ないほどの病状だったのだぞ。それがあれほど矍鑠たる姿で……」


 元々はあの老人の配下だったボストン、ゾンダ、エドガーの三人が信じられないものを見て驚いている顔だが、さすがにエドガーさんが即座に俺の顔を見た。


 何か不思議な出来事が起こるとすぐ俺を見るのは止めて欲しいものだが、否定できないので仕方がない。


「あれが、生ける伝説”大侠客”シロマサ……! なんて威容だ。ただ歩いているだけだってのに圧倒されちまいそうだぜ」


「あれがギンの兄貴の親父さん……纏う雰囲気が全く同じだな」


 ザインとジークも二人の供を連れて歩いてくるだけの痩せた老人の姿に目を離せないようだ。その体から発散されている溢れ出んばかりの覇気が完全に場を支配している。


 酒盛りの喧騒は吹き飛び、この場にいる誰もがいきなり現れた伝説の老人に注目している。往時の彼を知るゾンダたちは既に滂沱たる涙を流しているし、歩いているその姿を拝んでいる年配の姿もある。

 それだけで彼がどういう男なのか、言葉を使わずとも証明している。


「今日は、無縁仏さんの葬儀と聞いたもんで、かつてこの下町に生きた者として線香でも上げて故人の冥福を祈らにゃなるめえと参上した次第だが……なんとも豪華な顔ぶれじゃねぇか。大神官の皆々様にはとんと御無沙汰をしちまっておりやす」


「と、とんでもない、とんでもないことです。大親分さんの元気なお姿をまた見ることが出来るとは、今日はなんと言う日なのでしょう。嗚呼、精霊よ、貴方のお導きに感謝します」


 6人全てが深い祈りの姿勢をとり、精霊への感謝を捧げるなか、細面の白髪の老人がこちらを見た。


 その瞳は精気に満ち満ちており、齢70を超えた老人にはとても見えない。その姿を見れば誰もが侠客シロマサ健在なりと確信するだろう。


「お前さんには色々と言いたい事があるが、まずは死者への弔いが先だ。案内を頼めるかい?」


「彼等も黄泉の世界への旅立ちを前にいい土産話ができるでしょう、ご案内します」


 口に手を当てて固まっているリノアを尻目に、俺はシロマサの御大とそのお供二人を連れて神殿へと向かった。



 事の経緯を語るには少しばかり時を戻す必要がある。



楽しんで頂ければ幸いです。


本来は前話でここまで話を進める予定でしたが、まあ無理でした。


色々と話が明らかになってきてはいますが、本筋とはあまり関係ないです。今は王都にいますが、主人公はダンジョン攻略してナンボの人間なので、他国の陰謀とか興味ないです。やられたらやり返しますが。


次は日曜か月曜の朝までにはあげる予定でおります。


謎のべらんめぇ調の爺さんの登場で場は更に加速していきます。




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