表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界最強になった俺、史上最強の敵(借金)に戦いを挑む!~ジャブジャブ稼いで借金返済!~  作者: リキッド


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

130/418

王都で楽しむ 2

お待たせしております。




 奴隷商人と聴くとなんだか悪い印象を受けるが、実際は王国からの厳しい審査を経て認可を受けた商人だけがなれる許可制なのだ。


 悪評がたてば認可を取り消される恐れもあるので、多くの奴隷商人は真っ当な商売をしている奴が多いという。


 情の深い女がやっている店などは奴隷達と家族のような関係を築いている所もあり、信頼と安心が大事な決して後ろ暗い商売ではない。

 

 契約の形態を聞いた玲二は人材派遣業みたいだ、と言っていたし丁稚奉公の一環と思った方が解りやすいか。

 当然これは理想論に過ぎず、劣悪な扱いを受ける奴隷もいるにはいるみたいだが、そのような奴隷商は国から許可証を取り上げられるし、それ以前に悪い噂になるから商売にならないはずだと思う。

 だが、これもあくまで現実を知らない俺の意見だ、本当に悪い奴は権力と結びついて隠れてあくどい事をするものだしな。



 奴隷には色々な種類があることは前に話したと思う。大別して借金奴隷、犯罪奴隷、戦争奴隷だ。数の多さと扱いの良さは述べた順に変わっていく。


 戦争奴隷だけはいろいろと例外だ。戦場の習いによって扱いは様々に変わるし、そもそも最近はここいらで戦争を殆どしていないのでほぼ見かけないと言ってよい。

 戦闘奴隷などという特殊な存在もある。戦争で捕虜になった騎士や兵士がその実家に身代金を要求し、その支払いがないと奴隷として売り払われる。戦争で稼ごうと思ったらこれが一番だ。運よく良い家柄の長男を捕らえたら、その家は借金してでも買い戻そうとするからだ。

 騎士などは確かな戦闘技術を持っているので、高額な奴隷として取引される。

 戦争奴隷との違いは戦争の戦利品として捕らえたか、身代金を支払われなかったの違いだが、色々と線引きが曖昧ではっきりとはしない。



 だが、違法奴隷などという呼び名は始めて知ったのだが、詳しく聞いてみればなんのことはない、単純にただの人攫いだった。


 もちろん人攫いは重罪だ。生活苦や何かで借金奴隷に身を落とすのとは違い、人攫いは犯罪で露見すれば間違いなく物理的に首が飛ぶ。特に領民はその貴族の財産でもあるから、窃盗に該当して貴族間の揉め事になるからだ。王国法では反逆に次ぐ重い罪だ。


 何故そこまでして違法奴隷を、となるとやはり儲かるからということになる。

 危険を冒してまでやる価値がある儲かる奴隷となると、かなり種類も限られてくるはずだが、俺の頭で思い付くだけでも美女、美少女と女しか浮かばないな。当の本人には傍迷惑かもしれんが、美しい女性は何時だって価値がある、ということにしておこう。

 いくら顔の良い男だってそこまでの高値がつくとは思えないしな。



「で、今になって俺に話を持ち込んだ理由は? お前らのことだ、既に調べはついているんだろう?」


「はい、例の騒動が落ち着きを見せましたので、整理のために処分された幹部達の個人資産などを探っていましたところ、その奴隷の一件が発覚しました。本来であれば発覚した一昨日のうちに始末をつけるべき案件でしたが、その場所が迂闊には手を出せない場所でして」


「教会か、貴族ってとこか。発覚したときの危険を考えれば貴族が妥当かな」


「御明察です。正確には貴族街の端にあるサウル子爵家が所有する倉庫になります。昨夜の内に内部を確認しましたが、50人以上の人間が囚われているようです」



 俺達がゴミ掃除をしてからかなりの時間が経っている。もしその囚われた人たちが放置されていたら危険な状態かもしれない。

 俺が責任を感じる義理はないはずだが、これも後始末の一環だろう。


 あのゴミどもは潰すにはこれ以上ないほどに時期が良かったので一気に殲滅したが、その分情報の取り零しが起きているのも事実だった。

 ジークやゼギアスが死んだ幹部連中を探っているのもそのせいだ。ゼギアスは幹部だったのでウカノカの事情にかなり詳しいが、ジーク達は完全な下っ端だから情報収集に手間が掛かっている。

