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次期領主の憂鬱 7

お待たせしております。




「もちろん最大限配慮するさ。こっちもいざとなったら王都かウィスカに行き来できる手段があるというだけで有難すぎるからな」


 こうなるのが解っていたから政治臭がする人たちにこの転移環の存在を明かしたくはなかったが、クロイス卿なら仕方ない。彼にも守秘義務を負ってもらうし、彼の事情を知ればどの道こっちから言い出していただろう。


「ただ問題は官吏ですかね、間違いなく向こうの息のかかった人間しかいないでしょうし」


「問題はそこなんだよな。宰相府も下手に刺激したくないから人は出さないだろう。自分達で考えろとなるだろうが、ある程度は現地民の雇用を考えるとしても情報がダダ漏れはヤバすぎるな」


「でもそれって難しい問題ですよね。読み書き計算できる教育を与えられた人材が少ない上に、それが可能な人材は殆ど向こうの権力側でしょうし。さらにこっちに忠実なんて……奴隷くらいしか思いつかない」


「しかも高級奴隷な。あいつらを買えれば話が早いんだが、一人最低金貨100枚はかかるぞ。蓄えがないわけじゃないが、一人買って準備万端というわけじゃないしな」



 俺には縁のない世界の話だが、知識として知っているだけでも高級奴隷には様々な種類がいる。

 一番数が多いのが、当然だが見目麗しい女性。その次が同じような少年だという。人間の下半身の欲望には限りがないという実例だ。

 そういった高級奴隷の中には買い取る人種も金や権力を持っている奴が多いので、伯付けのための教養として読み書きや芸事を奴隷商が習わせることもある。


 だが、数は少ないがそれとは別に己の才覚を武器に高い値がつけられる奴隷もいる。

 クロイス卿が狙っているのもそういう奴隷だろう。例えばどこかの国が滅んだとしてそこの官僚が奴隷になったりする。戦争奴隷の獲得は略奪と共に勝者の権利の一環だから普通に行われているし、手に「職」を持った技術者が肉体労働にしか使えない奴隷と一緒くたにされることはない。

 需要は結構あるようだ。さっきも言ったようにきちんとした読み書き計算ができる人間が少ない中、大きな商会などが、自前の店員教育が追いつかない場合など買ってゆく事が多いらしい。

 さらにいえば、その奴隷商の経理事務を一手に担っていて売りに出せないなんて本末転倒なこともありえるらしい。


 それに有能で知られた人物が罠に落ちて一家ごと奴隷堕ちなんて話がそこそこある現状、奴隷契約で主人を裏切る心配のない彼らは有用な存在だ。

 奴隷の値段をつけるのは奴隷商の才覚一つだが、彼らも看板を掲げてやっているのだ。老舗であるほど信用も積み重なって行くから、質の高い高級奴隷が揃っているはずだ。その分の金貨もかさむ事になる。


 その点、公爵家の紹介状でもこさえてもらえば信用は十分だろう。それに金の心配などないのだ。


「じゃあ、とりあえず今日だけで3人は確保ですね」


「?? 何の話だ?」


 不思議そうな顔をしているクロイス卿に今日の戦果を伝える事にした。


「何って、今日の分け前の話ですよ。21層は大して儲からないんですが、ブラックイーグルが多く出ましたからね、ざっと計算しても今のところ一人当たり金貨350枚は固いですよ」


 <アイテムボックス>は今日一日分の収穫を他と区別して表示する機能もある。たしか追加のポイントを払って手に入れたはずだが、相棒が”これも便利じゃん”とはしゃいで取っていたので俺はうろ覚えだ。

 とにかく、今日一日分の収穫はあれだけの短時間でも最低1000枚間違いなく超えている。4等級の魔石を出す黒鳥は本当に美味しい敵だ。レアもあわせてドロップすると一匹で金貨40枚以上になるからだ。もう少し出現の頻度を上げ、呼ぶ増援の数が減れば言う事がないのだが。


