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快進撃!!

しれっと続きます(その2)



 翌朝の俺は目が冴えに冴えてしまい、午前4時すぎには出かける支度を整えていた。

 

 こんなに高揚した気分では、もう一眠りなど無理だ。かなり早いけど出かけてしまおう。


 いつも通りのリリィを掴んで懐に放り込み、俺はまだ薄暗い市街を駆け抜けていった。幸いハンク爺さんは会えたので、ほぼ日課と化している風呂は入れることが出来た。沸騰するほどの熱湯にしておいたので、彼らが入るころにはいい湯加減になっているのではないかと思う。



 早朝過ぎて門番などいない番所を抜けてダンジョンに入り込む。

 ここばかりは深夜だろうが早朝だろうがモンスターの気配は変わることがない。野生のモンスターであれば睡眠や休養も必要だろうが、魔力で出来ている連中にそんなものはない。いつでも絶好調で、そしてあまりにも単純である。それゆえに恐ろしくもあるが。



 俺は昨日からずっと練習していた<魔力操作>で今日の迷宮の階段の位置を調べてみた。

 昨日は浮かれすぎて気付けなかったが、この行為はちょっと危険でもある。確証はないんだが、ダンジョンモンスターは魔力を感知している節があり魔力を盛大に拡散させていると、俺という存在を相手に教えていることにも繋がるはずだからだ。

 

 さすがに視界内に敵がいるときは気付かれると思うので控えようと思う。

 だが、馬鹿の一つ覚えみたいに同じ反応を繰り返す連中なので、せいぜい周囲を見回して俺がいなければ諦めるだろう。人間だって物音がしたら周囲を警戒するが、何もなければ別に事を荒立てたりしない。

 ダンジョンモンスターの本能は凄まじいが知性は限りなく低い。獲物を見つけたらひたすらに突撃あるのみである。

 より正確にはそれ以外の命令を与えられていないのかもしれない。恐らくはこいつら生まれて間もないのか、寿命が短く設定されていて頻繁に『交換』されているのかも。

 

 まあ、俺はモンスターの生態に興味はない、あるのは奴らの落とすアイテムだけだ。


 


 時間にして十数微(秒)だろうか、ほどなく階段を発見する。位置を<マップ>に落とし込むと約800メーテルほどの距離にある。無論、そこに行き着くまでに敵集団も数多いが、ここは強行突破したほうがいい。

 

 俺は一気に走り出した。



 これも昨日思いついたのだが、俺は今まで探索を徒歩で行っており、相当慎重に歩いていた。罠の有無や敵の気配を探っていたから当然ではあるが、今はマップに全て判明している。ならば駆け抜けてしまえばいいのではないか。この程度の敵などこちらから強襲をかけて殲滅すればいい。



 俺は走り続けた。スキルの恩恵もあるが、訓練期間に朝から晩まで死ぬほど走り込んでいたためスタミナも全く問題ない。そのうち敵の集団が見えてきた。ゴブリンだ。むこうさんも俺に気付き、叫び声を上げながら武器を振りかざす。その数は<マップ>によると34匹。



 だが、その瞬間に彼らの頭は吹き飛んでいた。敵の位置がわかっていたので既に魔法を待機させていたのだ。

 ゴブリンたちは成す術なく塵に帰っていった。ここですかさず<範囲指定移動>を発動、通路の全体をカバーしあらゆるものを回収する。

 

 おお、すげえ! 一瞬であれだけあったドロップアイテと謎の塵が回収できてしまった。

 あわててボックスの一覧を一瞥すると、きちんと収納されていた。よしよし、いい感じじゃないか。

 おもわず口元が緩みそうになるが油断は禁物だ。ダンジョンは何が起きても不思議はない。


 俺はそのまままた走り出す。その後敵と8回遭遇したが、全く同じ方法で対応した。




 そしてついに階段に到着した。俺の魔力はきちんと階段を探り当ててくれた。

 何より素晴らしいのか時間である。現在時刻は午前4時45分。このダンジョンに入って10寸(分)も経過していないことになる!


