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世界最強になった俺、史上最強の敵(借金)に戦いを挑む!~ジャブジャブ稼いで借金返済!~  作者: リキッド


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冒険者ギルド 1

おまたせしております。


 

 それからいくらかの日々が過ぎた。その間変わったこともあったが、俺個人としては平穏な日々を過ごしていた。


 敢えて言うならセリカの店が稼働を開始したくらいか。


 エドガーさんはやはり恐るべき手腕をもつ商人だった。セリカから売り出したい品の一覧を確認したあと、すぐに行動を開始したのだ。好機を嗅ぎ付ける嗅覚とそれを逃すまいとする行動力は凄まじいの一言だ。


 彼一人では物理的に限界があっただろうが、ゾンダが自らの仲間としていた手下の中にはエドガーさんの元で働いていた者が多くいたので問題はなかった。セリカの問題はこれで全て解決してしまい、俺の腹案も日の目を見ることはなさそうだ。

 


 その後、あの夜はエドガーさんの生還を祝う大宴会が開かれ、散り散りになっていた商会の仲間が姿を見せる度、涙と乾杯の声が朝になるまで響いていたという。



 結果としてエドガーさんの他に番頭一人と手代が8人も揃ったランベック商会は即座に活動を再開した。

 商品は今もなお現在進行形で俺達6人で創り続けているし、異世界の商品を他店がどう足掻いても真似できる筈もない。

 ちらほら現れる同業者と思われる妨害はゾンダが、いや彼らの組織で一丸となって守っていた。



 組織の方でも恒久的に仕事がある点は有り難いし、エドガーさんは元々彼らの”身内”である。王都の組織は元を質せば全てシュウカに行き着くので、そこの幹部であった彼とその商会を守るのは当然と言えた。

 商会の会長が裏稼業の幹部というのはどうなんだと思わなくもないが、往時のシュウカは本当に王都全域に強大な影響力を持っていた一大組織だったようだ。道端で屋台をやっているおっさんから港で荷下ろしをしている下っ端まで構成員は数千を数え、各種様ざまな男達がたった一つの代紋を抱いて纏まっていたというから驚きだ。

 そこでの幹部となると大したもんだし、他の商会の頭も幹部会に名を連ねていたみたいだ。



 時に如月がとんでもないことを言い出した。俺達は<共有>によって<アイテムボックス>を仲間内で各自に使える理屈になっているのだが、彼はそれを利用しての商売を口にしたのだ。


 想像するだけで金の匂いがするほど儲かりそうだ。例えば海に近い町で海産物を買い、それを内陸の町でそのまま売り出すことも可能なのだ。しかも量の制限なく行えるそれは間違いなく商人の世界で天下が取れる力だった。

 実際に俺達だけで行うなら問題は多い。最初は儲かるだろうがそれは嫉妬を呼び、要らぬ恨みを買うし最後には絶対に権力者が出てきて、築き上げた成果や仕組みを奪ってゆくのがオチだろう。人質を取って言う事を聞かせるのもアリだな。


 基本貴族は平民から奪うことに何の良心の呵責も感じない奴等ばかりだからこれは間違いない未来だろう。むしろ貴族が有効に使ってやるから平民は泣いて感謝しろ位の気持ちでいる連中だ。

 こういう奴が俺の周囲にいないのは、俺が近づかないからであり、クロイス卿やバーニィが気を遣ってくれているからである。

 気を遣う方向は、貴族に不幸な事故が起きないようにするためであるが。


 だが、これを貴族でさえ手出ししにくい大きな商会でやったとしたら……夢が広がる話だ。


 しかし、じゃあ誰がやる? と聞いたら皆が目を逸らしたので、夢は夢のままで終わりそうである。エドガーさんが近くにいなくて良かった。


 ただ、話の筋は良い。情報を持っておけば人助けにも使えそうだ。たとえば作物が大豊作のときに大量に買っておいて凶作の時に放出するなどの対策が取れるな。クロイス卿など偉いさんに話をしておけばいざと言うときの保険になるかもな。




 そしてエドガーさんたちの動きは目覚しく、三日前には絢爛豪華で知られる公爵家の大ホールを貸し切り、王都中の貴族や金持ちを招待して御披露目を行ったという。


 ホテルサウザンプトンのグラン・シェフを招聘して招待客に極上の料理を振舞い、貴婦人達は美しい女達が施術する美容効果が素晴らしいとされるマッサージ(よくわからん)を行った。


