表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

134/418

リルカのダンジョン 1

おまたせしております。



 王都のダンジョンは正式名称『リルカのダンジョン』という。全階層は30層で過去に幾度か踏破されている記録が残っている。


 難易度は過去にソフィア達のお遊びで潜ったほどに低い。初めてのダンジョンを経験するならまずこことギルドで案内を受けるほど初心者用のダンジョンとされている。

 貴族が護衛をつけてちょっとした危機を楽しむ遊技場としての側面が強い印象だったが、調べてみると中層以下はなかなかの難易度のようだ。迷宮探索を生業とする冒険者がちゃんと食っていけるほど実入りがよく、手応えもあるようで、初心者用といわれる割には踏破者が非常に少ないことがそれを裏付けている。

 貴族の遊びで中層以降まで降りるのは数日を要するので実行するような奴はおらず、これまで事故は防げていたようだ。


 特に終盤の25層から以降は大迷宮もかくやといわんばかりの広大な階層で、侵入者を迷わせるという。迷宮の最終ボスも記録には残っているものの既に数十年前という。


 この迷宮を踏破すれば玲二たちの鍛錬にもなるし、アイン達の箔付けにもなると考えた俺はこのリルカのダンジョンの攻略を決めたのだった。

 昨夜のうちに現役ギルド職員でもあるユウナに必要な道具と情報の入手を依頼しており、俺達は朝一番で迷宮に向かう手筈を整えていた。

 


「それはそれとして、まずは日課だな」

 

 だが、いつもの時間に起床した俺はまずはウィスカのダンジョンの20層にいた。

 足元には転移環が置いてあり、その先はホテル・サウザンプトンに繋がっていたりする。


 前に少しだけ触れたダンジョン内の大発見について語る時がついに来たようだ。

 

 転移環は設置さえ正しく完了すればどこへでも繋ぐ事が出来るとんでもないアイテムは知っていると思う。

 そしてあるときふと疑問に思ったのだ。


 ダンジョン内に転移環を設置すればそこから行き来できないものだろうか、と。


 物は試しと20層の転移門のすぐ側に設置してみたら……なんと移動できてしまったのだ。これでいちいち宿からダンジョンまで移動する必要さえなくなってしまったのだ。


 それはもちろん王都にいる今も同じだ。つい先程まで王都にいた俺が今はウィスカのダンジョンでボスからドロップアイテムを手に入れているのだ。大幅な時間短縮などというものではない。最近ではウィスカのダンジョンも俺の存在に触発されたのか徐々に探索者が増えてきているようで、金回りの良くなったギルド側が一日中人員を配置するようになった。

 そのおかげで出入りする人間を管理できるようになってしまい、今王都にいるはずの俺がウィスカのダンジョンに出入りできるはずがないという矛盾が発生してしまう。たとえ愛剣盗難事件などで明らかに即座に王都へ飛んでいるとしか思えない行動をしていても、建前は大事である。


 誰にも咎められることなく俺の借金返済を続けられる素晴らしいひらめきなのだった。


 最近は俺も玲二や雪音に触発されてだいぶ頭が柔らかくなってきたのかもしれないな。昔なら固定観念に邪魔されて思いつけもしなかったかも。



 さて、今日の25層のお宝はたいした物はなかった。あそこは一面が砂漠で階段が蟻地獄の巣穴のようになった場所の地下なんだが、流砂の関係で転移門からでるとすぐに本日分の宝箱が落ちているのは楽でいい。中身が豪華なら最高なのだがそこまで都合よくはいかなかった。今日の中身はマナポーション5個と謎の金貨100枚、そして使い捨てのスクロールが4本に宝珠ひとつだった。金額換算で金貨約300枚の収入になる。ボス関係で言えば10層のサイクロプスは既に討伐されていたので20層のキリング・ドールだけだが、それでもいつも通り魔石とミスリルが手に入った。

