表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界最強になった俺、史上最強の敵(借金)に戦いを挑む!~ジャブジャブ稼いで借金返済!~  作者: リキッド


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

140/418

リルカのダンジョン 7

お待たせしております。



 

 最終ボスが待ち構える部屋は、これまで以上に巨大な部屋だった。数百人どころか千人は入れそうな広さに加えて、高さまで十分すぎるほどあった。

 その広間の中央に、リルカのダンジョン最後のボスが鎮座していた。



「これが、グリフォン……!」


「姿はイメージ通りだけどよ、ここまでデカいとは思わなかったぜ!!」


 見上げるような巨体のグリフォンに毒づきながら玲二は背後に回ろうとする。

 当初の計画ではアインが正面を担当し、ジュリアが横から当たってアイスが中距離で牽制。そして玲二が背後から重い一撃を加えるという手堅いものだったが、その計画は早くも崩壊の兆しが見えていた。


 グリフォンが巨体の割りには動きが敏捷なのだ。


 やはり空を飛べる種族は優れているな。玲二が背後に回ろうとも、ヒラリと浮き上がったと思うと華麗に回転して向きを変えている。あれでは容易く背後に回れないし、そもそも背後には強力な武器があった。


「この尻尾、鋼鉄みたいな堅さだぞ! そのくせ滑らかに動きやがる!」


 鞭のように相手を撃ち据えることもあれば、槍の刺突のように突き出される事もあるその尻尾は、まるで背後に目がついているかのように正確に玲二を狙っていた。そしてその威力は用心のために持っていた鋼の盾を易々と貫く威力だ。もし玲二がその向上した各種能力値がなければ命を落としていたかもしれない。


 四足動物の死角は背後、より正確には背中だ。体の構造上、背後に手が届かない事を利用したかったようだが、グリフォンには翼があるのでその死角も通用しなかった。

 

 その翼も羽毛のはずなのに剣を受け止める程硬く出来ていて、容易く損傷を与える事は難しいだろう。



 そして正面を受け持つアインも苦戦していた。グリフォンの鷲の部分の体皮というか羽毛が、想像以上の防御力だったのだ。

 今のアインの腕をもってすれば敵兵の鎧ごと断ち切ることさえ可能だっただろうが、恐らく魔力で強化をされた羽毛は彼の一撃を易々と弾き返した。


「なんて堅牢な体だ! これは真正面から叩くのは下策か」


 グリフォンも当然反撃する。正面のアインには鉄さえも切り裂く爪と、同じ威力の嘴が襲いくる。長く対人技術を仕込まれてきた騎士としては全く慣れないモンスターの攻撃に防御するだけで精一杯だった。


 二人は苦戦を強いられていたが、それでも俺は動くつもりはなかった。

 なぜなら戦っているのは二人だけではないからである。


 なんとか耐えて戦線を維持する男二人を尻目に、アイスとジュリアは順調に攻撃を加えていた。

 むしろ二人はアイス達を攻撃に専念させるため、あえて敵を引き付けるつもりで苦戦を続けていると思われる。


 アイスが主に鞭を使って相手を固定し、ジュリアが宝珠を用いて近距離から魔法攻撃する戦法はかなりの効果をあげている。ジュリアを嫌がって距離を取ろうとする相手に、炎の鞭が襲い掛かって敵を足止めする。ダンジョンモンスターでも元となったモンスターの習性をいくらか受け継ぐのか、グリフォンは炎を特に嫌がった。


 そして炎の鞭には変わった特殊能力がある。魔力を使用することにより、鞭を当てた場所を小規模ではあるが任意で爆発させることができるのだ。

 アイスはそれを利用して上手くグリフォンを牽制、足止めしてジュリアが効率的に行動できるように動いている。



「あの双子は流石の動きです。玲二殿とジュリア様が戦いやすいように場所を選んで攻撃していますね。特にアインは大したものです。指揮をしながら敵の注意を引きつけると同時に、もっとも危険な正面を受け持っています。近衛騎士として名を馳せるだけのことはあります」


