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商隊護衛

遅くなりまして申し訳ない


 翌朝、人々の往来が多くなる時間帯に俺はウィスカの西門にいた。今回の依頼はそこが集合場所である。


 そこには既に数人の冒険者、三頭立ての大型馬車が6台、それと精緻な装飾が施されたいかにも貴賓用と思われる馬車が1台止まっていた。集合時間まで一刻近くあるので、まだ全ての人員が集まっているわけではないようだ。御者とみられる者達はいるが、レイガルド商会の人間らしき人物が見当たらない。荷があるなら到着してないとも思えないが。


 俺はセラ先生の所でポーションを入手したあと、朝市でいくらか買い物をして西門に到着したのだが、そこで色々と情報を得たのだ。


 ”八耀亭”に到着したのは普段活動を開始する時間、つまり太陽が昇り始める時間だったので早すぎて迷惑かと思ったのだが、姉弟子であるアリアが応対してくれた。無論、対応はそっけないものだったが。


「先生から話は聞いています。ポーションが必要なんでしょう?」


「ああ、非常用を昨日使ったんだ」


「魔法使いがポーションを使うほど追い込まれるなんて、未熟の証明です。修行が足りませんよ」


 彼女は銀貨よりも蜂蜜と交換の方がいいと言われたので、手持ちから一つ渡してポーション五個と交換した。

 蜂蜜一つでポーション五個は明らかに釣り合わないので、取っておけと押し付けられた。


「この前、先生に薬草を差し上げたらしいですね。なので原価はほとんどかかっていません」


 実費は作業費くらいなものだから、それに蜂蜜を店頭で購入するといくらかかると思っているんですか? と問われて閉口した。そういやギルドがボッたくってるんだっけ。


 正直な話、俺はポーションより彼女の眠そうな顔が気になった。隈ができているわけではないが、まさか寝ていないのだろうか?



「あなたがこんな時間に来るからです、魔術職は基本夜行性です……」


「健康に良くないぞ。まだ若いのに」


「子供に心配される筋合いはありません」


 魔法系職業は時間が逆転しているというのは本当のようだな、姉弟子はこれから睡眠をとるという。

 その時アリアの背後からしわがれた声がかかった。

 

「これから王都へ行くんじゃて? 商隊護衛ならレイガルド商会の荷だろう?」


「お師匠様! 弟弟子の対応は私が致しますのに」


「なに、老人の朝は早いのさ。アリアはもうおやすみ、あたしゃこの坊やと少し話をしたくての」


「わかりました、それでは」


 アリアは先生に一礼して下がってゆく。その際に俺を強い瞳で睨んでくるのはいつもどおりだ。なんだろう、アリアの眼差しはまるで親を取られた子供が拗ねているようだ。そんな関係でもないだろうに。


「さて、ポーションは手に入れたね。お主が今更回復薬を必要とするとは思えんがの」


「昨日十層のボスとやり合いまして。直接的な被害はなかったのですが、衝撃と痛覚から逃れるために使いましたよ」


「この短期間に既に階層主まで辿りついておったか。帰還しておるということは首尾よく倒したようじゃな」


「油断は禁物でしたね。思わぬ不覚を取りました」


「痛みの中で精神を研ぎ澄ますのは慣れる他ないからの、精進することじゃ」


 先生は俺がどういう状況に陥ってポーションを使用したのか理解しているようだな。魔法導具屋を開いてはいるが戦いの経験も豊富なんだろう、ますます謎な婆さんだ。


「まあよい、よれよりもお主が受けた依頼の件じゃ」


 先生が直々に出てくる話ということなのか。ギルドは簡単な依頼と言っていたが……そもそもできて当然のFランクの規定クエストだよなこれ。


「特殊な案件なのですか?」


「いや、そうではない。依頼自体はいたって通常のものじゃ。ただ、アタシから言える事はよく観察せよ、ということじゃ」

 

