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世界最強になった俺、史上最強の敵(借金)に戦いを挑む!~ジャブジャブ稼いで借金返済!~  作者: リキッド


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このアセリア(世界) 1

お待たせしております。


 森の外れにある村民50人ほどの名もなき小さな村、周囲の人に森の村という直球な呼ばれ方をしている場所に俺達は居た。


 玲二たちを盗み出す作戦を開始する前、俺達は様々な可能性を考えて色々と手を打っていた。

 異世界人を連れ出したとしてもその後どうするのか。

 内部に居るであろう暗黒教団の人員の扱いについて。

 もし全てがどうにもならなくなったときはどう行動するか。


 等々行き当たりばったりではなく、綿密な準備を整えて作戦を決行した。


 現状としては誰にも気付かれる事なく脱出に成功したが、教団からの追っ手が掛かる可能性が高いというところだ。これも対応を考えていたので、レイアと共に対策を実行した。


 元々、玲二と雪音をどのように扱うかは決めかねていた。俺が見つけた時は二人は薄暗い部屋に閉じ込められていたが、これは想定としてはかなりマシな部類だった。

 最悪の場合、この世にはいないか、薬で意識を奪われる、あるいは特殊な魔導具で行動を強制されている可能性も考えていた。グレンデルの周到さを考えるとそれくらいは警戒して当然だったが、やはり奴の下には有象無象しかいなかったようだ。俺達はあっさりと救出に成功した後、あらかじめ話をつけていたこの村に到着したというわけだ。



 目が覚めたのはいつも通り朝の4時過ぎだ。夏の月である今は既に太陽が登り始めており、周囲は明るかった。

 なんとかこの村にたどり着き、村長宅で部屋を借りて休んだのはまだ2時間ほど前だ。日本人の二人はしばらく起きないだろう。極度の緊張状態から解放されたのだから、今日一日寝ていてもおかしくはないし、起こすつもりもなかった。


 本音を言えば今すぐ転移環でウィスカに戻り、今日の日課であるボス狩りにいきたいところだが、それは自重した。一刻(一時間)で戻れると思うが、その際に二人が目を覚ましたら可哀想だしな。言葉もわからない異世界で落ち着くまで、しばらくは二人に付き合ってやる必要があると思う。


 目を覚ましてしばらく経つと体がべたついているのを不快に感じる。森の中を人間二人担いで約半刻ひたすら走ったのでそこそこに汗をかいていた。


「風呂でも作るか」


 この村に宿などない。そもそも宿は、旅人が来るから需要があるのだ。こんな僻地の村にやって来る旅人など、よほどの物好きだけだ。


 俺達のような物好きはそのような場合、村長宅に宿を求める。代価を当然払うし、村長の側もこういう仕事があると解っているはずだ。

 基本的に村長の家はそれくらいの部屋数を持って作られていることがほとんどだ。この森の村も例に漏れず村長宅は粗末ではあるが部屋が3つあったので、男女別に2部屋借り受けた。

 深夜に突然現れた闖入者である我々だが、金貨を一枚握らせるだけでそれまで不満そうだった村長は、百年前からずっとこの笑顔ですと言わんばかりの態度を示したという。文字通り現金なものだ、というところか。



 風呂は毎日作っているからもう手慣れたものだ。最初は手探りだった土壁の焼成も既にコツをつかんでいる。表面をカリカリに焼いて固めると、時間が少なく出来上がるのだ。男湯と女湯、それに足し湯の湯船を作るのに3寸(分)とかからない。


「器用なものだな」


「毎日作っているからな。慣れたものさ」


 背後には双子の騎士の片割れ、男の方のアインが立っていた。本人は気配を消して近づいたようだが、<マップ>の前では気配など意味をなさないからな。


「敵地に単独で潜入し、誰にも気付かれることなく異世界人を連れ帰るとはな。レイア殿が強く保証していても、我等は信じられぬ話だった」


「普通に考えればそうだろうな」


「だが、結果は逆だった。異世界人は二人いたにもかかわらずお前は難なく帰還した。我等は自分の目を疑った。そしてこう思うようになった。お前は何者だ?、とな」


「へえ、じゃあその解答(こたえ)はでたのかい?」


「ああ、お前も稀人なのだな。そう考えればその膨大な力にも納得が行く」


「今までは、その問いには明確に違うと答えていたんだが……自信がなくなった。俺には過去の記憶がない。覚えていないことをあれこれ言われても困るから否定していたが、あの異世界人たちの言葉を普通に理解し、慣れ親しんだような感じで話していた。そうなると、やはり俺も稀人なんだろうな」