 あ、今ユウナが地味にネタバラシをしやがった。もちろんあの二人が普通の騎士ではないとは解ってはいた。

 平民でも騎士になる方法はある。年に一度行われる騎士登用試験で合格すればよいのだ。

たが、その試験も縁故と裏金の巣窟との噂だし、貴族家の次男三男や騎士の家の跡取り等で殆ど席は埋まっていると聞くから、平民が成り上がるのはよほどの大天才でもなければ無理だ。平民から騎士への成り上がりはほぼ不可能だと見てよいだろう。


 だが物事には例外もある。それが近衛騎士だ。騎士以上の武勇は当然として、礼節と高い忠誠心が必要な近衛騎士は貴著に選ぶ権利があるそうだ。


 騎士という生き物は王命と父親、どちらを選ぶかと問われたら父親と答える方が尊ばれる傾向にあり、歴代の王家を悩ませてきた歴史があるから他に身寄りのいない孤児などうってつけかもしれない。

 その分、嫉妬ややっかみも多いだろう。その雑音を吹き飛ばす結果や実力を双子の騎士は求めてこのダンジョンにやって来たのだ。

 

 しかし、そうなるとセリカは……ああ、やめやめ。深く考えないようにしよう。


 最近は<マップ>やら<鑑定>やらですぐに解答が解ってしまうことが多いから、敢えて知らないままにしておくことが増えた。特にセリカの件は俺に不利益があるとは思えないからな。

 只でさえあり得ないほどの面倒を押し付けられているのだ。これ以上俺に何かするより、毎日利子を搾り取っていた方があちらとしても絶対に都合が良いはずである。


「お、動きがありそうだな」


「はい、敵も本気になったようですね……」



 甲高い声で鳴いたグリフォンが空高く舞い上がった。そのまましばらく滑空すると、魔法でも有効射程外でただ見ている他ない俺達を尻目に高空から風属性の魔法を撃ち下ろしてきた。しかもあれは中級のサイクロンだな。


「うわっ、空から魔法は反則だぞ!」


 サイクロンは一定範囲を風の刃で切り刻む魔法だ。固まっていた玲二たちは散開して難を逃れたが、グリフォンは次々とサイクロンを放ってくる。ボス部屋が広大なのでまだ退避する場所に余裕はあるが、これじゃ()()が開かんな。


「あっ、こりゃまずいかも」


 不意に空中のグリフォンが大きく羽ばたき始めた。舞い散る羽根が……いや、あれは魔力の塊がグリフォンの周囲に無数に漂い始める。



「みんな、撤退。こっちへ戻れ!」


 俺の声に皆は反駁することなく黙って従った。俺から見て一番遠い場所にいたアインは玲二がステータスに任せて担いでやって来るが、間に合うか微妙なところだ。

 俺は彼らを助けるため、<結界>の範囲を数倍の大きさに広げた。



「間に合ったぁ!」


 玲二の叫びと共にグリフォンが打ち出した魔力の羽根が着弾する。青白い光を伴ったその羽根は、ひときわ強い光を放つと次の瞬間爆音と共に炸裂した。


 その威力は凄まじく、頑丈きわまりないはずのダンジョンの床に穴を開けるほどだった。そんな羽根爆弾が無数に降り注いで俺の周囲を爆発で包み込んだ。


 しばらく続いた爆発地獄はグリフォンが全弾撃ち尽くすまで続いた。

 その猛烈な爆発が収まったあとには、穴だらけになった破壊の跡がボス部屋に広がっていた。


「凄ぇ威力だな……魔法で散らされた後にこの爆破はたまんないな。しかも空中にいて邪魔もできないしよ」


「いや、ここはユウキの護りを称賛する流れだろう? あれほどの威力の攻撃を凌ぎきったのだからな。これまで幾度となく助けられては来たが、これ程の強度だとは思わなかったぞ」


