冒険者登録 2
おまたせしております。
またこんな時間に投稿です。理由はお察しください。
冒険者登録をしている者は非常に多い。前に酒の席で酔った拍子に話を聞くことができたのだが、登録者数だけなら数千万人にものぼるらしい。
その代表的な理由は登録の簡易さが挙げられるだろう。銀貨10枚(一万円)という高額とも低額ともいえない額で提出する羊皮紙のような紙に各種記入事項を書いて、口頭で規則と罰則を聞けばあとはFランクの冒険者カードを貰って終了だ。
玲二は信じられないほど高性能なギルドカードを希望していたようだが、そんな都合の良いものはない。玲二が言うギルドカードがもしあるとしたら間違いなく遺失技術の一環だろう。今までの依頼の履歴がわかるだの犯罪歴の有無が記載されるだの、そんなもの大量にばら撒くカードに付随するようなものではないだろう。管理する側は非常に楽だと思うが、その技術で大儲けできそうだし、ギルドで使われる前に既に一般社会に浸透しているはずだ。
ギルドカードはランクに応じて材質が上がってゆくので見慣れた者には見ただけでその者のランクが解るようになっている。
最低ランクのFは木製で、そこから石、金属、貴金属へと上がってゆく。ランクアップ時にそれまでのカードと交換で新たな物が渡されるので、しないだろうがAランクの者がFランクのふりはできないようだ。
正直な所、相当雑な登録をしているので登録済みの者がさらに新たに偽名で登録してもわかりっこないと思う。
実際のは各国から犯罪者の隠れ蓑になっていると批判を受けつつも来るもの拒まずの素知らぬ顔で開き直っているというのが現状らしい。
確かに回状が回ってくるような大物犯罪者ならともかく殺人程度(殺人が”程度”の世界なのだ。貴族でもない限り、役人による適当な捜査で終わって泣き寝入りが基本だ。だから復讐がかなり横行する。リノアの実家の”家業”もそこで活躍するとかなんとか)のゴロツキなど大して気にせず登録してしまう。
俺も受けたあの規定クエストさえきちんとこなせば、規則を守る限りこちらからは干渉しませんという立場を取っている。
これは冒険者ギルドの性格によるところも大きい。
冒険者と呼ばれる職業の者は主に3つの種類に分類される。ウィスカのようなダンジョンの都市に居付いて一攫千金を狙う者、辺境の開拓を主にして未知を拓く者、大都市やその郊外に出向き、何でも屋として日々の糧を得る者だ。命の危険は先に並べた順に低くなってゆくが、当然のように数の比率も後のほうが多い。命の危険を感じる方が良いと思う者、一攫千金に夢を求める者も一定数いるが、それでも冒険者は体が資本である事には変わりないからより安全な方法を求める事に変わりはない。
特に辺境に好んで赴く冒険者は数が少なく、そのほとんどは詮索はしないが脛に傷を持つ者だ。いくら怪しくとも彼らを除外してしまうと辺境での活動が不可能になってしまうという現実の前では、各国の建前も屈せざるを得ない。
だが、重罪を犯して逃亡している者を追う者も当然いる。その場合にも辺境の流儀は存在する。要はギルドが見てないところで好きにやってくれという立ち位置だ。昨日まで元気だった冒険者が翌日には帰ってこない事など辺境では良くある事なのだ。
そんな来るもの拒まず去るもの追わずの冒険者ギルドは常に新人を歓迎している。一月(三ヶ月)に一度、ランクに応じた規定クエストさえこなせば何も問題はない。だが、その規定クエストをこなせないと無警告で強制的に除名処分になっている。俺がいちいち呼び出されて規定クエストの説明を受けたのは半分以上ギルドの陰謀だったからだ。
一度除名処分を受けるとギルドカードが黒く変色するので、失効しているとわかるみたいだ。一月しかもたない特殊な塗料を塗っているそうで、ギルドカードの変わった特徴はこれくらいしかない。
その場合はまた銀貨10枚を支払って再登録をする必要があるが、その再登録する者もかなりの数になり、ギルドの無視できない収益になっているという。
その理由は冒険者ギルドが各国と交わした制度にある。世界を股に掛けた組織だけあって、冒険者たちも様々な国に移動することがある。俺が出会った”ヴァレンシュタイン”も出身はもっと北の国だと言っていたし、優秀な冒険者が一箇所に留まり続けるのを防ぐため、ギルド総本部は様々な対策を講じている。その一つが、ギルド員の各種税の優遇だ。
この世界では街に入るときに税金を取るのが一般的だ。街の外や隣町まで仕事の出かけた冒険者が帰還の時にいちいち金を取られたのでは商売にならない。その辺を心得た衛兵もいるだろうが、規則を盾にとって金を要求する輩も当然いるだろう。それを防ぐためにギルド側は冒険者の入場税を無税にするように各国に申し入れている。税は国の根幹を為すから中々無茶な提案だと思うが、実際何とかなったのを見ると上手く交渉したのだろう。
