冒険者ギルド 6
お待たせしております。
「ライアンに銀貨5枚だ!」
「俺もライアンだ、今のオッズはどんなもんだ?」
「今は3対1でライアンだな。だが俺は”嵐”に賭けるぜ、奴は只者じゃねえ」
「実績ならライアンだが評判じゃ圧倒的に”嵐”だしな、俺も”嵐”に金貨一枚だ!」
調子のいいやつらが賭けを始めたらしい。他人事だと思って楽しんでやがるが、確かに俺も他人の立場なら……賭けるな。くそう、一枚噛みたい。
ここはギルドの地下一階にある訓練所。元が巨大な建物だけあって解体場と二分する地下でも百人は入りそうな広さがある。
普段ならば己を鍛える者が集うその場所は、今日は多くの人が詰め掛けていた。
その人だかりの中心は敢えて空けられており、その中には俺ともう一人が対峙している。
「ガキが! 泣きを入れるなら今のうちだぜ!」
「何をイキがってやがる。遊んでやるからさっさと来いよ」
俺の手には粗末な棒がある。愛剣を使うまでもない相手だし、もし切り結ぼうものなら相手の大剣ごと両断しかねない。周囲の冒険者に愛剣の素晴らしさを教え広めたい気持ちはあるが、今日はこの棒で十分だ。そのほうが力の差を端的に証明できるしな。
この棒は訓練所の備品で、実践用らしく中に鉄芯が通っているので見た目ほど貧相ではないが、やはり大剣を振り回すライアンには見劣りするのは確かだ。
それを見たライアンは馬鹿にするように嗤うが、それは棒術、ひいては杖術と呼ばれる一連の技術を知らない証拠だ。
「バカが! 今から負けたときの言い訳を作ってんのか?」
「ベラベラと良く喋る奴だな。弱い犬ほどよく吠えるもんだが、オタクもその口か?」
俺の煽りにライアンの顔から表情が消えた。これでようやく静かになるな。
何故こんな事になっているのかの説明は不要だと思うが、一応概要は話しておくか。と言っても大方の想像通りだ。俺の言葉には従いたくないライアンが突っかかり、それに俺が挑発した結果、何故か地下の訓練所で果し合いをする流れになっている。
何でこうなったと思わなくもない。俺も少しばかり大人げない面はあったとはいえ、こんなの完全に向こうの逆恨みだろう。
なんだおまえ、文句あるのか、ああ? やんのか? という至極ありきたりな流れのあと、じゃあやるか、となった。
自分らしくない雑な対応である自覚はあったが、俺も日々の拘束で気が立っていたと思う。馬鹿のあしらいを単純な方法で済ませようとしているからだ。
だが、先程のユウナの言葉にもあったがほとんど寄り付かないウィスカとは違い、王都ギルドに詰めている今の状況では、ある程度の力を見せて周囲を黙らせる必要は認める所である。
人が多すぎて色んな奴らからの好奇の視線が面倒くさくなってきたこともあるしな。
馬鹿だ馬鹿だと言い続けているが、ユウナからの情報ではライアン自身はれっきとしたAランクで”重撃”と二つ名で呼ばれるほどの冒険者だ。これまで多くの戦いを経験しており、口では色々言うもののこちらを侮る気配は全くない。
俺との間合いを慎重に計ると、一気に突っ込んできた、
「おらぁ!!」
「っと」
俺は持っていた棒で降り下ろされた大剣を捌いた。
「な、なんだと!?」
裁かれた本人が一番この不気味さに驚いているだろう。多分捌かれた方は手に伝わる奇妙な違和感が拭えないはずだ。攻撃に使われる力の向きを変えて逸らす”捌き”はまるで自分の力を操作されたような感触になるからな。
周囲の野次馬もライアン同様、ギルドマスターから信頼され、この依頼を命じられただけあって実力者揃いだ。俺の行動を理解した奴が多く、感嘆の呻きを上げた奴もいる。
「マジかよ。奴は魔法の腕で名を上げたんじゃないのか? 近接でもあれかよ」
「そりゃそうだ。考えてもみろ、あのウィスカを単独でやってるんだ。魔法だけじゃジリ貧になる。それを補う白兵の腕もあって当然だが、まさか”捌き”をこうも簡単にやってくるとはな」
したり顔の冒険者が満足気に解説した。さては俺に賭けている奴だな? だが賢明だ、褒めてやる。
「そ、そんなはずはねえ。フロックだ、そうに決まってる!」
「じゃあ試してみろ」
蛮声を上げながら再度突っ込んでくるライアンを正面から迎撃する。しばらく続くと最初の事は盛り上がりを期待していた観客もこの展開に静まり返っている。
