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報酬と規定クエスト

しれっと続きます(三回目)

 

 日の落ちた冒険者ギルドは賑わいを見せていた。

 併設された酒場からは依頼が成功したのか、酔った冒険者たちの笑い声と杯を交わす音がこちらまで響いている。


 

 

 扉を開けて中に入ると一瞬視線が俺に集まるものの、すぐに興味は去ったのか、視線は感じなくなった。

 やはり個室で取引をしてたので冒険者の間では注目されていないようだ。ギルド職員は別だが。リリィも苦手な人込みの中なので既に指定席にもぐりこんでいた。

 

 いつもならば個室に行くところだが、今日はそのまま通常の買取カウンターに並んでみた。<等価交換>のおかげで別に買い取りをしてもらう必要はないのだが、折角なのでレイスダストを11個取り出し、カウンターの上に置いて買い取りを頼んだ。


 職員の俺を見る目は警戒心丸出しだった。普段買い取りをしてくれているレイラさんは今日はいないようで普通の男性職員が対応する。



 目の前の職員はレイスダストを手に、しきりに首をかしげている。それを俺は黙って見ている。こちらから何か情報を提供することはなかった。自分なりのギルドへのテストである。

 


 今まで<アイテムボックス>に直行だったので俺も始めて知ったのだが、 レイスダストは”塵”というだけあって固形物のような不定形物のような変わった感触をしている。黒いスライムみたいなブヨブヨした物体で、本当に高い価値があるのか疑わしい。

 そんな不思議な物体を見た男性職員は訝しみながらも背後にいる職員に確認を取りに行き、次第に職員の間でざわめきが強くなっていく。



 まだかなと思っていたら個室のカウンターで時たま会う黒髪の女性が俺に話しかけてきた。相変わらずの存在感で怜悧な瞳はこちらの全てを見透かされそうになる。この女、絶対に只者じゃない。命の危険を感じなければ<鑑定>を使ってしまいそうだ。



「失礼ですが、あちらの素材はどちらで入手を?」


「ダンジョンで偶然拾いまして。なので、こちらで買い取りのお願いを」


「偶然ですか」


「ええ、本当に偶然手に入りまして。そういえばダンジョンの番兵の方からこちらに来るようにと聞いているのですが、自分の担当の職員の方はいらっしゃるのですか? できればいつもお願いしているキャシーさんがいいのですが」


 黒髪の女性は俺を人気のない場所に導いた。連れて行かれた先はいつもの個室ではなく、いくつかの仕切りに区切られた場所だった。何回か通っているはずだが、こんな場所があるのを始めて知った。

 

 椅子を勧められたので、腰を下ろす。女性は卓を挟んで向かい側に座った。

 女性の顔をまじまじと見るのは無礼だとは思うが、ここまで綺麗に整った女性の顔を見るのは初めてで、思わず見入ってしまった。

 

(こ、この女、今ユウに<魅了>使ったわ!! 効かないけど! <全状態異常無効>なめんじゃないよー!)


 警戒心丸出しの相棒が<念話>を飛ばしてくる。有難いが、<念話>で叫ばんでも聞こえるから! かなりうるさいんですけど。

 それはそうと、さっき感じた違和感が<魅了>なのか。呪術師系のスキルの一つで、成功すれば異性を意のままに操れるという。俺は<交渉>に便利かと思って取得を提案したのだが、リリィが強硬に反対した。

 

 はっきりと言わないものの、俺が女性を<魅了>することが嫌らしい事がわかったので引き下がった。だが、その後でもっととんでもない<洗脳>スキルが存在したのだが、相棒は容赦なく取得させたのでこちらは問題ないらしい。




「今日、彼女は所用で外しておりまして私が対応します。どうやら査定に時間がかかっているようですので 先にお呼びした話をしてしまいましょう。

 冒険者ギルドのルールの一つに月に一度のランク規定クエスト達成という義務があります。あなたがこのウィスカの冒険者ギルドに登録をしたのが春の84日でして、今は夏の2日になります。

 そういうわけで貴方は春の月の分の規定クエストをクリアしていない状況です。普段ならば何も通告もなくギルドメンバーを抹消しているところですが、そちらの事情も考慮いたしましてこちらで指定したクエストを受けていただければ春の月の分は達成といたしますが、如何でしょう?」



 ああ、規定クエストの存在をすっかり忘れていた。そういえばそんなことを聞いた気もする。入会して十日も経っていないが、それまで本当に色々ありすぎたからな。

 