「やはりそうなのだな。教えてくれ、稀人が持つ力の根元はなんなのだ? それはどうすれば手に入るのだ?」


 アインはそう勢い込んでくるが、俺も記憶がなくて知らないって言っているだろうが。


「それは知らんが……とりあえず、風呂に入ろうぜ」




「貴方たち、なにをしているの?」


 声の主は双子の片割れであるアイスだ。その隣にはレイアの姿もある。


「見ての通り、風呂中だよ。そっちのも出来てるぜ」


「それは良い。二人の異世界人は未だ深い眠りについて起きる気配はないからな。ここは朝風呂と洒落混もうではないか」


 男ふたりが湯船で朝風呂を満喫していると、女性陣もこちらへやって来て風呂を楽しみ始めたようだ。

 アインは暑い風呂に入る事を体に良くないとか寿命がとか色々言っていたが、湯船に浸かると黙ってしまった。

 やはり世界が違えども風呂は良いものだ。


 女風呂は仕切りで囲ってあるので覗きを食らう恐れはないが、露天の爽やかさが味わえないのが難点だな。


「それはそうと、さっきの話の続きだ。教えてほしいんだが、異世界人や稀人ってそもそも何なんだ?」


「俺が考えているのは魔王を倒す勇者、というようなものか。魔王が絶えて久しいが、稀人は勇者に相応しい力を持っているから度々召還されたと伝説に残っている」


 俺の質問にアインが教えてくれたが、その他にも仕切りの向こうからレイアの声がした。


「ふむ、どこから話したものか……先程のアイン殿の言葉も正解だが、それだけではない。歴史の講義の範疇だが、稀人は神に遣わされるという超常の力を持つ存在だ。稀人が関わったとされるだけで20を越える国が滅び、また生まれたという。戦乱を引き起こし、また鎮めたことも数えきれないほどだ」


「そんな強い力を持っているとは思えない二人だったな。戦争はおろか、戦いだって満足にやっていない体つきだったぞ」


 玲二の方は手にタコがあったが、あれは武器の習練で出来たものじゃない。今まで多くの戦士と握手したからわかるが、タコの位置が違うのだ。

 雪音のほうは言うまでもない。森の中を背負っていたから解るが、細く柔らかい体だった。修練で体を全く鍛えていないのは確かだ。



「稀人が神に遣わされた存在と言われるのは、必ず特別なスキルを持っていたからだ。この世に一つしかないとされるユニークスキルは他のものとは隔絶した能力を持っているらしい。それこそ国の命運を左右するほど強力で、昔は稀人を数多く所有する国が隆盛を誇ったほどだ」


 なんか、今で言うゴーレムの所有数争いみたいなことが起こったのか。そう言えば、ギルドの競売はそろそろだったかな?公爵家の方は夏の終わりだからまた先だが。


「そう聞くと稀人が大量にいたみたいだな」


「実際には各国数人程度だが、いざ戦いになるとその数人で全軍以上の戦力だったようだな。当時の軍としては面白くなかったようだが、所属を軍にすることで体面を保っていたようだな」


 この先は双子に聞かせる話でもないので<念話>で話をすることにした。


<随分と詳しいな。歴史の授業じゃなく実体験だろ。アインがいうには対魔族用の兵器として使われたようだしな>


<そこまで年寄りではないさ。かつていた家の長老は実際に稀人を目にしたらしい。だから我が君が何者であるかも即座に見当がついたのさ。勇者については魔族として複雑ではあるが、あんなものは殺し屋に過ぎんよ。私としては叩くべきは本人よりもそれを遣わした国のほうを憎むな>


 言葉の端々に人間、いや俺に対する気遣いか見て取れた。余計な事を口にしたようだ。


<すまない。配慮のない質問だったな。だが俺にそのユニークとやらはないぞ。知っているだろう>


<稀人と只人と最も大きな違いはその思考の差異だ。この世界では当たり前の事も彼等には新鮮であり、その逆もまた然りなのさ。全く違う視点からもたらされる発想が技術の飛躍的発展を促す事も珍しくない。多くの国はユニークスキルの他にも稀人の知識、技術を欲しがっているわけさ>