 これは人質取って従えているはずの忠誠心が低い奴を幹部に据えている方がおかしいからザイン達が普通のはずだ。


「しかし、サウル子爵ね。俺は知らんが、誰か詳しいか?」


「いえ、古い貴族家である事くらいしか解りませんでした。申し訳ありません」


 謝罪するジークに手で応えて俺は通話石を手に取った。解らないことは詳しい奴に聞けばよい。


「おい、セリカ。今いいか?」


「何? 今荷解きしてるんだけど」


 不服そうな声をしているが、<マップ>ではリノアやソフィアと雪音と一緒に茶でも飲んでそうな感じを受けるのだが、まあそこはいい。


「サウル子爵家について知っていることを教えてくれ。これから俺はその子爵家の倉庫に突撃するが、相手が相手だから色々準備しないとな」 


「はあ? 一体何でそんなことになってんのよ。サウル子爵家は王都ができた頃から屋敷を構える爵位貴族よ。歴史と伝統があると言えば聞こえはいいけど実際はかなり困窮してるはずよ。ただ王都のいろんな場所に不動産を持っているからそれで賃貸契約して稼いでいると聞いたことはあるわね」




「はあ? 違法奴隷!? 貴族家が違法奴隷に関わっているなんて知れたら、間違いなく取り潰しは免れないわよ! ああ、あの組織の後始末なのね。ちょっと待って。こっちで出来るだけ手を打つから、勝手に動かないでよ!!」


 頭が良い奴はこういうとき楽だ。勝手に話を理解して勝手に進めてくれる。貴族相手の喧嘩の経験のない俺が無闇に手を出したらどうなるか解ったもんじゃない。


 貴族だって戦い方次第ではどうにでも相手取れるが、それでも王侯貴族が平民を支配するというこの世界の秩序に喧嘩を売るのは簡単なことではない。なにしろ白い物だって彼らが黒いといえば黒く出来てしまう相手だ。

 相手の事情、強味弱味をしっかり把握して喧嘩しないといくら有利だろうと簡単に引っくり返される。

 

 ザイン達もそれがわかっているから俺に話を持ってきたんだろう。

 だが俺は戦うと決めたらどんな手も使う男だからな。


 その点、セリカはどこで調べたのか俺の性格をかなり理解しているようで、俺に事態を目茶苦茶にされるより自分で収拾をつけることを選んだようだ。


「そういうことなので、俺達は方針が決まるまで少し待機中な」


 今は今日取ってきたばかりの葡萄を皆で摘まんでいる。


「こんな甘いブドウがあるなんて。ブドウといえばワインにしか使えないと思ってましたよ」


「頭、これはもしや」


「ああ。ダンジョン産だ。ギルドに卸しても殆ど金にならないから全部自分で食べるしかないんでな。余らしても仕方ないから好きなだけ食ってくれ」


 ここで遠慮されてもなんなので気前よく言っておく。実際に<アイテムボックス>内は時間が止まることを良いことに好きなだけ溜め込んでいるから増えるばかりで減る気配はない。

 <共有>で何時でも手を伸ばせる雪音達は結構つまんでいるみたいだが、17層と19層をくまなく集めているので増える一方だ。根が貧乏性だからか取れるものは根こそぎ持っていく派なんだよな。


 店の皆と彼女らの身内用の品を取っても減る気配がまるでないが、瑞宝が喜んでくれてよかった。彼女は肉を食べていなかったので何か一人だけ悪いなと思っていたのだ。

 肉の方も男5人でも食いきれない量なのでこの店にくれてやると、店主であるリッチモンドは小躍りしていた。ただこれで商売されると困るのでこそはきっちり言っておいたが、本人は客に出すなんて勿体無いと言っていたから身内で食べきってしまいそうだ。