 俺は心の底から快哉を叫んだ。今まで平均して一層攻略に2刻(時間)をかけていたのから、単純に10倍以上早くなっていた。

 俺は軽い足取りで第二層へと下りていった。




「あれ、ここどこぉ?」


 リリィがどうやら目覚めたらしい。いつもの時間に起きるとすれば今は午前7時ごろか。


「おはよう、ここはダンジョンだ。そんでもってここは第四層」


「うそぉ!だってまだ朝でしょう。私寝坊してないよ!」


「顔出すなよ、危ないぞ!」


 俺は迫り来る刃をかわしながら魔法で骸骨どもをぶっ壊していく。やはり骨系には土魔法が最適だな。形も矢ではなく岩石系で潰してしまうのが一番効率がいい。


「スケルトン! 本当に四層にいるんだ! 時間は――ホントにまだ朝だ」


 リリィが<時計>で時刻を確認したのだろう。俺はリリィのおかげでほぼ無敵だし、リリィはお互いの<共有>スキルで俺のスキルが使えるのでさらに無敵だ。本当に俺たちは最高の二人組だな。


 

 

 俺は今、現状の最下層である第四層にいた。そしてこの骸骨どもの直ぐ先に第五層に続く階段があるはずだった。

 これから未踏破層に行こうとしているのだが、先にこのモンスターのドロップアイテムを回収しておくか。



 今倒したのは動く骸骨モンスター、スケルトンである。カタカタ音を鳴らしながらこちらに突っ込んでくるのだが、骸骨なので魔法と相性があまり良くない。

 無論当たれば簡単に倒れるのだが、なんと言うか効きが悪いというか、隙間が多くてダメージが通っていない気がしたのだ。

 リリィは気のせい、どう見てもただのオーバーキルだといっていたが、まあ俺の気分的な問題で土魔法を使い、押しつぶしている。連中、ほどほどの剣の腕前なので間合いを詰められて数で来られると油断できない相手だ。その前に魔法でぶっ飛ばせばいいのだけれど、今回は向こうからこちらにやってきた。


 

 スケルトンのドロップアイテムはなかなか価値が高い。特にレアドロップはゴールデンソードという名の金の剣で非常に目立つし価値は金貨2枚もある。見える限りでも5、6本はありそうだ。砂の中から金色がちらついているのが見えた。ちなみに通常のドロップはボーンソートで銀貨3枚の価値がある。


 まとめて回収し、ボックスに放り込んだ。慣れてきて素早く行えるようになった。その手並みをリリィも満足そうに見ている。


「うんうん、昨日休んで本当に正解だったわね。こんなに使えるスキルだとは思わなかったけれど、一昨日までのあの作業はなんだったのかと思うね」


「ああ、一々アイテム探してボックスに突っ込む作業なんて、もうしていられないな」


 初めてこのスキルを見たときは、冒険者にこんなスキル何の意味があるんだと見向きもしなかったが、こんなに役立つスキルになるとは思いもしなかった。必要なものは状況によって変わっていくものなんだと痛感する。



「さあ、リリィも起きたことだし、第五層に向かうとしようか。初探索だ、気合入れていこう」


「わかった。でもその前に朝ごはん~」


 そういえば俺も何も食べていなかったな。今日は何もかもが順調で忘れていたぜ、俺も食べよっと。

 そうだ、折角だし昨日セラ先生から借り受けた、魔導具を使ってみようか。ダンジョンの味気ない石壁を見るよりかは断然いいだろう。階段の上に<結界>を張って誰も立ち入れないようすると魔導具を起動した。

 


 魔導具が作り出した空間に入ると大きな豪邸が俺を迎えた。昨日見ていたのでそのまま家に入り、テーブルで<アイテムボックス>から熱々の食事を取り出し、茶の準備をする。

 

