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4話



 未だに若様達と上手くいかない俺は、お屋敷にある本をそろそろ読み尽くしつつあった。

 俺が閲覧を許される本だけな、当然。

 結構な蔵書数だったが、今の俺はかなりの集中力を持っているおかげで、するする読める。

 内容もスムーズに思い出せる。

 その中で、俺の目を引く記述があった。

 その記述が、脳内でリフレイン。

 まあつまり。

 刀とか、超欲しい。

 何となくかっこいいから。

 この世界でも手に入るかも知れないとなれば、なおさら。

 そう、この世界にも刀的な片刃剣――以後は刀で通す――は存在する。

 ありがちな東方の少数民族がどうたらこうたら等という背景ではない。

 鉱山が少ない南方の国でひっそり作られているのだ。

 砂鉄が多くとれる川沿い、炭作りに適した木々の群生する地方で生まれたらしい。

 硬い鋼を刃とし、柔らかい鋼を峰にして、なんて完璧に刀だ。

 扱い難そうではあるが、ラノベ御用達なそのフォルムを思い描くだけでワクワクする。

 実際にお目に掛かってみたい。

 まあ、木剣を卒業も出来ない現状じゃあ、無理か。

 実際手に入っても、モノホンの刃物なんぞ怖くて振り回せん。

 そろそろ若様のお出でになる頃だ、と玄関先で待機しようと外へ出たところで――。


 ストン。


 刀が降ってきて、目の前の地面に刺さった。

 何かの金属製と思しき鈍色の柄は、両手で握れそうな長さ。

 ただのサーベルと違って、刀身が複数の金属を組み合わせた物らしいと分かる。

 反りのある形状だが、屋敷で見たことのある一般的なサーベル程は大きく曲がっていない。

 やはり、刀が一番近いかな。

 そこまで刀剣類に詳しくないが。

 そして、俺は思った。

 刀は確かに欲しかったが、どうせならヒロイン降ってこいや、と。

 虐げられてる亜人系とかさ。

 人間じゃない私へ普通に接してくれるなんて……ポッ、みたいな展開はよ。

 ――とまあ、世迷い言はさておいて。

 なぜこんな所に刀が降ってきたんだ?

 

 ①近くで誰かが素振りして、すっぽ抜けた。

 ②外宇宙より飛来せし、人知を超えたおぞましき神秘の存在である。

 ③どっかで伝説的な存在が相争い、ぶつかり合った凄まじき力で伝説的な武具が飛び散った。

 ④これは神の啓示であり、俺は選ばれしソルジャーだ。


 四択にしといて何だが、①以外にはありえんだろ、常識的に考えて。

 前世の記憶を持つ俺に、常識を語る資格が無いとか言うな。

 周囲を見渡すが、だーれもおらん。

 いや、遠くに若様発見。

 妹君の手を引いて、丘を駆け上ってくる。

 若様が俺を排除しようとしている!?

 やはり媚びが足りなかったというのか……。


「それ、どうしたんだ?」


 あ、若様が投げたわけでないんですね。

 失礼しました。

 何でかは知りませんけど、ここに落ちてたんですよ。


「細いし、薄いし、弱そうだな」


 若様が欲しがってる、屋敷に飾られた肉厚の両刃剣とぶつけたら、アッサリとポキンでしょうな。

 刀が凄いらしいといっても、見た目の割には、程度だろう。

 そこまで幻想抱いてはいない。

 しかし、俺のようなガキが刃物持ってても危ないと思われるだけだろうし、大人に預けた方が良いか。

 若様を害し奉ろう、なんて考えてると疑われたら、打ち首物だ。

 一刻も早く持って行かねば。


「誰かの落とし物でしょう。今頃持ち主の方がお困りでしょうし、お屋敷に届けます」


 そう言って、地面から引っこ抜いた。

 ぱっと見、立派な感じだし屋敷に仕える護衛の人とかが落としたのかもな。

 普通こんな目立つもん落とさないよ、というツッコミはこの際置いておく。


 ――殺せ。


 唐突に、ドスのきいた声が響く。


 ――殺せ殺せころせコロセコロセコロセ……。


 え、あ、やっぱり若様が俺に飽きて処分をお考えで!?

 い、命ばかりは!

 後、出来れば五体満足で済ませてください!

 手足とかに障害が残ったら、将来が物乞いコースの一択になってしまいます!

 命乞いに土下座ろうと、慌てて振り向いた。


「どうした?」


 若様はキョトンとしている。

 え、若様がその辺の茂みに潜ませた手勢とかに命じて、俺を嬲り殺そうとしたのでは……?

 反応は、意外な所から返ってきた。


「その剣、なんだか怖い……」


 妹君が、若様の背中にすがりついて震えていた。

 そして、目をウルウルさせている。

 ヤバイ。

 妹君をいじめていると勘違いされたらヤバイ。

 怖くないっすよー。

 こんな刀なんてポイしちゃいましょうねー。


 ――何故だ器に相応しき者よ、我が意志を受け入れぬとは……!


