スノールア ~妖精祭典日 fairy festival~
2/26 誤字修正などしました。
PCにしばらく長く触れない状況が続いていたため、遅くなりました。お見苦しい状態で置いてしまいすみませんでした。
そろそろ冬の終わりも見えてきたころですが、少しばかり、『冬』そして『雪』を楽しむひと時を、すごしていただけましたら光栄です。
短くて読みやすい量の短編だと思いますので、どうぞよろしければご賢覧くださいませ。また、禁止制限などない童話調の物語ですので大丈夫かと思われますが、ぜひ読み始める前にマイページ内の注意書きなど、ひとめ目を通していただき、より安全にお楽しみいただければと思います。
よろしくお願いいたします。
スノールア ~妖精祭典日 fairy festival~
今日はなんの日かって?
そりゃ、決まってる。
私たち妖精にとっては、今日は年に一度の祭典日。
めんどくさくも、楽しい一日の始まりだ。
私はスノールア。
雪の結晶の奇跡から生まれた、冬属性の妖精。
ねえ、知ってる? 雪の結晶って人間の世界じゃ一つとして同じものはない、なんていわれてるけど、
実は、ごくたまぁに、同じ結晶ができてしまってるときがあるんだよ。
人間たちは、雪粒をすべて観察するなんてことできないから、気付いてないみたいだけど、ありえないっていわれたって、結構あることがある。
大いなる自然界のいたずらってヤツかしらね?
そう。
そして私は、そんなまったく同じ雪の結晶が同時に五つできて、
そして空気中を漂っていたそれが、また偶然にもある地上の方向から見上げると、ぴたりと重なったっていう偶然。
そして、その五片の結晶の隙間を、上から太陽光が、透かした奇跡の瞬間。
この世界に、妖精として生まれたの。
ねえ、知ってる?
この世界には、そんな風にして偶然という奇跡が重なって生まれた妖精たちが、結構存在しているんだよ。
***:::***
「スノールアー」
呼びかけてくる声が聞こえる。
北極。氷の塊の頂でうとうととまどろんでいた私は、その呼び声に、うっすらと目を開けた。
聞き覚えのある呼び声だ。
「あー…、ビスケッタ?」
「そう! ねえ、なにしてんのさ、祭典準備しなくていいの? もう開始まで、一時間切ってるよ」
「うぅん、ふああぁぁ……。祭典前に英気を養ってたんだよ。あれ、結構疲れるんだもん。もう毎年毎年何百年も続けて、そろそろ、さすがに嫌気がさしてきた気もするわ」
あくびをしつつ伸びをしつつ、ひょろっとした小さな人間の子どもと似たような体を動かしながら、私はそうビスケッタに答えた。
ビスケッタももちろん奇跡から生まれた妖精だけど、ある人間がとある歌の歌詞にあるように、ポケットに入ったビスケットをポケットの上から叩くと本当に二枚に増えるかという実験を真剣に繰り返して、百回目の瞬間に生まれたというコ。
やってみる人がいそうで、でも真剣に、百回もやる人なんてなかなかいない。
これも案外とけっこうな奇跡よね?
生まれるきっかけが、そんな実験のような遊びだったビスケッタは、やっぱりその性格も陽気で人懐こい。加えて、こんがり焼けたビスケット色の硬い短い髪と、アーモンド色のパッチリした目を持つ、人間の小さな男の子のような見た目をしている。きっと、彼を生んだビスケットを叩いた男の子もこんな風貌だったんだろうな。
私みたいに百パーセント自然現象である場合もあれば、こんな風に人間や他の生き物が関わって生まれてくる妖精もいる。こんな妖精は一般的に、自分が生まれるきっかけになった生き物に興味や行為を強く抱くもの。
というわけだから、ビスケッタは自分が生まれるきっかけになった人間が大好き。
そんなビスケッタが今回取り組む祭典の『宿題』なんて、たぶんまた……
「スノールア、もうなにやるか決めてるの?」
「まだよ。ぼちぼちぶらつきながら決めることにするわ。それよりあんたはもう決めてるんでしょうね、毎年始まる前には決めてたものね?」
「そう! ぼくはいつもいつも何にしようか、どれがいいか絞り込むのに苦労するんだよ。だから祭典が始まる前に決めておかないと、迷っているうちに終わっちまう」
「だろうねー。で、今回はなんにしたの?」
「えっへん、今回は気合が入ってるんだ。なんとさ、美味しいビスケットをビスケット嫌いの人に配り歩くことだよ。例えば、もしそれで誰か一人でも、ビスケットってなんて美味しいんだ。今まで食べなくて、もったいなかったーって。これから楽しみが、この世界にひとつ増えるぞってことになったら、すごいと思わない?」