 リリィと二人で食事を始めたものの、周りが広いせいか妙に寒々しい印象を受けるな。この大豪邸はリビング、キッチン、寝室に分けられており、寝室もベッドが4つ備え付けられていた。

 なんか使うには広すぎて落ち着かないな、本当は仲間でも募りたいところなのだが。

 


 仲間を募るなど、自分でも無茶を言っていることは解っている。前も思ったが仲間の分け前も出さねばならないし、この能力の秘密を打ち明けられるとなると、それこそ自分の全てを相手に預けるのと同じことだ。今の俺にそこまでの勇気は持てなかった。



 奴隷を仲間にしているパーティもあると聞くが、奴隷は最低でも金貨10枚単位の高額商品だし、戦闘もできる奴隷となるとその値段は天井知らずだろう。先はわからないが、俺には到底無理な話だ。

 

 奴隷について説明を加えるなら、大まかに3種類が存在する。犯罪奴隷、借金奴隷、戦争奴隷だ。罪の重さも今上げた順番による。名称の意味はそのまま犯罪を犯した者、借金のカタに売り飛ばされた者、戦争の捕虜になり身代金を支払えなかった者だ。一番多いのが戦争奴隷で次に犯罪奴隷、最後に借金奴隷になる。

 戦争奴隷が多いのはこの国が戦争を繰り返しているからではない。いつになっても減らない盗賊や山賊が人を誘拐して戦争奴隷として売り払うかららしい。借金奴隷にするには借金の証文(俺も持ってる魔約定もそのひとつだ)が必要でその立証には手間がかかるのに比べ、戦争奴隷はそういった手間がかからないから制度上の穴をついているのだ。本物の戦争奴隷は他国方の戦利品として得た民や騎士や兵士などになり、即戦力としてダンジョンに潜る冒険者に買われたりもするそうだ。


 もっともこの国はこの20年ほど戦争をしておらず、俺の勘ではそろそろドンパチしなければならないのでは? とは思うが。


 ライルがいたド田舎のキルネ村じゃ奴隷は高価すぎて誰も持っていなかった。家畜の最上位にあたる存在といえばいいのか、見目麗しい者、高い教育を受けた者などは信じられないほどの高価で取引されるという。この街ならばいるはずだが、まだ日が浅い俺はまだはっきりと見たことはない。農奴はいたが、あれも奴隷の一種とはいえ、彼らは育てた農作物の殆どをその上に捧げるだけの存在だから、なんか違う気がするな。

 あと、奴隷商人は国からの認可制で、性質の悪い奴も中にはいるんだろうが、簡単なことでじゃなれないらしい。人数が決まっているという噂も聞いたことがある。



 話を戻すが、そういういうときに限って相棒の妖精が私じゃ不満なのかという顔をしてくるのも面倒だ。今更リリィと離れて生きるなんて想像できないしする気もないが、仲間は別に多くてもかまわないと思うのだが……。


 

 そんなことを思いながら食事を終えて、ダンジョンに戻った。<結界>で守られているため周囲は安全だが、すぐ近くにスケルトンの集団がいくつかウロウロしていた。俺が発見しても気付いていないようなので向こうからは見えないらしいが、気になったので殲滅してから降りるとしよう。

 しかし、本当にこのダンジョンはモンスターの再出現が早いな。





 第五層も外観は変わらなく石畳が続いていた。いつもよりも緊張しながら周囲に魔力を飛ばしてゆく。探してみると、階段とアイテムはいつもどおり見つかったが、目視できるモンスターの数はほぼいない。そんなこともあるのかとマップを確認すると、こちらはいつもどおりの真っ赤である。おかしいな、空中のモンスターも普通にチェックできたんだが……。


 とりあえず行動を開始する。先ほどの件が気になったので、走ることはしなかった。それでも道順は解っているから30分も歩けば到着する。

 

 <マップ>で確認する。さて、敵のおでましだ。

 

 なんだあれ? 半透明な奴が空中に浮いてふわふわ漂っている。姿が見えなかったのも納得できる、まるで幽霊だな。まあ<鑑定>しよ。


「うわ。幽霊だ! 昔のユウがいる!」


 リリィさん、それ止めてくれませんかね、いや間違ってはいないけども!



