リルカのダンジョン 2
お待たせしております。
ダンジョンの周囲は大いに賑わいを見せている。
元々季節が夏ということもあって避暑地がわりにダンジョンを利用するやつもいるというから驚きだ。
だが、第一層の様相を思えば安全なのは解るな。モンスターよりも人の方が多いのだからただ突っ立っているだけで敵はいなくなるのだ。
あの時は護衛というかお供だったので気にもならなかったが、リルカのダンジョンは第一層のゴブリンでもごく小さな魔石を必ず落とすらしい。
買い取り額は銅貨5枚と僅かなものだが、それでも確実な報酬になるから食い詰めた冒険者たちが入場料を支払ってでも最低層に押し寄せる訳だ。
俺達は入場待ちの長蛇の列を並んでいる最中だ。周囲の冒険者は俺と同じ位の年頃のやつが多い。たぶんランクも同じくらいだろう。いや、全くあげていない俺の方が低いか。少しは王都で上げておこうか。
「しかし、歪なパーティだなぁ。見事に前衛ばっかり」
玲二がぼやく通り、騎士三人に玲二も前衛希望。ユウナはスカウトなので中衛に当たるが、俺はどうだろう。
普段なら魔法攻撃中心なので今日も魔法使いとして動くべきなんだろうが、今回はいつもとは趣向を変えて楽しむつもりだった。
「俺も原則魔法禁止でいくからな、その為に剣を用意したんだし。敵の数は多くても7、8体なんだろう? 魔法なんかなくても何とかなるって」
もちろんいざというときは魔法で助けに入るつもりだが、基本的には剣で闘いたい。なにしろ手にいれてからまともに使ってやれていないからな。
活躍させてやらないと<アイテムボックス>の肥やしになりかねん。
前回はソフィアと共にいたので貴族特権で真っ先に入れたが、今回はじっくりと待つことになった。金の無い奴は早朝から夜更けまで低層でひたすら競争相手とモンスターの奪い合いをするそうだから、早い時間は混むのだ。
俺と玲二は列から離れた場所でパーティメンバーの募集やポーターである自らを売込む声を聞きながら新鮮な光景に興味津々だが、王都が長いアインとアイスは退屈そうだ。
「これは、しばらくかかるか?」
「いや、そうでもなさそう。係員が増えたもの。ここからはスムーズじゃないかな?」
双子の言葉通り、もたついていた列の処理は人が増えて一気に進んだ。
「そこ行く美男美女のパーティさんはポーターがいないようじゃないか。俺なんてどうだい? 一日銀貨15枚。相場より大分安くしとくぜ!」
30くらいのおっさんがこっちに声をかけてきた。見ての通りかなり歪な構成なので売り込みをかけてきたのだ。
ポーターはダンジョンを探索する上で必要不可欠な存在だ。運よくドロップアイテムを沢山手に入れても両手が塞がったり背負い袋が重すぎて満足に戦えなくては生きて帰ることもおぼつかない。
ポーターを雇う余裕のある中級パーティから上級クラスはむしろ積極的に雇わなくてはならないと聞いている。ポーターは半引退状態のベテランか駆け出し冒険者がなるものと相場が決まっているからだ。
逆にウィスカにいるような超一流は自前でマジックバックを持っていて当然なので全く見かけないが。
かくいう俺もウィスカに来た頃はそのポーターになるつもりだった。一番最初に出会った”五色”も半ば俺を雇うつもりで話をしてくれたのだと思う。ユウナに言わせれば冒険者ランクを上げる要因の一つに積極的なポーター雇用というか、後進の教育に積極的かどうかを視る目的で評価の対象にしているという。