重量感の塊のような大剣の嵐のような攻撃をどこにでもありそうな平凡な棒が全て捌いているのだ。
こいつらの中には棒を折られ、叩きのめされて泣きを入れる未来を想像していた奴も居るかもしれないが、その光景は絶対にやってこない。
相手の切り上げを回避して鎧の上から棒の一撃を入れる。俺の変幻自在の攻撃に周囲の歓声が上がった。
棒というのは実に便利な武器である。刃がない分、殺傷力は劣るものの、その自由度はほぼ無限だ。特に杖程度の長さは取り回しがしやすいので俺と相性がいい。次第に俺が攻勢になってゆく。
突き、払い、打ち下ろしなど、全ての武器と同じ動きが出来る点も気に入っている。剣なら刃の部分を掴むことになるから決して出来ない前後の持ち替えも棒なら容易だし、何より相手の意表を突ける。大したことのない威力の攻撃でも顔面や目を狙われると専用の訓練を受けねば本能で大きく回避してしまう。
その隙を逃さず攻撃を続けていけば簡単に勝てるのだが、それでは面白くない。
まずは相手の実力を発揮させてやらんと後からうるさい事を言われかねん。
相手が全力を出しつくした後で完勝することに意味があるのだ。
「そ、そんな馬鹿な……ライアンの攻撃が完全に見切られてやがる」
「さっきなんて敢えて紙一重で避けてたぜ。剣の軌道、リーチを見切ってなきゃできない芸当だ。つーかこれ賭けの内容を変更した方がいいな。差がありすぎて賭けにならねえ」
誰かがいい事を言ったな。俺は既にユウナに命じて俺に賭けさせている。幸い野次馬の中には数人の”組織”の奴等がいるので総額金貨3枚を賭けさせることができた。
人を見世物にして金を稼ごうとする奴らの上前を撥ねてやる。
「賭けの内容はそいつが俺に指一本触れられるかに変更な。全員文句ないだろ?」
「おう、せめてそれくらいじゃないと張り合いが出ねえ!」
「ライアン、テメエ気合入れろよ、こっちは大銀貨3枚賭けてんだぞ!」
「頭、せめてあいつに夢見させてやってくださいよ。これじゃあんまりにも可哀相だ」
「おい、胴元! 小細工すんなよ。この賭けは今の言葉で成立済みだからな!」
周囲が勝手に盛り上がる中、当のライアンは青い顔をして肩で息をしている。そりゃあんな大剣をひたすらに空振ってりゃ息も上がる。
そもそもいくら自信かあっても対人で大剣はないだろう。それだけでライアンの対人戦闘の経験の低さが窺える。たぶんモンスターとばかり斬り合って人間の相手は少ないんだろう。
あの武器はどう考えても対モンスター用だ。金属鎧に身を固めた敵を潰すにしても正面切って相対するなら他の小回りの利く武器がいいだろう。俺もライアンが油断なく長剣を持ち出してきたらここまで圧倒できたかは疑問が残る。
大剣はその重量で巨大なモンスターに痛撃を与える事は得意でも、人間相手ではただ振り回す武器になってしまう。そこらの新人なら脅威かもしれないが、俺にはただの剣を振る運動でしかない。
だからこんな簡単に間合いに入られる。
「はい、これで終わりだ」
振り下ろしにあわせてするりと内側に入り込んだ俺は棒の先をライアンの鼻先に突きつけた。
「こんな、こんなことが……」
「なんだよ、じゃあ3本制にするか? 俺も大して動いてないし、付き合ってやってもいいぞ」
俺の問いに答えるライアンの顔はさっきまでの焦燥とは異なっていた。どうやら彼も自分の剣から感じる手応えに違和感を感じていたようだ。
「い、いや、俺の負けでいい。だが、もう一番頼んでもいいか? もう少しで何か掴めそうな感覚が」
「なんだテメエ。負けた奴が見苦しいんだよ。引っ込めや!」
「そうだそうだ、こっちはお前にかけて大損してんだぞ、その面見せんじゃねえ」
「負け犬が引き際間違えてんじゃねえぞ! さっさと消えろよ。それか金返せこの野郎!」
あっけない敗北宣言に負けた周囲の野次馬が怒号を浴びせるが、ライアンは意に介さずに俺にだけ真摯な視線を向けてきた。
「まあいいさ、こっちのギルマスの方針が決まるまで暇なんだ。付き合ってやる」
現状は件の”深遠の淵”とか言う場所に向かう調査隊の編成中だ。実際はギルマス主導でほぼ完了しているようだが、各ギルドと騎士団からの出向組の調整に時間がかかっているみたいだ。