 刀を放りだしたら、若干小物っぽくなったその声が止んだ。

 ……俺が病んだ訳ではないのか?

 地面に落ちた刀へ、指先だけ触れてみた。


 ――くっくっ、我が力に魅いられたな、やはり人間というのは愚か……。


 ぽーい、と。

 良かった、幻聴じゃ無さそうだ。

 刀のせい刀のせい。

 きっとのろわれたようとうなんだ、おそろしいなぁ。

 ……そういうことにしておこう。

 俺が狂った訳じゃない。

 なんだか分からないけど、妹君は怖いと言うばかり。

 幻聴は聞こえていない模様。

 若様はどうでもよさげ。

 まあ妹君は怖がってるし、土でも被せとこう。

 どっかの持ち主に怒られるかも知れないが、やむを得ない処置だ。

 そうだ仕方ないんだ。

 手で掘って、土を被せて、足で踏み固めて。

 はーい、これでご安心を妹君。

 怖い剣は土の中で無力ですよー。

 少しして泣き止んだ妹君。

 埋めた場所から少し距離を置いて、三人で普段のように遊び始めた。

 悪漢(俺)にさらわれた妹君を、若様が助ける筋書きのチャンバラごっこ。

 根が小物な俺に掛かれば、やられ役を演じる事など容易き事だった。


 ――来やれ、我を……受け入れ……。


 うぎゃーと叫びを上げながら倒れ伏すと、幻聴リターンズ。

 スルーだスルー。

 かわいそうな奴だと思われたら、どうするんだと。


 ――何故だ……力が、手に入るのだぞ……。


 俺って、自分がもうちょっと現実をわきまえてる奴だと思ってたんだがなぁ。

 刀を拾ったくらいで、妄想のタガが外れるだなんて。


 ――力さえあれば……全てが思いのままぞ……。


 幻聴が悲鳴じみた切実を帯びる。

 え、何言ってんのコイツ?

 いや、俺の妄想か。

 最強系転生成り上がり主人公とかに憧れちまってんのか俺。

 邪な囁きに踊らされない俺様の精神つよーい。

 ……はんっ。

 刀持ったくらいで何が変わるのやら。

 習った限りじゃここしばらく大きな戦争の気配も無いし、仮に俺が強くなっても酒の席で自慢するくらいが関の山だ。

 平和な世の中じゃ、権力とコネと財力以上の武器など無い。

 そして、それらは大抵一つ所に集まる物なのだ。

 現状、剣(武力)はペン(情報とか学力とか)より弱い。

 かといって、出世の機会が多い戦乱だとか、俺はまっぴらごめんですわ。

 身の程をわきまえなければ。

 自分に言い聞かせていると、ようやく幻聴が止んだ。

 手強い敵だった。

 そう、最大の敵は何時だって己なのだ。

 ……妄想止めて現実に立ち向かいたいのさ、俺だって出来るものなら。

 内心で悲嘆に暮れつつ、若様が勝利のポーズを終えたので立ち上がった。

 たまたま、遠くから駆け寄ってくる人が目に入った。

 辺境伯その人。

 んん、おやおや慌てた様子で。

 ゴリさんが後ろから追っている。

 え、俺が何かやらかした訳じゃ無いよね?

 近づいてきた辺境伯にビクビクしつつ、どうされましたと、訊ねた。


「……無事だったのか?」


 え、何がですか?

 血相変えて何を仰いますやら。

 息を切らせたままの辺境伯に、片刃の剣を見なかったかと次いで問われた。

 貴方様の物でしたかー。

 土下座した。

 なんだか不気味だったので、それらしい剣を埋めてしまいましたと言いつつ。

 ここで妹君のせいにしたら、後が怖そうだった。


「何も、変わったところは無いのか?」


 ええ、何も。

 幻聴以外は、とは言わなかったが。

 辺境伯は拍子抜けした風で、安堵を窺わせる溜息と共に膝をついた。


「それならば、いい」


 そうですか。

 あ、掘り起こしますねー。

 浅く埋めといて良かった。

 これどーぞ。


「おやめ」


 横合いからピシャリと響く声は、けれどしわがれていた。

 声の方を向けば、そこに立っているのは鷲鼻の老婆。

 黒いローブと頭巾が、おとぎ話の魔女然としていた。


「それは、人間が軽々に触れて良い物ではないよ」


 人ならざる声を聞いてしまうから――。

 そうなれば戻ってこれない、と。

 ……ふむ。

 そっか、やはり幻覚系の病には厳しい世の中だったのか。

 幻聴黙ってて良かった。

 俺は安堵した。



 続くかもわからん



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