「それにしてもこの奴隷の件はどの幹部の仕業だったんだ? 随分と危ない橋を渡ったな。いくら実入りが良くても一度の失敗で破滅じゃ割にあうまい」


「この件を仕組んだのはベッカムですね。組織内の序列は7位でしたが、色々な輩と繋がりを持っていてこの件を計画できたようです」


 ジークの言葉をゾンダの親爺が補足した。


「恐らく他の幹部と組んでたのではないかと。組織の序列は上納金の額で決まるんで、下の奴等が組んでデカい稼ぎをするのは何度かありますぜ」


「ベッカムねえ、どんな奴だったかな。7位ってことは賞金は金貨8枚か。確かやったのはゾンダの親爺さんとこの若い奴だったかな」


「へい、そいつは近々ガキが産まれるもんで、女房に良い顔が出来ると頭に感謝しとりました」


「そいつは目出度いな。産まれたら教えろよ、皆で宴をやろうぜ」


「へい、有り難うございます!」


 ゾンダの親爺さんと盛り上がった話が一段落したあと、ザインがおもむろに口を開いた。


「頭、先程の危ねえ橋の件でやすが、今のこの時期だけ抜け穴があるんですわ」


 その話は俺の興味を引いたが、余程ヤバいネタなのかザインは周囲に俺達しかいないのに声を潜めた。


「ここだけの話なんですが毎年この時期になると王都の貴族達が深夜に極秘の集まりを開くんでさぁ。伝え聞いた内容では御禁制の品を多く扱う闇のオークションだとか。その時期は街の警邏もあっちにかかりきりでこちらに光らせる目が減ります。その隙間を狙っていろんな組織が様々な企みを行うって寸法です」


 へえ、闇のオークションか。どこかで聞いたような話だな。


「夏の終わりにやる奴か?」


「流石は頭だ。全てお見通しでやしたか。俺達下っ端が警備に駆り出された事もあって偶然聞いた話を既にご存知とは!」


 本当にあれなのか? ってことは、この件は公爵家にも原因の一端があるということか。

 それじゃあ出品予定の品がある俺も関係者となるじゃないか。


 これはもう他人事じゃなくなってしまったな。後腐れなく綺麗に解決しないと俺の精神衛生上、後を引きそうだ。



 しばらくしてセリカから今回の作戦が伝えられた。俺も内容を承認したその内容は作戦というより大方針が伝えられただけだが、現地の事が解らない彼女が細かい指示などできるはずかないからこれでよい。


 後は俺達が何とかする話だ。


「よし、ちょっと行ってくる……と言いたいが、お前らも来たそうだな?」


「そりゃ当然でさぁ。ここまできて仲間ハズレはなしですぜ」


「もちろんです。前回参加出来なかった俺の手下も頭のお役に立てる機会を待ち望んでますから」


 皆も同じ意見のようだ。それならば遠慮なく力を借りることにしよう。

 というか、よく考えたら上手く事を運ぶには彼らの力が絶対に必要だった。


 俺は皆に説明するために王都の地図を描きながら話してゆく。


「まず最初に言っておくが、今回の手柄は王都の警邏隊にくれてやるつもりだ。最近のお前らの人気は高すぎる。だからこの件は奴らに譲ってやれ。こういう事は程々にしておかないと余計な恨みを買うからな、これは決定事項だ」


「わ、解りました」


 他の皆はともかくとしてゼギアスは不服そうだ。他の仲間があの大掃除に参加したのに自分達はなにもしなかったことが相当堪えているようだ。

 これは俺が気にするなと言って解決する問題じゃない。純然たる結果が必要なのだ。


 同じく参加しなかった瑞宝は全く違う立場だ。彼女の仕事は万一にも女達が怪我を、そして人質に取られないように護ることだから立派に任務をこなしているし、俺が瑞宝に初対面した時によくやってくれたと評価しているからな。


 それに警邏隊がこちらに不快感を持っているのは間違いない。ザインたちの人気が上がれば相対的に彼らの評判が下がるからだ。あの大掃除の時も全てが終った後に駆けつけた警邏隊に王都の民は今頃何しに来たという冷たい視線を向けたという。

 そしてこちらとしても、ただの喧嘩で済ませたかったがそうもいかずに数人の志願者が罪を被って今でも牢屋に居る。

 警邏隊にも面子があり、俺達が組織から奪った金を使い賄賂を贈って仲間を釈放させようとしてもなかなか応じないと聞く。


 だから王都の民に向けた解り易い手柄として違法奴隷の摘発という土産を彼らに渡して機嫌を取っておく必要がある。

 官憲と正面切って争うなんて愚かな真似はしたくない。いくら個人の力が秀でていたとしても、何時の時代も権力者が一番強い事に変わりはない。



 俺はジークに視線を向けた。今回の件で男手はそこまで必要ではないからゼギアスの手下を使うことにする。その意味の視線を放つと彼は言葉を発することなく一礼して引き下がった。

 恐らく彼は俺の指示があれば何時でも動ける即応態勢を整えていたはずたが、それが無駄になったことへの詫びでもある。


「話を続けるぞ。彼等が囚われているのは北地区の東の端だ。貴族街と南側のギリギリの境にある周囲を塀に囲まれた倉庫だ。ここに約40人が閉じ込められている。ジーク、彼らはまともな食事を与えられていると思うか?」