それでも明日には出発し、調査を開始すると聞いている。参加予定のスペンサーさん率いる黒い門や獣人のアードラーさんの部隊には既にその旨が伝えられていたそうだ。
やはり俺が考えるまでもなく既にギルド側も対策を打っていたのだろう。俺があそこで仕切らされたのは俺の能力評価試験と見て間違いないな。
俺にも一言あれば素直に協力……しないわ。いきなり言われたのも納得だ。
話を戻すが、ライアンの剣はその見た目通りに重いが鋭さも併せ持っている。最初の頃はそれを前面に押し出して俺を叩き潰そうという意思を感じたが、俺の技量を肌で感じてからはすっかり鳴りを潜めた。
だが、それ以降は何とか俺に一発入れてやろうと様々な手段を取っていて、その最中に変わった一撃を放ってきた。
俺もおや、と思う不思議な感覚だったが、放った本人は全く予期していない手応えに驚愕していた。
それはそれとして諦めの悪さも冒険者の美徳のひとつだ。生き残ってナンボのこの世界ではさっさと諦めるやつは長生きも大成もできない。
その意味でライアンはまさに冒険者といえた。最初の俺への敵意はどこへやら、いまでは貪欲に俺の強さを盗もうとしている。
「力を入れすぎるな。なんでもそうだが、技術の最後に行き着くのは脱力だぞ」
「くそ、だがよ、力を入れないと威力が乗らねえよ」
「必要な分を必要なだけいれるんだが、こればかりは繰り返すしかないか」
なんだか俺による訓練のようになってしまった。周囲の野次馬も払い戻しを受けてそれぞれに散っていったが彼の仲間を含む20人ほどが俺達の訓練を見守っている。多分彼の仲間以外はライアンが何を習得しようとしているか解っているんだろう。
彼が一皮剥ける瞬間を見届けようという腹だ。
「気を抜くな。こっちが反撃しないなんて言ってないぞ」
俺の打ち返しにライアンはたまらず後退する。
「ちょ、ちょっと待ってくれ、さっきの感覚が消えそうになるだろ!」
「訓練用の人形殴ってるだけで掴んでもしょうがないだろ。実戦で活きてこその技だぞ」
さっきまでは俺がひたすらライアンの攻撃を捌き続けるだけで反撃はしなかった。感覚がどうこう言っているが、緊張感のない訓練なんざただの反復運動だ。
命のやり取りを生業とする彼等には不必要な訓練である。
「くそ、さっきの一撃はなんだったんだ。手応えがまるで無い割には妙に威力が通ったんだよ」
「それが気になって普段の動きが出来ないなら忘れた方がいいな。助言はもうした、後はあんた次第だ」
「ああくそ、脱力、脱力だと!? どうすりゃいいってんだ、ああッ……!」
俺の攻撃を受けた際の処理が雑になり、追撃が防ぎきれないと悟ったライアンは南無三とばかりに大剣の腹で攻撃を受け止めようとする。
そのとき、攻撃を受け止めたライアンの体がいきなり吹き飛んだ。
「おわぁッ!? なんだってんだ今のは!?」
全く威力を乗せてないので痛みはないはずだが、体中を衝撃波のような波が貫いたはずだ。
「今のがあんたがやりたがっている技術だ。”徹し”ってやつだな。威力は無くても受ければこれだ、受け止めた時の感覚でどうやって打ったか解っただろ?」
呆けた顔で立ち上がり、俺に打ちかかってくる。いつも通り大剣の一撃を捌こうとしたそのとき、不意に手にした棒が弾け飛んだのだ。
「で、出来た! こ、これが”徹し”か!!」
鎧の上からでも打撃や斬撃の威力を徹す技術だ。武技ともスキルとも違うので習得が難しい技術なのだが、それゆえ汎用性が高くどんな場所でも使える強みがある。
「大剣使いが”徹し”を使えたら戦術の幅が上がるな。硬い敵も中から壊せることも出来るわけだしな」
「も、もう一度だけやらせてくれ。この感触が消えないうちに試したいんだ」
それから数度相手をしてやったが、その都度武器を壊されるので訓練所にある適当な武器がなくなりそうになった。木製はこれ以外なく、後は金属製になる。
「もう充分やっただろ。これ以上やるなら外で生きているモンスターにぶつけて来いよ。丁度このご時世だ、変わったモンスターが溢れてるんだからな」
「お、おお、そうするぜ。か、絡んじまって悪かったな」
「いや、こっちも気が立ってた。あんたは雑魚じゃねえ、大した奴だ。そこは謝罪する」
俺達は笑って握手を交わす。困ったことがあれば殴り合って解決するという脳味噌まで筋肉で出来ているような方法だが、男同士ならこれくらいのほうが円満に解決するのだ。