「すみません、規定クエストを忘れていました。どのようなクエストがあるのでしょうか」


 できれば半日もかからないクエストがいい。薬草採取とかありませんかね……無理か。


「自分はFランクですが、受けられるクエストがあるんでしょうか」


 そう言うと黒髪の女性が三枚の板を取り出した。板の表面に羊皮紙が括り付けられているから それがクエスト内容だろう。折りたたまれてすぐには見れないようになっている。



「こちらがクエストの内容になります。一応ランクも考慮して3つほど選んで来ておりますが、こちらの中からお選びください」


 選べと言われても折りたたまれて中が見えないようになっている。どういうことかと尋ねたら、受けない依頼を見せるわけにはいかないと言われてしまった。


 理解できるようなできないような話である。一番下のFランクなんだから向こうだってそう大層なもの出してはこないだろうに。

 彼女は左から順に難易度が低くなっていきますと言われたので、一番優しいと思われる右を取ってみると内容は王都までの商隊護衛である。報酬は往復で金貨2枚。正直に言えば安すぎて受けたくない依頼だが、王都に行くのは初めてなので見物しつつクエストをこなすのもいいのかと思ったりもする。


 やはり今日の大収穫が俺の心に余裕をもたせているのだろう。人間、金があるとやはり違うな。




 そちらのクエストでよろしいでしょうかと黒髪の女性が聞いてくるので頷き、詳細の説明を聞くことにした。


「今回の依頼はその依頼書に書いてある通り商隊の護衛です。貴方一人ではなく、数組の冒険者と共に護衛を行っていただきます。出発は明後日の朝ですが、明日の夜には冒険者たちの顔合わせを行いますので冒険者ギルドまでお越しください。用件は以上となりますが、よろしいですか」


「分かりました。自分は一人しかいないのですが、他の冒険者のご迷惑では? 今からでも他の依頼に切り替えることはできないものですかね」


  無論、本音は面倒くさい依頼はやりたくありません、もっと簡単なものを下さいと言っているのだが、鉄面皮でもある目の前の女性には通用しなかった。


「今回の依頼は元々冒険者の数が揃っていましたが、あなたの規定クエストを強引に入れただけですので大した問題はないと思います。

 そろそろ査定が終わりそうですね、今ギルドカードと共に報酬をお渡しいたしますので、少々お待ちください」


 やはりこの依頼は受けなければならないようだ。面倒な上に、何日かかるか知れないので借金も増えそうだが、初めてのまともなクエストだしちょっと楽しくなってきたな。

 


 それに明日の夜に集合するということは、明日の午後ぐらいまではダンジョンに行けるはずだ。

 明日は十層のボスと戦ってみるのもいいかもしれない。そんなことを考えていると報酬とギルドカードがこちらにやってきた。

 ギルドカードは変わらずFランクのまま。しかし名前がライルのままだったので、変更が効かないか聞いてみた。


「すみません。ギルドカードの名前は変更可能なのでしょうか?」


「可能です。しかしギルドカードは特殊な魔法を用いておりまして、変更手続きには銀貨一枚がかかりますがよろしいですか?」


 やはり無料ではなかったが、これから先を考えると変えておいたほうが絶対にいいのは間違いない。銀貨を支払い、名前をユウに変えてもらった。

 他の国ではギルドカードが身分証明にも使われているところもあり変更不可能らしいが、このランヌ王国ではできるそうだ。

 ただ、名前を変更したという履歴は残ってしまうそうで、犯罪者などが身柄をかわすために名前を変更することに多々あるようだ。

 つまり名前を変えるということは自分が訳アリですと宣言しているようなもんか。



 返却されたギルドカードは名前が変わっていた。完全に素性を隠すのは無理でも、ライルの実家に面倒がかかる可能性を減らしておくことは意味があると思いたい。幸い履歴で調べられるのはフルネームではないらしいから、一応貴族であるライルの実家を探り当てるのに少しは難儀するだろう。


 報酬も確認する。珍しく小袋に入っており、確認を促されてみてみると金貨が10枚と金貨よりもやや大きい白みがかった金貨が一枚入っていた。<鑑定>してみると白金貨とある。おお、これが金貨百枚分の価値があるという白金貨か。庶民ではとてもお目にかかれない通貨で、王家や大商家でしか使っていないらしいがギルドも持っていたんだな。

 やはりレイスダストの価値は間違っていなかったようで、五層のレイスは俺の永遠の友人となることがこのとき決定した。


「そちらの用件はそれだけでしょうか? でしたら疲れているんで失礼します」


「お疲れ様です。明日は夕方にはこちらにいらしてください。その頃には他の冒険者も揃っているはずです」


 了解を告げると酒場に知った顔がいないことを確認して冒険者ギルドを出た。前に話した”五色”のメンバーは4日ほど前に会ったが、今は街の外の依頼に出ているはずだという。



 ”双翼の絆”亭に戻った俺は夫婦に挨拶したあと、部屋に戻り今日の収穫を改めて確認しようとしていた。

 隣にはようやく人心地ついたリリィが飛び回っている。

 <アイテムボックス>にアイテム一覧が表示されているからわかりやすいな。今までギルドのカウンターにひたすら並べるだけだったから向こうも苦労しただろう。

 うん、今更だが、俺はかなり非常識なことをしていた気がする。個室でやってよかったわ。



 ええと、レイスダストが68個にゴールデンソードが25本で、猫の髭が13本………面倒になってきたからまとめて魔約定に吸い込んでもらうことにした。今の借金が1474枚だから全部入れていった後でもう一度借金額を確認すればいいや。


