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3話


 目を覚ました。

 季節に合わせて、丁度夜が明けた頃だという時間に起きられる感覚。

 前世ではあり得なかった特技だ。

 寝起きはしんどいが、無理にでも動き出さなくてはという強迫観念。

 これも、働かなくてはならない田舎暮らしで養われたものだ。

 病気にならない様、毛布だけはなかなか良い物を与えられている。

 編んだわらを麻布で包んだだけの物とは大違い。

 おんぼろのベッドを軋ませつつ這い出せば、途端に重く冷たい空気。

 閉じた木窓の隙間から差し込む光を標に、ヨタヨタそこへ近づいて。

 開け放つ。

 小高い丘の上、見下ろすと原っぱの向こうに庭園と屋敷。

 少し距離を置き点在する、厩や使用人の寮。

 その更に向こうには、森や尖った山脈、山の合間から差す日の出。

 この景色は悪くない。

 傍の棚から、作り置きのパンを取り出してかじる。

 侘しい朝食だが、自分のためだけに料理する気が起きない。

 使用人の人たちに余計な手間かけさせるのも躊躇えるし。

 テーブルマナーの授業では野菜やスープも食べられるしな。

 パン種分けてもらっただけ有り難い。

 備え付けのボロ釜で適当に焼いただけだが、村で喰ってた物と段違いの旨さ。

 この離れで暮らす様になってから、一週間が経つ。

 今のところ、朝日に目を細めながらパンをもそもそ食べるこの瞬間だけが、癒やしだった。



 少しして、お二人さんがいらっしゃる。


「何か面白い話をするんだ!」


 辺境伯のご子息――若様でいいや。

 まあ、この子が唐突なのはいつものことだ。

 ここしばらく振り回されて覚えた。

 一つ年上だからつって、言うこと聞け聞けうるさいのなんの。

 そもそも圧倒的に向こうが立場上だし、逆らえん。

 それにしても、ひでー無茶ぶりだ。

 前世のサークルとかでこれやられたら、ストレスで吐いてたレベルだぞ。

 だが、問題は無い。

 斬新で、かつ子供の興味を引く話なら良いんだろう?

 ここは前世でひたすら読みふけったラノベやら漫画の知識が役に立ってくれるはず……。

 俺知ってるよ。

 異世界系テンプレで見た。

 さ、あ、震、え、る、が、良、い!


「訳分からない。つまらん」


 ……こ、子供には難しすぎただけだし(震え声)。

 もっとこう、子供向けのおとぎ話系にすれば良かったかな。

 この世界だと、娯楽もあまり多くは無いみたいだし。

 桃太郎とか、どうよ?


「そこで桃太郎がズブシャーで、鬼がギャーッて――」


「だから、何言ってるのか分からない!」


 ……何故ウケが悪いんだ。

 前世、親戚の子供には大ウケだった気がするのだが。

 ――解せぬ。

 擬音の使いすぎとか、他にも文化の違いから来るフィーリングのズレが原因だと気づいたのは少し後だった。

 それはさておき。

 若様や、その妹さんとはあまりうまくやれなかったと思う。

 チャンバラごっこではやられ役がんばったが。

 木剣が痛い部分に当たっても、気合いで耐えたのに。

 鬼ごっこだって、リアクション芸みたくズッコケを交えてウケを狙ったのに。

 だというのに、つまらないやつとお坊ちゃんに言われた。

 俺という人間の本質をザッパリ突っつかれたようで、死にたくなった。


「そ、そんなこと無いよ。き、気にしないでね……」


 妹君のとってつけたかのようなフォローがこれまた寒かった。

 超気にした。

 気が重くなる日々だった。

 更に少しして始まる勉強タイム。

 一方、家庭教師の習い事なんかは、思ったよりも随分楽だった。

 既に知ってる内容の復習って感じ。

 そこに、貴族へのマナーやらが追加されたくらい。

 剣術なんてやらされたのはうんざりだったけど。

 これまた、貴族の教養ってやつ。

 まあ、先生――座学も剣も魔術も同じ先生だった――は二十歳前くらいの若いお姉さんだったし、授業は厳しいと言うことも無かった。

 女剣士でもあるのだが、残念ながら露出は少なかった。

 普段からローブ着用で、どちらかと言えば魔術師寄りな感じ。

 ウェービーな金髪が大人っぽかった。

 結構表情豊かでもあったが。

 お手本に見せてもらった剣筋がぴしっとした感じでかっこよかった。

 体のラインは見えないが、何となく分かる。

 慣れない剣の授業ではあったが、与えられた課題をこなすくらいなら何とかなった。


「ま、まあまあじゃないか?」


 型や素振りを見せる度、どうですかと聞けば先生は決まって俺から目をそらす。

 模擬戦では、俺が一方的に木剣で打ち据えられるだけだった。

 俺が上手く躱し方を覚えられる様な配慮が何となく窺えはしたが。

 ……まあ、なんとか、なったやろ?

 魔術でも、そんな感じ。


「……ま、ままっ、まあ、そこそこじゃないかな!」


 そう言いつつ、やはり目を逸らす。

 剣術よりは自信があったのに――!

 淡々と打ちのめされる日々が、続いていた。

 だが、娯楽も無い日々では、勉学位しか逃げ込める物が無い。

 ご子息らに媚びようとしながらも、嫌な気分になる度に閲覧の許させる範囲の蔵書をあさり、偶に剣術の素振りに励んで気分転換するしか無かった。

 少しして、屋敷関係者の子供達のたまり場の所在地を知った。

 使用人達の井戸端会議で、子供達が話題になっていたのをコッソリ盗み聞きしたのだ。

 どうにか混ぜて貰えないだろうかと思う様になった。

 気分転換したい。

 衣食満ち足りて、そう思う余裕が出てきた。

 大人達は、微妙な立場である俺に対して余所余所しい感じを漂わせているし。

 でも子供達のコミュニティは、家令の子から厩の管理人まで様々らしい。

 それならば、俺も混ざって良いんではないか?

 機を伺って子供達を遠目に眺めていたら、大人達に止められた。

 どうも、貴族は身体能力が普通の子供と比べて段違いな為、トラブルの元となりやすいのだと。

 貴族とか魔力が多い人間は、無意識のうちに身体強化してたりするらしいしなぁ。

 偏屈じーさんが言ってた。

 それに遺伝的な物もあるんだろうな。

 それを承知で平民をいたぶらせる――あるいは平民との違いを学ばせる――貴族もいるそうだが、ここの主はそのような事はしないのだと。

 家系的に凄まじい素質を秘めているらしく死人が出かねない、との事。

 まあ、武家らしいからねぇ。

 駆け回っている様は、やんちゃ坊主って感じだな、うん。

 そんで、俺も一応その家系に連なっているワケで。

 確かに大怪我もしていない。

 お互いが数少ない遊び相手だと言う事か。

 俺のようなつまらない人間で遊ばなくてはならない、お坊ちゃん達には同情するね。

 普通は乳兄弟とかいるだろうに。

 あ、ご病気でお亡くなりになったんですか……。

 それはお辛いでしょうね。

 ……お坊ちゃん達を満足させる方法、真剣に考えるか?

 例えば――。


「えっへっへ、若様ぁ、お肩おもみしましょうかぁ?」


 あ、何か違う。

 試しに呟いてから気付く、コレジャナイ感。

 結局、どうすれば良いんだ?

 頭を抱える日々が、もう少し続きそうだ。



 続くかもわからん

ここからペースが上げたいです。

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