  レイス  ゴースト種


 実体のないアストラル系モンスター。物理攻撃は一切通用しないため、魔法属性の武器か、魔法の使用によってのみダメージを与えることが出来る。敵愾心はほぼなく、魔力の温存のため多くの冒険者は素通りする。

 HP 15/15 MP 10/10 経験値 15

 ドロップアイテム レイスダスト 


 

 何だあいつ、体力も経験値もすくない雑魚モンスターなのか? <マップ>じゃ赤の敵判定だが敵意もないようだし、このまま素通りしてもいいかもしれないが、とりあえず戦っておくか。こちらは余裕あるし。



 魔法が簡単に通るということなので、普通に攻撃したら普通に倒せた。塵に還ってゆくレイスを見ながら色々と疑問が浮かんだが、とりあえずはアイテム回収だ。塵ばっかりでアイテムが見えないのは気のせいだと信じたい。


 あった。<アイテムボックス>にはレイスダストというアイテムが入っていた。マップの敵表示は20個近かった気がするのだが、実際のドロップ数は5個という少なさが気になるが、まあいいや<鑑定>しよう。


  レイスダスト  価値 金貨10枚


 レイスが落とすドロップアイテム。その塵は様々な用途の触媒として使われ非常に人気が高い。呪術、魔法使い、更には鍛冶師にまで豊富に使われており、絶対数が少なく市場に出回ることがほぼないので、その価値は高い。


 き、金貨10枚だと!!? これっぽっちの塵でその値段なのか? 


「なるほど、レイスはよくある”お助け系モンスター”なのね」


 リリィはまたよく解らないことを言っているが突っ込むと余計面倒なので放っておく。放っておいてもこちらが何も返さないとまとわりついてくるのだが……。

  

 とにかく、金貨10枚は凄い。正直この層はさっさと抜けて第六層に向かおうと思っていたが、予定変更である。現在時刻は朝の午前8時半だ。よし、12時までこの第五層で粘って幽霊という幽霊を狩りつくしてやる!



 そこからの俺は我ながら容赦なかった。敵の反応を見つけると大急ぎで駆けつけ、情け容赦なく倒しまくった。この階でもスケルトンは出現したが、こいつもこいつでなかなかの稼ぎだから遠慮なくぶっ飛ばした。

 今ほどこのダンジョンの敵の数、そして再出現の速さを感謝した日はない。何しろすぐに現れてくれるのだから楽でいい上に、こちらのアイテム回収も素早いのだから次の標的にすぐ向かってゆける。俺が矢継ぎ早に動くものだから、リリィは懐に入り込んで見ているだけになってしまったほどだ。




 だがその甲斐あって終了予定時刻のちょっと前には堂々たる成果があがっていた。

 なんとレイスダストが手元に54個もあったのだ。スケルトンも通常が50本、レアが21本ある、まさに大漁という言葉がふさわしい。単純計算で金貨580枚は固いのだから、初めて借金が減る日になった。 

 しかも今日はまだこれからもあるから、どこまで行けるのかは想像できない。

 

 俺たちは意気揚々と第六層へと下りていった。






 そこは静寂と暗闇が支配していた。


 

 第六層は一切の明かりがない闇が辺りを覆いつくしていた。階段の途中から暗くなり始めていたからそんな予感はしていたが、第六層に足をつける頃には自分の手さえ見えないほどの暗闇だった。



 だが、俺のすることは変わらない。魔力を伸ばすことに視界の有無は全く関係ないし、俺たちには<暗視>スキルがあったからだ。いやあ、いつか使うだろうと思っていたが、備えあれば何とやらだなあ。

 

