仄暗い闇の中から 2
お待たせしております。
「私、すっごい暇なんだけど」
その夜、俺は王都のとある食い物屋に集合を掛けた。その場でのセリカの第一声がそれである。
ド直球のセリフに面食らいながらも、話の続きを促した。
「だから、私の念願である商売をしてみたいのよ。実はいろいろ動き回って実地調査ももう済んでるのよね」
「最近あまり姿を見ないと思っていたらそんなことをしていたのか」
「いやぁ、誰かさんにウィスカに来いって言われたから来たんだけど、いつの間にか稀人に構ってばっかりで完全に放置されてたなんて思ってないから安心して」
ぐっ、そう言われると返す言葉もない。その点もそうだが、俺はセリカに負い目があるのだ。あの時はセリカの身に危険が迫っていると思ってここに来るように条件を出したのだが、思いっきり勘違いだった。
魔導具が爆発するようになっていたのは身につけるように指示を出した人間も知らなかったようだ。彼女の一族では大きな契約をするときに験担ぎの意味を込めて身に付けるものらしい。彼女から指示を出した者も若い頃に何度も身に付けていたと聞かされれば俺も思い違いを納得せざるを得ない。
結果としてセリカは、無意味にこのウィスカに縛りつけられているというわけだ。
無事ならいいんだ、もう帰っていいよとなるなら話は楽でいいんだが、地位のありそうな未婚の若い女を世話したが、何故かすぐに帰したとなるとセリカの方がいろいろ不味い噂が立つと護衛の双子の女騎士アイスから話を聞いてはどうにもままならない。
俺がそう思っていることを知らないはずがないこの女が、こんな言い方をしてくるのだ。
さて、俺に何をさせたいのやら。
「で、なんの商売をするつもりなんだ? 新人商人は商人ギルドに相当虐められると聞いてるが?」
商人ギルドは”成功した商人”達が作り上げたギルドとは名ばかりの利権集団だと聞く。商品の独占や価格の吊り上げなんて可愛いものだ。酷いものになると競合店の目の前に全く同じ店をより安い値段で出して徹底的に敵や新人を潰して回るという。強い奴が弱い相手にそれを仕掛けるのだ、敵うはずもなく出る芽を摘まれまくり、大商人はさらに儲けるという具合と聞く。
だから新人商人は例の冒険者制度の特権を利用したりして、少しでも自分にマシな環境を用意しようとするようだ。
そんな徒手空拳ではとても歯が立たない相手だが、セリカの顔からはかなりの自信が窺えた。
「始めはあんたが持ってくるアイテムを加工して私の人脈に売り捌こうかと思っていたの。後は前にあんたも言っていた食事処も良いわね。あんたはギルドに目をつけられることなく環境層のアイテムを消費できて、私は商売ができるというわけ。
でも、ユキが来てから戦略を大幅に変更したわ。あの娘が持っている異世界のアイテムはとんでもないわよ。ウィスカの富裕層に少しだけ広めたインナーが一日でもうあの人気なのよ。これは途轍もない金の臭いがするわ」
「雪音を便利に使おうとするなよ。お前の便利な道具じゃないんだぞ」
俺は仲間をそう庇ったが、セリカの反応は冷笑だった。
「あんたは逆にユキを舐めすぎ。あの娘は出会ってすぐの私に逆に商談を持ちかけるタマよ。それもかなりあの娘に有利な話をね。私もパートナーにするならあれくらいであって欲しいし、これが成功してあんたの借金が少しでも減れば目的に沿うから受けたけどね」
セリカの様子では雪音はかなりの交渉人らしい。だからこそセリカも雪音と共に商売をする気になったんだろう。
そういえば雪音はもう少しで軌道に乗るとか言っていたが、本当に俺の借金を手伝う気なのだろうか。
俺としては自分のために自分の時間を使って欲しいのだが。
「んで、前置きが長くなったが俺に何をして欲しいんだよ? 俺は商売は素人だぞ」
「あんたにソコは期待してないわ。毎日ダンジョンでじゃんじゃん稼いでくれればいいわよ。で、店を始めるにしても女二人で始めるのは大変そうじゃない? 不用心だし、高級品も扱うのにまさか屋台で営業ってわけにもいかないでしょ」
確かに。今だってアイン達が食事を共にしている。二人はセリカの前では護衛に徹したいようだが、俺が落ち着かないので無理矢理に飯を食わせている。お陰で既に諦めの境地のようで次々と皿を空にしている。ここの代金は俺持ちなので本当に遠慮がないな。
「というわけで、お金出して? 店舗と奴隷の店員が欲しいのよ」
んんん? 何かおかしな言葉が聞こえたぞ。俺が金を出す?
