冒険者登録 5
お待たせしております。
毎日上げている人ってやっぱすげえです。ワシには追いつかぬ(涙)。
本当は魔法を教えるつもりはなかった。人を寄せ付けない自然の森というものを二人に見せて、付き合い方を教える予定だった。
二人は魔法を教えてほしそうにしていたが、まずは言葉を先に話せるようになってからだと説き伏せた。
その甲斐あって、この一週間ほどで二人は簡単な会話程度なら難なくこなせるようになっていた。<異世界言語理解>の力も借りてはいるようだが、きちんと自分の口でこの世界の言葉を話している。
何故今になって魔法を教えなければならないと考えたのは、実は俺の失敗が原因だったりする。
その失敗とは、今も視界に入るか入らないかの限界辺りに潜んでいる尾行者達だ。俺自身は既に周囲の見慣れた風景として気にもしていないが、彼等にとってみれば俺は重要な監視対象、些細な変化でもすぐさま報告を依頼主やリーダーにあげるべき相手だ。
今迄一匹狼でやって来た俺がいきなり仲間を、さらには冒険者登録までしたとなれば既にあの尾行者たちは送るべき相手へ情報を流しているだろう。
ダンジョンでは未だに俺以外に16層を突破したという話は聞かないし、他の冒険者パーティーは相当矜持を傷つけられているらしい。行儀の悪い頭に血が上った奴が俺以外の仲間に実力行使に出ても不思議はない中、俺の行動はかなり迂闊だったと言わざるを得ない。
一番狙われるだろう雪音は一人であまり出歩かないし、レイアやセリカと共に行動してもらえば大丈夫だろう。だが、玲二は結構一人で出歩くし、宿である双翼の絆亭の周囲はお世辞にも上品な連中が多いとは言えない。俺ならば間違いなく玲二を狙う。
特に玲二はいきなり各種スキルを手に入れて自分が劇的に強くなったと錯覚している。
生兵法は大怪我の基という言葉もあるとおり、いくら多くの職業的スキルを手に入れても今の玲二は隙だらけだ。
俺でもわかるのだから、敵の目が節穴でなければ玲二の中途半端さに気付くだろう。
俺がバグったスキルポイントで様々なスキルを手に知れても戦士として達人級の動きがいきなりできるわけではない。望む動きに体が付いてこなくてその違和感に苦労したのを覚えている。
だからこそそれを補うためにダンジョンへ入る前に魔法の特訓や体術の練習を何度も何度も繰り返して体に慣らしていった。
それをしていない玲二はちょっと動きがいい素人程度なんだが、本人は気づいていないだろうなぁ。ここで痛い目を見た方が後々の彼の成長になると思うが、俺の失敗のせいで取り返しのつかない大怪我でもされたら癒せるとはいえ悪いし、ここは魔法の登場と相成った。
玲二達の上がったステータスで人に魔法を射つとどうなるかは気にしないことにした。襲ってくる奴が悪いのだ。
森というものは人に多くの恵みを与えてくれる一方で、また多くの人の命を呑み込んできた。
多くの人が正しく理解しているが、森とは決して人の領域ではない。野性の獣や魔物の住み処であることを忘れてはならず、人は他人の住み処に少しだけ分け入って、恵みを戴いているのだ。
そのような話を田舎では親から子へ、師から弟子へと語り継いでいくものだが、この二人の場合は俺が勤めることになったというわけだ。
「そこの辺りは下生えを踏まないように気を付けろ。潰すと来年の生育に差し障る。俺らに関係なくても森で飯を食っている奴等の恨みを買うぞ」
「あ、ああ。解った。それとあそこの傷はなんだ?まるで熊の爪跡みたいなやつ」
「熊はこの辺りにいないと聞いているが……それらしい敵も<マップ>にはいないしな。でもなんだろう、確かに熊の爪痕みたいだな」
二人に森を教えるとは言ったものの、俺も猟師ではないので森にそこまで詳しいわけではない。
わけではないが、さすがにこんな大型の獣がいれば毎日森へ入っている人間からギルドへ情報提供があっても……あ、そういえばなんか言われたな。聞き流していたが、それだったのかも。
とはいえ、予定に変更はない。<マップ>かあるので危険は予知出来るし、奇襲や不意打ちの心配もないのだ。むしろ二人のいい勉強になるだろう。
「あそこらへんに生えているのが標準的な薬草だ。<鑑定>すると薬草の状態まで解るから見てみるといい。ギルドに持ち込むと一律で同じ金額なんだが、自分でポーションを作ってみると薬草の状態で出来がまるでかわってくるからな。良い奴を選んでみるといい」
<鑑定>と<マップ>は訓練をするとその使い勝手が全然違ってくる。慣れてくると必要な作業が省略されるのか、<鑑定>は一目見ただけで終わっているし、<マップ>は俯瞰した状態での認識把握が一瞬で終わるようになる。最初の頃はのろくさしていたから、<鑑定>は相手をじっと見つめる必要があったり、<マップ>は拡大縮小に時間が掛かりすぎてある程度の大きさでずっと使わざるを得なくて、せっかくの機能を封印していた。
ちなみにここでも二人の才能が発揮された。マップの縮尺に難儀しているところを見ていたら、業を煮やした玲二が画面に触れると二本の指を開いたり閉じたりしている。
何をしているのかと思って彼の画面を覗き込むと、そこには自在に縮尺を繰り返す<マップ>があった。
彼らの中ではすまほとやらで当たり前の行為らしいが、俺の中では衝撃的だった。こんな方法で思い通りに動かせるなんて想像も出来なかった。
やはり稀人は凄い、頭が軟らかいなと勝手に感心してしまった。
<鑑定>は魔力を消費するが、二人とも俺のスキルで勝手に魔力は回復する。いくらでも<鑑定>の練習ができるわけだが、そもそも二人は根本的に魔力を自分で認識出来ていない。