 既にセリカが自分の交流のある夫人達に行っていたそうだが、年齢が一回りは若く見違えるほどの美肌と、その身を飾り立てる見たことのない宝石類は、回りの女性の身を焦がす程の嫉妬を集めただろう事は想像に難くない。


 女は他人の嫉妬を受けて美しくなるのよ、とセリカが豪語していたが、その後の予約殺到ぶりを聞けば彼女の言葉に頷かざるを得なかった。


 その他にも異世界の酒や嗜好品がこれでもかと饗され、思うさま極上の至福を味あわせたあと、エドガーさんがこれからも我が商会をご贔屓願いますと場を締めると、万雷の拍手で迎えられたそうである。



 もちろん俺は参加していない。エドガーさんは俺を大々的に紹介したかったようだが、いろいろな理由で断固拒否した。同じ理由で拒否した雪音以外は皆参加したみたいだ。レイアやユウナも楽しそうだから行ってこいと送り出したら、男装姿のレイアはご婦人達に大人気だったと玲二が言っていた。


 なんとリノアまでこっそりと着飾って参加していたというが、そういえばグレンデルの時もリノアは誰に気づかれることなく公爵家に潜り込んでいたな。




 王族のソフィアは当然参加しているので相棒もついていった。そうしたら珍しく雪音と二人きりになったので、折角だからとクロイス卿が教えてくれた穴場中の穴場、景色の良いリストランテで豪華な夕食と洒落こんだのは二人だけの秘密だ。




 そして今、俺は王都の冒険者ギルドに詰めている。



 ギルドとの和解は成った。俺は本当にどうでも良かったのだがユウナが頑張ってまとめた話なので勝手にしてくれとは言えず、和解の席に赴く羽目になってしまった。


 和解の席は王都ギルドで行われたが、中央の仲裁人の席にクロイス卿が居たので彼のためにもますます俺が勝手をする訳には行かなかった。


 彼の仲裁でまとまった件ということにしているので彼の仕切りで話は進んだ。


 こちらはユウナがかなり無茶な条件を出したらしい。ダンジョンドロップ品のギルド以外への販売許可や各種手数料の無料化、買い取り価額の倍増など、ギルド内部の人間だからこそ言えるギルドにとって痛いところを突かれる内容だった。


 俺個人に特例を与えることはともかく、前例を作ることを嫌がったギルド側との調整は相当に難航したようだが、クロイス卿に便宜を図った方が結果として利益は大きいので彼の手柄となるように手を打った。


 結果としてそれらの条件は全て取り下げられ、ギルドマスター直々の謝罪でケリが着いた。


 ギルドは体面を、俺はクロイス卿が冒険者ギルドに大きな影響力を得てこの件は手打ちになった。

 俺としては受付嬢に無視されただけで終わったはずの案件だが、随分と大事になったもんだ。



 その結果として、俺は日中はこのギルドに詰めていることになった。元々俺をモンスター異変に対応させる腹積もりだったようだが、そこは俺というかユウナが強硬に反対した。


 俺をなんでも解決できる魔導具か何かと勘違いしているとしか思えないからだ。


 俺がこれまでやって来たことは多くの人の手を借りて為してきたことばかりで、個人での功績など何もない。

 ダンジョン探索とこの国に起きつつある異変を同一視されても困る。<マップ>も便利ではあるがこの件の解決にはまるで役に立たないからな。


 あれは異変の探索という意味ではほぼ無力だ。地形や敵味方を判別できるが、その敵が異変に関することなのかそうでないかは実際に出向いてみないと解らないからだ。

 であるなら頭数を揃えて近郊の怪しい場所をしらみ潰しにした方がまだ可能性はあるだろう。

 つまり個人の俺はほぼ役に立たないという結論になるが、ギルドマスターのドラセナードさんとしては俺を手元に置いておきたいようだ。掃除屋くらいしかできないと思うのだが、それでも構わないらしい。