ベテランはその知見を雇用者に提供するため割高で売り込み、新人はいろはを教わりつつ飯を食わせてもらったりするから格安で売り込む。新人は実入りはないがポーターの縁で正式に仲間入りとかも良くあるそうで悪い事ばかりではない。
俺は……借金の件で全てが吹き飛んだからな。その意味であの”五色”のメンバーには悪い事をした。彼らは元気でやっているだろうか。
「どうだい? 俺はこれでも現役は長いんだ。装備を見ればたいていの事は分かる。見たとこみんなこのダンジョンの経験は少なそうだ、俺が色々教えてやってもいいぜ」
色々の部分であまりにも女性陣を見すぎだな。視線が釘付けになるのはわかるが、あからさま過ぎる。
「結構です。私がいますので。銀貨15枚を要求して相場より安いというのは無理があるのでは」
「げっ。ギルド関係者かよ。こりゃまいったまいった」
ユウナが見せたギルドの職員を示す印を見せるとあのおっさんはそそくさと退散して行った。個人的にはなかなか面白そうなので連れて行っても良かったが、男女比が同等の今回のパーティではちと面倒になるか。
俺と玲二はウィスカでは味わえない新鮮な出来事に気分は弾んでいるが、いいとこのお嬢様であるジュリアと同じく不快さを隠そうともしないアイスの顔を見ては顔に出すわけにもいかんな。
<んん? なんか面白そう? そっちの方が楽しそうなの?>
<いや、ポーターの勧誘が新鮮なだけだ。中に入れば前回と同じだろ。人だらけでつまらんさ>
<だよねえ。やっぱこっちにいるわ。今期のアニメマラソンして実況版に書き込めるようになるまでスタンバイいそがないとね>
<なあリリィ、いつの間にツイットのアカウント開設したんだ? SNSも開いてね?>
玲二が困惑気味に相棒に尋ねているが、まだまだあいつのことがわかっていないな。リリィは好きな事には全力投球だぞ? 何しろ本来睡眠も必要ない種族なんだ。徹夜だって二徹三徹おかまいなしだ。
<ふっふっふ。こんなこともあろうかと既に下調べは全て完了していたのだよ。ワトソン君>
<リリィ、恐ろしい子!>
「玲二、アホな事やってないで行くぞ。すぐに俺達の番だ」
そして俺達はダンジョンに足を踏み入れることになる。
「話には聞いていたけど、ホントに人の方が多いな!」
「らしさを味わうには10層まで降りた方が良いでしょう。先導しますか?」
ユウナは俺の従者になった。そして玲二は俺の仲間だから、立場として下のユウナは玲二に敬語を使っている。始めはそうであることを酷く嫌がった二人だが、互いに敬語を使うことで決着をみた。
「今日の内に最低でも15層まで降りるぞ。そこまでは宝箱もろくなのが無いみたいだし、本格的な探索はそこからだ」
今のミッションはトラブルなく下に降りる事だな。しかし、前回よりも人が多いな!
第一層は相変わらず人でごった返している。そんな中で系統が違うとはいえそれぞれ際立った美人を三人も連れている俺達は嫌でも注目を集めている。
何事もなく降りるためには少々荒っぽく行った方がいいかもな。
俺は近くにあった邪魔な岩を蹴り飛ばして周囲を威嚇しながら先を進んだ。
「ガキの癖にいい女連れてんじゃねーか! 女を置いてガキと男はさっさと消えぶきゃ!」
やはり無理だった。消えぶきゃというなかなか聞けない語尾の面白集団を蹴散らして進んでゆく。やはりこうまで綺麗所が揃うと絡まれるのは仕方ないか。
「おお、人がリアルで真横に飛ぶシーンを見るとは思わなかったぜ」
ダンジョンの中は無法地帯だと言う理屈は解らんでもないが、こうまで人目があるなかで女にコナかけるとか馬鹿じゃないのか?