 アインはしきりに感心しているが、この程度のショボイ攻撃じゃ同時に一万発食らってもどうにもならんぞ。

 一度キリングドールに貫かれてからというもの、<結界>の強度と密度は俺の最重要課題だったので、隙さえあれば改良を重ねており、今では比べ物にならぬほど強化されている。今までスキルはただ画一的に効果を発揮するものだと思っていたが、玲二や雪音の発想に感化されて俺もこれまで何気なく使っていたスキルの見直しをしている。<結界>もその一つだった。



 グリフォンとしては必殺の攻撃だったのか、悠々と地上に降りてくるが、俺らが無事だと解るとまた飛び始めた。


 相手が地上にいないのなら今の装備の俺達に出来ることは殆どない。

 仕方ないので<結界>内で作戦会議と行こう。



「じゃあ、とりあえず一当たりした感想を。それぞれ感じたことを言ってくれ」


「そうだな、戦い方としては悪くなかったと思う。相手の攻撃パターンも大分出揃ってきたし、方針はこのままでも良いと思うぜ。相手が飛ばなきゃだがな」


「そうだな。ユウキに貰った魔導具も威力のは申し分ないが、射程に限界がある。奴に飛ばれたら手も足も出ない現状だ、こんなことなら弓でも持ってくるべきだったな」


「私も立ち回りとしては良かったと考える。皆に足止めをお願いして私が主に攻撃する戦法は有効だろう。あのグリフォンとて永遠にあのままというわけではあるまいが、次に飛ばれた時にどうするかだな」


「ある程度まで降りてくれば私の鞭で絡めとる事も出来るかと」


「そのままアイスさんまで引っ張られちまうぜ。降りてきた所を狙って翼でも切り落とした方がいいんじゃないか?」


「いや、あいつは翼で飛んでる訳じゃないぞ。さっきの羽根の攻撃を玲二も見ただろう? 羽ばたきながら魔力を出していたから、飛行には関係ないはずだ。それに一度翼を狙ってみたが、かなりの硬度だった。通常の方法で破壊は難しいかもしれん」



 全体の意見をまとめると、俺達の攻撃そのものは問題なく通じるが、対空攻撃手段がないという感じか。


 こりゃ流石に魔法解禁しないとダメだろう。ボスの情報が少なすぎた件もあるし、このパーティの面子も偏りすぎている。空中にいる敵に対応する手段がほぼ皆無だからな。ダンジョンでこんな敵がいるとは驚きだが、元々ダンジョンは何でもありな場所でもある。備えていなかったこちらが悪い。



「結論は出たようだな?」


「ああ、ユウキ。手を貸してくれ。空に逃げられたんじゃこっちはどうしようもないんだ。あいつを落とす手伝いだけでも頼めないか?」


 俺はアインの言葉に頷いたものの、このダンジョンはなるたけ俺達は手出ししない方向だった。それに、せっかくここまで来たんだ。彼等のダンジョン踏破の栄誉が曇るようなことはしたくなかったので、彼らとは違う形で望みを叶える事にした。


 なに、敵にが空を飛ぶのが面倒なら、空を()()()()やればいいのだ。



「さあ、仕切り直しだ。今度は最後までキッチリ仕留めるぞ!」


「おうっ!」


 アインの激に応えた玲二は前と同じく背後を取りに行く。ようやく地上に降りたグリフォンは自慢の攻撃が全く意味をなさなかったのが不満なのか、怒りのような感情を見せていた。

 ダンジョンモンスターなのに芸の細かいことだが、俺達が一向に攻めてこないので、仕方なく地上に降りてきた。

 そう、降りてしまった。


 即座に俺の魔法が発動し、グリフォンに気付かれずに対策を完了させた。さあ、もう飛ぶことはできなくなったぞ。


 

「キュオオオオオオッッ!!」


 玲二たちの見事な連携に焦れたグリフォンはまたも飛び上がろうとするも、突如現れた()()に頭を激突させた。


「奴が飛んだ……うわ、痛そう」


 敵であるはずの玲二も思わず呟いたほどの嫌な音がしたが、思わぬことに大きく体勢を崩したグリフォンを見逃すほど彼等は甘くない。アインとジュリアの一撃はグリフォンに深手を与える事に成功した。