 ああ、何かあるんですね。それにしても一介の魔法導具屋がギルドの依頼に詳しすぎるし、それ以外にも色々な情報網を持っていそうだ。本当に何者なのだろう、疑問が尽きない。しかし、こちらに助言をしてくれる程度の信頼を得てはいるということでもあるのかな。


「あと、色々自重せい。先達の動きを見て常識を学ぶのも勉強じゃぞ。特にお主はな」


「それは、肝に銘じます」


 昨日、会合の席で熱湯出した話をしたら盛大な溜息をつかれてしまった。言っても解らぬ輩は世間で揉まれた方が早いと、手をひらひらさせて追い出された。


 ちなみに王都土産はせびられた。しかも指定付きで。しっかりした婆さんである。



 そんなこんなで出発一時間前には到着したのだが、早く来すぎたようだ。

 今来ている冒険者は昨日あまり話さなかった人達だから、ちょっと距離を置いてこれから俺たちが護衛する商隊を眺めた。相棒はこの時間に起きていることなどほぼありえない。



 一際目を引くのは豪華な貴賓用とおぼしき馬車だが、アレはこっちとは無関係だよな。それにしては距離が近いな、まるで同行するような位置にいるんだが。


 明らかに厄介事の臭いがするからなるべく関わらないようにしよう。その後は木箱がうず高く積まれた荷馬車の中身を<透視>しながら時を過ごした。セラ先生からの助言は役に立っている。君子危うきに近寄らずだ。

 豪華な馬車の中には3人の人間がいるのが解ったが見なかったことにする。御者台にいるのは俺と背格好の似た女性だ。まるで騎士のような格好をしているが、まさか本物の騎士が御者などするわけがないしな。

 色々眺めてしまったが、あわてて視線を外す。不用意に関わるつもりはないのだ。


「護衛の冒険者は集まってくれ!」


 集合時間となりリーダーであるザックスが冒険者達の点呼を取り、依頼主であるセドリックが号令して商隊は移動を開始した。結局、あの豪華な馬車の話は出なかったな。他の冒険者にちらっと聞いてみても、誰も知らなかった。リーダーであるザックスは知らないとは思えないが、情報共有しない理由がわからない。




荷馬車の速度が酷くゆっくりしたものなので、俺たちの歩く速度も自然とそれに合わせたものになる。冒険者は荷馬車の列の周りを分散して包囲する形を取って護衛をしている。例の豪華な馬車は最前列だ。


 周囲はのどかなもので麦畑が広がっており、差し迫った危険は感じられない。元々この辺りの治安は保たれているようで、周りの冒険者も互いに雑談しながら進んでいる。

 馬車で移動すると王都までの距離は片道で約4日ほどだが、実際には休憩を多く取ったり野営に適した場所を探したり、夜になったら近くの村で休むことなどもあるので、だいたい6日から7日を予定しているという話だった。

 


 無論、これはあくまでも予定の話で、たとえ整備された道でも舗装されているわけではないので、雨でも降ってぬかるんだら馬車の進行速度は著しく低下する。

 荷馬車は三頭立ての立派な作りの馬車なのだが、素人目の俺から見てもその積載量は容量をだいぶ越えている気がした。荷馬車も一流商会が使用するに相応しく立派な造りだが、轍がかなり深くできている。もし、雨が降ってぬかるみなどにはまったら抜け出すのは容易ではなさそうだ。


 精霊使いならば天気を占えるのだろうが、今回のメンバーの中に精霊使いは居なかった。俺自身とリリィは精霊魔法を使えるが、只でさえ魔法で悪目立ちしたのだ、これ以上余計なことをするつもりはない。

 それに冒険者なら天気を読む術も備えているだろうし、農村出身者なら生活のために必須の技能だから心配はしていない。今は空気も乾燥しているし、雨はしばらく来なさそうだ。




王都まで続く街道は道幅も広く、周囲も開けている。あるのか解らんが〈マップ〉で確認できるので魔物の奇襲など食らうはずもない。正直退屈な時間が流れている。周辺の平和さを考えてみれば商隊護衛などいるのか疑問に思うくらいだ。盗賊が出没するには王都から近すぎるし、危険な魔物がいるのならとっくにギルドが把握して依頼を出しているはずだ。