 そのあとで毎日の周回行程に入ると大体金貨1200枚ほどの収入になる計算だ。これが僅かな時間で手に入る金額なのだ、今更金貨数枚に拘る必要を感じない理由である。そして周囲に呆れられるほど金貨をばら撒いても気にならないのもそのせいだ。



 いつもの通り約一刻ほどでお宝を掻き集めて戻ると、他の皆は既に目を覚まして活動を開始していた。


「兄ちゃん!」


 涙目のイリシャが俺を見つけると駆け寄って抱きついた。目を覚ましたら俺が居なくて泣いていたらしい。


「昨日の内に言っただろ? 朝は少しいなくなるって。イリシャもわかったって言ったじゃないか」


「うう……だってだって」


「兄様、イリシャは兄様に置いて行かれたと思ったのです。いくら言葉では理解したとはいえ目が覚めたら兄様がいないとなれば心細くなるのは仕方ないことです」


 ソフィアが俺の首にしがみついているイリシャを撫でた。そうか、今日くらいはイリシャが目覚めてから行くべきだったか。自分のことしか考えていなかった、反省しなければ。


「すまなかったな。次はお前が起きたら行くことにする」


「ううん、いいの。わたしがわるかったの」


 今日もこれからダンジョンに行く予定なんだが、イリシャを放っておいて大丈夫なんだろうか?


「今日は私達と一緒にいますから。兄様はなさりたいようになさってください。ジュリア姉様も既にお待ちですし」


 ちなみにソフィア達は昨日から王宮に帰っていない。俺がここに居る間はこの部屋に滞在することにしたようだ。ここにいれば護衛は不要だし、何かあればすぐに駆けつけられるしな。


 リルカのダンジョンに向かう面子は玲二とアイン、アイスにジュリア、そしてユウナと俺の計6人だ。どちらかというと俺とユウナはダンジョン経験の少ない4人の保護者の意味合いが強いが。


 純粋にダンジョンの冒険を”楽しみたい”玲二と騎士三人は己の鍛錬目的なので微妙に温度差はあるものの、あの鬼畜難易度のウィスカでそれを行うわけにも行かず、かねてから約束していた王都での実行と相成った。


 王都のダンジョンは20階層までのマップが販売されているし、転()門や帰還石も簡単に手に入るお気楽なダンジョンだ。それ以降の階層はギルドの内部情報だが、昨日の内にユウナが手に入れてきた。実際の所、25層以降はロクに地図化されておらずこう行ったらこの先に階段があった、という程度の記述しかなかった。販売されていないわけである。


 俺は昨日の夜に行った作戦会議で三日での踏破を目標に立てた。15層以降は5の倍数で転送門が設置されているようだし、中層以降の敵から普通に帰還石がドロップするようなので日帰りでも問題ない。後一セットだけ転移環が残っているので途中の階層への移動はそれを利用するつもりだ。

 ダンジョンモンスターがいる通常階層ではとても危なくて使えないが、転送門が存在する場所はモンスターも近寄れないので心配はない。そして尤も厄介な冒険者達への対応なのだが、テントでも立てて中に隠すことにした。

 俺が登録した人間以外には使えないようにできればよいのだが、この転移環は個人使用のための廉価版のようでそこまで高性能ではない。それでもはかり知れないほど有能ではあるが。

 

 

 俺が朝食を摂り終えた時には皆の準備も終わっていた。騎士三人組は本来の金属鎧装備では目立つので冒険者に見えるように硬革中心の動きやすい装備に交換してある。俺がこれまでの探索で手に入れていたかつての冒険者達の装備だと思うが、お下がりという意味で嫌悪感を抱く者は少数派だ。どうしても高額になる武器防具は中古品を手入れして使うのは当然だし、新品である方が珍しい。逆に使い込まれた防具は頑丈であるという実績の証明なので、新品よりも喜ばれたりする。

 もちろん本人用に調整は必要だが、この日が来るのはわかっていたのでかなり前から渡してあり既に細かい微調整も終えている。


 俺とユウナはそのままの格好で十分だし、玲二は軽量化された革製の防具を身につけている。玲二についてはいざとなれば高いステータスで乗り切れるから武器防具の点ではあまり心配していない。


