表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

104/418

異世界人召喚

お待たせしております。

メインキャラがこの話でようやく追加です。



 俺は闇が支配する深夜にとある森の外れ、突き出た崖の上から下の湖面を見下ろしていた。


 月明かりの中湖を見下ろした俺は、その側にある廃城に視線をやった。人気のない完全な廃墟であるはずだが、その地下では数十名の人間が奇怪な儀式を行った後であるようには見えなかった。


「我が君、今戻った」


「ありがとう。首尾は問うまでもないな」


「無論、万事整え終えている。しかし異世界から勇者を召喚とは、随分と思い切った事をする。必要な資材や金を考えると正気の沙汰ではない」


「だからあのグレンデル自身が赴いてまで立ち会いたかったんだろう」



 グレンデルの目的が判明したのはほんの数刻前だ。

 アドルフ公爵はその総力を用いてその目的、ひいてはグレンデルを迎えに来るという一団の追跡を行わせていたが、何時まで経っても朗報はやってこない。業を煮やした公爵側は目星を付けていた教団の下級幹部を連行し”非常”に”紳士的な”手段で”情報提供”を”お願い”したという。



 流石はこの時代に暗黒教団なんぞに入信するだけあって、なかなか粘ったようだが、遂に口を割ったようだ。


 だがその幹部が口にした事実は王国上層部を震え上がらせたという。なにしろ自分たちが把握していない拠点で稀人とやらを召喚するというのだ。


 まず教団が持つ施設は全て貴族の私有している建物を貸与する形をとっていた。そうすることでお互いの急所を握りあっていると考えていた貴族側は、教団が自分たちの想像以上に巨大な根を張っている事を嫌でも認識せざるを得なかった。

 

 それだけでも悪夢なのだが、稀人は世界を揺るがしかねない力を持つと言われているらしい。そんな輩が洗脳でもされて教団の先兵となって暴れだしたら被害はこの国だけでは済まなくなる。


 あのグレンデルが、狙われることを承知で現地まで足を運ぶに足る理由にふさわしい、どえらい大事件だった。


 召喚された稀人がそう簡単に教団の言いなりの人形になるかどうかは疑問が残るが、向こうにはこちらの想像も出来ない技術を持っている。稀人の意思だけ奪って体と能力を思いのままにできるかもしれない。


 泡を食った公爵が、戻って慌ててクロイス卿に話をつけ、俺は以前にグレンデルの件では手を貸すと伝えてあったので即座に連絡が入って今に至るというわけだ。


 今日はクロイス卿の接待の後だったのでそこそこ疲れていたが、俺も積極的に介入する気だったので文句をつける気はない。

 なぜならあのグレンデルという男を知ったからには奴が存在したという痕跡を残らず消し去りたいと強く感じるからだ。


 あいつは憎悪という感情が人の形をとったような男だった。貴族を憎み抜くことが存在理由のような奴が、並々ならぬ情熱を傾ける案件がどれほど世界に憎悪を巻き散らすのか。

 その影響を考えると何がなんでも絶対に潰しておかねばならない。


 それは皆も共通見解のようで、話を聞いたらしいセリカから早速取り決めた例の金貨一万枚案件として正式に依頼がきた。自分の立場をある意味で明らかにするような行為だが、なりふりかまってはいられないようだ。

 セリカの正体に関しては大体見当はつくし、あちらもそこまでひた隠しにしていないが、敢えて突っ込むのも野暮ってものだ。必要なときに向こうから言ってくるだろう。



 さて、準備は整った。この上なく急いでいるが、今さら慌ててもしかたなかったりする。


 笑えることに異世界召喚は既に行われた後だ。


 しかも二日も前にだ。事情聴取を受けた奴も全てが手遅れと知って嘲笑うように情報を吐いたのだろう。

 何しろ貴族側は事態を全く把握していなかった。召喚の際に生まれる巨大な魔力を観測してはいるものの、ただの不自然な自然現象と捉えていたようで、暗黒教団のものとは一切関連付けていなかった。