「よし、現状確認だ。俺は借金持ちでお前は取り立て屋だよな? そのお前が俺に金を出せと?」
「だって先立つものが要るのよ。あんたが返済以外に大金持ってるのは知ってるから言ってるのよ。後で倍にして返してあげるからさ。普通に店員募集したって使えるのは他の店からのスパイしか来ないわよ。安心して任せられるのは高級奴隷しかいないの。クロイス卿と奴隷が高いって話をして知っているんでしょ?」
酔っ払いの酔ってない発言と金の無心における倍にして返すは一切信用しないことにしているが、別に金を出すのが嫌なわけではない。
セリカが暇をもて余しているのは俺のせいでもあるし、雪音と共にでかく商売をするなら手伝ってやるのもやぶさかではない。
だが、取り立てる側が債務者に金の無心ってどうなんだ。
俺が有り金の全てを返済に当ててしまえば手持ちが無いと突っぱねられる話ではある。
だが、利子は借金に応じて変動するわけではないので、返済額が金貨一枚でも百万枚でも一日300枚利子が増えるのは変わらないのだ。手持ちを全て突っ込む意味があまり無いので<アイテムボックス>にいろいろな物がたまっている現状を招いている。
そのことについてはセリカも了承しているようで何も言ってこない。金貸し側としては一日でも利子を多く払えば儲かるからな。
それと、前に物納について聞いたことがあるのだが、あちらとしては大歓迎らしい。金貨一枚を返済しても金貨一枚に変わりはないが、例えば一つ銀貨一枚の触媒を物納したらあちらの捌き方で銀貨5枚にも10枚にもなるという。特に魔法の触媒は凄い金額に化けるらしい。俺がギルドにもっていけば銀貨一枚でも彼らはまさに錬金術を用いてそれ以上の価値にしているのだ。
羨ましいが、それが人脈を持つ強みでもある。俺がこの王都で痛感した人の繋がりの大事さであり、そのアイテムを欲しがる人を見つける力と情報網も大事な商人としての能力だ。
いかにもな商人らしいがめつさだが、だからこれからも物納でよろしくと笑顔で言われてしまった。こちらも大量納品すれば嫌でもひとつの単価は下がるから、定額で買い取ってくれる物納の存在は有難い。先程の触媒なんてそろそろ5桁に達する量を納品しているから、普通に考えて銅貨5枚ほどに買い取り額が低下してもおかしくないからな。
「面白そうな話をしているね」
「お、来た来た。これであと来ていないのは二人か」
俺達が居る奥まった席にバーニィとクロイス卿が連れ立ってやって来た。
開口一番、クロイス卿が頭を下げた。
「ユウ、すまない。お前の剣は今全力で探させている」
「ああ、それは大丈夫ですよ。俺の剣がある場所はもう解っているんで。むしろ皆を集めたのはこの後の問題を解決するために情報が欲しかったんです」
その話は全員が集まってからにしましょうかと告げるとクロイス卿の顔にあった苦悩が消えていった。
「既に対処済みかよ。はあ、先に言ってくれよ、今迄生きた心地がしなかったぞ」
「だがら大丈夫ですよって言ったじゃないですか。ユウが本気でヤバい時は空気が違うって。今日はまだ平気な方ですよ」
「お前だってあいつから預かった品を紛失させてみろよ。マジで胃に穴が開くからな」
「まあ、取り敢えず食ってくださいよ。もう頼んじまったんで残すと無駄ですし」
心痛から解放されたクロイス卿は猛然と目の前の皿と格闘を始めた。実はクロイス卿は今回当事者を除いて一番の被害者だったりするので労ってやらんといかん。
「なんか飲みます? ここは俺持ちなんで何でもどうぞ。バーニィも好きに食えよ」
「話せるねえ。おおい、お姉ちゃん、酒持ってきてくれ酒」