 階段の位置はすぐに判明した。初めて降りた階層は所々落ちているアイテムの質を見るために<魔力操作>で集めている。

 今は見えないのでとりあえずまとめて<アイテムボックス>に突っ込んだ。もれなく入ったかどうかも確認できる。本当に便利(以下略)。<アイテムボックス>の一覧はウインドウで確認できるのだが、暗闇では僅かに発光していた。有難いとは思うが、敵からも丸見えなので確認は後にしよう。



 さて、敵の位置も階段の場所も把握できたし<暗視>でおぼろげながら輪郭は把握できる。最初だから走り回ることはしないが、油断しないでいくとしよう。リリィも俺の懐という指定席におさまっている。


 歩き始めてすぐに敵の反応があった。視界では全く捉えられないが<気配察知>でわかるしマップでも赤い点がすぐ近くにある。魔法を撃とうとするが、折角暗いのだから炎系以外の属性で攻撃することにした。

 

 <鑑定>は相手を認識しないと発動できないので、何も解らない現状では数を大目にし、着弾後に爆裂してその周囲にも被害が及ぶようにした。

 

 大きく深呼吸の後、一気に打ち出した。その数54発。音も光もない静かな、しかし必殺の一撃は乾いた音を立てて敵に吸い込まれ爆音を闇の中に轟かせた。


 

 マップを確認する限り、敵は一掃できたようだ。ドロップアイテムを回収し、新たに入手したアイテムを探して<鑑定>する。名前はヤミふくろうの瞳か。


  ヤミふくろうの瞳 価値 金貨1枚


 ヤミふくろうの瞳を模した宝石。宝石の中ではそこそこの価値。純粋な宝飾品。



 フクロウは夜行性の鳥だから暗闇の中でも活動できるというわけか。迷宮も色々考えていて芸が細かいな。ドロップアイテムは宝石か、この世界では始めて見た気がするな。しかもこいつは10個手に入ったから幸先のいいスタートだ。

 と、言ってるそばから新手が来た。まだ距離があるから明かりを灯して敵の正体を探ってみるのもいいだろう。ファイアボールを幾つか浮遊させ、明かりとしてみたのだが、地味にMPを持って行くからあまり使わないようにしよう。


 炎に照らし出された先の、闇の中から動物が飛び出してきた。猫か? 確かに猫も夜行性の動物だが、もしかして暗い階層は夜行性モンスターで固めていくのだろうか。とにかく<鑑定>と迎撃の準備を整えた。


 ナイトキャット 猫系


 夜に活動する動物系のモンスター。鋭い爪を持ち、草原の暗殺者の異名を取つ。暗闇からの奇襲は多くの冒険者から恐れられている。

 HP 45/45 MP 0/0 経験値 38

 ドロップアイテム ナイトキャットの尻尾 猫の髭



 猫だった。更に暗殺者として奇襲するようだが、野生ならともかくダンジョンモンスターは関係ないようだ。集団で突撃してくる。代わり映えしなくて申し訳ないが、いつも通りに魔法で普通に殲滅できた。

 ナイトキャットが悲鳴さえ上げずに消えて行くのは少し気が楽だった。俺は何故か猫が妙に好きなので、悲鳴をあげられたら精神的にダメージが大きい。逆にリリィは猫が嫌いらしい、昔彼女の姿が見える猫に追いかけ回された過去があるらしい。

 

 アイテム回収をすると、猫の髭というアイテムが気になったので<鑑定>する。


  猫の髭   レア 価値 金貨5枚

 

 猫の髭を模したドロップアイテム。王国貴族に人気があり、高く取引されている。オークションなどに出せば更に高い値がつくこともある。


  ナイトキャットの尻尾 価値 金貨1枚


 猫の尻尾の形をしたアイテム。ふわふわ。


 

 <鑑定>が雑だな! 特に尻尾のほうはふわふわしか書いてないじゃないか! 価値が解れば俺はいいけれど……髭のほうはレアドロップで金貨5枚か、美味しい敵だな。数は尻尾が8の髭が3という収穫だった。