「敵がいくら飛ぼうと天井を限りなく低くしてしまえば飛行など無理ということですね。ユウキ様の深謀に感服いたしました」


 隣のユウナが俺を気持ち悪いくらいに誉めてくるが、実際大した事はしていない。土属性の魔法でこの広間に低い天井を作っただけである。天井の厚さはグリフォンが十分に助走をつけて飛び立っても破壊できないように一メーテルの厚さにしてあるが、頭突きだけでそれくらいの岩盤を打ちぬけるとはとても思えない。今のところ使える魔法はサイクロンだけだしな。あれは有効な範囲魔法だが、貫通力は皆無だ。



 これでグリフォンの一番厄介な攻撃は封じた。あとは油断さえしなければ時間の問題だろう。


 今もアインが背後の玲二に気を取られた隙に好打を打ち込んでグリフォンに苦痛の悲鳴をあげさせた。

まとわりつかれるのを嫌がって距離を取ろうとするグリフォンをアイスの鞭が牽制し、足止めに成功する。そうこうするうちにまたもジュリアの宝珠から炎の矢が打ち出される。


 アイン達は順調に追い詰めている。<鑑定>で見える残り体力も既に1割を切っているから、後はいかに慌てずに最後まで集中を斬らさないかが問題だな。


 キュオオオオッッ!、


「あ」


 渾身の力で周囲に張り付くアイン達を吹き飛ばした。そのまま、こちらに振り向き、全身から魔力を絞り出すようにして俺達に向けて全力の風魔法を解き放ってきた。


「おいおい、そりゃ悪手だろう」


「そうですね。ユウキ様でなければ後衛を先に潰しておくのは悪くない策です。事実、我々がいなければ先程の攻撃で決着がついていてもおかしくはありませんでしたし」


 俺とユウナは呆気なく魔法を弾き返した<結界>内で既に感想を述べあっている。この護りを抜きたきゃキリングドール並の一点収束攻撃でも連続で繰り出す必要があるんでな。


 そして、俺達に全力を繰り出すという致命的な隙を晒してしまった。グリフォンは今アイン達に無防備な背中を見せてしまっている。


 当然それを見逃すほど甘くはない。アインが手にした剣を奴の足に地面ごと串刺しにして動きを止め、アイスの指の魔導具からいくつもの光弾が襲いかかる。そして玲二が敢えて敵の眼前に踊り出て注意を引いた。それは初めから話し合っていた最高の一撃を繰り出すための陣形だった。


「これで終わりだぁっ!!」


 ジュリアが剣を槍のように突き刺し、超至近距離から宝珠の魔力を解き放つ。

 あれは俺が込めた最大の雷魔法、しかもあの規模は数個同時に起動しているな。あいつ、あんなことまで出来るのか。どうやっているのか見当もつかないな。


 目も眩むような一瞬の閃光が収まったあとには、塵となって消え行くグリフォンの姿があった。


 うん、いいんじゃないか。実に上手く効率的に戦えていた。

 特にアインの指揮は大したもんだ。あいつはもっと上に行って部隊指揮でもやらせるべきだな。指揮能力は経験よりも才能がモノをいう世界だ。訓練や経験を積んでも、ある程度以降はどうにもならない。