 俺としては暇をもて余すより少しでも稼いでいたいが、それが顔に出たのかあちらから待機中の賃金支払いの申し出があった。


 なんとここに一日居るだけで金貨一枚だそうだ。


 明らかに破格のはずだが、俺には鼻で笑いたくなるような額ではある。

 だが、それがドラセナードさん個人の懐から出ていると聞いてしまったら、彼の誠意に応える他なくなってしまった。




「でもたまにはこういうゆっくりした時間もいいよね、これまでいつも大忙しだったわけだし」


 俺達は巨大な王都ギルドの資料室の中に居た。周囲に俺たち以外に人影はなく、静寂が支配るする中、僅かにある木窓から差し込む太陽が光の帯を作っている。



 この資料室は本来は立ち入るだけで入場料を取られるほど貴重な資料が納められているギルドの知恵の結晶とされる部屋だ。


 そんな知恵の結晶という割りにはあまりにも埃が被っていたが。


 俺はギルドに詰めている間はどんなものも好きなだけタダで使って構わないと言質を取ってあるので、普段できないような事をしようとこの資料室を覗いていた。



 質の悪い羊皮紙に書かれた手書きの本ではあるが、本そのものがとてつもなく貴重なこの世界では高級品である。

 俺の手垢が付くだけでも管理者がいればお叱りを受けそうな本を適当に捲っていく。


 ここにある書籍は多分価値があるのでは? というような書物をかき集めてある場所だ。だから資料室なんだが、現状を正直に言わせてもらうならば……とりあえずそれっぽい物を放り込んであるだけのゴミ捨て場だ。もちろん図書室もちゃんとあって、あちらは王都周辺のモンスターやアイテム図鑑などより実践的な内容の品が納められている。それらは既に目を通した後だ。



 何か面白いものがあるかな? と覗いた俺の視界に入ったのはゴミのようにうず高く積まれた書籍の山で、こういった部屋に必要な整理整頓は全く為されていなかった。管理者がいないようで完全に放置されていて、誰にも見向きされていないのは一目瞭然である。


 このギルドで特にすることがなかった俺だが、別にだからといって掃除をしてやる義理はなかった。

 しかし、とある事情によりその予定を変更して整理をしてやることにした。


「いやぁ、きちんと整理された空間は最高だね!」


「本の精霊にそう言ってもらえて光栄だよ」


 椅子にだらしなく腰掛け、新しく手に入れた<速読>(消費は20P)を使ってとある錬金術師の日誌を流し読みしていた俺の目の前に不思議な物体が現れたのはそのときである。


 大きさはリリィの10倍はありそうでそこらの幼児と同じくらいだが、それは宙に浮いており、更には半透明に透けていた。


 人ならざる者の出現に驚いた俺だったが、本人は本の精霊と言い張り、この乱雑な部屋を何とかしてほしいと泣き付いてきた。


 <鑑定>では風の人工精霊というさらに面白い存在だったので彼女? の話に乗ることにした。リリィもこの精霊を気に入ったようだしな。


 この混沌の極致のような場所を一人で掃除するのは無茶だが、俺は初めから手で一々整理する気はなかった。


 いつもダンジョンで行っているように部屋中の書籍をまとめて<アイテムボックス>突っ込んで、さらに追加機能である整理をすれば勝手に文字順に並び替えてくれるのだ。

 それをあとは纏めて出して本棚にしまっていけばいいだけだ。



 それにここに居るのは俺だけではない。


「ねえ、ここの暗号はまた鍵が変わってるの?」


「ん、ああ。”右から三段目”って書いてあるけど。それで解るか?」


「ああ、そういうこと。これで繋がったわ、ありがと」


 俺の魔法の姉弟子でもあるアリアが書籍を手にこちらにやってきた。個人的な研究冊子、いや走り書きのようなものだが、全て本人しか解らない暗号で書かれているので解らない所は俺に解読に来るのだ。



 事の発端は俺が魔導具であるイリシャの眼鏡の礼にセラ先生のところに赴いた事から始まった。


 俺は礼として最近手に入れた”錆びた聖杯”によってもたらされるマナポーションを定量届ける事にした。

 金貨でもよかったが、セラ先生はマナポーションに蜂蜜を加えて甘く味付けした特製品を金貨1枚半で売りつけており、どれだけ作っても追いつかないほど売れているという。

 なにしろ顧客は他のダンジョンを制覇して既に大金持ちになっているであろう超一流冒険者達だ。その彼等が死ぬほど不味いマナポーションを仲間のため、そして自らが生きるために敢えて飲んでいるのだ。大銀貨10枚分の値上げとはいえ、魔法職が普通に甘く美味いマナポーションを喉から手が出るほど欲しがっているのは良く解る話だからな。 