「噂どおりの凄腕だな、”嵐”さんよ。だが、脱帽だぜ。それにこんな技術まで教えてもらっちゃもう兜を脱ぐしかねえ。知ってると思うが俺はライアン、”レッドクリフ”のリーダーをやってる。何かあれば何でも言ってくれ、力になるからよ」
男くさい笑みを浮かべたライアンはそういい捨てると仲間と共に訓練所を出て行った。
「雨降って地固まるってやつ? こんな事をする必要があるなんて男って本当に馬鹿だよね」
「そういってやるなよ、男ってやつは納得ひとつするにも色々と理由をこじつける必要があるのさ」
離れたところで観戦していた相棒が呆れていたが、俺はそう擁護した。男って生き物はなかなか面倒な生命体なんだ。
そして次に面倒そうなのは目を爛々とさせているアードラーさんだ。
こりゃどうあっても俺を逃がしてくれる気はなさそうである。
「あ、私用事を思い出したからちょっと外すね」
「あ、汚いぞ。あれの相手は絶対にめんどくさいぞ」
去ってゆく相棒を睨みながら、俺は既に囲まれつつある獣人たちを見てため息をついたのだった。
「くそ、獣人たちの体力は無尽蔵なのか?」
俺はふらつきながらも立ち上がった。視線の先には談笑しながら去ってゆくアードラーさんたちの姿がある。あれほど痛めつけてやったというのにピンピンしていて、こっちの方が先に参ってしまった。
彼等はしきりに肉が肉がと言っていたが、まさかあの肉に何らかの魔法効果があるのか? 確かに初めて会った時も、体が栄養を吸収する前に反応が出ていたっけ。
ああ、疲れた。当然深手にはならないように手加減はしたが、それにしたって強靭すぎる。俺もかなり体力には自信があったが、まさかこっちが先に力尽きるとは思わなかった。
だが、体には最近とんと感じてなかった心地よい疲労感がある。
訓練が終わるまで待ってくれていたユウナの手を借りて歩き出そうとした刹那。
俺はユウナを突き飛ばした。
「ユウキ様、何をッッ!!」
ユウナが驚愕の声を上げるが、すぐにその理由に思い当たって周囲を警戒するが、遅い。
脅威は既に眼前に迫り、反応が遅れた俺は仕方なくそれを指で挟みとるしか方法はなかった。
「そんな、ユウキ様の<結界>を抜くなんて! まさか!」
そうなのだ。今の襲撃者の攻撃は俺の<結界>をブチ抜いて俺の前に辿り着いたのだ。
威力は減衰され、速度も落ちて見る影も無いが、それでも俺の<結界>を撃ちぬいたという事実に戦慄を覚える。
こんな芸当が出来る奴を俺は数人しか知らない。手にある飛んできた武器は……なんだこれ? クナイみたいだな?
「何故彼女がここに!? 担当が違うはず!」
ユウナが珍しく焦っている。俺の視線の先には蒼い弓をもった銀髪の若い女がいる。
その気配は完全に絶たれ、周囲にいる訓練中の冒険者達も彼女の存在に気づいていないようだ。
達人級の気配遮断だが、もしあの女が俺の知る存在だとしたらそれくらいは朝飯前なのだろう。
何しろ大陸に4人しかいない文字通りの化物なのだ。
「あれは”蒼穹の神子”ライカ・センジュイン! オウカ帝国が誇るSランク冒険者です!!!」
楽しんで頂ければ幸いです。
何故かここで出てくるSランク冒険者! おいおい、話の展開がずれてるんじゃないか? と思った貴方。大正解です。勝手に出張ってきたんだからしょうがない。(おい!)
本筋からは逸れておりません。さっさと収束させます。
いずれ本編でも書きますがオウカ帝国は桜華帝国と表記します。
4人も故郷では漢字表記ですし、今来た女も正式には千住院雷華です。なんちゃってファンタジーですが一応それっぽさを出すためにカタカナ表記です。
量が少なくてすみません。本当は前話をここで切る予定だったのですが、そうすると水曜に間に合わなくなるし、2万文字を超えるので分割になりました。
その分、次回は増量かつ急ぎますのでお許しをいただければと思います。(フラグ)
最後に新しいポイント評価制になったおかげか、評価ポイントを頂戴しました。
何も宣伝もしていない拙作にこのような過分な評価を頂木、誠に感謝しております。
感想も本当にありがたく拝読しております。皆様の反応が私の燃料と化しておりますのでこの場を借りて改めて感謝申し上げます。
次は言葉よりも更新で返したいと思いますので頑張ります。