いや、馬鹿だからやってるのか。
「男が少なすぎたか。やはりバーナード卿の申し出を受けて御助力をいただいた方が良かったか?」
「いや、あいつがいたら鍛練にならんぞ。さっさと降りれば人は減るさ。階段めがけて一目散に進もう」
本当はバーニィも来たがっていたが、あいつが来るとリリィ曰く”もう全部あいつ一人でいいんじゃないかな”状態になるので遠慮してもらっていたのだ。
最近あいつと別行動が多いが、あいつもあいつで忙しいようだ。兄であるフェンデル伯爵の司教への昇進が本決まりして彼が家督を継ぐのが確定し、そのお陰で継承についての雑事が増えてアンジェラさんにも会えていないとか昨日話したときに愚痴っていた。
いや、アンジェラさんがどうのと言うのは俺の忖度だ。本人はシルヴィアの話を聞きたがっただけだ。公爵邸は昨日から大騒ぎらしい。何しろ間違いなく動くぬいぐるみが彼女に挨拶に出向いただろうからな。セリカからこぼれ聞いた話では彼女が見る限り、シルヴィアはずっとラナを抱きしめていたようだ。
前回いろいろあった5層は何事もなく過ぎた。俺が内心ホッと胸を撫で下ろすなか、周囲は大分人の姿も減って俺達の冒険が始まろうとしている。
「くっ、二匹行ったぞ!」
「おう! こう的が小さいとなんとも!」
「落ち着いて対処を! 背後に回り込まれないように気を付けて!」
「新手の気配だ! 手早く片付けないと次が来るぞ」
俺とユウナが腕組みして見守るなか、キラービーの集団に遭遇したアインたちはその対処に追われていた。
他人がこのモンスターを相手取るのを初めて見るが、確かに魔法使いが居ないと面倒な敵だった。普通の蜂より大きいとはいえ、手のひら程の大きさのキラービーは非常に狙いにくい相手だ。
それに彼等の得物も相性が良くない。小さい敵に剣で相対するのはやりにくいだろう。
敵が一匹だけなら難なく倒せる敵でも集団(たった6匹だが)で背後に回り込まれたら思わぬ不覚をとることもある。
落とすアイテムが垂涎の蜂蜜とは言え魔法で安全に処理できなければ手痛い反撃を受けるし、魔法使いなら金にならない(ダンジョン産の食品アイテムは買取が格安。滅茶苦茶高いのは天然物と銘打っているが、実際はダンジョン産が出回っていると思われる。無論バレたら酷く面倒な事になる)キラービーに魔力を使うより他の実入りのよい敵に魔力を温存したい気持ちもわかる。
蜂蜜があまり出回らず、キラービーが嫌われる理由が良くわかる光景だった。
「ユウキ様、これ以上は……」
「ああ、新手は俺がやるさ。冒険者は本来どういう対応をするのが基本なんだ?」
「多くはやり過ごしたり、階段まで一気に走り抜けるのが一般的ですね。外なら蜂が嫌がる煙を炊いたりする方法もあるようですが、ダンジョンではあまり聞きません。この迷宮でここから一気に冒険者の数が減るのはキラービーがいるからですし」
「なるほどな。やはり魔法が最適解か」
5匹の新手を斬り倒すと3個の蜂蜜が落ちた。それを拾い上げつつアインたちの方を見ると、あちらもアイテム回収をしているがその顔は一様に暗いものだった。彼等としてはこの程度の低層で手間取る気はなかったのだろう。
最近ご無沙汰の蜂蜜をもう少し集めても良かったが、皆の気落ちが気になったのでさっさとこの層を突破することにした。その先の安全地帯である階段で話し合いを持つことにした。
「みんなどうしたよ? 随分元気無いじゃないか」
「あ、ああ、蜂が難敵とは聞いていたがこんなにも手こずるとは思わなくてな。不甲斐なさに己を責めているところだ」
「私たちは人間相手の訓練ばかりだったのでああいった異形の者との経験は少ないとは自覚していましたが、一度慌ててしまうと途端に崩れてしまいました」
「いやぁ、マジで当たんないわ。狙いをつけると他の奴等がこっちを狙ってくるし、蜂がこんなに面倒な相手だとは思わなかったぜ」
玲二は<共有>で俺と同じことが出来る理屈だが、そのスキルの習熟は当然差が出る。たぶん俺が玲二と同じ食材を用いて料理しても、あいつの方が数段上のものが出来上がるだろう。スキルそのものは強くても使いこなせなければ意味がないし、そもそも玲二は最近までハンク爺さんの所に入り浸っていたしな。
持っている剣だって昨日俺が要望を聞いて渡した物だったりする。
「皆そう言うけど、魔法使えばいいじゃないか。どう考えても剣で戦う相手じゃないだろ? ジュリアと玲二は当然として、アイン達もなんで使わないんだ?