「いえ、それは厳しいかと。我々が奴等を全て始末してしまいましたから、今は彼等を管理する人間さえいないはずです。もしいれば昨夜のうちに拉致ってもっと情報を吐かせている予定でした」


 つまり放置されて餓えている可能性が高いか。となると飯も喰わせてやる必要があるな。助け出しておいて、そこではいおしまい、というわけにはいかないからある程度は面倒を見てやる必要もあるだろう。そもそも論で言えば俺達が彼らを管理する奴らまで始末してしまったからでもあるしな。


 ああ、どう考えても目の前の彼等の力が要る。この問題の解決には組織力が必要だ。個人ではどうにもならない。


「では数十人の奴隷達は衰弱していると仮定する。己の足で動けないかもしれんし、端とはいえ貴族街で不必要な騒ぎを起こせない。助け出したらそこに留まらず即移動するぞ。まずは倉庫から移動するための馬車が要るな、それも大型が数台要る。手配できる奴はいるか?」


 直ぐにゾンダが手を挙げた。


「あっしに任せてください。手下に貸し馬車屋をやってる奴がいます。見た限り、在庫には大型もありましたから問題ないかと」


「違法奴隷を人目につかせたくない。幌付きの大型を必ずおさえろ。奴隷たちがどんな状況か解らん、最悪車体を買い取る可能性で交渉しておけ」


 金貨がきっしり詰まった袋を投げ渡すとその中身を見たゾンダの親爺が固まる。


「か、頭ぁ、流石にこの額はないですぜ」


「使わなかったら返せばいいだろ。ゼギアス、お前達は今すぐ手勢を揃えてその倉庫の周囲で待機だ。警邏隊が一番槍だが、奴隷たちは動けないほど消耗しているかもしれん、その時はお前達が運べ」


「はい、直ちに集合かけます」


「瑞宝、この件は男よりもむしろ女衆の助けが要る。手が空いている女達を集められるか? 炊き出しやらなんやらをしてやらないとな」


 無論無料(タダ)で、とは言わない。彼女の前に金貨の束を並べると彼女は妖艶に微笑んだ。


「頭のそういうところが好きですわ。貴方の立場なら黙って動けと命令されればウチの娘たちは否応はありませんのに」


「人間、労働には報酬がついてしかるべきさ。それで、集められそうか?」


「無論ですわ。稼ぎの悪い子達に優先的に振ります。私達の商売の時間は夜遅いですから、この時間は大抵暇なんです。皆喜んで参加するでしょう」


「ゾンダの親爺さんは馬車で女達を拾って合流してくれ。例の倉庫は外はあまり広くない、さっきも言ったが何をするにしても場所を移動する必要がある。そこから近くて適当な場所は南地区のここの空き地が最適だが……」


「頭、そこはバイコーンの縄張りになりやすぜ」


「知ったことじゃない、たかが半日程度だ。人を遣って占拠しておけ。ずっと居座る訳じゃないんだ、何かぬかすようならぶちのめしてかまわん」


「はい、了解です」


「女達はそこで準備を頼む。材料は俺が出しても良いが……」


 ザインがそこで口を挟んだ。


「リッチの奴に手伝わせます。おい、頭の話は聞いてたな!? 新顔のお前が早速お役に立てる時が来たぞ。急いで準備しろ」


「おうよ! 材料は夜の分を回すし、人手はこっちからも出しますぜ。なあに、ここで指を咥えて見てるなんて王都っ子(リーヴァー)の名が泣くってもんでさあ」


「こっちからもリノアの手を借りる予定だ。セリカから話は行っていて彼女は既に動いている」


<玲二、状況は知っての通りだ。手が空いていたらこっちに来てくれ>


<今師匠と飯を作り始めた所だ。食材は勝手に貰ってるぞ>


<ああ、好きに使え>


 その時、<念話>のはずなのにハンク爺さんの怒鳴り声が聞こえてきた。


<馬鹿野郎! ちったあ考えてモノを作れ! 何日も食ってない奴に固形物喰わせる気か!? こういうときは汁物と相場が決まってんだろうが!>


 ああそうか、そりゃそうだな。俺もそこまでは考えていなかったので心の中でハンク爺さんに礼を言って皆にその旨を伝えたところ、何を当たり前の事を言い出すんだと言わんばかりの顔をされた。


 気が回らなかったのはどうやら俺の方らしい。5人は店の外に待機させていたそれぞれの部下達に汚れても構わない服装で集まるように指示している。


 人の上に立つ奴はこういう所に気が配れるんだろうな。やはり俺は向いてないかも。どう考えてもこの5人で持ち回りで頭張った方が上手く回るんじゃないか?