 尻尾は本当にふわふわだった。ふわふわすごい。


「ここは夜のモンスターが出るのね。いずはライオンとかもでるのかなぁ」


「俺も同じことを考えてた。暗闇の階は調査を終えたらさっと抜けてしまおうか」


 まだフクロウと遭遇していないからやつと会うまではいる必要があるけれど、今までの流れでは一層につき敵が2種類現れている。出会っていないフクロウでこの層の敵は全てなのかもしれない。

 あれだけ敵がいるのだから当然といえば当然だが、そのフクロウとはすぐに会えた。<鑑定>して第七層への階段を突き進む。ちょっと期待していたレイスはこの層ではでないようで、やはり五層だけの特別なモンスターだったようだ。余裕ができるまでは五層で金稼ぎをするのもいいかもしれない。


 あっという間に七層へ下りてしまった。時刻は午後1時過ぎなのでまだまだ降りられるが、今までの苦労はなんだったのかというくらいの快進撃だ。平均して下に行けば行くほどドロップアイテムの質は上がっているのは間違いないので、ちょっと無理しても先に進んだほうがいいかな。

 


 第七層も六層と同じく光源はなかった。もしかしたら十層までこれが続くと考えたほうがいいかも知れない。一層から五層までが同じ造りだったからこちらも六層から十層まで続いている事も考えられる。


「一気に十層まで降りてしまったほうがいい気がしてきたな。きっとそこまでこんな真っ暗だろうし」


「同感。やっぱり視界が開けていないと色々不安だよね」


 相棒の同意が得られたので、探索する速度を上げることにした。正直に言ってやることは同じだからひたすら繰り返すだけなのだ。

 魔力を飛ばして階段を見つけ、向かってくる敵を倒してアイテムを回収。敵が新顔なら<鑑定>し、敵の生態を知って経験へと変えてゆく、それだけだ。

 


 

 油断はしないが、慣れというものは怖いな。ルーチンワークに落とし込んだのは俺だが、ここまでうまくいくとは思わなかった。

 

 気付けばもう九層にいて、十層に向かう階段の前に立っている。本当にこのスキル(以下略)。

 敵のニューフェイスはキングムササビ、ニードルラット、ミニレオン、ブルーフォックスの4種類だ。見事に夜行性の動物ばかりが集まっている。アイテムの価値は大して上昇せず横並びではあるが、それでも平均金貨2枚だから相当儲かっているのは確かだ。まだ計算していないが、今日の収入はどうなっているのか楽しみだ。



 さて、十層に向かおうとしていた俺たちだが、リリィが何かを感じているようで大事をとって休憩をしている。

 リリィ自身何がどう感じるのか理解していないようだが、俺は彼女のそういったセンスに全幅の信頼をおいているから納得いくまで考えてもらうことにした。

 俺は昨日取った果実を食べているだけで何もしていないのだが―――うまいなこれ。ネイブルという小さな房が連なった果実だ。記憶にあるバナナそっくりだが、味は酸味が感じられた。革ごと食べられるし。


「う~ん、下から妙な気配があるのは確かなんだけど。それ以上がわからないよー」

 悩み疲れたリリィは結局、俺が食べていた房に齧りついた。そのままくれてやると俺は第十層の階段に足をかけた。

 相棒は俺を止めようとしているが、そこまで心配する必要もないと思う。階段を下りた瞬間に敵に出くわすなんてことは今までなかったし、第十層がそんなに危険ならすぐに上がってくればいいのだ。


 不安そうなリリィを連れて俺は階段を下りていったのだが……確かにおかしい気もするな。事実この階段も普通より長く降りているし。



 どうせこの先も暗いのだろうと思い<暗視>を使っていた俺は逆に面食らうことになる。十層は普通に明るく、そしていろんな意味で普通ではなかった。

「ボス部屋だわ……このダンジョンは階層主が存在するタイプなのね」

 階層主? なんだか強そうだな、この階層自体はすぐ先に重厚な扉だけがあるだけのようだ。そしてこの先になんか凄そうなモノがいるのも解った。<気配察知>も警告してくるが、そんなものがなくても扉の向こうから溢れ出てくる強者の気配がそれを教えてくれる。


「ボスってことはここが最下層という意味なのか?

