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ルルシィ・ズ・ウェブログ  作者: イサギの人
第一章 始まりのヴァンフォーレスト編
9/60

◆◆ 8日目 ◆◆

 

 シスとふたりでヴァンフォーレストのクエストを進めていると(イオリオとルビアはギルドで魔術のお勉強中です)、ライエルンが新たなクエストを発行してきました。

 それはこれまでに受けてきたチュートリアルの流れを汲む、いわば最終試験のようなもので。


『草原を南東に進むと、オークの隠れ家的洞窟があるんだけどー、

 やつらが辺りの村を荒らしまくってて、ちょーめーわく!

 そこで貴様たちには、オークの親玉をぶっ殺してきてほしいんだよねー。

 メーッチャ危険な任務だってのはわかっているけど、

 これができたら執政院の人に認められるしちょーハッピーみたいなー?

 よろよろー☆(意訳)』


 女子高生風おヒゲさん。マジ鬱陶しい(自分でやっておいて!)

 しかしともあれ。沸き立つ心は抑えきれない。


「ダンジョン攻略だ!」


 両手を突き上げ、黒髪の青年シスくんも叫ぶ。


「ボス退治だー!!」

 




「明日にしよう」


 今にも飛び出しそうなわたしとシスを制止して、イオリオは冷静に言い放った。


「遠出となると、一日準備が必要だ。野営することもあるかもしれない。

 万全を整えて出発しよう」


 なんというお手本のようなメガネキャラ……

 憎たらし……いやいや、頼りになる!


「なんだよー! お前は我慢できるのかよー!」


 騒ぐシス。

 まるで駄々っ子である。

 イオリオが咳払い。


「僕だって今すぐに冒険に行きたい気持ちさ。

 でも、洞窟で力尽きたら、リスポーン(復活)地点はこの都だ。

 再合流するのは難しいだろう。

 そんなことになったら、クエスト攻略は次回に持ち越しだぞ?」


 諭す姿はまるでお兄ちゃんである。

 理路整然と告げられ、シスは納得したようだ。


「そうだね……イオリオの言う通りだ。

 はぁ。まったく、お前にはかなわないよ」


 小さなため息。

 イオリオは首を振る。


「暴走しそうになった君を止めるのが、僕の役目だからな。

 正直、損をしていると感じことも多々あるんだが」


 シスが笑う。


「いつも助かってるって。頼りにしているよ相棒」


 お、おお……男の友情……!

 握手とかしているよこの子たち! 素敵!

 わたしはルビアに微笑みかける。


「ルビアも不安だろうけど、心配しないでいいよ。わたしが守ってあげるから」


 こっちは女の友情を見せてやろうぜ。


「はぁぁぁ~?」


 すっごい目で睨まれた。


「なにを言っているんですかぁ? “あたしが”先輩を守ってあげますよ」


 胸に手を当てて、貴族のワガママ令嬢みたいな顔をされる。


「先輩は、あたしのためにせいぜいダメージを受けて、回復魔術スキル上げの礎となってくださいねぇ~」


 こ、こいつぅ。自信が変な方向にネジ曲がってやがる!


「ちょっとぐらい魔術が使えるようになったからって、チョーシ乗らないでよねぇ!?」

「うふふ、前衛さんはあたしの魔術がないと生きてけないんですもんねぇ? うふふ」


 バチバチと火花が飛び散る。

 それを見て、イオリオが一言。


「これが女同士の友情か……」


 そうじゃない。

 そうじゃないんだよ……




 さてここらで、説明入りまーす。

 退屈? じゃあ今すぐブラウザ閉じろよぉ!(泣)

 プレイヤーがアイテムを売買するためには、NPC売り、あるいは手売りの他に、もうひとつシステムがありまして。

 場所代と売り子さんの雇用代を支払うと、特定のエリアでお店を開くことができるのです。

 人、これを【昼夢市ひるゆめいち】と呼ぶ! 