 そのことに文句を付けている輩は実際にマナポーションを飲んでみるといい。俺はあれを飲み続けている他の魔法職に敬意を抱きたくなったほどだ。



 そういう訳なので、5個とはいえ毎日必ず手に入るマナポーションを半月の間渡し続けることで話はついた。セラ先生の本音は聖杯そのものだろうが、あれは金貨一万枚でも安いだろう、それだけ払っても単純計算で5年半で元が取れる。

 あの眼鏡の魔導具は精々金貨100枚だろうからそこまで融通を利かせることはできない。そもそも蜂蜜もこっちが出しているからな。さらに蜂蜜と砂糖で量を増しているから渡した5本で8本分が造れているという。明らかにぼろ儲けなのだ。



 その話の中で今自分が王都ギルドに詰めていて、資料室なるよく解らない本の山に囲まれている話をしたらセラ先生が妙に食いついてアリア姉弟子をこっちに派遣したと言うわけだ。


 姉弟子と共にレイアもこっちに出張っているなか、俺達が読み進めているのが先程の人工精霊を作り出したという錬金術師の残した書物である。


 古ぼけた本に封じられ、名さえ貰っていなかった精霊にシオリと名付けた相棒は色々と話を聞きだした。その中に件の錬金術師が秘術を残した日誌があるといい、アリアとレイアがそれを探していると言うわけである。

 そのなかで乱雑に積まれた……いや、間違いなく資料質に適当に放り込んだだけの大量の書物から探すのは簡単でない。

 なにしろ無駄に巨大な建物であるから資料室も相当の大きさだ。それが管理する者もなく新たに大事そうだからこっちに放り込みました、見たいな感じで積まれている羊皮紙の束などが散乱しているのだ。


 だからまずは整理整頓から始める必要があったのだ。だがそれは<アイテムボックス>のおかげでごく短時間で済んだので、俺達三人はその錬金術師が残したとされる数百の冊子を一つ残らず目を通しているのだ。


 <速読>は用途が限定されるが便利なスキルだった。めくった項の全体を瞬時に記憶して頭に叩き込むようで、一冊読むのに3寸(3分)とかからない。俺と同じスキルを使えるレイアで気になった箇所を探し出し、アリア姉弟子がそれを精査している。


「日誌からするとたぶんこのザイードの研究所が王都内にあるはずね。記述からも通った魔法屋とか雑貨屋とかあるし間違いないはず。研究日誌だけあってそこで書かれたであろう研究所が解ってないってのも変な話だけど」


「あ、それはアタシやったの。ザイードの奴、いつの間にか帰ってこなくなっちゃってさ、アタシこのままは嫌だから特定の人に気付いてもらえるような信号出してたの。上手く見つけてもらえたんだけど、その人本に興味ないまま死んじゃったのね。そしてそのままこの建物にずっと放置よ、放置。ひどい話よね」


 ずっと本に閉じ込められていたから場所は解らないと言うシオリだが、先程アリアが言った店などから大体の見当はつく。<マップ>上で怪しいと思われる箇所を上げてゆくとレイアも気付いたようだ。


「我が君、お許し頂けるらその場所に行ってみたいのだが……このザイードなる者、シオリを作り上げた手腕を見てもなかなかのものです。頂戴できる貴重な物資もあるやも知れません」


「ああ、俺も気になる。別にここに詰めてろったって四六時中居ろってわけでもないし、行ってみようか」


 俺と王都ギルドの関係は険悪、とまでいかなくても良くはない。ギルドマスターのドラセナードさんが精々好意的中立というところか。

 結局あの受付嬢がギルドを辞めてしまった関係で俺への悪感情が増しているんだと思うが、これに関してはユウナを責めるつもりはない。当初こそやりすぎの感はあったが、クロイス卿の登場でこちらの要求は取り下げているからどうこう言われる筋合いはないのだ。

 むしろ謝罪の場にあの受付嬢の父親が何故か同席していて、彼からの丁寧な謝罪を受けて逆に俺が困惑したほどだ。


 だが、結果として俺が王都ギルドの構成員をひとり辞めさせたことに変わりはなく、俺は彼等から敵意を向けられていた。

 ウィスカのギルドならばこちらから便宜を図ってでも風通しを良くしておく必要があったが、彼等にいい顔をする義理もないので俺はこうやって人気のない場所に好んで入り浸っている。

  