「いえ、あくまで中ボスよ。多分十層ごとにこういった強力なボスが配置されているのよ。ここまで来た冒険者の壁としてね」

 周囲を見回すと幾つかキャンプの跡が見て取れた。なるほど、他の連中はここで休息を取ってボスに挑んだわけか。確かに生半可な準備ではこのボスは倒せそうにないと思える。 

 

 となれば、することは一つだ。


「よし、帰ろうか」


「うん、気合入れてボスに――えっ、帰るの?」


 器用にリリィがずっこけた。お前、戦う気だったのか。


「時間を見てみろよ。もう4時半になろうとしてる。今日はここまで来れば上等さ、ここは様子見で来ただけだしね」


 帰還を考えたらこんなもんだろう。五層でもう少しレイスを狩って帰るつもりだから、そこそこ時間はかかると思う。お楽しみは明日にとっておけばいい、今日はもう帰るとしよう。


 



 ダンジョンをでたのは午後6時過ぎたあたりだった。九層から一層までかかった時間は30分程だが、レイスと戯れていたらこんな時間になってしまった。だが、レイスのやつも俺のことが好きで好きでたまらないらしく、昼間を越える団体さんで俺を迎えてくれたのだ。おかげでレイスダストがさらに20個ほど集まってしまった。もう今日はいくら儲かったのか数えるのが怖いほどだ。

 ホクホク顔で 外に出たら俺を番兵が呼び止めた。



「おいお前、ユウという冒険者であっているか」


いつもは俺に何も言わない連中は声をかけてくるなんて珍しい。しかも俺を名指しだなんて何かあったんだろうか?


「確かに俺はユウですが 一体何の用ですか」


 ことさら疲れた声を出して相手の反応を見てみた。実際に疲れてもいるんだけど。


「良かった、当たっていたか。昼間ギルドから使いが来てな、お前さんに呼び出しがかかっているようだから、早いうちに行った方がいい。あっちからにらまれると最悪お前さんのダンジョン通いを止めねばならないからな」


 その年でギルドからの呼び出しをくらうなんていったい何をやらかしたんだ?と番兵はそうからかって来たが、俺は全く心当たりがない――ないわけではないが、呼び出されるほどではないはずだ、と思う。

 換金にいく度にどよめきとざわめきが毎度毎度繰り返されているから、注目されているかもしれないと思うことはある。個室で換金していなかったらどうなっていたことか。

 それでも呼び出しを食らうほどのことでもないはずだ。俺のような初心者にどんな用なのだろうか?

 正直なところを言えば今日はもう宿で休みたい気分だったが、そうもいかないだろう。


 ギルドは素行の悪い冒険者や決められたルールを守らない者たちのギルド資格停止を向こうの一存で決めることができたはずだから、明日に引き伸ばしても心証が悪くなるだけだ。だが、入ったばかりのド新人を一々呼びつけるような話があるのだろうか?


 本当に面倒だが行くしかないな。リリィも不安そうだが、命を取られるようなことはないだろう。


 俺たちは冒険者ギルドに足を向けることにした。




 残りの借金額  金貨 15001474枚  銀貨7枚


ユウキ ゲンイチロウ  LV64

 デミ・ヒューマン  男  年齢 75

 職業 <村人LV89>

  HP  1175/1387

  MP  1264/1264

  STR 201

  AGI 198

  MGI 204

  DEF 199

  DEX 189

  LUK 157

  STM(隠しパラ)301

 SKILL POINT  245/260     累計敵討伐数 2898


お読みいただき有難うございます

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