 色々なアイテムを手当たり次第に突っ込んでいたら、不意に見慣れない名前が入り込んできた。

 ゴブリンの魔石やコボルトの魔石など”魔石”と名のつくものがゴロゴロしていたのだ。<アイテムボックス>に表示されているだけでもかなりの数になる。


 いつ拾ったのか全く覚えがないんだが、スキルでそこら一帯をまとめて拾っているから紛れ込んだのだろう。わからないものは<鑑定>するに限るので、俺は<アイテムボックス>からゴブリンの魔石を取り出してみた。形は小指の先ほどもない黒い小石で大した価値があるようには見えない。

 

 コブリンの魔石   レジェンドレア 価値 金貨5枚


 ゴブリンの体内に生成される魔石。モンスターの力の源とも言われるが、発見されるのは千に一つ取れればいいといわれるほど貴重。例外がダンジョンモンスターでその由来から比較的魔石に恵まれるといわれる。ダンジョンアタックする冒険者の目当ての多くはこの魔石でもあるが、その多くは魔塵(まじん)と呼ばれる塵に帰る。この塵の高密度の結晶体が魔石となるケースが多い。9等級。




 うわおおおあああああっ!!! 


 も、も、も、もったいねぇぇ!!!!

 

 俺は今まであれくらいの小石を大量の塵と共に結構見ていたが、普通の石だと思って見向きもしなかったのだ。まさか金貨5枚もの価値があるなんて思いもしなかった。これまでに間違いなく20個は捨てていたことになる。


 ち、畜生!! 本当に無知とは罪だな。

 

 今日一日はモンスターよりも地下への探索に重点を置いていたからレイス以外の実入りが少ないと思っていたし、事実狩った量も少ないが、それでも魔石は30個近くある。俺は今まで金貨何百枚無駄にしたんだろうか。

 俺は半泣きになりながらリリィに事情を尋ねた。彼女は魔石の存在を当然知っていたが、こんな浅い層で落ちるものだと思ってなかったらしい。

 例の<幸運の神ヴィセルの加護>とやらが働いたのではないかと言ってる。確か効果はアイテムのドロップ率を大幅に上げることだから、ありえなくもないのだが……早く言ってほしかったよ。


 <鑑定>の中の一文も気になった。今まで塵はただのカスだと思っていたが、魔力の結晶みたいなものかもしれない。


 魔塵   価値 銅貨 1枚


 ダンジョンモンスターが倒された際に出す魔力の残滓。そのままでは何も使えないが魔道具の燃料に使われたりもする。基本的に安価。この価値は標準的な一樽の量である。



 この塵、ボックス内に1トン近くあるんだが……塵も積もれば山となるし、馬鹿にするつもりはない。銅貨一枚もあれば簡素な食事もできるのだがら。

 ただし、買い取る奴がいるとは思えないから魔約定行きだなと思ったら、ボックス内のウィンドウに魔約定という項目が現れた。まさかと思い押してみたら、魔塵の項目が消え、金貨2枚分の借金が消えていた。


 これには俺とリリィも言葉がない。本当にこのスキル(以下略)である。




 その調子で俺たちはどんどん魔約定の借金を減らしていった。もちろん時折確認してちゃんと減っているのか見たりした。間違いなく金額は減っており、そのたびに俺たちは手応えを感じていく。


 結果、1474枚あった(上の五桁は気にしないことにした)借金が342枚まで減っていた。本日の収入、まさかの千枚越えの1132枚である。さきほどギルドで換金したものは別にしている。明後日から遠出するとなると色々物入りな気がして、所持金はあったほうがいいと思ったのだ。


 それをあわせると今日は1230枚ほど稼いだ計算になる。内訳はレイスと魔石で8割ほどを占めていた。魔石は敵が強くなればなるほど大きさと価値が上がるようだから、これからも下層への探索意欲が進むというものだ。



 気を良くした俺たちはその後”双翼の絆”亭でささやかな酒宴を開いた。老夫婦も交えた食事は酒の力もあって終始和やかに進み、リリィもご機嫌だった。



 俺は慣れない酒を呑みすぎてしまい、やや前後不覚になりながら部屋に戻った。<各種状態異常無効>をわざと発動させていなかったので頭がふらふらする。

 スキルを使うとだいぶスッキリしたが、今日の探索は暗闇の中を進んだおかげでよほど精神を使ったようだ。猛烈な睡魔が俺を寝床へと誘っている。


 既に太平楽でよだれをたらして眠っている相棒をいつもの寝床に寝かせると、俺もそのまま寝台へ倒れこみ、まどろみに身を委ねてしまった。




 残りの借金額  金貨 15000342枚  銀貨7枚


ユウキ ゲンイチロウ  LV88

 デミ・ヒューマン  男  年齢 75

 職業 <村人LV103>

  HP  1583/1583

  MP  1244/1432

  STR 245

  AGI 211

  MGI 232

  DEF 230

  DEX 204

  LUK 175

  STM(隠しパラ)457

 SKILL POINT  365/380     累計敵討伐数 3871




お読みいただき誠に有難うございます!

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