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次期領主の憂鬱 6

お待たせしております。


 

「その手があったな! 各地のギルドも引退者の就労支援に手を焼いているというから、声をかければ靡くかもしれない」


「むしろ積極的に参加するのでは? ギルドに理解のある冒険者上がりの領主なんて滅多にいないでしょうから、ギルドとしては絶対に顔を繋いでおきたい存在でしょう。それにただでさえクロイス卿は顔が広いんですから、向こうは助力を惜しまないと思いますよ」


 何でも屋と揶揄される事もある冒険者だから、彼らにできることは数多い。例えば敵を知るためにクロイス卿が先に現地に飛んで実情を知ろうとしても妨害されるのがオチだろうが、冒険者が危険な魔物が出たという調査の体を取って領内に入ってもなんら不思議な所はない。反抗的な現地勢力を調べるもよし、使えそうな人材を見繕ってもらうのもいい。貴族では大手を振ってできないことも冒険者の立場からでは簡単にできる。クロイス卿が赴任する前に敵同士を仲違いさせる事だって出来るかもしれない。



 国から派遣された代官と早急に連絡を取って情報のすり合わせもしたい。共通の敵がいるのだから、情報交換は簡単だろう。有能であればその代官を引き抜くのもアリだろう。国王からの任務ならそれくらいの融通は利かせられるだろうし、敵ではない実情を知った経験者は有用だろう。


 すぐ考え付くだけでもこれくらいはある。冒険者の立場からでもできることは結構あるし、なによりクロイス卿の立場と実力ならすぐに実行可能なのが大きい。彼がこれまでの世界で積み上げたものを新しい世界でも有効に使えばいいのだ。


「なんか、先が見えてきたな」


「難しく考えすぎなんですよ。貴族の付き合いも不安のようですけど、新米領主としてはともかく、公爵家の三男として対応すればどこの田舎貴族が大きく出れるんですか? 立場なんてうまく使い分けて使える物は有効に活用しないと勿体無いですよ」


 彼は冒険者時代に貴族の立場を有効に使っていたという。始めはそれが嫌だったそうだが、年を経て出自も己の武器の一つにできると思い知ったという。ならばそれをこちらでも使えばいいのだ。クロイス卿が困るというなら、どうせ相手だって自分が貴族であることをひけらかすような相手だろう。

 であるなら、自分のほうがより大きい存在である事を見せ付けてやればいいだけだ。王都で権勢を誇るウォーレン公爵家の男子を軽く扱える貴族など同じ公爵以外にはいないだろう。



 無論、全てがうまく行くはずもない。俺は話を聞いて今思いついた事をただ口にしているだけだし、現地を知らない奴の戯言といわれても仕方ない。

 だが、現地を知らないのはクロイス卿も同じだ。要するに彼は今、幻影の敵をより巨大に捉えているだけだ。ある程度の準備を前もって整えておく事は大事だが、見知らぬ敵を必要以上に恐れる必要などない。俺は貴方だってこういう戦い方が出来ますよと提示しているだけだ。


「後は、そういった計画をまとめて見て公爵やラーウェルさんの意見を聞いて見ることですね。きっと待ってると思いますよ、何も言ってこないのはクロイス卿からの行動を待っているんだと思いますし」


「親父はともかくラーウェルにも必要か?」


「むしろラーウェルさんのほうが本命です。公爵は立場上表立っての支援は無理でしょうが、ラーウェルさんならどうでしょう。さらにあの人は家宰として公爵家の裏の裏まで知り尽くしているはずです。公爵家としてはできない支援も可能なはずです。あの人も子爵ですからご実家から手を回してもらうこともできそうですし」


 なにより二人ともクロイス卿が言い出すのを待ってると思いますよと、彼は少しの間黙り込んだ。

 さらに俺はもう一匹釣り上げている友人に目を向けた。


「そこに暇そうにしている奴も居るんですから。使えるもんは何でも使いましょうよ」


「えっ、僕の話かい?」


 わずか半刻たらずで既に二桁の釣果を記録している(いくら入れ食い状態でも限度があるだろ)化物が、いきなり話を振られた事に戸惑っている。こいつさては自分に関係のない話だと思ってたな。