 今のところ、イオリオだけが雇っている模様です。

 わたしたちは彼に集めた素材を渡して、まとめて売り払ってもらっている感じ。


 で、きょうはルビアが新たに売り子さんを雇おうとしているので、手続きをしにふたりで行政区にやってきたわけです。


「バッグが余っちゃって余っちゃってー」


 海外旅行三昧のセレブ主婦のようなことを言う。

 全員分のバッグを作ってもなお、彼女の革細工への情熱は収まらなかったようだ。


「あといくつ残っているの?」

「えーとぉ、9つですねぇ」


 ずいぶん成功率あがったのねえ。

 ルビアは受付の人と話しながら、メニューを操作している。

 後ろから覗きこむと、どうやらお店(と言っても露天だけど)と売り子の外見をセレクトしているようだ。


「へー、色々種類あるのねー。あら、女の子も可愛いじゃない」


 半眼を向けられた。


「勝手に見ないでくださぁい。プライバシーの侵害ですよぉ」


 厳しいじゃないか。


「それに、あたしひとりで平気だって言ったのにぃ……」


 ルビアは頬を膨らませる。

 むむ、自立心が芽生えてきたのかな。


「確かに、エンブレムがついてからは、声をかけてくる人も激減したみたいだけどねー」 


 肩を竦める。効果があったのはいいことだなー。

 ふふふ、首輪をつけられたこの子はわたしの所有物……!


「不吉なことを考えている予感がしますぅ……」


 心が読まれている、だと……

 ことさら大きなため息をつかれた。


「先輩はホント、もげてしまえばいいのに……」

「なんのことを言っているのか知らないけど、元からついてないからね!?」


 清らかな乙女になんてことを叫ばせるんだ、この子は……

 シッシッ、とあっちいけをされてしまう。

 うーん、うちの娘、反抗期に入ってしまった。





 せっかくなので、わたしも昼夢市をちょっと覗いてみることにしました。

 皮や安い触媒でもあれば、仕入れてみようかな、なんて。

 ミニマップを見ながらなんとか辿り着く。

 おおー、さながら収穫祭で賑わう市場のようですなー。


 左右に立ち並ぶ露天と、あるいは品物のメニューを手に持っている売り子さんたち。

 お人形さんみたいに綺麗だなあー。

 ひとりひとり覗いてゆくが、実用的な装備を売っている人はまだほとんどいなかった。 

 そりゃ自分で使うしね。


 店売りのチェインメイルがこんなに強いなんてなあ。


 と、売り子さんと目が合った。

 ニコッと微笑まれる。可愛い……!


「あの、おひとついかが、かな?」


 シ ャ ベ ッ タ ア ア ア ア ア ア ア ! ! 


 すぐに気づく。

 ターゲッティングした名前の横にエンブレムが見える。

 はっ、こ、この子、プレイヤーキャラじゃないか!

 たばかったな!

 耳が斜め下に垂れ下がった褐色肌の種族【ピーノ】の女の子。

 栗色の髪はボブスタイル。可愛い。

 あざといロリ巨乳のルビアとは違って、正統派?のロリロリキャラの彼女は、頭を下げてきた。


「あ、ご、ごめんなさい。驚かせるつもりはなくて、ごめんなさい、おねえさん」

「い、いえ大丈夫」


 少女の名前はモモ。

 美味しそう。いえ性的な意味ではなく。


「どうかな? 少ししかないけど、一生懸命作ったの。良かったら……」

「ほほう」


 この子もクラフトワークスの中毒者か。

 メニューを除くと、そこには小瓶に入った【アオの水薬】が3つ。

 へー、この街で回復アイテムなんて作れるんだねえ。


「しばらくこうしているんだけど、誰も買ってくれなくて……」

「回復アイテムなんて使うぐらいなら、今の時期はみんな装備買うだろうしねえ」


 ほぼ原価なのだろうが、決して安くない。水薬3つで十分武器が買える値段だ。


「もう二時間もこうしているの」


 モモちゃんは陰のある笑顔を見せる。


「買ってくれるまで、帰ってきちゃだめって言われてて……えへへ……」


 この子、不憫だな!


「お店は売り子さんに任せておけばいいのに……」


 と言うと、彼女は目を伏せる。


「それが、人を雇うお金もなくなっちゃって……このままだとごはんも」


 不憫! 


「あっ、でも大丈夫。わ、わたし今ダイエット中だから。

 いらないんだったらムリしないでね」

「えーと……」


 頬をかく。


「ただ、その、おねえさん強そうな装備をつけているし。

 この人だったらもしかして、って思って……」


 勇気を出して声をかけてみたのだという。

 二時間もずっとNPCの振りをして……

 なんだこの子、マッチ売りの少女か……?


「……よし、わかった、モモくん。ちょっと待ってね」

「あ、はい、大丈夫ですっ。何時間でもっ」


 そんなには待たせないよ!

