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プロローグ

初投稿になります。つたないところしかないと思いますがどうか楽しんでいただければ幸いです。


誤字脱字修正しました。それと文脈を弄ったりしてますが見やすさ重視です。内容は変わっておりません。



 俺の名はユウ。憑依霊なるものをやっている。過去の記憶はない。憑依霊ってのは大抵そういうもんらしい。名付けてくれた奴はそういっていた。


 詳しくなんて覚えてないんだ。最初のころは記憶なんてあいまいだったし、一日中ボーっとして終わることがほとんどだった。はっきりとした自意識なんてこの10年ほどだ。


 そして、俺が取り付いているのがこいつ、ライル・ガドウィンだ。見た目はちょっとだけ背の高いどこにでも居る金髪の少年だ。こいつが生まれたときから俺は取り憑いているわけだが、実際に何かできたわけではない。ライルの後ろにふわふわ漂ってこいつの一挙手一投足を眺めているだけだ。


 ライルには悪いが、田舎者の少年の人生だ。特に起伏もなくひたすら眺めているだけの人生(?)は退屈だった。まあ、飢饉や大きな戦争がないだけマシではあるが。



 ライルの生家は元貴族だった。いや、元没落貴族の現自作農というべきだろう。これでも恵まれている方である。彼の家の周りには農奴が山ほどいたからだ。彼の生家は村にそこそこいる自作農の取りまとめ役なんかをやっていた。腐っても元貴族ということだろう。


 ライルその自作農の3男坊で、当然家などは継げるはずもない。家の厄介者のお決まりコースである冒険者になるためにこのダンジョンの町”ウィスカ”へやってきたのだ。

 まあ、単に口減らしで追い出されたともいうが。



「とうとうライルも冒険者だねぇ。この子の性格でやっていけるか不安だよ」


 俺のすぐ隣で相棒の不安な声が聞こえる。はぐれ妖精のリリィだ。手のひらサイズの大きさに、金色の翅を持った彼女は普通の人間には見えない。例外は精霊使いかその素質のある者、同じ精神世界に属するものだけらしいが正直良く解らん。

 憑依霊としてただ漠然と取り付いていた俺を見つけて話しかけてきたのがもう十数年前だ。それ以来の付き合いになる。俺にとっては意思疎通のできる唯一にしてかけがえのない相棒だ。


「まあ、俺たちにできることなんて、上から眺めてギャーギャー言うことくらいしかないけどな」


 何しろ俺には実体がない。リリィと出会うまでは自我すら怪しかった。俺は彼女に様々なことを教えてもらった。このアセリアと呼ばれる「世界」のこと、常識、言葉など、はっきり言って頭が上がらない。リリィは暇潰しだといってるが、感謝しきりである。


 どうやら俺はこの世界の人間ではないようだ。記憶が全くないのだからよくわからないが、リリィいわく”稀人”とよばれる異世界からの迷い人なんだそうだ。魂を失ったままで世界を彷徨っているのが普通で、自分のような憑依霊は珍しいケースといえた。


 といってもこの霊体で何ができるわけでもなし、大して意味はない。せいぜい本の登場人物たちを生で見ているくらいの気持ちでしかない。この人生はライルのもので俺は傍観者にすぎない。


「ユウ、乗り移ってれば心も読めるんでしょ? ライルはこれからの予定とかって考えてるのよね?」


 リリィはライルの将来に不安があるようだ。実家から逃げるようにウィスカへやってきていきなり冒険者だ、あまりに無計画すぎるようにも見える。


「隣村の先輩に冒険者が居るからそこの伝をたどって荷物持ちか何かをさせてもらおうと思っているらしいが……あれ?」


 ライルの様子がおかしい。体が震えている。特に体調の変化も……って、心臓が早鐘のように高鳴っている。どこかに絶世の美女でも……いない。ライルの視線は卓の上の書類に釘付けだ。冒険者ギルドへの加入手続きの書類のはずだが、妙に数が多いな。何枚あるんだ?


「ええっ。ライルの魂が薄れていく……」


 リリィのかすれたような声が聞こえるが、俺はそれどころではない。自分も消えてゆくような感覚を味わっていたのだ。ライルが死ぬと俺も消えるのだろうか、いきなりの終焉だな。リリィに謝罪の言葉の一つでもと思ったらすでに事態は動いていた。


「これは……ライルの体か!?」


 ライルの手が自分の思うとおりに動く。もしかして俺がライルの体を動かしているのか? そんなこと今まで一度もできやしなかったのに!


「ライルの体からユウの気配がする。ライルの気配をまったく感じないよ!」


 リリィの声は変わらず聞こえている。良かった、肉体を持った後でも彼女の声が聞き取れたのは一番の収穫だった。普通の人間に妖精の姿は見えないし、声も聞えないという。だからリリィは会話のできる俺のそばにいてくれたのだ。そんな関係の俺らだが、ここまで一緒にやってきたのに、いきなりさよならなんて悲しすぎる。


「しかし一体なんでこんなことになったんだ……」


 ライルは特におかしな動きはしていなかった。せいぜい受付台で何か書類を書いていたはずだが……。


「なるほど―――――こりゃないわ。ライルもそりゃ死ぬわ……」


 俺はいくつかの書類の中から一枚の紙を取り出して見せた。リリィの顔が驚愕に覆われてゆく。

 後で知ったことだが、その紙は魔約定と呼ばれる精霊魔術と魔術を組み合わせて用いるきわめて特殊な契約書で、高価極まりない代物だ。たかがギルドの入会に必要なものでは決してなく、専ら大商人たちが取引などに使われるものだと聞いている。


 実物を見るのも当然初めてだが、リリィもこの用紙に使われている魔力と精霊力を感じ取ったらしい。開いた口がふさがっていない。そして俺は苦りきった顔をしているに違いない。十何年ぶりの体を動かす機会だってのに、そんな気も沸かなくなっている。



 悪いことに、契約の内容は最悪をはるかに超えていた。


        甲は乙に金貨壱千五百万枚を貸し付けるものとする。



 あかん。これ詰んだわー。完っ全に詰んだわー。


お読みいただきありがとうございます。

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