「クロイス卿、たぶんこれから面倒な話ですよ。程々にしておいた方が……」
「大丈夫だって。話が始まったらあの魔導具で酔いを飛ばすさ。今は飲ませろっての、あの報告を受けた後でユウからの呼び出しだぞ? 本気で心臓が止まるかと思ったんだからな」
かなりの勢いで杯を干しているクロイス卿に、そういえば酒といえば……。
「ねえ、話の続きをしていいかしら?」
俺から金をせしめる気満々のセリカが諦めることなく話しかけてくる。
「何で俺なんだ? 大本の金主から金を借りれば解決だろ? 俺からだけでも5万枚は返済してるはずじゃないか。そこから持って来いよ」
「訳あってあっちの手は借りたくないのよ。私の独力で出来ることを見せる必要があるの!」
俺の手は良いのか? と思いつつも、そこまで意地悪をしたいわけではないので、今日ギルドて換金した金額を皮袋のまま放り出した。
「じゃあ、取り敢えずこれを使えよ」
「ちょっと、高級奴隷がいくらするか知らない訳でもないでしょ。この袋じゃ精々金貨50しか入ら……」
袋を開けて中身を見たセリカの動きが固まり、その後はからくり仕掛けのようにぎこちなくこちらを見てきた。
「お嬢様?」
「ぜ、全部、は、はくきんか……」
「ああ、ウィスカのギルドがようやく金を用意できたらしくてな。出来るだけ買取りしてもらった」
これでも半分以下しか買い取れなかったことは言う必要はないだろう。凄腕が集まるウィスカには俺以外にも大金を必要とする冒険者は多いだろう。
なので俺だけで全ての金を使い切るわけにもいかず、やむ無く白金貨30枚で抑えたのだ。
さらにダンジョンを降りればこれ以上の金になるかもな、とは伝えてあるのであちらもさらに増額の対応してくれると思う。
「うおっ、マジか! こりゃ眼福だ。こんな量の白金貨、始めて見たぜ」
「ちょっとぉ! こんな量をいきなり渡されても怖くて持ち歩けないわよ。そうだ、今度一緒に奴隷を見に行きましょう、それがいいわ!」
別に構わないが、俺の意見を一切聞かずに勝手に同行が決められた。
「それは構わないが、クロイス卿の方も人材を欲しがっていましたよね」
「ああ、稀人の一件で俺も忘れがちだが、授爵の時期が後回しになる訳でもないしな。急ぎであるのは確かだ。忙しくてまだ金稼ぎも出来てないんだがな」
「優良な人材は早い者勝ちですわよ、クロイス卿」
「最優秀な奴は彼に渡せよ。クロイス卿の事情は知っているはずだろう?」
あれから玲二と雪音がいた教団の地下拠点を強襲してまだ5日程しか経っていない。恐らく後始末の最中なのではないだろうか。クロイス卿に暇があるとは思えないが、これも急ぎの件だよな。
「そういえば、他の稀人が存在するかもしれない件はどうなりました?」
「結論としては”多分召喚されているが、この国では居ない”だな。責任者を尋問したが、下っ端でロクな情報を持ってなかった。もちろん、召喚されてない可能性もあるが」
クロイス卿は苦虫を噛み潰した様な顔だった。稀人がいない可能性を排除できない不安は良く解る。
「こりゃ、いますね、少なくともそう考えて行動した方がいい」
「他国にも使者を出しているが、この国のように本気で取り組んでいるところもあるが、教団の影響が強い大陸北部は難しいだろうな」
「本物の稀人なら嫌でも情報が漏れてきますよ。彼らのユニークスキルはとんでもないですから」
「それもそうだな。稀人といえば、今日は二人を連れていないんだな」
「ええ、今日の話は今の二人には刺激が強すぎますから」