「そんな扱いならどんどん召喚されてもおかしくないな。呼ばれる方はどうだか知らんが」


「そこなのだ、ガドウィン。稀人が伝説の存在になった理由がそこにあるのです」


 人の名を平気で間違えるアイスに警告を与える。熱い湯に漬かっているはずなのに震えが走るほどの冷たい声が知らぬうちに出た。


「俺をその名で呼ぶな。二度はない。レイア、よく言い含めておけ」


「わ、解った。気を付けます」


「すまぬ、我が君。同性として、男子を名で呼ぶのは抵抗があるのだよ」


「であるならユウキでもいい。どうやらそれが本名のようだからな」


 <鑑定>でかなり前から知ってはいたが、相棒やジュリアはユウと呼んでいたし、俺も気にしてはいなかった。だが、日本人としての本名だというならそう呼ばれても嫌な感じはしない。


「ユウキか、確かに稀人風だな。一気に信憑性が増したぞ」


 妹を庇うようにアインが殊更陽気な声をだした。俺もいささか大人げないと解っていたので、それに応じた。


「好きなように呼んでくれ。その名は親からもらったものでもない、ある意味ただの記号だからな」


「それならば俺達も同じさ。一番目の双子だから、アインとアイスなのさ。孤児にはそんな程度の名付けで十分なのだろう」


 あっさりと告げられた驚きの事実に俺は稀人の事などどこかへ行ってしまった。


「孤児だと? 二人とも叙勲を受けた騎士だよな? あり得るのか、そんなこと」


「無論、通常ではありえんことだ。だからこそ我等は力を付けて、騎士に推してくださった方に報いねばならぬのだ。故に稀人の力の所以を知りたいと願っていたのだが」


「ユニークスキルはパーソナルスキルとは違うからな。アレは完全に突然変異の代物だ。だからこそ神が与えたと言われるような馬鹿げた力を持つのだ」


 ここで言う個人技能(パーソナル・スキル)というのはクロイス卿の<天眼>ような個人が生まれ持ったものを指す。誰がどのように区別したのかも定かではないが、特異技能(ユニーク・スキル)とは効果、威力共にかけ離れたありえないスキルのようだ。


 そんな物凄いものをあの二人は持っているということになる。そのような事を匂わせる言葉もあった気がするが、正直覚えていないな。あの時はこの村にたどり着く事が最優先だったし、二人とも体力気力の限界だったので、詳しい話は後にするつもりだったのだ。


「強くなるといっても、俺のようにダンジョンでモンスターを狩る強さは騎士に求められていないだろう。力を求める先が間違っていないか?」


「いや、所詮他の騎士から見れば我等など成り上がり者に過ぎんさ。であればどんなに努力しても正しく評価はされぬだろう。ならばどんな力であれ結果を出す他ないのだ」


 こいつらも色々あるんだなあ。俺も中々難儀な人生を好き好んで送っているが、人生色々だ。


「それなら今度一緒にダンジョンでも行くか? ウィスカはともかく王都なら深く潜れば良い腕試しになるだろう」


「よ、良いのか!? 願ってもないことだが、ウィスカのダンジョンでは駄目なのか? 噂に効く初心者殺しの迷宮に挑んでみたいのだが……」


 俺が言いだすとは思わなかったのか、驚いて聞き返してくるアインだがウィスカは何も知らない状態で入る迷宮ではない。アインもアイスも鍛えられた騎士だが、ウィスカは実に滅茶苦茶なダンジョンだしな。


「レイア、どう思う?」


 二人に親しい彼女に丸投げしよう。俺よりもレイアのほうが説得は上手そうだ。


「一度共に迷宮へ降りようではないか。私のかつてはウィスカの迷宮に痛い目に合わされたが、それ以降力をつけてきた。我が君には止められるかもしれないが、今の実力を測る格好の機会だ」


「レイア殿がそこまで手こずるとは、さすがウィスカのダンジョンということでしょう。だが、高い壁であるからこそ乗り越える甲斐があるというものです。兄と力を合わせれば”双紋”も使える。ただ為す術もなく敗退するという事はありますまい」

 

 双紋とやらは双子特有の特殊能力だそうだ。一人で魔法を使うよりも倍以上の威力と効果を発揮するという。魔力を合わせるなどという意味の良く解らん現象だが、双子ならありえそうな気もする。