 20層のキリング・ドールを抜いてこの額だから、実際はもっと稼げているのだが二人は開いた口が塞がらないようだ。ちなみに今日の10層のボスはバーニィの遊び相手になったが、キリング・ドール戦には参加させていない。本人たちは不満そうだったが、あいつは不確定要素が多すぎる。万が一、初手で殺しきれないと乱れ撃ちでえらいことになる。クロイス卿の「接待」でやってきている今日はそんな危険は冒せない。いくら単層とはいえ俺の<結界>を容易く貫通するあの熱線の乱れ撃ちは”事故”が起こる可能性が否定できないのだ。実際に見れば良いのだろうが、くれぐれも危ない事をさせるなと言われているので今日は無理だな。


「いや、戦ったのはせいぜい3刻程度だろう? それだけでそんなに稼げるのか……あのドロップアイテムの量を見れば頷けるが……」


「たったこれだけで金貨300枚……ユウと一緒に冒険者やってた方が圧倒的に儲かるなあ」


 二人は報酬を受け取る気はないようだが、無理矢理握らせた。どんなに美しく素晴らしい人間関係も金銭問題は容易に理想と幻想をぶち壊す。俺はそういう問題の芽は真っ先に潰していく主義なので、嫌なら捨ててくれといってある。バーニィはクロイス卿に全額渡して解決したようだ。あいつも律儀だなあ。



 今日は接待で二人を誘ったが、クロイス卿は資金集めのために時々潜るようだ。その時は皆で行こうと決めてある。何をするにせよ手持ちの金が多いに越した事はない。それにしても転移門で階層を選べるのは本当に便利だ。あれを発見した時は無理に無理を重ねていて、二度とあんな事はしないと心に決めているが、得た物は相応に大きい。

 なにしろ王都で生活しているクロイス卿がその日のうちに遠く離れたウィスカのダンジョン21層で金貨を300枚稼いで帰るのが半日の出来事なのだ。誘引香を使用し狩りに特化して専念すれば500枚だって簡単にいくだろう。


 二人と笑いながら俺は()()()を楽しんだ。隣のバーニィは桶いっぱいに大物が詰まっているが、俺にはかすりもしなかった。もしかしてこいつステータスでいう幸運値高いのか? 初めて会ったときに隠れて<鑑定>したが、能力の高さに驚いた覚えはあるけどここの数字までは覚えていない。あいつにとっても己の能力値が数字で現れるのは魅力的ではないだろうか? 今度聞いてみよう。


 俺達は休日を存分に楽しんだ。


 借金返済も大事だが、そればかりでは人生つまらない。借金の残額が100万枚でも1千万枚でも利子は毎日300枚であることに変わりはないのだ。ゆっくり返済していけばいいとセリカからも言われている。(それはもちろん返済に掛かる期日が伸びれば伸びるほど彼女たちに入る利子が増えていくからセリカがそういうのは当然だが)

 もう借金から逃げる気はないのだから、これからはダンジョンを満喫しつつのんびり返済する予定だ。



 その後は魚()()を楽しんだ後、19層でお土産となる果実を回収して帰還した。


 シルヴィアはセラ先生の店に行ったり、周囲の森を散策したりして楽しんだようだ。レイアが一日同行してくれたのだが、あいつは本当に何でもそつなくこなすな。いつの間にかセリカやシルヴィア、アンジェラとも仲良くなっているし、俺とは大違いだ。


 そんなこんなで皆を王都に送り返したあと、相棒と二人で静かな時間を過ごしていた時、王都に帰ったばかりのクロイス卿からとんでもない爆弾が放り込まれるのだった。


 残りの借金額  金貨 14878541枚


 ユウキ ゲンイチロウ  LV621 


 デミ・ヒューマン  男  年齢 75


 職業 <村人LV681〉


  HP  7568/7568


  MP  6587/6587


  STR 1384

  AGI 1312

  MGI 1451

  DEF 1258

  DEX 1321

  LUK 785


  STM(隠しパラ)1521


  SKILL POINT  2770/2780    累計敵討伐数 56280




楽しんで頂ければ幸いです。


次よりようやく日本人が出る話です。前に後書きで書いたのは嘘ではありません。

まさか本人もここまで時間が掛かるとは思いませんでしたが。

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