二人も本当は同行を望んだのだが、レイアと相棒に共に居てもらっている。俺が甘やかしているといえばそれまでだが、この件に首を突っ込ませる意味も感じなかったので今回は外している。相棒も同じ理由で置いてきた。リリィは俺がこれから何をするか解っているので深くは聞いてこなかった。
なに、所々で多少血の雨が降る程度だ。
「うわ、何でこんな凄い面子が揃ってウチで食事中なのよ」
最後に現れたのは3人組だった。この店のオーナー一族であるリノアと当事者であり、俺にこの件の一報を伝えたユウナ。そして最後の一人が……。
「遅かったな、待ちくたびれたぞリノア。そして、久しぶりですね、ドラセナードさん」
「いきなり現れて店の人間に私を呼んで来いって伝えてすぐ来れるわけないでしょ」
最後の一人は王都の冒険者ギルドのマスターであるドラセナードさんだった。
「ご無沙汰しています、ユウ殿。ユウナが王都を盛んに動き回っていたので事情を聞こうとしたら彼女にここに連れてこられたのですが、確かに錚々たる顔ぶれがお集まりのようで」
「ようドラセナ。暫くぶりだな」
「はい、閣下。お目にかかれて光栄です」
「そういうのは止めてくれ、この場は昔通りでいいさ」
「閣下がそう仰るのであれば。久しいな、クロイス」
ドラセナードさんは、ハーフエルフでありながら王国貴族でもある。爵位はたしか子爵だったはずだ。俺もクロイス卿によって初めて王都に来たときに紹介されている。
あとはウィスカのマスターであるジェイクとは同じパーティでライバルとか何とか。その関係でジェイクの妹であるユウナが連れて来たのだろう。
「ユウ様、勝手をいたしましたが事情を王都のギルドと共有することはこれからの計画に有用であると判断しました」
「解った、君がそう判断したなら何か言うつもりはない」
「ありがとうございます」
ユウナは深い礼をすると席に座らず、俺の背後に立った。これの意味するところは明らかだ。
「おいおい、こりゃどういうこった? 何があった?」
クロイス卿が驚くが、困っているのは俺も同じだ。俺があの短剣を渡した次の日からずっとこうなのだ。何度言っても止めやしない。こちとら人に意味もなく従う趣味も従わせる趣味も持ち合わせていないってのに。
レイアの時もそうだったが、どうも俺は押しに弱いのかもしれない。俺自身に特に影響がないなら途中から好きにしろと投げ出してしまうな。
「私のあの剣を頂いた時からこの方こそ終生仕えるべき主だと確信しております。そして主の許可も既に得ておりますので」
何度言っても聞かないので放置したら彼女の中では許可になっていた。助けてくれとクロイス卿とドラセナードさんを見るがふいと視線そらされた。俺には誰も味方はいなかった。
「レイアに続いてこんな美人まで。あんたどこまで手を広げるつもりよ」
「あの”氷牙”を部下にしてるなんて。これは情報に無かったわ」
「かの名高きセリカ様と常闇の一族のリノア嬢にはご機嫌麗しく。これからも主共々よろしくお願いいたします」
優秀なスカウトであるユウナは二人の事も調査済みようだ。セリカのことも聞きたい衝動に駆られるが、敢えて本人から口にするのを待っている。
にしてもリノアの一家は常闇なんて呼ばれているのか、暗殺稼業だから解らなくもないが。
当の本人は何故呼ばれたのか解らない顔をしているが、今回はお前も鍵になる人物なんでな。しばらく話を聞いておいてくれ。
さて、集合を掛けた面子も揃ったことだし、話を始めようか。
俺はユウナに視線を向けた。彼女の話が全ての始まりだったから、彼女から話してもらうとするか。
「それでは主からお許しが出ましたので、私こと冒険者ユウナが経緯を報告させていただきます。