「頭は大方針さえ示して頂ければかまいません。細かな指示はこちらの仕事ですのでお気になさらずともよろしいのです。我等に必要なのは全員がどこを向き、何をすべきなのか示してくださる頭の存在なのです。我等ではそれが叶いませんでしたので」


 俺の考えが伝わったのか知らないが、ジークが小声で伝えてきた。指揮官が雑事に関わってもよい結果をもたらさないことは重々承知しているが、どうにも性分で色々口出しをしたくなる。



 

 指示を受けた彼らは素早く行動を開始した。俺も彼らに負けずに働くとしようか。


 計画では警邏隊が貴族家所有の倉庫からの異変を察知して駆けつけるという筋書きだ。これが平民の商会や倉庫なら問答無用で突っ込めるほどの権利を警邏隊は有しているが、さすがに貴族相手にそれをする訳にも行かないので理由をこじつける必要がある。


 だがそんなに拘る必要はない。直ぐ消せる小火(ボヤ)でも起こせば、あれはなんだと駆けつけられるからだ。俺は放火魔じゃないが、火事は異変を知らせるには格好の出来事だ。その時にこの倉庫の中で何が行われているか発覚したとしても何の不思議もないだろう。



 ということでこの救出作戦は俺が先鞭をつけないと始まらないのだ。<マップ>でそれぞれの位置を

確認すると、セリカがどうやったのか直接掛け合ったようで十数人の人間と共に例の倉庫に向かっているのが解った。

 それにどうやらクロイス卿も一緒のようだ。もし不都合があって警邏と揉めた時、高位貴族であるクロイス卿の存在は有難い。バーニィも先程手伝おうかと連絡が来たが、下手を打つと貴族間の揉め事になる恐れがある。近い将来多くの貴族と揉める気満々のクロイス卿はともかくとして、まだ家督も継いでいない経験不足のバーニィに係わらせて良い問題ではないので気持ちだけ貰って参加は断っている。



 さてさて、それぞれの位置を確認するとそろそろ仕掛け時の頃合だ。俺もその倉庫の近くで身を潜めているのだが、倉庫自体に何らかの魔法的処置がされているのか、中から人の気配を全く感じないのだ。

 <マップ>ではちゃんと総数にして58人の人間がなんとか生存している事が確認できた。だが、何とかと言ったとおりかなり衰弱している者が多数だ。この30人も入れれば上等という大きさの倉庫で50人以上を詰め込んでいるのだ、まさに人ではなく物として扱われているに違いない。


 倉庫の裏手に回り、色んな場所で拾ってきた可燃物をばら撒いて火をつけた。僅かな油も撒いてあるのであっという間に燃え広がり、黒煙が立ち上った。


 人気のない閑静な貴族街に黒煙が広がると、倉庫正面が直ぐに騒がしくなった。警邏隊が来た事を<マップ>で確認した俺は直ぐに消火する。黒煙は鎮火による白煙に変わり、俺はその場から消えた。


「倉庫から煙だ! 火が上がっているのか!?」


「火元はどこだ! 探せ! 非常時だ、倉庫を開けろ!」


 いかにも仕方なく開けますという少々棒読みな声が聞こえてきて、倉庫の扉を叩き壊す音が聞こえてくる。この声の主は役者は無理だなと思いながら正面に回ると、そこにはセリカと変装した護衛のアイン、アイスそしてクロイス卿の姿があった。


「クロイス卿までお出でになるとは思いませんでしたよ」


「セリカ嬢から連絡を貰ってな。王都の貴族街で違法奴隷なんて諸外国に知れたら良い笑い者だからな。なんとしても内々に始末をつける必要がある」


 クロイス卿は渋い顔をしているが、何故その違法奴隷が王都でにいるのかを知ればそれ所ではなくなるだろう。だが、闇オークションを始めたのは彼ではないし、今度公爵に会ったときにその話をすれば良いと思う。

 内々に決着をつけたのでは警邏隊の手柄にならないから、奴隷達はウロボロスが抱えていた倉庫の1つで見つかった事にされる。そのためにもここで大きな騒ぎはまずいのだ。素早く撤退し、移動する必要がある。

 

「セリカも面倒をかけたな、ありがとう」


「全くよ、王都初日からなんでこんな事になってるのよ……といいたいところだけど、この件では相談してくれて良かったわ。もしそのままここで救出されて話が大きくなって、全てが白日の下に晒されていたらとんでもない事になっていたから」


