このアセリア(世界) 3
お待たせしております。
彼らの尖りに尖ったチートスキルを見ながら何とか対応できそうな事を告げた。
『これならなんとかなりそうだ』
『ホントかよ!? どう見ても詰んでるだろうが。俺のはスキルポイントだけだが、姉貴のはMPの問題もあるんだぜ?』
『それも含めてなんとかなるが……それを話す前に、まず色々話を聞かなきゃならないな』
『話を? 一体なにをだよ?』
本来ならまずこの話から順番に進めていく予定だったが、相棒の先走りで全てが狂ってしまった。
『いやー、つい。ゴメンゴメン』
反省の色が欠片も感じられない声で相棒が謝るが、まあいいや。
『今回はこんな形で異世界に呼びつけられたわけだが、二人はこれからどうしたい? 同郷の誼だ、どちらを選ぶにせよ手は貸してやるが、目的次第ではそこまでこちらに深入りしない方が良いぞ。昨夜も言ったが、この世界は命の価値が相当に低い。場合によっては綺麗じゃないものも見る羽目になるだろう。それを踏まえて教えてくれ。君たちはこの世界に残るか? それとも帰還する方法を探すか?』
俺の問いに二人は顔を見合わせることなく断言した。
『俺達はこの世界で生きる。そう決めてここに呼ばれる事を受け入れたんだ』
ん? 呼ばれるだと? どういうことだ?
『ちょっと待ってくれ? 二人は有無を言わさずこちらに連れてこられたんじゃないのか?』
『バイト中に強引に呼ばれたのは確かだが、転移する前に意思確認みたいな物はあったんだよ』
『姿を見たわけではないですが、声変わりする前の少年のような性別を感じさせない声の主がどうしたいか聞いてきたんです』
そりゃ驚きだ。まるで神様みたいな存在が転移者に希望を確認しているというのか! 真偽はともかく、これで二人がこの世界で生きて良くつもりがあることは解ったわけだ。
『その……その選択で良かったのか?』
余計なお世話と思いつつも確認してしまった。まだ年若い二人がこれまで生きてきた世界と完全に別れを告げるというのは相当に思い切った決断のはずだ。
『ああ、一切の躊躇はなかった。俺達二人はそれくらい追い詰められていたんだよ。このまま向こうにいてもどうしようもなかったんだ』
玲二が時折見せる暗い影がまた現れたが、その原因を問うほど気安い関係ではない、それはまたの機会にしよう。
『そうか、ならその前提で話をしよう。もし二人がそのユニークスキルを十全に使いこなしたいと考えるなら俺に手がある。だが、ある条件を飲んでもらう必要はある』
『なんだよ改まって……俺はやるぞ。せっかくあのくそったれな世界から逃げ出して異世界に来たんだ。目一杯楽しんでやる! そのために必要ならある程度は我慢する。雪音だってそうだろう?』
玲二はそんなの関係ないと言い張っているが、俺にとってはそういうわけにもいかない。この方法はお互いに徳があるように見えて、実際には俺が全ての主導権を握っているのだ。後でそれを知って難癖を付けられたくはなかった。
だが、問題は二人とも完全に乗り気である事だ。思慮深そうな印象を受ける雪音さえもこの件では食い気味に来ているのだ。これはもう少し話を続けなければ駄目か?
『よく考えろって。昨日出会ったばかりのやつに何故そこまで信用が置けるんだ。俺がそっちの立場なら怪しくて話も聞こうと思わないぞ』
俺の不安が解ったのか、玲二が得心したようにうなずいた。
『ああ、そこを心配しているのか。でもよ、いきなり異世界飛ばされてそこで日本人に会うってだけでありえない確率だぞ。これを担がれているか、定めと取るかなら、俺は後者を取る』
『そんなこといいですから、何か手があるなら早くお願いします』
雪音に至っては、どうでもいいから早くしろと言い出している。先程まで見せていた落ち着いた雰囲気が吹っ飛んでいる。何がどうしたんだ? だが、二人がそう言うなら俺の好きにさせてもらおう。
『ならば俺の手を取るといい。それで全てが変わる』
二人は全く躊躇することなく俺の手を握った。全くどういうつもりなんだか知らんが、後で後悔しても知らんからな。
『ん? 何も起きないぞ』
『特に変わったようなことは感じませんね』
劇的な変化を期待していた二人は拍子抜けした顔をしているが、俺の処置は既に終っている。
『先程見せた画面を出してみるといい。”世界”は既に変わっている』
『なんだこれ!』『凄い……』
俺に言われるままに画面を確認した二人の顔には驚愕が張り付いている。それはそうだろう、先程まで二つしかなかったスキルが凄まじい量で並んでいるはずだ。
俺が取得した全てのスキルを二人は持っているのだ。
『ようこそ、俺のパーティへ。二人を歓迎する』
楽しんで頂ければ幸いです。
短いので、今日中にもう一本上げるつもりです。