全ての発端は20日程前に、我が主がダンジョンで素晴らしい魔法剣を二振り発見した事にあります。主はその魔法剣をいたく気に入り、自らの佩剣とされました。事あることに自慢しておりましたのでその剣は皆様もご覧になったと思われます」
「そりゃあもう。わざわざ王都まで自慢しに来たわよ」
「そのときのもう一本の魔法剣が短剣で、私に下賜してくださった氷の短剣でした。長剣をご覧になった方は気付かれたと思われますが、ダンジョンで長年の年月、主を待っていた剣は剣身はともかく鞘や拵えが非常に劣化、またみすぼらしくなっていました。これでは名剣に相応しくないと考えた我が主はこちらにおられるクロイス卿に補修、新造を依頼し、クロイス卿は王都で一番とされるクリフ親方の下へ依頼を出しました」
「ほう、クリフ親方といえば常に予約が半年は埋まっているという職人ですね。私もお願いしているものがありますよ」
ドラセナードさんが感心したように呟くが、俺は予約で半年も掛かるという点に引っかかった。そんなに待たなくてはならないのか?
「ああ、ユウ、そこは心配するな。公爵家がかつて依頼していた物の順番と交換してもらった。ある意味数少ない我が家からの礼だと思ってくれ。これでもお前に受けた借りは百分の一も返せていないからな」
「そこまで思ってもらうことはしてないでしょう?」
「我が家の次期当主の命だぞ、何よりも代え難いっての。それに何より魔力の件もある。あの子は自在に魔力が扱えるようになってから本当に笑顔が増えてな、親父は事あるたびにお前に何を返せばいいのかってのが最近の口癖だよ」
「それは本当だよ。僕も聞いたことがある」
公爵家の一件は俺が勝手に首を突っ込んだだけだし、礼としてはソフィアの庇護を頼んだ件で十分すぎるのだが、向こうはそうもいかないようだ。
ユウナが脱線しかけた話を戻した。
「続けます。私が頂いた剣もクリフ親方にお願いする事にしました。私はかつて親方の依頼を受けたことがある程度で特に縁はなかったのですが、主が託された剣を既に見ていたようで親子剣とも呼べる私の短剣との共通点に気付かれました。そのお陰で同時に造っていただけることになり、私も剣を預けました」
「ってことは、俺とお揃いになるわけか。いいね、何か特別な意匠でも考えようか、誰が見ても一目で解るようなやつを」
よろしいですね、と微笑むユウナは非常に魅力的に映った。普段表情を変えないからこう言う時には驚かされるな。
「ちょっと待ってくれ。クリフ親方は……この件は強盗殺人と聞いていたが」
そうなのだ、賊が親方の工房に押し込み強盗に入り、金目の者を根こそぎ奪っていった。装身具や魔導具と共に明らかに高価に見える魔法剣を強盗たちは見逃さなかったというわけだ。
「クリフ親方の元には内弟子が二人おりまして、凶行時には親方の指示で留守にしていたようです。帰宅し変事に出くわして恐慌状態の所を私が通りかかり、剣が盗まれているのを確認した次第です」
後は俺が引き継ごう。
ユウナに状況を説明させている間、俺は大きな紙に鉛筆で王都の地図を書いていた。<マップ>の描写をそのまま書き写すだけだし、大体の場所が解る大まかな地図なのでさっさと書いてゆく。
いや、わかっている。皆が注目しているのはこの紙と鉛筆だ。雪音のスキルで作り上げた異世界製の品物はこの世界のどんなものよりも高品質だ。俺が地図を書いているのにリノアは高級感のある紙をしきりに触っているし、クロイス卿は鉛筆に興味津々だ。
最近書類仕事ばかりで大変らしいけど、これに慣れると羽根ペンは面倒臭くて戻れなくなるだろう。もしここで消しゴムなんか出したら世界が変わっちまうな。