 ユウナや玲二たちはこんな真似までされて黙っている必要はないと怒ってくれてたが、俺は丁度いい骨休めだと思っている。日課である朝の探索は行っているので今日も金貨1000枚は稼いでいるから借金はわずかではあるが順調に減っていて、俺はこうやって相棒とゆったりした時間を楽しんでいたわけだ。



「どちらへ向かわれるのですか?」


 資料室は本当は関係者以外立ち入り禁止なので、アリアとレイアは転移環で一度セラ先生の店に戻っている。例の場所でまた転移環を置き、落ち合う話になっていた。


 そんなわけで一人で部屋の外に出た俺に硬質な声が掛けられたのはそのときである。


「君も暇だな。ギルドの業務もあるだろうに」


「貴方の補佐をすることが私の今の業務ですので」


 少年のような高い声をしているが、その言葉には刺々しさを隠そうともしない。

 俺の視線の先にいるのは白い髪の少年、いや少年のような格好をした少女だった。ギルドによってつけられた監視で名前はハクというようだ。すらりとした細身の体だが、<鑑定>によればちゃんと仕事をこなした経験もある”暗殺者”だという。

 このような人間をつけるあたり、ギルドが俺をどう思っているか良く解る話である。


 だが、同系統の技量を持つユウナにしてみれば無視しても構わないレベルらしく、珍しく彼女が放置していた。俺としては彼女が適当に処理してくれると思っていたので対処が遅れ、相手としては監視の存在を了承したと見なされてしまった。

 俺としても彼女と長く絡む気はなく、向こうも接触は最小限なので会話も殆どない。だが、絡みつくような視線だけは常に感じていたので、めんどくさくなった俺は色んな個室に逃げ込んでいるという塩梅だ。


「ちょっと気晴らしに外に出てくるだけさ。すぐ戻る」


「わかりました。何かあればお知らせします」


 外出先でどう”お知らせ”するのか気になったが、敢えて無視した。俺達は気になった事を気軽に訊ねる関係ではないし、突っ込んだ事を聞いて深入りもしたくない。

 

 王都の上層部を悩ますモンスターの異変はアードラーさんたち獣人部隊が投入された事により捜索範囲が劇的に広がっていた。これまでの十倍以上の広さを短時間で捜索する上に、熟練の狩人でも見つけられない痕跡を易々と発見して持ち帰る彼等にギルド側は大いに期待しており、彼等を引き込む判断をしたクロイス卿とギルドマスターの評判は日増しに高まっていて、俺の評判は逆に下がっていっている。


 呼ばれた割に何もしない上、更には未だにリルカのダンジョンのボスドロップ品や情報をギルドに提出していないからな。ギルドの上の方は俺達が踏破した事実を掴んでいるが、こちらから口にしないので向こうも聞くに聞けないようだ。既にジェイクに振った話なので向こうの返事待ちなんだが、多分何もかも俺のせいになっていそうではある。

 俺としては王都側の心証を徹底的に悪くして二度と気軽に呼べないようにしてやるつもりなので願ったり叶ったりである。ウィスカのギルドはこれからも仲良くするが、王都のギルドに利用価値はない。



 数多の刺すような視線を背中に感じつつ巨大なギルドを跡にした俺はザイードなる錬金術師の研究所に向かって歩いてゆく。東地区の中央辺りに目星をつけた俺は住宅街が立ち並ぶ辺りにまで足を運んだ。こんな場所に研究所が? と思わなくもないが、アリアに言わせるとこういった目立たない場所に敢えて作ることが多いんだそうだ。


「お宝あるかな!?」


「金目のものかはわからんが、価値はあるんじゃないか?」


「学術的価値ってやつ? 本人以外ゴミってやつでしょそれ! キラキラしたやつがいい!!」


 俺はスキルこそ持っているが錬金術には全く詳しくない。だが、さきほど研究日誌を読んだ限りでは触媒やらガラス製品やら調合素材やら金が掛かりそうな品物が散見された。セラ先生やレイアがやっているポーション系の<調合>も大まかに言えば錬金術の一種だから彼女達に渡せば金貨に変わる可能性はある。



「ここかな?」


「ああ、魔導具で隠されてるけど、地下への階段があるね。ほんとに住宅地にあったんだね」


 アリアたちを呼び、<隠蔽>の効果を持つ魔導具で隠された地下には広大な工房があった。主を失ったその工房には防犯対策だろう武装した小型ゴーレムが襲い掛かってきて難儀した。