 一日分の借金の金利が思い浮かぶが、これも社会勉強だと思って割り切るほかないな。




 俺が今いる位置は隊列の左後方にあたる場所になる。何事も起こらない中、今一番気になっていることは、すぐ前の馬車の車輪がいかにもガタがきていることだった。これ、早いうちに手を加えるか修理しないと壊れそうな気がする。専門でもなくてもいいが、修理ができる人間はいないのだろうか。今でも結構軋んでいるようだが。



 結局のところ護衛対象のレイガルド商会からは依頼主のセドリックと御者しか人員がいなかった。個人商店じゃないのだから商隊の規模を考えるともう少しいてもおかしくないと思うが。まるで強行軍のように荷物を過剰に積み込んで馬車が悲鳴を上げている。音に聞こえたレイガルド商会の番頭の一人がやるようなお粗末さではないはずだが。セラ先生からの言葉が脳裏をよぎる。退屈だとは思ったが面倒事をよこせとは言った覚えはないぞ。



 昼食を取ったのはウィスカの街からひとつ先の村だった。一日二食が基本の世界だが、肉体労働者は例外だ。食わないと動けなくなる職種だからな。

 <マップ>で移動距離を確認してみたが、お世辞にも早い移動とは言えない。全体図を見て行程を確認してみたら、下手をすると十日近くかかってしまう恐れがある。雨でも降ろうものなら片道だけで二週間かかる可能性さえあった。

 冗談ではない。俺にとっては借金が金貨三千枚加算するんだぞ。それも片道だ、往復ではどうなるのか想像もしたくない。



 この遅滞の理由は分かりきっている。明らかな荷物の積みすぎである。馬車が重すぎて必要な速度が出せないのだ。午前だけでかなりの数の馬車に追い抜かれていたから、馬車に乗った経験がライル時代の移動時のみとはいえ遅いのは間違いない。

 予定を超過した場合の冒険者への報酬の上積みなどはあるのだろうか。期待できないがザックスに聞いてみようかと思う。

 リリーなど、退屈すぎて不貞腐れているからどこか隙を見て、懐から出してやらねばならないな。

 全く、相棒が視える精霊使いなどいないのだから気にせず出てくればいいのに。



 本隊を見れば昼食の準備は冒険者達が行っているようだ。本来ならば我々は警戒をして、キャラバンの人間達が行うと思っていたが冒険者たちが作っている。商会の人間は御者とセドリックしかいないから仕方ないのかな。


 はっきり言って暇なので俺も手伝う。初めは何しに来たのだという目で見られていたが、これでも<料理>スキルは高いのだ。それに下働きは新人の仕事だろう、こういうのは言われる前に動いた方がいいしな。


「手伝います」


 芋の皮むきをしていた女性冒険者の隣に座った俺は自前のナイフで芋の皮を剥いていく。作っているのは湯を沸かしている所を見ると煮込み料理のようだ。

 俺の手慣れた動きを見て経験者と解ったのか、どんどん仕事を振ってきた。

 しかしこのナイフは敵よりも野菜ばかり切っている気がする。ライルの数少ない所持品で、所謂「男のナイフ」というやつなんだが……。

 世界に関わらずどこにでもある風習で一人前になった証にもらう男にとって大事な物だ。一生大事に扱うべき代物で、普段使いにしていいのか迷う。だが、武器らしきものはこれしかない。コブリンソードはアレは武器じゃない、尖っている鉄の塊だ。  

 ただ一度戦いに使ったら欠けたんだよな。なんとか研いでして使えるようにしたが、勿論縮んでしまった。おかげで更に料理に適したナイフになってしまった気が……

 