そしてセリカは皆の反応を見ながらこれはイケると確信した顔をしている。
いかん、話が横に逸れてきた。急いで王都の地図を書き上げて、料理が大方片付けられた大卓の上に皆が見えるように置いた。
「ここからは俺が話そう。ユウナに連絡を受けて王都に飛んだが、盗難自体はたいした問題じゃない。俺は自分のアイテムに魔力で紐をつけている。元はダンジョン探索に慣れていない頃、敵勢に押されてドロップアイテムを見失わないように魔力で痕跡を残していた事なんだが、もちろんあの剣にもそれは行っている。ユウナの短剣も手に入れたときにやっていたからそのままにしてあったんで、所在は掴んでいるんだ」
「ふうむ、魔力で失せ物を辿れるということか。どのような方法を取っているか非常に気になる所だが、話の腰を折る気はないよ、続けてくれ」
ドラセナードさんは独り言のつもりだったようだが、思った以上に声が響いて皆の注目を集めてしまった。とりなすように言葉を続けたが、クロイス卿のこいつは偉大なる・セラの弟子だと告げると黙ってしまった。
「リノア、ここからはお前が一番詳しいはずだ。俺が魔力を辿って辿り着いた先は東地区の外れにあるここ、”メイラード”という店だった。知っているな?」
俺が口にした店の名にリノアの顔が強張る。俺が示した地図の場所を見て嘘ではないと思ったようだ。
「”メイラード”ですって!? ”ウロボロス”の拠点じゃない!」
ずいぶんと安っぽい名前が出てきたな。出入りしている輩がそういう関係だから確認を取るべく少しだけ手を出したあとで引き返してきて正解だったな。
「この王都の暗部がおでましか。だが、犯罪組織が強盗殺人か? 少々派手すぎる、キナ臭いな」
「ウロボロス、事情通の大人なら必ず聞いたことのある組織ね。この数十年に幾つもの組織を吸収して巨大化したこの国最大の裏組織。その総数は300を越えるとも言われているわ」
酒精を消したクロイス卿とセリカが己の知っている情報を出してくる。
「その店にあるのか俺の剣で、ユウナのアイスファルシオンは南地区の”フレシア”って特殊な店に保管されている」
「今度は”ウカノカ”だっていうの? なんだってこの国の5大組織の二つが出てくるのよ……」
「”ウカノカ”。王都の娼館を縄張りとする第2位の組織です。その数は200にも達するとか」
ユウナの言葉に一同は静まり返る。いや、バーニィだけはよくわかってない顔をしているな、こいつも俺と同類なので同じ事を考えているに違いない。
「で、話は変わるがリノア。お前さん前に商売換えの事について話していたな」
「え? ええ、そうね。いつまでも家業を続けていくわけにもね。私の代で何とか真っ当にしてみたいと思っているけど……まさか!」
「この二つの組織は今日でこの世から消滅する。お前の家で残ったシマを乗っ取れ」
楽しんで頂ければ幸いです。
新たに始まった賞のエントリーをしました。もちろん狙えるわけもなく、新たな読者様が見てくれないかな? という気持ちで一杯です。特にお隣の中共がこんな事を始めているのに驚きました。プーさんに似たキャラ出したら物理的に消されそうです。
あちらは異世界禁止なのに登録しました(笑)。
恒例に成りつつありますが、謝辞でございます。
閲覧、評価、ブックマーク、感想、全てに感謝しております。皆様の一つ一つの反応が私のモチベーションになりますので、これからもよろしくお願いします。
特にストックが切れた今は本当にありがたいです、見てもらっていると思うと書かなければという気持ちが湧いてきます。