 捕らえた幹部より得られた情報からその魔力が異世界人を召喚する物と知り、そこでようやく判明した有り様だった。


 だが、彼等の不手際というよりグレンデルが全てにおいて一枚上手だったと言うべきだな。本部で貴族派とやりあいつつ各地で勢力を拡大し、誰にも知られずに拠点を構えて異世界召喚陣を作成する。

 俺が事情を詳しく知らなければ敵ながら天晴れと誉めていたかもしれない手際だ。

 本当にあのとき始末しておいて良かった良かった。公爵もそこだけは胸を撫で下ろしているだろう。


「こっちも終わったぞ」


「同じく」


 セリカに無理を言って護衛の双子を借りてきた。必要がなければこのまま転移環で帰ってもらう予定だが、この作戦の推移次第では彼等の出番もありうるのだ。


 双子はセリカから離れる事に難色を示したが、護衛対象からの命令と仲の良いレイアからの頼みで渋々引き受けてくれた。これからの作戦は話してあるので、自らが何をすべきかわかっているはずだ。

 俺としては居なくてもなんとかなるが、居てくれると説得力が増すので実に助かるのだ。


「本当に一人で行かれるのか? 露払いは必要ではないのだろうか?」


 レイアがそう言い募るが、今回の目的は敵の殲滅ではない。


「君は気配を消して隠密作戦の経験はないだろう。アインとアイスと共に退路の確保をしてくれた方が助かる。最悪、”荷物”を抱えてあの廃墟から出てくる羽目になるんだ。離れていても情報のやり取りができる俺達が共にいる利点がない。聞き入れろ」


「承知した。ご武運を」


 だから戦わないっての。


 合流地点に向かうべく森の中に戻っていった三人から視線を戻した俺は召喚が行われたという廃墟を見下ろした。人気を感じない閑静な湖だが、<マップ>がある俺に簡単な偽装は無意味だ。地下空間に40を越える人間が蠢いていることは解っている。俺の目的はその中から異世界人とされる誰かを極秘に連れ去ることにある。


「さて、異世界召還のお約束だとここは日本人なはずなんだけど。まだ、生きてるかなぁ」


 日本人が呼ばれたかもと知って興味津々のリリィも着いて来た。本来なら既に爆睡している時間だが、もともとが睡眠を必要としないはずなので眠そうな気配はない。それでいて朝が遅いという不思議生命体だ。


「どうかねえ。正直確率としては半々かな」


 今回は相手が相手だからなあ。グレンデルが指揮していれば短慮は起こさないだろうが、ここにいるのが残党じゃわからんな。最悪の場合、死体でも回収しなければならないな。


 亡者のこともある。教団は死体でさえ活用する技術を持っていないとも限らない。むしろ印象ではそっちの方が専門っぽいので警戒する必要はある。


「生きていれば扱われ方は2択だろう。牢屋みたいな場所で捕まっているか、豪華な部屋で骨抜きにしているかだ。そこを狙って探せばすぐ見つかるだろう」


楽しんでいただけたら幸いです。


補足です。

セリカとの契約に一月金貨一万枚の依頼とありますが、

この世界は春夏秋冬の4ヶ月で構成されていますので、年に4回の依頼が最低でもあると思っていたければよいかと。なお一月90日ですので、利子だけでも金貨27000枚になります。

焼け石に水じゃないかと思った方、大正解です。むしろ主人公としては一日で終わるような簡単なボーナス依頼を寄越せといってセリカを困らせています。

 しかし彼女のほうも「実家」の面倒な問題を丸投げする気でいますので、どっちもどっちですね。


さて、このはなしでようやくチートが加速します。話としては全員そろって序章が終了となりますが……クソ長いですな。私としてはゆっくり更新していくつもりですが、むしろ一旦章ごとに完結させて新たな話として一話からやるかもしれません。

 読者様にとっては数百話もある話は敬遠されるかもしれませんし。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