 これも全て魔法が便利すぎるのが悪いんだ、俺のせいではない。



「慣れたものね。今でも作っているの?」


 ザックスのチームの女性魔法使い、名をカレンという20代の女性は俺にそう聞いてきた。昨日俺に詰め寄ってきた連中の一人だ。その関係で少しは話せる間柄になっている。


「今いる宿の手伝いをするくらいですよ」


「偉いのね、うちの連中にも見習わせたいくらい」


 丁度いいので聞いてみることにする。


「こういう護衛クエストでは冒険者が作るものなんですか? 商会の人間が少なすぎるように感じるんですが……」


 カレンは困ったように笑っている。それだけで事情がなんか理解できそうだったので、軽く謝罪して作業に戻った。この人はパーティの一員としてザックスから何か情報を与えられている可能性があるから色々聞いてみたが、ザックスもあの豪華な馬車の内容までは知らされていなかったようだ。

 あの依頼主、リーダーにさえ情報を与えないとか正気を疑うぞ。契約違反でこのまま帰ってもギルドにはこっちの理屈が通るだろう。



 飯はすぐに出来上がった。時短料理にしたので当然なのだが、案の定というか、味が相当薄味だった。高価極まりない胡椒が使えないことに文句はないが、海に面しているこの国では塩や山椒がまあまあな値段で手に入るし、ハーブや酢などもあったはずだ。味が薄いと食った気がしないし、皆の士気にも影響するだろう、少なくとも俺はする。

 仕方なく俺の持ち込んだ調味料を使って料理を仕上げた。これもセラ先生の助言で朝市で買い求めたものだ。かなりの出費だったが、結果として大正解だったわけだ。先生の慧眼に感謝する。


 この料理の出来は冒険者たちの懐具合では数多くの調味料を買い求められなかったのが真相だった。食材はレイガルド商会からの提供だが、値が張る調味料は含まれていなかった。結果として塩のみの味となってしまった。商会のメンバーもこれを食うんだよな? そもそもこういった煮炊きのメンバーもそちらが用意するのが筋なのではないかと思うが、他の冒険者から不満が出ないということは始めから依頼票にはその記載があったみたいだな。俺は口頭で依頼を受けたので勿論知らなかったが。


 普通の冒険者は得た収入を装備の補修や更新などで大部分の金を使い果たしてしまう。結果、こういった食料や日用品は後回しになりがちになる。日持ちするんだからあってもいいと思うが〈アイテムボックス〉持ちの俺と比較するのは不公平か。俺が調味料を入れなかったら一体どんな食事ができあがったのか不安だが、不味い飯は俺のやる気にも関わるから手をは抜きたくないな。




 商隊は昼食を終え、出発したがその歩みはやはり遅いものだった。

 ザックスが先ほど立ち寄った村で馬車を借り受けてはどうか、という話をセドリックにしたようだが受け入れてもらえなかったようだ。やはりこのままのペースで行くしかないようで、ため息が出る。依頼主はこの現状をどう考えているのだろうか? 普通、到着が遅れて一番困るのは彼のはずだが、そこを考慮する気は一切ないようだ。



 のんびりとした速度で進んだせいで、当然距離は稼げない。結局、今日の夜には着く予定としていた次村に辿りつけずに途中で夜営となってしまった。

 俺とリリィは初めての野営にちょっと興奮していたが、他の冒険者は渋い顔をしていた。

 夜は野生のモンスターの活動が活発になり、火の番と不寝番が欠かせないからだ。予定通り村についていれば不必要な役だった。かなり平和なこの地方だが、街を出れば夜は人の世界ではない。


 夕食の後、ザックスから今夜の割り当てが発表された。基本二人一組であたり、三刻ごとに交代する。人数的にすべての冒険者が行うわけではないが、野営は今日だけで済むとは思えないから今日選ばれないメンバーは次の夜営時に選ばれることになる。



 当然のごとく俺は選ばれた。新人に任される面倒な仕事であろうことは間違いないので、それに関しては特に文句はない。むしろ選ばれなかったらこちらから申し出ないとダメかと思ったほどだ。