 リリィはこのホテルとソフィア達と留守番だ。相棒としても俺と共に退屈な迷宮探索をするよりも”すまほ”を色々弄っている方が楽しいようなので皆の事を頼んである。



「本当は僕も参加したいんだけどね……異世界で迷宮攻略だなんて面白そうじゃないか」


 如月が名残惜しそうに言ってくるが、昨日の今日で参加は無謀だ。まず体を元に戻さないといけないし、彼もイリシャもまだまだ休息が必要だ。なに、この異世界には山ほどダンジョンがあるのだ。次の機会にすればいい。


「二人ともたまにはゆっくり羽を伸ばしなさい。私は今日はここで雪音と仕事を進めるから、出歩かないつもりだし心配しなくていいわ」


「ありがとうございます、お嬢様」


「お言葉に甘えさせてもらいます」


「ジュリア姉さまも私のことは気にせず楽しんできてくださいね。後でレイアさんも戻られると聞いていますからここは世界で一番安全な場所になりますし、休日を満喫してください」


「ありがとう、ソフィア」


「ユキ、可愛い弟が出かけるんだぞ、皆みたいに何かないのかよ?」


 玲二がふざけた口調で雪音に問いかけたが、帰ってきたのは冷たい視線だった。


「あんたは遊びに行くんでしょ? 皆さんの邪魔にならないようにするのよ。ユウキさん、レイが変な事したら何時でも見捨ててくれて構いませんから」


「ひでぇ」


「なんにせよ夜には戻る。さすがにあの時のような変なことは起きないと思うが、リリィ何かあった時は呼ぶからよろしく」


 転移門への扉を開ける鍵となったあの不思議な階層はあれからしばらくたった今でも同様のことが起きたとは聞いていない。脱出できなければ報告さえできないので不幸な誰かがまた巻き込まれている可能性も否定できないが、最悪そうなれば転移環で脱出すればいい。一つは無駄になってしまうが、あの時のような力技が何度も使えるとは思えないしな。


「オッケー。お宝見つけたら報告よろしくね」


「今日一日でいける場所は探索されつくしているだろうからなぁ。たぶん深層までいかないと出てこないんじゃないか?」


「でもたしかあそこには錆色の聖杯があったはずなんだよね」


 聞いたことのないお宝だな。モノを知らない俺が悩んでも仕方ないので一番詳しいユウナのほうを向くが彼女も知らないようだ。


「既に入手して冒険者側が秘匿している可能性もありますが、ギルドで入手した記録はないはずです。こちらでは目録を作成して管理していますので秘宝クラスのものであれば記載されているはず」


 だがユウナも既に俺の配下であり、その秘密を理解している。リリィの力も知っているのでまだ未発見と見ていいだろう。


 どんな凄いお宝か知らないが、これで探索する楽しみが増えたってもんだな。


 俺もたまには簡単なダンジョンで遊ぶのも悪くないだろう。

 俺達は意気揚々とダンジョンへ向かったのだった。



楽しんで頂ければ幸いです。


この文章量でお解りいただけるかと思いますが、休みの内は毎日行こうと思います。

王都のリルカダンジョンは簡単なダンジョンです。メインは探索というより鍛錬なのでさっくり終わるかなと。


 本年は2月ごろに何故かエタっていたこの作品を再開し、多くの皆様の目に触れることができました。

 身の程を越えた感想や評価をいただき、誠に感謝しております。小説を書くことが日々の時間に組み込まれてからは色々と生活の変化もありましたが、すべて新しい刺激と前向きに捉えております。


飽きっぽい自分が何とか続けてこれたのは読んで、そして評価してくださった皆様のおかげであります。来年も後進を頑張ってまいりますので楽しんで頂ければ幸いです。


 皆様にとって来年が実り多き一年になる事を願いまして、年末の挨拶とさせていただきます。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