 セリカの表情は真剣そのもので、とても大げさに言っているようには見えない。その理屈は後で聞くとして、今はこの奴隷たちを静かに全員救い出さねばならない。


「倉庫の扉がそろそろ開くようだ。俺は中に入るが、二人はどうする? あまり見ない方がよい状況かもしれないからここで待っていたほうが良いが……」


 俺はそういったものの、二人は細部を確認して報告すべき相手がいるらしくついてくるようだ。丁度そのときゾンダやゼギアスたちが乗った馬車が到着したため、話はそれきりになった。ゼギアスの手下が遅いと思ったらゾンダと合流していたようだ。


 俺はゾンダたちに無言で頷いて作業開始を告げた。彼らは”偶然”に空の馬車で目の前を通りがかり、善意の協力者となって奴隷を助け出す役割だ。収容しやすいように倉庫の目の前に馬車を横付けにした。


 俺自身はセリカ達を伴って倉庫へ向かう。警邏隊がなにやらもたついているで確認に行くと鋼鉄製の錠前を壊してよいか逡巡しているようだ。

 何を今更という気もするが、たぶん彼らが壊したら責任問題になるんだろうな。違法奴隷は間違いなく犯罪だが、倉庫そのものはサウル子爵家の財産だから後で揉めるのを心配しているんだろう。

 

 俺が倉庫をもう少し派手に壊していれば後腐れなく破壊できるんだろうが、踏ん切りがつかないようだ。彼らも手柄欲しさとはいえ巻き込んだのはこっちだし、手を出すか。


「ああっと、手が滑ったぁ!!」


 俺は警邏隊の中にするっと割り込み錠前を片手で引き千切った。鋼鉄製だがなんだろうか、上がりまくったSTRの前では無意味である。最近では暇つぶしにウィスカの26層で手に入れた硬い銀塊を手でこね回して馬の像を作ったほどだ。

 どうでもいいが、作った像は多少の芸術的価値があったのかスキルの買取では銀貨4枚ほど高く買取してもらった。ほんとにどうでもいい話だな。


 唖然としている警邏の皆を尻目に俺は倒れこむふりをして扉を蹴破った。これも倒れこもうとしただけで決してわざとではない。ここにいる皆がそう証言してくれるだろう。 


 灯りのない倉庫の中はかなり悲惨な状況だった。いくつかの小部屋に人間が10人近くもすし詰めになって”保管”されており、最近は食事も与えられていなかったのか衰弱が激しい者が多い。


「くそっ、酷いな。やはり奴隷は価値のある綺麗な若い女ばかりだ。そして隷属の頸革(チョーカー)か。何もかも想像通りだな」


 俺の背後で毒づくクロイス卿を尻目に、警邏やゼギアスの手の者たちによって運ばれてゆく奴隷女達は皆美しく、そしてそれぞれに黒い首輪がしてあった。隷属の意味そのままの、嵌められた者の自由を奪う拘束系の魔導具で、これのせいで助けを呼ぶことさえできなかったようだ。そうでなければ管理者がいなくなったと同時に何らかの行動を起こしても不思議はないし、ここまで発覚に時間を要する事もなかったからだ。


 これまで4つの小部屋を開放し、40人以上の若い女を助け出した。既に大型馬車は3台発進し、残る部屋も3つ、普通の小部屋が二つと階段を上がった先にある通常の部屋を残すのみだ。


「鍵付きか、面倒くせぇ」


 珍しく鍵のついた部屋を蹴破ると、そこにいたのはなんと男達だった。男女比を考えれば男を閉じ込めたほうがやりやすいのだろうが、普通逆だろう。ちょっと良いものでもあるかと期待してしまった自分が恥ずかしい。


「た、助けが来たのか?」


 痩せ衰えているが、目にはまだ知性の力を感じる若い男が掠れた声を上げた。

 

「ああ、そのつもりだ。そちらが望むなら助けてやる」


「ああ、感謝する、是非ともお願いしたい。だが、この隷属の首輪のお陰で満足に移動さえできないんだ。どうか解呪のできる力のある神官を寄越してほしい。財も家も全て奪われた愚かな男の図々しい願いだが、この礼は命を以って必ず……」


「<解呪(ディスペル)>。ほら、もう自由だぞ。他の男達も動けるなら自分で外に出ろ。外では馬車が待ってる。少し離れた場所で色々用意しているから飯や風呂はそこで食ってくれ」