認識していないものを使用しているという不思議な状況だが、魔法の練習としてはまずはそこからになる。
魔力自体はあることは二人も<鑑定>によるステータス把握で理解している。むしろ数字を信じるならば豊富な方だ。
だが、これまでの人生で全く縁のなかった存在に、異世界にやって来てさあ魔力に気付けとは無茶な話ではある。だが、二人とも魔法の習得に非常に強い意欲を見せている。
俺も初めて魔法を使ったときは感激したものだし、異世界人にとっても縁遠い魔法は大きな憧れがあるようだ。だが、多くの人は生活の中で魔法が使われるのを見ていたし、魔導具などもあるので見慣れてしまっている。現地の人だって一定の羨望はあってもああ、この人は魔法が使えるのか、程度の認識でしかないだろう。
しかし、自分の魔法を教えることに抵抗がある。何故なら俺の魔法は何かおかしいと思うのだ。これまで出会った魔法を嗜んでいる人々は無詠唱であったり魔法の効果に驚いてくれたが、それはどこか得体の知れない物に対する畏怖が混じっていたように感じるのだ。
俺自身は魔法に全くこだわりはない。こんなものは遠距離攻撃の一つに過ぎないから、これだけの魔力を使えばどれだけの威力がでるのかの理解と、狙ったところへ向かっていくのが確認できれば問題ないのだ。
正直、重要なのは魔法の正しい理屈よりも敵を倒すという結果を求めていたから使えれば何でも良かった。
それは俺が単独で人目のつかないダンジョンに篭もっているということも手伝ったかもしれないが、これから二人に俺の変な魔法を伝授するのはどうなのか? という疑問はあった。
そのためにセラ先生に魔法の教授をお願いしてある。先生自身も稀人という貴重な存在に対する興味はあったようだし、雪音のスキルで創造した手土産を持参して頼めば二つ返事で了承してくれた。
一番の関門であった姉弟子のアリアも雪音と通じ合うものでもあったのか、俺のときとは違ってすぐに打ち解けていたほどだ。
なので安心して任せられると思っていたのだが、俺の失敗によって急遽予定が繰り上がってしまったというわけだ。先生の所では魔力とはなんなのかという基本的なものから始めるつもりだったようなので時間が掛かりそうだった。
二人のこれからの人生を考えると、俺の変な魔法を教えるより正統派の魔法を習っておいたほうが良いのは間違いない。
だが、実践の前に玲二が拉致られている可能性がある以上、さわりだけでも教えておく意味はあるだろう。玲二は日本でどんな生活をしていたのか荒事の経験もあるようなので、攻撃として使えなくても魔法で気を引くくらいできれば、後は上がったステータスで逃げる事くらいは出来ると思う。
そんな事を思いながら、二人に森の歩き方を伝授しつつ俺はとある場所に辿り着いた。
「お、なんか開けた場所に出たが……なんかおかしくないか?」
「そうね、不自然に地形が抉れているというか。無理矢理手直ししたというか」
二人の指摘は正しい。ここ俺が魔法の練習をした場所だった。あの頃はまだ調子が掴めなくて色々と自然破壊をしてしまった。あれから一月(三ヶ月)近く経っているので地面がむき出しだった部分は新たな草が生えていて、破壊の後も大分塞いだからそれらしさはないものの、やはり違和感は拭えないか。
「ここで俺は相棒と共に魔法を練習したんだよ。それらしい破壊の跡はその名残だ。森の案内しながらで丁度いいし、魔法を教えるのにここ以外に適した場所を知らないんでな」
「へえ、ここが。たしかに魔法じゃなきゃ重機でも持ち込まないと出来ない穴も開いてるしな」
あれはなんだっけかな? 勝手に出てきた火の精霊王がはっちゃけたときだったか?
「いや、その後の<連続詠唱>で私の超絶結界が破られた時ですー。もう大丈夫だけど、あれからめっちゃ強化して最硬の結界編み出したから大丈夫だけど!」
おっと、この一件は相棒の機嫌を損ねてしまったようだ。別に機嫌悪くないし、と言い張る相棒を宥めながら、今まで完全に忘れていた精霊王たちを思い出した。
「そういえばあの4人の精霊王を二人に手を貸してもらうってのはどうだ? あいつらも結構暇そうだったし、稀人には好意的だったような気がするか?」
「うーん、どうだろ。精霊王の加護があれば、その対応する属性の力は跳ね上がるけど、相反する属性はからっきしになるよ? 例えばイフリート呼べば水はほぼ無理になるけど、二人はどうする?」
リリィは雪音たちに尋ねるが、答えは決まっているようだ。
「いや、一つを極めればもうひとつが使えなくなるんだろ? ユウキ見てれば全て使えるんだし、このままでいいよ」
精霊王の皆さんは今回もお呼びでないようだ。
残りの借金額 金貨 14868341枚
ユウキ ゲンイチロウ LV668
デミ・ヒューマン 男 年齢 75
職業 <村人LV751>
HP 15856/15856
MP 14125/14125
STR 2854
AGI 2798
MGI 3165
DEF 2854
DEX 2914
LUK 1612
STM(隠しパラ)3210
SKILL POINT 2805/3015 累計敵討伐数 59157
楽しんで頂ければ幸いです。
精霊王の皆さんはずっとスタンバってますが、主人公は呼ぶ気が一切なく、日本人二人にもお断りされました。あの四人の明日はどっちだ。
次の魔法練習はあっさり済ませて、ちょっと大きな話に行きます。冒険者登録としての話はここまでです。