 強くはない、ただ姉弟子が何とか捕獲しろと煩かったのだ。なんでもまともに動いているゴーレムは超絶に貴重なんだとか。確かにダンジョンに居る奴は倒したら消えちまうから、あれは別枠だ。


 俺にとっては面白い空間だったが、アリアとレイアにとっては宝の山だったようだ。すぐさまセラ先生も駆けつけ、ありとあらゆる品を手にとっては楽しそうにしていた。レイアも<アイテムボックス>に片っ端から品物を突っ込んでいる。

 そうそう、結局ゴーレム5体は<アイテムボックス>に突っ込めた。生命体ではないから入る理屈らしい。後は先生に任せればいいや。


 ここでの一番のお宝はホムンクルスだな。人造人間と呼ばれるそれらは錬金術の極みとされる品物で、セラ先生も昔は良く作っていたらしい。今ではとある材料が貴重すぎて全く創っていないようだが、ここにはそのホムンクルスが2体存在した。現在では貴重な材料が豊富にあったようだからザイードなる男は相当昔の人物だったようだな。

 そんな古い品物でも使えるのか疑問たったのだが、この手の品はちゃんとその手の防備が施されていて、むしろ古いほうが質が良いみたいだ。俺には良くわからん世界である。

 

 それはそうと俺もこの人造人間を見て思いついたことがあるのだが、相棒に強い調子で拒否されてしまった。うーん、名案だと思うのだが。


「ダメ、絶対絶対ダメだからね!!」



 思わぬお宝を手にして気色ばむ姉弟子たちを見送った俺はギルドへと戻る。最近は余った時間を利用してポーション作りを始めたのだ。ギルドの中には簡単な調合を行える場所もあり、そこを利用している。リルカのダンジョンで使ったり他の冒険者達と交換したりで大分目減りしてしまったポーションなのだが、ここで買うのではなく生産をしてみようと思い立ったのだ。


 やってみるとなかなか面白い。バリバリ武闘派のレイアがのめり込むのも解るというものだ。


「ほんとなら生産系で成り上がるのも基本なんだけどねぇ」


 リリィが俺の肩の上でそうぼやく。いいたい事は解るが、借金の額が額だからな。利子だけで金貨300もっていくという常軌を逸した話なのだ。同じ理由で商売も無理だしな。エドガーさんなら相当額を稼ぎ出すだろうが、ポーション製作や商売で一日金貨300は無謀すぎる。

 今となっては金貨一枚であくせくしていた初めの頃が懐かしいほどだが、あの頃はダンジョンでひたすら数で稼ぐという方法しか取れなかったな。

 余裕が出てきたからこそこういった副業もこなすことができるのだ。

 それにポーション製作はもうひとつ意味がある。

 

 これで俺の冒険者ランクが徐々にだが上がるのだ。一昨日から納品を始めたので、5回目にはFランクからEランクに上がる予定だ。

 今までもこれからも冒険者の位階に興味はないが、あの騒動もある意味では俺の非もある。もし俺がDランク冒険者だったら向こうの対応も僅かに変わったかもしれない。新品のFランクカードを出した俺の言葉を疑ったあの女が一番悪いのだが、向こうの言い訳にも一理あるのは確かだ。

 なのでギルドでも出来る生産系クエストを少しこなしてランクを上げておこうと思ったのだ。

 ちなみに玲二と雪音もまだFランクだ。雪音は店が軌道に乗りさえすれば俺と共に色々創りたいようだし、玲二は王都近郊のクエストに挑戦したいようだ。

 二人は二人で今忙しいのだが、俺も後数日で一区切りがつく。

 実はこの異変の調査に向かっている冒険者達が一堂に会して報告を行う会議があるのだ。その結果次第で捜査の方向性が決まるはずであり、俺をここに留めて置く必要性も無くなるはずだからだ。