 世の中には最早見ている世界が違うとしか思えないほど鮮やかな指揮をする奴がいる。無論、俺のことではない。



「やったな、ジュリアさん!」


「お見事です。しかし、あの近距離であれほどの魔法、反動で傷を負っているのでは?」


「未熟さゆえに少々火傷を負いましたが、既にポーションで癒えました。この一撃が放てたのも皆の協力があってこそ。感謝します」


 拳をぶつけあって勝利を称え合う四人を見て多少羨ましくなるが、今回は保護者なんでじっと我慢する。

 俺が出張れば彼等がここまで苦戦することもなく、そして勝利の余韻を味わうこともできなかっただろう。だからこれでいいのだ。



「さて、お宝の時間だ! 何が出てるかな? ユウキのスキルのお陰で期待できるな!」


 玲二が喜び勇んでグリフォンが塵に還った場所に向かう。ここから見てもかなりの量のドロップアイテムが見えている。俺も気になるから、ユウナを伴って近付いた。


 そのとき、何かが動いた。


「玲二! 倒れろ!!!」




 あいつが素直に従ってくれたのは、日頃の信頼関係の賜物だという他ない。


 俺が理解できたのは、倒れこんだ礼二の頭上を目には見えない()()が過ぎ去り、俺が何とか産み出せた分身がアイスの死角から襲い来る()()にバラバラにされる所だけだった。


「まだ終わってないぞ!!」


 俺は最大限の警戒をしながら彼等に駆け寄り、全員を<結界>で覆った。なにしろその力が半減する分身とはいえ、俺を一撃で切り刻める力の持ち主だ。

 さらに、その存在を俺達は全く把握できていなかった事も警戒を最大限にする理由のひとつだ。

 本当に唐突に現れて、攻撃する瞬間まで存在を認識すらできなかったのだ。あと一瞬でも俺の声が後れていたら玲二の命は無かったかも知れない。



 こいつは<マップ>に反映されない未知の敵なんだが、皆に脅威が伝わってないのが難点だな。高レベルの<隠密>所持者なら<マップ>さえ欺けるとはいえ、閉ざされたボス部屋内に忽然と表れたことも解せないな。


「な、何が、おきているんだ?」


「ユウキ殿?これはいったい?」


「??」


 やはり先程まで敵と戦っていた彼等は新たな脅威に気づいていない。俺とユウナが最大警戒しているのを訝しんでいる。


「新手だ! 全周警戒しろ! どこから来るのか俺にもわからん」


「な、なんだって!? ユウキが把握出来ない敵だと!?」


「ああ、俺もユウキに言われるまで全く気づけなかった。でも何かあるのは確かだぞ。間違いなく背後に何かが通りすぎた感じがした」


「わ、私の前でユウキがバラバラに……!!」


 アイスにも分身の話はしておいたのだが、目の前で人の形をしたモノが八等分にされたら衝撃を受けるかもな。でも分身はダンジョンモンスターと同じで塵に還るから血塗れと言うわけではないのだが。

 

 そのとき、俺の<結界>に何かが当たる気配があった。だが、それは一瞬で、敵の姿が見えた訳ではない。



「今の、敵の攻撃か?<結界>は抜けなかった様だけと、かなり強い一撃だったな」


「ああ、俺の<結界>が軋むのはなかなかないぜ。だが、むしろ攻撃見えた奴いるか? こっちは一切理解できなかったが」


 俺の問いかけに反応はなかった。というか、彼等はもうダメかな。グリフォンとの戦いに勝利して完全に緊張の糸が切れてしまったようだ。新手の襲撃に今までないほど狼狽えてしまっている。

 

 ああ、そうか。多分これもボスだ。正確には言えば元々この30層はボスが2体現れる仕様なのだろう。新手の素性は未だに全く知れないが、グリフォンを倒して気が緩み、ボスドロップを見て油断した瞬間に背後から襲いかかる。しかも俺でも即座には反応できない<隠密>のレベルで来られたら間違いなく終わる。


 そう考えればこれまでこのリルカのダンジョンの踏破者の少なさにも納得できる。

 正直に言って、このダンジョンはやはり初心者から中級者向けのものだ。敵の強さ、罠の数や質を見てもウィスカのものとは比べ物にならないし、先程のグリフォンも情報さえあれば容易に仕留められる(例えは25層のキャンプで出会った冒険者達なら弓もちもいたし、対応可能だろう)レベルだろう。

 それなのに殆どいないという踏破者。俺らが得た情報も記録に残っていたというほど古いものだというから不思議に思っていたが、やはりそういうことなんだろう。


「こいつが居たからこのダンジョンはクリアされてなかったんだな?」


「多分な。お前達だってあのとき攻められてたら間違いなく殺られてたぞ」


 俺が違和感に気付けたのは幸運だった。レイスやスペクターのように半透明ならまだ視認できるが、こいつは完全に透明化して今もどこにいるかさっぱり解らない。だからこうやって<結界>で覆って守りを固めるしか手はない現状だ。