「いや、今回は剣の腕を磨く為のものだから」
ある裏技を思いついた玲二たちは魔法習熟に全く乗り気ではない。俺もそれを見た時はその凄まじさに驚いたものだが、それ一番貢献してるの俺なんだよな。
いい訳じみた言葉を口にするレイジに何か言う前にアインが口を挟んだ。
「ちょっと待てくれ! 今の話ぶりでは我等も魔法の素養があるように聞こえたが……」
「ああ、二人とも平均以上はあるけど。知らなかったのか? 普通は騎士になる時にでも色々調べそうなもんだが」
二人はしばらく顔を見合わせていたが、おもむろに口を開いた。
「我等が孤児だった事は話したと思うが、本来孤児などが騎士になどなれるはずもない。面倒な事になるからこのことは周囲には話していないし、我等を引き上げてくれた方にも面倒がかかるからな。そのせいで本来の騎士試験をかなり省略して叙任されているのだ。周囲にも必要な技量を示したので騎士の身分を疑うものはいないが、本来行われるべき身元調査や魔力保有量などは飛ばしているのだ」
言いふらしたらえらい事になりそうだ。これを明かしてくれたことは彼らからの誠意の証とみるべきだろう。であるならこちらも相応の礼が必要かな。
「でも魔法はあった方が便利だぞ? 慣れれば敵と切り結んでいる最中に発動体から魔法を打てたりするし。せっかくだし試してみるか?」
「それは願ってもない申し出ですが……構わないのですか? 稀人の玲二たちと違いここの人間の我等ではかなり扱いが違うと思っていましたが」
躊躇いがちに聞いてくるアイスだがその顔は明るい。純粋な剣技では体格に勝る双子の兄に一歩も二歩も譲るから、それを補う方法があるなら取り入れたいのだろう。護衛対象であるセリカとしては同姓のアイスに頼る場面が多いので役には立っているのだが。
そして魔力総量はアインよりアイスの方が多い。これは魔法職の総数が女性の方が多いと言う事も関係しているかもしれない。
「今までこういう機会がなかっただけだよ。俺達は仲間じゃないか、言いふらしたりしなければ構わんよ。どの道俺の方法は正道じゃないからおおっぴらにすれば困るのはそっちだと思うし。まあモンスターはともかく人間相手には隠し技ってことで身につけておけばいい」
俺のように触媒ナシの発動体ナシってのは相当異端のようだが、色々方法を弄ればかなり融通が利くのだ。あのロッテ嬢に遊びで作ってもらった試作品なんだが、これなんてどうだろう。
「発動体はこれ使ってみたらどうだ? 4色の石がそれぞれの属性を表している優れものだ。まだ試してないんだがたぶんいけるはずだ」
そう言って同じ指輪を取り出すと二人に手渡す。ジュリアは物欲しそうに見るな。彼女は騎士の格好こそしているものの、魔法王国ライカールの貴族令嬢できちんとした教育を受けているはずだ。変な手癖でもついたら後で面倒くさくなると思って渡さなかったのだが、用は銀細工が欲しいだけだったようだ。
「これをどのように使えばいいんだ? 安物ではない雰囲気を感じるのだが」
そりゃそうだ、その石の素材自体は俺が持ち込んだ宝珠の欠片だし。
楽しんで頂ければ幸いです。
新年明けましておめでとうございます。
本年もよろしくお願いします。
王都でやりたいことリスト
ダンジョンで遊ぶ。←いまここ
冒険者としてのランク上げ。
手下共を何とかしたい。頭なんて無理むりかたつむり。
ソフィアがそろそろ学術都市へ留学なんでそのスケジュールあわせ。移動は護衛するし。
ギルドと公爵家主催のオークション参加。できれば買えたら面白いかも。
なんかクロイス卿が厄介事を持ち込んできそう。
奴隷も買いにいかないと。後学のために見てみたい。
はい、クッソ長くなりそうです。更新頑張ります。
書きたいことがいっぱいあるっていいことですね(遠い目)
これからも応援いただけると励みになります。ではまた明日お会いしたく思います。