 俺は最初の担当に選ばれる。疲労度でみれば一番マシな順で少しは考慮されたのかも知れない。

 火の番をしながら周囲を窺ったが、多くの焚き火が焚かれている中で近寄ってくるモンスターは居なかった。<マップ>を見ると周囲には遠巻きにしているやつがちらほら見えたが、こちらに襲い掛かってくる敵はいない。やはりこの周辺は平和なのだろう、冒険者の仕事がないわけだ。

 

 自分と同じ時間の担当になった冒険者は年嵩の男だったが、夜営の経験が少ないのか葉ずれの音や獣の遠吠えに敏感に反応している。あれじゃ無駄に疲れてしまって、明日に響きかねないな。

 スキルで敵がいないことは解っていたが、それをそのまま言うわけにもいかない。なので俺が田舎育ちでこういった経験が多いことを伝え、差し迫った危険はないことを教えると少しは安心したようだった。

 この男は案の定、傭兵上がりで夜営の経験は少なかったが、周囲の気配の変化には敏感だったのでそこそこ有能なんだろうと思う。

 

 安心しすぎて座り込んだまま寝てしまうのはどうかと思ったが、結局何事もなく自分の時間は終わり、後の人間に引き継いだ。何度か声をかけたものの、結局この冒険者は起きることはなく、交代の人間に怒られていた。そんな目で俺を見ないでくれ、俺はちゃんと起こしたぞ。



 ここで新人イジメの一つでもあるのかと思ったが、そんなこともなく開放された。意外と冒険者とは礼儀正しい人間が多い気がしてきた今日この頃である。てっきり笑いながらお前は朝まで担当なと言われると思っていたのだが。

 ちなみに我が相棒のリリィは既に夢の中である。本人は絶対に起きているから! と息巻いていたが、俺の懐で寝転がりながらの台詞ではあまり信憑性がない。事実、一時間もせず寝息をたてていた気がする。本人はその都度起きていると主張していたが。



無事に翌朝を迎え、冒険者たちは夜明けと共に起き出して行動を開始した。どうせバレているので俺は簡易竈に炎と煮えた湯を作り出し、朝食の短時間化に貢献したが夜営中に翌日の仕込みをしておけばよかったと後悔した。

 どうせ隊商の移動は遅いことが解りきっている。ならば移動開始を早くする他なかった。 



 その甲斐あったのかは不明だが、本来昨日宿泊する予定だった村に九時ごろ到着した。

 その村で必要な物資を買い求め(元々食料などはこの村で買い集める予定だったようだ。余計馬車に荷物を積んでいる気がするのだが……まだ増えるのかよ)早々に出発する。行程が遅れていたのは誰もが知っていたので誰からも不満は出なかった。




事件が起きたのは昼も少し回ったあたりだった。誰もが不安視していた、物資を満載した荷馬車の車軸が折れたのである。

 その後が本当に大変だった。主軸を修理しようにも中央から亀裂が入っていて修理というより新品を用意したほうが早い位で、更に悪いことに車軸が折れた衝撃で木製の車輪も大きな歪みが見られたことだ。相当の負荷がかかっていたのは間違いなく、このまま放置して使用を続ければ車輪は破壊される。片方が歪めば当然もう片方も歪むから、早晩壊れるのは目に見えている。もちろん積んでいた荷物は零れ落ちたし木箱などは損壊して中身が見えているものも多かった。


 そこで慌てたのがセドリックである。顔色を変えて壊れた木箱へ駆け寄り、中身を改め始めた。こっちとしては馬車を心配してほしいところだが、木箱一つの中身で荷馬車や俺たちへの報酬よりも価値があるものを運んでいるようだ。俺達の胸中がそんな高価なら無茶な積み方するんじゃない、で一致したのは間違いない。



 結局、荷馬車を修理するにもまずは山積みされた荷物を下ろさねばならず、単純な修理であの車軸が直ろうはずもない。俺たちも手伝える所は手伝ったが、気付けばそれだけで太陽が真上へ移動していた。