 そのとき、俺の横手で攻撃があったようだ。眼前で攻撃の瞬間を見たはずのアイスだが、それでも何が起きたのか解らないらしい。


 さて、どういう理屈なんだか。


「ユウナ!」 


 俺の声に行動で応えたユウナは周囲に煙幕を張った。四方に放たれた発煙筒から白い煙が噴き出して視界を覆い尽くす。


 これで煙が落ち着けば少なくとも相手の動きが解る筈だ。体が透明でも肉体がある以上、煙を嫌でも掻き分けて動くからな。


 しかし……


「うわっ。いきなり来たぞ! 予兆が全然ないぜ」


 玲二の叫びの通り、漂う白煙に動きはないが相手の攻撃は続いている。


「お、おい、ユウキ。どういうことなんだ?」


 未知の敵に狼狽した声でアインが問いかけてくる。通常のモンスターであれば百戦練磨の彼も、見えない敵には調子がでないか。

 と言っても、俺も平然としていられるのは<結界>が破られないと確信しているからだが。


「敵が実体を持っていない相手だと言うことが解っただけだな」


「何だよ、そのなにも解らない事が解った、みたいなネタは」


 玲二がそう笑うが、これでも方向性が固まっただけ意義はあるんだぞ。例えば闇雲に剣を振っても絶対に意味が無いことが解れば無駄なことをしないですむからな。


「それにしても玲二もなかなか余裕だな。この状況でも胆が据わってやがる」


「そりゃユウキが側に居るからな。一人なら喚いてただろうけどユウナが居れば絶対に何とかなるし。今だって敵の攻撃が一切届いてないじゃんか。慌てるだけ損だって」


 殊更明るい声で断言する玲二に他のみんなも緊張が解けてゆくのを感じるが、まだ打開策が有るわけではない……いや、有るにはあるな。


「皆、ちと面倒だが、攻撃を受けた瞬間をよく見てくれ。具体的には攻撃が魔法か物理がが知りたい」


 俺がそう言った瞬間に起きた攻撃は、運良く全員が目撃した。巨大な爪痕のような攻撃に見えたが……。


「今のは物理攻撃だと思うが、皆はどう思う?」


「同感。魔力を感じなかったし普通に物理だろ。ジュリアさんはどう見ました?」


「私も魔力は感じなかった。いかなる魔法攻撃も魔力無しではあり得ないから、物理で間違いない」


 この中では一番魔法に詳しい魔法王国ライカールの高位貴族のお嬢様からのお墨付きだ。

 となると面白い事になるな


 つまり、この敵は実体もないのに攻撃だけは何故か物理で殴ってくる事になる訳だ。


「そりゃ、変な敵だなってまさか!」


 玲二の言葉に答えず、俺はアインに訊ねた。


「最後な最後で悪いが、こいつは俺がやるぞ。極力手を出さない方針だったが、こいつは魔法じゃなきゃ無理そうだしな」


「あ、ああ、頼む。グリフォンの戦利品で使えるものがないか見てみたが、今すぐ役立つ物は無さそうなんでな」


 リーダーの許可を得たので、これで心置きなく戦えるというものだ。それにこの不可解な敵も<鑑定>してみたいが、恐らく倒してからになるだろうな。



 そのときはすぐやって来た。何故か良く狙われるアイスに狙いを絞って待ち構えたら思った以上に早く食い付いた。


 ダンジョンモンスターらしく学習能力は皆無のようだ。実際はその戦闘中に限っては試行錯誤しているようだが、倒されたら全て元通りになるだけだ。

 今も無駄な攻撃を延々と続けているが、これは恐らくそれしか攻撃手段が無いのだろう。もし他にあればとうにそれを試しているだろうからな。


 いろいろ観察して推論を立てたが、魔法は使わないのではなく使えないのだろう。魔力はどうしても痕跡が残る。それはどんな大魔法でも数刻も経てば霧散するが、戦闘中では絶対に気取られてしまう。それではこの敵の最大の武器である隠密性が消えてしまう。それでやむ無く物理のみなのだろうし、これまではそれで充分だった。