「そりゃ、まあすごいわねえ。でも、そんなくらい美味しいビスケットどう用意したの?」
「そりゃ、極秘事項ってやつだよ。スノールア、今回はぼくも負けないからね! 妖精の女王様の奇跡の賞をもらうのは、今回はきっとぼくだから!」
そういって、ビスケッタは氷の山を滑り降りて、手を振っていってしまった。
はて。果たして、今年はどうしてあんなに気合が入っているんだろう。
首をかしげて不思議に思いながらも、スノールアは氷山の氷を覗き込むと、氷に映って、うす青いアイスブルーに見える、そして、実際もアイスブルーで、肩まであるクセ毛の髪を手ぐしでとかし、同じくアイスブルーの目をきらめかせた。
「さあ、準備万端。行動開始よ!」
そして両手をさっと広げると、ひとかけの大きな雪片となって大空へと、風にまかれて飛び立った。
***:::***
「さて、今回はどうしようかな」
そのとき私は、たくさんの雪に覆われた冬の気候の地域へと来て、雪片の姿のままふうわりふうわりと眼下に広がる景色を眺め、漂っていた。
と、ここで一つおさらいしておこう。
いま私たち世界中の妖精が参加している 『妖精の祭典』とは、文字通り年に一度の妖精たちにとってのビッグイベントなの。
妖精の祭典では、世界中の妖精たちが、自分の能力を生かして、それぞれひとつづつこれは、と思う奇跡を起こすのよ。
これには結構重大な理由があって、妖精たちは生まれて五十年くらいは自然界や、妖精の女王様からの奇跡のエネルギーで保護されて存在していられるけど、もともとそういった奇跡の力がないと存在してられないのが妖精ってわけだから、五十年目を過ぎた妖精たちはこの祭典に参加して、自分の力で奇跡を起こして、一年間存在するに足るだけの奇跡のエネルギーを得るのよ。
ほんとにほんっとに、大昔にはそれぞれが必要そうなときに各自で動いて奇跡のエネルギーを集めていたんだけど、あるとき妖精の女王様の発案でこれをお祭りにして、皆で一緒に競う合う形でやってみようということになったの。
妖精たちは、皆大喜び。まあ、人間たちのいるかもしれない、見つけたい、という思いが凝って、本当に生まれ出たネス湖のネッシーとかは、生まれ出でた性質から隠れているのが得意で好きだから、ちょっと渋っていたけど、なんのその、実のところは妖精はみーんなお祭り好きだ。
彼も毎年のっしのっしとこの時期奇跡を起こすのに闊歩しているわ。
余談だけど同じような存在に、ビックフットやツチノコもいる。
そして、この祭典で女王様に、独創性や世界に与える影響なんかを考慮して祭典の最優秀者に選ばれたものは、女王様の奇跡の力の及ぶ範囲でひとつ、願い事をかなえてもらえる、というわけ。
「さ、わたしも始めようかしら」
実のところ私は過去、二回最優秀賞をもぎとっている。ウン百年のうち二回だけど、今回もやるからには、優勝を狙っていくつもり。
そして、眼下には寒波の影響で、大量の雪に四苦八苦している町並み。ここが他のところより特に酷いんじゃないかしら。
よし。
私はさっと雪片から人型に、人間には見えない姿に戻ると、
妖精の力を集中して両手を掲げた。
「来たれ。奇跡の空間。呑め、雪、大量。飛べ、遥か南方へ!」
そして頭の上で両手をぱちんと打ち合わせた。
ふっと人間の目には、きっとわからぬ量くらい、でも雪の勢いは確実に退き、積もっていた雪も、にわかに嵩を減らす。
それを見届けて、私は雪を呑んだ両手の間の小さな空間とともに、それを送るべき南方へと飛び立った。
***:::***
「スノールア! スノールア! 起きて、大丈夫?」
声が聞こえる。この声、また
「ビスケッタ?」
「そう、ぼくだよ、ああ、力を使いすぎだよ、頭が完全にキンキンに冷えちゃってる! ほら、あっためて!」
「うわ、ありがと」
そういって額においてくれた、あったかいタオルを有難く受け取って、私はほうっと息をついた。
「もう、だめだよ。いくらスノールアが、妖精の中でもまれな奇跡から生まれた、格の大きい妖精だからって、あんなに大量の雪を世界の反対側に運んだりしちゃ。まあ、猛暑中だった、南方の人たちは、突然の雪に喜んでたけど」
「そっか、よろこんでたか」
「うん。この世界もほっとしたんじゃないかな? 気候の歯車の噛み合わせがだいぶずれかけていたからさ。……スノールアのおかげでちょっとだけでも息継ぎできたんじゃないかな」
「そうだといいんだけどなあ……それで、あんたはどうだったの?」
私は額の布を持ち上げて、ビスケッタを見た。