「こ、これは! あれだけ満足に動かなかった体が……神よ、感謝します」


 先程まで解放された女たちが衰弱していながらも歓声を上げていたのだが、聞こえていなかったのか? と思って周囲を見回すと見覚えのある魔導具が置いてある。これは防音の魔導具だ、なるほど、これで部屋の人間以外、外部からの情報を断っていたのか。ちなみに解呪(ディスペル)は僧侶レベル6で入手できる魔法だ。たぶん必要なんじゃないかなと相棒から助言を受け、110ポイントを消費して取得した。

 これまではスキルポイントがバグっていたときに取得できたレベル5(取得ポイント85)で止めていたのだが、最近全く使っていないからこれを機に使える物は使っていこうと思う。


「あ、ありがとうございます。このご恩は必ずお返しします!」


 先程の男の隣で蹲っていた少年(とある趣味を持っている人にはたまらない魅力を感じるだろう。俺はそうでもないが、確かに”売れる”のは解る気がする)が感激して泣いているが、今は礼よりも早くここから移動して欲しい。


 ここにいた男は少年を含め全部で8人。いずれも商品になりそうなモノを持っているが、ただ一人至って平凡なおっさんがいる。このおっさんはなんなんだろう。


「その人は、僕達を攫った側の人間です。仕事でミスしてここに入れられました。僕と同じタイミングでここに入ったので間違いないです!」


 まだ声変わりもしていない少女のような少年がか細い声を上げた。


「このガキ、何を言ってぐへぁッ!」

 

 指をさされたおっさんは何とか取り繕おうとしたが、この中じゃ明らかに異物だ。<鑑定>でもたいしたものはない、少年の言う通りなのだろう。


 余計な台詞を吐く前に首を掴んで黙らせる。


「いやあ、良かったわ。殺し尽したと思った生ゴミだが、残り物がいたか。これでこの事件の”主犯”を確保できたわけだ。犯人不在じゃ締まらないからな、丁度良かった」


「ま、まっでくだざ……わだじばむがんげい」


「んなわけあるか。素直にここの情報を吐けば俺は痛みも無く殺してやるし、吐いている間は生かしておいてやる。それとも警邏隊の前で拷問を受けて死ぬか? 王都で違法奴隷なんてやりやがって、彼らは面子潰されて激怒してるぞ。どっちがいい?」

 

 最大限に<威圧>を籠めて脅すと真っ青な顔色をしたおっさんは震えながら頷いた。素直に情報を吐いてくれるらしい。


「おい、ユウ、どうしたんだ? なにかあったのか?」


 敢えて触れなかったが、狭い中で50人以上の人間が長期間生活していた倉庫の中は悪臭が酷いし着ている物もえらく汚れている。幌つきの馬車を用意して正解だったし、移動先の空き地には雪音がでかい風呂を大量に沸かしてくれているはずだった。解っていた事とはいえ事前の準備が功を奏したな。


 鼻と口を布で覆ったクロイス卿の前に犯人のおっさんを突き出した。


「主犯です。男達と共に監禁されてました。情報を吐いてもらいます」


「ウロボロスの生き残りか! でかしたぞ! これで後始末の筋道が出来たな」


 先程解呪した隷属のチョーカーだが、今の部屋の在庫があったのでおっさんに嵌めさせる。これで余計な手間を省いて事実だけ吐かせる事が出来る。このほかにも10個ほど首輪があったが、全て回収した。余人に渡るよりも俺が管理した方が良い。少なくとも俺は他人を隷属する趣味は持ち合わせていないから使う予定はない。


 このおっさんには色々吐いてもらう必要があるが、今は奴隷解放を優先しよう。残る部屋は二つでそれぞれに8個と1個の生命反応がある。

 先程と同じく鍵のついている小部屋を蹴り破ると、黒い毛皮の大男が仁王立ちしていた。

 これはまさか!


獣人(ライカン)!?」


 二足歩行する獣(思いっきり差別用語だが、それが一番わかりやすい表現だ。聞かれると激怒されるから注意。人間に対してお前ら猿の一種だろ? と聞かれるようなものらしい)が俺の前に立っている。痩せ衰えているものの、その眼光は鋭くこちらに対する敵意を隠そうともしていない。首には隷属のチョーカーがあるのが解るが、今にもこちらに挑みかかって来そうに見える。背後には同じような獣人たちが7人、臨戦態勢にある。

 <マップ>で敵性反応はなかったが、これは俺に対する敵意を示すものなので、不特定多数にむけた敵意は<マップ>に反映されないのだ。これは<マップ>の微妙な落とし穴だ。