「お前もいずれ領地持ちで同じ道を辿るんだろうに。ここに最高に難しい戦いを挑もうとする先輩が居るんだぞ? 助けになるところは大いにあるだろうし、側で見てれば絶対勉強になるぞ」


「ああ、それはもちろん。僕も手伝うよ。でも、ユウも手を貸してくれるんだよね。せめて移動手段だけでも貸してくれるとだいぶ楽なんだけど」


「それは俺も気になっている。というか、成功の鍵はお前が握っていると思っている」


 さすがにそれは期待しすぎだ。俺は俺の戦いがあるのだが……クロイス卿には色々世話になっているので手を貸すのはやぶさかではない。それにこちらにも利点はあるし。


「その領地に張り付いて手を貸すのは無理ですよ? こっちもこっちで返済があるんで。ですが、最初くらいは付き合いますよ。その後はこれを置かせてもらえばいい話でしょう?」


 俺が<アイテムボックス>から転移環を取り出すとクロイス卿の顔に笑顔が浮かんだ。多分俺がその一言を口にするのを待っていたんだろうな、と思える安堵の表情だった。


「すまん、助かる。実は期待していた」


「ユウはちゃんと事情を話せば解ってくれる奴ですって。俺のときもそうだったんで」


「俺にも利がある話なんでかまいませんよ。それにしてもクロイス卿がそこまで脅威を覚えるなんて、その公爵の権力はその地方では途轍もないんでしょうね」


「場所が悪いんだ。四方を公爵の取り巻きどもが固めている中に徒手空拳で入り込めって言っているもんだからな。国としては旧幣な世界をぶっ壊して欲しいんだろうが、普通に乗り込んだらこっちが潰されるのは明白だ。陛下も無茶を言ってくれるぜ」


 国王としては自分の威光が及ばない地域に手を突っ込もうとしているのか。一番槍は(政治的)に若く、有能で修羅場を潜った経験が何度もある血筋的にも裏切らない男。


 そりゃ俺でも期待するな。本人はその期待をこっちに持ってくるのは勘弁して欲しいが。


「そういえば、爵位はどうなるんです? 公爵家の係累が独り立ちして男爵ってことはないでしょうけど。外聞が悪すぎますし」


「まず間違いなく子爵だろう。領地の大きさから見ても男爵じゃ大きすぎるし、伯爵には足りない。それにすぐ近くにレンブラントのジジィの最側近の伯爵の領地がある。同じ爵位にはしないだろう」


 だから、周囲の男爵は俺の寄り子になる。その扱いも面倒な問題なんだとクロイス卿は疲れた顔をした。それこそ貴族の力関係を利用するしかないかな。個人的な武勇がモノを言うなら彼は既に冒険者として名声を得ているし、貴族と冒険者の違いはあっても露骨に侮られる事はないと思うが。


「今調べたらクロイス卿の領地は俺の実家にほど近い場所のようなので、こっちも里帰りするときに楽そうですし、お互いに利がある話ですよ」


 俺というか、ライルの出身地はキース伯爵領のキルネ村だ。<マップ>で確認するとクロイス卿の領地にあるサファドと言う大きな街から馬で一日の距離にあるのだ。ライルがこのウィスカに出てくるのに20日ほど時間をかけているのを考えると、至近距離といっていい。


 今の所、ライルの体を家族に無断で借りている状況なので里帰りする勇気などないが、いずれは行わねばならない俺の義務だから逃げる事はできない。

 だが、父であるカーマインはともかく、母であるテレシアの事を思うと今から気が重い。ライルは貧農である家の負担を減らすために予定より一年早く村を出てきたのだ。テレシアはそれに大反対しており、この事実を知れば……泣かれるだろうな。ああ、気が重い。17層あたりで手に入れた生活水準が向上する魔導具も渡したいところだが……。


 ああ、答えの出ない問題をあれこれ考えるのはやめよう。


 俺は考えを振り払い、クロイス卿と向き直った。彼の事だ、恐らく俺の故郷の位置などとうに掴んでいるだろう。それを交渉の一材料として俺に手を貸してくれといっているに違いない。

 これくらいは、彼のこれからの人生では小手調べにもならないんだろうな。




楽しんで頂ければ幸いです。




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