 敵はグリフォンを倒して油断し、さらにドロップアイテムを見てそっちに気をとられている。これまでは背後から急襲して俺の分身を刻んだ力で蹂躙するだけの簡単な仕事だった筈だ。


 たが、運がなかったな。戦いをひたすら傍観して強襲に気付く奴がいるとは想定外だろう。

 悪いが俺は非常識の塊でな、同じ非常識同士、どっちがより酷いか試そうじゃないか。



 <結界>に攻撃が触れた瞬間に最大級の雷魔法を解き放つ。普段はどんな魔法も収束させる俺だが、相手の姿形も解らん現状ではそれも出来ない。従って、かなりの大威力にせざるを得なかった。


「やはり攻撃の瞬間は完全に実体化しなくちゃ駄目なんだな」


 俺が薄く笑ったあとには断末魔の悲鳴あげることもできずに塵に還る敵の姿があった。白い装束を全身に纏った正体不明の敵に、何とか<鑑定>が間に合った。



 ハイロードガイスト・エクストラ ゴースト種


 ゴースト種の中でも最上位にあたるガイストの中でも特級の変異種。

 あらゆる索敵能力から逃れられる特殊能力を持ち、魔法の武器でも傷を付けられない特別製の精神体。さらに全属性の魔法を大幅に軽減するため魔法でも打撃を与えにくい難敵。

 有効打は僧侶の回復系魔方陣に誘い込めればそれだけで消滅する他、範囲系回復魔法も効果あり。

 しかし、まずは敵の捕捉が最難関のため、実現性は低い。

 HP 2541/2541 MP 520/520 経験値 4822

 ドロップアイテム グラスソード アークノヴァ




「お、終わったのか?」


「ああ、()()()はこれで終わりだ。ほら、丁度先の扉も開いたしな」


 ボス撃破後に開く扉が戦闘の終了を教えてくれた。今にして思えば先程のグリフォン戦は扉が開かなかったから、そこで怪しむべきだったな。



「兄さん、終わりましたね」


「あ、ああ! 俺達はやったんだ! これで誰にも文句を言わせない実績ができる。ひいてはお嬢様のお立場も……」


 騎士二人の言葉を聴かなかった振りをして玲二を追いかける。

 玲二はいち早くボスドロップを確認しに行ったのだ。


「おいユウキ! 凄ぇぞ! お宝いっぱいだぜ!」


「ああ、どうやら珍しい変異種だったみたいだな」


 片っ端から<鑑定>をかけている玲二には悪いが、後でやれ。さっさと<アイテムボックス>にしまうと不満そうな玲二を連れて転送門の前まで移動する。


「で、これからどうするんだ?目的は達成したし、戻るか?」


「あ、ああ。それはそのつもりだが、いきなり何を言い出すんだ?」


 いぶかしむアイン達の目の前で俺は床の一部分を持ち上げた。皆はこれ以上は無理かな?


「いや、ここが最深層じゃなさそうなんでな。まだ下がありそうだ」





  残りの借金額  金貨 14783254枚




 ユウキ ゲンイチロウ LV1185


 デミ・ヒューマン  男  年齢 75


 職業 <村人LV1304>


  HP  99105/99105

  MP  161210/161210


  STR 15987

  AGI 15810

  MGI 16869

  DEF 16251

  DEX 16025

  LUK 9268


  STM(隠しパラ)4265


 SKILL POINT  4650/5555   累計敵討伐数 125851

楽しんで頂ければ幸いです。


大変時間かかかってしまいました。ひとえに私の能力の欠如が原因であります。

次こそは早くあげたいものです。


ちなみにステータスがあるとおり、このダンジョンはここで終わりです。

これ以下の層はさっくり終わるので。次でさらっと触れて終了ですのでここで切ります。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