これを一番上手く利用しているのが駆け出しの商人たちである。銀貨10枚で一月の間無税で各町や村を回れるのだ。商人にも商人ギルドはあるが、あれは成功者たちが自分の都合の良いように制度を作り変える機関なので互助組合としての利点は皆無だ。むしろ自分達の手の者を王宮や教会内部に浸透させて、己の権益を確保する為の組織と言っていい。
ギルドもその商人たちの行動は把握しているが、黙認しているのが現状だ。上手く成功者の仲間入りができればそれなりの見返りも期待できるし、そのような節約は商人としても一端になれば安く見られるから決してしなくなるという。
「見せ金」というやつだな。みずぼらしい身なりをした商人が持ってくる高額商品にいまいち信用が置けないのと同じ理由だろう。
色々と余計な話をしたが、玲二と雪音が冒険者登録を欲した一番の理由は身分証として使うからである。
稀人として身寄りのもないこの世界に呼びつけられた二人は身元保証人がいない。
王都に到着後、上機嫌で面会したアドルフ公爵は二人の力になってくれる事を約束したが、何かあるたびに公爵の後ろ盾をひけらかすと悪目立ちする未来しか見えない。
それに二人はまだこの世界の言葉に不慣れなのでこっちで面倒を見ると通訳の俺が言うと解ってくれた。だが、公爵の全面的な後援が得られたのは二人にとっては幸運だろう。上手く行くとは思っていたが、この世界で権力者の庇護というものは道理を曲げる神に等しい力を持つからな。ソフィアの時も同じ理由で狙ったわけだ。
各種ギルドのギルド証は簡易の身分証明に最適だ。街に入るときに衛兵に誰何を受けても冒険者として依頼を受けていると言えば大抵何とかなる。冒険者ギルドを選んだのはそれもあるし、一番取得が簡単だった。ウィスカならば規定クエストの件も俺がいくらでも裏から手を回せるが、玲二は普通に冒険者としても活動したそうだ。
雪音としては生産系のギルドに興味があったようだが、あちらはかなり排他的だ。新人を商売敵として潰しにかかるみたいだし、あまりいい噂はないのだ。
雪音の第一希望だった薬師ギルドは今加入してもギルドの大半をいくつかの派閥が牛耳っていて息苦しい思いをするみたいだから、風通しを良くしてから加入した方がいいだろう。
別にギルドの掛け持ちは禁止されていない。生産系や商人ギルドの人員が冒険者ギルドのランクを持っていることも珍しくない。自分で素材を取りに行く事も、商品を運びながら戦う事だって普通にあるだろう。
それに冒険者ギルドに入ってもずっとFランクのままでは格好が付かないのでDランクくらいまでは上げておく必要があるだろう。受付嬢の皆に言わせると、真面目にやればDランクまでは簡単に上がるという。そこからは知識や経験が大事になるみたいだ。確かにあの”ヴァレンシュタイン”もAランクに上がるための試験も兼ねていたあの依頼では戦闘よりも依頼主の無茶振りや周囲の冒険者との調整に苦労していたな。あれができないと上にはいけないのか。脳筋じゃ無理な世界だし、クロイス卿やユウナなど俺の知る高ランク冒険者は周りと力を合わせる能力が高かった気がする。
そして冒険者ギルドに赴いて二人の際立った容姿を見かければ、揉め事が起きないと思うほうが無理なので、暇な時間帯に俺が一緒に赴くと約束をしていたのだ。俺には縁のなかった”お約束”もこの二人な
ら有り得そうだ。むしろ暇な冒険者が美しい少女である雪音に声を掛けないはずがないから、フードか何かで顔を隠す事も考えている。
それに冒険者として彼らに教えねばならないこともいくつかある。これから先、いつもくっついて行動するつもりはない。二人は最初、俺の借金返済に協力する気満々だったが、それは俺が正式に断った。それは俺の趣味の問題であり、二人は関係ないからだ。
ダンジョンに興味津々の玲二についても昨日のうちにウィスカの一層を案内しただけでとある約束と引き換えだが、ここではなく王都のダンジョンに挑むことに納得した。あの勢いで殺到する敵を見ればやる気が萎えてもおかしくはないし、目論見通りはである。
ウィスカは間違いなく上級者向けなので、初めは無理せず王都のダンジョンから慣らしていくべきである。
自分で言っていて説得力がないと思ったのは秘密だ。
楽しんで頂ければ幸いです。
いかん。書くことが多すぎて冒険者登録に向かえない(笑)。
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