 どういう事情か解らないが、まずはこちらに敵意がない事を示さないとな。解呪はその良い例だろう。


「<解呪(ディスペル)>。これで首輪の効果は切れたはずだ。こちらに敵意はない事を解ってほしい」


「確かに忌々しい首輪の効果は切れたようだ。だが人間よ、なんのつもりだ? 我等が素直に従うと思うてか?」


 あちらさんは敵意バリバリだ。どうしたもんかな……。


「ユウ、一体どうした? 揉め事か?…………まさか、お前はアードラー!? アードラーなのか!? 俺だ、クロイスだ! 友よ、何故お前がここに」


「ク、クロイスなのか!? 何故お前こそここにいるのだ」


 顔の下半分を覆っていた布を外したクロイス卿の顔を見た途端、膝から崩れ落ちる獣人に駆け寄ったクロイス卿は今まで見たことが無いほどの衝撃を受けている。


「ここは俺の生まれた国、ランヌ王国だ。何故お前ほどの男が……友よ、お前に一体何かあったのだ!?」


「クロイス、恥を忍んで頼みがある。ラナが、我が娘がこの場に囚われているのだ。娘の命を盾に取られ我等は生き恥を……」


 獣人は非常に誇り高い種族だと聞いている。己が認めたもの以外には決して下に立たず、その武勇と忠義は他に並ぶ者がないという。俺が知っている僅かな知識は、その他には彼らの国が新大陸にあること位だが、同じ新大陸に居たクロイス卿の知り合いだったのか。


 クロイス卿に肩を借りている獣人の背後には似たような防具を着けた獣人の一団がいる。先程は我等といっていたから同じ隊か部下なのだろう。アードラーという獣人に比べると明らかに格が下がるが、それでもそこいらの冒険者や兵士が束でかかっても敵わない力の差を感じる。


「まだ調べていない場所があります。反応はひとつだけですので恐らくは探し人かと。確認してきます」


 自分より大きいアードラーに肩を貸しているクロイス卿の歩みは遅い。俺は彼らに先んじて階段を上り、屋根裏部屋と思われる部屋の扉を開けた。


「あれ?」


 おかしいな、その部屋の中には誰も居なかったのだ。<マップ>では確かに反応があるのだが、部屋にあるのは粗末な寝台と、古ぼけたいくらかの家具、そして部屋に不似合いな熊のぬいぐるみだった。


「んん? んんん??」


 <マップ>で改めて部屋の中の生命反応を探ると、とある一点を指し示している。え、これなのか? 本当に!?


 おれはおそるおそる()()に近づくと、壊れ物を扱うように繊細な手つきで抱き上げた。手触りは本物のぬいぐるみであり、とても()()だとは思えない。


 俺は真偽を確かめるべく、じいっとその熊のぬいぐるみの目を見つめた。そのぬいぐるみは何とか頑張って耐えていたようだが、遂に俺の視線に耐え切れずについと()()()()()()


 このぬいぐるみ、やっぱり生きてるぞ!?


「ラナッ!! 無事かッ!」


「ああ! ()っちゃ! 父っちゃぁ!! オラ、会いたかっただ!」


 俺の手を振りほどいて、ととと、という軽い音と共にアードラーの胸に飛び込んで泣いているのは間違いなく幼子のようだが……何故ぬいぐるみなんだ? 


 あの軽さ、手触りは間違いなく熊のぬいぐるみだぞ。中に綿でも入っていないと不可能な軽さだったし生物では決してないはずだが、おかしいな、父親の胸で泣いている涙が見えるのだが……。


「そうか、ラナは巫女の儀式中を狙われたのか。ユウ、後で詳しく説明してやるが、今は動くぬいぐるみと思っておけ。新大陸の秘儀は教会の奇跡の儀式なんかとは桁が違うんだ」


 クロイス卿の言葉に現実に立ち返った。そうだ、まだ終わっていない。


 この倉庫内にはまだ数名の微弱な生命反応がある。全ての部屋を巡ったはずなのもかかわらずだ。

 まだなにかあるんだろう。親子の感動の再会で忘れそうになっていたが、この倉庫には隠された何かが存在する。


 俺は運命など信じない。運命は自らの力で切り拓くものであり、他者から操られるものではない。


 だが俺はこの後、定めに導かれる出会いもあるということを知るのだった。





 

楽しんで頂ければ幸いです。


長くなりそうでしたので、今回はここで切ります。

これからの話が今回の本命なので、なるはやで上げるつもりです。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