ビスケッタは俯きがちだ。その顔を見て、結果はわかった。
「そっか。残念だったね」
「うん……喜んでくれた人はいたんだよ。思ったより美味しいって思ってくれた人もいて、でもこれからまた食べたいって思うほどじゃないあったみたいだけど。
でも、自分は食べないけどほかのビスケットが好きな人にあげた人もいて、それ貰った人はすっごく喜んでた。これも奇跡だし、ぼくみたいな小さめの奇跡から生まれた妖精には、これで今年一年分のエネルギーは十分だけどさ」
いつもだったらそこで、ぱっと気持ちを切り替えて陽気なビスケッタに戻る、そのビスケッタが、今回はやけに浮かない顔のままだ。それに不思議に思って私は、体を起こすと首を傾けて、問いかけた。
「どうしたの? 今回はやけに気合はいってたけど、なんか理由があったの?」
「うん……実は、僕が生まれたきっかけの子がいた家の、そこにずっとずっと先に生まれた男の子が風邪こじらせちゃってさ。それで、妖精の女王様の奇跡の力で治してもらえないかと思ってたんだよ」
それは……。もし仮に、治らない病気だとしたら、いくら妖精の女王様でも、そういった病気を治すほどの奇跡の力はない。
そんなことも考えて口ごもった私に、ビスケッタは顔を上げて、違う、と首をプルプル振る。
「彼は治るんだよ、ほんとにただの風邪なんだ。ちょっとこじらせちゃって、回復まで長引いてしまってる……あと一週間くらいかな。でもずっと楽しみにしてたおじいちゃんとの一年ぶりのお出かけができなくなりそうなんだよ。すっごく前々から楽しみにしてたのに……。
だから妖精の女王様に風邪の治りを早めてもらえないかと、お願いしようと思ってたんだ」
まあ、だめだったんだけど。そういって肩を落としたビスケッタに私は尋ねる。
「お出かけって、いつ?」
「三日後。今日か明日じゅうに完治すればいけるかと思ってたんだけど」
「ふうん……」
私は顎をつまんで思案した。
「それで、今回の最優秀賞を貰ったのは?」
「きみだよ。知らなかった? あ、ここでずっと寝込んでたんだっけ」
周りは、よく私が昼寝している北極の氷の塊の頂だ。
ここまで来て、疲れて、眠り込んでしまっていたので、祭典の行方は知らなかった。
そうか、なら話は早い。
「じゃあ、ビスケッタ。私と勝負しない?」
「勝負?」
きょとん、としてビスケッタが問い返してくる。
「もし私があなたの持ってきたビスケットを食べて、すごいこんなビスケットを食べれて幸せだって思えれば、あなたの勝ち。その時は、女王様の奇跡のお願いをあなたの願いに使うわ」
「え?」
驚いたビスケッタの声。
「いいのかい?」
「もし私がそう思えば、よ。どう?」
「もちろん、じゃあすぐ持ってくるよ。トローニアおばさんが妖精たち用にって、たまに庭においておいてくれるビスケットは、すっごく美味しいんだ! 待ってて!」
ぴゅんっと氷山の壁を滑り降りて、機密事項といっていたことを口にしながら、ビスケッタが一目散にかけていく。
それを見送って、ぬるく熱を残す妖精の力を帯びた布を握り締めて、跪いてスノールアは空を見上げた。
「お聞きでしたでしょう。女王様。どうぞ、その男の子の風邪の治りを早くしてあげてください。
きっと、ビスケッタの持ってくるビスケットは間違いなく、とんでもなく美味しいだろうから、甘い物が好きな私としては結果を見るまでもありません。どうぞ、はやく、お願いします」
ふわり、と空気がわらった気がした。スノールアは願いがかなえられたことを疑わなかった。
よいしょっと立ち上がって、
「じゃ、ビスケッタが戻ってくるまで、お茶を入れるのに、美味しい雪を取りにいってこようかな」
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皆さんの周りに奇跡は、奇跡とも思えないカタチで隠れています。
見つけられたら幸せ。でも、たとえ気付いていなくても、それはあなたの中で、ほのかな幸福として息づいている。
そんな奇跡を起こす妖精たちが、この世界に溢れていること、
あなたは知ってます?
お読みいただきありがとうございました。
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お気に入りの登録などもしてくださった方、私の作品を気に入っていただいた、二番目と三番目の方かなと思います。
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