 そろそろ話を戻すか。アイスの機嫌も直っただろう。


「そういえば異世界人も双子だったな。アイス、先程は何を言いかけた?」


「ああ、そうでしたね、ユウキ殿。稀人が伝説的存在といわれる所以です。魔王と称する存在が討伐された後も、当時の国々は稀人召喚を止めようとはしなかったのです。魔王を倒した後は国同士で戦いを始める事は明白でしたから。ですが、稀人たちはそのような国の思惑を超えた行動を取りました。稀人どうしが連携し、国から脱走すると追討軍を逆に壊滅させ、彼らは神の国といわれる天界に帰ったとされています。一般的にはそのように言われ、超常の力をもつ伝説的存在に成っています」


 なんか、最後が雑だな。都合が悪い事を無理矢理物語風にはめ込んだ感じがする。


「ふふふ、我が君の考えは口にせずとも解るぞ。実際は稀人が反旗を翻し新たに国を興した。というのが正解だ。だが、その国も長くは続かなかった。建国者たちが元の世界に帰還する方法を見つけでもしたのか、中心人物たちがこぞって表舞台から消えたのだ。残された者達は国を維持しようとしたが、結局分裂して元の国に飲まれてしまった。それが今から千年ほど前の出来事だ」


「やはりそういうことなのですね、私も自分で語っていて苦しいなとは思いましたから。という事はあの二人も帰還を望むのでしょうか。我々としては国に力を貸してほしい所ですが」


 ランヌ王国の騎士としては至極もっともな意見だが、同時に乱暴でもある。


「落ち着いたら聞いてみるさ。だが期待はしないでくれよ、君たちも彼らの立場で考えてくれ。いきなり言葉も通じない異世界に首をつかまれて放り込まれ、何の義理もない国に協力せよといわれて素直に従うかな」


 沈黙してしまったアイスに変わってアインが話題を変えた。


「それはおいおい考える事だな。それより我等はこれよりどう動けばいい? 昨日の依頼の段階ではレイア殿についてこの家での役割を果たしたが、この後は戻っても良いのか? あまりお嬢様のそばを離れるのは歓迎しないのだが」


 この騎士たちとレイアを連れて来た一番の理由は撤退時の支援と、宿を求める時のわかりやすい理由付けのためだった。俺が異世界人を連れて深夜に宿を求めるのと、明らかな貴族レイアのことだとその騎士達が訪れるのでは説得力が違う。レイアは今でもホテルでは由緒ある貴族が訳アリで滞在していると思われているそうだし、そのように振舞うので全く違和感はない。

 何故俺の従者のような事をしているのか、アインたちからも詰め寄られたものだ。


 貴族が黙って部屋を貸せ、金は迷惑料込みで多く払ってやると言えば、かかわりになりたくない村長側は全てを黙認するだろう。食事の世話も何も必要ないと高圧的に言い放ち、嫌われ、積極的にかかわりあわない姿勢を見せればこっちに興味も示さないだろうと思ってやったことだ。

 なにしろ目と鼻の先には暗黒教団の地下拠点があるのだ。あいつらが玲二と雪音の脱出に気付いたとして、この村に捜索を出さないとは思えない。実際は土地勘どころか言葉も通じない二人が運よく脱走できても森の中で彷徨っているのがオチだろうが、捜索の手を伸ばさないとは限らない。


 かといってあの二人は休ませないといけなかった。二日も言葉の通じない見知らぬ場所で薄暗い石牢に監禁されていたのだ。

強がっていたが、精神的にも限界だっただろう。実際気が張っているはずの今も起きてこないし、熟睡しているものと思われる。



「ああ、あとはこちらでやるからもう大丈夫だ。今回は助かったよ、二人がいなかったらここまで上手く事は運ばなかったに違いないからな」


「礼はお嬢様に言ってくれ。我等は任務を遂行したにすぎない」


「さっき連絡したが反応がなかったから、まだ寝ているようだ。二人は後で転移環で送るよ」


 騎士がいなくなったら迎えに出したと言ってもらえば良い。もっとも、公爵の手勢がすぐそこまで迫っているから迎えが来るのも嘘ではない。しかし、凄まじい勢いだ。夜を徹して強行軍をしているのだろうが、発覚から半日で拠点に強襲をかけるなどこの世界の軍事行動としては異常な早さだ。あの地下拠点にロクな戦力がなく、戦闘にすらならないだろうと報告しているので兵に英気を養わせる必要もないんだろうが、それにしても異常であるし、公爵の本気度が伺える。


 俺達だけで朝食を済ませた後で二人を送り届けた。レイアは今日は先生の店は休んでもらう事にした。後で召喚者の二人と会わせれば先生からは文句はでないだろう。




楽しんで頂ければ幸いです。

説明回なんで長いです。ストックもないのに(笑)

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