「まずはゴブリン退治からだね。テンプレこそ王道」


「てんぷら? ああ! 天麩羅食いたくなったなぁ。玲二作れるかな」


「おお、てんぷら! ってひとのはなし聞いてる?」


<なあ玲二、てんぷらが無性に食いたいんだが、作れるか?>


<はあ? いきなり何の話だよ……いや、作れるけど。てんぷら粉は今から創造するのは無謀だから小麦粉と卵でなんとかすれば……いやだが仕上がりがよくないか>


<へえ、天麩羅か、いいねえ。でもほんといきなりだね>


<わたしがテンプレの話をしてたらいきなりユウが思い出したみたい>


<肉のてんぷらはありますかワン?>


<駄犬は黙ってろ>


<念話>で賑やかにやっていると、なにやらギルドが騒がしい。揉め事は血の気の多い冒険者には日常茶飯事だが、こんな日中からとは珍しい。



「うるさいわね! あんた達には関係ないでしょう!!」


「へッ! 否定しねえって事は事実なんだな。あの”緋色の風”が奴隷落ちたあ悲惨なもんだな! ええ、いくらで買われたんだ?」


「黙りなさい! 下種が!」



 目の前では見たことのある4人の女達が10人以上の男達に囲まれていた。口汚い言葉を投げかけている男達は見た感じまだ日も高いってのに酒精に侵されているようだな。

 しかし……


「お前ら本当に揉めるの好きだな」


「あ、ボス!」


 俺の呆れた声に振り向いた長身で金髪の女が喜びの声を上げた。初対面の時とはだいぶ反応が違うが、色々努力して誤解を解いた結果だ。


「なんだぁ小僧!? ガキの出る幕じゃねえぞ。引っ込んでろ!」


 俺に凄んできた酒臭いおっさんの首を掴んで持ち上げた。不本意ながらまだ小柄な俺により宙に浮いたおっさんは足をバタつかせた。周囲の男共が息を呑むのが解った。


「真昼間から酒飲んで女に絡んでんじゃねえよ。みっともない」


「や、やめ……!」


 赤くなった顔が青くなってきたところでごく軽い<威圧>を掛けて諭してやる。


「酔いは醒めたか? ならば消えろ。お前ら死ぬほど格好悪いぞ」


「ああ、醒めたよ。わ、悪かったな」


 10人以上の男がすごすごと退散してゆく様を見もせずに俺は近くに佇んでいたハクを睨みつけた。


「ギルドはせめてギルド内でのいざこざを止めるくらいはしろよな。最低限の仕事はしろ」


「どちらにも肩入れしないのがギルドの規則ですので」


「義務の放棄にしか聞こえないな。無能の証明をして楽しいか?」


 剣呑な空気が流れたあたりで話を打ち切る。目の前のガキより知り合いの女達だ。

  

 彼女達は”緋色の風”というBランク冒険者だった。これほど目立つ美人の割に聞かない名だと思っていたら遠くオウカ帝国で主に活動しているようだ。

 そんな彼女達が奴隷に落ちた理由だが……そもそも冒険者が奴隷に落ちる理由など決まっている。

 博打に狂うか詐欺や罠に嵌るか、仕事で下手を打つかしかなく、彼女達は一番最後だった。


 これもよくある話なので、俺は大した興味も抱かなかった。彼女達を買った一番の目的はエドガーさんを確実に手に入れるためだ。明らかにあの場で主役であろう彼女達を差し置いて見た目は冴えないおっさんを買うと言い出せば何か秘密があると思われるだけだ。

 間違いなくこちらの言い値では売ってくれないだろう。むしろ俺なら値を吊り上げて絞れるだけ絞りとるから、それを隠す格好の道具として彼女達を買ったに過ぎない。

 

 第一女奴隷なんて危険極まりない存在はいらん。こっちには妹分が何人もいるんだ、彼女達の教育に悪い物を見せたくはないし、実際に買った瞬間にその存在は皆に知られていて容赦のない質問攻めにあった。

 エドガーさんの才覚を金貨70枚という格安で手に入れた事を思えば非常に安い買い物で、この女奴隷たちも買った分の借金を返してもらえれば俺としては言う事はない。そうなるとエドガーさんは金貨10枚で手に入ったことになる。素晴らしい買い物だった。


 借金の証文を作れば、ユウナに任せてどうぞお好きに、という流れのつもりだったのだ。

 だが、とある事情で彼女達との接点が出来てしまった。が、それはさておくとして。


「とりあえず奥へ行くか。ここにいつまでも居ても仕方ないしな」


「こちらも今しがた報告を終えたので問題ありません」


 パーティーリーダーである僧侶の銀髪の女、スイレンがそう応えたので俺は彼女達を連れて元から向かう予定だった調合室へ向かうのだった。

 

楽しんで頂ければ幸いです。


今回の話は少しでもランクを上げようね、という話です。

そう簡単に話は転がらないのが世の常ですが。


次は水曜目標でいきます。

読んでいただける皆様が心の支えであります。よろしくお願い致します。


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