 最終的にセドリックはこの場での修理を諦め、先ほどの村に戻り馬車を修理することにした。


 しかしここで彼は驚くべき決断をする。あの豪華な馬車だけを先行させるというのだ。さらにそのために冒険者を護衛に割くとまで言い出した。


「セドリックさんよ、俺たちの受けた依頼は商隊の護衛だ。お貴族様の護衛じゃない。あんたにも事情があるんだろうが、俺たちにもある程度話してくれないとあんたを契約違反でレイルガルド商会に正式に抗議することになるぞ」


 誰もが疑問に思いながらも依頼主の意向に応じて口を閉ざしてきたが、ここに来て他の冒険者達が口々に疑問を口にした。

 自分も聞いていた依頼は商隊の護衛であり、やんごとない人間の護衛ではない。どう見ても訳有りの人間を護衛するとなると依頼料も当然変わってくる。命の遣り取りの必要があるなら金貨をいくら積まれても受けない冒険者はいるだろう。


 楽なだけの退屈な依頼かと思っていたが、途端にきな臭くなってきた。楽しんでいるのはリリィだけだろう。君も一応関係者なんですがね。



 冒険者たちから突き上げられたセドリックは苦渋の表情で、先行する冒険者には成功報酬として金貨二十枚を加算すると伝えてきた。しかし結局、馬車の中の人間のことは何も言わなかった。


「冗談だろ!? 金貨二十枚貰えれば王都で一年遊んで暮らせる額だぞ」


「正気に戻れ、成功報酬だぞ。そんな額を後払いでと言い出すんだ」


 舞い上がった冒険者を仲間と見られる男が諌める。どう解釈しても金貨二十枚を支払ってでも先行させたい思惑があり、さらには失敗したら報酬は無しだ。むしろ欲に釣られて死ねと言っているに等しい話だ。

あの男本当に商会の番頭なのか? 交渉が頭悪すぎるぞ。

 

 それにしても金貨二十枚で王都で一年遊べるのか………この借金押し付けた奴何考えてんだろうな。




「とはいえ依頼者の希望だ。可能な限り沿うべきなのは確かだ」


 ザックスは希望者を募ったが、誰も名乗り出ようとはしない。当然だろう、俺も手は上げるつもりはない。 本音を言えばさっさとこの依頼を終わらせ、ダンジョンに突撃したいところだが、依頼者にほぼ死にますと予言された馬車の中の人物と関わり合うくらいならば、この商隊にくっついて加算される借金に溜息をつくのも仕方ないかと思うようになっていた。



 誰もこの依頼には乗り気でないことを知ったザックスが、仕方ないとため息をついた。


「すまないが、 俺の権限で先行するメンバーを決めさせてもらう。文句はこの依頼が終わった後で聞くからそのつもりで」


 チームを二つに分ける以上、連携が取れていたほうがいいのだろう。ザックスが選んだメンバーは彼が所属するパーティメンバー6人だった。リーダーとして責任を取ったという形にしたのかもしれない。そのメンバーの中に俺が入っていなければその責任感を褒め称えていたところだ。

 

 何故俺が、という疑問はあるものの、同時にやっぱり目立ちすぎたかとも思った。他にメンバーもおらず一人の俺を商隊護衛においていく意味もなかったのだろうし、心のどこかでやはりと考えたのも確かだった。


 それに考えようによってはさっさと王都にたどり着けるということでもある。この依頼は王都に着けば終了だから早くウィスカに帰り着けることになる。

 一刻も早くこの依頼を完了させてダンジョンに戻るとしよう。


 残りの借金額  金貨 15000294枚  銀貨7枚




ユウキ ゲンイチロウ  LV113


 デミ・ヒューマン  男  年齢 75


 職業 <村人LV129>


  HP  1912/1912

  MP  1329/1329

  STR 320

  AGI 294

  MGI 311

  DEF 279

  DEX 246

  LUK 190

  STM(隠しパラ)532


 SKILL POINT  455/470     累計敵討伐数 4321

読んでいただければ幸いです

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