 あー、すっごいキラキラした目でこっちを見ているなー……

 おねーさんキュン死しちゃうかもなー……


 イオリオにコールする。

 すぐに回線が繋がった。

 短く言葉を交わして通話を切る。話のわかる男だ。


 わたしはモモちゃんに向き直った。


「よし、全部もらおう」


 彼女はきょとんとした。


「えっ?」


 言い直す。


「全部全部。あるだけ全部」

「ええー!?」


 口に手を当てて大声で驚く少女。


「えっ、ど、どうして!?

 えっ、あっ、だ、だめだよ! モモ、売るのはお薬だけだよ!?」


 コラコラ。


「なにを想像しているのか知らないけど……

 明日ちょっと遠出するんでね。回復アイテムは多くあったほうがいいっていうのが、パーティーの創意。

 それで、いくつあるの?」

「えっ、3つ、だけど」


 不安げに瞳を揺らす彼女に不敵な笑みを見せる。


「違う違う。全部だってば。材料はまだあるんでしょ? いくつ作れるの?

 全部買うから、ほら、おねーさんに任せなさい」

「え、ええ!? め、女神さまっ!?」


 違います。





 とりあえずモモちゃんとフレンドコードを交換し、買い出しを続ける。

 雑貨店をめぐり、人数分の寝袋、テント、保存食、水筒、ロープやランタン、さらにマッピングのための方眼用紙も買いました。

 回転床だけは勘弁ね!

 フフフ、昨日クエストで稼いできたのに、もうお金が底を尽きそうだよ……


 何本あるのかな、水薬……

 5ダースとか持ってこられたらどうしようかな……

 しかし、バッグのスロットはまだまだ余っている!

 拡張していたかいがあったなあ……

 

 って、

 あ、あ、あ……?

 あれ? 足が前に動かない? どゆことどゆことー?(混乱)

 わたしは久々のパニック状態に陥っておりました。

 だって体調は万全なのに、一歩も進めないんですよ。

 自分の脳に障害が発生して、ゲームとの通信が途切れてしまったのか!?

 とか、そりゃもう色んな想像をしましたよ。


 最初からログを開いていればね……


『重量制限オーバー。VIT(生命力)の最大値を越えたため、移動不能状態』


 シスくんに迎えに来てもらいました。

 わたしは迷子の子供か……ッ!

 




 待ち合わせは居住区近く、蛍草の広場。

 ここから見上げるプランティベルが、紫色に光って綺麗なんだなー。

 息を切らしてやってきたモモちゃんは、道具袋を差し出してくる。


「作って来たよっ。は、8本あるから……ど、どうぞ、お納めくださいませ」


 わたしゃ年貢の取り立て人かなんかかね。

 ニッコリと微笑み、受け取る。


「ありがとう、モモちゃん。このお薬で、わたしの命も救われるかもね。

 そうしたらキミは命の恩人だ」

「えあ……」


 モモ嬢はなぜか頬を赤らめる。


「そんな、モモ……」


 ううむ、なんだか視線がこそばゆいような……

 わたしが革袋を覗くと、そこには8本の青い薬に紛れて、1本だけ赤い薬瓶が混ざっていた。


「この赤いのはなぁに?」

「それは【アカの水薬】だよ。MPを回復できるの。1本しかできなかったけど……」

「この分のお金を払ってないね」


 とわたしが財布を取り出そうとすると、モモちゃんは両手でわたしの手を掴んできた。


「う、ううん! これ、サービスだから! サービス!」

「あ、そ、そう? ならありがたくもらおうかな。うちの魔術師もきっと喜ぶよ」

「えあー」


 弾かれたようにパッと握っていた手を離すと、モモちゃんは大きく頭を下げた。


「わ、わたし、無事を祈ってますから! 頑張って、女神おねえさん!」


 すごいあだ名だなあキミ!

 いやうん、まあ……

 悪い気はしないよね?

 



「先輩、きょうはずいぶん可愛らしい子と一緒にいましたねぇ」


 寝る前に廊下で後輩とすれ違った際、そんなことを言われた。

 昼夢市にいたのならやり取りを見ていたのかも。

 モモちゃんの話をしようとすると、後輩はさっさと行ってしまう。

 ぼそっと聞こえてきた。


「……先輩のバカ。ろくでなし。

 女 道 楽 者 … … 」


 あんまりじゃないか?

 わたしがなにをしたって言うんだ。

 

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